結論
スリーエム(3M)は、産業用の接着剤・研磨材・テープ・フィルター、呼吸用保護具、電子材料、自動車向け素材、そして「ポスト・イット」「スコッチ」などの生活用品を持つ総合素材メーカーである。2024 年に医療事業をソルベンタム(Solventum)として分離し、安全・産業、輸送・エレクトロニクス、生活用品の 3 事業に絞った。2025 年は売上 250 億ドル、営業利益 47 億ドル(GAAP で 19.0%)、純利益 32 億ドル。特別項目を除いた調整後の営業利益率は 24〜25% に乗り、2026 年 4〜6 月期は調整後の有機成長が +5.4%、通期の調整後 EPS 見通しを引き上げた。
この会社の評価を難しくしているのは、すでに費用に計上した PFAS(有機フッ素化合物)と耳栓の和解金が 2036 年まで毎年 10 億ドル台で現金として出ていくことと、個人の人身被害(連邦裁判所に 1.5 万件超)が未解決なことである。本質価値の計算では、純利益に利益ベースの倍率を掛け、未払いの和解金を差し引き、追加の訴訟費用は悲観側の筋書きと確率で表した。
バリュー投資の観点では、事業の堀は厚く(材料科学の幅、顧客の工程への組み込み、販売網)、利益率も構造的に上がっている。利益ベースの正当化 PER の上限は 23.3 倍(ROE 約 56%・成長 4%・資本コスト 8.0%・RONIC 約 32%)で、ROE の大半は自社株買いと和解金で縮んだ自己資本が膨らませた値のため、その 7.5 割の 17.4 倍を中立に置くと 10 年後の時価総額は今の 1.4 倍になる。訴訟の悪化を織り込んだ悲観を厚めに置いた確率の加重平均の価値は今を 5% ほど下回り(総合の差 −5%)、適正の範囲である。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、3M は「10 年後も存在し、今より強いか」に対して存在すると答えやすい。材料科学の幅と、顧客の工程への組み込みは、長く続く堀である。調整後の営業利益率が 24〜25% と 2010 年代の 22〜23% から上がり、売上の約半分を占める消耗品と交換部品が景気の谷でも利益を支える。
ただし評価するときは、PFAS と耳栓の問題を「過去の特別費用」として片づけず、会社の将来の現金から出ていくお金として数える必要がある。すでに計上した和解金の残り(未払い 約 100 億ドル規模)は 2036 年まで払い続ける。オーナー利益は調整後の純利益から訴訟の現金支払いを引いて見るのが正しく、2026 年は調整後の純利益 約 48 億ドルから税引き後の支払い 約 15 億ドルを引いた 33 億ドル前後、今の時価総額に対する利回りは約 3.8% である。
個人の人身被害(1.5 万件超)は最終額が見えず、この種の限りのない債務は安全域を大きく削る。そこで本質価値の計算では、追加の和解金(やや悲観で 60〜100 億ドル、悲観で 100〜300 億ドル)を、悲観側の確率を厚くして表した。事業の質は高く、値段もやや安いが、訴訟の最終額が読めない分、確信度は中程度とする。
何で稼ぐ会社か
3 つの事業で売上の約 95% を占める。安全・産業(2025 年 約 114 億ドル、営業利益率 約 27%)は、産業用の接着剤・テープ、研磨材、フィルター、呼吸用保護具や聴覚保護などの個人用安全具、電気・電力の絶縁材、防災機器(2026 年 7 月に Scott の SCBA 事業と Madison Fire & Rescue を合わせた新しい合弁を開始)を扱う。利益率が最も高く成長の中心で、データセンター向けの冷却材・接着材・光配線(マイクロソフトの Azure 向けに拡張ビーム光学を採用)が新しい伸び口になっている。
輸送・エレクトロニクス(約 76 億ドル、約 23%)は、自動車の内外装・電動車向けの接着材と高分子材料、ディスプレイ・半導体向けの機能フィルム、航空宇宙向け素材、商用の車両用グラフィックを扱う。自動車の生産台数と電子機器の需要に連動し、顧客(自動車・電機メーカー)が値下げを求める力が強い。生活用品(約 48 億ドル、約 19.5%)は、スコッチ・ポスト・イット・コマンド・スコッチ・ブライト・フィルトレートなどを量販店・ネット通販で売る。上期の有機成長は −1.7% で、3 事業で最も弱い。
売上の一部は、ソルベンタム向けの移行供給などの一時的なもの(2025 年は約 12 億ドル、年々減る)。事業ごとの数量と価格は、市場規模 × シェア × 価格で置いた(開示が無いため市場規模は推定)。2026 年上期は 3 事業の営業利益率の合計が 24% 台に乗り、新製品は年 350 件超(上期だけで 176 件)のペースで、材料科学の積み上げで稼ぐ構造は崩れていない。
優良さと弱いところ
堀は 3 つある。第 1 に材料科学の横断力で、接着、研磨、微細複製、不織布、セラミックなどの技術基盤を、自動車・電機・建設・消費の幅広い顧客に使い回す。顧客の製造工程に採用されると、品質の変動を嫌って他社に切り替えにくい(切り替えの費用)。第 2 に販売網とブランドで、ポスト・イットやスコッチは世界で通じる。第 3 に規模の利益と研究開発の大きさで、小さな競合は追いつきにくい。競合はハネウェル(Honeywell)、サンゴバン(Saint-Gobain)、ヘンケル(Henkel)、アベリィ・デニソン(Avery Dennison)、テサ(tesa)、デュポン(DuPont)、MSA セーフティなどで、細分化した市場の多くの分野で 3M は上位を持つ。
資本効率は帳簿で ROE 69%(自社株買いと訴訟費用で自己資本が 47 億ドルまで縮んだため、見かけが膨らんでいる)。税引き後の営業利益を自己資本と純負債の合計で割った事業の収益率でも約 36% あり、実力として高い。営業利益率は 2018 年に 23.7%、2022〜2023 年は PFAS 関連の費用で 12〜16% まで下がったが、特別項目を除いた調整後は 24〜25% で安定している。
弱い所は 3 つある。第 1 に PFAS と耳栓の訴訟で、堀の外側で価値を失い続ける(和解金は 2036 年まで年 10 億ドル台、ほかに個人の人身被害が未解決)。第 2 に生活用品が上期にマイナス成長で、量販店との交渉で価格を決める力が削られている。第 3 に自動車・電子機器向けは顧客の値下げ要求が強く、価格が物価に追いつきにくい。経営は 2024 年に就任したウィリアム・ブラウン CEO のもとで事業の絞り込みと営業利益率の改善を実行してきたが、訴訟の最終的な大きさは経営の力では決まらない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
3M の事業は、製造業の稼働、自動車と電子機器の生産、建設と住宅の改装、消耗品の更新から成り、売上の半分近くが消耗品や保守・交換で、景気の山谷は重機ほど深くない。2026 年は米国の ISM 製造業指数が 54.5 と拡大側にあり、データセンター・電力・半導体の設備投資が安全・産業の伸びを押し上げている(4〜6 月期の有機成長は +8.2%)。自動車は台数が横ばいで電動化により素材の使い方が変わる過渡期、電子機器は AI 向けの高付加価値品が伸びる一方、スマホ・家電向けは値下げ圧力が続く。家庭用品は住宅市場が金利 5% で重く、量販店のプライベートブランドに押されている。
構造の変化は 3 つある。第 1 に有機フッ素化合物の規制で、米国と欧州の規制が広がるほど PFAS を含む素材の使える範囲が狭まる。3M は 2025 年末までに製造から撤退する方針で、代替材料への切り替えが売上と利益率の下振れ要因になりうる。第 2 にデータセンターの冷却・接続・防火の需要で、安全・産業と電子材料の新しい成長市場。第 3 に中国・韓国・インドの素材メーカーの追い上げで、接着材やフィルムの標準品は値下げ競争になる。
今後 10 年の中立の見方は、安全・産業が市場の実質成長 年 +2% 強に物価 3.5% が乗って名目で年 5〜6%、輸送・エレクトロニクスは実質 +1% で値下げ圧力を受け名目 3〜4%、生活用品は実質ほぼ 0 でシェア低下を含め名目 3% 前後。業界ノートの置き方(塊 B:数量 年 +2%・価格 年 +3%)と整合し、価格を決める力が強いぶん安全・産業を少し上に置いた。
資本政策と M&A
2025 年 2 月の投資家説明会で、2027 年までに営業利益率 約 25%、EPS の年 1 桁後半の成長、FCF 転換率 100% 超、100 億ドル以上の還元を掲げ、2026 年 4〜6 月期の時点で「計画を上回るペース」と説明している。2025 年の還元は配当 16 億ドルと自社株買い 32 億ドル。配当は 2024 年のソルベンタム分離で約半分に減り、増配は小幅にとどまる。2026 年は調整後の営業 CF 58〜60 億ドル、設備投資 約 11 億ドルの見通しだが、PFAS・耳栓の現金支払いは 2026 年上期だけで税前 9.6 億ドル出ており、調整後の数字には含まれない。
M&A は、2024 年の医療事業の分離(ソルベンタム株の約 15%、約 2,557 万株を保有し、5 年以内に売却する方針。2025 年 8 月に 880 万株を約 6.5 億ドルで売却)と、2026 年 7 月の Madison Fire & Rescue の買収(Scott の SCBA 事業と合わせた新しい合弁。売上 約 8 億ドル・高 1 桁成長で、3M は約 7 億ドルの現金を受け取る)が直近の動き。大型の買収はなく、事業を絞る型の資本配分で、バリュー投資の観点では歓迎できる。
借金は 125 億ドル(2026 年 6 月)、現金 30 億ドルで、純負債は 92 億ドル前後に増えた(2025 年末は 72 億ドル)。自社株買いと和解金の支払いが FCF を上回っているためで、計算の還元額は株式報酬による株の増加分を引いた正味で置いた。 なお、決算期末後に実行済みの自社株買い 29.9 億ドル(10-Q・2026 年 1〜6 月)は、今の株数(時価総額)に反映済みなので、10 年の還元(payout_oku)からは除いてある。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
調整後の営業利益率は 2026 年上期に 24.3% まで上がり、2027 年の目標 25% へ向かっている。押し上げているのは費用の削減だけでなく、製品構成(データセンター・電力・半導体・防災)の改善である。安全・産業は 4〜6 月期に有機で +8.2%、営業利益率 27.8% と、全社の営業利益の約 55% を稼ぐ中核が加速している。新製品は 2026 年に 350 件超で、マイクロソフトとのデータセンター向け光配線の提携は新しい市場への入口になる。
PFAS の製造撤退(2025 年末)で新しい汚染は止まり、水道事業者との和解(100〜125 億ドル)と耳栓の和解(60 億ドル)は金額が確定している。耳栓が 2029 年に終われば現金の負担は減る。ソルベンタム株の売却と Madison の合弁で数十億ドルが入り、自社株買いは続く。利益ベースの上限が資本コスト 8.0%・成長 4% で 24 倍、楽観はその 8 割強(20 倍前後)、10 年後の利益は 2025 年(GAAP)の約 2 倍になるので、時価総額は今の 1.9 倍に届く。これが強気の見方である。
慎重な見方
今の利益は特別項目を除いた調整後で、手元に残る利益ではない。2025 年の GAAP の純利益は 32 億ドルで、毎年のように「訴訟・PFAS 撤退」「事業売却損」「変革関連」が出る。個人の人身被害は 1.5 万件超で、見本裁判が始まれば和解の相場が決まり、水道事業者の和解(最大 125 億ドル)に匹敵する額が追加で出る可能性が高い。州の司法長官の訴訟も十数件が残る。
生活用品は上期にマイナス成長、自動車と電子機器は顧客の値下げ要求と中国勢の追い上げで価格が物価に追いつかない。PFAS 規制で代替材料への切り替えが遅れれば、航空・半導体・電気の特殊材料でシェアを失う。借金は 125 億ドルで、純負債は 2025 年末から 2026 年 6 月で 20 億ドル増えた。自社株買いを訴訟の支払いと同時に続けると、借り換えで金利が上がるたびに利益が削られる。今の PER 26 倍は訴訟の黒い雲を抱えた会社には高すぎ、悲観の確率はもっと厚いべきだ、というのが慎重な見方である。
どちらに重みを置いたか
強気の見方は利益率の上向きと和解金の確定で説得力があり、慎重な見方は個人の人身被害の最終額が見えない点で強い。確率は中立 36% を中心に、やや楽観 22%、悲観は 12% とした。慎重な見方の「限りのない債務」を、やや悲観で 60〜100 億ドル、悲観で 100〜300 億ドルの追加の和解金として筋書きに入れ、やや悲観と悲観を合わせて 32% と厚めにした。中立の倍率は利益ベースの上限 23.3 倍の 7.5 割の 17.4 倍に置いた。確率の加重平均は今の値段を 5% ほど下回るが、適正の範囲で、結論は「適正」である。
10 年後の 5 つの筋書き(2035/12 期)
確率で加重した株価時価総額 213.03 ドル1,107 億ドル(+ 配当配当と自社株買いの合計 80.31 ドル417 億ドル)。 今の値に割り戻すと 153.33 ドル797 億ドル、今との差 −12.7%、 期待の年率 +5.3%(資本コスト 8.0%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 313.99 ドル1,632 億ドル | 103.16 ドル536 億ドル | +137.6% | +9.0% | 41.71 ドル217 億ドル |
| やや楽観 | 22% | 268.58 ドル1,396 億ドル | 96.23 ドル500 億ドル | +107.8% | +7.6% | 80.26 ドル417 億ドル |
| 中立 | 36% | 224.19 ドル1,165 億ドル | 89.69 ドル466 億ドル | +78.8% | +6.0% | 112.99 ドル587 億ドル |
| やや悲観 | 20% | 167.25 ドル869 億ドル | 65.25 ドル339 億ドル | +32.4% | +2.8% | 46.50 ドル242 億ドル |
| 悲観 | 12% | 69.85 ドル363 億ドル | 29.06 ドル151 億ドル | −43.7% | −5.6% | 11.87 ドル62 億ドル |
| 加重平均 | 100% | 213.03 ドル1,107 億ドル | 80.31 ドル417 億ドル | +67.1% | +5.3% | 293.33 ドル1,524 億ドル |
今の株価時価総額 175.56 ドル912 億ドル(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.0% を下回るほど割高。
楽観 10% 楽観:データセンターの新市場が 10 年続き、訴訟は水道事業者の和解で収まる 利益 82 億ドル · PER 19.9 倍 · 株価時価総額 313.99 ドル1,632 億ドル
2035 年、安全・産業の市場は 2025 年比で年 +2.7% の 1,950 億ドル、シェアも 3% 上がり、物価で価格は 1.43 倍。データセンターの冷却・接続・防火、半導体、電力網の素材が長く伸び、利益率は 29.5%。輸送・エレクトロニクスは電動車と AI 向け電子材料で 26%、生活用品は 22%。調整後の営業利益率は 26% を超える。PFAS の追加の和解金は出ず、2036 年に水道事業者への支払いが終わる。自社株買いで株数は 10 年で 2 割ほど減り、還元は純利益の 9 割。倍率は利益ベースの正当化 PER の上限 23.6 倍(g 4.0%・RONIC 69.8%・k 8.00%)の 8.4 割で PER 19.9 倍、時価総額は 1,632 億ドル。
- 安全・産業:数量 1,950(対象市場(億ドル、2025 年価格))× 価格 11.2%(3M のシェア × 価格指数(2025 年 = 1))→ 売上 218 億ドル・営業利益 64 億ドル。市場 1950 億ドル × シェア 7.8% × 価格 1.43 倍
- 輸送・エレクトロニクス:数量 2,204(対象市場(億ドル、2025 年価格))× 価格 5.5%(3M のシェア × 価格指数(2025 年 = 1))→ 売上 121 億ドル・営業利益 32 億ドル。市場 2204 億ドル × シェア 4.1% × 価格 1.35 倍
- 生活用品:数量 1,080(対象市場(億ドル、2025 年価格))× 価格 6.7%(3M のシェア × 価格指数(2025 年 = 1))→ 売上 73 億ドル・営業利益 16 億ドル。市場 1080 億ドル × シェア 4.8% × 価格 1.40 倍
- 移行供給など:数量 0.0(移行供給などの契約数(件))× 価格 0.05(1 件あたりの売上(億ドル))→ 売上 0 億ドル・営業利益 0 億ドル。移行供給の契約 0 件(減少)
倍率:帳簿の ROE 155% は 40% 超(自己資本が借金・自社株買いで縮んだ見かけ)なので ROIC から直した(ROIC = 税引き後営業利益 ÷(自己資本+純負債 72 億ドル)= 68.0%、ROE = ROIC +(ROIC − 借入金利 5.75%×(1−22%))× 純負債÷自己資本(1 倍まで)= 131.5%)。正当化 PER 23.6 倍(g 4.0%・RONIC 69.8%=k 8.00%+残る割合×(事業の ROE 131.5%−k)・moat=normal)に対して 19.9 倍(上限の 8.4 割)に置いた。データセンター・電力・防災が続き訴訟も水道事業者の和解で収まる最良の筋書き。ただし PFAS の個人の人身被害が未解決なので上限の 8.4 割にとどめた。
確率:データセンター向けの新市場が長く続き、シェアも上がり、訴訟の追加も無い、の重なり。構造変化が味方する筋書きで 1 割。
やや楽観 22% やや楽観:事業の質を保ち、訴訟の追加は無く、利益率 25〜26% 利益 75 億ドル · PER 18.6 倍 · 株価時価総額 268.58 ドル1,396 億ドル
2035 年、安全・産業は市場が年 +2.4%・シェア 2% 増・価格 1.42 倍、利益率 28.5%。輸送・エレクトロニクスは名目で年 +4%、利益率 24.8%、生活用品は新製品とサステナブル素材で小幅に成長し 21%。訴訟は個人の人身被害が水道事業者の和解の延長で収まり、追加の費用は出ない。調整後の営業利益率は 25〜26%。競争は続くが、材料科学の幅と採用実績で価格を保ち、中国・韓国の素材メーカーには標準品で一部を譲る程度にとどまる。ソルベンタム向けの移行供給は終わり、2035 年までに和解金の大半を払い終える。自社株買いは純利益の 9 割弱の還元を保ち、株数は 10 年で 15% ほど減る。倍率は利益ベースの正当化 PER の上限 23.4 倍(g 4.0%・RONIC 62.6%・k 8.00%)の 8.0 割で PER 18.6 倍、時価総額は 1,396 億ドル。
- 安全・産業:数量 1,905(対象市場(億ドル、2025 年価格))× 価格 11.0%(3M のシェア × 価格指数(2025 年 = 1))→ 売上 210 億ドル・営業利益 60 億ドル。市場 1905 億ドル × シェア 7.8% × 価格 1.42 倍
- 輸送・エレクトロニクス:数量 2,128(対象市場(億ドル、2025 年価格))× 価格 5.3%(3M のシェア × 価格指数(2025 年 = 1))→ 売上 114 億ドル・営業利益 28 億ドル。市場 2128 億ドル × シェア 4.0% × 価格 1.32 倍
- 生活用品:数量 1,060(対象市場(億ドル、2025 年価格))× 価格 6.6%(3M のシェア × 価格指数(2025 年 = 1))→ 売上 70 億ドル・営業利益 15 億ドル。市場 1060 億ドル × シェア 4.8% × 価格 1.38 倍
- 移行供給など:数量 0.0(移行供給などの契約数(件))× 価格 0.05(1 件あたりの売上(億ドル))→ 売上 0 億ドル・営業利益 0 億ドル。移行供給の契約 0 件(減少)
倍率:帳簿の ROE 136% は 40% 超(自己資本が借金・自社株買いで縮んだ見かけ)なので ROIC から直した(ROIC = 税引き後営業利益 ÷(自己資本+純負債 72 億ドル)= 60.8%、ROE = ROIC +(ROIC − 借入金利 5.75%×(1−22%))× 純負債÷自己資本(1 倍まで)= 117.1%)。正当化 PER 23.4 倍(g 4.0%・RONIC 62.6%=k 8.00%+残る割合×(事業の ROE 117.1%−k)・moat=normal)に対して 18.6 倍(上限の 8.0 割)に置いた。2026 年の勢いが続き利益率 24〜25% で訴訟は計画どおりの筋書き。
確率:事業の質が保たれ、訴訟が既存の和解の延長で収まる姿。やや楽観より少し低い 22% とした。
中立 36% 中立:名目成長で営業利益率 24%、和解金を 2035 年までに払い終える 利益 67 億ドル · PER 17.4 倍 · 株価時価総額 224.19 ドル1,165 億ドル
2035 年、安全・産業は市場 年 +2.2% で 1,860 億ドル、シェア一定、価格は物価並みの 1.41 倍で売上 2,000 億ドル弱、利益率 27.5%。輸送・エレクトロニクスは市場 年 +1%、シェア一定、価格は電子機器・自動車の値下げ圧力で物価を下回る 1.30 倍、利益率 23.5%。生活用品は市場がほぼ横ばい、シェアが 4% 下がり、価格 1.35 倍で利益率 20%。ソルベンタム向けの移行供給は終わる。調整後の営業利益率は 24% 台で、投資家説明会の目標 25% にわずかに届かない。2035 年までに和解金(税引き後 計 91 億ドル)を払い終え、水道事業者への最後の支払いが 2036 年に残る。g の内訳は、市場の実質 +1.0%・シェアの減少 −0.5%・価格 +3.5% で 4.0%。倍率は利益ベースの正当化 PER の上限 23.3 倍(g 4.0%・RONIC 59.8%・k 8.00%)の 7.5 割で PER 17.4 倍、時価総額は 1,165 億ドル。
- 安全・産業:数量 1,863(対象市場(億ドル、2025 年価格))× 価格 10.7%(3M のシェア × 価格指数(2025 年 = 1))→ 売上 200 億ドル・営業利益 55 億ドル。市場 1863 億ドル × シェア 7.6% × 価格 1.41 倍
- 輸送・エレクトロニクス:数量 2,099(対象市場(億ドル、2025 年価格))× 価格 5.2%(3M のシェア × 価格指数(2025 年 = 1))→ 売上 109 億ドル・営業利益 26 億ドル。市場 2099 億ドル × シェア 4.0% × 価格 1.30 倍
- 生活用品:数量 1,051(対象市場(億ドル、2025 年価格))× 価格 6.2%(3M のシェア × 価格指数(2025 年 = 1))→ 売上 65 億ドル・営業利益 13 億ドル。市場 1051 億ドル × シェア 4.6% × 価格 1.35 倍
- 移行供給など:数量 0.0(移行供給などの契約数(件))× 価格 0.05(1 件あたりの売上(億ドル))→ 売上 0 億ドル・営業利益 0 億ドル。移行供給の契約 0 件(減少)
倍率:帳簿の ROE 137% は 40% 超(自己資本が借金・自社株買いで縮んだ見かけ)なので ROIC から直した(ROIC = 税引き後営業利益 ÷(自己資本+純負債 72 億ドル)= 58.0%、ROE = ROIC +(ROIC − 借入金利 5.75%×(1−22%))× 純負債÷自己資本(1 倍まで)= 111.5%)。正当化 PER 23.3 倍(g 4.0%・RONIC 59.8%=k 8.00%+残る割合×(事業の ROE 111.5%−k)・moat=normal)に対して 17.4 倍(上限の 7.5 割)に置いた。材料科学の幅と顧客の工程への組み込みの堀は厚いが、ROE の大半は自社株買いと和解金で縮んだ自己資本で膨らんだ値で、個人の人身被害の最終額も見えず、成長の実績も 10 年弱いので上限の 7.5 割。
確率:業界ノートの中立(数量 年 +2%・価格 年 +3%)に、3M の価格を決める力(安全・産業)と自動車・消費の値下げ圧力を合わせた落としどころ。議論で最も多くの根拠が重なる。
やや悲観 20% やや悲観:シェアが少しずつ下がり、人身被害で 100 億ドルの追加 利益 53 億ドル · PER 16.4 倍 · 株価時価総額 167.25 ドル869 億ドル
2035 年、安全・産業の成長は市場 年 +1.7% にとどまり、シェアが 2% 下がり、価格は物価を下回る 1.38 倍。輸送・エレクトロニクスは中国・韓国の素材メーカーに押されてシェアが 3% 下がり、価格 1.25 倍、利益率 21.5%。生活用品は量販店のプライベートブランドで 5% シェアを失う。これまでの計上に加えて、個人の人身被害・州の訴訟で 100 億ドル(税前)の和解金が追加され、2035 年までに払い終えるため、還元が縮み、借金が増える(純負債 106 億ドル)。調整後の営業利益率は 21〜22%。倍率は利益ベースの正当化 PER の上限 21.8 倍(g 4.0%・RONIC 31.4%・k 8.00%)の 7.5 割で PER 16.4 倍、時価総額は 869 億ドル。
- 安全・産業:数量 1,770(対象市場(億ドル、2025 年価格))× 価格 10.3%(3M のシェア × 価格指数(2025 年 = 1))→ 売上 182 億ドル・営業利益 46 億ドル。市場 1770 億ドル × シェア 7.4% × 価格 1.38 倍
- 輸送・エレクトロニクス:数量 1,995(対象市場(億ドル、2025 年価格))× 価格 4.9%(3M のシェア × 価格指数(2025 年 = 1))→ 売上 97 億ドル・営業利益 21 億ドル。市場 1995 億ドル × シェア 3.9% × 価格 1.25 倍
- 生活用品:数量 1,000(対象市場(億ドル、2025 年価格))× 価格 5.9%(3M のシェア × 価格指数(2025 年 = 1))→ 売上 59 億ドル・営業利益 11 億ドル。市場 1000 億ドル × シェア 4.6% × 価格 1.30 倍
- 移行供給など:数量 0.0(移行供給などの契約数(件))× 価格 0.05(1 件あたりの売上(億ドル))→ 売上 0 億ドル・営業利益 0 億ドル。移行供給の契約 0 件(減少)
倍率:帳簿の ROE 54% は 40% 超(自己資本が借金・自社株買いで縮んだ見かけ)なので ROIC から直した(ROIC = 税引き後営業利益 ÷(自己資本+純負債 72 億ドル)= 33.5%、ROE = ROIC +(ROIC − 借入金利 5.75%×(1−22%))× 純負債÷自己資本(1 倍まで)= 54.8%)。正当化 PER 21.8 倍(g 4.0%・RONIC 31.4%=k 8.00%+残る割合×(事業の ROE 54.8%−k)・moat=normal)に対して 16.4 倍(上限の 7.5 割)に置いた。製造業の一服と人身被害の追加(60 億ドル)の筋書きなので上限の 7.5 割。
確率:追加の和解金 100 億ドル、シェアの小さな低下、利益率の伸び悩みが重なる。限りのない債務を抱える会社として 2 割に置いた。
悲観 12% 悲観:訴訟が 300 億ドルに達し、素材のシェアも失って優良さを失う 利益 23 億ドル · PER 15.8 倍 · 株価時価総額 69.85 ドル363 億ドル
構造的に負けて、もう優良ではなくなっている 2035 年。PFAS の個人の人身被害と各州の訴訟が長引き、追加の和解金が 300 億ドル(税前)に達して、還元は純利益の合計の 45% に縮み、純負債は 2 倍以上に増える。規制で PFAS を含む素材の使える範囲が狭まり、代替品への切り替えが遅れて、航空・半導体・電気の特殊材料でシェアを失い(安全・産業が 8%、輸送・エレクトロニクスが 10%、生活用品が 15% 低下)、価格も物価の 7 割程度しか上がらない。調整後の営業利益率は 15% 台、純利益は 23 億ドル。自己資本は赤字になる。10 年の純利益の累計は約 100 億ドル。和解金を除くと 2026〜30 年は 35〜38 億ドルを保ち、その後に 2035 年の 23 億ドルへ下がる道で約 330 億ドル、ここから和解金 300 億ドルの税引き後 約 230 億ドルを引く。 倍率は PER 15.8 倍(自己資本が赤字のため ROIC から直した上限 約 22.9 倍の 6.9 割)、時価総額は 363 億ドル。
- 安全・産業:数量 1,500(対象市場(億ドル、2025 年価格))× 価格 9.1%(3M のシェア × 価格指数(2025 年 = 1))→ 売上 136 億ドル・営業利益 30 億ドル。市場 1500 億ドル × シェア 7.0% × 価格 1.30 倍
- 輸送・エレクトロニクス:数量 1,805(対象市場(億ドル、2025 年価格))× 価格 4.1%(3M のシェア × 価格指数(2025 年 = 1))→ 売上 75 億ドル・営業利益 11 億ドル。市場 1805 億ドル × シェア 3.6% × 価格 1.15 倍
- 生活用品:数量 950(対象市場(億ドル、2025 年価格))× 価格 4.9%(3M のシェア × 価格指数(2025 年 = 1))→ 売上 47 億ドル・営業利益 7 億ドル。市場 950 億ドル × シェア 4.1% × 価格 1.20 倍
- 移行供給など:数量 0.0(移行供給などの契約数(件))× 価格 0.05(1 件あたりの売上(億ドル))→ 売上 0 億ドル・営業利益 0 億ドル。移行供給の契約 0 件(減少)
倍率:自己資本が赤字(−5 億ドル)なので上限の式に帳簿の ROE は使えない。ROIC(税引き後営業利益 ÷(自己資本+純負債 72 億ドル)= 46.6%)から直した ROE(借入金利 5.75%×(1−22%)、純負債÷自己資本は 1 倍まで → 約 89%)で測ると、正当化 PER の上限は約 22.9 倍(g 4.0%・RONIC 48%=k 8.0%+残る割合 0.5×(ROE−k))。その 6.9 割の 15.8 倍(2035 年の純利益 23 億ドルに掛けて 363 億ドル)に置いた。訴訟が 300 億ドルに達し素材のシェアも失う筋書きで、成長の弱さ・優良さの崩れは g と ROE に入れ、式の外では引かない。
確率:構造的な負けの筋(PFAS の人身被害が数百億ドル・規制で素材を失う・中国勢の追い上げ)。慎重な見方を反映して 12% に厚くした。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億ドル。
安全・産業
産業用の接着剤・テープ・研磨材・フィルター、呼吸用保護具、電気・電力の素材、防災機器、データセンター向け素材。
| 数量対象市場(億ドル、2025 年価格) | 価格3M のシェア × 価格指数(2025 年 = 1) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 1,500 | 7.6% | 114 | 30 |
| 10 年後 中立 | 1,863 | 10.7% | 200 | 55 |
取り方:接着剤・テープ・研磨材・フィルター・個人用安全具・電気資材の対象市場を 約 1,500 億ドル(推定。単一の統計は無く、各分野の業界団体の数字を足した概算)、3M のシェアを約 7.6% と置いた。2026 年上期の売上は 60.2 億ドル(前年同期 56.0)、営業利益率 27.2% から、2025 年の通期を 約 114 億ドル・利益率 26.5% と推定。売上 = 市場 × シェア × 価格(価格指数は 2025 年 = 1、中立で 10 年 1.41 倍)。競合と照らすと、研磨材はサンゴバン、接着剤はヘンケル・シーカ・HB フラー、テープはアベリィ・デニソン・テサ、個人用安全具はハネウェル系・MSA セーフティ・ドレーゲルが競い、3M は複数の分野で上位を持つ。
輸送・エレクトロニクス
自動車・電動車向けの接着材と高分子、ディスプレイ・半導体向けフィルム、航空宇宙・商用グラフィックの素材。
| 数量対象市場(億ドル、2025 年価格) | 価格3M のシェア × 価格指数(2025 年 = 1) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 1,900 | 4.0% | 76 | 17 |
| 10 年後 中立 | 2,099 | 5.2% | 109 | 26 |
取り方:自動車向け素材・電子材料・航空宇宙・商用グラフィックの対象市場を 約 1,900 億ドル(推定)、3M のシェアを約 4.0% と置いた。2026 年上期の売上は 39.1 億ドル(前年同期 37.6)、営業利益率 23.0% から、2025 年を 約 76 億ドル・22.5% と推定。売上 = 市場 × シェア × 価格。競合はヘンケル・デュポン・ダウ・東レ・日東電工など。自動車と電子機器の顧客は値下げを求める力が強く、価格は物価を下回る前提を中立から置いた(10 年 1.30 倍)。
生活用品
スコッチ・ポスト・イット・コマンド・スコッチ・ブライト・フィルトレートなど、量販店・ネット通販向けの家庭・文具用品。
| 数量対象市場(億ドル、2025 年価格) | 価格3M のシェア × 価格指数(2025 年 = 1) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 1,000 | 4.8% | 48 | 9 |
| 10 年後 中立 | 1,051 | 6.2% | 65 | 13 |
取り方:接着・文具・清掃・フィルター・保護用品の家庭向け市場を 約 1,000 億ドル(推定)、3M のシェアを約 4.8% と置いた。2026 年上期の売上は 23.8 億ドル(前年同期 23.9)、営業利益率 19.7% から、2025 年を 約 48 億ドル・19.5% と推定。売上 = 市場 × シェア × 価格。競合はプロクター・アンド・ギャンブル(P&G)、クロロックス、ニューウェル(Newell)、アベリィ・デニソン、量販店のプライベートブランド。上期は有機で −1.7% で、シェアが少しずつ削られている前提を中立から置いた。
移行供給など
ソルベンタム向けの移行供給と非中核品。年々減る。
| 数量移行供給などの契約数(件) | 価格1 件あたりの売上(億ドル) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 240 | 0.05 | 12 | 0 |
| 10 年後 中立 | 0.0 | 0.05 | 0 | 0 |
取り方:2025 年のセグメント合計(約 238 億ドル)と全社売上(250 億ドル)の差を移行供給などとして置いた(上期は 2025 年 5.4 億ドル、2026 年 2.2 億ドルと減っている)。利益率はほぼ 0(3%)。契約 約 240 件・1 件 約 500 万ドルと推定(開示は無く概算)。単価は動かさず、契約数が減る前提。
リスクと懸念
個人の人身被害と州の訴訟
PFAS の個人の人身被害は連邦裁判所(MDL 2873)に 15,222 件(2026 年 4 月)。最初の見本裁判は延期中だが、始まれば和解の相場が決まる。州の司法長官の訴訟も残る。水道事業者の和解(100〜125 億ドル)に匹敵する追加が出れば、やや悲観〜悲観の筋書きに入る。
和解金の支払いが現金を食う
水道事業者への支払いは 2036 年まで、耳栓は 2029 年まで続き、2026 年上期だけで税前 9.6 億ドル。調整後の FCF 見通し(47〜49 億ドル)にはこの支払いが含まれず、実際の FCF は 3 割ほど少ない。純負債は 2025 年末から 20 億ドル増えた。
PFAS 規制と代替材料
米国・欧州の PFAS 規制が広がると、フッ素系の特殊材料(航空・半導体・電気・消防)を代替材料に切り替える必要が出る。切り替えが遅れればシェアをハネウェルやデュポンなどの競合に奪われ、利益率の高い分野ほど影響が大きい。製造撤退後の代替品の性能が顧客の基準に届くかが分かれ目になる。
生活用品の弱さ
上期の有機成長は −1.7%、営業利益率 19.7% で、量販店のプライベートブランドと値上げへの抵抗に押されている。売上の 2 割弱だが、ブランドを持つ事業なので価格を決める力の低下が続くと全社の利益率の足を引く。
自動車・電子機器向けの値下げ圧力
輸送・エレクトロニクス(売上の約 3 割)は、顧客が値下げを求める力が強く、中国・韓国・日本の素材メーカーが追い上げる。電動車への切り替えで素材の使い方が変わる過渡期でもあり、価格は物価を下回る前提を置いた。
利益の質(調整後と GAAP の差)
2025 年の GAAP の純利益は 32 億ドルで、調整後の約 3 分の 2。訴訟・PFAS 撤退・事業売却損・変革関連の費用が毎年出る。調整後の営業利益率 24〜25% をそのまま持続的な利益率と見ると過大になる。
借り換えと自社株買いの規律
借金 125 億ドルの借り換えで金利が上がり、純負債は 90 億ドル前後に増えた。和解金の支払いと自社株買いを同時に続けると財務の余裕が減る。株価が割高な局面で自社株買いを続ければ 1 株の価値を壊す側に働き、悲観の筋書きでは還元が縮む。
今後の分かれ目
- 個人の人身被害の見本裁判が始まり、和解の相場が水道事業者の和解を超える
- 追加の和解金が 100 億ドル超になる確率が上がり、やや悲観・悲観の確率を厚くする。時価総額への影響は 1〜2 割。
- 2027 年の調整後の営業利益率が目標の 25% を超え、安全・産業の有機成長が 6% 以上を保つ
- 利益率の構造的な切り上げが確認され、楽観・やや楽観の確率を上げる。倍率は利益ベースの上限の内側(19〜20 倍)にとどまる。
- データセンター向けの冷却・光配線の売上が数十億ドル規模に育つ
- 安全・産業の市場の伸びを実質 3% 以上に置け、楽観側の数量を上方に直す。
- 米国・欧州の PFAS 規制が広がり、代替材料への切り替えが遅れてシェアが落ちる
- 10 年の悲観の筋書き(シェア低下・利益率 15% 台)の確率を厚くする。
- ソルベンタム株の売却と Madison の合弁の現金で借金が減り、自社株買いが増える
- 純負債が減り、利払いと財務の余裕が改善する。還元は純利益の 9 割程度で計算どおり。
- 生活用品を売却・分離する
- 利益率の低い事業が外れて全社の営業利益率が上がるが、売上は 2 割弱減る。本質価値は変わりにくい。
見ておくもの
- 安全・産業の有機成長(2026 年 Q2 は +8.2%)と営業利益率(27.8%)
- 調整後の営業利益率(2027 年目標 25%)と GAAP との差
- PFAS 人身被害の見本裁判の日程と和解の動き
- 訴訟・PFAS の現金支払い(上期 税前 9.6 億ドル)と純負債
- 生活用品の有機成長(−1.7%)
- ソルベンタム株の売却と自社株買い
- 2026 年 10 月の決算(調整後 EPS 見通しの再引き上げの有無)
倍率と資本コストの決め方
今の PER 26 倍(GAAP の 2025 年)や調整後の予想 PER 約 19 倍は見ずに、3 事業ごとに市場 × シェア × 価格(10 年 1.41 倍が基本)で売上と利益を積み、倍率は利益ベースの正当化 PER = (1 − g ÷ RONIC) ÷ (k − g)(k 8.0%・g は上限の 4%・RONIC = k + 1/2 ×(ROIC から直した ROE − k))の上限に対して置いた。10 年の中立は上限 23.3 倍の 7.5 割の 17.4 倍(人身被害の最終額が見えず、ROE は縮んだ自己資本で膨らむため 9 割には置かない)。k は景気の振れ(cycle 0)、値段の守り(pricing −0.25%)、和解金の支払いの重さ(debt +0.25%)で quality は 0。同じ領域の ITW・DOV・IR と同じ物差しで上限の 7〜8 割に揃えた。今の時価総額に寄せる調整はしていない。
資本コスト 8.0% = 無リスク金利 5% + β — × 5%。k = 基本 8.0% + quality 0。景気の振れは小さく値段も守れる一方、和解金の支払いの重さを debt で見た。PFAS・耳栓・個人の人身被害は k に足さず、やや悲観・悲観の確率と、追加の和解金(60〜300 億ドル)で表した。存続を疑う要素はなく上乗せは 0。