結論
ジョンソンコントロールズ(Johnson Controls)は、ビルの空調(ヨーク・チラー)、制御、火災・防犯、そして導入後 10〜20 年続く保守を一手に請け負う世界最大級のビル設備会社である。2025 年度(9 月期)の売上は 236 億ドル、営業利益 28 億ドル、GAAP 純利益 17 億ドル。住宅・小型商業用の空調は 2025 年に売却し、今は商業用ビルの設備と保守だけに絞られた。
2026 年度は様変わりした。4〜6 月の売上は 66 億ドル(有機 +10%)、受注残は 210 億ドル(有機 +32%、Americas は +40%)で、データセンター向け冷却が受注を引っ張る。会社は通年の有機成長を約 8% に上げ、データセンターは売上の 1/3 へ向かうと説明する。9 か月の GAAP 純利益は 19 億ドルで、通年は 26 億ドル前後と見る。
バリュー投資の観点では、事業の質は高い。保守契約が売上の約 1/4 を安定させ、導入した設備から離れにくい。ただし、データセンター向けは設備投資の循環に乗る需要で、競合のトレイン・キャリア・ダイキンも同じ市場に突っ込んでいる。
倍率は利益ベースの正当化 PER = (1 − g/RONIC)/(k − g)(k 8.50%・g 4.0%・事業の ROE 24%・堀は普通)で 10 年の中立の上限は 16.7 倍。その 8 割の 13.4 倍に置いた(空調・制御の設置後のサービス収益(売上の約 4 割)と受注残で安定)。総合は今の時価総額に対し -41%で「割高」。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、JCI は「10 年後も存在し、今より強いか」と問えば存在する。ビルは減らず、設備は更新され、保守は止まらない。堀は設置台数・切り替えの費用・技術者の網にあり、トレインほど狭くはないが、価格を決める力は一歩劣る。経営(ワイデマニス CEO)は事業の整理(住宅の売却)と利益率の改善に集中しており、資本配分は売却益を割高な自社株買いに使った点を除けば規律がある。
重視するのはオーナー利益と払う値段である。2026 年度の GAAP 純利益は 26 億ドル前後で、現金を生む力(FCF 転換 約 100%)は強いが、伸びに要る元手(のれんを含む自己資本に対する利益率は 20% 台)の割に、利益の 8 割を返す余裕は小さい。今の時価総額 884 億ドルは 2025 年度の純利益の約 49 倍、2026 年度の見通しに対しても約 34 倍である。成熟後の正当化 PER(g 4.0%、k 8.5%、ROE 24%)は 16.7 倍で、置いた中立(その 8 割)は 13.4 倍。今の値段は中立の筋書きでも 10 年後に 758 億ドル程度にしかならない。
安全域は無い。楽観(確率 10%)の筋書きでも 10 年の年率は 7% 前後で、資本コスト 8.5% に届くかどうかの水準。受注残の成長(+32%)は事実だが、データセンター向けが 10 年続くと見込んで払う値段ではない。よい会社だが、今は買い物として割高で、確信度は中程度(データセンターの循環が読みにくいため)。
何で稼ぐ会社か
売上は 3 つの地域セグメントに分かれる。Americas(2025 年度 158 億ドル、EBITA 率 18.2%)、EMEA(50 億ドル、13.1%)、APAC(28 億ドル、17.0%)。どの地域も、機器の販売と据え付け(システム)と、導入後の保守・改修(サービス)の 2 本立てで、サービスは売上の約 1/4(推定)、受注の取り込み先の大半は商業ビル・病院・大学・工場・データセンターである。
システムは、冷凍機(ヨークのチラー)、空調設備、ビル管理システム(OpenBlue)、火災報知・スプリンクラー、入退室管理を組み合わせ、ビルの設計段階から入札する。納期が長く、受注から売上まで 1〜2 年かかるため、受注残が将来の売上を示す(現在 210 億ドル)。サービスは、設備の点検・修理・更新で、JCI の機器だけでなく他社の機器も面倒を見るため、一度入るとビルの所有者と長く付き合う。
2025 年に住宅・小型商業用の空調(日立との合弁を含む)をボッシュ(Bosch)に約 81 億ドルで売り、その代金で自社株を約 60 億ドル買い戻した(2025 年度の自社株買い 59.9 億ドル)。これで景気に敏感な住宅向けが外れ、残る事業は商業用ビル設備と保守、そして伸びの大きいデータセンター冷却(チラー・CDU(冷却水配分装置)・Silent-Aire の空調棟)になった。稼ぎ方は、工事の進み具合で売上を立て、本社費を引いた後の利益率を上げることで、会社は営業レバレッジ(増えた売上に対する増えた利益の割合)を 45〜50% と見ている。
優良さと弱いところ
堀は 4 つある。第 1 は設置台数の多さで、ヨークのチラーや制御システムが世界中の商業ビルに入っており、保守の入札で最初に呼ばれる。第 2 は切り替えの費用で、ビル管理システムと機器が一体になり、他社に替えるには停止と再設定のリスクがある。第 3 は技術者と拠点の網で、現場の整備士を各地に配置できるのは規模の大きい会社だけである。第 4 は総合力で、空調・制御・火災・防犯を 1 社で束ねて提案できる。
競合は、空調の純粋な形ではトレイン(Trane Technologies、営業利益率 約 19% と JCI より高い)とキャリア(Carrier)、データセンター冷却ではバーティブ(Vertiv)とシュナイダーエレクトリック(Schneider)、ダイキン(Daikin)、ビルの制御と火災ではハネウェル(Honeywell)とシーメンス(Siemens)である。JCI は EBITA 率で見るとトレインに追いつけておらず(Americas 19〜21%、全社の営業利益率 約 12%)、価格を決める力は製品会社のトレインより弱い。
弱い所は、(1) 本社費・償却・リストラ費が大きく、営業利益が EBITA より 3 割ほど小さいこと、(2) 欧州(EMEA)が地政学の影響で売上が横ばいで、利益率も 13〜14% と低いこと、(3) 住宅向けを売ったあと事業の幅が狭くなり、商業用ビルの設備投資の循環の影響が大きくなること、(4) データセンター向けの大型案件は固定価格の工事が多く、コスト超過のリスクがあること。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
今の景気の位置は、ビル設備の長い更新サイクルの上に、データセンターという別の山が乗った形である。ビルの設備は 15〜25 年で更新され、省エネの規制(建物の電化・排出規制)が更新を後押しする。米国の商業ビルの空調はトレイン・キャリア・JCI・ダイキンが寡占し、昇降機(オーチス・シンドラー)とは別の市場である。
構造の変化は 3 つある。第 1 は AI データセンターの冷却で、サーバーの発熱が空冷の限界を超え、液冷(冷却水を直接ラックに回す方式)が必要になる。JCI は 2025 年 9 月に Silent-Aire の CDU(500kW〜10MW 超)を出し、チラーの需要も急増した。ハイパースケーラーの投資は 2026〜2028 年が山の可能性があり、止まれば同じ向きに崩れる。第 2 は関税・資材高で、鋼材・銅・冷媒の費用が上がるが、新規受注の価格に転嫁できる。第 3 は住宅着工が弱いことで、これは 2025 年に売却したので JCI には直接影響しない。
業界ノートの中立(3 年:商業用・データセンター 数量 年 +10%、保守 +5%)は 2025 年末の置き方で、JCI の受注残(+32%)と 2026 年度の有機成長 8% を反映しており、地域ごとの市場の伸びをノートより高めに置いた。ただし 10 年では、データセンターの投資が一巡し、米国の市場の実質の伸びは年 3.8% に落ち着くと置く(業界ノートの商業用 +5% より低い。JCI は住宅を売って商業用だけで、保守の比率が高いため)。EMEA は実質 年 1.5%、APAC は 年 3.0% とした。
資本政策と M&A
資本政策は還元が中心である。2025 年度の配当は 9.8 億ドル、自社株買いは 59.9 億ドルで、後者は住宅・小型商業用空調の売却代金(約 81 億ドル)による。2026 年度は 9 か月で自社株買い 8.5 億ドル、配当 約 7 億ドルと通常の水準に戻り、純利益の約 8 割を返している。株式報酬を打ち消す自社株買いの分は、正味の還元から引く。
M&A は、住宅の売却で整理を終えた後は、データセンター関連の小型買収(2026 年度第 3 四半期の買収に 2.9 億ドル)が中心で、大型買収は想定しない。過去の買収(ヨーク・タイコの合併・Silent-Aire)は規模の拡大には成功したが、のれんが自己資本を大きく上回る(自己資本 129 億ドルに対し、のれんは 150 億ドル超、推定)。
財務は、純負債 88 億ドル(2026 年 6 月、EBITDA の 1.9 倍)で、時価総額の 10% 前後と健全。借金は借り換えで約 5.75% になり、純利益を年 2 億ドル前後(税引き後で 1.7 億ドル)押し下げるが、増益の中では小さい。未成立の買収や株式交換の話は無い。
2026 年に決算期末後すでに実行した自社株買い 8.5 億ドル(10-Q・2025 年 10 月〜2026 年 6 月)は、今の株数(時価総額)に反映済みなので、10 年の還元には数えず、自己資本の起点(120.8 億ドル)からも外した。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
強気の見方は、数字が先に出ている点である。受注残は 210 億ドルで有機 +32%、Americas は +40%、年間売上の約 0.8 年分がすでに確定している。データセンターは 2026 年度売上の 10 代後半 %で、3〜5 年で 1/3 に向かう。冷却は液冷に移り、チラー・CDU・空調棟まで 1 社で揃える JCI は、ヨークの据付台数とサービス網があるため、新興の液冷専業(バーティブなど)と違って保守まで取れる。営業レバレッジは 45〜50% で、Americas の EBITA 率は第 3 四半期に 21.1% まで来ており、売上が増えれば利益率は 23% まで届く。住宅売却で景気敏感な部分が消え、保守の比率が上がり、利益の質は変わった。
さらに、電化・省エネ規制で既存ビルの更新が続き、米国の物価 3.5% が続く限り、保守料の値上げは自然に通る。10 年後に Americas の市場が実質 年 5.5% で伸び、シェアが 8% 上がり、EBITA 率が 23.5% に届くなら、純利益は 88 億ドル、時価総額は 2,000 億ドル近くになる。トレインの利益率(約 19%)と JCI の差は、本社費・規模の効果が効いて埋まる、というのが強気の筋書きである。
慎重な見方
慎重な見方は、倍率と循環の 2 点を突く。第 1 に今の PER は 2025 年度で 49 倍、2026 年度の見通しでも 34 倍で、置いた中立の PER(13.4 倍)の 2.5〜3.7 倍。第 2 に、データセンターの建設は設備投資の山にあり、ハイパースケーラーが 2027〜2028 年に投資を絞れば、受注残の 4 割近くを占める可能性のあるこの需要が止まる。受注残は工事の進み具合で売上に変わるだけで、取り消しも延期もある。
競争は強い。トレインは利益率が 7 ポイント高く、キャリアも商業用空調とデータセンター冷却に資源を移し、ダイキンは米国で増産している。液冷の分野ではバーティブとシュナイダーが先行し、JCI は CDU を 2025 年 9 月に出したばかりである。サービスは価格決定力が弱く、EMEA は売上が横ばい、利益率は 13% と低い。のれんが 150 億ドル超あり、自己資本は自社株買いで縮んだ。ROE が 14% から 20% 台に上がったのは、資本が小さくなったからでもある。本社費・リストラ費が EBITA の 3 割近くを食い続け、利益率の改善が一巡すれば、10 年後は普通のビル設備会社に戻る。
どちらに重みを置いたか
強気の事実(受注残 +32%・EBITA 率の上昇)は確かだが、10 年は、競争で利益率が頭打ちになる姿と、構造的に負ける姿を足して、やや悲観 21%・悲観 13% とやや厚めにした。強気の筋書きの 10 年の楽観でも、式で倍率を出す限り資本コスト 8.5% に届くかどうかの水準で、慎重な見方(倍率の問題)に強気の見方は反論できない。確率は事業の質に免じてやや強気に寄せたが、結論は式が決めた。倍率は利益ベースの正当化 PER の内側(中立は 8 割)に置いた結果、総合は今の時価総額に対し -41%で「割高」。
10 年後の 5 つの筋書き(2035/12 期)
確率で加重した株価時価総額 127.05 ドル772 億ドル(+ 配当配当と自社株買いの合計 42.19 ドル257 億ドル)。 今の値に割り戻すと 84.25 ドル512 億ドル、今との差 −41.1%、 期待の年率 +1.7%(資本コスト 8.5%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 240.10 ドル1,460 億ドル | 53.54 ドル326 億ドル | +105.3% | +7.5% | 29.36 ドル179 億ドル |
| やや楽観 | 22% | 178.59 ドル1,086 億ドル | 48.93 ドル298 億ドル | +59.1% | +4.8% | 50.05 ドル304 億ドル |
| 中立 | 34% | 124.65 ドル758 億ドル | 45.31 ドル276 億ドル | +18.9% | +1.7% | 57.79 ドル351 億ドル |
| やや悲観 | 21% | 87.68 ドル533 億ドル | 41.69 ドル254 億ドル | −9.5% | −1.0% | 27.17 ドル165 億ドル |
| 悲観 | 13% | 22.75 ドル138 億ドル | 14.72 ドル90 億ドル | −73.8% | −12.5% | 4.87 ドル30 億ドル |
| 加重平均 | 100% | 127.05 ドル772 億ドル | 42.19 ドル257 億ドル | +18.4% | +1.7% | 169.25 ドル1,029 億ドル |
今の株価時価総額 143.00 ドル869 億ドル(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.5% を下回るほど割高。
楽観 10% 楽観:データセンター冷却が 10 年続き、液冷まで取って利益率 23% 利益 88 億ドル · PER 16.6 倍 · 株価時価総額 240.10 ドル1,460 億ドル
2035 年度の売上は 580 億ドル(2025 年度の 2.5 倍、価格 1.45 倍)。Americas の市場は実質 年 5.5% で伸び(データセンターの液冷・電化・既存ビルの省エネ更新)、JCI はチラー・CDU・保守を束ねてシェアを 14.4% から 15.6% へ上げる。EMEA・APAC も市場が伸びる。Americas は市場 1870 億ドル・シェア 15.5%・EBITA 率 23.5%、EMEA は市場 1300 億ドル・シェア 5.1%・EBITA 率 17.5%、APAC は市場 1350 億ドル・シェア 3.3%・EBITA 率 21.0%。本社費・償却を引いた全社の営業利益率は 19.0%、営業利益 110 億ドル、純利益 88 億ドル。トレインの利益率に近づく筋書きで、10 年の正味の還元は 326 億ドル。
- Americas(北米・中南米):数量 1,870(市場の大きさ(億ドル、2025 年価格))× 価格 22.5%(JCI のシェア × 価格指数(2025 年 = 1))→ 売上 422 億ドル・営業利益 99 億ドル。市場 1870 億ドル × シェア 15.5% × 価格 1.45 倍
- EMEA(欧州・中東・アフリカ):数量 1,300(市場の大きさ(億ドル、2025 年価格))× 価格 7.3%(JCI のシェア × 価格指数(2025 年 = 1))→ 売上 95 億ドル・営業利益 17 億ドル。市場 1300 億ドル × シェア 5.1% × 価格 1.43 倍
- APAC(アジア太平洋):数量 1,350(市場の大きさ(億ドル、2025 年価格))× 価格 4.7%(JCI のシェア × 価格指数(2025 年 = 1))→ 売上 63 億ドル・営業利益 13 億ドル。市場 1350 億ドル × シェア 3.3% × 価格 1.43 倍
倍率:利益ベースの正当化 PER:事業の ROE 28.7%(純利益 ÷ 自己資本)、k 8.50%、堀は普通(残る割合 0.50)で RONIC = k + 残る割合 ×(ROE − k)= 18.6%。長期の g 4.0% で (1 − g÷RONIC)÷(k − g) = 上限 17.4 倍。データセンター冷却が 10 年続き液冷まで取る姿でも、10 年先に確証が無く堀は普通なので、上限の 9.5 割の 16.6 倍に置いた。純利益は GAAP。
確率:楽観の確率。受注残 +32%・EBITA 率 21% の事実はあるが、10 年続く保証はなく、10%。
やや楽観 22% やや楽観:データセンターは 2030 年に頭打ち、保守と更新で着実に伸びる 利益 71 億ドル · PER 15.4 倍 · 株価時価総額 178.59 ドル1,086 億ドル
2035 年度の売上は 518 億ドル(2025 年度の 2.2 倍、価格 1.43 倍)。Americas の市場は実質 年 4.6%、データセンターは 2030 年に頭打ちとなり、その後は電化と更新で伸びる。シェアは小幅に上がる(+5%)。Americas は市場 1727 億ドル・シェア 15.1%・EBITA 率 22.2%、EMEA は市場 1220 億ドル・シェア 5.0%・EBITA 率 16.5%、APAC は市場 1278 億ドル・シェア 3.2%・EBITA 率 20.0%。営業利益率 17.2%、営業利益 89 億ドル、純利益 71 億ドル。10 年の正味の還元は 298 億ドル。
- Americas(北米・中南米):数量 1,727(市場の大きさ(億ドル、2025 年価格))× 価格 21.6%(JCI のシェア × 価格指数(2025 年 = 1))→ 売上 373 億ドル・営業利益 83 億ドル。市場 1727 億ドル × シェア 15.1% × 価格 1.43 倍
- EMEA(欧州・中東・アフリカ):数量 1,220(市場の大きさ(億ドル、2025 年価格))× 価格 7.1%(JCI のシェア × 価格指数(2025 年 = 1))→ 売上 87 億ドル・営業利益 14 億ドル。市場 1220 億ドル × シェア 5.0% × 価格 1.42 倍
- APAC(アジア太平洋):数量 1,278(市場の大きさ(億ドル、2025 年価格))× 価格 4.5%(JCI のシェア × 価格指数(2025 年 = 1))→ 売上 58 億ドル・営業利益 12 億ドル。市場 1278 億ドル × シェア 3.2% × 価格 1.42 倍
倍率:利益ベースの正当化 PER:事業の ROE 26.1%(純利益 ÷ 自己資本)、k 8.50%、堀は普通(残る割合 0.50)で RONIC = k + 残る割合 ×(ROE − k)= 17.3%。長期の g 4.0% で (1 − g÷RONIC)÷(k − g) = 上限 17.1 倍。データセンターが 2030 年に頭打ちになり保守と更新で着実に伸びる姿でも、堀は普通なので、上限の 9.0 割の 15.4 倍に置いた。純利益は GAAP。
確率:強気の事実が半分続く筋書き。22%。
中立 34% 中立:データセンターは 2030 年に頭打ち、利益率は 21% 止まり 利益 57 億ドル · PER 13.4 倍 · 株価時価総額 124.65 ドル758 億ドル
2035 年度の売上は 467 億ドル(2025 年度の 2.0 倍、価格 1.41 倍)。Americas の市場は実質 年 3.8%(2030 年までデータセンターで高く、その後は 3% 前後)、シェアは 14.4% から 14.8% へ微増。EMEA は実質 年 1.5%、APAC は 年 3.0% で、シェアは変えない。Americas は市場 1595 億ドル・シェア 14.8%・EBITA 率 21.0%、EMEA は市場 1160 億ドル・シェア 5.0%・EBITA 率 15.5%、APAC は市場 1206 億ドル・シェア 3.1%・EBITA 率 19.0%。本社費・償却・リストラを引いた全社の営業利益率は 15.5%(今は 11.9%)、営業利益 73 億ドル、純利益 57 億ドル。10 年の純利益の合計 392 億ドルのうち、伸びに要る元手に回した残りの正味の還元は 276 億ドル。
- Americas(北米・中南米):数量 1,595(市場の大きさ(億ドル、2025 年価格))× 価格 20.9%(JCI のシェア × 価格指数(2025 年 = 1))→ 売上 333 億ドル・営業利益 70 億ドル。市場 1595 億ドル × シェア 14.8% × 価格 1.41 倍
- EMEA(欧州・中東・アフリカ):数量 1,160(市場の大きさ(億ドル、2025 年価格))× 価格 7.0%(JCI のシェア × 価格指数(2025 年 = 1))→ 売上 81 億ドル・営業利益 13 億ドル。市場 1160 億ドル × シェア 5.0% × 価格 1.41 倍
- APAC(アジア太平洋):数量 1,206(市場の大きさ(億ドル、2025 年価格))× 価格 4.4%(JCI のシェア × 価格指数(2025 年 = 1))→ 売上 53 億ドル・営業利益 10 億ドル。市場 1206 億ドル × シェア 3.1% × 価格 1.41 倍
倍率:利益ベースの正当化 PER:事業の ROE 23.9%(純利益 ÷ 自己資本)、k 8.50%、堀は普通(残る割合 0.50)で RONIC = k + 残る割合 ×(ROE − k)= 16.2%。長期の g 4.0% で (1 − g÷RONIC)÷(k − g) = 上限 16.7 倍。データセンターは 2030 年に頭打ちで利益率は 21% 止まりの姿で、空調・制御は設置後のサービス収益と受注残で安定するが堀は普通なので、上限の 8.0 割の 13.4 倍に置いた。純利益は GAAP。
確率:議論の落としどころ。34%。
やや悲観 21% やや悲観:競争で利益率が頭打ち、データセンターは 2028 年が山 利益 41 億ドル · PER 13.0 倍 · 株価時価総額 87.68 ドル533 億ドル
2035 年度の売上は 407 億ドル(2025 年度の 1.7 倍、価格 1.38 倍)。データセンターの投資は 2028 年が山で、その後は反動減。Americas の市場は実質 年 2.8% にとどまり、トレイン・キャリア・ダイキンとの競争で EMEA・APAC のシェアは下がる。Americas は市場 1452 億ドル・シェア 14.4%・EBITA 率 19.5%、EMEA は市場 1080 億ドル・シェア 4.9%・EBITA 率 14.0%、APAC は市場 1098 億ドル・シェア 3.0%・EBITA 率 17.5%。営業利益率 13.4%、営業利益 54 億ドル、純利益 41 億ドル。10 年の正味の還元は 254 億ドル。
- Americas(北米・中南米):数量 1,452(市場の大きさ(億ドル、2025 年価格))× 価格 19.9%(JCI のシェア × 価格指数(2025 年 = 1))→ 売上 288 億ドル・営業利益 56 億ドル。市場 1452 億ドル × シェア 14.4% × 価格 1.38 倍
- EMEA(欧州・中東・アフリカ):数量 1,080(市場の大きさ(億ドル、2025 年価格))× 価格 6.7%(JCI のシェア × 価格指数(2025 年 = 1))→ 売上 73 億ドル・営業利益 10 億ドル。市場 1080 億ドル × シェア 4.9% × 価格 1.38 倍
- APAC(アジア太平洋):数量 1,098(市場の大きさ(億ドル、2025 年価格))× 価格 4.2%(JCI のシェア × 価格指数(2025 年 = 1))→ 売上 46 億ドル・営業利益 8 億ドル。市場 1098 億ドル × シェア 3.0% × 価格 1.38 倍
倍率:利益ベースの正当化 PER:事業の ROE 21.1%(純利益 ÷ 自己資本)、k 8.50%、堀は普通(残る割合 0.50)で RONIC = k + 残る割合 ×(ROE − k)= 14.8%。長期の g 4.0% で (1 − g÷RONIC)÷(k − g) = 上限 16.2 倍。競争で利益率が頭打ちになりデータセンターが 2028 年に山を付ける姿なので、上限の 8.0 割の 13.0 倍に置いた。純利益は GAAP。
確率:設備投資の循環は必ず来る。21%。
悲観 13% 悲観:データセンターの需要が剥落し、競争で普通のビル設備会社に戻る 利益 15 億ドル · PER 9.4 倍 · 株価時価総額 22.75 ドル138 億ドル
2035 年度の売上は 281 億ドル(2025 年度の 1.2 倍。価格は 1.30 倍で、数量は実質ほぼ横ばい)。2027 年にデータセンター投資が急停止して回復せず、Americas の市場は実質ほぼ横ばい、シェアは 12.7% へ下がる(液冷専業・トレイン・キャリアに負ける)。固定価格工事の損失とのれんの減損(約 40 億ドル)が出る。Americas は市場 1155 億ドル・シェア 12.7%・EBITA 率 15.5%、EMEA は市場 950 億ドル・シェア 4.6%・EBITA 率 11.0%、APAC は市場 945 億ドル・シェア 2.8%・EBITA 率 14.0%。営業利益率 8.4%、営業利益 24 億ドル、純利益 15 億ドル。10 年の正味の還元は 90 億ドル。
- Americas(北米・中南米):数量 1,155(市場の大きさ(億ドル、2025 年価格))× 価格 16.5%(JCI のシェア × 価格指数(2025 年 = 1))→ 売上 190 億ドル・営業利益 30 億ドル。市場 1155 億ドル × シェア 12.7% × 価格 1.30 倍
- EMEA(欧州・中東・アフリカ):数量 950(市場の大きさ(億ドル、2025 年価格))× 価格 5.9%(JCI のシェア × 価格指数(2025 年 = 1))→ 売上 56 億ドル・営業利益 6 億ドル。市場 950 億ドル × シェア 4.6% × 価格 1.30 倍
- APAC(アジア太平洋):数量 945(市場の大きさ(億ドル、2025 年価格))× 価格 3.6%(JCI のシェア × 価格指数(2025 年 = 1))→ 売上 34 億ドル・営業利益 5 億ドル。市場 945 億ドル × シェア 2.8% × 価格 1.30 倍
倍率:事業の ROE 7.8% が k 8.50% 以下なので、ためた利益の価値は額面未満で PER は 1÷k = 11.8 倍まで。データセンターの需要が剥落し競争で普通のビル設備会社に戻る姿なので、上限の 8.0 割の 9.4 倍に置いた。純利益は GAAP。
確率:構造的に優良でなくなる確率。のれん・競争・データセンター依存が重なり 13% と厚め。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億ドル。
Americas(北米・中南米)
米国を中心とする商業ビル・病院・大学・データセンターの空調・制御・火災・防犯の機器販売と保守。データセンター冷却と受注残の伸びが集中する。
| 数量市場の大きさ(億ドル、2025 年価格) | 価格JCI のシェア × 価格指数(2025 年 = 1) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 1,100 | 14.4% | 158 | 29 |
| 10 年後 中立 | 1,595 | 20.9% | 333 | 70 |
取り方:市場 = 米州の商業ビル空調・制御・火災・防犯の機器と保守(2021 年の Investor Day の対象市場 約 3,000 億ドルを地域に按分した推定で 1,100 億ドル)、JCI のシェア 14.4%(売上 158 億ドル ÷ 市場)。売上 = 市場 × シェア × 価格指数。2025 年度の EBITA 率 18.2%。競合はトレイン・キャリア・ダイキン・ハネウェル・シーメンス・バーティブ。
EMEA(欧州・中東・アフリカ)
欧州・中東・アフリカの商業ビル向け設備と保守。地政学の影響で売上は横ばい、利益率は低め。
| 数量市場の大きさ(億ドル、2025 年価格) | 価格JCI のシェア × 価格指数(2025 年 = 1) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 1,000 | 5.0% | 50 | 6 |
| 10 年後 中立 | 1,160 | 7.0% | 81 | 13 |
取り方:市場 = EMEA の同じ範囲の市場の推定 1,000 億ドル、JCI のシェア 5.0%(売上 49.7 億ドル)。EBITA 率 13.1%。競合はシーメンス・シュナイダー・ハネウェル・ダイキン・キャリア。
APAC(アジア太平洋)
中国・東南アジア・豪州などの商業ビル・産業向け設備と保守。半導体工場・データセンター向けが伸びる。
| 数量市場の大きさ(億ドル、2025 年価格) | 価格JCI のシェア × 価格指数(2025 年 = 1) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 900 | 3.1% | 28 | 5 |
| 10 年後 中立 | 1,206 | 4.4% | 53 | 10 |
取り方:市場 = APAC の同じ範囲の市場の推定 900 億ドル、JCI のシェア 3.1%(売上 28.0 億ドル)。EBITA 率 17.0%。競合はダイキン・三菱電機・トレイン・キャリアと中国勢。
リスクと懸念
データセンター投資の急停止
受注残 210 億ドルのうちデータセンター・大型負荷の比率は開示されないが、2026 年度の伸びの大きな部分を占める。ハイパースケーラーが 2027〜2028 年に投資を絞ると、受注の延期・取り消しと固定費の未消化で、Americas の EBITA 率 21% は 16〜17% へ戻りうる。
競合との利益率の差
トレインの営業利益率は JCI より約 7 ポイント高く、価格を決める力に差がある。キャリア・ダイキンの増産、バーティブ・シュナイダーが先行する液冷で、JCI のシェアが取れなければ、売上は伸びても利益は伸びない。
固定価格の大型工事のコスト超過
データセンター向けの冷却設備は固定価格・長納期の案件が多い。鋼材・銅・冷媒の値上がりや技術者不足で、転嫁が遅れると工事損失が出る。関税の影響も受ける。会社は営業レバレッジ 45〜50% を見込むが、工事の損失が数件出るだけで、四半期の利益率は 1〜2 ポイント動く。
のれんの減損と自己資本の薄さ
のれんは 150 億ドル超(推定)で自己資本 129 億ドルを上回る。自社株買いで自己資本が縮み、ROE が高く見える面がある。事業が崩れれば大きな減損が出て、悲観の筋書きでは約 40 億ドルを見込んだ。
欧州の弱さと地政学
EMEA は 2026 年 4〜6 月に売上が横ばい、EBITA 率 14% と低い。中東の紛争や欧州の景気で、地域の受注が伸び悩む。会社全体の利益率の改善を押さえる。地域の売上の 1/5 を占めるので、ここが崩れると全社の伸びが鈍る。
本社費・リストラ費・償却の重さ
2025 年度は本社費 7.7 億ドルが EBITA の約 2 割(調整後 4.8 億ドル)で、償却を含めた営業利益は EBITA の約 7 割。調整後 EPS と GAAP の差が大きく、会社の調整後の数字だけで見ると割安に見える。
借り換えによる利払いの増加
純負債 88 億ドルは借り換えで金利が約 5.75% になる。増えるのは年 2 億ドル前後と小さいが、利益の伸びが鈍った時は効く。悲観の筋書きでは純負債が増え、利払いが 6 億ドルまで増えると置いた。
今後の分かれ目
- 2027 年度に受注残が 250 億ドルを超え、Americas の EBITA 率が 21% を保つ
- 楽観・やや楽観の確率を上げる。ただし倍率は式で決まるので、割高の判定は大きくは変わらない(10 年後の純利益が 2 割増えても、式の PER で時価総額は今の水準にとどまる)。
- データセンター向けの受注が 2 四半期連続で減る、または大型案件が延期される
- 10 年のやや悲観〜悲観を厚くする。Americas の市場の伸びを実質 +2% 台まで下げ、中立からやや悲観へ寄せる。
- 液冷(CDU・コールドプレート)でシェアを取り、専業と並ぶ受注を得る
- 10 年の楽観の確率を上げる。Americas のシェアが 14.4% から 15% 台へ上がる筋書き。
- EMEA の EBITA 率が 15% を超える
- 本社費・構造改革の効果が広がり、全社の営業利益率が 21% を超える可能性が増す(中立の上振れ)。
- 大型買収(数百億ドル規模)を発表する
- これまでの整理(住宅売却)の方針と食い違い、資本配分の質への見方を下げる。成立前は今の会社だけで評価する。
- 住宅着工と金利の見通しが悪化し、商業ビルの新設が落ち込む
- 商業ビルの新設向けシステムの受注が減り、保守の比率は上がるが、全社の利益は数年で 1 割以上減る。
見ておくもの
- 受注残(210 億ドル)と 12 か月内に売上へ変わる分の伸び
- Americas・EMEA・APAC の EBITA 率(21.1%・14.3%・21.2%)の持続
- データセンターの売上比率(10 代後半 % → 1/3)と大型案件の延期・取り消し
- トレイン・キャリアの受注と利益率との差
- 自社株買いの規模(純利益の 8 割の還元)と純負債÷EBITDA(1.9 倍)
倍率と資本コストの決め方
倍率は今の株価を見る前に、数量 × 価格で積んだ利益から利益ベースの正当化 PER((1−g/RONIC)/(k−g)、RONIC=k+残る割合×(事業の ROE−k))で出した。10 年の中立は正当化 PER の上限 16.7 倍(k 8.50%・g 4.0%・ROE 24%・堀は普通)の 8 割 = 13.4 倍。空調・制御の設置後のサービス収益(売上の約 4 割)と受注残で安定。CARR(7.5 割)より安定が高い 8 割。 悲観側は構造的な負けの筋書きとして上限の内側に置いた。今の株価や過去の倍率に寄せて選んだ値ではなく、全筋書きが検査の上限(正当化 PER × 事業の純利益の 1.1 倍)の内側に収まっている。
資本コスト 8.5% = 無リスク金利 5% + β 1.18 × 5%。k = 基本 8.0% + quality 0.5% = 8.5%。ビルの新設・データセンター向けは景気と設備投資に敏感で循環に +0.5%(売上の約 4 割は設置後のサービスで安定)、値決め・借金(純負債は時価総額の約 12%)・寿命は 0。データセンター投資の循環・競争・のれんなどの個別のリスクは k に足さず、数量・利益率と確率で表した。上乗せは 0。