結論
アネスト岩田は、小型の空気圧縮機・真空ポンプと、スプレーガンなどの塗装機器を二本柱とする横浜の機械メーカーだ。売上の約 7 割は海外で稼ぐ。筆者の結論は「適正」である。時価総額 722 億円のうち 170 億円は純現金で、事業そのものは平凡な利益水準を長く保つ会社と見る。
強みは塗装機器の地位だ。ハンドスプレーガンは世界 2 位で、国内は 7 割超を握る。エアブラシも世界で約 3 割とされる。ただし市場そのものが小さく、伸びしろは狭い。圧縮機では、欧米の大手や中国の新興勢と競り合う。
会社は 2035 年度に売上 1,000 億円を掲げる。自力で届くのは 700 億円前後で、残りは M&A と新規事業が頼りだ。中立の 10 年後は、売上 850 億円、営業利益 87 億円。会社の目標よりは控えめだ。
確率で重みを付けた 10 年の価値は、今の値段とほぼ同じになる。財務は厚いが、現金は成長に使うと言いながら積み上がってきた。買収が価値を生むかどうかが、上にも下にも効く最大の分かれ目である。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点で、この会社は「悪くはないが、安全域は薄い」と見る。
事業は理解しやすい。圧縮機と塗装機器は、100 年近く売られてきた道具で、10 年後も需要がある。技術の激変が少なく、その分、予測は立てやすい。
ただし、利益は特別に強くない。営業利益率は 10% 台前半、ROE は 10% 前後で、資本コスト 6.5% をわずかに上回る程度だ。新しく投じるお金が、長く高い稼ぎを生み続けるとは言いにくい。だから、将来の利益に払う倍率は控えめに見る。
オーナーとして気になるのは、余った現金だ。純現金 170 億円は時価総額の 4 分の 1 近くある。会社は買収と還元の両方に使うと説明しており、還元の下限(DOE)があるのは良い点だ。ただし、買収の実績が乏しいまま 180 億円以上を投じる計画は、価値を壊す危険もはらむ。
結論として、今の値段は、現金を割り引かずに数えれば妥当だ。事業の稼ぐ力だけを見れば、特に安くはない。安全域を求めるなら、もう一段下の値段を待ちたい。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの柱は 2 つある。エアエナジー事業が売上の約 6 割、コーティング事業が約 4 割だ。
エアエナジーは、工場・病院・研究所などで使う小型から中型の空気圧縮機と、真空ポンプである。1991 年に世界で初めてオイルフリーのスクロール式圧縮機を実用化し、1993 年にはドライ式の真空ポンプも出した。油を使わないので、食品・医療・半導体の周辺など空気をきれいに保ちたい用途に向く。日本では値上げが通り、インドでは小型機が伸びている。一方、中国は回復が遅く、欧州の相手先ブランド向けも弱い。真空機器は利益率が高く、会社は高付加価値品の比率を上げようとしている。
コーティングは、スプレーガン、エアブラシ、塗装設備である。自動車の補修塗装、家具、工業製品、模型・アートの分野で使われ、欧州のエアブラシと自動車補修向けが堅調だ。日本では塗装設備の引き合いが強く、2027 年 3 月期にはモジュール型の塗装設備「CUBIC LINE」を売り出す。
そのほか、自社のネット販売で新規事業を試す小さな部門があり、投資負担で赤字が続く。
顧客は幅広く、特定の大口に偏らない。販売は各地域の自社子会社と代理店が担う。為替の振れが営業外損益と円換算の売上に出やすい点は覚えておきたい。2026 年 6 月には、船舶・陸用ディーゼルの始動用高圧圧縮機を作る SANWA を買収した。売上 20 億円規模を目指す小さな案件だが、圧縮機の領域を広げる一歩になる。
優良さと弱いところ
この会社の堀、つまり他社がまねしにくい強みは、塗装機器の側にある。スプレーガンは 100 年の歴史があり、補修塗装の職人は慣れた道具を替えたがらない。ブランドと販売網が値決めを支える。エアブラシでも世界で約 3 割を握る。
圧縮機は同じようにはいかない。小型・中型は競合が多く、アトラスコプコや中国メーカーと価格でぶつかる。オイルフリーのスクロール式と真空ポンプは技術の蓄積があり、ここが差になる。ただし、市場の広さに比べて当社の取り分は 2% 台と小さい。
資本の効率は並みだ。過去 10 年の ROE は 8% から 13% の間で動き、中央値は約 10% である。自己資本比率は 68% と厚く、その分 ROE が薄まる。営業利益率は 10% から 13% で、突出して高くはない。
経営面では、社外取締役が 56% を占め、統治の形は整っている。還元は、配当を純資産に対する比率(DOE)で 7〜7.5% とし、減配しない方針を出した。評価できる。
弱いのは、成長の見せ方だ。目標の 1,000 億円のうち 300 億円ほどは買収頼みで、買収の実績はまだ小さい。海外の統制の弱さも課題として残る。筆者は、強い堀とまでは言えず、普通の堀と判断する。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
この会社が戦う市場は、成長が緩やかで、景気や設備投資の波を受ける。
圧縮機は、工場の稼働に欠かせない動力源で、更新と保守の需要が底を支える。需要の中心は工場の新設と増設で、中国の製造業の弱さが続く間は、地域によって明暗が分かれる。インドは小型機が伸び、新工場が動き出す。日本は値上げが通りやすい。省エネと環境規制は、高効率のインバータ機やオイルフリー機に追い風になる。競争の相手は、アトラスコプコ、インガソール・ランド、国内の大手、それに中国の新興勢だ。小型・中型は最も競争が激しい。
真空ポンプは半導体・医療・食品包装などで使われ、利益率が高い。ただし半導体向けの大口は、欧米や韓国の専業が強く、当社は周辺用途にとどまる。
塗装機器は、自動車補修と工業塗装が中心だ。電気自動車へ移っても、車体の補修塗装は続く。ただし、水性塗料への移行、ロボット塗装、そして中国製の安い塗装ガンの台頭が、長い目で効いてくる。欧州のエアブラシは趣味と産業の両方で底堅い。
業界全体の市場は、10 年で名目 3〜5% の成長という見通しを採る。当社が属する汎用機械の部分は、実質ではほぼ年 1% 台の伸びにとどまると見る。物価の分は価格に入るので、数量の伸びは小さい。米国の関税は、会社の説明では影響が軽微だ。原材料・物流・人件費の上昇は、値上げと販売促進で吸収する方針だが、値上げが通るかが利益率を左右する。
資本政策と M&A
資本政策は、守りと攻めが同居する。
守りは還元だ。配当は DOE 7〜7.5% を目安とし、減配しない。中期経営計画の期間に 30 億〜35 億円の自社株買いも予定する。純資産が積み上がる会社なので、この下限が株主を支える。
攻めは投資だ。計画期間に 260 億円以上を投じ、うち 180 億円以上を成長投資と M&A に充てる。手元の純現金は 170 億円あり、買収の資金は十分にある。2015 年にはタクボエンジニアリングの株を 10% 取り、塗装システムの共同開発を進めた。2026 年 6 月には SANWA を完全子会社にした。
株主は、信託銀行、第一生命、得意先の持株会が中心で、親会社や支配株主はいない。TOB で買われる可能性は、ゼロではない。ただし、買収の話は報じられていない。
筆者がいちばん気にするのは、現金の使い道だ。買収で価値を生めば上振れの源になるが、割高な買収をすれば、厚い現金がそのまま目減りする。
還元は方針(DOE7〜7.5%・減配しない、中計期間に30〜35億円の自社株買い)どおりで、中立は純利益の合計の約8割弱。余った現金90億円は還元に入れず時価総額に足すので二重にしない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
この会社は小さいがゆえに、伸びる余地が大きい。
圧縮機は、世界で見ると当社の取り分は 2% 台にすぎない。インドの新工場が動き、中形機の攻略が進めば、シェアは 2.7% まで上がる。中国が持ち直せば、利益率は 11% 近くまで戻る。真空機器の比率が上がれば、さらに押し上げる。
塗装機器は、世界 2 位の地位が揺るがない。CUBIC LINE のようなモジュール型の塗装設備は、省人化の流れに乗る。欧州のエアブラシは底堅く、自動車補修は電気自動車でも続く。物価の上昇を価格に転嫁できる力もある。
M&A は上積みになる。純現金 170 億円と 180 億円以上の投資枠があり、SANWA のような周辺の圧縮機会社を買って、海外の販売網で伸ばせる。会社の目標である売上 1,000 億円に届けば、利益は 130 億円を超える。
還元の下限もある。DOE 7〜7.5% で減配せず、自社株買いも続けば、株主の取り分は着実に増える。ROE も 15% に近づき、倍率は今より上がっていい。
慎重な見方
この会社の成長の物語は、多くを買収に頼っている。
1,000 億円の目標のうち、自力で届くのは 700 億円前後だ。残りの 300 億円ほどは、まだ見えていない買収と新規事業に依存する。新規のネット販売事業は、投資ばかりで赤字が続く。買収の実績は、SANWA など小さな案件にとどまり、大きな買収を統合する力は証明されていない。
圧縮機は、競争が最も激しい分野だ。中国メーカーの値下げと、欧米大手の攻勢で、中国とインドの伸びは期待ほど続かない。値上げが通らなくなれば、人件費と原材料の上昇が、そのまま利益率を削る。
塗装機器も安泰ではない。水性塗料やロボット塗装への移行、安価な中国製の塗装ガンが、長い目でシェアを侵す。
財務の厚みは、強みでもあり弱みでもある。170 億円の純現金は、利益を生まない資産であり、ROE を押し下げる。会社は DOE で減配しない約束をしたため、利益が落ちても配当は残り、自己資本は増えない。
今期の純利益は 40 億円ほどへ減る予想で、足元の稼ぐ力は、前期ほど強くない。
どちらに重みを置いたか
中立を最も重くした。事業の構造は安定しているが、利益の質は並みで、買収頼みの成長は不確実だからだ。
強気の言い分には説得力がある。インドの伸び、塗装機器の地位、現金の厚みは本物だ。ただし、それを織り込んだ中立と、買収が大成功する上振れは別で、上振れの確率は 8% と 20% にとどめた。
慎重な言い分は、買収の失敗と競争の激化という、実際に起こりうる筋書きだ。中国の回復が遅れ、値上げが通らなければ、利益は今より落ちる。この側に中立の次に厚い 24% を割り当て、構造的に負ける最悪の筋書きにも 12% を置いた。
結果として、確率はやや慎重に寄っている。それでも、現金と還元の下限が下を支えるため、10 年の価値は今の値段と同じ水準に収まる。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 2,863 円1,104 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,130 円436 億円)。 今の値に割り戻すと 2,350 円906 億円、今との差 +32.1%、 期待の年率 +8.4%(資本コスト 6.5%)→ 割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 5,734 円2,211 億円 | 1,473 円568 億円 | +305.1% | +15.0% | 577 円222 億円 |
| やや楽観 | 20% | 4,371 円1,685 億円 | 1,286 円496 億円 | +218.0% | +12.3% | 1,131 円436 億円 |
| 中立 | 36% | 3,359 円1,295 億円 | 1,157 円446 億円 | +153.9% | +9.8% | 1,626 円627 億円 |
| やや悲観 | 24% | 1,130 円436 億円 | 1,012 円390 億円 | +20.4% | +1.9% | 514 円198 億円 |
| 悲観 | 12% | 411 円159 億円 | 799 円308 億円 | −32.0% | −3.8% | 145 円56 億円 |
| 加重平均 | 100% | 2,863 円1,104 億円 | 1,130 円436 億円 | +124.4% | +8.4% | 3,993 円1,540 億円 |
今の株価時価総額 1,779 円686 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 6.5% を下回るほど割高。
楽観 8% 強気:売上 1,000 億円超へ 利益 100 億円 · PER 21.5 倍 · 株価時価総額 5,734 円2,211 億円
Vision2035 の売上 1,000 億円を超える。インドの新工場と中形機の攻略が当たり、真空機器の比率も上がる。塗装は CUBIC LINE が省人化の流れに乗る。SANWA のような周辺の買収も売上を押し上げ、営業利益率は 12% 台に乗る。
10 年後の売上は 1,120 億円、営業利益は 139 億円。ROE は 15% に近づく。成功した買収の分だけ、倍率も高く保たれる。
収益の質も上がる。真空機器など高採算品の比率が高まり、塗装設備の受注も積み上がる。会社の言う 2035 年度の売上 1,000 億円は、この筋書きでほぼ達成される。
この筋書きの鍵は、買収を統合し切る力だ。数字が示すとおり、成功すれば純利益は今の 2 倍近くになる。
- エアエナジー事業(圧縮機・真空ポンプ):数量 19,200(世界の小型〜中型の圧縮機・真空ポンプの市場(億円、今の値段で測った実質))× 価格 3.8%(当社の取り分(シェア)× 物価の指数。今はシェア 2.3% × 1 で、10 年中立は 2.3% × 1.34 倍)→ 売上 726 億円・営業利益 80 億円。市場 1.28 倍(実質)、シェア 2.7%、営業利益率 11%。物価の転嫁が強く価格の指数は 1.40 倍。
- コーティング事業(塗装機器・塗装設備):数量 5,900(世界の塗装機器・塗装設備(当社が扱う範囲)の市場(億円、今の値段で測った実質))× 価格 6.7%(当社の取り分(シェア)× 物価の指数。今はシェア 4.26% × 1 で、10 年中立は 4.3% × 1.34 倍)→ 売上 397 億円・営業利益 63 億円。市場 1.18 倍、シェア 4.8%(買収を含む)、営業利益率 16%。
倍率:事業の純利益 99 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 17.7% が k 6.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 12.1%、10 年より先の名目の伸び g 3.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 21.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 21.5 倍 + 余った現金(戻り方込み)90 億円。全体の PER 21.48 倍、時価総額 2,211 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:成功の連続が必要で、上振れは小さい確率にとどめた。会社の目標 1,000 億円を超える強気の筋書きなので 8% とした。
やや楽観 20% やや強気:中期計画どおりの伸び 利益 79 億円 · PER 20.5 倍 · 株価時価総額 4,371 円1,685 億円
会社の中期計画どおりに進む筋書きだ。インドと日本の圧縮機が伸び、中国もゆっくり持ち直す。塗装機器は欧州と日本で安定し、小さな買収が積み重なる。
10 年後の売上は 970 億円、営業利益は 109 億円で、営業利益率は 11% を超える。ROE は 13% 近くになる。
圧縮機の中形機でインドの工場が軌道に乗り、塗装設備の CUBIC LINE も一定の受注を得る。M&A は SANWA のような数十億円規模の積み重ねで、会社の言う 1,000 億円には少し届かない。
この筋書きでは、純利益は今の 1.5 倍ほどになる。会社の目標は達成できるが、利益率の上積みは限られる。
- エアエナジー事業(圧縮機・真空ポンプ):数量 18,000(世界の小型〜中型の圧縮機・真空ポンプの市場(億円、今の値段で測った実質))× 価格 3.4%(当社の取り分(シェア)× 物価の指数。今はシェア 2.3% × 1 で、10 年中立は 2.3% × 1.34 倍)→ 売上 617 億円・営業利益 62 億円。市場 1.20 倍、シェア 2.5%、営業利益率 10%。価格の指数は 1.37 倍。
- コーティング事業(塗装機器・塗装設備):数量 5,650(世界の塗装機器・塗装設備(当社が扱う範囲)の市場(億円、今の値段で測った実質))× 価格 6.2%(当社の取り分(シェア)× 物価の指数。今はシェア 4.26% × 1 で、10 年中立は 4.3% × 1.34 倍)→ 売上 349 億円・営業利益 52 億円。市場 1.13 倍、シェア 4.5%、営業利益率 15%。
倍率:事業の純利益 78 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 14.8% が k 6.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.6%、10 年より先の名目の伸び g 3.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 20.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 20.5 倍 + 余った現金(戻り方込み)90 億円。全体の PER 20.52 倍、時価総額 1,685 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:会社の中期計画どおりの筋書き。実績は目標に届かないことが多いので、20% にとどめた。
中立 36% 中立:堅実に伸びるが買収の成果は限定的 利益 63 億円 · PER 19.5 倍 · 株価時価総額 3,359 円1,295 億円
中立は、堅実に伸びるが、買収の成果は限られる筋書きだ。圧縮機は日本とインドの小型機が伸び、中国は低調のまま。塗装機器は欧州エアブラシと補修塗装が支え、シェアは小幅に上がる。
10 年後の売上は 850 億円、営業利益は 87 億円で、営業利益率は 10% 強。会社の目標の 1,000 億円には届かない。ROE は 11% 近く、資本コストをわずかに上回る水準に落ち着く。還元は純利益の 85% ほどで、自己資本は緩やかに増える。
中国は他社も苦しんでおり、当社だけが落ち込むことはない。値上げは物価並みに通り、人件費の上昇も同程度に吸収できる。M&A は上積みと見るが、成果は小さい。
純利益は今の 1.2 倍ほどに増える。海外の売上比率は 7 割のまま変わらない。
- エアエナジー事業(圧縮機・真空ポンプ):数量 17,250(世界の小型〜中型の圧縮機・真空ポンプの市場(億円、今の値段で測った実質))× 価格 3.1%(当社の取り分(シェア)× 物価の指数。今はシェア 2.3% × 1 で、10 年中立は 2.3% × 1.34 倍)→ 売上 531 億円・営業利益 48 億円。市場 1.15 倍(実質)、シェア 2.3% を維持、営業利益率 9%。価格は物価並みの 1.34 倍。
- コーティング事業(塗装機器・塗装設備):数量 5,500(世界の塗装機器・塗装設備(当社が扱う範囲)の市場(億円、今の値段で測った実質))× 価格 5.8%(当社の取り分(シェア)× 物価の指数。今はシェア 4.26% × 1 で、10 年中立は 4.3% × 1.34 倍)→ 売上 317 億円・営業利益 44 億円。市場 1.10 倍、シェア 4.3%、営業利益率 14%。
倍率:事業の純利益 62 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 12.4% が k 6.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.5%、10 年より先の名目の伸び g 3.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 19.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 19.5 倍 + 余った現金(戻り方込み)90 億円。全体の PER 19.52 倍、時価総額 1,295 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:業種ノートの中立(名目 3〜5% の成長)に沿った中心の筋書き。最も重くし 36%。
やや悲観 24% やや慎重:中国と欧州が戻らず値下げ圧力 利益 36 億円 · PER 10.5 倍 · 株価時価総額 1,130 円436 億円
中国と欧州が回復せず、値上げも通りにくくなる筋書きだ。中国メーカーの値下げで圧縮機のシェアが 2.0% に下がり、人件費と原材料の上昇が利益を削る。塗装機器も水性塗料への移行とロボット塗装で伸びない。
買収は小さな案件にとどまり、目標の 1,000 億円は遠のく。10 年後の売上は 650 億円、営業利益は 50 億円、ROE は 7% 台に落ちる。DOE で減配しないため、還元は利益をやや上回る。
配当は DOE の約束で守られるが、自己資本は増えず、ROE は資本コストを割る。現金は買収や還元で少しずつ目減りする。
利益は今の水準より低く、10 年を通じて成長が止まったままになる。
- エアエナジー事業(圧縮機・真空ポンプ):数量 15,750(世界の小型〜中型の圧縮機・真空ポンプの市場(億円、今の値段で測った実質))× 価格 2.6%(当社の取り分(シェア)× 物価の指数。今はシェア 2.3% × 1 で、10 年中立は 2.3% × 1.34 倍)→ 売上 403 億円・営業利益 28 億円。市場 1.05 倍、シェア 2.0%、営業利益率 7%。値下げ圧力で価格の指数は 1.28 倍に鈍る。
- コーティング事業(塗装機器・塗装設備):数量 5,000(世界の塗装機器・塗装設備(当社が扱う範囲)の市場(億円、今の値段で測った実質))× 価格 4.9%(当社の取り分(シェア)× 物価の指数。今はシェア 4.26% × 1 で、10 年中立は 4.3% × 1.34 倍)→ 売上 243 億円・営業利益 28 億円。市場 1.00 倍、シェア 3.8%、営業利益率 11.5%。
倍率:ROE 7.1% は k 以下。上限の 1÷k = 13.3 倍の下側に置き、稼ぐ力が資本コストに届かないことを織り込んで 10.5 倍。
確率:中国の弱さが続く現状と、競争の激しい圧縮機、買収の実績の乏しさから、慎重側の言い分が強いと見て、24% をあてた。
悲観 12% 悲観:構造的に負け、買収も失敗 利益 14 億円 · PER 8.5 倍 · 株価時価総額 411 円159 億円
構造的に負ける筋書きだ。中国と新興国で現地の安価な機種が主役になり、小型・中型の圧縮機は値下げ競争に陥る。塗装機器もロボット塗装と中国製の塗装ガンにシェアを奪われる。
大型の買収は失敗し、現金の半分近くが減損と損失に消える。10 年後の売上は 450 億円、営業利益は 20 億円で、ROE は 3% にとどまる。それでも、純現金と資産が稼ぐ力の下を支える。
配当は DOE の約束で守ろうとするため、現金の取り崩しや資産の売却で払う場面も出る。ただし、純現金と土地などの資産は残り、株価の下値を支える。
大きな買収の失敗が引き金になる。ただし、会社が傾くほどではない。
- エアエナジー事業(圧縮機・真空ポンプ):数量 14,250(世界の小型〜中型の圧縮機・真空ポンプの市場(億円、今の値段で測った実質))× 価格 1.9%(当社の取り分(シェア)× 物価の指数。今はシェア 2.3% × 1 で、10 年中立は 2.3% × 1.34 倍)→ 売上 274 億円・営業利益 12 億円。市場 0.95 倍、シェア 1.6%、営業利益率 4.5%。値下げで価格の指数は 1.20 倍にとどまる(物価に追いつかない)。
- コーティング事業(塗装機器・塗装設備):数量 4,500(世界の塗装機器・塗装設備(当社が扱う範囲)の市場(億円、今の値段で測った実質))× 価格 3.8%(当社の取り分(シェア)× 物価の指数。今はシェア 4.26% × 1 で、10 年中立は 4.3% × 1.34 倍)→ 売上 173 億円・営業利益 14 億円。市場 0.90 倍、シェア 3.2%、営業利益率 8%。
倍率:ROE 3% で k を大きく下回る。稼ぐ力の低さを反映して 8.5 倍。現金は 0.5 倍の 45 億円だけ足す。
確率:構造的に負ける筋書き。同じ領域の会社の悲観の確率(11〜14%)に揃え、12% とした。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
エアエナジー事業(圧縮機・真空ポンプ)
工場・病院・研究所向けの小型〜中型の空気圧縮機(オイルフリーのスクロール式を含む)と、真空ポンプ。更新と保守の需要が底を支える。
| 数量世界の小型〜中型の圧縮機・真空ポンプの市場(億円、今の値段で測った実質) | 価格当社の取り分(シェア)× 物価の指数。今はシェア 2.3% × 1 で、10 年中立は 2.3% × 1.34 倍 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 15,000 | 2.3% | 345 | 29 |
| 10 年後 中立 | 17,250 | 3.1% | 531 | 48 |
取り方:売上は 2025/03 期の実績 336 億円と今期の見通しから推定した(セグメントの実績は未確認)。営業利益率 8.5% も推定。市場 1.5 兆円は、世界の圧縮機市場の中の小型〜中型・オイルフリー・真空の範囲を、大手の売上と台数から見積もった。シェアは数量の側、物価は価格の側に入れた。
コーティング事業(塗装機器・塗装設備)
スプレーガン、エアブラシ、塗装設備。自動車の補修塗装、工業塗装、模型・アートの用途。
| 数量世界の塗装機器・塗装設備(当社が扱う範囲)の市場(億円、今の値段で測った実質) | 価格当社の取り分(シェア)× 物価の指数。今はシェア 4.26% × 1 で、10 年中立は 4.3% × 1.34 倍 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 5,000 | 4.3% | 213 | 30 |
| 10 年後 中立 | 5,500 | 5.8% | 317 | 44 |
取り方:売上は 2025/03 期の実績 207 億円と今期の見通しから推定した。営業利益率 14% も推定(欧州エアブラシ・補修向けが高採算)。市場 5,000 億円は、ハンドスプレーガン、エアブラシ、中小の塗装設備の世界の規模を見積もった。本社費とその他事業の赤字は調整の欄に入れた。
リスクと懸念
買収で価値を壊す
1,000 億円の目標のうち 300 億円ほどは M&A 頼みだ。180 億円以上の投資枠があるが、大きな買収の統合の実績は乏しい。割高に買えば、厚い現金がそのまま目減りする。
中国・欧州の需要の弱さが長引く
中国のエアエナジー事業は回復が遅れ、欧州の相手先ブランド向けと塗装機器も弱い。海外が売上の約 7 割を占めるため、この 2 地域が戻らない間は、利益が伸びない。
圧縮機での価格競争
小型・中型の圧縮機は、アトラスコプコなどの大手と、安価な中国勢の双方と競う。値上げが通らなければ、人件費と原材料の上昇が利益率を直接削る。
塗装機器の技術の置き換え
自動車の補修塗装は、水性塗料の浸透、ロボット塗装、中国製の安価な塗装ガンの台頭で、長い目で単価とシェアが圧迫される。世界 2 位の地位でも、市場の規模が小さい。
為替と海外子会社の統制
売上の約 7 割が海外のため、円高は円換算の売上と営業外損益に響く。2026/03 期の純利益には営業外の利益が含まれ、今期はその剥落で減益の予想だ。海外子会社の管理(移転価格や統一システムの整備)は途上にある。
現金が積み上がり、使われない
純現金は 170 億円で時価総額の約 4 分の 1。還元の下限(DOE)は評価できるが、買収も還元もしない時期が続けば、ROE は低いまま推移する。
今後の分かれ目
- インドの新工場が立ち上がり、中形圧縮機でシェアを取り始める
- 圧縮機の数量が伸び、中立よりも強気寄りの筋書きに確率が移る。
- 中国の需要が戻らず、圧縮機の売上が 2 期続けて落ちる
- やや慎重の筋書きが現実になり、利益率が 1 ポイント以上下がる。
- 数百億円規模の大型買収を発表する
- 統合が成功すれば強気側、失敗すれば現金の目減りで悲観側に確率が移る。買収の価格と相手の収益力を見て判断する。
- 自社株買いを中計の 30〜35 億円より大きく増やす
- 余った現金が還元に回り、利益の質が上がる。ROE が 12% に近づく。
- ドル円が 150 円から大きく円高へ振れる
- 円換算の売上と営業外損益が下振れし、1〜2 期は利益が落ちるが、10 年の価値は大きくは動かない。
- 安価な中国製のスプレーガンが欧米の補修市場で広がる
- 塗装機器の価格が崩れ、同事業の利益率が 14% から 11% 台へ下がる。
見ておくもの
- インドの新工場の稼働と圧縮機の売上
- 中国のエアエナジー事業の回復
- M&A の発表とその価格
- 自社株買いの実施状況と DOE
- CUBIC LINE の受注
- 円ドルの水準と営業外損益
倍率と資本コストの決め方
倍率は、事業の ROE と資本コスト 6.5%、成長 4% から出した正当化 PER の 8 割(中立)と、利益の質(並みの ROE・為替と買収の不確実さ)で決めた。今の株価や同業の倍率は見ていない。今の時価総額(722 億円)は最後に比べただけで、10 年の価値はほぼ同じ水準に収まった。10 年後の数字は家賃などを営業費用に入れた今と同じ形で書き、新リース会計基準による形の変化は織り込んでいない。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 16.73→21.48 倍・やや楽観 PER 14.73→20.52 倍・中立 PER 12.84→19.52 倍)。
資本コスト 6.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。k = 基本 7.5% + quality 0% = 7.5%。買収の実行や海外子会社の統制の懸念は k に足さず、筋書きと確率で表す。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 7.50% → 6.50%。