結論
リップスは、男性向けヘアワックスやシャンプーを売る商品事業と、理美容サロンの加盟店から収入を得る会社だ。筆者の結論は「割安」である。ブランドへの信頼と厚い現金がありながら、今の株式時価総額は10年先の稼ぐ力を十分に映していないと考える。
ただし、売上が伸びれば自動的に企業価値が高まるわけではない。2026年8月期は売上が増えたのに営業利益が3割近く減り、広告宣伝費の増加が先行した。人気のある商品を持つことと、広告費を使わず選ばれるブランドになることは別である。新しい低価格商品の導入も、販売個数は増やせても平均単価と利益率を圧迫しかねない。
販売先はヘアワックスで約1万8300店、シャンプーでは約1万2000店に広がり、ワックスの国内ブランド別シェアは16.4%に達する。もっとも首位の37.0%には届かず、棚を維持する販促費は重い。サロンを通じた流行の発信と商品への誘導が、競争相手にない利益を本当に生むかが10年間の核心となる。
2026年8月期末には現金同等物と定期預金が計約32.5億円あり、これを通常の事業利益と二重に数えない。今の価格を基準にした時価総額は約36.8億円、5つの筋書きから得る現在価値は約80億円となる。ただし無配、経営陣への新株予約権、過剰な成長投資という少数株主に固有の不利が残るため、現金の全額を自由に使える価値とは考えない。
バリュー投資の観点から
長く持つ株主が最初に知りたいのは、このブランドを10年後も若い消費者が自分で選んでいるかだ。流行が移り変わっても、髪を整える日常はなくならない。サロンで培った技術を商品に反映し、ドラッグストアの定番棚を守れれば、広告費を毎年増やさなくても現金を生む事業になる。その可能性は評価する。
ただし、ブランド名を知っている人が多いことと、商品に値決め力があることは違う。髪型の流行は早く、ワックスからジェル、バーム、ヘアオイルへ主役が移る。店頭では競合への乗り換えが容易である。将来の利益を長く見通すには、毎年の販促で勝つ会社から、商品そのものへの指名買いで勝つ会社へ変わる必要がある。
オーナー利益とは、稼いだ会計上の利益のうち、運転資金や商品の更新に回さず持ち主が使える部分である。同社は重い製造設備を抱える装置産業ではなく、営業キャッシュフローの大半を設備更新に使う必要もない。それでも広告、研究開発、店頭販促への支出を怠れば商品寿命が縮む。実際に2026年8月期は広告費の追加に対し利益が減っており、全ての利益が自由な現金だとは言い切れない。
もう一つの問題は現金を誰のために使うかである。現金が豊富でも、無配のまま低採算の商品や買収に投入されれば、持ち続ける株主の利回りは落ちる。2030年売上を条件とする新株予約権も、成長が利益を伴うかで評価すべきだ。株価の値ごろ感より、棚のシェア、販促費を引いた増分利益、現金の扱いという三つの実績が積み重なるかで投資価値を判断する。
何で稼ぐ会社か
収益の中心は商品事業である。ヘアワックスを核に、シャンプー、トリートメント、スタイリング剤、近年は男性用スキンケアへ品ぞろえを広げている。商品事業の2026年8月期売上は42.83億円で、全社の約92%を占める。サロンで蓄積した髪形の提案をブランドの世界観に変え、店頭や電子商取引で販売する仕組みだ。
商品が売れる場所も稼ぎを左右する。売上構成は小売店向けがおよそ67%、電子商取引がおよそ30%、サロン向けが約3%である。小売店ではドラッグストアや量販店の陳列棚を確保できるかが数量を決める一方、卸値には流通業者の交渉力が働く。電子商取引は消費者に直接訴求できるが、検索広告や動画広告に費用がかかる。新しい低価格商品によるコンビニエンスストアへの進出は販路拡大の機会だが、既存の高付加価値商品の需要を奪わないか見極めたい。
もう一つは「LIPPS hair」のサロンフランチャイズである。自社が多数の直営店で髪を切るというより、加盟する店舗のブランド、技術教育、店舗運営を支えることでロイヤルティーなどを得る。美容師には2年間の育成プログラムがあり、技術と接客を現場で身につける。2026年8月期の売上は3.82億円、営業利益は1.28億円だった。約38万人の年間来店客を起点にすると来店1回当たりの同社受取額は約1005円となるが、これは施術料金ではなく加盟店収入の推定換算額である。
事業の強みは、美容師による流行づくりと商品開発をつなげられることにある。売上の大部分は人の作業時間ではなく実物の商品から生まれ、加盟店事業も実際の来店と現場の施術が基礎にある。美容師研修や広告制作の一部は人工知能で効率化できるものの、それらを独立した人月単価や席数で販売する業態ではなく、全社へのAIエージェント代替の数量縮小表は当てはまらない。
優良さと弱いところ
最も確かな競争上の資産は、男性のヘアスタイリングに特化したブランド認知と販売棚である。ワックス市場で16.4%のシェアを持ち、利用者は好みの仕上がりを再現するために使い慣れた商品を繰り返し買う。サロンの美容師が使い方を伝えられることは、広告だけで作られた新興ブランドにはない利点だ。技術教育に2年間をかける加盟店の仕組みも、商品だけではまねしにくい。商品と加盟店を行き来する顧客接点が広がれば、発売直後の新商品も試してもらいやすい。
しかし堀、つまり模倣されにくい競争優位は、まだ盤石ではない。商品を別銘柄に替える手間は小さく、店頭の競合棚にはマンダムの「ギャツビー」やファイントゥデイの「ウーノ」などがある。会社資料の首位シェアは37.0%で、同社の約2倍を超える。値上げを続けても数量が落ちないという長期実績は確認できない。ブランドを強い独占資産と決めつけるのは早い。
財務は非常に強い。2026年8月期末の自己資本は41.15億円、自己資本比率は約90%で、現金・預金も厚い。借り換え金利が上がっても倒れにくく、新製品の試作や海外販路の開拓に失敗しても立て直す余地がある。過去のROEは高かったが、無配で自己資本を積み増すうちに資本効率が薄まる問題も抱える。
2026年8月期の広告宣伝費は前年の約4.22億円から約6.36億円へ増えたのに、営業利益は減少した。追加投入した資金が資本コストを上回る利益を生んだとは、まだ言い切れない。今後は売上の伸びよりも、広告費を抑えてもリピート購入が続き、増分の利益率が改善するかを優良さの試金石とする。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
国内の男性美容市場は、人口が大きく増える市場ではない。男性も髪や肌にお金を使う習慣が広がることは追い風だが、少子化は若年男性の人数を減らす。富士経済の調査を引用した会社資料では、男性ブランド化粧品の市場は約1616億円である。さらに広い化粧品全体の市場約3.2兆円は、新規のスキンケア事業が将来進出しうる領域を示すにすぎず、同社がすぐに取れる市場とは区別する。
ヘアワックスはその一部であり、実際の市場規模を商品別に示した一次資料は確認できない。会社が開示する16.4%というワックスのシェアは、市場の中でブランドを育てられる余地と、まだ首位でない現実の双方を表す。競合のマンダム、ファイントゥデイ、サロン専売のナカノ製薬などは価格帯も販路も異なる。動画や短尺投稿で流行する髪形が変われば、人気のワックスからジェルやバームへの乗り換えも起こる。
商品数量は、人口減少を販路拡大と新商品の採用がどこまで補えるかで決まる。足元でヘアワックスの取り扱い店は1万8300店、シャンプーは1万2000店ほどあり、後者の拡大余地はある。一方、シャンプーやスキンケアに進むほど花王、資生堂、ライオン、海外の大手ブランドと競合するため、男性ヘアワックスでの成功が別の棚で通用する保証はない。物価が年3%上がる世界でも、価格をそのまま転嫁できるかは競争次第である。
理美容サロン全体については矢野経済研究所が2025年度市場を約2兆1030億円と推計し、来店回数の減少を指摘している。同社の加盟店事業はその市場のごく一角だが、売上はサロンの施術代金そのものではなく加盟料やロイヤルティーである。市場全体の金額と同社の加盟店売上を直接割って市場シェアを出すことはできない。今後10年は国内の来店客数が大きく伸びなくても加盟店網の浸透で数量を増やせる一方、美容師不足が出店とサービス品質の制約になる。
資本政策と M&A
会社が示す長期の方向は2030年8月期の売上高100億円への到達である。しかしそれは確定した中期利益計画ではなく、営業利益、ROE、配当性向、DOE、自社株買い額について、同じ期間の数字の約束は見当たらない。2027年8月期の会社予想は売上49.08億円、営業利益6.83億円、純利益4.72億円で、配当予想はゼロのままだ。売上を伸ばすと宣言する以上に、残った利益をどの利回りで使うかが問われる。
現金管理は一見すると慎重である。2026年8月期末の現金同等物は約17.5億円だが、これとは別に定期預金が15億円ある。定期預金への移し替えによる投資キャッシュフローの流出を、設備投資で現金を失ったと読むのは誤りだ。一方で、無配が続き現金が膨らむ以上、余剰資金の株主への返還は確約されていない。
資本政策で重く見るのは2026年10月に発行が確定した有償新株予約権である。2030年の売上が60億、80億、100億円を超える段階で権利の33%、66%、100%が行使可能になる設計で、最大17万5000株は現行株式の約6.8%に当たる。達成した場合の払込資金も企業に入るが、利益率や投下資本利益率を直接問わない条件は、売上だけを追う投資を誘発しかねない。
大株主上位10人の保有割合は開示資料ベースで約73%に達し、過去5年は自社株買いや増配による返還も確認できない。このため少数株主が将来の余剰現金を全額受け取れるとは扱わず、評価では半分の回収可能性を採用した。大型買収の発表は見当たらないが、仮に余剰資金を買収に投じるなら、ブランドとの適合性だけでなく買収後の増分利益と取得価格を検証したい。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
男性美容の需要は、人口の増減だけで決まらない。外出時に髪を整え、スキンケアも日常的に使う男性が増えれば、一人当たりの購買個数を押し上げられる。リップスは既にワックスの国内シェア16.4%を確保し、全国の販売店に商品を並べている。新規参入者は同じ棚を奪うために広告だけでなく流通網も作らねばならず、先行者の利点は大きい。
サロンとの結びつきはその優位を深める。美容師が提案する髪型に合う商品を売れば、単なる化粧品メーカーと違って流行の発生源を持てる。ワックス以外のシャンプーやスキンケアを既存顧客に広め、電子商取引でリピートを取れば、顧客獲得費は下がる余地がある。販促費を先に使った2026年8月期の低い利益率も、商品が定番化する過程の一時的な負担だったと説明できる。
最も魅力的なのは、現金が豊富で借金に追われずに新商品の試行錯誤を続けられることだ。2026年8月期の現金同等物と定期預金だけで32億円を超える。毎年の利益と現金を積み増しながら、新規の出店支援と商品開発を続けられる。広告効率が改善し、売上100億円の先まで事業が大きくなれば、新株予約権の希薄化を上回る一株当たり価値が生まれよう。
慎重な見方
2026年8月期は成長の質に警告を発した。売上は増えたのに広告宣伝費が約半分増え、営業利益は3割近く減った。買い手が自然に戻ってくるブランドなら、売上を少し増やすためにこれほどの販促費を追加する必要があるのか。店頭の売り場は永続的な資産ではなく、小売業者が棚を変えれば販売量はすぐに失われる。
男性用ワックスでは首位ブランドのシェアが同社の2倍を超え、マンダムやファイントゥデイなど資本力の大きな競合がいる。低価格商品でコンビニへ進むと、売上の個数は増えても利益額が増えないことがある。若い利用者の人口減と髪形の流行の変化も避けられず、サロン加盟店の増加さえ美容師の採用難に左右される。商品を値上げしてもブランドが選ばれ続ける証拠は十分ではない。
現金の多さは少数株主にとって保証ではない。高い比率を持つ大株主がいる一方で、無配が続き、2030年の売上目標を条件とする新株予約権が設定された。目標を追って過剰な広告費や高値の買収に支出すれば、株主が受け取れる現金はむしろ減る。株価に安全域があるように見えても、資本配分の悪化でその安全域が溶ける筋書きを軽く見てはならない。
どちらに重みを置いたか
競争優位を認めつつも、2026年の販促費増と利益率低下は慎重な見方を裏付ける。このため楽観側27%に対し、やや悲観・悲観に35%を配し、確率はやや下に寄せた。ただし同社には相応のシェア、現実の利益、約32.5億円の現預金がある。景気の悪化と恒久的な競争力喪失を区別して5つの筋書きを描くと、現時点の時価総額はその加重された価値に大きく届かない。結論は割安だが、現金の返還と広告効率の回復を確認したい。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/08 期)
確率で加重した現株数換算の終価現在株主分の終価 6,155 円159 億円(+ 還元の換算額還元の合計 81 円2 億円)。 今の値に割り戻すと 3,114 円81 億円、今との差 +117.1%、 期待の年率 +16.0%(資本コスト 7.2%)→ 割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の現株数換算の終価現在株主分の終価 | 還元の換算額還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・還元込み | 年率 | 確率 × (終価+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 7% | 13,633 円353 億円 | 362 円9 億円 | +875.9% | +26.3% | 980 円25 億円 |
| やや楽観 | 20% | 9,374 円243 億円 | 185 円5 億円 | +566.6% | +21.3% | 1,912 円49 億円 |
| 中立 | 38% | 6,574 円170 億円 | 30 円1 億円 | +360.6% | +16.6% | 2,510 円65 億円 |
| やや悲観 | 25% | 2,809 円73 億円 | 23 円1 億円 | +97.5% | +7.1% | 708 円18 億円 |
| 悲観 | 10% | 1,259 円33 億円 | 12 円0 億円 | −11.4% | −1.2% | 127 円3 億円 |
| 加重平均 | 100% | 6,155 円159 億円 | 81 円2 億円 | +334.9% | +16.0% | 6,236 円161 億円 |
今の株価時価総額 1,434 円37 億円(2026-11-02)から見たトータルリターン。各行の年率は還元・追加負担を期間の中間時点に置く仮定のIRRです。最下段は期待CFから計算したIRRで、各行のIRRの加重平均ではありません。実際の配当時期を観測した値ではありません。
楽観 7% 指名買いが増え、商品とサロンの連鎖が定着 利益 19 億円 · PER 18.8 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 13,633 円353 億円
商品棚でのシェアが広がり、ヘアワックスに加えてシャンプーやスキンケアが男性向けの定番商品になる。価格の高い主力商品を守りつつ、コンビニの低価格商品は新しい客を獲得する入口として機能する。電子商取引での再購入が増え、広告費を際限なく積み上げずに出荷個数を伸ばせるようになる。2030年売上100億円の目標を達成し、2036年の商品販売は年間730万個へ進む。
サロンの美容師が新しい髪型を発信し、その場で使う商品が店頭で買われる好循環が強まる。加盟店の年間来店数も66万人まで増え、サービス品質を維持したまま教育・加盟店支援の効率を高める。商品事業の営業利益率は18%に上がる。無借金に近い財務を維持しながら現金を積み増し、一部を株主に還元する。2030年の売上条件を満たすことで新株予約権は全数行使されるが、行使払込金の流入と増益が既存株主の希薄化を上回る。
- 商品事業(ワックス・ヘアケア・スキンケア):数量 7,300,000(年間商品出荷換算個数(個、非開示につき推定))× 価格 0.00(同社が実際に受け取る商品1個当たり平均売上(億円/個、卸と直販の混合))→ 売上 124 億円・営業利益 22 億円。国内ワックスのシェア拡大と新カテゴリー定着で年730万個、受取1700円
- サロンフランチャイズ事業:数量 660,000(加盟サロンの年間来店客数(人/年、会社公表の概数))× 価格 0.00(1来店当たりの当社FC受取換算額(億円/来店、ロイヤルティー等合算))→ 売上 9 億円・営業利益 3 億円。来店66万人、FC換算受取約1409円
倍率:現金100億円の税引後利息1.40億円を純利益18.81億円から除き、事業純利益17.41億円・事業自己資本45億円から事業ROE38.7%を得る。k7.25%、通常の堀で超過分の残存50%、RONIC22.97%、g2.5%の正当化PER上限18.76倍を適用。事業価値に余剰現金100億円の株主還元可能性50%を加算する。
確率:ヘアワックスのシェア拡大、新商品への横展開、広告効率の改善、サロン来店増が同時に必要であり、実現可能だが条件が厳しいため7%に限る。
やや楽観 20% 商品群が広がり、広告効率も改善 利益 13 億円 · PER 18.0 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 9,374 円243 億円
ワックスの国内シェアは現在からゆっくり高まり、シャンプーの採用店も増える。低価格のジェルやスキンケアが新しい購買層を生み、既存の高価格商品も一定の指名買いを維持する。年間商品出荷は570万個に増え、物価上昇をほぼ転嫁した平均単価を実現する。広告宣伝費は増えるが、売上ほどには増やさず利益率が改善する。
サロンの来店は54万人へ増え、加盟店の利益を損なわずにロイヤルティーと教育収入を伸ばす。大型買収には頼らず、新商品の改良と流通網への投資に資金を振り向ける。2030年売上80億円の権利条件は達成し、新株予約権のうち66%が行使される。2036年には全社営業利益17億円程度に達するが、競合による広告負担は残り、極めて高い利益率の復活までは見込まない。
- 商品事業(ワックス・ヘアケア・スキンケア):数量 5,700,000(年間商品出荷換算個数(個、非開示につき推定))× 価格 0.00(同社が実際に受け取る商品1個当たり平均売上(億円/個、卸と直販の混合))→ 売上 91 億円・営業利益 15 億円。年570万個、受取1600円、広告費率低下で営業利益率16.5%
- サロンフランチャイズ事業:数量 540,000(加盟サロンの年間来店客数(人/年、会社公表の概数))× 価格 0.00(1来店当たりの当社FC受取換算額(億円/来店、ロイヤルティー等合算))→ 売上 7 億円・営業利益 2 億円。年54万人、FC換算受取1350円、利益率28%
倍率:現金82億円の税引後利息1.148億円を除いた事業純利益11.792億円を、事業自己資本43億円で割るとROE27.4%。k7.25%、超過利益持続50%でRONIC17.34%、g2.5%より正当化PER上限18.02倍となる。端数を切り捨てた18.01倍を使用し、余剰現金82億円には回収率50%を適用する。
確率:既存店舗の棚とサロンのブランド発信を活用できれば達成可能だが、広告費の増加を利益の増加へ転換できるかは未証明なので20%とする。
中立 38% 販路の拡張で増収するが、利益率は部分回復 利益 9 億円 · PER 17.3 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 6,574 円170 億円
既存ヘアワックスの支持は維持するが、競合に勝ち続けるための販促費も残る。低価格商品の導入やシャンプーの採用店拡大で年間商品出荷は470万個へ増える。ただし、2030年の100億円という売上目標には届かず、2036年の商品売上も約74億円にとどまる。平均受取単価の上昇は長年の物価上昇とほぼ同程度である。
美容師が生み出す流行とサロン発の商品開発の強みは残り、サロン来店は45万人へ穏やかに増える。営業利益率は販促費が先行した2026年から商品事業で13.5%程度に回復するが、かつての高利益率には届かない。増えた現金は新規商品開発と運転資金を支え、明確な配当方針はなお生まれない。2030年売上60億円の条件だけは満たすため、新株予約権の33%が行使され、既存株主の取り分は小幅に薄まる。
- 商品事業(ワックス・ヘアケア・スキンケア):数量 4,700,000(年間商品出荷換算個数(個、非開示につき推定))× 価格 0.00(同社が実際に受け取る商品1個当たり平均売上(億円/個、卸と直販の混合))→ 売上 74 億円・営業利益 10 億円。年470万個、受取1570円、低価格商品の混合で物価並みの価格
- サロンフランチャイズ事業:数量 450,000(加盟サロンの年間来店客数(人/年、会社公表の概数))× 価格 0.00(1来店当たりの当社FC受取換算額(億円/来店、ロイヤルティー等合算))→ 売上 6 億円・営業利益 2 億円。来店45万人、FC換算受取1250円、一定の加盟店増
倍率:純利益8.97億円から余剰現金72億円の税引後利息1.008億円を除く。事業純利益7.962億円と事業自己資本38億円からROE20.95%、通常の堀の残存率50%でRONIC14.10%。k7.25%、g2.5%から算出した正当化PER17.32倍を使う。余剰現金は72億円の50%のみ加える。
確率:すでに1万店超の小売販路とワックス16.4%のシェアがある一方、2026年の広告費負担が重い。目標100億円に届かない慎重な中立を38%とする。
やや悲観 25% 棚の維持に広告がかかり、利益が伸び悩む 利益 5 億円 · PER 10.8 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 2,809 円73 億円
競合のマンダムやファイントゥデイが販促を強め、リップスは主要な販売棚を守るために値引きと広告を続ける。低価格商品の販売で数量は増えるが、高付加価値商品の購入が伸びず、年間販売は385万個程度にとどまる。メーカーの平均受取単価も物価上昇に負ける。商品事業の営業利益率は10%まで下がり、売上の伸びに比べて現金が増えにくい。
サロンの来店客は38万人前後で横ばいとなり、加盟店の人材不足から単価の引き上げも進まない。会社は大型買収を控えるが、広告を削れば売上を失うため資本効率の改善は小さい。2030年の売上60億円に届かず、新株予約権は行使されない。高成長企業としての優位は薄れ、将来の営業利益よりも、保有現金をいかに守るかが株主価値を支える筋書きとなる。
- 商品事業(ワックス・ヘアケア・スキンケア):数量 3,850,000(年間商品出荷換算個数(個、非開示につき推定))× 価格 0.00(同社が実際に受け取る商品1個当たり平均売上(億円/個、卸と直販の混合))→ 売上 55 億円・営業利益 6 億円。年385万個、価格1430円、値引きと販促により商品利益率10%
- サロンフランチャイズ事業:数量 380,000(加盟サロンの年間来店客数(人/年、会社公表の概数))× 価格 0.00(1来店当たりの当社FC受取換算額(億円/来店、ロイヤルティー等合算))→ 売上 4 億円・営業利益 1 億円。来店38万人で横ばい、加盟店支援費で利益率20%
倍率:税引後利息0.728億円を除く事業純利益4.322億円、k7.25%に対する単純な稼ぐ力の上限は約59.6億円。余剰現金52億円の回収可能価値26億円を加えた上限約85.6億円以下となる、事業純利益PER10.8倍を使用。これは競争悪化で利益が成長しない筋書きの価値であり、過去の市場倍率からは置かない。
確率:2026年に販売増と利益減が同時に起きており、販路が拡大しても利益率が戻らない危険は現実的であるため25%とする。
悲観 10% ブランドの優位喪失と低採算化 利益 0 億円 · PBR 0.9 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 1,259 円33 億円
若い消費者の嗜好が大きく変わり、主力ワックスの棚を競合に奪われる。ジェルやスキンケアの新商品も以前のブランド力を回復できず、商品の年間出荷は230万個まで減る。低価格帯への依存が強まり、メーカー受取単価は物価上昇より低い水準に落ちる。広告費と開発費を削りきれず、商品事業の営業利益率は2%しか残らない。
サロン加盟店でも美容師の離職と品質低下が重なり、来店は25万人へ減る。店舗の縮小に伴う契約整理費や不採算商品の在庫評価損を負担し、事業は存続してもブランドの優位を失う。2030年売上条件は満たさず、新株予約権による希薄化は起こらない。株主還元もほぼなく、利益の将来成長ではなく現在の現預金と換金できる資産が価値の支えになる。ただし現金を失う高値の買収が別途起きれば、この資産の床さえ薄まる。
- 商品事業(ワックス・ヘアケア・スキンケア):数量 2,300,000(年間商品出荷換算個数(個、非開示につき推定))× 価格 0.00(同社が実際に受け取る商品1個当たり平均売上(億円/個、卸と直販の混合))→ 売上 27 億円・営業利益 1 億円。年230万個、受取1180円で価格競争に敗れ、利益率2%
- サロンフランチャイズ事業:数量 250,000(加盟サロンの年間来店客数(人/年、会社公表の概数))× 価格 0.00(1来店当たりの当社FC受取換算額(億円/来店、ロイヤルティー等合算))→ 売上 2 億円・営業利益 0 億円。加盟店来店25万人に減り、換算受取700円、利益率5%
倍率:悲観時の価値は2036年に積み上がる自己資本50億円ではなく、添付factsの直近2025年8月期の自己資本36.2億円を基準にした資産の床から決める。床のPBR0.90倍を現在の自己資本36.2億円に掛けると32.58億円となり、純現金と換金可能資産から算出した保守的な床32.50億円をわずかに上回る。将来の自己資本50億円にPBRを掛けて価値を膨らませない。事業の純利益は0.43億円まで落ち込み、利益還元による企業価値より売却可能資産の価値が大きいため、資産の床を採用する。ブランド価値や将来のれんは床に加えない。
確率:大型競合への恒久的な棚の流出、主力カテゴリーの流行変化、販促の費用対効果悪化が重なる構造的敗北を10%とする。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
商品事業(ワックス・ヘアケア・スキンケア)
男性向けスタイリング剤を中核とする実物商品の製造委託・企画・販売。量販店やドラッグストアへの卸売と電子商取引で稼ぐ。
| 数量年間商品出荷換算個数(個、非開示につき推定) | 価格同社が実際に受け取る商品1個当たり平均売上(億円/個、卸と直販の混合) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/08 | 3,569,167 | 0.00 | 43 | 5 |
| 10 年後 中立 | 4,700,000 | 0.00 | 74 | 10 |
取り方:会社の2026年8月期決算説明資料で商品売上42.83億円、営業利益5.48億円、販路は店頭67.2%・電子商取引29.8%・サロン2.9%。商品個数と自社受取単価は開示されていない。ワックスやシャンプーの一般消費者価格に対する卸値引きと、直販の受取が混在することから、平均実現単価1200円を仮定して年間約357万個に逆算した。単価は公表実績ではない。店頭約1万8300店で商品が採用され、ワックスの2025年国内ブランド別シェア16.4%との開示により販売基盤を確認した。
サロンフランチャイズ事業
「LIPPS hair」加盟店からのロイヤルティーやブランド・教育・運営支援による収入。実際の散髪代金を全額計上する事業ではない。
| 数量加盟サロンの年間来店客数(人/年、会社公表の概数) | 価格1来店当たりの当社FC受取換算額(億円/来店、ロイヤルティー等合算) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/08 | 380,000 | 0.00 | 4 | 1 |
| 10 年後 中立 | 450,000 | 0.00 | 6 | 2 |
取り方:会社の2026年4月1日付事業紹介でLIPPS hairの年間来店人数を約38万人、美容師336人と公表。2026年8月期のフランチャイズ事業の売上3.82億円と営業利益1.28億円を用い、売上÷38万来店=1来店当たり約1005円と換算した。公表された施術単価や契約ロイヤルティー率ではなく、年度のずれもある概算である。サロン市場全体の売上を会社の売上と同一視しない。
リスクと懸念
広告投資と増分利益の低下
2026年8月期は商品売上が伸びた一方、広告宣伝費は約6.36億円と前年から大幅に増え、営業利益は約3割減った。新規顧客を取り続けるのに広告費が恒常的に必要なら、売上100億円へ近づいてもROICは上がらない。短期の売上額より、広告費率と新商品の発売後のリピート率を見続ける必要がある。
男性ヘアワックスの競争と棚の喪失
国内ワックスのブランド別シェア16.4%は強みだが、首位は37.0%であり、店頭の競合にはマンダム、ファイントゥデイ、サロン専売品もある。小売店は商品の入れ替えに大きな制約がなく、棚の削減は出荷数量を直撃する。低価格帯の商品を増やすほど、平均単価の上昇が物価に追いつかない危険もある。
若年人口減とヘアスタイルの流行
主な利用層となる若年男性人口は長期に減る見込みであり、購入個数の増加には浸透率と顧客単価の改善が必要だ。ワックスの人気がジェルやバームへ移れば既存商品の優位は弱まり、新商品に広告費と開発費がかかる。ブランドは残っても、売れ筋の入れ替えに失敗すると高い利益率は保てない。
サロン加盟店の人材確保と品質
実物の商品を売るだけでは再現できない技術や流行の源泉が、加盟店の美容師にある。しかし採用難、技能教育の負担、加盟店間の品質差は来店客とブランドへの信頼を損なう。全サロン市場が横ばいの中で加盟店数と来店客数を増やし続けるには、加盟店側が利益を出せる契約条件も欠かせない。
大株主支配と余剰現金の使途
現金同等物と定期預金を合わせた資金が厚いのに無配が続くことは、株主にとって無視できない。上位10人の株式保有割合も高く、少数株主が還元方針を動かす力は弱い。利益率の低い商品や高値の買収に現金を使えば、貸借対照表に映る資産がそのまま株主価値になるとは限らない。
売上目標型の新株予約権による希薄化
2030年の売上目標60億円、80億円、100億円の達成度に応じ、経営陣などに最大17万5000株の新株予約権が行使可能となる。現行株式数に対して最大約6.76%であり、既存株主の取り分が薄まる。行使代金は会社に入るものの、営業利益や資本効率ではなく売上だけが条件であるため、採算を伴わない拡大が誘発される可能性がある。
AIエージェント代替の限定的な波及
サロンに付随する教育資料の作成、顧客対応、広告制作やSNSの運用はAIエージェントで自動化され得る。ただし収益の約92%は物理的な化粧品であり、残りも美容師が来店客に施術する加盟店の売上に結びつく。独立した人月受託・業務SaaS・広告運用手数料を主力にしていないため、事業数量そのものが一律に縮小する型には当たらない。
今後の分かれ目
- 国内ワックスのブランド別シェアが16.4%から20%以上へ拡大し、棚の採用店数も増え続けたら
- 商品数量とリピートによる長期売上を上方修正し、やや楽観の比重を増やす。ただし広告費を除いた増分利益の改善も条件にする。
- 売上比広告宣伝費が12%以下に低下し、商品事業の営業利益率が16%以上で定着したら
- 販売棚と商品の指名買いによる堀が強まった証拠となる。中立の利益率と将来のオーナー利益を引き上げる。
- 2030年までに売上100億円を達成しても、営業利益率が10%を下回ったら
- 成長のために利益を犠牲にしていると判断し、楽観側の利益を減らす。新株予約権は全数行使の希薄化を維持する。
- サロン来店数が年間38万人を割り込み、加盟店の撤退が続いたら
- フランチャイズ収入だけでなく美容師を起点とする商品ブランドの強みも再評価し、やや悲観側へ確率を移す。
- 余剰資金に対する明確な配当性向または自社株買いの金額目標が導入され、実行されたら
- 現金の株主への戻り方を0.5から0.75または1.0へ再評価し、事業の利益見通しと切り離して価値を更新する。
- 低価格商品の比率が急上昇し、販売個数は増えてもメーカーの平均受取単価が下がり続けたら
- 量の増加と値段の下落を別々に検証し、商品事業の中立売上と営業利益率を下方修正する。
見ておくもの
- ワックスのブランド別国内シェア16.4%からの変化と競合首位37.0%との差
- ヘアワックス取扱店1万8300店とシャンプー取扱店1万2000店の増減
- 商品事業の売上、広告費の絶対額と対売上比率、営業利益率
- 電子商取引比率と新商品投入後の販売個数・リピート率の開示
- LIPPS hair年間来店約38万人、加盟店数、美容師数、加盟店解約
- 2030年売上60億・80億・100億円の各段階と新株予約権行使数
- 現金同等物と定期預金の合計、配当政策、自社株買い・M&Aの開示
倍率と資本コストの決め方
今の株価1421円は価値の逆算には使わず、売上は商品出荷換算個数と会社受取単価、FCは年間来店人数と当社への受取換算額から見通した。2026年10月15日公表の最新2026年8月期実績を起点にしたため、添付のbriefにある旧2025年8月期数値とは期が異なる。長期の物価3%は単価にのみ反映し、数量には掛けていない。事業の利益には税引後の金利を加え、評価倍率からは余剰現金の税引後1.4%を除いた。PERは現在・過去・同業の市場倍率ではなく、k7.25%、長期g2.5%、事業ROEと超過利益の持続率50%から求めた。余剰現金の回収率を50%とし、2030年の売上目標に連動する新株予約権の希薄化と行使払込金を筋書き別に区分した。悲観のPBR0.90倍は2036年の自己資本50億円ではなく、検査に使われる添付factsの現在自己資本36.2億円に掛けた。36.2億円×0.90=32.58億円であり、悲観の時価総額32.58億円と一致し、売れる資産の税後の床32.50億円を下回らない。株式時価総額約36.8億円との比較は全ての筋書きを固めた最後に行った。
資本コスト 7.2% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。