結論
KHネオケムは、エアコンの潤滑油の原料と化粧品の原料で稼ぐ化学会社である。
この二つの機能性材料が売上の半分、営業利益の9割を生む。半導体向けの高純度溶剤は売上の1割で、残りは溶剤・可塑剤原料のオキソ系製品だ。筆者の結論は、堀は強くないが値段に見合う追い風があり、ほぼ適正というものである。
割り引く理由は三つある。稼ぎの柱が一つの用途に偏っていること。大口の顧客が少数であること。売上の4割を占める基礎化学品が、ほとんど利益を生んでいないことだ。
エアコンの世界台数は年5%近く増える見通しで、低温暖化の冷媒に合う冷凍機油の原料は世界最大級の能力を持つ。追い風は本物である。ただ、この追い風は他社も見ており、堀は強いとまでは言えない。
株主には、物言う株主のストラテジックキャピタルが18%超を持つ。基礎化学品の切り離しと配当性向100%を求めている。実現すれば利益の質は上がるが、会社の取り分は薄れる。
10年後の中立の営業利益は今の2倍強で、時価総額は還元を別にして約2,000億円と見る。確率を重ねた価値は今を1割弱上回る。ただ悲観側の厚みもあり、余裕は大きくない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社の本質は「エアコンの世界的な普及を、冷凍機油の原料で受け取る商売」である。
株主のものになる利益は、営業利益の7割弱。設備投資は年40億円前後と、減価償却の範囲に収まり、利益が丸ごと残る形に近い。借金も軽い。この点は評価できる。
ただ、10年持ち続けたい会社かと問われると、迷う。理由は、堀が一つの用途に寄りかかっていることだ。冷媒の規格が変われば、原料の需要が一変する。顧客も数社に偏る。
安全域は十分とは言えない。基礎化学品は赤字寸前で、不況になれば足を引っ張る。物言う株主が進める切り離しが実現すれば、評価は変わる。今は、その実現を前提には置けない。
経営者が資本をどう配分するかは、これから試される。還元を厚くする方針は歓迎だが、戦略投資枠の135億円が買収に回る時、価格に規律があるかを見たい。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの中心は機能性材料で、売上566億円・営業利益109億円。
主力はイソノナン酸で、エアコン室外機の冷凍機油の原料に使う。エアコンの冷媒が環境配慮型に替わると、油も専用品が要る。会社はこの原料で世界最大の生産能力と物流拠点を持つ。化粧品に使うブチレングリコールも、ここに入る。
電子材料は売上123億円・営業利益27億円。半導体と液晶の製造で洗浄・塗布に使う高純度の溶剤(PM-PやPMA-P)が中身だ。不純物を極限まで減らす品質管理が価値で、先端半導体向けが伸びている。
基礎化学品は売上454億円だが、営業利益は9億円しかない。ブタノール、オクタノール、イソノニルアルコール、酢酸ブチルといったオキソ系製品で、塗料の溶剤や塩ビ可塑剤の原料になる。国内有数のオキソメーカーだが、市況と輸入品に左右される。
販売先は偏る。出光興産が売上の17.5%、ミヤコ化学が9.9%を占める。冷凍機油を作る顧客に依存する構図で、顧客の動きが利益に直結する。
地域では日本と東アジアの販売が中心で、冷凍機油の顧客はエアコンメーカー向けの潤滑油を作る会社だ。自社の千葉・四日市の工場で作り、原料の調達から製品の物流までを自前で持つのが、この会社の取り組み方である。
優良さと弱いところ
優良な部分と、そうでない部分がはっきり分かれる会社である。
優れているのは機能性材料だ。営業利益率は19%と、化学の中では高い。イソノナン酸は量産できる会社が限られ、冷凍機油メーカーは品質の確認に時間をかけるので、乗り換えにくい。電子材料も、純度の管理を認められた相手とは長く取引が続く。
弱いのは基礎化学品である。営業利益率は2%で、オクタノールなどは原料と製品の差で食べる商売だ。国内の可塑剤需要は人口減で細り、中国や中東の増産が値段を押さえる。筆者は、ここを持ち続ける意味が薄いと見ている。
資本の効率は並みだ。直近のROEは11%台で、過去10年の中央値は15%。借金は少なく、純有利子負債は営業利益1年分ほど。
経営は、第5次中期経営計画で配当性向を40%に上げ、DOE(株主資本配当率)4%以上を掲げた。ただ、単一製品への偏りと顧客の少なさは、堀が強くはないことを示す。強い堀とは言えず、普通の堀と見る。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
需要を引っ張るのはエアコンである。
世界のエアコン台数は2024年の約1.4億台から2030年に1.9億台へ、年5%で伸びる見通しだ。新興国の暑さ対策と、環境規制による冷媒の入れ替えが重なる。冷凍機油は冷媒に合わせて設計し直すため、替わり目には専用の原料が売れる。
競争は静かだが、油断はできない。冷凍機油の原料は寡占に近いものの、中国のメーカーが追いかけている。冷媒が炭化水素系などに替われば、使う油の種類が変わり、この会社の原料の出番が減る恐れもある。
半導体材料は別の景気で動く。高純度溶剤の市場は半導体の投資とともに、年6〜8%程度の拡大が業界の見通しだ。AI向けの先端工場が増えるほど追い風になるが、半導体は2〜4年で山と谷を作る産業で、数量は波を打つ。
基礎化学品は縮む市場だ。国内の溶剤・可塑剤は成熟し、輸入品との競争が強まる。ここは数量が減り、値上げで補う構図が続く。
同業は大手化学会社の一部門が多く、この会社のように用途を絞った小粒の専業は少ない。それが強みでもあり、需要の波を自力でかぶる弱みでもある。
資本政策と M&A
資本政策の焦点は、物言う株主の動きである。
ストラテジックキャピタルは2026年9月時点で18.24%を持つ。提案は、借金を活用して株主資本を圧縮すること、基礎化学品の譲渡や休廃止、そして還元を配当性向100%に上げることだ。会社側の正式な回答は、確かめられていない。
会社はすでに動いている。第5次中計では3年間の営業キャッシュフロー480億円のうち、165億円を株主還元に、135億円を買収や構造改革などの戦略投資に充てる。2025年は自社株買い上限50億円も設けた。
TOBの可能性もゼロではない。大株主が2割近くに迫り、時価総額は1,200億円と小さい。ただ、買収の動きは確認できていない。
筆者は、基礎化学品の切り離しが価値を上げると見る。売上は4割減るが、利益はほとんど減らない。稼ぎを機能性材料に絞れば、資本の効率が上がる。ただ、化学品の売却先と価格が決まるまでは、確率に織り込み過ぎない。
還元の点検(P3 2026-10-19):第5次中計の還元165億円/3年(利益の約7割)+自社株買い。中立の還元は約64%で整合。直さず。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
エアコンの世界台数は年5%近く伸び、冷媒の入れ替えで専用の冷凍機油の需要が増える。この会社はイソノナン酸の世界最大の能力と物流拠点を持ち、増設も進めている。機能性材料の営業利益率は19%と高く、数量が4割増えれば利益は大きく伸びる。
電子材料も、先端半導体向けの高純度溶剤で量が伸びる。AI向けの工場が増える今、純度の管理で認められた会社の取引は長く続く。次世代の光学レンズ材料や生分解性樹脂も、芽が出れば上積みになる。
さらに、物言う株主が基礎化学品の切り離しを求めている。売上の4割を占めながら利益は1割に届かない事業が外れれば、全体の利益率は一気に上がる。還元も厚くなる。中計の目標、営業利益165億円は、会社予想の135億円から見て、手が届く範囲だ。
足元の予想でも、営業利益は2025年の112億円から2026年は135億円へ増える計画で、原料の増設も回り出している。
さらにこの会社は借金が軽く、買収で規模を足す余力もある。需要の追い風と財務の余裕が重なる点が、他の小粒の化学会社と違う。
慎重な見方
稼ぎの9割を握る機能性材料は、一つの用途に寄りかかっている。冷媒が炭化水素系などに替われば、イソノナン酸の出番が減る。中国のメーカーが追いつけば、世界最大の能力は値下げ競争の材料になる。顧客は出光興産など少数で、一社の動きが全体に響く。
電子材料は売上の1割に過ぎず、半導体材料の景気の波をかぶる。中国の高純度溶剤の台頭で値段も守れない。
基礎化学品は、切り離せるとは限らない。買い手が付かなければ、休廃止で費用が出る。しかも、物言う株主の言う借金の活用や配当性向100%は、会社の成長投資の余力を削る。小粒の化学会社に高い倍率は付かない。構造改革が実現しても、稼ぐ力が上がるのは先の話だ。
電子材料の高純度溶剤は、顧客の認証に年単位かかる一方、一度外れると取り戻せない。基礎化学品の損失が続けば、機能性材料の稼ぎを食う。
買収の余力があっても、小粒の会社の大型買収は失敗しやすい。冷凍機油の原料に次ぐ柱が育たないまま、時間だけが過ぎる恐れがある。
どちらに重みを置いたか
冷凍機油原料の追い風は強いが、堀が一つの用途と少数の顧客に支えられている点で、慎重な見方がやや優勢だ。基礎化学品の切り離しは価値を上げる材料だが、実現の時期と価格が不確かで、確率には半分ほどしか織り込めない。
そこで中立を最大にしつつ、やや悲観と悲観の合計を35%に置いた。強気の筋書きは合計32%に留め、中立の倍率は式の上限の8.5割にした。
10 年後の 5 つの筋書き(2035/12 期)
確率で加重した株価時価総額 6,781 円2,384 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,968 円692 億円)。 今の値に割り戻すと 4,551 円1,600 億円、今との差 +36.7%、 期待の年率 +10.1%(資本コスト 7.8%)→ 割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 12,831 円4,511 億円 | 2,805 円986 億円 | +369.5% | +16.7% | 1,564 円550 億円 |
| やや楽観 | 22% | 10,490 円3,688 億円 | 2,532 円890 億円 | +291.0% | +14.6% | 2,865 円1,007 億円 |
| 中立 | 33% | 7,438 円2,615 億円 | 2,148 円755 億円 | +187.8% | +11.2% | 3,163 円1,112 億円 |
| やや悲観 | 23% | 2,734 円961 億円 | 1,516 円533 億円 | +27.6% | +2.5% | 978 円344 億円 |
| 悲観 | 12% | 892 円314 億円 | 606 円213 億円 | −55.0% | −7.7% | 180 円63 億円 |
| 加重平均 | 100% | 6,781 円2,384 億円 | 1,968 円692 億円 | +162.7% | +10.1% | 8,749 円3,076 億円 |
今の株価時価総額 3,330 円1,171 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.8% を下回るほど割高。
楽観 10% 冷凍機油原料と高純度溶剤がそろって伸びる 利益 242 億円 · PER 18.7 倍 · 株価時価総額 12,831 円4,511 億円
エアコンの世界台数が年5%で伸び続け、低GWP冷媒向けの冷凍機油が増え、この会社の原料も数量・値段とも上向く筋書き。電子材料は先端半導体向けの高純度溶剤が広がり、量は6割強増える。基礎化学品は物価並みの値上げが通り、赤字を脱する。全社の営業利益は今の3.5倍前後。強い堀ではないので、倍率は式の上限の下に置く。電子材料の営業利益率も26%まで上がる。物言う株主の求める基礎化学品の整理も進み、全体の利益の質が上がる。結果として、営業利益率は全社で今の10%から11%台へ上がり、還元は10年で1,000億円を超える。
- 機能性材料(冷凍機油原料・化粧品原料):数量 18.1(販売数量(万トン、推定))× 価格 73(1トンあたり平均単価(万円、名目))→ 売上 1,315 億円・営業利益 289 億円。営業利益率22.0%
- 電子材料(高純度溶剤):数量 8.0(販売数量(万トン、推定))× 価格 36(1トンあたり平均単価(万円、名目))→ 売上 293 億円・営業利益 76 億円。営業利益率26.0%
- 基礎化学品(オキソ系溶剤・可塑剤原料):数量 36.0(販売数量(万トン、推定))× 価格 18(1トンあたり平均単価(万円、名目))→ 売上 635 億円・営業利益 32 億円。営業利益率5.0%
- その他:数量 1.0(売上(億円、実質))× 価格 9.74(物価指数)→ 売上 10 億円・営業利益 2 億円。営業利益率18.0%
倍率:事業の純利益 242 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 19.7% が k 7.80% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 13.8%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 18.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 18.7 倍。全体の PER 18.67 倍、時価総額 4,511 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:10年の間、空調需要の追い風と先端半導体の投資が途切れず、同時に基礎化学品も落ち込まない必要がある。三つがそろう確率は低い。
やや楽観 22% 空調の追い風が続き電子材料も定着 利益 205 億円 · PER 18.0 倍 · 株価時価総額 10,490 円3,688 億円
エアコン需要の拡大で冷凍機油原料の数量は5割強伸び、価格は物価並みを少し上回る。化粧品原料も高価格品が育つ。電子材料は半導体材料の市場成長にほぼ連れて伸びる。基礎化学品は構造改革で薄いながら黒字を保つ。営業利益は今の3倍弱になり、中期計画の165億円は通過点になる。物言う株主の提案も一部が実現し、還元が厚くなる。ただ、中国勢の追い上げで値段の上昇は物価並み止まりとなる。電子材料は高い利益率を保ち、全社の営業利益率は11%台に乗る。新規事業の光学レンズ材料は小さな上積みにとどまる。基礎化学品の縮小は進み、売上に占める割合は3割に下がる。
- 機能性材料(冷凍機油原料・化粧品原料):数量 17.5(販売数量(万トン、推定))× 価格 69(1トンあたり平均単価(万円、名目))→ 売上 1,213 億円・営業利益 255 億円。営業利益率21.0%
- 電子材料(高純度溶剤):数量 7.7(販売数量(万トン、推定))× 価格 35(1トンあたり平均単価(万円、名目))→ 売上 266 億円・営業利益 65 億円。営業利益率24.5%
- 基礎化学品(オキソ系溶剤・可塑剤原料):数量 35.3(販売数量(万トン、推定))× 価格 17(1トンあたり平均単価(万円、名目))→ 売上 605 億円・営業利益 24 億円。営業利益率4.0%
- その他:数量 1.0(売上(億円、実質))× 価格 9.74(物価指数)→ 売上 10 億円・営業利益 2 億円。営業利益率18.0%
倍率:事業の純利益 205 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 17.5% が k 7.80% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 12.6%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 18.0 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 18.0 倍。全体の PER 17.99 倍、時価総額 3,688 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:空調と半導体の両方が業界の上位見通しに近い道を進む想定。実現すれば大きいが、基礎化学品が足を引っ張る年もあるので中立より低く置く。
中立 33% 空調の数量が伸び、基礎化学品は薄利で残る 利益 156 億円 · PER 16.7 倍 · 株価時価総額 7,438 円2,615 億円
筆者の見立ては、稼ぎの柱である冷凍機油原料が数量で4割伸び、価格は物価並みという落ち着いた道。エアコンの台数は年5%近く増えるが、この会社は能力増設の速さに縛られ、需要の全部は取れない。電子材料は半導体材料の伸びから物価の分を除いた実質で量が増える。基礎化学品は国内需要の細りで量が減り、薄い黒字に留まる。営業利益は今の2.2倍で、中期計画の先を同じ勢いで伸ばした姿になる。還元は純利益の6割台半ばを続ける。物言う株主の提案は部分的に取り入れられ、基礎化学品は縮小の途上にある。冷媒の規格変更のような構造の転換は起きない前提だ。
- 機能性材料(冷凍機油原料・化粧品原料):数量 15.8(販売数量(万トン、推定))× 価格 67(1トンあたり平均単価(万円、名目))→ 売上 1,064 億円・営業利益 207 億円。営業利益率19.5%
- 電子材料(高純度溶剤):数量 6.6(販売数量(万トン、推定))× 価格 34(1トンあたり平均単価(万円、名目))→ 売上 222 億円・営業利益 49 億円。営業利益率22.0%
- 基礎化学品(オキソ系溶剤・可塑剤原料):数量 34.2(販売数量(万トン、推定))× 価格 17(1トンあたり平均単価(万円、名目))→ 売上 578 億円・営業利益 17 億円。営業利益率3.0%
- その他:数量 1.0(売上(億円、実質))× 価格 9.74(物価指数)→ 売上 10 億円・営業利益 2 億円。営業利益率18.0%
倍率:事業の純利益 156 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 14.2% が k 7.80% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 11.0%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.7 倍。全体の PER 16.74 倍、時価総額 2,615 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:冷凍機油原料と電子材料の伸びは業界の見通しの中心で、基礎化学品の細りは国内需要の人口減から。確率の最大は中立に置く。
やや悲観 23% 空調原料の伸びが鈍り、基礎化学品が重荷になる 利益 74 億円 · PER 13.0 倍 · 株価時価総額 2,734 円961 億円
冷凍機油原料は新しい競合の参入と冷媒の切り替えで数量の伸びが1割強に留まり、価格も物価に届かない。電子材料は顧客の内製化と中国の高純度溶剤の台頭で伸びが鈍る。基礎化学品は安い輸入に押され、量が減って利益がほぼ消える。営業利益は今とほぼ同じ名目額で、実質では細る。還元は利益の7割まで上げて株主の不満を抑えるが、成長投資は削られる。物言う株主との対立は長引き、構造改革の成果は出にくい。景気の谷では基礎化学品の赤字が全体の利益を削る。全社の営業利益率は今の10%から8%近くへ下がり、中計の目標には届かない。
- 機能性材料(冷凍機油原料・化粧品原料):数量 13.0(販売数量(万トン、推定))× 価格 63(1トンあたり平均単価(万円、名目))→ 売上 815 億円・営業利益 122 億円。営業利益率15.0%
- 電子材料(高純度溶剤):数量 5.1(販売数量(万トン、推定))× 価格 31(1トンあたり平均単価(万円、名目))→ 売上 161 億円・営業利益 27 億円。営業利益率17.0%
- 基礎化学品(オキソ系溶剤・可塑剤原料):数量 30.6(販売数量(万トン、推定))× 価格 16(1トンあたり平均単価(万円、名目))→ 売上 482 億円・営業利益 5 億円。営業利益率1.0%
- その他:数量 1.0(売上(億円、実質))× 価格 9.74(物価指数)→ 売上 10 億円・営業利益 2 億円。営業利益率18.0%
倍率:ROE8〜9%でkとほぼ同じ。この水準ではためた利益の価値は簿価とほぼ等しいので、PERは1÷kの12倍に置く。(2026-10-22 の式の直しで機械で置き直し、今は PER 12.99 倍・時価総額 961 億円。上の倍率は置き直す前の値)
確率:顧客が少数で、製品が一つの用途に偏る会社では、一部の崩れが全体の利益に響く。基礎化学品の赤字の長期化もありうるので、確率を重めに置く。
悲観 12% 冷凍機油の需要が構造的に細り、基礎化学品を畳む 利益 6 億円 · PBR 0.5 倍 · 株価時価総額 892 円314 億円
エアコン用冷凍機油の主流が替わる(冷媒の転換で別の原料が選ばれる)うえ、中国勢が安いイソノナン酸を出し、数量・価格とも落ちる。電子材料も伸びず、基礎化学品は赤字で一部を休止・売却する。営業利益はほぼ消え、事業は工場と土地の価値で測られる。還元は配当を維持するため利益を超えるが、自己資本は今の水準にとどまる。ここでは、会社は残るが、優良な化学会社ではなくなっている。大口顧客の調達が分散され、数量と価格の両方で押される。全社の営業利益率はほぼゼロとなり、会社は事業の整理を迫られる。配当は株主の不満を抑えるため維持される。
- 機能性材料(冷凍機油原料・化粧品原料):数量 9.0(販売数量(万トン、推定))× 価格 55(1トンあたり平均単価(万円、名目))→ 売上 499 億円・営業利益 45 億円。営業利益率9.0%
- 電子材料(高純度溶剤):数量 4.9(販売数量(万トン、推定))× 価格 28(1トンあたり平均単価(万円、名目))→ 売上 135 億円・営業利益 14 億円。営業利益率10.0%
- 基礎化学品(オキソ系溶剤・可塑剤原料):数量 25.2(販売数量(万トン、推定))× 価格 14(1トンあたり平均単価(万円、名目))→ 売上 365 億円・営業利益 −7 億円。営業利益率-2.0%
- その他:数量 1.0(売上(億円、実質))× 価格 8.72(物価指数)→ 売上 9 億円・営業利益 1 億円。営業利益率10.0%
倍率:稼ぐ力(事業の純利益÷k)は小さいので、今の自己資本に0.45倍を掛けた工場・土地・運転資本の価値を床にする。EV÷営業利益は利益がほぼ消えるため意味を持たず、純有利子負債約100億円は床の評価額に織り込み済み。
確率:一つの用途への偏りという構造的な弱さが現れた筋書き。可能性は低いが、起これば損失は深い。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
機能性材料(冷凍機油原料・化粧品原料)
エアコン用冷凍機油の原料イソノナン酸と、化粧品に使うブチレングリコール、オクチル酸などを扱う、全社の稼ぎ頭。
| 数量販売数量(万トン、推定) | 価格1トンあたり平均単価(万円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 11.3 | 50 | 567 | 109 |
| 10 年後 中立 | 15.8 | 67 | 1,064 | 207 |
取り方:開示は金額のみで、数量は推定。イソノナン酸・化粧品原料の平均単価を1トン約50万円と置き、売上566.9億円から逆に数量を出した。
電子材料(高純度溶剤)
半導体・液晶の製造工程で使う高純度の溶剤(PM-P、PMA-P)。先端半導体向けが成長の柱。
| 数量販売数量(万トン、推定) | 価格1トンあたり平均単価(万円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 4.9 | 25 | 123 | 27 |
| 10 年後 中立 | 6.6 | 34 | 222 | 49 |
取り方:開示は金額のみ。高純度溶剤の平均単価を1トン約25万円と置いて数量を推定した。市場規模×シェアの開示はなく、業界の見通し(名目年 6〜8%)は、物価の分(10 年で 1.34 倍)で割った実質にして数量の伸びに使った。
基礎化学品(オキソ系溶剤・可塑剤原料)
ブタノール、オクタノール、イソノニルアルコール、酢酸ブチルなど。塗料や塩ビの可塑剤の原料で、市況に左右される。
| 数量販売数量(万トン、推定) | 価格1トンあたり平均単価(万円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 36.0 | 13 | 454 | 9 |
| 10 年後 中立 | 34.2 | 17 | 578 | 17 |
取り方:開示は金額のみ。オキソ系製品の平均単価を1トン約12.6万円と置き、売上454億円から数量を推定した。
その他
上記に入らない小さな事業。
| 数量売上(億円、実質) | 価格物価指数 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 1.0 | 7.27 | 7 | 1 |
| 10 年後 中立 | 1.0 | 9.74 | 10 | 2 |
取り方:小さな事業で、数量は1、価格欄に売上を置いた。
リスクと懸念
冷媒の規格変更で原料の出番が減る
稼ぎの9割は冷凍機油原料と化粧品原料に偏る。エアコンの冷媒が炭化水素系などに替われば、使う油の種類が変わり、イソノナン酸の需要が落ちる恐れがある。規格は規制次第で、会社が動かせない。
顧客が少数に偏る
出光興産が売上の17.5%、ミヤコ化学が9.9%を占める。冷凍機油メーカーの調達方針が変われば、数量と値段の両方に響く。顧客が原料の自給を進める可能性もある。
中国メーカーの追い上げ
イソノナン酸や高純度溶剤で、中国のメーカーが能力を増やしている。世界最大の能力は、値下げ競争になれば重荷になる。電子材料では、国内の半導体工場の調達が内製化へ動く恐れもある。
基礎化学品の赤字化と切り離しの難しさ
売上の4割を占めるが、営業利益は9億円で、前期は半減した。市況が崩れれば赤字になる。物言う株主は譲渡・休廃止を求めるが、買い手が付かなければ休廃止の費用が出る。
半導体投資の波
電子材料は半導体の設備投資に連動する。2〜4年で山と谷が来る産業で、谷の年は数量も単価も落ちる。売上の1割だが、先端向けの成長の期待は大きい。
物言う株主との対立と成長投資の制約
配当性向100%や借金の活用を迫られると、成長投資の余力が減る。経営陣との対立が長引けば、経営の力が分散する。一方で、会社が譲歩しすぎれば長期の競争力を損なう。
買収の失敗
戦略投資枠は3年で135億円。小粒の会社にとって大きな額で、価格の規律が緩めば、稼ぐ力を落とす買収になる。次世代の光学レンズ材料や生分解性樹脂は、まだ事業の実績がない。
今後の分かれ目
- 会社が基礎化学品の譲渡・縮小を正式に決めたら
- 事業の稼ぐ力が機能性材料に絞られ、利益の質が上がる。中立の確率を上げ、やや悲観の確率を下げてよい。ただし売却の価格が低ければ効果は小さい。
- エアコンの冷媒の主流が炭化水素系へ移り、冷凍機油の設計が変わったら
- イソノナン酸の需要の見通しが崩れる。悲観の確率を引き上げる。
- 中国メーカーが日本のエアコン向け冷凍機油原料で認証を取ったら
- 価格の押し下げ圧力が強まる。機能性材料の利益率は19%から下がる前提で、やや悲観に寄せる。
- 出光興産など主要顧客が調達先を分散したら
- 数量の見通しが下がる。顧客の集中の度合いが変わるので、中立の数量の伸びを引き下げる。
- 会社が配当性向100%に近い還元へ踏み切ったら
- 自己資本の積み上がりが減りROEが上がるが、利益の伸びは変わらない。本質価値は還元分が早く戻る分だけ小さく動く。
- 買収が発表されたら
- 価格と相手の稼ぐ力を見る。戦略投資枠は小粒の会社には大きく、高値づかみなら価値を損なう。
見ておくもの
- 冷凍機油用イソノナン酸の増設の進み具合と稼働率
- エアコンの世界出荷台数と冷媒規制の動き
- 機能性材料の営業利益率(19%台を保てるか)
- 基礎化学品の赤字・黒字と、譲渡・休廃止の報道
- ストラテジックキャピタルの保有割合と提案への会社の回答
- 半導体の設備投資(WFE)の山と谷、高純度溶剤の数量
倍率と資本コストの決め方
倍率は式から置いた。k7.8%(基本7.5%+quality0.8%)、g4%、RONIC=k+1/2×(ROE−k)で、中立の式の値は約15倍。その約8.5割(約12.7倍)を中立に置いた。今の株価や同業の倍率は使っていない。数量は実質、価格は物価並み(10年1.34倍)を中立の基本とし、基礎化学品は国内需要の細りで量を落とした。10年後の数字は今と同じ形(家賃・リースの影響が小さい形)で置いた。新リース会計基準でBSの形は変わるが、リース債務は1億円強と小さく価値は動かない。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 14.42→18.67 倍・やや楽観 PER 13.6→17.99 倍・中立 PER 12.72→16.74 倍・やや悲観 PER 12.05→12.99 倍)。
資本コスト 7.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本7.5%にquality+0.8%を加えた。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.30% → 7.80%。