結論
ステラケミファは、半導体の回路を削る超高純度のフッ酸を主力とする化学メーカーだ。売上の約 6 割がこの薬液で、残りは原子力向けのホウ酸、歯磨き用の添加剤、グループ内の物流事業が占める。国内では首位格で、10 年先も事業が残ることは疑わない。筆者の結論は、今の値段は 10 年先の価値とほぼ釣り合う、というものだ。
強みは、フッ酸がシリコン酸化膜を削れる唯一の薬液で、半導体が増えれば必ず要ることにある。弱みは、出荷量が 5 年ほぼ横ばいで、売上の伸びを支えたのが原料高の転嫁だったことだ。工場の稼働はまだ 7 割ほどで、AI 向けのメモリ投資が本格化すれば利益は大きく動く。ただ韓国や中国は自国で薬液を作る力をつけており、シェアを守り切れる保証はない。
資本の使い方は評価が割れる。自己資本比率は 75% と厚く現金も多いのに、ROE は資本コストに届かない。大株主にはダルトンなど物言う株主が並び、会社は総還元性向 100% 以上を掲げて応じている。中立の筋書きでは 10 年後の純利益は今の 1.8 倍、時価総額は約 700 億円になる。楽観と悲観の重みがほぼ等しく、割安とも割高とも言い切れない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、まず「この会社の稼ぎのうち、本当に株主の手元に残る分はいくらか」を問う。2026 年 3 月期の純利益は 31 億円だが、設備投資は減価償却を大きく上回る 42 億円で、出資も 36 億円ある。自由に配れる利益は純利益よりずっと小さく、見かけの ROE は実力より甘い。
事業の質は悪くない。フッ酸は代わりのない薬液で、10 年後も半導体の工場で使われている。ただ、堀が広がっているとまでは言えない。出荷量は 5 年動かず、利益率も 10% 前後で足踏みしてきた。一時の需要で稼ぐのでなく、どの局面でも一定のシェアを守れる会社かが問われる。
経営は、現金を貯め込まず返す姿勢に変わりつつある。物言う株主が前に出た結果とはいえ、方向は正しい。気になるのは、同時に新工場への投資と持ち合い型の出資を進めることだ。投資の回収が見えるまで、筆者は慎重に見る。
値段の安全域は、今は薄い。強気と慎重のどちらの筋書きにも根拠があり、確率を大きく傾ける材料は見つからない。わかりにくい部分が多い会社には、安全域を厚く求めたい。今の値段はその厚さをくれていない。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの中心は、半導体の製造工程で使うエッチング・洗浄用のフッ酸系薬液だ。2026 年 3 月期の売上は 368 億円で、うち半導体向けが 222 億円と全体の 6 割を占める。ウエハーの表面の酸化膜を溶かす工程に使われ、不純物は 1 兆分の 1 以下まで落とす。純度の等級は 9N から 12N までそろえ、微細化が進むほど高い等級が要る。
製造能力は年 10.5 万トンで、大阪府堺市の三宝工場が 6.5 万トン、北九州工場が 3 万トン、シンガポールが 1 万トンだ。実際の出荷は 7.4 万トンで、稼働は約 7 割にとどまる。出荷先は日本・韓国・台湾・シンガポールが中心で、高純度薬品の売上の 56% が海外だ。原料の蛍石と硫酸からフッ化水素をつくる川上から、充填と輸送まで自社で持つ。
半導体以外にも柱がある。原子力発電所の炉水に溶かす濃縮ホウ酸は、国内で初めて量産に成功した品だ。歯磨き用のフッ化スズは米国の食品医薬品局の工場査察を終え、欧米向けを伸ばしている。タンタルコンデンサー向けの助剤、工業用フッ酸、仕入れて売る商品も合わせて 100 億円弱ある。
もう一つの柱が物流の子会社ブルーエキスプレスで、売上 49 億円、営業利益は 10 億円ある。化学品を運ぶタンクコンテナ 652 基などを持ち、薬液の輸送を支える。営業利益は全社の 2 割強を稼ぐが、利益率が高く出る理由は開示だけでは確かめきれない。
優良さと弱いところ
堀は、顧客の工場に合わせた品質管理と、複数の拠点から切らさず届ける体制にある。薬液は工場の歩留まりに直結するので、半導体メーカーは一度認めた供給元を簡単には替えない。超高純度の等級を安定して作れる国内の会社は限られ、森田化学工業とダイキン工業が競合に挙がる。世界シェアは 5〜8 割という推定が出回るが、会社の開示はなく、筆者は数字を使わない。
値決め力は中くらいだ。2026 年 3 月期は原料高を価格に転嫁して利益が増えた。だが中国から輸入するフッ化水素酸の値段はこの 4 年で 4 割近く上がり、転嫁が後追いになる構図は変わらない。営業利益率は 9% から 14% の間を行き来してきた。化学材料としては並の水準だ。
財務は堅い。自己資本比率は 75%、現預金 148 億円に対し有利子負債は 57 億円で、利払いに困る心配はない。一方で ROE は 6% 台で、資本コストの 7〜8% に届かない。分厚い貸借対照表が収益性を押し下げている。
経営の弱点は、会社自身が認める依存の大きさだ。売上の 6 割が半導体で、特定の国や取引先への偏りを減らすことを課題に挙げている。新規事業の売上目標も 2030 年代半ばで 50〜100 億円と小さく、本業の外に第二の柱が育つのは遠い話だ。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
半導体材料は、投資の山と谷を繰り返しながら長い目では伸びる市場だ。業界全体は年 6〜8% の拡大が見込まれ、AI 向けのメモリと先端ロジックが牽引する。会社の資料によれば、マイクロンが広島・米国・シンガポールで工場を建て、キオクシアも 2028 年度まで年 4,700 億円規模の投資を計画する。TSMC の熊本第 2 工場やラピダスも立ち上がる。本格的な需要の拡大は 2027 年度の後半以降と、会社は見る。
ただ、この会社の出荷量は 5 年前と同じ水準だ。2022 年 3 月期の 7.5 万トンが 2026 年 3 月期は 7.4 万トンで、その間に 2023〜24 年のメモリ不況で 6.5 万トンまで落ちた。市場が伸びても、自社の量が自動的に伸びるわけではない。
最大の変化は韓国だ。日本が 2019 年に輸出規制をかけて以降、韓国は薬液の国産化を進めた。ステラも韓国の合弁を解消し、販売を日本・台湾・欧米に振り向けている。韓国の同業ソウルブレインとは資本提携に至り、競争相手を味方に取り込む形になった。中国でも国産化が進み、汎用から中位の品でシェアを削られる恐れが続く。
競争の軸は二つある。一つは、微細化で上がる純度の要求に応える技術だ。もう一つは、顧客の新工場の近くで供給できる拠点網で、米国や台湾に新しい生産拠点を持てるかが分かれ目になる。会社は新工場を検討中と述べるが、場所と時期は決まっていない。
資本政策と M&A
資本政策は「厚い貸借対照表を削る」方向に動いている。第 4 次中計は 3 年累計で総還元性向 100% 以上を掲げ、配当に下限を設けた。2026 年 3 月期は創業 110 周年の記念配当を足し、8 月には最大 19 億円の自社株買いを決めて 10 月に終えた。自己資本比率の目標は 50〜60% で、今の 75% からかなり下がる。
目を引くのは、2026 年 2 月に結んだ韓国ソウルブレインとの資本業務提携だ。同社に自己株式を約 3% 渡し、見返りにソウルブレイン株を約 1.7% 買った。どちらも約 21 億円で、実質は株の持ち合いである。あわせて、重要な発注先であるフッ素樹脂ライニング会社サンフロロシステムに、約 15 億円でファンド経由の間接出資も決めた。
筆者は、この種の出資に慎重だ。提携の相手は競合でもあり、狙いどおりの協業になるかは読めない。出資した額はまだ連結の純利益に何も足していない。
株主の顔ぶれも変わった。ダルトン・インベストメンツが約 14%、不動産会社の FUKADA とその共同保有者が約 15% を持ち、筆頭株主は FUKADA になった。基準日の定款変更を求める株主提案は取締役会が反対したが、還元と資本効率を巡る圧力は強い。買収の動きは開示に出ていない。
10年の還元は、中計の総還元性向100%以上より薄い9割弱で置いた。純利益を超えないので、余った現金は別に足してよい。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
AI がメモリの需要を一段押し上げ、フッ酸の使用量は工場の増設に比例して増える。顧客のメモリ大手が米国・広島・シンガポールで新工場を立ち上げる 2027 年後半から、薬液の出荷量が伸びはじめる。同社の工場は稼働 7 割で、10 万トンの能力に余裕がある。固定費はすでに回収済みなので、増える売上の多くが利益に回る。
値段の面でも追い風が吹く。原料高の転嫁が定着し、選択エッチング液のように値付けしやすい機能性の薬液が加わる。シンガポールの拠点に加え、米国や台湾に新しい生産拠点を持てば、北米の売上が上積みされる。ソウルブレインとの提携で、韓国の取引も守れる。
株主の側にも追い風がある。総還元性向 100% 以上と自己資本比率 50〜60% の目標が守られれば、純利益が伸びる一方で自己資本は膨らまず、ROE は 10% 台に上がる。物言う株主が 3 割近くを握る中、資本の無駄遣いは許されない。電池の被覆材や細胞培養容器などの新規事業が芽を出せば、利益の底上げも見込める。会社は 2030 年代半ばに新規事業で 50〜100 億円の売上を描き、全固体電池向けの被覆材は 2030 年ごろの製品化をめざす。小さな種でも、本業の循環をならす役には立つ。
慎重な見方
出荷量が 5 年動かなかった事実がすべてを語る。市場全体が育っても、シェアは顧客の工場の近くで作る競合に取られる。韓国は自国生産へ切り替え、ステラは合弁を畳んだ。中国も汎用から中位の品でキャッチアップしている。米国や台湾の新工場を作らなければ需要を取れず、作れば投資が重く、稼働が上がらなければ減価償却だけが残る。
半導体は循環産業だ。メモリは過去にも 2〜3 年周期で需要が 3〜4 割落ちた。今の投資ブームが一巡して在庫調整に入れば、稼働は 7 割から 5 割台に下がりうる。原料のフッ化水素酸は中国の価格に連動し、値上げの転嫁は後追いになる。
資本の使い方も不安だ。ROE は資本コストを下回り、それでも新工場、ソウルブレインへの出資、サンフロロシステムへの出資を並べる。出資は純利益に何も足していない。物言う株主が入った会社は、短期の還元に引っぱられて成長投資を絞り、長期の競争力を損ねやすい。10 年のうちに半導体の需要が落ち込めば、今の値段は割高だったことになる。しかも売上の 4 割は半導体以外で、その多くは利益率の低い仕入商品と一般製品、物流だ。本業が崩れたときの受け皿としては力が弱い。
どちらに重みを置いたか
両方の言い分に根拠があり、確率は大きく傾けなかった。楽観・やや楽観を合わせて 32%、やや悲観・悲観を合わせて 35% とし、悲観側をわずかに厚くした。理由は、強気を支える投資計画は顧客の意思次第で、同社の出荷量が 5 年動かなかった事実は動かないからだ。一方で、フッ酸という代わりのない薬液と、国内首位格の立場、投資計画の上方修正という追い風も軽くない。中立が最も重く、値段が適正圏に収まる結果になった。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 7,577 円916 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 3,165 円383 億円)。 今の値に割り戻すと 5,771 円698 億円、今との差 +23.6%、 期待の年率 +8.7%(資本コスト 7.8%)→ やや割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 16,680 円2,017 億円 | 4,382 円530 億円 | +351.0% | +16.3% | 2,106 円255 億円 |
| やや楽観 | 22% | 11,614 円1,405 億円 | 4,010 円485 億円 | +234.6% | +12.8% | 3,437 円416 億円 |
| 中立 | 33% | 7,789 円942 億円 | 3,307 円400 億円 | +137.6% | +9.0% | 3,662 円443 億円 |
| やや悲観 | 23% | 2,916 円353 億円 | 2,456 円297 億円 | +15.0% | +1.4% | 1,236 円149 億円 |
| 悲観 | 12% | 939 円114 億円 | 1,571 円190 億円 | −46.2% | −6.0% | 301 円36 億円 |
| 加重平均 | 100% | 7,577 円916 億円 | 3,165 円383 億円 | +130.0% | +8.7% | 10,742 円1,299 億円 |
今の株価時価総額 4,670 円565 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.8% を下回るほど割高。
楽観 10% 楽観:AI メモリ投資が続き、北米・台湾の新拠点も成功 利益 105 億円 · PER 18.7 倍 · 株価時価総額 16,680 円2,017 億円
メモリ大手の新工場が 2027 年後半から次々に立ち上がり、ステラの出荷量は 10 年で 1.7 倍の 12.5 万トンに増える。米国か台湾に新しい生産拠点を持ち、能力はこれに合わせて広げる。
値段も物価を上回る。選択エッチング液のような機能性の薬液が加わり、1 トンあたりの売上は 1.5 倍に上がる。半導体の営業利益率は 19% まで上がる。固定費を薄める効果と、品揃えの高度化が重なる結果だ。
濃縮ホウ酸は海外の原子力施設向けが伸び、電池の被覆材、細胞培養容器、有機フッ素化合物も売上に育つ。会社が掲げる 2030 年代半ばの新規事業 50〜100 億円が、上限近くまで届く姿だ。その他の売上は 2.7 倍に増える。物流は薬液の輸送量に連動して伸びる。
全体の営業利益は 155 億円で今の 3.3 倍になる。還元は純利益の 8 割にとどめ、残りは新工場に回す。ソウルブレインとの提携は韓国の取引を守る役目を果たす。
- 半導体用高純度薬液(高純度フッ化水素酸・バッファードフッ酸):数量 125(半導体用高純度フッ酸系薬液の出荷量(千 t、実質))× 価格 4.57(出荷 1 千 t あたりの売上(億円/千 t、名目。仕入れ原料の価格転嫁と機能性薬液の構成を含む))→ 売上 574 億円・営業利益 109 億円。数量 1.70 倍・価格 1.52 倍、営業利益率 19.0%
- その他の高純度薬品(濃縮ホウ酸・フッ化スズ・電子材料・工業用フッ酸・仕入商品):数量 26.0(販売量(千 t、推定。品目ごとの重さは未開示のため平均単価から逆算))× 価格 9.80(1 千 t あたりの売上(億円/千 t、名目。平均 70 万円/t と置いた推定))→ 売上 254 億円・営業利益 31 億円。数量 1.90 倍・価格 1.40 倍、営業利益率 12.0%
- 運輸事業(ブルーエキスプレス):数量 110(運送取扱量(千件、推定。1 件の平均を 6 万円と置いた))× 価格 0.84(1 千件あたりの売上(億円/千件、名目))→ 売上 92 億円・営業利益 19 億円。数量 1.35 倍・価格 1.40 倍、営業利益率 20.0%
倍率:事業の純利益 105 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 19.1% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 13.4%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 18.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 18.7 倍 + 余った現金(戻り方込み)60 億円。全体の PER 18.72 倍、時価総額 2,017 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:AI 向けメモリ投資が 10 年たっても続き、同社が北米で顧客を獲得する筋書きは、顧客の投資計画の上方修正が裏づけるが、同社の出荷量が 5 年動かなかった事実があり、確率は 10% にとどめた。
やや楽観 22% やや楽観:投資ブームが続き、稼働が上がって利益率が伸びる 利益 77 億円 · PER 17.6 倍 · 株価時価総額 11,614 円1,405 億円
メモリ投資は循環しながら高い水準を保ち、出荷量は 10 年で 1.5 倍の 10.9 万トンに増える。工場の稼働は 9 割台に上がり、能力の増設が要る。北米と台湾の売上が少しずつ積み上がる。
価格は物価を少し上回り、1 トンあたり 1.4 倍になる。半導体の営業利益率は 17% に上がる。固定費が薄まり、原料の転嫁も定着するからだ。
ホウ酸とフッ化スズは海外向けが伸び、新規事業も一部が売上に届く。その他の売上は 2.2 倍になる。物流も薬液の増加に合わせて 1.7 倍に伸びる。
営業利益は 114 億円で今の 2.5 倍になる。還元は純利益の 9 割弱を続け、自己資本は 540 億円に収まる。
- 半導体用高純度薬液(高純度フッ化水素酸・バッファードフッ酸):数量 109(半導体用高純度フッ酸系薬液の出荷量(千 t、実質))× 価格 4.27(出荷 1 千 t あたりの売上(億円/千 t、名目。仕入れ原料の価格転嫁と機能性薬液の構成を含む))→ 売上 467 億円・営業利益 79 億円。数量 1.48 倍・価格 1.42 倍、営業利益率 17.0%
- その他の高純度薬品(濃縮ホウ酸・フッ化スズ・電子材料・工業用フッ酸・仕入商品):数量 21.9(販売量(千 t、推定。品目ごとの重さは未開示のため平均単価から逆算))× 価格 9.59(1 千 t あたりの売上(億円/千 t、名目。平均 70 万円/t と置いた推定))→ 売上 210 億円・営業利益 22 億円。数量 1.60 倍・価格 1.37 倍、営業利益率 10.5%
- 運輸事業(ブルーエキスプレス):数量 99.4(運送取扱量(千件、推定。1 件の平均を 6 万円と置いた))× 価格 0.82(1 千件あたりの売上(億円/千件、名目))→ 売上 82 億円・営業利益 16 億円。数量 1.22 倍・価格 1.37 倍、営業利益率 19.0%
倍率:事業の純利益 76 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 15.8% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 11.8%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 17.6 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 17.6 倍 + 余った現金(戻り方込み)60 億円。全体の PER 17.61 倍、時価総額 1,405 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:メモリの投資は山谷を作りながら高い水準が続き、同社が米国・台湾の需要を一部取るという、楽観の手前の筋書きの確率を 22% とした。顧客の投資計画の上方修正に根拠がある。
中立 33% 中立:出荷量は 3 割増、価格は物価並み、稼働が上がり利益率が 15% に 利益 57 億円 · PER 15.8 倍 · 株価時価総額 7,789 円942 億円
出荷量は 10 年で 3 割増え、9.6 万トンになる。会社が見込む 2028 年 3 月期の 9 万トンに近く、年率 2.7% 増だ。能力は 10.5 万トンなので、10 年のうちに新しい生産拠点が要る。価格は物価並みの 1.34 倍で、半導体の売上は 387 億円になる。
半導体の営業利益率は 14% から 15% に上がる。稼働が 7 割から 9 割強に上がり、固定費が薄まる。ただ新工場の償却がその分を食う。
ホウ酸・フッ化スズ・電池材料の新規事業は一部が実り、その他の売上は 173 億円に伸びる。物流の売上は 75 億円で、利益率は 21% から 18% に下がる。人件費が運賃に追いつかないためだ。
営業利益は 86 億円で今の 1.8 倍になり、純利益は 57 億円になる。10 年の還元は 400 億円で、純利益の 9 割弱を返す。
- 半導体用高純度薬液(高純度フッ化水素酸・バッファードフッ酸):数量 95.9(半導体用高純度フッ酸系薬液の出荷量(千 t、実質))× 価格 4.03(出荷 1 千 t あたりの売上(億円/千 t、名目。仕入れ原料の価格転嫁と機能性薬液の構成を含む))→ 売上 387 億円・営業利益 58 億円。数量 1.30 倍・価格 1.34 倍、営業利益率 15.0%
- その他の高純度薬品(濃縮ホウ酸・フッ化スズ・電子材料・工業用フッ酸・仕入商品):数量 18.4(販売量(千 t、推定。品目ごとの重さは未開示のため平均単価から逆算))× 価格 9.38(1 千 t あたりの売上(億円/千 t、名目。平均 70 万円/t と置いた推定))→ 売上 173 億円・営業利益 16 億円。数量 1.35 倍・価格 1.34 倍、営業利益率 9.0%
- 運輸事業(ブルーエキスプレス):数量 93.7(運送取扱量(千件、推定。1 件の平均を 6 万円と置いた))× 価格 0.80(1 千件あたりの売上(億円/千件、名目))→ 売上 75 億円・営業利益 14 億円。数量 1.15 倍・価格 1.34 倍、営業利益率 18.0%
倍率:事業の純利益 56 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.9% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.8%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.8 倍 + 余った現金(戻り方込み)60 億円。全体の PER 15.82 倍、時価総額 942 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:半導体材料市場が年 6% 台で伸び、同社が国内のシェアを守りつつ海外を少しずつ増やす筋書きを中立とした。強気と慎重の言い分が拮抗するので、最も重い 33% とした。
やや悲観 23% やや悲観:メモリの調整と内製化で稼働が上がらない 利益 31 億円 · PER 10.0 倍 · 株価時価総額 2,916 円353 億円
メモリの投資が一巡して在庫調整が長引き、韓国と中国の内製化も進んで、出荷量は 10 年で 1.05 倍の 7.7 万トンにとどまる。新しい生産拠点は作れないか、作っても稼働が上がらない。
価格は物価を下回る 1.25 倍で、顧客の値下げ要求に押される。半導体の営業利益率は 11% に落ち、売上は 291 億円で今より 3 割多いだけだ。
ホウ酸や電池材料の新規事業は芽が出ず、その他の売上は 1.4 倍にとどまる。物流の運賃は人件費に追いつかず、利益率が 15% に下がる。
営業利益は 48 億円と今とほぼ同じで、純利益は 31 億円。還元は純利益の 9 割を維持するが、自己資本は 510 億円に積み上がる。
- 半導体用高純度薬液(高純度フッ化水素酸・バッファードフッ酸):数量 77.5(半導体用高純度フッ酸系薬液の出荷量(千 t、実質))× 価格 3.76(出荷 1 千 t あたりの売上(億円/千 t、名目。仕入れ原料の価格転嫁と機能性薬液の構成を含む))→ 売上 291 億円・営業利益 32 億円。数量 1.05 倍・価格 1.25 倍、営業利益率 11.0%
- その他の高純度薬品(濃縮ホウ酸・フッ化スズ・電子材料・工業用フッ酸・仕入商品):数量 15.0(販売量(千 t、推定。品目ごとの重さは未開示のため平均単価から逆算))× 価格 8.75(1 千 t あたりの売上(億円/千 t、名目。平均 70 万円/t と置いた推定))→ 売上 132 億円・営業利益 8 億円。数量 1.10 倍・価格 1.25 倍、営業利益率 6.0%
- 運輸事業(ブルーエキスプレス):数量 81.5(運送取扱量(千件、推定。1 件の平均を 6 万円と置いた))× 価格 0.75(1 千件あたりの売上(億円/千件、名目))→ 売上 61 億円・営業利益 9 億円。数量 1.00 倍・価格 1.25 倍、営業利益率 15.0%
倍率:ROE 6.6% が k 7.75% を下回り、ためた利益は額面より低い価値になる。PER の上限は 1÷k の 12.1 倍で、実際は ROE÷k に近い PBR(0.7 倍)を採り、事業の純利益に 10 倍を掛けた。余った現金は谷で食うとみて 0.75 倍の 45 億円。
確率:出荷量が 5 年動かなかった事実と、韓国・中国の内製化、ROE が資本コストを下回る現状を重く見て、23% と中立に近い重みを置いた。
悲観 12% 悲観:韓国・中国の内製化で量を失い、投資が裏目に 利益 12 億円 · PER 7.2 倍 · 株価時価総額 939 円114 億円
韓国と台湾の顧客が地元の薬液に切り替え、中国も汎用から中位の品を押さえて、出荷量は 10 年で 0.85 倍の 6.3 万トンに縮む。米国や台湾の新拠点は失敗し、約 40 億円の減損が出る。
価格は 1.1 倍にとどまり、物価に追いつかない。半導体の営業利益率は 7% に落ち、売上は 208 億円で今より少ない。
その他の事業も新規品が育たず、ホウ酸の大口案件も細る。物流は荷量が 15% 減って利益率が 10% に下がる。営業利益は 20 億円まで落ち込む。
純利益は 12 億円になる。物言う株主の圧力で還元は 190 億円を続けるが、自己資本は減損で 450 億円に減る。
- 半導体用高純度薬液(高純度フッ化水素酸・バッファードフッ酸):数量 62.7(半導体用高純度フッ酸系薬液の出荷量(千 t、実質))× 価格 3.31(出荷 1 千 t あたりの売上(億円/千 t、名目。仕入れ原料の価格転嫁と機能性薬液の構成を含む))→ 売上 208 億円・営業利益 15 億円。数量 0.85 倍・価格 1.10 倍、営業利益率 7.0%
- その他の高純度薬品(濃縮ホウ酸・フッ化スズ・電子材料・工業用フッ酸・仕入商品):数量 13.0(販売量(千 t、推定。品目ごとの重さは未開示のため平均単価から逆算))× 価格 8.05(1 千 t あたりの売上(億円/千 t、名目。平均 70 万円/t と置いた推定))→ 売上 105 億円・営業利益 3 億円。数量 0.95 倍・価格 1.15 倍、営業利益率 3.0%
- 運輸事業(ブルーエキスプレス):数量 69.3(運送取扱量(千件、推定。1 件の平均を 6 万円と置いた))× 価格 0.69(1 千件あたりの売上(億円/千件、名目))→ 売上 48 億円・営業利益 5 億円。数量 0.85 倍・価格 1.15 倍、営業利益率 10.0%
倍率:ROE 2.8% は k を大きく下回り、PER の上限は 1÷k の 12.1 倍だが、床の資産で値が付く筋書き。床は純現金と売れる資産の税後 113 億円(floor_assets_oku)で、事業の純利益に 7.2 倍を掛けた分に、谷で食うとみた余った現金(0.5 倍の 30 億円)を足した水準がこの床とほぼ等しい。やや悲観の PER 11.2 倍を超えない。
確率:構造的な負けは 12% とした。内製化の進展と、顧客の投資が止まる循環の谷が重なる筋書きで、純現金と売れる資産が床になる。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
半導体用高純度薬液(高純度フッ化水素酸・バッファードフッ酸)
半導体のシリコン酸化膜のエッチング・洗浄に使う超高純度のフッ酸系薬液。売上の約 7 割で、利益の中核。
| 数量半導体用高純度フッ酸系薬液の出荷量(千 t、実質) | 価格出荷 1 千 t あたりの売上(億円/千 t、名目。仕入れ原料の価格転嫁と機能性薬液の構成を含む) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 73.8 | 3.01 | 222 | 30 |
| 10 年後 中立 | 95.9 | 4.03 | 387 | 58 |
取り方:2026 年 3 月期の半導体向け売上 222 億円(会社開示)を、高純度フッ酸の出荷量 7.38 万トン(会社開示)で割り、1 千トンあたり約 3.0 億円を価格とした。数量は実質のトン数で、物価では増えない。価格は物価 3% 並みに上がるのを中立とし、原料の転嫁と機能性薬液への構成変化で上下する。営業利益は高純度薬品全体の 35.9 億円を、半導体 30 億円・その他 5.9 億円に推定で分けた(品目別の利益は未開示)。
その他の高純度薬品(濃縮ホウ酸・フッ化スズ・電子材料・工業用フッ酸・仕入商品)
原子力向けの濃縮ホウ酸、歯磨き添加剤のフッ化スズ、タンタル製造助剤、工業用フッ酸、仕入商品の販売の集まり。電池材料など新規事業の芽もここに入る。
| 数量販売量(千 t、推定。品目ごとの重さは未開示のため平均単価から逆算) | 価格1 千 t あたりの売上(億円/千 t、名目。平均 70 万円/t と置いた推定) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 13.7 | 7.00 | 96 | 6 |
| 10 年後 中立 | 18.4 | 9.38 | 173 | 16 |
取り方:エネルギー 11.4 億円・電子材料 11.9 億円・一般製品 31.8 億円・工業用フッ酸 8.2 億円・仕入商品 32.6 億円の合計 95.6 億円。品目の重さは開示がなく、平均を 1 トンあたり 70 万円と置いて販売量を約 13.7 千トンと推定した。数量はホウ酸・フッ化スズ・電池材料などの新規品で伸び、価格は物価並みを基本とする。営業利益 5.9 億円は高純度薬品の利益から半導体分を引いた残りの推定。
運輸事業(ブルーエキスプレス)
高純度薬品の ISO タンクコンテナ輸送・通関・倉庫を担う子会社の物流事業。グループ内外の荷主から取扱いを請け負う。
| 数量運送取扱量(千件、推定。1 件の平均を 6 万円と置いた) | 価格1 千件あたりの売上(億円/千件、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 81.5 | 0.60 | 49 | 10 |
| 10 年後 中立 | 93.7 | 0.80 | 75 | 14 |
取り方:ブルーエキスプレスの売上 48.9 億円・営業利益 10.45 億円(会社開示)。取扱いの件数は開示がなく、1 件あたり 6 万円と置いて約 8.2 万件と推定した。数量は薬液の出荷とタンクコンテナの需要に連動し、価格は運賃改定で物価並みに上がるとみる。営業利益率が 21% と高いのは、グループ内取引を含む可能性があり、割り引いて見る。
リスクと懸念
韓国・中国の内製化によるシェア低下
日本が 2019 年に輸出規制をかけて以降、韓国は高純度薬液の国産化を進めた。ステラも韓国の合弁を畳み、販売先を組み替えた。中国でも国産化が進めば、汎用から中位の品でシェアを削られる。出荷量が 5 年横ばいなのは、その表れの可能性がある。ソウルブレインとの提携は、この流れを逆に取り込む手でもあるが、守りになるとは限らない。
半導体投資の循環と顧客への偏り
メモリは過去に 2〜3 年周期で投資が 3〜4 割落ちた。売上の 6 割が半導体で、2024 年 3 月期は出荷量が 1 割落ちた。会社は特定の国と取引先への偏りを課題とし、販売の多角化を急ぐ。だが販売先を組み替える間は、新しい顧客の認定に時間がかかり、稼働が落ちる期が出る。
原料高と転嫁の遅れ
原料のフッ化水素酸は中国の輸入価格が 4 年で 4 割近く上がった。転嫁は後追いで、遅れた期は利益率が落ちる。蛍石から作るフッ化水素は調達先の分散を進めているが、新しい調達先の品質確認にも手間がかかる。会社は中東情勢の影響を予想に織り込んでおらず、長引けば業績に響くと注記している。
新工場と出資の回収
米国・台湾などの新しい生産拠点を検討中で、設備投資は年 46 億円の計画だ。ソウルブレインとの持ち合いや筆頭株主の交代など、資本の動きも重なる。稼働が上がらず、約 36 億円の出資も利益に結びつかなければ、ROE はさらに低くなる。出資は提携先との関係が深まる利点もあるが、数字で回収を測りにくい。
物流事業の利益の持続性
営業利益の 2 割強を稼ぐ物流の利益率は 21% と高い。グループ内取引を含む可能性があり、外部の荷主だけで見れば低い恐れがある。運転手の人件費の上昇が運賃改定に追いつかなければ、利益が細る。人手が足りなくなれば、荷主から請けられる量にも天井がかかる。
物言う株主と資本政策の揺れ
ダルトンと FUKADA が約 3 割を握り、基準日を巡る株主提案も出た。還元の圧力が強いまま成長投資を絞れば、長期の競争力を損なう。逆に、取締役会と対立が深まれば、経営が揺れる。社長の交代や大型の資本取引が出るかも読めず、不確実さが増す。
今後の分かれ目
- メモリ大手の米国・広島・シンガポールの新工場が 2027 年後半に予定どおり稼働し、出荷量が 8 万トンを超えたら
- 楽観・やや楽観の確率を上げてよい。稼働が 8 割を超えれば固定費が薄まり、半導体の営業利益率が 14% を上回る道が開ける。
- ステラが米国か台湾に新しい生産拠点を正式に決めたら
- 中立の出荷量の伸びは確からしくなるが、償却が先行する。投資額と顧客の長期契約の有無を見て、利益率の上げ幅を決める。
- 韓国か中国の顧客が国産の薬液に切り替えたと開示されたら
- やや悲観・悲観の確率を上げる。出荷量が 7 万トンを割れば、能力の余剰が広がり、利益率は落ちる。
- 原料のフッ化水素酸が急騰し、転嫁できない期が続いたら
- 半導体の営業利益率の前提を下げる。中立の 15% は届かず、やや悲観に寄る。
- ソウルブレインとの提携から共同の新製品や追加の出資が出たら
- 新規事業の売上が伸びる材料になる。ただ、売上が確認できるまでは楽観に寄せない。
- 物言う株主が増配や自社株買いを重ねて要求し、経営が応じたら
- 自己資本の積み上がりが抑えられ、ROE は上がる。成長投資の絞りすぎに伴う長期の利益の鈍化も確かめる。
見ておくもの
- 高純度フッ酸の四半期の出荷量と国別の出荷割合(海外、とくに台湾・欧米の伸び)
- メモリ大手の新工場の稼働時期と、半導体製造装置の受注
- 米国・台湾など新しい生産拠点の発表と、設備投資額
- 中国から輸入するフッ化水素酸の価格と、転嫁の進み具合
- 大株主の保有比率の変化と、総還元性向(3 年累計 100% 以上)の達成度
倍率と資本コストの決め方
数量は実質のトン数・推定件数で、価格は物価 3% 込みの名目(中立で 10 年 1.34 倍)で置き、利益率は稼働の上昇と新工場の償却のせめぎ合いから出した。倍率は事業の ROE から式で決め、中立は上限の 8 割(一種類の薬液への偏り・循環・内製化を割り引いた)。純現金 88 億円のうち 60 億円は事業に要らないものとして分けて足した。悲観は純現金と売れる資産の税後を床にして測った。今の PER は約 19 倍だが、この倍率には寄せていない。今の値段が倍でも半分でも、本質価値の数字は動かない。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 15→18.72 倍・やや楽観 PER 13.3→17.61 倍・中立 PER 11.4→15.82 倍)。
資本コスト 7.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality +0.75%(循環 +0.5、寿命 +0.25)を足して 8.25%。半導体の投資循環に利益が振れ、売上の 6 割が一種類の薬液に偏る。値決めは原料高の転嫁で守れるので 0、借金は純現金で 0 とした。ガバナンスや投資の失敗の可能性は k に足さず、筋書きの数量・利益率と確率で表した。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.25% → 7.75%。