結論
三洋化成工業は、界面制御の技術を核に約3,000品種の機能化学品を作る会社だ。筆者の結論は割高。本質価値は今の時価総額を4割ほど下回る。
最大の理由は、利益の水準がまだ資本コストに届かないことだ。ROEは過去10年の中央値で5%に届かない。2026年3月期の9.8%は、税の一時的な利益で膨らんだ数字にすぎない。
財務は堅い。純現金は300億円を超え、自己資本比率は8割ある。上場株の持ち合いも200億円ほどある。ただ、この厚い資産は稼ぐ力を高めない。そこは割り引いて見る。
会社の中期経営計画は、営業利益を2030年度に200億円へ引き上げる。前の計画は、中国の安い汎用品に阻まれて遅れた。筆者は、10年後の営業利益を170億円台と置く。途中までは届くが、全部は届かない見方だ。
大株主は豊田通商と東レで、合わせて36%を超える。再編の芽はあるが、確かな材料はなく、確率には大きく織り込んでいない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、まず「10年後も同じ形で稼いでいるか」を問う。特殊品の部分は残るだろう。汎用品の部分は、中国との価格競争で稼ぎの形が変わる。会社全体の利益を、自信を持って10年先まで予想するのは難しい。
株主のものになる利益、つまり再投資を引いた利益は、見かけの純利益より小さい。設備の老朽化が進み、更新に投じる額が重い。自動化への投資も、中計で始まる。
堀は、部分的だ。顧客と共同で作る特殊品には堀があるが、会社全体の資本の稼ぎは、資本コストを下回ってきた。堀が会社全体の利益率を押し上げた形跡は、まだ見えない。
資本の使い方は、損をする事業を切った点を評価できる。一方で、事業に要らない現金と持ち合い株を数百億円抱えたまま、還元は純利益の4分の1だった。経営がオーナーの立場で資本を使ってきたとは言いにくい。
安全域の面では、純現金と上場株が下値を支える。だが、事業の稼ぐ力に払う値段は、今は十分に安くない。持っていたい会社だとは、現時点では言えない。
何で稼ぐ会社か
三洋化成工業は、洗う・混ぜる・溶かす・静電気を防ぐといった「界面」の働きを設計する会社だ。作る品種は約3,000と多い。単独で売上の1割を超える顧客はいない。
売上は5つの区分で開示される。いちばん大きいのは石油・輸送機向けで、売上の4割弱を占める。潤滑油添加剤、ポリウレタンフォームの原料になるポリオール、自動車の内装表皮に使うウレタンビーズが中心だ。次がプラスチック・繊維向けで、樹脂に練り込む永久帯電防止剤が代表格になる。
利益率が高いのは情報・電気電子向けだ。重合トナー用のポリエステルビーズ、アルミ電解コンデンサの電解液、半導体や電子部品の工程で使う薬剤が入る。営業利益率は16%ある。
生活・健康向けは、洗剤やヘアケアの界面活性剤、紙パルプ薬剤、医薬品原料、止血材などだ。ここは長く利益が薄い。高吸水性樹脂(SAP)は紙おむつ向けの大きな柱だったが、2017年度ごろから赤字が続き、2024年3月に撤退を決めた。中国の南通の生産も畳んでいる。撤退の費用は複数年で200億円ほどにのぼる。
2026年度から、区分はコアマテリアル、ウェルネス、ICTの3つに組み替わる。海外は米国のウレタンビーズ、タイのポリオールの合弁、韓国、台湾などに拠点がある。
優良さと弱いところ
強みは、顧客と一緒に配合を作り込む力だ。ウレタンビーズは2000年に自動車の内装表皮へ実用化し、重合トナー用のビーズも2003年から量産している。こうした特殊品は、顧客の工程に組み込まれると簡単には替えられない。ここに堀、つまり他社がまねしにくい強みがある。
弱みは、その堀が会社全体に広がっていないことだ。ポリウレタンフォーム用のポリオールは、海外の安い品の攻勢で厳しい。SAPは構造的に赤字だった。特殊品と汎用品が混ざり、会社全体では値段を自分で決めきれない。
収益力は低い。営業利益率は過去10年でおおむね5〜9%、2024年3月期には3%まで落ちた。ROEは過去10年の中央値で5%に届かず、資本コストを下回り続けてきた。自己資本比率は8割を超え、事業の規模に比べて資本が重すぎる。
経営は、損をする事業を切る決断を2024年にようやくした。遅いが、やり切る意思はある。一方で、前の計画は目標達成が後ろにずれた。計画を守る力は、まだ証明されていない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
同じ機能性化学品の領域では、界面活性剤の世界市場が年4〜6%で伸びると見られている。ただ、この伸びを取るのは化粧品原料や電池材料など、特殊品に強い会社だ。汎用の洗剤原料やポリオールは、中国の過剰な生産能力に押される。
三洋化成の強い領域は大きな市場の中で小さい。潤滑油添加剤は米欧の大手が世界の大半を握り、ポリオールも世界の大手と中国勢が価格を決める。同社が伸ばせるのは、自動車や電子部品の顧客と共同で作る特殊品に限られる。
追い風は電子材料だ。電解液は電気自動車や電源の需要で、半導体の工程で使う薬剤はAI投資で、数量が伸びる。一方、トナー向けは紙の印刷の縮小で細る。中計は、ICTの生産設備に5年で30億円を入れる。
2026年は、中東情勢でナフサが高騰し、原料の転嫁で売上が膨らんでいる。4〜6月期の営業利益は前年の2.8倍に増えた。ただ、これは供給の目詰まりによる一時的な押し上げで、10年の水準にはならない。ナフサが落ち着けば、転嫁した値段も戻る。
医療は小さいが、芽がある。止血材と、京都大学病院と作った人工たんぱく質のシルクエラスチンは、科研製薬と国内の販売契約を結んだ。日経は、医療を軸に2030年度に売上を8割増やす計画だと報じている。
資本政策と M&A
還元の方針は、2026年5月に変わった。2027年3月期から、総還元性向40%以上を目標にし、原則として累進配当を続ける。中計の期間中は、機動的に自社株買いも行う。前の方針は配当性向30%以上だった。
実績は控えめだ。2026年3月期の還元は、純利益の約24%にとどまる。その間に純現金は、3年前の70億円から315億円へ積み上がった。方針の転換は前向きだが、実行を見るまでは判断を保留したい。
持ち合い株は、上場10銘柄で204億円ある。日本触媒が115億円、ENEOSが35億円、東京応化工業が30億円。中計は削減を掲げており、売った資金が自社株買いに回るかが焦点になる。
株主は、豊田通商19.3%、東レ17.2%。ともに「その他の関係会社」で、取引先でもある。この2社の意向が、再編や買収の鍵を握る。取締役会の議長は独立社外取締役が務めている。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
SAPと南通から撤退して、赤字の源が消えた。2026年3月期の営業利益は100億円で前の期の1.2倍、次期の会社予想は130億円、4〜6月期は前年の2.8倍だ。中計は2028年度に140億円、2030年度に200億円を掲げる。
電子材料には追い風がある。電解液は電気自動車と電源の需要で、半導体工程の薬剤はAI投資で伸びる。ICTの営業利益率はすでに16%あり、ここが伸びれば全体の利益率を押し上げる。生産設備には30億円を入れる。
医療は小さいが化ける芽がある。止血材は科研製薬と販売契約を結び、人工たんぱく質は歯科・動物へ広がる計画だ。日経は2030年度に売上8割増と報じた。
財務は余力がある。純現金は315億円、上場株は204億円。総還元性向40%以上と累進配当が決まり、自社株買いも中計に書かれた。資産を使い、還元を厚くすれば、1株あたりの価値は利益の伸び以上に上がる。大株主2社の存在は、再編があれば買収の上乗せにもなる。
慎重な見方
利益が戻ったように見えるのは、一時的な押し上げのせいだ。2026年3月期の純利益156億円は税の一時的な利益を含む。次期予想は90億円に戻る。ナフサ高の転嫁で膨らんだ今期の営業利益も、原料が落ち着けば元に戻る。
過去10年の営業利益は、高い年でも136億円だった。中計の200億円は、その5割増で、前の中計も中国の安い品で遅れたばかりだ。ポリウレタンフォーム用の原料にはすでに海外の安い品が入っており、同じことが他の汎用品にも広がる。
資本の稼ぎが低すぎる。ROEは過去10年の中央値で5%に届かず、資本コストを下回る。自己資本の2割を占める現金と持ち合い株は、利益を生まない。還元方針が変わっても、実績は純利益の24%だった。
医療の「8割増」は、小さな土台からの伸びだ。承認や販売の遅れで、期待どおりの利益になるとは限らない。大株主の豊田通商と東レは、取引先として株を持つ側で、価値を引き出す動機が強いとは言えない。電子材料も、中国メーカーが追う。
どちらに重みを置いたか
慎重な見方が強い。利益の改善は本物だが、中立でも営業利益は170億円台までで、資本コストを超える稼ぎには届かない。資本が事業に比べて重すぎ、ためた現金の価値は半分しか見ていない。
そのため確率は、中立を最大の38%に置きつつ、やや悲観を25%、悲観を12%と、強気側(やや楽観19%、楽観6%)より厚くした。ただし悲観でも、純現金と持ち合い株が下限になるので、確率を過度には寄せていない。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 1,959 円1,733 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 548 円485 億円)。 今の値に割り戻すと 1,359 円1,203 億円、今との差 −17.1%、 期待の年率 +4.3%(資本コスト 7.2%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 6% | 4,067 円3,599 億円 | 1,017 円900 億円 | +210.0% | +12.0% | 305 円270 億円 |
| やや楽観 | 19% | 2,987 円2,643 億円 | 791 円700 億円 | +130.4% | +8.7% | 718 円635 億円 |
| 中立 | 38% | 2,206 円1,952 億円 | 588 円520 億円 | +70.4% | +5.5% | 1,062 円939 億円 |
| やや悲観 | 25% | 976 円864 億円 | 373 円330 億円 | −17.7% | −1.9% | 337 円298 億円 |
| 悲観 | 12% | 540 円478 億円 | 170 円150 億円 | −56.8% | −8.0% | 85 円75 億円 |
| 加重平均 | 100% | 1,959 円1,733 億円 | 548 円485 億円 | +52.9% | +4.3% | 2,507 円2,218 億円 |
今の株価時価総額 1,640 円1,451 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.2% を下回るほど割高。
楽観 6% 楽観:計画どおりに伸び、その先も続く 利益 192 億円 · PER 17.1 倍 · 株価時価総額 4,067 円3,599 億円
中期経営計画どおりに利益が伸び、その先まで続く姿だ。重合トナーの材料と電解液、半導体の工程で使う薬剤が、電子部品の需要に乗って今の倍近くに伸びる。ICTの利益率は20%に届く。
自動車向けでは、潤滑油添加剤とウレタンビーズで高付加価値品の比率が上がる。ポリオールの汎用品は縮めて採算を保つ。止血材とシルクエラスチン、人工たんぱく質は歯科と動物向けにも広がり、ウェルネスは黒字に定着する。
営業利益は270億円台、利益率は12%台。過去の最良期に並ぶ水準だ。上場株の持ち合いは売却して自社株買いに回り、総還元性向は4割を超えて推移する。それでも堀が広がったとまでは言えず、倍率は普通の優良化学会社の水準にとどまる。
- 石油・輸送機産業関連:数量 270(出荷量(千トン・年、推定))× 価格 2.67(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目の単価(添加剤と汎用ポリオールの混合))→ 売上 720 億円・営業利益 90 億円。潤滑油添加剤と高機能ポリオールで採算が上がる、営業利益率 12.5%
- プラスチック・繊維産業関連:数量 95.0(出荷量(千トン・年、推定))× 価格 4.57(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目の単価)→ 売上 434 億円・営業利益 50 億円。中国の安値品に押されず帯電防止剤が伸びる、営業利益率 11.5%
- 情報・電気電子産業関連:数量 75.0(出荷量(千トン・年、推定))× 価格 7.76(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目の単価(電子材料は高単価))→ 売上 582 億円・営業利益 116 億円。電解液と半導体材料が倍近くに伸びる、営業利益率 20.0%
- 生活・健康・環境(界面活性剤ほか):数量 150(出荷量(千トン・年、推定。医療品は金額を重量に換算))× 価格 3.29(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目の単価)→ 売上 493 億円・営業利益 39 億円。止血材・人工たんぱく質で黒字化、営業利益率 8.0%
倍率:事業の純利益 186 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.4% が k 7.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.3%、10 年より先の名目の伸び g 3.7% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 17.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 17.1 倍 + 余った現金(戻り方込み)420 億円。全体の PER 17.08 倍、時価総額 3,599 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:計画どおりに伸びたうえで堀が広がる筋書きは、ICTと医療の両方がそろって当たる必要がある。前の計画が遅れた実績があり、6%にとどめた。
やや楽観 19% やや楽観:計画の 8 割が実現 利益 151 億円 · PER 15.3 倍 · 株価時価総額 2,987 円2,643 億円
計画の8割ほどが実現する姿だ。ICTは電解液と半導体関連で伸び、利益率は18%に上がる。自動車向けは添加剤の伸びで補い、ポリオールは構造改革の効果で赤字を抜ける。
医療は科研製薬と組んだ止血材と創傷材が育つが、全体の利益を動かすほどの大きさにはならない。生活・健康は黒字に戻り、利益率は6%になる。
営業利益は220億円前後。会社の2030年度の目標200億円を、少し遅れて超える。中国の安値品は消えないが、品質と顧客との共同開発の壁で、ある程度はしのげる。還元は総還元性向4割で進み、持ち合い株の売却分が自社株買いに加わる。
- 石油・輸送機産業関連:数量 262(出荷量(千トン・年、推定))× 価格 2.61(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目の単価(添加剤と汎用ポリオールの混合))→ 売上 683 億円・営業利益 79 億円。添加剤が伸び、ポリオールは横ばい、営業利益率 11.5%
- プラスチック・繊維産業関連:数量 90.0(出荷量(千トン・年、推定))× 価格 4.47(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目の単価)→ 売上 402 億円・営業利益 42 億円。機能材が緩やかに伸びる、営業利益率 10.5%
- 情報・電気電子産業関連:数量 66.0(出荷量(千トン・年、推定))× 価格 7.59(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目の単価(電子材料は高単価))→ 売上 501 億円・営業利益 90 億円。電解液・半導体材料が伸びる、営業利益率 18.0%
- 生活・健康・環境(界面活性剤ほか):数量 142(出荷量(千トン・年、推定。医療品は金額を重量に換算))× 価格 3.17(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目の単価)→ 売上 450 億円・営業利益 27 億円。医療が小さく黒字を作る、営業利益率 6.0%
倍率:事業の純利益 145 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.9% が k 7.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.1%、10 年より先の名目の伸び g 3.7% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.3 倍 + 余った現金(戻り方込み)420 億円。全体の PER 15.32 倍、時価総額 2,643 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:計画の8割が実現する筋書き。ICTの伸びと構造改革の効果は見えているので、2割弱とした。
中立 38% 中立:計画に届かないが改善は進む 利益 117 億円 · PER 13.8 倍 · 株価時価総額 2,206 円1,952 億円
改善は進むが、会社の計画にはやや届かない姿だ。SAPと中国の南通から撤退した効果は出る。ポリウレタンフォーム用の原料には安い海外品が入り続け、前の計画と同じ壁にぶつかる。
電子材料は伸びる。電解液と半導体工程の薬剤で、ICTの数量は今の1.4倍を超える。トナーは紙の印刷の縮小で細る。自動車向けは数量が横ばいで、単価は物価並みに上がる。洗剤や紙パルプ向けは成熟した需要で、数量は微増にとどまる。
営業利益は170億円台、利益率は9%台。過去10年の最高は136億円で、それを3割ほど上回る。会社の目標200億円には届かない。総還元性向は4割を少し超える程度で、純現金は引き続き厚い。
- 石油・輸送機産業関連:数量 255(出荷量(千トン・年、推定))× 価格 2.55(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目の単価(添加剤と汎用ポリオールの混合))→ 売上 650 億円・営業利益 68 億円。数量は横ばい圏、単価は物価並み、営業利益率 10.5%
- プラスチック・繊維産業関連:数量 86.0(出荷量(千トン・年、推定))× 価格 4.41(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目の単価)→ 売上 379 億円・営業利益 36 億円。数量は用途の広がりで微増、営業利益率 9.5%
- 情報・電気電子産業関連:数量 58.0(出荷量(千トン・年、推定))× 価格 7.48(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目の単価(電子材料は高単価))→ 売上 434 億円・営業利益 69 億円。電子材料が伸びトナーは縮む、営業利益率 16.0%
- 生活・健康・環境(界面活性剤ほか):数量 135(出荷量(千トン・年、推定。医療品は金額を重量に換算))× 価格 3.10(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目の単価)→ 売上 418 億円・営業利益 17 億円。洗剤原料は成熟、医療はまだ小さい、営業利益率 4.0%
倍率:事業の純利益 111 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 6.8% が k 7.25% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 13.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.8 倍 + 余った現金(戻り方込み)420 億円。全体の PER 13.79 倍、時価総額 1,952 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:同じ領域の見方(特殊品は伸び、汎用品は中国に押される)にそのまま合う筋書き。強気の材料と慎重な材料がほぼ釣り合うので、最大の確率にした。
やや悲観 25% やや悲観:価格競争が構造改革の成果を食う 利益 70 億円 · PER 7.5 倍 · 株価時価総額 976 円864 億円
構造改革の成果を、価格競争が食い潰す姿だ。ポリウレタンフォーム用原料と汎用の添加剤は、中国と東南アジアの安い品に押され続ける。単価が物価に追いつかず、数量も減る。自動車向けの採算は、今より悪くなる。
電子材料は伸びるが、顧客からの値下げ要求が強くなり、利益率は13%に下がる。生活・健康は薄利のまま動かない。医療は承認や販売で遅れ、投資の回収が先に延びる。
営業利益は100億円台前半で、10年たっても今の水準から動かない。計画の目標200億円には遠く、ROEは資本コストに届かない。自社株買いは小さく、積み上がった現金は使い道を探すことになる。会社の価値は、事業の稼ぎより積み上げた資産に近づく。
- 石油・輸送機産業関連:数量 240(出荷量(千トン・年、推定))× 価格 2.47(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目の単価(添加剤と汎用ポリオールの混合))→ 売上 594 億円・営業利益 48 億円。ポリオールの値下がりが続き利益率が下がる、営業利益率 8.0%
- プラスチック・繊維産業関連:数量 78.0(出荷量(千トン・年、推定))× 価格 4.24(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目の単価)→ 売上 331 億円・営業利益 25 億円。汎用の添加剤が中国品に押される、営業利益率 7.5%
- 情報・電気電子産業関連:数量 48.0(出荷量(千トン・年、推定))× 価格 7.20(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目の単価(電子材料は高単価))→ 売上 346 億円・営業利益 45 億円。電解液は伸びるが値下げ圧力、営業利益率 13.0%
- 生活・健康・環境(界面活性剤ほか):数量 125(出荷量(千トン・年、推定。医療品は金額を重量に換算))× 価格 2.98(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目の単価)→ 売上 372 億円・営業利益 4 億円。界面活性剤が薄利のまま、営業利益率 1.0%
倍率:事業の ROE は 4% 前後で k に届かず、PER の上限は 12.1 倍。構造的な負けに近い筋書きなので、上限の 6 割強の 7.5 倍に置いた。稼ぐ力(純利益÷k)より低くなる。余った現金は今の額の 0.75 倍に、戻り方 0.5 を掛けて足した。
確率:前の中期経営計画が中国の安値品で遅れた実績から、この展開は中立に次いで起こりやすいと見て、強気側より厚くした。
悲観 12% 悲観:汎用品が置き換わり、資産だけが下限になる 利益 21 億円 · PBR 0.3 倍 · 株価時価総額 540 円478 億円
安値の海外品に主力の汎用品が置き換わり、優良な化学会社でなくなる姿だ。ポリウレタン原料と界面活性剤は価格だけの競争になり、数量も単価も下がる。
トナー向けのビーズは紙の印刷の縮小に加えて顧客が内製化し、電解液も中国メーカーに主力顧客を奪われる。ICTは利益率が8%まで下がる。医療の育成は続けるが、大きな利益にはならない。
営業利益は30億円台にとどまる。こうなると会社を支えるのは事業ではなく、積み上げた純現金と上場株だ。大株主の豊田通商と東レが動けば、買収を含む再編の話になる。それでも株主の取り分は、資産の価値が下限になる。
- 石油・輸送機産業関連:数量 215(出荷量(千トン・年、推定))× 価格 2.36(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目の単価(添加剤と汎用ポリオールの混合))→ 売上 507 億円・営業利益 20 億円。海外の安値品に押され数量・単価とも落ちる、営業利益率 4.0%
- プラスチック・繊維産業関連:数量 68.0(出荷量(千トン・年、推定))× 価格 4.04(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目の単価)→ 売上 275 億円・営業利益 11 億円。汎用品の主力が置き換わる、営業利益率 4.0%
- 情報・電気電子産業関連:数量 40.0(出荷量(千トン・年、推定))× 価格 7.03(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目の単価(電子材料は高単価))→ 売上 281 億円・営業利益 22 億円。トナーと電解液の主力顧客を失う、営業利益率 8.0%
- 生活・健康・環境(界面活性剤ほか):数量 115(出荷量(千トン・年、推定。医療品は金額を重量に換算))× 価格 2.82(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目の単価)→ 売上 324 億円・営業利益 −6 億円。洗剤原料の赤字が残る、営業利益率 -2.0%
倍率:稼ぐ力(事業の純利益÷k)は約 180 億円、余った現金の戻り分を足しても約 290 億円で、純現金と持ち合い株の税引き後の価値(約 490 億円)を下回る。下限は資産の価値になるので、今の自己資本 1,592 億円に 0.30 倍を掛けた(約 478 億円)。
確率:10年は長く、汎用品の置き換えと主力顧客の喪失が重なれば起こりうる。ただし純現金と上場株が下限を支えるので、さらに厚くはしなかった。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
石油・輸送機産業関連
潤滑油添加剤、ポリウレタンフォーム用ポリオール、自動車内装用ウレタンビーズなど、自動車と石油産業向けの材料。
| 数量出荷量(千トン・年、推定) | 価格1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目の単価(添加剤と汎用ポリオールの混合) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 250 | 1.93 | 483 | 56 |
| 10 年後 中立 | 255 | 2.55 | 650 | 68 |
取り方:有報のセグメント売上 483 億円・営業利益 56 億円。出荷量は開示がないので、潤滑油添加剤(高単価)とポリオール(汎用)の平均単価を 1 千トンあたり 1.9 億円と置き、年 25 万トンと推定した。数量は実質、物価と原料高の転嫁は単価に入れた。
プラスチック・繊維産業関連
永久帯電防止剤、樹脂用の添加剤、繊維用薬剤など、樹脂と繊維の加工に使う機能材。
| 数量出荷量(千トン・年、推定) | 価格1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目の単価 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 80.0 | 3.31 | 265 | 24 |
| 10 年後 中立 | 86.0 | 4.41 | 379 | 36 |
取り方:有報のセグメント売上 265 億円・営業利益 24 億円。1 千トンあたり 3.3 億円の機能材と置いて、年 8 万トンと推定した(開示は金額のみ)。
情報・電気電子産業関連
重合トナー用のポリエステルビーズ、アルミ電解コンデンサ用の電解液、半導体や電子部品の工程で使う薬剤。
| 数量出荷量(千トン・年、推定) | 価格1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目の単価(電子材料は高単価) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 40.0 | 5.63 | 225 | 36 |
| 10 年後 中立 | 58.0 | 7.48 | 434 | 69 |
取り方:有報のセグメント売上 225 億円・営業利益 36 億円。1 千トンあたり 5.6 億円の高単価品と置き、年 4 万トンと推定した。トナー向けは伸びず、電解液と半導体関連が伸びる前提で後の筋書きを置く。
生活・健康・環境(界面活性剤ほか)
洗剤やヘアケア用の界面活性剤、紙パルプ薬剤、医薬品原料、高分子凝集剤、止血材などの医療製品。有報の「生活・健康」と「環境・住設ほか」を合わせた。
| 数量出荷量(千トン・年、推定。医療品は金額を重量に換算) | 価格1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目の単価 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 130 | 2.35 | 305 | −3 |
| 10 年後 中立 | 135 | 3.10 | 418 | 17 |
取り方:有報の「生活・健康」176 億円(営業損失 2 億円)と「環境・住設ほか」129 億円(営業損失 1 億円)を合算。SAP 撤退で前期より大きく減った。1 千トンあたり 2.3 億円と置いて年 13 万トンと推定した。
リスクと懸念
中国の安値品が特殊品にも及ぶ
ポリウレタンフォーム用原料はすでに海外の安い品に押されている。同じ動きが界面活性剤や添加剤の汎用グレードに広がると、数量と単価の両方が落ちる。前の中計が遅れた原因そのものだ。
今の利益は一時的な押し上げを含む
2026年3月期の純利益は税の一時的な利益を含み、今期の営業利益はナフサ高の転嫁で膨らんでいる。原料が落ち着けば、利益が元の水準に戻る可能性が高い。
資本の重さが稼ぎを薄める
自己資本の2割に近い現金と持ち合い株が、ほとんど利益を生んでいない。還元が方針どおりに進まなければ、資本の稼ぎは資本コストを下回り続ける。
自動車向けの需要と電動化
石油・輸送機向けは売上の4割弱を占める。ウレタンビーズや添加剤は自動車の生産と車の構造に左右され、電動化で潤滑油添加剤の需要が細る場面もありうる。
紙の印刷の縮小
重合トナー用のビーズは、紙に印刷する量が減るほど数量が細る。顧客が内製化する、または中国メーカーに切り替える場合は、利益率の高い事業の足元が崩れる。
医療の承認と販売の遅れ
止血材や人工たんぱく質は、承認や保険適用が遅れれば計画の売上に届かない。投資が先行し、当面は利益より費用の方が大きい。
設備の老朽化と災害
名古屋工場と衣浦工場は南海トラフ地震の防災対策強化地域にある。エチレンオキサイドなど火災・爆発のリスクがある設備もあり、事故が起きれば長期の停止と補償が重なる。
今後の分かれ目
- 2027年3月期の営業利益が会社予想の130億円を下回って着地したら
- 押し上げが想像より小さかったことになり、やや悲観の確率を上げる。中計の140億円(2028年度)が遠のく。
- 持ち合い株を売却し、その資金で自社株買いを始めたら
- 余った現金の戻り方を0.5から1.0へ上げてよい。資本の稼ぎが改善し、価値が今より上向く。
- 豊田通商か東レが株を売る、または買い増すと発表したら
- 再編の確度が変わる。買い増しなら買収の上乗せを見込み、売却なら需給の悪化と両社の関心の低下を見る。
- ICTの営業利益率が20%に近づいて定着したら
- 楽観・やや楽観の確率を上げ、電子材料の数量の前提を引き上げる。
- シルクエラスチンの国内承認と保険適用が決まったら
- ウェルネスの黒字化が早まる。医療の売上の前提を上げ、やや楽観の確率を少し上げる。
- ポリオールや界面活性剤の汎用品で、海外の安値品に数量を奪われる動きがさらに広がったら
- やや悲観・悲観側に確率を寄せる。数量と単価の両方の前提を下げる。
見ておくもの
- 四半期ごとの営業利益と、ナフサなど原料価格の動き
- 中計2028年度の営業利益140億円・ROE 6.5%の達成度
- 持ち合い株の売却と自社株買いの実行
- ICT(電解液・半導体向け)の営業利益率
- シルクエラスチンの承認・販売の進捗
倍率と資本コストの決め方
今の株価・今の倍率からは置いていない。先に4つの区分で数量(出荷量の推定)と単価(物価 3% 込みで 10 年 1.3 倍前後)を積み、利益率を区分ごとに置いて営業利益を出した。倍率は、事業のROEが資本コスト 7.25% に届くかどうかから、利益ベースの正当化PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)の上限を出し、その 6 割強〜8 割強に置いた。純現金と持ち合い株は帳簿から分け、戻り方 0.5 を掛けて足した。リースは小さく、新リース会計基準の影響は限定的だが、10 年後の数字は今と同じ形(家賃を営業費用に入れた形)でそろえた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 11.5→17.08 倍・やや楽観 PER 10.5→15.32 倍・中立 PER 9.7→13.79 倍)。
資本コスト 7.2% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality +0.75% を足して 8.25%。事業は傾いておらず、上乗せはしない。同じ領域の大日精化工業(+0.5%)よりは、赤字の事業を長く抱えた分だけ重く、第一工業製薬(+1.0%)ほど借金や市況の振れはない。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.25% → 7.25%。