結論
日本化薬は、1916 年に産業用火薬の会社として生まれ、今は自動車の安全部品、半導体向けの樹脂、がん領域の医薬の 3 本で稼ぐ化学会社である。売上は 2,419 億円、営業利益は 225 億円。安全部品のガス発生器と半導体封止用のエポキシ樹脂は、世界でも指折りの地位にある。
筆者の見立ては、本質価値は今の時価総額を上回る、というものだ。理由は 2 つある。1 つは財務の厚みで、自己資本比率は 70%、純現金に近い。もう 1 つは、物価の分だけ利益が名目で伸びる事業が多いことだ。同じ石化系の総合化学とは違い、価格を市場に決められる汎用品の比率が低い。
成長の柱は半導体材料である。AI サーバー向けの先端パッケージで、封止材と基板材料の需要が増えている。医薬ではバイオシミラー(後続のバイオ医薬品)が国内で首位級のシェアを取り、新薬イブトロジーも立ち上がった。安全部品は、中国の自動車メーカー向けが伸びている。
懸念は 3 つある。安全部品の利益率は、金や火薬の原料高を価格に転嫁しきれず削られている。薬価は毎年下がる。そして会社は 2028 年度に営業利益 360 億円を目標にするが、過去 10 年で 250 億円に届いたことはない。計画には割り引いて向き合うのが妥当だ。
資本の使い方は改善している。政策保有株を売り、150 億円の自社株買いを決め、総還元性向は 100% を超える。この規律が続くかどうかが、評価を分ける。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点で最初に聞きたいのは、10 年後にこの会社の稼ぐ力が今より強いか、である。筆者の答えは、強くなるが急ではない、だ。物価で価格が上がる部品や材料が主力なので、利益は名目で伸びる。そこに、半導体材料と医薬の数量の伸びが重なる。
次に、株主のものになる利益を見る。この会社は、成長に必要な投資が重い。設備投資は 3 年で 1,000 億円で、減価償却を大きく上回る。純利益が 246 億円でも、そのまま自由に使えるわけではない。しかも 2026 年度の純利益には、株の売却益が含まれている。
経営者の資本配分は、方向としては良い。借金を増やさず、政策保有株を売って自社株買いに回している。ただ、2035 年度の売上 5,000 億円という数字は、買収を前提にしている。これからの数年に大きな案件が出たとき、その値段に注意がいる。
安全域は、厚い自己資本と、3 つの事業の分散にある。最悪の場合でも、今の自己資本の半分近くは残ると見る。悲観の筋書きでは、利益の柱がそろって崩れる。起こる確率は高くないが、無視はできない。本質価値は今の時価総額を上回るが、割安と言い切るほどの余裕はない。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの源は 3 つの事業領域に分かれる。2026 年 3 月期の売上は、モビリティ&イメージングが 947 億円、ファインケミカルズが 741 億円、ライフサイエンスが 730 億円ほどだ。利益は 3 つがほぼ均等に出ている。1 本に偏らないのが、この会社の特徴である。
モビリティ&イメージングの中心は、自動車の安全部品だ。シートベルトを衝突の瞬間に巻き取るマイクロガスジェネレータ(MGG)と、その点火具のスクイブで、世界の 3〜4 割を握るとされる。ほかに側面衝突用のインフレータがあり、マレーシアと中国で増強中だ。顧客は自動車メーカーと一次部品メーカー。ヘッドアップディスプレイ用の遮光板を作るポラテクノも、この領域に入る。
ファインケミカルズの主役は機能性材料である。半導体の封止やパッケージ基板に使う高純度のエポキシ樹脂は、会社が世界首位と説明する。ドライフィルムレジスト、MEMS 用材料も手がける。触媒は年 100 億円前後で、波が大きい。インクジェット用の色素と水性顔料インクは、米国の関税で一時苦戦した。
ライフサイエンスは、抗がん剤に特化した医薬が柱だ。後続品の抗がん剤、ベバシズマブとアダリムマブのバイオシミラー、2025 年 11 月に発売した新薬イブトロジーがある。バイオシミラーの国内シェアは、ベバシズマブで約 6 割に達した。受託製造(CDMO)は約 55 億円で、富士薬品の富山第二工場を買収して拡大する。
祖業の火薬から、染料、医薬、樹脂へと、技術を横に広げてきた会社だ。大手が手を出さない小さな市場で一番を取る。会社はこれを「世界的すきま発想」と呼ぶ。
優良さと弱いところ
堀は、小さな市場で首位に立つことと、顧客に認定されるまでの時間の長さにある。自動車の安全部品は、一度採用されると車種の寿命の間は使われ続ける。半導体の封止材も、顧客の工程に合わせて調整され、簡単には入れ替わらない。バイオシミラーは、承認と製造の難しさが参入の壁になる。
ただし、堀は広くない。MGG は電動化や運転支援の進み方で需要の形が変わりうる。中国の地場メーカーは、封止材でも安全部品でも追い上げている。バイオシミラーは先行者の利益が薄れやすい。値決め力も限られる。原料高の価格転嫁は、直近でも約 55% にとどまった。
資本の効率は高くない。ROE は過去 10 年の中央値で 6.7% だ。自己資本が営業利益の 12 倍を超え、使い切れていなかった。2024 年 3 月期には、原料高と一時の費用が重なり、営業利益が 73 億円まで落ちている。
経営は変わりつつある。ROE 8% に届くまで総還元性向 100% 以上という約束を掲げ、政策保有株を売って自社株買いに回している。40 年以上減配していない。筆者は、守りの堅い会社が資本政策を攻めに変えた点を評価する。一方で、2035 年度に売上 5,000 億円という目標は、買収頼みの色が濃い。買収の巧拙が、これからの最大の論点になる。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
3 つの領域は、景気の山谷が別々にくる。このずれが、全体の利益を安定させる。
自動車の安全部品は、世界の生産台数が横ばいに近い。伸びるのは、1 台あたりに載る部品の数と、中国など新興国の比率だ。インドへの輸出も見込む。エアバッグ全体の競合は、オートリブやダイセル、中国の地場メーカーである。MGG とスクイブのような小さな部品は、参入者が少なく、日本化薬が先行している。電動化で内燃機関は減るが、安全部品は電気自動車にもそのまま載る。衝突安全の規制を強める国が増える効果のほうが大きい。
半導体材料は、構造的に伸びる市場である。AI サーバー向けのパッケージは大型化し、使う樹脂の量が増える。会社も機能性材料の売上が過去最高だと説明している。業種ノートが示すとおり、先端の半導体材料は、中国企業の追随に時間がかかる。ただし中位の品は、徐々に追いつかれる。
医薬は、国内の薬価が毎年下がる逆風の中にある。政府はバイオシミラーの普及を後押ししており、抗がん剤の後続品でも他社の撤退が代替需要を生んでいる。新薬は当たれば利益率が高いが、当たる保証はない。
総合化学の大手と違い、石油化学の過剰設備による市況の悪化を直接は受けない。ナフサ価格や中国の汎用品の値崩れは、日本化薬の利益の主因ではない。この会社は市況でなく、個別の製品の競争力で評価される。
資本政策と M&A
還元の方針は明確だ。配当性向 40% 以上で、減らさない累進配当を続ける。2026 年度は増配した配当に加え、150 億円の自社株買いを行う。総還元性向は 106% の見込みで、1,130 万株を消却する。ROE が 8% に届くまで、総還元性向 100% 以上を目標にするという。
政策保有株は 6% を目途に減らす。前期に 5 銘柄を売り、2026 年度の純利益には約 32 億円の売却益が入る。大株主の上位は信託銀行で、取引先の持株会(カヤベスタークラブ)や常陽銀行、明治安田生命が続く。上場子会社はない。
買収は積極化している。富士薬品の富山第二工場(注射剤とバイオ医薬品の受託製造)を取得し、後期段階の新薬の導入も進める。設備投資は 3 年で 1,000 億円で、うち 430 億円がライフサイエンスだ。自己資本比率は 70% から 60〜65% に下げる計画で、余った資本を使い始める。現金と有価証券が厚く、割安と見る投資家の標的になりうる点にも、目を配っておきたい。
還元の点検(P3 2026-10-19):総還元性向106%見込み、ROE8%まで100%以上が目標。中立は7割でその範囲。直さず。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
この会社の強みは、小さな市場で首位に立つ部品を 3 つ持つことだ。半導体封止用のエポキシ樹脂、シートベルト用の MGG、後続の抗がん剤とバイオシミラー。どれも大手が参入しにくい。
半導体は、AI サーバーのパッケージの大型化で、樹脂の使用量が増え続ける。機能性材料は 10 年で 2 倍を超えて育つ。利益率も、先端品の比率が上がって 20% を超える。
安全部品では、中国の自動車メーカーが日本化薬の部品を採用し続ける。インフレータの増強が 2027 年に完成し、インドへの輸出も立ち上がる。ドローン用のパラシュート装置、宇宙向けの製品という新しい用途も育つ。原料高の転嫁も、回収率が 55% から上がる。
医薬は、バイオシミラーが国内で首位の座を固め、イブトロジーが肺がんの治療で定着する。受託製造は、買収した富山工場で 100 億円を超える。
資本政策も追い風だ。自己資本の使い方が改善し、ROE は 10% を超える。総還元性向 100% 超が続けば、株主の取り分はさらに増える。10 年後に計画の 2,993 億円を大きく上回り、売上 4,800 億円に届く道がある。
慎重な見方
売上は伸びても、利益が伸びていない。この 10 年、営業利益は 73〜226 億円のあいだを行き来した。2026 年度に 254 億円、2028 年度に 359 億円という計画は、過去の実績から離れすぎている。
安全部品は、顧客の値下げ要求が毎年ある。原料高の転嫁は 55% にとどまる。中国の地場メーカーは、同じ性能をより安く出せるようになる。MGG の世界シェアが 3〜4 割でも、守れる保証はない。電動化と自動運転でシートベルトの設計が変われば、MGG の需要の形も変わる。
半導体材料は、需要の山にいる。今の高い利益率は、AI 投資の熱の中にある。投資が一巡すれば、顧客は値下げを求める。中国の樹脂メーカーも追い上げる。
医薬は、薬価が毎年下がる。バイオシミラーは参入が相次ぎ、価格競争になる。新薬は、1 つの失敗で研究費が回収できない。
そして買収である。2035 年度の売上 5,000 億円のうち 600 億円は新事業と M&A だ。自己資本比率を 60〜65% に下げ、余った現金で買う。高く買えば価値を壊す。この会社が大型買収で成果を示した実績は、まだない。
どちらに重みを置いたか
どちらにも根拠がある。強気の言い分が強いのは、物価で伸びる事業が多く、財務が厚いことだ。慎重な言い分が強いのは、過去の利益が計画より低いことと、買収の失敗の恐れだ。
確率は、中立に 3 分の 1 を置き、悲観側の合計をやや厚めの 35% にした。強気側は 32%。慎重な言い分のうち、買収の失敗は悲観の筋書きに入れ、利益率の低さは中立の利益率に反映した。
結果は、中立で今の時価総額を上回る。悲観の確率を厚くしても、全体では今より上に残る。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 3,762 円5,421 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,374 円1,980 億円)。 今の値に割り戻すと 2,960 円4,266 億円、今との差 +45.0%、 期待の年率 +9.7%(資本コスト 6.7%)→ 割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 8,307 円1.20 兆円 | 2,176 円3,135 億円 | +413.5% | +17.8% | 1,048 円1,511 億円 |
| やや楽観 | 22% | 5,861 円8,447 億円 | 1,739 円2,506 億円 | +272.3% | +14.0% | 1,672 円2,410 億円 |
| 中立 | 33% | 3,928 円5,661 億円 | 1,406 円2,026 億円 | +161.3% | +10.1% | 1,760 円2,537 億円 |
| やや悲観 | 23% | 1,048 円1,510 億円 | 1,074 円1,548 億円 | +3.9% | +0.4% | 488 円703 億円 |
| 悲観 | 12% | 871 円1,256 億円 | 521 円751 億円 | −31.8% | −3.8% | 167 円241 億円 |
| 加重平均 | 100% | 3,762 円5,421 億円 | 1,374 円1,980 億円 | +151.6% | +9.7% | 5,136 円7,401 億円 |
今の株価時価総額 2,042 円2,942 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 6.7% を下回るほど割高。
楽観 10% 強気:安全部品が中国で伸び、半導体材料と新薬が両方当たる 利益 590 億円 · PER 20.3 倍 · 株価時価総額 8,307 円1.20 兆円
安全部品は中国の自動車メーカーに食い込み、インフレータの増強と、インドや欧州への展開で数量が 1.5 倍になる。原料高の転嫁も進み、利益率は 14% を超える。半導体材料は AI サーバー向けのパッケージで大きく伸びて数量が 2 倍を超え、先端品の比率が上がって利益率は 25% に達する。医薬ではイブトロジーが定着し、バイオシミラーの首位も続いて、受託製造は 100 億円を大きく超える。会社が 2028 年度に掲げる営業利益 360 億円は前倒しで達成する。一方、買収は小粒で成功する。自己資本比率は 60% 台に下がり、還元も厚くなる。
- 自動車安全部品(ガス発生器):数量 270(供給個数(百万個)=世界の自動車生産 × 1 台あたりの当社品数)× 価格 528(1 個あたりの平均単価(円・名目))→ 売上 1,426 億円・営業利益 207 億円。中国とインドで数量が伸びる
- 偏光・光学部材(ポラテクノ):数量 7.2(出荷枚数(百万枚相当))× 価格 6,557(1 枚あたりの平均単価(円・名目))→ 売上 472 億円・営業利益 57 億円。HUD 用遮光板が伸びる
- 機能性材料(半導体封止・基板材料):数量 82.8(出荷量(千トン))× 価格 134(1 トンあたりの平均単価(万円・名目))→ 売上 1,110 億円・営業利益 277 億円。AI 向けで数量が 2 倍超
- 触媒・色素・粘着テープなど:数量 32.5(出荷量(千トン相当))× 価格 201(1 トンあたりの平均単価(万円・名目))→ 売上 654 億円・営業利益 105 億円。触媒・色素が回復
- 医薬品(抗がん剤・バイオシミラー・新薬):数量 114(治療を受ける患者数(千人))× 価格 92(1 人あたりの年間売上(万円・薬価ベース、名目))→ 売上 1,049 億円・営業利益 210 億円。新薬とバイオシミラーが育つ
- 農薬ほか:数量 28.0(出荷量(千トン相当))× 価格 61(1 トンあたりの平均単価(万円・名目))→ 売上 170 億円・営業利益 17 億円。農薬は横ばい
倍率:事業の純利益 590 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 15.4% が k 6.70% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 11.0%、10 年より先の名目の伸び g 3.2% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 20.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 20.3 倍。全体の PER 20.29 倍、時価総額 11,971 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:3 つの柱の連続成功と買収の当たりが重なる必要があり、確度は高くない。同時に実現すれば強いので 1 割を置いた。
やや楽観 22% やや強気:半導体材料が伸び、医薬が緩やかに育つ 利益 450 億円 · PER 18.8 倍 · 株価時価総額 5,861 円8,447 億円
安全部品は、中国向けが伸びてインフレータの数量が増え、利益率は 13% 台に戻る。半導体材料は、AI 投資が続いて数量が 2 倍弱になり、利益率は 22% を超える。医薬は、バイオシミラーの国内シェアを保ち、イブトロジーが緩やかに立ち上がって、数量は 1.6 倍になる。薬価の下げで価格はやや下がるが、数量で補う。会社の 2028 年度の計画は 1〜2 年遅れで届く。買収は 1 件、中規模で成功し、利益に年 30 億円ほど加わる。還元は総還元性向 70% 台で続き、ROE は 10% を超える。安全部品では転嫁の回収率が 7 割まで上がり、利益率の底上げに効く。
- 自動車安全部品(ガス発生器):数量 248(供給個数(百万個)=世界の自動車生産 × 1 台あたりの当社品数)× 価格 520(1 個あたりの平均単価(円・名目))→ 売上 1,292 億円・営業利益 174 億円。数量 1.4 倍
- 偏光・光学部材(ポラテクノ):数量 6.5(出荷枚数(百万枚相当))× 価格 6,557(1 枚あたりの平均単価(円・名目))→ 売上 426 億円・営業利益 47 億円。遮光板が伸びる
- 機能性材料(半導体封止・基板材料):数量 70.2(出荷量(千トン))× 価格 134(1 トンあたりの平均単価(万円・名目))→ 売上 941 億円・営業利益 212 億円。数量 2 倍弱
- 触媒・色素・粘着テープなど:数量 30.0(出荷量(千トン相当))× 価格 198(1 トンあたりの平均単価(万円・名目))→ 売上 594 億円・営業利益 89 億円。小幅に伸びる
- 医薬品(抗がん剤・バイオシミラー・新薬):数量 99.0(治療を受ける患者数(千人))× 価格 90(1 人あたりの年間売上(万円・薬価ベース、名目))→ 売上 891 億円・営業利益 156 億円。医薬が緩やかに育つ
- 農薬ほか:数量 27.2(出荷量(千トン相当))× 価格 61(1 トンあたりの平均単価(万円・名目))→ 売上 165 億円・営業利益 16 億円。やや縮む
倍率:事業の純利益 450 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 12.0% が k 6.70% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.3%、10 年より先の名目の伸び g 3.2% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 18.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 18.8 倍。全体の PER 18.77 倍、時価総額 8,446 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:物価の伸びに数量の増加が乗る道は、強気の言い分の中心で、実現しやすい。中立よりやや小さい 2 割強を置いた。
中立 33% 中立:計画の道半ばで、物価と数量の伸びが利益に乗る 利益 333 億円 · PER 17.0 倍 · 株価時価総額 3,928 円5,661 億円
売上は年 4.5% ほどで伸び、10 年後に 3,800 億円弱になる。安全部品は、世界の生産が横ばいでも中国向けと 1 台あたりの搭載数の増加で、数量は 1.25 倍。原料の転嫁が物価に少し足りず、価格は 1.28 倍にとどまる。半導体材料は、AI 向けの需要で数量が 1.65 倍になる。医薬は、薬価の引き下げで価格が 1 割ほど下がり、バイオシミラーと新薬の数量増で補う。営業利益率は 11% で、会社が 2028 年度に掲げる 12% には届かない。純利益は 330 億円ほどで、自社株買いと配当で純利益の 7 割を還元する。
- 自動車安全部品(ガス発生器):数量 225(供給個数(百万個)=世界の自動車生産 × 1 台あたりの当社品数)× 価格 512(1 個あたりの平均単価(円・名目))→ 売上 1,152 億円・営業利益 144 億円。数量 1.25 倍、転嫁は物価をやや下回る
- 偏光・光学部材(ポラテクノ):数量 5.9(出荷枚数(百万枚相当))× 価格 6,557(1 枚あたりの平均単価(円・名目))→ 売上 387 億円・営業利益 39 億円。数量 1.3 倍
- 機能性材料(半導体封止・基板材料):数量 59.4(出荷量(千トン))× 価格 132(1 トンあたりの平均単価(万円・名目))→ 売上 784 億円・営業利益 157 億円。数量 1.65 倍
- 触媒・色素・粘着テープなど:数量 27.5(出荷量(千トン相当))× 価格 198(1 トンあたりの平均単価(万円・名目))→ 売上 545 億円・営業利益 76 億円。数量 1.1 倍
- 医薬品(抗がん剤・バイオシミラー・新薬):数量 84.0(治療を受ける患者数(千人))× 価格 88(1 人あたりの年間売上(万円・薬価ベース、名目))→ 売上 739 億円・営業利益 115 億円。数量 1.4 倍。薬価の毎年の引き下げで、1 人あたり売上は物価に逆らって名目で 0.88 倍に下がる
- 農薬ほか:数量 26.6(出荷量(千トン相当))× 価格 61(1 トンあたりの平均単価(万円・名目))→ 売上 162 億円・営業利益 15 億円。数量 0.95 倍
倍率:事業の純利益 333 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.1% が k 6.70% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 7.9%、10 年より先の名目の伸び g 3.2% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 17.0 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 17.0 倍。全体の PER 17 倍、時価総額 5,661 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:物価で伸びる事業が多く、利益率の改善も計画の半分程度に収まると見る。ほかの 4 つの筋書きの重心に当たるので、3 分の 1 を置いた。
やや悲観 23% やや弱気:安全部品の値下げ圧力と薬価の引き下げが重い 利益 151 億円 · PER 10.0 倍 · 株価時価総額 1,048 円1,510 億円
安全部品は、中国の地場メーカーの追い上げと自動車メーカーの値下げ要求で、数量は横ばい、価格は物価に届かない。原料高の転嫁も 5 割にとどまる。半導体材料は、AI 投資の一巡で顧客が値下げを求め、数量は 1.2 倍、利益率も 15% に下がる。医薬は、バイオシミラーの価格競争と毎年の薬価の引き下げで、数量が増えても利益は痩せる。買収は 1 件、割高で買って減損が出る。営業利益は今の水準を下回り、利益率は 6% 台後半まで落ちる。還元は配当を守るので、純利益の 8 割近くになる。会社は 2028 年度の目標を取り下げ、投資の優先順位を絞り直す。自己資本比率は 70% 近くに戻り、買収には慎重になる。
- 自動車安全部品(ガス発生器):数量 189(供給個数(百万個)=世界の自動車生産 × 1 台あたりの当社品数)× 価格 488(1 個あたりの平均単価(円・名目))→ 売上 922 億円・営業利益 88 億円。値下げ要求で価格が伸びない
- 偏光・光学部材(ポラテクノ):数量 4.7(出荷枚数(百万枚相当))× 価格 6,305(1 枚あたりの平均単価(円・名目))→ 売上 296 億円・営業利益 22 億円。遮光板は横ばい
- 機能性材料(半導体封止・基板材料):数量 43.2(出荷量(千トン))× 価格 125(1 トンあたりの平均単価(万円・名目))→ 売上 540 億円・営業利益 84 億円。中国の追い上げで伸びが鈍る
- 触媒・色素・粘着テープなど:数量 23.8(出荷量(千トン相当))× 価格 191(1 トンあたりの平均単価(万円・名目))→ 売上 453 億円・営業利益 52 億円。色素・触媒が縮む
- 医薬品(抗がん剤・バイオシミラー・新薬):数量 66.0(治療を受ける患者数(千人))× 価格 82(1 人あたりの年間売上(万円・薬価ベース、名目))→ 売上 541 億円・営業利益 68 億円。薬価と競争で利益が痩せる
- 農薬ほか:数量 23.8(出荷量(千トン相当))× 価格 59(1 トンあたりの平均単価(万円・名目))→ 売上 139 億円・営業利益 9 億円。縮小が続く
倍率:ROE は約 5% で k を下回る。ROE が k 以下なので、PER の上限は 1÷k の 13.3 倍。利益の質が落ちる筋書きで、PER は 10 倍に置いた。
確率:安全部品の値下げ圧力と薬価の引き下げは今も進んでおり、実際に起こりやすい。この道は強気の言い分の裏返しで、2 割強を置いた。
悲観 12% 弱気:中国の追い上げと薬価政策で、稼ぎの柱が崩れる 利益 27 億円 · PBR 0.5 倍 · 株価時価総額 871 円1,256 億円
安全部品は、運転支援と自動運転の進展で、シートベルト用の MGG の需要の形が変わる。中国の地場メーカーが主要顧客を奪い、数量は 3 割減る。半導体材料は、中国の樹脂メーカーが中位品から先端品に迫り、AI 投資の一巡で価格が下がる。医薬は、バイオシミラーの価格競争と薬価の引き下げが重なり、新薬の失敗も加わる。大型買収の失敗で減損も出る。営業利益は 40 億円ほどに落ち込み、会社は人員と設備を減らして対応する。配当は手元資金と政策保有株の売却で賄う。ただし、厚い自己資本と手元資金で、財務は傷まない。配当は今の水準から半分に減らし、自社株買いは止める。会社は祖業の火薬と医薬の一部に事業を絞る。
- 自動車安全部品(ガス発生器):数量 126(供給個数(百万個)=世界の自動車生産 × 1 台あたりの当社品数)× 価格 440(1 個あたりの平均単価(円・名目))→ 売上 554 億円・営業利益 28 億円。数量が 3 割減る
- 偏光・光学部材(ポラテクノ):数量 3.1(出荷枚数(百万枚相当))× 価格 5,801(1 枚あたりの平均単価(円・名目))→ 売上 180 億円・営業利益 7 億円。数量が 3 割減る
- 機能性材料(半導体封止・基板材料):数量 32.4(出荷量(千トン))× 価格 110(1 トンあたりの平均単価(万円・名目))→ 売上 356 億円・営業利益 36 億円。中国に奪われる
- 触媒・色素・粘着テープなど:数量 20.0(出荷量(千トン相当))× 価格 175(1 トンあたりの平均単価(万円・名目))→ 売上 351 億円・営業利益 28 億円。縮む
- 医薬品(抗がん剤・バイオシミラー・新薬):数量 54.0(治療を受ける患者数(千人))× 価格 72(1 人あたりの年間売上(万円・薬価ベース、名目))→ 売上 389 億円・営業利益 31 億円。薬価政策と競争で利益が消える
- 農薬ほか:数量 19.6(出荷量(千トン相当))× 価格 54(1 トンあたりの平均単価(万円・名目))→ 売上 105 億円・営業利益 4 億円。縮む
倍率:稼ぐ力では価値が付きにくい。今の自己資本 2,790 億円の 45%、約 1,260 億円を、売れる資産の税後(手元資金 600 億円と、設備・売掛金・棚卸の回収)に置いた。
確率:安全部品の需要の形が変わる、半導体材料で中国が追いつく、薬価政策が厳しくなる、の 3 つが同時に起きる筋書きで、確率は高くない。多角化で分散している分、1 割強を置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
自動車安全部品(ガス発生器)
シートベルト用のマイクロガスジェネレータ(MGG)、点火具のスクイブ、エアバッグ用インフレータ。自動車メーカーと一次部品メーカーが顧客。
| 数量供給個数(百万個)=世界の自動車生産 × 1 台あたりの当社品数 | 価格1 個あたりの平均単価(円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 180 | 400 | 720 | 85 |
| 10 年後 中立 | 225 | 512 | 1,152 | 144 |
取り方:モビリティ&イメージングの売上 947 億円のうち、安全部品を約 720 億円と推定した(開示は領域の合計のみ)。世界の自動車生産約 9,000 万台に、MGG・スクイブ・インフレータで 1 台あたり平均 2 個ほどが載ると見て 180 百万個、平均単価は 1 個あたり数百円。部門営業利益は領域全体で約 106 億円と推定し、安全部品は 85 億円。
偏光・光学部材(ポラテクノ)
ヘッドアップディスプレイ用の遮光板、液晶プロジェクター用部材、X 線分析装置用の部材。
| 数量出荷枚数(百万枚相当) | 価格1 枚あたりの平均単価(円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 4.5 | 5,044 | 227 | 21 |
| 10 年後 中立 | 5.9 | 6,557 | 387 | 39 |
取り方:モビリティ&イメージングの残り約 227 億円を偏光・光学部材とした(開示なし)。出荷を 450 万枚相当、平均単価を 1 枚あたり数千円と推定。ヘッドアップディスプレイの搭載増で伸びる一方、液晶プロジェクター用は一部終売で縮む。
機能性材料(半導体封止・基板材料)
半導体の封止材やパッケージ基板に使う高純度エポキシ樹脂、ドライフィルムレジスト、MEMS 用材料。
| 数量出荷量(千トン) | 価格1 トンあたりの平均単価(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 36.0 | 100 | 360 | 62 |
| 10 年後 中立 | 59.4 | 132 | 784 | 157 |
取り方:ファインケミカルズ 741 億円のうち、機能性材料を約 360 億円と推定した(開示なし)。先端パッケージ向けの市場を約 4,000 億円、シェアを 9% と見て、出荷量 3.6 万トン、平均単価 1 トン 100 万円とした。AI サーバー向けで最も伸びる部門。数量は実物(出荷量・千トン)で、AI サーバー向けの需要増による。名目の市場の伸びではない。
触媒・色素・粘着テープなど
石油化学向け触媒、インクジェット用色素、水性顔料インク、粘着テープ(テイコクテーピングシステム)。
| 数量出荷量(千トン相当) | 価格1 トンあたりの平均単価(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 25.0 | 152 | 381 | 53 |
| 10 年後 中立 | 27.5 | 198 | 545 | 76 |
取り方:ファインケミカルズの残り約 381 億円。触媒は年 100 億円前後(会社は 100 億円以上の安定を目標)、色素・インク・テープで残りと推定。出荷量は種類が混ざるため 2.5 万トン相当、平均単価 1 トン約 152 万円とした。
医薬品(抗がん剤・バイオシミラー・新薬)
ジェネリック抗がん剤、バイオシミラー(ベバシズマブ・アダリムマブ)、新薬イブトロジー、受託製造(CDMO)。
| 数量治療を受ける患者数(千人) | 価格1 人あたりの年間売上(万円・薬価ベース、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 60.0 | 100 | 600 | 90 |
| 10 年後 中立 | 84.0 | 88 | 739 | 115 |
取り方:ライフサイエンス約 731 億円のうち医薬品を約 600 億円と推定(会社の旧計画の医薬 580 億円目標と整合)。患者数 6 万人、1 人あたり年間約 100 万円と置いた。薬価は毎年の改定で下がり、売価要因は前期にマイナス 19 億円だった。
農薬ほか
農薬(殺虫剤・土壌くん蒸剤)などライフサイエンスの医薬以外。
| 数量出荷量(千トン相当) | 価格1 トンあたりの平均単価(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 28.0 | 47 | 131 | 12 |
| 10 年後 中立 | 26.6 | 61 | 162 | 15 |
取り方:ライフサイエンスの残り約 131 億円を農薬ほかと推定(開示なし)。出荷量 2.8 万トン相当、平均単価 1 トン約 47 万円とした。国内農薬の市場縮小で数量は緩やかに減る。
リスクと懸念
計画の利益率が実績から離れている
2028 年度の営業利益 360 億円、利益率 12% は、過去 10 年の最高 15% から見れば届かなくはないが、直近の 9% 台とは離れる。原料高の転嫁が遅れる、半導体の需要が山を越える、のどちらかで計画は崩れる。
安全部品の原料高と値下げ圧力
金や火薬原料の高騰を価格に転嫁できたのは約 55%。自動車メーカーは毎年の値下げを求める。中国の地場メーカーが同等品を安く作れば、MGG の世界 3〜4 割のシェアも守れない。
薬価の引き下げとバイオシミラーの競争
薬価は毎年下がる。前期は売価要因だけで営業利益を 19 億円減らした。バイオシミラーは参入が増え、価格が下がりやすい。新薬イブトロジーも、競合の薬が出れば伸びが鈍る。
買収の実行
2035 年度の売上 5,000 億円の目標には 600 億円分の新事業・買収が含まれる。自己資本比率を 70% から 60〜65% に下げ、買収に資金を使う方針だ。高値づかみの買収や統合の失敗は、減損と利益率の低下を招く。
米国の関税と中国の景気
インクジェット用色素は米国の関税で苦戦した。メキシコの子会社は関税による自動車の生産減で減益になった。中国の新エネルギー車の優遇終了による需要の反動も出ている。
半導体材料への依存
利益の伸びを半導体材料の拡大に預ける度合いが高い。AI 向け設備投資が一巡すれば、数量は減り、顧客は値下げを求める。中国の樹脂メーカーの追い上げも、中位品から始まる。
品質と認証の問題
自動車安全部品は、国内で型式認証にからむ問題から一時、出荷が止まった。現在は解消したが、安全部品は品質の不具合が会社の信用に直結する。高崎工場の品質保証棟への投資は、医薬の品質管理を固めるためのもので、安全部品でも同じ規律が問われる。
今後の分かれ目
- AI サーバー向けの半導体材料の需要が 2028 年度まで続き、機能性材料の営業利益率が 20% を超える
- 強気の筋書きの比重が上がる。半導体材料の利益だけで、全社の営業利益を 50 億円以上押し上げる。
- 原料高の価格転嫁が 8 割を超えて進み、モビリティ&イメージングの営業利益率が 12% を超える
- 安全部品の値決め力が確認できたことになり、質の評価(k の質)を見直す余地が出る。
- 薬価制度の改定で、バイオシミラーの使用が国の目標どおり増える
- ベバシズマブとアダリムマブの国内シェアが維持され、医薬の数量が計画より伸びる。
- 売上 500 億円超の大型買収を、自己資本比率 60% を割り込むほど借り入れて実施する
- 買収の価格と事業の質で評価が分かれる。割高なら悲観の確率を引き上げ、安ければ中立の PER を上げる材料になる。
- 中国の自動車メーカーが MGG やインフレータを内製化または地場メーカーに切り替える
- 安全部品の数量が減り、やや悲観から悲観の筋書きに近づく。
- 政策保有株の売却が進んでも、ROE が 8% に届く前に総還元性向が 100% を下回る
- 還元の規律が緩んだと見て、自社株買いの継続性を割り引く。中立の ROE は 9% に届かない。
見ておくもの
- モビリティ&イメージングの四半期の営業利益率と原料高の転嫁率
- 機能性材料の売上と、AI サーバー向けの半導体材料の受注
- バイオシミラーの国内シェアとイブトロジーの売上
- 富山第二工場を含む受託製造の売上(100 億円超の達成)
- 政策保有株の売却額と自社株買いの進捗
- 大型買収の有無と自己資本比率
- 中国の自動車メーカー向けインフレータの出荷
倍率と資本コストの決め方
3 つの領域をそれぞれ数量×価格で 10 年先まで積んだ。価格は物価 3% で 10 年 1.34 倍が基本で、安全部品は転嫁の回収率が 55% なので 1.28 倍、医薬は薬価の下げで 0.88 倍とした。資本コストは基本 7.5% で、quality は循環 +0.3・寿命 −0.3 で 0。倍率は正当化 PER の上限に対して、中立を 9 割強、やや強気を 9 割弱、強気を 8 割強に置いた。今の株価・今の PER・過去の PBR は参照していない。悲観は稼ぐ力ではなく売れる資産で床を置いた。賃借は小さく、新リース会計の影響は小さい。最後に今の時価総額と比べた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 15.3→20.29 倍・やや楽観 PER 14.5→18.77 倍・中立 PER 13.5→17 倍)。
資本コスト 6.7% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。