結論
多木化学は、肥料と水処理薬剤を二本柱にする、兵庫県加古川市の化学メーカーである。2025 年 12 月期の売上は 420 億円、営業利益は 32 億円。利益の大半は水処理薬剤が稼ぎ、肥料は薄利、不動産の賃貸は小さいが高採算だ。
筆者の結論は「割高」である。事業は悪くない。問題は資本の稼ぎで、10 年後も自己資本利益率(ROE)が 6% 前後にとどまり、資本コストの 7.75% に届かない。
財務は堅い。自己資本比率は 65%、純現金は 63 億円ある。ただ、その厚い資本が十分に働いていない。配当性向は 2 割台と低く、現金は積み上がる一方だ。
いちばんの強みは水処理だ。凝集剤の PAC(ポリ塩化アルミニウム)で、会社は国内 30% 超の首位と言う。新しい超高塩基度品への切り替えと増設で、薄利の肥料の穴を埋める力がある。
弱みは肥料にある。原料の尿素やリン安は輸入に頼り、値段は国際市況と農家の財布で決まる。国内の化学肥料の需要は、農家の減少と環境政策で細っていく。
10 年後の中立は、売上が約 590 億円、営業利益が約 46 億円。物価分の値上げと水処理の増販で、利益は名目で 4 割ほど増える。それでも ROE は資本コストを下回り、倍率は 11 倍までしか付けられない。
足元の純利益は、原料高に伴う値上げの効果で膨らんだ面がある。2026 年は会社自身が減益を見込む。上振れは、還元の大幅な引き上げと、水処理のシェア拡大が重なった時に限られる。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、多木化学は「悪くない事業を持つが、資本の使い方が眠っている会社」だ。
まず事業。水処理薬剤は、止められない需要を、値段の下がりにくい形で売る。この部分は、10 年後も存在し、シェアを少し上げる可能性が高い。一方、肥料は市況の波に左右される、持ち続けたい事業ではない。
次に、オーナー利益、つまり株主が自由に使える利益。肥料の在庫と売掛金、水処理の増設投資が毎年お金を食う。純利益のうち、実際に株主へ回せるのは半分以下だろう。
資本配分が最大の論点だ。純現金は時価総額の 1 割を超え、自己資本比率は 65%。ROE が資本コストを下回る会社が利益を溜め込むと、溜めた利益は額面どおりの価値を持たない。筆者は、配当を増やすか、投資の稼ぎを高めるかのどちらかを求めたい。
安全域、つまり値段にどれだけ余裕があるか。財務の面では厚い。ただ、本質価値に対する今の値段の余裕は見えない。10 年後の中立で、株主が受け取るもの(時価総額と配当)は、今の時価総額とほぼ同じだ。
持ち続けたいと思う条件は、還元が総利益の半分に近づくこと、または水処理で ROE 8% 台の稼ぎが定着することだ。
何で稼ぐ会社か
多木化学は古くから肥料を手がけてきた会社で、いま売上の約 3 割が肥料、約半分が化学品だ。残りは建材(石こうボード)、石油製品の販売、運輸、不動産の賃貸である。
アグリは化成肥料などを農協や流通を通じて農家に売る。2025 年 12 月期の売上は 119 億円、利益は 5 億円足らずだ。原料を輸入に頼るため、国際市況が上がると遅れて値上げし、下がると利益が戻る。利益率は 1 ケタ前半で、この事業は景気の波に近い。
化学品は 202 億円を売り、利益は 23 億円と、会社の稼ぎの中心だ。うち水処理薬剤が 134 億円で、浄水場や工場排水の凝集剤(水の濁りを固めて沈める薬)を売る。主力の PAC は国内首位と会社は言い、超高塩基度の新品は千葉・九州・本社の各工場で増設が進む。
機能性材料は 66 億円で、スマートフォン向けの高純度酸化タンタルは競争で減ったが、自動車関連のセラミック繊維向けの塩化アルミニウムは伸びた。2025 年 2 月には洛東化成工業を子会社化し、化学品に取り込んだ。
不動産は賃料収入 13 億円で、利益は 7 億円。売上の 1 割にも満たないが、利益の約 2 割を占める。ショッピングセンターの賃貸が中心だ。
建材・石油・運輸は合計で 86 億円を売るが、利益は 5 億円ほどと薄い。本社費など全社の費用が 8 億円あり、連結の営業利益は 32 億円になる。
優良さと弱いところ
優良さは「水処理は良く、会社全体では並み」と筆者は見る。会社の質は二つの顔に分かれる。
水処理薬剤は、浄水場が薬品を一度決めると、品質の安定と納入の確実さを理由に簡単には変えない。新しい超高塩基度 PAC は、少ない量で効き、汚泥も減らせるとして、シェアを伸ばしている。ただし入札も多く、大明化学工業や日本軽金属などの競合がいる。堀、つまり他社がまねできない強みは、あっても強くはない。
肥料は堀が薄い。国内の同業が多く、原料は海外市況で決まり、農家の購買力にも縛られる。2025 年に利益が倍増したのは、原料高の転嫁が進んだ一年の効果で、毎年続く稼ぎとは言えない。
資本の稼ぎは並み以下だ。ROE は 2025 年 12 月期に 8% 前後だが、過去 10 年の中央値は 6% 台。自己資本比率は 65% と厚く、純現金は 63 億円ある。利益のほとんどを内部に留めてきたため、借金ゼロでも ROE は上がらない。
経営の評価は分かれる。評価できるのは、水処理への集中投資だ。本社工場だけで約 30 億円を投じる。疑わしいのは、厚い現金を長く遊ばせてきた点だ。配当は 2025 年に特別配当まで出したが、性向はなお低い。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
多木化学の土俵は三つあり、市場の見通しは別々だ。
水処理薬剤は、国内の上下水道と工場排水が顧客だ。人口は減るが、水の処理は止められない。数量は成熟し、10 年では実質で横ばい前後と見る。伸びるのは、古い薬剤から高性能の PAC への切り替えと、シェアの奪い合いの部分だ。多木化学は国内 30% 超の首位だと言い、50% を目標に掲げる。競合は大明化学工業、日本軽金属、ソーダニッカなどで、価格を下げて取りに来る余地は残る。
肥料は国内の需要が縮む。化学肥料の国内需要は 2016 年から 2022 年で約 1 割減った。政府のみどりの食料システム戦略は、化学肥料の使用を 2050 年までに 3 割減らす目標を掲げる。担い手の農家も減る。一方、2026 年は中東情勢の悪化で尿素やリン安が急騰し、ホクレンは 2026 肥料年度の価格を平均 24.7% 引き上げた。値上げで売上は膨らむが、買う側の購買力は弱り、数量は落ちやすい。
機能性材料は、自動車や電子の部材向けで、需要は景気に連れて動く。スマートフォン向けの酸化タンタルは競争で苦しい。
不動産の賃貸は、地方の商業施設の賃料で、物価に連れて伸びにくい。人口減の地方では、床面積を絞る「コンパクトシティ化」が現実的な道だ。
全体としては、成長の乏しい成熟市場に、水処理という小さな成長の芽がある構図である。
資本政策と M&A
還元は増えているが、まだ控えめだ。配当は 2025 年 12 月期に特別配当を含めて前期比 3 割強増え、2026 年も小幅に増える予想だ。2026 年の配当総額は 6〜7 億円で、性向は 25% 前後になる。自社株買いの実績は確認できなかった。
中計 2028 は、最終年度の売上 440 億円・営業利益 35 億円・ROE 7% 以上を掲げる。2026 年 2 月に上方修正した目標だ。「機動的な株主還元による資本効率の最適化」にも触れるが、還元の数値目標は示していない。
成長への投資は水処理に集中している。本社工場で約 30 億円(2028 年 7 月完成)、九州工場で 3 億円(2027 年 3 月完成)を投じる。医療用材料、コラーゲン、バカマツタケの事業化も掲げるが、収益への貢献はまだ小さい。
M&A は洛東化成工業が代表例で、2025 年 2 月に子会社にした。中計は国内外の M&A や海外進出も狙う。買収の値段が高いと、ROE は下がる。
株主では、2026 年 7 月にアセット・バリュー・インベスターズが 5% を超え、8 月に 6.08% へ上げた(純投資目的)。厚い現金に目をつけた動きだろう。外部の推計では、10 年以内の TOB(株式公開買い付け)や買収の確率は 2 割弱とされる。
政策保有株や賃貸不動産の含み益は、今回の調査では確認できていない。価値に足していない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
水処理薬剤は、会社の利益の核として、さらに伸びる。超高塩基度 PAC は少ない量で効き、汚泥も減らせる。浄水場は一度採用した薬剤を替えにくく、シェアは取ったら守れる。本社工場の約 30 億円の増設が 2028 年に完成し、九州の能力も 2 倍になる。会社が掲げる国内シェア 50% が実現すれば、化学品の数量は今の 1.4 倍を超える。
2025 年 12 月期の営業利益は 32 億円と、中計の最終年度目標の 35 億円に近づいた。ROE は 8.1% と目標の 7% を先に超え、会社は目標を上方修正した。経営が計画を超えて動いている証拠だ。
洛東化成工業の連結は 9 か月しか入っていない。2026 年には通年で寄与し、機能性材料の自動車向けも伸びる。医療用材料、コラーゲン、バカマツタケといった新事業が芽を出せば、利益率は上がる余地がある。
最大の上振れ材料は資本だ。純現金は 63 億円あり、自己資本比率は 65% に達する。アセット・バリュー・インベスターズが 6% を超えて株を持った。還元の引き上げを迫る株主が増えれば、配当性向が 4 割に近づく。ROE は 8% を超えて資本コストを上回る。
さらに、厚い現金を持つ会社として TOB の対象になる可能性もある。10 年で利益は名目で 1.8 倍、時価総額は今の 1.5 倍に達する道が見える。
慎重な見方
足元の利益は、肥料の原料高に伴う値上げで膨らんだ面が大きい。アグリの利益は 2025 年に倍増したが、原料価格が落ち着けば、この上乗せは消える。会社自身が 2026 年の営業利益を 24.5 億円、前年比 23% 減と予想している。
肥料の需要は細る。国内の化学肥料の需要は 6 年で約 1 割減った。みどりの食料システム戦略は 2050 年までに 3 割の削減を掲げる。2026 年の急騰で農家の購買力は弱り、買い控えが数量を削る。肥料は、会社の側から見ても伸ばしにくい事業だ。
水処理にも安泰はない。PAC は入札の案件が多く、競合の大明化学工業や日本軽金属が値引きで取りに来れば、利益率は下がる。国内の水需要は人口減で細る。シェア 50% の目標は会社自身の申告で、第三者の統計では裏づけがない。
資本の使い方が弱点だ。純現金 63 億円と自己資本比率 65% は、安全というより、働いていない資本である。ROE は過去 10 年の中央値で 6% 台。資本コストを下回る会社の溜めた利益は額面どおりの価値を持たない。10 年後の中立でも ROE は 6% 前後だ。
今の時価総額は、2025 年の特別に良い純利益に対して、すでに 15 倍の水準にある。2026 年の予想純利益に対しては 18 倍を超える。この値段で買うなら、株主はほとんど何も得られない。
どちらに重みを置いたか
強気の見方は、水処理の増設と、還元が増える期待に立つ。慎重な見方は、肥料の山からの反落と、資本コストを下回る ROE に立つ。後者は、会社自身の減益予想と、10 年の中立の計算から支えられ、前者は計画と増設の実行が条件になる。
楽観とやや楽観の合計は 29%、やや悲観と悲観の合計は 39% とし、わずかに慎重側に寄せた。理由は、ROE が資本コストを下回る会社には、利益の質の高さまでは認められないことと、肥料の需要が構造的に縮むことだ。ただし水処理の首位と厚い財務があるため、悲観の確率は 12% にとどめた。
総合は今の時価総額を大きく下回り、5 段階では割高になった。
10 年後の 5 つの筋書き(2035/12 期)
確率で加重した株価時価総額 5,364 円448 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,178 円98 億円)。 今の値に割り戻すと 3,286 円274 億円、今との差 −39.9%、 期待の年率 +1.8%(資本コスト 8.0%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 8,927 円745 億円 | 2,025 円169 億円 | +100.2% | +7.2% | 876 円73 億円 |
| やや楽観 | 21% | 7,114 円594 億円 | 1,462 円122 億円 | +56.8% | +4.6% | 1,801 円150 億円 |
| 中立 | 32% | 6,072 円507 億円 | 1,198 円100 億円 | +32.9% | +2.9% | 2,326 円194 億円 |
| やや悲観 | 27% | 3,349 円280 億円 | 886 円74 億円 | −22.6% | −2.5% | 1,144 円95 億円 |
| 悲観 | 12% | 2,570 円215 億円 | 719 円60 億円 | −39.9% | −5.0% | 395 円33 億円 |
| 加重平均 | 100% | 5,364 円448 億円 | 1,178 円98 億円 | +19.6% | +1.8% | 6,541 円546 億円 |
今の株価時価総額 5,470 円457 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.0% を下回るほど割高。
楽観 8% 水処理が国内の半分を握り、還元も大きく増える 利益 58 億円 · PER 12.9 倍 · 株価時価総額 8,927 円745 億円
本社・九州・千葉の増設が完成し、超高塩基度 PAC の比率が高まる。国内シェアは会社の目標に近い 5 割に達し、化学品の数量は今の 1.45 倍になる。高性能品の値段が上乗せされ、化学品の営業利益率は 13% に上がる。肥料は原料の安定と環境配慮型の製品で数量を保ち、利益率は 5% 台に乗る。コラーゲンや医療用材料も、小さいながら黒字で伸びる。株主からの働きかけもあり、配当性向は 4 割に上がる。ROE は 8.5% と資本コストを上回る。ただし、売上の約 7 割が化学品と肥料で、景気と原料の波は残る。10 年で営業利益は今の 2 倍強になり、会社にとっての最良の 10 年だ。
- アグリ(肥料):数量 3,000(肥料の出荷の実質額(今の値段の億円。トン数の開示はなく、売上を数量の代わりに置く))× 価格 0.05(値段の指数(今を 1 とする。名目))→ 売上 159 億円・営業利益 9 億円。益率 5.5%
- 化学品(水処理薬剤・機能性材料):数量 2,610(出荷の実質額(今の値段の億円)。水処理薬剤は国内 PAC 市場 × シェアの伸びで考える)× 価格 0.15(値段の指数(今を 1 とする。名目))→ 売上 399 億円・営業利益 52 億円。益率 13.0%
- 不動産(賃貸):数量 13.2(賃貸収入の実質額(今の値段の億円))× 価格 1.25(賃料の指数(今を 1 とする。名目。契約が固定的で物価に追いつきにくい))→ 売上 16 億円・営業利益 9 億円。益率 54.0%
- その他(建材・石油・運輸):数量 85.9(出荷・取扱の実質額(今の値段の億円))× 価格 1.34(値段の指数(今を 1 とする。名目))→ 売上 115 億円・営業利益 8 億円。益率 6.5%
倍率:事業の純利益 58 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.5% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.2%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.9 倍。全体の PER 12.87 倍、時価総額 745 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:水処理のシェア拡大、洛東化成の通年寄与、還元の大幅な引き上げがそろう必要があり、起きにくい。ただし増設の実行と株主構成の変化で、可能性は残る。
やや楽観 21% 水処理が着実に伸び、肥料の縮小を補う 利益 48 億円 · PER 12.5 倍 · 株価時価総額 7,114 円594 億円
水処理のシェアは 4 割台まで上がり、化学品の数量は今の 1.3 倍になる。機能性材料は自動車向けが伸び、酸化タンタルの減少を補う。化学品の営業利益率は 12% を少し超える。肥料は需要の減少が続き、数量は 6% 減るが、環境配慮型の製品で利益率は 4.5% を保つ。不動産は小さくなりながら高い採算を保つ。配当性向は 3 割台に上がり、自社株買いも少し入る。ROE は 7% に近づくが、資本コストには届かない。会社が掲げる中計の数字を、時間をかけて超えていく筋書きだ。大明化学工業や日本軽金属との競争は続くが、品質で選ばれる高性能品が値引きを防ぐ。肥料の縮小は避けられないものの、水処理の増益がそれを上回り、全社の営業利益は今の 1.7 倍ほどになる。不動産の賃貸は小さな安定要因として残り、機能性材料も自動車向けが下支えする。
- アグリ(肥料):数量 2,820(肥料の出荷の実質額(今の値段の億円。トン数の開示はなく、売上を数量の代わりに置く))× 価格 0.05(値段の指数(今を 1 とする。名目))→ 売上 149 億円・営業利益 7 億円。益率 4.5%
- 化学品(水処理薬剤・機能性材料):数量 2,376(出荷の実質額(今の値段の億円)。水処理薬剤は国内 PAC 市場 × シェアの伸びで考える)× 価格 0.15(値段の指数(今を 1 とする。名目))→ 売上 358 億円・営業利益 44 億円。益率 12.2%
- 不動産(賃貸):数量 12.8(賃貸収入の実質額(今の値段の億円))× 価格 1.22(賃料の指数(今を 1 とする。名目。契約が固定的で物価に追いつきにくい))→ 売上 16 億円・営業利益 8 億円。益率 53.0%
- その他(建材・石油・運輸):数量 83.3(出荷・取扱の実質額(今の値段の億円))× 価格 1.34(値段の指数(今を 1 とする。名目))→ 売上 112 億円・営業利益 7 億円。益率 5.8%
倍率:事業の純利益 48 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.0% が k 8.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.5 倍。全体の PER 12.5 倍、時価総額 594 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:水処理の増設と、中計の線に近い動きの延長にある。会社が目標を前倒しで超えた実績があり、中立の次に起きやすい。
中立 32% 中立:水処理の増販で利益は 4 割増えるが、ROE は 6% 前後にとどまる 利益 40 億円 · PER 12.5 倍 · 株価時価総額 6,072 円507 億円
水処理は新しい PAC への切り替えで、シェアを少し上げる。化学品の数量は 10 年で 2 割増え、値段は物価並みに上がる。営業利益率は 11.5% と今の水準で保つ。肥料は農家の減少と環境政策で数量が 1 割強減り、物価の分だけ値上げして売上は 1 割ほど増える。利益率は 4% と、原料高の値上げで膨らんだ 2025 年より低い水準に戻る。不動産は賃貸物件が絞られて数量が減り、賃料は物価に届かない。全社の営業利益は 46 億円、純利益は 40 億円になる。配当性向は 3 割とし、現金はなお積み上がる。ROE は 6% 前後と、資本コストを下回る。
- アグリ(肥料):数量 2,640(肥料の出荷の実質額(今の値段の億円。トン数の開示はなく、売上を数量の代わりに置く))× 価格 0.05(値段の指数(今を 1 とする。名目))→ 売上 140 億円・営業利益 6 億円。益率 4.0%
- 化学品(水処理薬剤・機能性材料):数量 2,160(出荷の実質額(今の値段の億円)。水処理薬剤は国内 PAC 市場 × シェアの伸びで考える)× 価格 0.15(値段の指数(今を 1 とする。名目))→ 売上 325 億円・営業利益 37 億円。益率 11.5%
- 不動産(賃貸):数量 12.5(賃貸収入の実質額(今の値段の億円))× 価格 1.20(賃料の指数(今を 1 とする。名目。契約が固定的で物価に追いつきにくい))→ 売上 15 億円・営業利益 8 億円。益率 52.0%
- その他(建材・石油・運輸):数量 81.6(出荷・取扱の実質額(今の値段の億円))× 価格 1.34(値段の指数(今を 1 とする。名目))→ 売上 109 億円・営業利益 6 億円。益率 5.5%
倍率:事業の純利益 40 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 6.1% が k 8.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.5 倍。全体の PER 12.5 倍、時価総額 502 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:肥料の縮小と水処理の伸びが釣り合う中心の見方。会社の減益予想と、中計の増益の線の間に位置し、業種ノートの「機能材は堅いが、汎用は価格競争」とも整合する。
やや悲観 27% 肥料が崩れ、水処理も値引きで稼ぎが細る 利益 26 億円 · PER 9.0 倍 · 株価時価総額 3,349 円280 億円
肥料は農家の購買力の低下と環境政策で数量が 2 割減り、原料高を価格に乗せきれず、利益率は 2.5% に落ちる。水処理は競合の値引きで値段が物価に届かず、数量も 1 割ほどしか増えない。洛東化成の取り込みは遅れる。化学品の営業利益率は 10% を割る。本社費と物価で増える人件費が利益を食い、全社の営業利益は 30 億円足らずになる。会社は配当を守るが、増やす余力はなく、性向は 3 割弱にとどまる。ROE は 4% 台で、資本コストを大きく下回る。厚い現金は残るが、それ以上の価値は生まない。肥料の整理で一時的な損失は出るものの、会社が傾くほどではない。水処理の首位という看板は残るため、競争が激しくても赤字には落ちない。ただ、成長の芽は乏しく、株主に回る利益は今より細る。
- アグリ(肥料):数量 2,400(肥料の出荷の実質額(今の値段の億円。トン数の開示はなく、売上を数量の代わりに置く))× 価格 0.05(値段の指数(今を 1 とする。名目))→ 売上 122 億円・営業利益 3 億円。益率 2.5%
- 化学品(水処理薬剤・機能性材料):数量 1,944(出荷の実質額(今の値段の億円)。水処理薬剤は国内 PAC 市場 × シェアの伸びで考える)× 価格 0.14(値段の指数(今を 1 とする。名目))→ 売上 275 億円・営業利益 27 億円。益率 9.8%
- 不動産(賃貸):数量 11.8(賃貸収入の実質額(今の値段の億円))× 価格 1.15(賃料の指数(今を 1 とする。名目。契約が固定的で物価に追いつきにくい))→ 売上 14 億円・営業利益 7 億円。益率 50.0%
- その他(建材・石油・運輸):数量 75.6(出荷・取扱の実質額(今の値段の億円))× 価格 1.30(値段の指数(今を 1 とする。名目))→ 売上 98 億円・営業利益 4 億円。益率 4.0%
倍率:ROE 4.2% が k 8% 以下なので、PER の上限は 1÷k = 12.9 倍。稼ぎが細り、肥料の赤字を水処理が支える構図で、上限の約 7 割の 9.0 倍に置いた。
確率:肥料の需要減と原料高の転嫁の遅れは、すでに起きている現実。競合の値引きと合わせて、中立の次に重い確率を置いた。
悲観 12% 肥料から撤退し、水処理も価格競争に巻き込まれる 利益 8 億円 · PBR 0.5 倍 · 株価時価総額 2,570 円215 億円
肥料は需要の縮小と原料高で赤字が続き、工場の閉鎖と事業の縮小に追い込まれる。水処理は競合の増設と値引きで利益率が落ち、洛東化成ののれんも減損する。数量は今の 0.9 倍、値段は物価に遠く及ばない。営業利益は 12 億円ほどまで落ち、特別損失も出る。配当は守るが、内部留保が目減りする。もはや、安定して稼ぐ優良な会社とは見られない。それでも、現金、水処理の設備、土地、賃貸物件という資産が残り、値段の下支えになる。株価は稼ぐ力ではなく、持っている資産の価値で決まる。肥料と買収の減損が重なり、自己資本は利益を積み上げても増えない。水処理の首位という看板があっても、値崩れが続けば利益は戻らない。配当を守るために内部の現金が少しずつ減る、そういう苦しい 10 年だ。
- アグリ(肥料):数量 1,950(肥料の出荷の実質額(今の値段の億円。トン数の開示はなく、売上を数量の代わりに置く))× 価格 0.05(値段の指数(今を 1 とする。名目))→ 売上 89 億円・営業利益 0 億円。益率 0.0%
- 化学品(水処理薬剤・機能性材料):数量 1,620(出荷の実質額(今の値段の億円)。水処理薬剤は国内 PAC 市場 × シェアの伸びで考える)× 価格 0.13(値段の指数(今を 1 とする。名目))→ 売上 209 億円・営業利益 15 億円。益率 7.0%
- 不動産(賃貸):数量 10.5(賃貸収入の実質額(今の値段の億円))× 価格 1.10(賃料の指数(今を 1 とする。名目。契約が固定的で物価に追いつきにくい))→ 売上 12 億円・営業利益 5 億円。益率 45.0%
- その他(建材・石油・運輸):数量 64.4(出荷・取扱の実質額(今の値段の億円))× 価格 1.20(値段の指数(今を 1 とする。名目))→ 売上 77 億円・営業利益 2 億円。益率 2.0%
倍率:事業の稼ぎは純利益 10 億円足らず(k 8% で割っても 130 億円程度)で、稼ぐ力では値が付かない。売れる資産の税後 215 億円(今の自己資本 429 億円の約 5 割)を今の自己資本に掛け、0.5 倍に置いた。減損と特別損失で、10 年の利益を足しても自己資本は 429 億円にとどまる。
確率:肥料の構造的な縮小に、水処理の値崩れと買収の減損が重なる筋書き。厚い財務があり会社が傾くことは考えにくいが、無視できない確率を置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
アグリ(肥料)
化成肥料などを農協・流通経由で農家へ売る。原料は尿素・リン安・カリなどの輸入に頼り、値段は国際市況に連れて動く。
| 数量肥料の出荷の実質額(今の値段の億円。トン数の開示はなく、売上を数量の代わりに置く) | 価格値段の指数(今を 1 とする。名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 3,000 | 0.04 | 119 | 5 |
| 10 年後 中立 | 2,640 | 0.05 | 140 | 6 |
取り方:2025 年 12 月期のアグリ売上 118.6 億円、セグメント利益 4.85 億円(決算説明)。出荷トンの開示がないため、売上を今の値段の実質額と置いた。国内の化学肥料需要は 2016 年から 2022 年で約 1 割減っており、農家の減少と環境政策でさらに細る。中立の 10 年は数量 0.88 倍、値段は物価並みの 1.34 倍とした。2025 年は原料高に伴う価格是正で利益が倍増した年で、利益率 4.1% はこの事業の山とみる。
化学品(水処理薬剤・機能性材料)
浄水場や排水処理に使う凝集剤(PAC、硫酸バンド)と、酸化タンタル・セラミック繊維用の塩化アルミニウムなど機能性材料。会社の利益の中心。
| 数量出荷の実質額(今の値段の億円)。水処理薬剤は国内 PAC 市場 × シェアの伸びで考える | 価格値段の指数(今を 1 とする。名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 1,800 | 0.11 | 202 | 23 |
| 10 年後 中立 | 2,160 | 0.15 | 325 | 37 |
取り方:化学品売上 202.1 億円、セグメント利益 23.1 億円(うち水処理薬剤 134.2 億円、機能性材料 66.2 億円)。2025 年 2 月に連結した洛東化成工業は 9 か月分しか入っていない。数量の開示はなく売上を実質額と置いた。国内 PAC は会社申告で 30% 超の首位、超高塩基度品の増強でシェア 50% を狙う。国内の水需要は人口減で細るので、伸びはすべてシェアと新用途から出す。
不動産(賃貸)
自社の土地を使ったショッピングセンターなどの賃貸。小さいが利益率は 5 割を超える。
| 数量賃貸収入の実質額(今の値段の億円) | 価格賃料の指数(今を 1 とする。名目。契約が固定的で物価に追いつきにくい) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 13.2 | 1.00 | 13 | 7 |
| 10 年後 中立 | 12.5 | 1.20 | 15 | 8 |
取り方:不動産売上 13.15 億円、セグメント利益 7.21 億円。賃貸物件の減少で 2025 年は減収減益。中計は不動産の「コンパクトシティ化」を掲げ、床面積を絞って質を上げる方向。10 年は数量 0.95 倍、賃料は物価を下回る 1.2 倍と置いた。
その他(建材・石油・運輸)
石こうボード(建材)、石油製品の販売、グループ内外の運送。利益率は低い。
| 数量出荷・取扱の実質額(今の値段の億円) | 価格値段の指数(今を 1 とする。名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 85.9 | 1.00 | 86 | 5 |
| 10 年後 中立 | 81.6 | 1.34 | 109 | 6 |
取り方:建材 38.0 億円(利益 1.5 億円)、石油 19.6 億円(同 0.16 億円)、運輸 28.3 億円(同 3.1 億円)の合計 85.9 億円、利益 4.8 億円。石油は国内の燃料需要の縮小、建材は新築着工の減少を受けるので、数量は 0.95 倍と置いた。
リスクと懸念
肥料の原料高と需要の縮小
尿素やリン安は輸入に頼り、2026 年は中東情勢で急騰している。値上げが遅れれば利益が削られ、遅れずに上げれば農家が買い控える。国内の化学肥料の需要は 6 年で約 1 割減っており、環境政策でさらに縮む。2025 年の肥料の利益倍増は、この波の山にあたる。
水処理の価格競争
PAC は入札の案件が多く、大明化学工業、日本軽金属などが値引きで取りに来れば、利益率が下がる。会社が掲げる国内シェア 50% は、第三者の統計で裏づけられていない。増設が完成してから需要が伴わなければ、稼働率が下がる。
資本が働かない
自己資本比率は 65%、純現金は 63 億円。利益のほとんどを溜め込むため、ROE は過去 10 年の中央値で 6% 台にとどまる。溜めた利益は、資本コストを超えて稼がなければ額面の価値がない。配当性向が 2 割台のままなら、この状態は続く。
洛東化成工業など買収の実行
2025 年 2 月に子会社化した洛東化成工業は、9 か月分しか連結されておらず、実力はこれから見える。中計は M&A と海外進出を掲げるが、高い値段で買うと ROE が下がり、のれんの減損も出る。
機能性材料の競争
スマートフォン向けの高純度酸化タンタルは、競争の激化で売上が減った。電子部材の需要は景気と中国勢との競争に左右される。自動車向けのセラミック繊維用の伸びが、これを補えるかどうかが分かれ目になる。
地方の不動産と全社の費用
不動産の賃貸は、賃貸物件の減少で 2025 年に減収減益だった。賃料は物価に追いつきにくい。また本社費など全社の費用が約 8 億円あり、物価で増えていく。売上が伸びても、この固定的な負担が利益率を押し下げる。
今後の分かれ目
- 本社工場の増設(2028 年 7 月完成)が予定どおり動き、PAC の国内シェアが 4 割を超えたら
- 化学品の数量の前提をやや楽観側に近づける。増設後に稼働率が上がらなければ、やや悲観側の確率を上げる。
- 肥料の原料価格が落ち着き、2026 年の減益予想が上振れたら
- 原料高の転嫁の遅れが小さかったことになる。ただし肥料の利益率が 4% を超えて定着するかは別問題で、中立は変えない。
- 配当性向の引き上げや自社株買いの数値目標が、次の中計で示されたら
- 還元が総利益の 4 割を超えるなら、ROE の改善と合わせて楽観側に確率を移す。現金が積み上がり続けるなら、慎重側の見立てを強める。
- アセット・バリュー・インベスターズなど、株主からの働きかけや保有比率の上昇が続いたら
- 厚い現金の使い道が変わる可能性が高まる。還元の引き上げが確認できれば、上振れ側の確率を増やす。
- 洛東化成工業の損益が通年で見えて、のれんなどの減損が出たら
- 買収の質を疑い、やや悲観側の確率を上げる。黒字で定着すれば、化学品の利益率の前提を支える材料になる。
- 国内で化学肥料の使用量が政策目標を超えて減る動きが出たら
- 肥料の数量の前提を下げ、悲観側の確率を増やす。肥料の縮小に合わせた事業の整理が進めば、利益の質は上がる。
見ておくもの
- 超高塩基度 PAC の販売数量の比率(2030 年に水処理用の 5 割以上が会社目標)と、増設の稼働状況
- 2026 年 12 月期の営業利益(会社予想 24.5 億円)の達成度と、肥料の原料価格
- 配当性向と自社株買い、アセット・バリュー・インベスターズの保有比率の変化
- 洛東化成工業の通年の損益と、次の中計で示される M&A の方針
- 国内の化学肥料の出荷量と、ホクレン・全農の肥料価格の改定
倍率と資本コストの決め方
数量は実質、値段は物価 3% 込みの名目の指数で積んだ(肥料と水処理は 10 年 1.34 倍、不動産の賃料は 1.2 倍、悪い筋書きほど物価に届かない)。数量は売上をそのまま実質額に置いたので、率に物価を二重にかけていない。全社費用は 8.3 億円を 1.34 倍にした。資本コストは基本 7.5% に quality +0.25% を足した 7.75%。倍率は式から出し、ROE が k を下回る中立以下は 1÷k = 12.9 倍を上限にして利益の質で 7〜9 割に置いた。今の株価・過去の PBR・同業の PER は倍率の根拠にしていない。悲観は売れる資産の税後から置いた。純現金は分けず、事業の PER に含めた。リースは賃借料が小さく、2028 年の新基準で数字の形が変わる影響は軽微。最後に今の時価総額と比べ、大きな割高になった。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 13→12.87 倍・やや楽観 PER 11.6→12.5 倍・中立 PER 11→12.5 倍)。
資本コスト 8.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。