結論
第一稀元素化学工業は、車の排ガスをきれいにする触媒に使うジルコニウム系の素材を作る会社だ。売上の約6割がこの触媒向けで、国内では首位とされる。
筆者の結論は「割高」だ。本業の質は悪くないが、10年後に稼ぐ利益の見込みは今の時価総額を支えきれない。いちばん強気の筋書きでも、10年後の値段は今を上回るのがやっとだ。
稼ぎの源は、車1台ごとに入る素材の代金である。台数は電気自動車が増えるぶん細る。一方でハイブリッド車の普及と排ガス規制の強化が、1台あたりの使用量を支える。この綱引きの結果、触媒の売上は10年でほぼ横ばいか、物価ほどは伸びないと筆者は見る。
期待の持てる部分もある。燃料電池の電解質、半導体の研磨剤、人工関節の素材といった戦略分野だ。ただ、売上の1割台にすぎず、中期経営計画が掲げる「戦略分野で5割」には遠い。ここが育つ筋書きだけが、今の値段に届く。
もう一つ、ベトナムの原料工場がある。2025年に本格稼働し、原料の中国依存を下げた。これで利益は底を打ったが、自己資本が厚い割に稼ぎが小さい体質は変わっていない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点で、まず気になるのは「10年後もこの事業が今より強いか」だ。排ガス触媒は、車のエンジンが続く限り必要だが、電動化で緩やかに縮む。筆者は、縮む市場で値段を自分で決められない会社に、高い倍率を払う理由は見つからないと考える。
次に、稼いだお金の使い方を見る。自己資本は厚いが、そこから生まれる利益は小さい。利益が自己資本のコスト(資本コスト)に届かない会社は、ためた利益が額面どおりの価値を持たない。ベトナム工場の投資が実って、利益が持ち上がるかが焦点だ。
堀については、顧客の認定による長い取引と調達力は評価できる。ただ、値上げで利益率を押し上げられるほどの堀ではない。
最後に安全域だ。悲観の筋書きでも事業の売れる資産が一定の下支えになる点は救いだが、今の時価総額は、強気の筋書きの先まで織り込んでいる。払う値段に見合う余裕はない、というのが筆者の見立てだ。
何で稼ぐ会社か
主力は自動車の排ガス浄化触媒に使うセリア・ジルコニア系の複合酸化物で、酸素を出し入れして触媒の働きを助ける素材だ。完成車メーカーや触媒メーカーが顧客で、売上の約6割を占める。
二つ目は基盤分野で、売上の2割強。ブレーキ用の摩擦材、アルミ配管のろう付け材、耐火物、構造部材などにジルコニウム化合物を納める。ここも自動車向けが多いが、家電や産業用途にも広がっている。
三つ目が戦略分野で、売上の1割台半ばだ。半導体向けの研磨剤、積層セラミックコンデンサ向けの材料、車載電池の添加材、固体酸化物形燃料電池(SOFC)の電解質、人工関節などの生体材料がある。
すべての原料は、ジルコニウム鉱石から作る中間体のオキシ塩化ジルコニウム(ZOC)に行き着く。これを中国から買っていたため、ホーチミン市近郊に自前の工場を建てた。立ち上げが遅れて赤字と為替差損を生んだが、2025年7月に本格稼働し、今は原価を押し下げる側に回っている。
会社の開示は分野別の売上までで、分野ごとの利益は出していない。この点は読む側にとって見えにくい。
優良さと弱いところ
堀、つまり他社がまねしにくい強みは、素材の作り込みと顧客の認定にある。ジルコニアの結晶の組み方を用途ごとに変える技術は50年以上の蓄積があり、自動車メーカーの品質認定を一度通れば、取引は長く続きやすい。2025年には顧客が地政学リスクを嫌い、調達の確かな同社に注文を寄せた。
一方で、価格を自分で決める力は弱い。完成車メーカーは毎年原価低減を求め、原料が上がった時も転嫁には時間がかかる。主な競合はソルベイやネオ・パフォーマンス・マテリアルズなどの海外勢と中国の素材メーカーだと筆者は見るが、シェアの開示はない。
資本の使い方には課題がある。自己資本は約384億円と厚いのに、純利益は10年の中央値で25億円前後、ROE(自己資本に対する利益)の中央値は7%台にとどまる。ベトナム工場には大きな資金を入れ、減損も出した。この投資がようやく回収の局面に入ったところだ。
財務は健全だ。自己資本比率は約57%で、会社は40〜60%を守る方針を示している。一方、純有利子負債は約100億円あり、キャッシュが余っている会社ではない。経営の癖としては、政策保有株を少しずつ売って資本効率を上げる方向にある。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
需要の元は世界の内燃機関車の台数だ。ガソリン車とハイブリッド車(HV)は、排ガスを浄化する触媒を必ず積む。電気自動車(EV)は積まない。つまり、EVが増えるほど同社の主力は縮む。
ここ数年の動きは単純ではない。EVの伸びが鈍り、HVが急速に増えた。HVは触媒が要る上に、エンジンの稼働が断続的で触媒への負荷が高い。排ガス規制(欧州のユーロ7、中国の6b)も強まり、1台あたりの素材の使用量は減らない。足元で触媒分野の売上が計画を上回ったのは、この追い風と顧客の調達先の見直しが重なったためだ。
筆者は10年で見ると、世界の内燃機関車(HV含む)は今より1割強減ると置く。EVの比率が1割台から3割前後へ上がるからだ。一方、同社は日系の完成車メーカーに偏っているので、中国市場での日系の苦戦がそのまま響く。中国の素材メーカーが現地の完成車メーカーへ食い込む動きも、じわじわ効く。
戦略分野の市場はそれぞれ別々だ。SOFCはAIデータセンターの自家発電需要で追い風が出てきた。一方、車載電池材料はEVの減速で在庫調整が続き、半導体のSiC研磨剤も需要が波打つ。どれも立ち上がりの時期で、単価の競争が厳しい。
資本政策と M&A
還元は安定配当が中心で、利益が落ちた年も配当を大きくは削らなかった。2024年8月には15万株の自社株買いも行った。純利益の変動が大きいため、還元は純利益の約4割と置く。
資本政策の方針は、自己資本比率を40〜60%に保つことだ。政策保有株は取締役会で毎年点検し、一部を売って譲渡制限付株式の従業員制度の原資に充てている。売却の規模は開示がなく、この価値は純資産に足していない。
大株主は信託銀行、個人株主、従業員持株会、岩谷産業(3.6%)で、特定の親会社はない。買収の対象になる可能性はゼロではないが、時価総額が小さく、自動車向け素材という構造の弱さから、筆者は買収の上乗せを筋書きに入れていない。
ベトナム子会社には米ドル建ての貸付金がある。ドル円が動くたびに為替差損益が出るため、同社は貸付金を減らす方針だ。この点は純利益のぶれ要因として残る。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
HVの普及と排ガス規制の強化が、内燃機関車の台数減を食い止める。EVの伸びは鈍り、10年後も世界で7千万台超の内燃機関車が走る。同社は調達力と品質で顧客の信頼を得ており、地政学リスクを嫌う完成車メーカーからシェアを増やせる。1台あたりの素材の使用量も、規制強化で増える。
ベトナム工場は定常稼働で原価を下げ、触媒の利益率は15%近くまで戻る。2017年前後に営業利益率が20%を超えた実績があり、原料のコスト構造が改善した今、そこへ戻る余地はある。
戦略分野は大化けする。AIデータセンター向けのSOFC電解質、半導体の研磨剤、固体電池向けのジルコニア材料などが重なり、戦略分野の売上は3倍近くになる。利益率が15%まで上がれば、利益の柱が増え、事業の構成が変わる。
自己資本比率40〜60%の規律を守りながら、政策保有株の売却で資本効率も高まる。中期経営計画が掲げるROE11%は絵空事ではない、という主張だ。
慎重な見方
触媒の台数は、EVの浸透で確実に減る。中国ではEVとPHEVの比率がすでに高く、日系の完成車メーカーのシェア低下がそのまま同社の数量減になる。2025年3月期には、数量が内燃機関車の販売減を上回って落ちた。顧客が調達先を分散すれば、足元の好調は一時的な反動に終わる。
価格を決める力がない。完成車メーカーの原価低減要請は毎年かかり、中国の素材メーカーが安値で参入すれば、値上げどころか値下げ圧力が強まる。ベトナム工場の稼働が上がっても、そのぶんは顧客への値下げに消えやすい。
戦略分野は見通しが何度も外れてきた。燃料電池は顧客の撤退、車載電池は在庫調整、半導体は研磨剤の需要減で、いずれも計画を下回った。中期計画の構成比目標も、直近は進んでいない。
自己資本が厚い割に利益が小さい点は変わらない。資本コストに届かない利益に、高い倍率を払う理由は薄い。ドル建ての貸付金による為替差損も、利益を乱す。さらに、戦略分野の売上構成比を5割にするという目標は、足元で1割台半ばにとどまり、道のりは遠い。
どちらに重みを置いたか
筆者は慎重な見方に寄せる。強気の話は、ベトナム工場の改善と戦略分野の成長の両方がそろって初めて成り立つが、戦略分野は何度も計画を外してきた。触媒の数量減は緩やかでも確実に進む。
ただし、触媒の足元は強く、財務も堅い。倒産やひどい赤字を心配する会社ではない。そのため、悲観の確率は1割に抑え、やや悲観を2割台半ばに置いた。強気側は、合計で3割にとどめた。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 1,547 円374 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 380 円92 億円)。 今の値に割り戻すと 975 円236 億円、今との差 −44.3%、 期待の年率 +1.0%(資本コスト 8.0%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 3,358 円811 億円 | 629 円152 億円 | +127.8% | +8.6% | 399 円96 億円 |
| やや楽観 | 20% | 2,297 円555 億円 | 505 円122 億円 | +60.1% | +4.8% | 560 円135 億円 |
| 中立 | 35% | 1,485 円359 億円 | 368 円89 億円 | +5.9% | +0.6% | 649 円157 億円 |
| やや悲観 | 25% | 763 円184 億円 | 290 円70 億円 | −39.9% | −5.0% | 263 円64 億円 |
| 悲観 | 10% | 410 円99 億円 | 145 円35 億円 | −68.3% | −10.9% | 55 円13 億円 |
| 加重平均 | 100% | 1,547 円374 億円 | 380 円92 億円 | +10.1% | +1.0% | 1,926 円465 億円 |
今の株価時価総額 1,750 円423 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.0% を下回るほど割高。
楽観 10% 触媒が踏みとどまり、戦略分野が育つ 利益 61 億円 · PER 13.3 倍 · 株価時価総額 3,358 円811 億円
HVの普及と排ガス規制の強化で、世界の内燃機関車は7千万台超を保つ。同社は調達力を武器に、地政学リスクを嫌う顧客からシェアを少し取り、1台あたりの素材の使用量も規制で増える。触媒の利益率は15%に戻る。
基盤分野は家電や構造部材の需要で伸び、ブレーキ材の値上げも定着する。
戦略分野は大きく育つ。AIデータセンター向けのSOFC電解質、半導体の研磨剤、固体電池向けの材料が重なり、出荷量は3倍近くになる。利益率も15%まで上がり、利益の柱が二本になる。
ベトナム工場は原価を下げ続け、為替差損の原因だったドル建ての貸付金も減る。政策保有株の売却で資本効率が上がり、ROEは10%に届く。会社が掲げる11%に近づく筋書きだ。
- 自動車排ガス浄化触媒向け素材:数量 1,116(世界の内燃機関車(HV含む)の生産 × 当社素材の供給シェア(万台相当))× 価格 3.00(1台相当あたりの売上(千円、物価込みの名目))→ 売上 335 億円・営業利益 50 億円。市場7,200万台×シェア15.5%、1台あたり2.14千円×1.40倍、営業利益率15%
- 基盤分野(ブレーキ材・ろう付け材・耐火物など):数量 5,500(出荷量(トン、推定))× 価格 207(1トンあたり単価(万円、物価込みの名目))→ 売上 114 億円・営業利益 16 億円。5,500トン×150万円/トン×1.38倍、営業利益率14%
- 戦略分野(半導体・エネルギー・ヘルスケア):数量 2,200(出荷量(トン、推定))× 価格 912(1トンあたり単価(万円、物価込みの名目))→ 売上 201 億円・営業利益 30 億円。2,200トン×760万円/トン×1.20倍、営業利益率15%
倍率:事業の純利益 61 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.0% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.0%、10 年より先の名目の伸び g 3.0% g_long の理由で から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.3 倍。全体の PER 13.32 倍、時価総額 811 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:戦略分野が過去に何度も計画を外してきたため、強気の筋書きは1割にとどめた。実現には触媒の下支えと新分野の成長が同時に要る。
やや楽観 20% 触媒は小幅減で止まり、新分野が少し伸びる 利益 44 億円 · PER 12.5 倍 · 株価時価総額 2,297 円555 億円
HVが需要を支え、世界の内燃機関車は6,900万台ほどにゆるやかに減る。シェアは15%に上がる。値段は物価並みに上がるが、顧客の値下げ要請で伸びは抑えられる。触媒の利益率は14.5%と、足元より少し上だ。
基盤分野は横ばいに近い数量で、価格改定が効く。
戦略分野の出荷量は2倍強になる。SOFCとヘルスケアが伸び、半導体は波がありつつ拡大する。利益率は12.5%まで届く。
ベトナム工場は安定し、利益は底を脱する。ただ、自己資本が厚いままなのでROEは8%に届かない。政策保有株の売却は進むが、全体の資本効率を変えるほどの額ではない。
- 自動車排ガス浄化触媒向け素材:数量 1,035(世界の内燃機関車(HV含む)の生産 × 当社素材の供給シェア(万台相当))× 価格 2.87(1台相当あたりの売上(千円、物価込みの名目))→ 売上 297 億円・営業利益 43 億円。市場6,900万台×シェア15%、1台あたり2.14千円×1.34倍
- 基盤分野(ブレーキ材・ろう付け材・耐火物など):数量 5,300(出荷量(トン、推定))× 価格 204(1トンあたり単価(万円、物価込みの名目))→ 売上 108 億円・営業利益 14 億円。5,300トン×150万円/トン×1.36倍
- 戦略分野(半導体・エネルギー・ヘルスケア):数量 1,700(出荷量(トン、推定))× 価格 889(1トンあたり単価(万円、物価込みの名目))→ 売上 151 億円・営業利益 19 億円。1,700トン×760万円/トン×1.17倍
倍率:事業の純利益 44 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.8% が k 8.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.5 倍。全体の PER 12.5 倍、時価総額 555 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:触媒の足元は強く、財務も堅い。新分野が計画の半分でも伸びれば成り立つ筋書きとして、2割を置いた。
中立 35% 触媒は横ばいに近く、新分野は小粒 利益 29 億円 · PER 12.5 倍 · 株価時価総額 1,485 円359 億円
世界の内燃機関車は6,600万台に減るが、同社のシェアは13.5%を保つ。電動化の進みと、中国での日系の苦戦で数量は2割弱減る。値段は顧客の原価低減要請に押され、10年で1.30倍にとどまる。触媒の売上は250億円弱で、利益率は13%だ。
基盤分野はほぼ横ばいの数量で、物価並みの値上げを通す。
戦略分野は出荷量が1.7倍になるが、単価の競争もあり、利益率は9%にとどまる。
営業利益率は10%台前半で、ベトナム工場の改善が利益に出る。ただ自己資本が厚く、ROEは5%台。利益が資本コストに届かない状態が続く。
- 自動車排ガス浄化触媒向け素材:数量 891(世界の内燃機関車(HV含む)の生産 × 当社素材の供給シェア(万台相当))× 価格 2.79(1台相当あたりの売上(千円、物価込みの名目))→ 売上 248 億円・営業利益 32 億円。市場6,600万台×シェア13.5%、1台あたり2.14千円×1.30倍。EV比率の上昇で台数は減り、原価低減要請で値段は物価に届かない
- 基盤分野(ブレーキ材・ろう付け材・耐火物など):数量 5,000(出荷量(トン、推定))× 価格 201(1トンあたり単価(万円、物価込みの名目))→ 売上 101 億円・営業利益 12 億円。5,000トン×150万円/トン×1.34倍。物価並みに転嫁
- 戦略分野(半導体・エネルギー・ヘルスケア):数量 1,300(出荷量(トン、推定))× 価格 874(1トンあたり単価(万円、物価込みの名目))→ 売上 114 億円・営業利益 10 億円。1,300トン×760万円/トン×1.15倍。半導体研磨剤や電池材料は量産で単価が下がりやすく、物価ほど上がらない
倍率:事業の純利益 29 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 5.4% が k 8.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.5 倍。全体の PER 12.5 倍、時価総額 359 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:触媒の数量は緩やかに減り、値段は物価に届かない。新分野は伸びるが全体を変えるほどではない。会社の中計(2029年3月期ROE5%)とも近い。
やや悲観 25% 触媒でシェアを落とし、新分野が伸びない 利益 15 億円 · PER 7.5 倍 · 株価時価総額 763 円184 億円
世界の内燃機関車は6,000万台に減り、同社のシェアも12.5%に落ちる。中国の完成車メーカーでは現地の素材メーカーが優先され、日系向けの数量が細る。値段は値下げ要請で10年1.22倍にとどまり、触媒の利益率は10.5%に下がる。
基盤分野も自動車向けの減少で数量が1割減る。
戦略分野は出荷量が1割余り増えるだけで、燃料電池や電池材料の立ち上がりは遅れ、利益率も6%にとどまる。
営業利益はおよそ28億円で、ベトナム工場の稼働率が下がると固定費の重さが効く。自己資本は厚いまま、ROEは3%まで下がる。
- 自動車排ガス浄化触媒向け素材:数量 750(世界の内燃機関車(HV含む)の生産 × 当社素材の供給シェア(万台相当))× 価格 2.61(1台相当あたりの売上(千円、物価込みの名目))→ 売上 196 億円・営業利益 21 億円。市場6,000万台×シェア12.5%、1台あたり2.14千円×1.22倍
- 基盤分野(ブレーキ材・ろう付け材・耐火物など):数量 4,500(出荷量(トン、推定))× 価格 195(1トンあたり単価(万円、物価込みの名目))→ 売上 88 億円・営業利益 10 億円。4,500トン×150万円/トン×1.30倍
- 戦略分野(半導体・エネルギー・ヘルスケア):数量 900(出荷量(トン、推定))× 価格 798(1トンあたり単価(万円、物価込みの名目))→ 売上 72 億円・営業利益 4 億円。900トン×760万円/トン×1.05倍
倍率:ROE約3.1%は資本コストに大きく届かない。RONICは約5.8%、g 2.5%で正当化PERは約9.5倍、上限1÷k=11.8倍。稼ぐ力が弱いので上限の6割強に置いた。(2026-10-22 の式の直しで機械で置き直し、今は PER 7.5 倍・時価総額 115 億円。上の倍率は置き直す前の値)
確率:EVの浸透と中国勢の食い込みは、すでに数字に出ている。戦略分野が過去に計画を外してきた実績も踏まえ、慎重な見方が強いと見て2割台半ばに置いた。
悲観 10% 構造的に負け、自己資本の帳簿価値も傷む 利益 0 億円 · PBR 0.3 倍 · 株価時価総額 410 円99 億円
EVの比率が世界で4割を超え、世界の内燃機関車は5,000万台に減る。中国では日系の素材は使われなくなり、同社のシェアも10%に落ちる。値段は中国勢の安値に引きずられ、10年1.10倍にとどまる。触媒の利益率は3%まで落ちる。
基盤分野も自動車向けの需要が縮み、利益率は7%に下がる。
戦略分野は大きくならず、赤字を抜けられない。
ベトナム工場は稼働率が下がって、固定費が利益を食う。減損で自己資本も減る。営業利益はほぼゼロ、純利益はわずかな黒字から赤字で、配当も大きく減らす。会社は工場や政策保有株を売って立て直しを図る。
- 自動車排ガス浄化触媒向け素材:数量 500(世界の内燃機関車(HV含む)の生産 × 当社素材の供給シェア(万台相当))× 価格 2.36(1台相当あたりの売上(千円、物価込みの名目))→ 売上 118 億円・営業利益 4 億円。市場5,000万台×シェア10%、1台あたり2.14千円×1.10倍
- 基盤分野(ブレーキ材・ろう付け材・耐火物など):数量 4,000(出荷量(トン、推定))× 価格 188(1トンあたり単価(万円、物価込みの名目))→ 売上 75 億円・営業利益 5 億円。4,000トン×150万円/トン×1.25倍
- 戦略分野(半導体・エネルギー・ヘルスケア):数量 700(出荷量(トン、推定))× 価格 760(1トンあたり単価(万円、物価込みの名目))→ 売上 53 億円・営業利益 0 億円。700トン×760万円/トン×1.00倍、赤字からの脱却は遅れる
倍率:稼ぐ力はほぼゼロなので、稼ぐ力ではなく売れる資産から置く。減損後の自己資本330億円に0.30倍を掛けた額。営業利益がほぼゼロでEV÷営業利益は意味をなさず、純有利子負債103億円を引いた売れる資産で測る。
確率:EV化の加速と中国勢の浸食が同時に起きる筋書きだが、HVの追い風や財務の堅さから1割にとどめた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
自動車排ガス浄化触媒向け素材
触媒の働きを助けるセリア・ジルコニア系の酸素吸蔵材。完成車メーカー・触媒メーカー向け。
| 数量世界の内燃機関車(HV含む)の生産 × 当社素材の供給シェア(万台相当) | 価格1台相当あたりの売上(千円、物価込みの名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1,050 | 2.14 | 225 | 29 |
| 10 年後 中立 | 891 | 2.79 | 248 | 32 |
取り方:2026/03期の売上358億円のうち、開示の計画(213億円)と上方修正を踏まえ触媒を約225億円と推定。世界の内燃機関車を7,500万台、当社のシェアを14%(筆者の推定。開示なし)として1,050万台相当、1台あたり約2.1千円。営業利益は分野別の開示がなく、全社35億円を触媒29億・基盤10億・戦略1億・本社-5億と推定した。
基盤分野(ブレーキ材・ろう付け材・耐火物など)
摩擦材、アルミ配管のろう付け材、耐火物、構造部材向けのジルコニウム化合物。
| 数量出荷量(トン、推定) | 価格1トンあたり単価(万円、物価込みの名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 5,070 | 150 | 76 | 10 |
| 10 年後 中立 | 5,000 | 201 | 101 | 12 |
取り方:基盤分野の売上は2025/03期で76億円、2026/03期の計画73億円。平均単価を1トンあたり150万円(ジルコニウム化合物の一般的な水準から筆者が推定)として約5,070トンとした。トン数は開示がない。
戦略分野(半導体・エネルギー・ヘルスケア)
半導体用研磨剤、電池材料、SOFC・電解セル用電解質、人工関節などの生体材料。
| 数量出荷量(トン、推定) | 価格1トンあたり単価(万円、物価込みの名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 750 | 760 | 57 | 1 |
| 10 年後 中立 | 1,300 | 874 | 114 | 10 |
取り方:戦略分野の売上は2025/03期で51億円、計画54億円で、実績を57億円と推定。付加価値が高く平均単価を1トンあたり760万円と置き、約750トン。トン数は開示がなく筆者の推定。利益は小さいと見て1億円と置いた。
リスクと懸念
電動化で触媒の台数が減る
EVは排ガス触媒を使わない。EVの比率が想定より早く上がれば、売上の約6割を占める主力が縮む。HVの追い風がいつまで続くかも読みにくい。中国の変化が最も速い。
中国の素材メーカーの追い上げ
中国の完成車メーカーが自国の素材を優先すると、日系向けの数量が削られる。価格でも中国勢に引きずられ、値下げ要請が強まりやすい。
戦略分野が育たない
燃料電池、電池材料、半導体研磨剤は何度も計画を下回ってきた。主力の縮小を補えなければ、利益の底上げ役がなくなる。
ドル建て貸付金と為替
ベトナム子会社に貸した米ドル建ての資金が約1億ドルあり、円高になると為替差損が出る。2025年3月期にはこれが経常利益を大きく削った。
ベトナム工場の稼働と原料の調達
稼働が計画を下回ると固定費が重く効く。ジルコニウム鉱石やレアアースへの中国の輸出管理が強まれば、原料価格も跳ねる。
資本の使い方が改まらないリスク
自己資本が厚く利益が小さい状態が長引く。政策保有株の売却や還元強化が進まなければ、ROEは資本コストに届かないままになる。
今後の分かれ目
- 世界のHV比率が上がり、内燃機関車の台数が想定より減らない
- やや楽観の筋書きの確率を上げてよい。触媒の数量が踏みとどまり、利益の底が固くなる。
- 中国の完成車メーカー向けで日系素材の採用が続く、または新規採用が決まる
- シェアの低下を織り込んだ慎重な筋書きを見直し、中立に寄せる。
- 戦略分野の売上が2年続けて2桁増になり、利益が黒字化する
- 強気の筋書きの確率を上げる。燃料電池と半導体のどちらが牽引するかを確かめる。
- EVの比率が急に上がり、触媒の数量が前年から1割以上減る
- 慎重な筋書きの確率を上げる。基盤分野の自動車向けも落ちるかを見る。
- 政策保有株の大型売却と自社株買いが同時に発表される
- 資本効率の改善の裏づけとして評価する。ただし本業の利益が伸びない限り倍率は上げない。
見ておくもの
- 世界の内燃機関車(HV含む)の生産台数とEV比率
- 触媒分野の売上と数量の前年比
- 戦略分野の売上構成比と黒字化の時期
- ベトナム工場の稼働率と為替差損益
- 政策保有株の売却額と還元の方針
倍率と資本コストの決め方
倍率は今の株価ではなく、資本コスト8%と事業のROE、長期成長(3〜4%)から出した。10年中立のROEは5%台で資本コストに届かず、正当化PERは約10倍、上限は1÷k=11.8倍。今の時価総額の倍率には寄せていない。純利益÷営業利益は中立で0.60に置いた。過去10年の中央値は0.68だが、直近5期は為替差損と減損で0.47まで低く、ドル建て貸付金の為替が残るため中間に置いた。営業利益率は中立で10%台前半と、過去12年の山(21.7%)を大きく下回る。数字は開示のない分野別の利益と出荷量の推定を含む。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 12→13.32 倍・やや楽観 PER 10.5→12.5 倍・中立 PER 9.5→12.5 倍)。
資本コスト 8.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。