結論
日本ゼオンは、合成ゴムを祖業に、光学・半導体・医療向けの樹脂 COP(シクロオレフィンポリマー)で稼ぐ化学会社だ。売上の 5 割強はゴムだが、利益の主役は売上 3 割の高機能材料である。筆者の結論は、今の値段は 10 年の稼ぎにほぼ見合う適正圏で、割安とは言えない、というものだ。成長の果実は新工場が動く 2028 年度後半以降に出る。
COP は強い。先端半導体向けのシェアは、会社の説明で 100% である。ただ、新工場が動くのは 2028 年度の下期だ。それまでの利益は、縮むゴムと足踏みの電池材料に押さえられ、伸びは緩やかになる。
足元の利益は実力より良く見える。2026 年 3 月期の純利益は営業利益とほぼ同額だが、政策保有株の売却益が乗っている。毎年繰り返せる利益で測ると、今の PER は見かけより 2 割以上高い。
守りは堅い。自己資本比率は 69% で、純現金だ。景気が崩れても、資産が先に傷む会社ではない。
中立の筋書きでは、営業利益が 10 年で 360 億円台から 590 億円前後へ伸びる。物価の上昇が名目の利益を押し上げ、COP の数量が実質の伸びを足す。それでも先の利益を資本コストで割り引くと、今の時価総額とほぼ同じ水準にとどまり、安全域は厚くない。買い手に必要なのは、COP の成長が 2028 年度以降に会社の計画どおり出ることへの確信だ。筆者は、その確信を得る材料が出るまでは、安全域は薄いと見る。
結果、中立は 10 年後に ROE 9.0%・PER 12.5 倍で時価総額約 5,663 億円(それまでの還元約 2,446 億円は別)。確率で重みづけた本質価値は今の時価総額(約 4,478 億円)より -3.8%、「適正」。資本コストは基本 7.5% に quality(循環 +0.5%・値決め力 −0.5%)を足した 7.5%(quality 計 0%)。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点で、ゼオンは良い部分と普通の部分が同居する会社だ。
良いのは COP である。小さな市場を押さえ、顧客が乗り換えにくい。売上が伸びても追加の設備が少なくて済む期間が続けば、株主の手元に残る利益が増える型の事業だ。
ただし、COP は全社のごく一部にすぎない。残りのゴム事業は、景気と原料に利益を左右され、資本を入れても稼ぎが増えにくい。会社の資本の多くは、この部分に縛られている。
問うべきことは二つある。ゴムを縮めて出た資金が、COP の増設で資本コスト以上に回るか。政策保有株の売却資金を、割高な買収や自社株買いに使わないか。
筆者が評価するのは、選択と集中を言葉だけでなく、E-SBR や BR の停止という形で示している点だ。気になるのは、一時益の混じる最終利益が、実力より強く見えることである。
安全域は純現金と 69% の自己資本にある。下値は堅い。だが成長の期待が値段に先に入っているなら、買う側の余裕は薄い。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの柱は三つある。ゴム、COP、電池材料だ。
エラストマー素材は売上の 5 割強を占める。合成ゴムが中心で、ニトリルゴムやアクリルゴムも作る。ゴムの原料は石油精製で出るブタジエンやイソプレンで、ゼオンはこれを自社で取り出す技術を持つ。取り出した原料は、ほかの素材にも回る。ただ、ゴム事業の利益率は 7% に届かない。景気と原料の値動きで利益が振れる。タイヤの需要は車の販売と買い替えで動き、原料の値段はナフサ(粗製ガソリン)の市況に左右される。
高機能材料事業は売上の 3 割だが、利益では主役だ。COP は透明で、水分を吸わず、不純物が出にくい樹脂である。この性質が、液晶テレビの位相差フィルム、半導体向けの超クリーン樹脂、バイオ医薬品のシリンジといった「中身を汚したくない」用途で効く。会社は、こうした顧客が採用後に乗り換えにくい点(高いスイッチングコスト)を強みに挙げる。
電池材料は、リチウムイオン電池の電極をまとめる接着剤(バインダー)と、導電を助ける単層カーボンナノチューブ(CNT)だ。伸ばしたい分野だが、欧州の EV 不振で売上は計画に届いていない。
三つを数量と値段で分けると、性格の違いがはっきりする。ゴムは数量が減り、値段は物価並みに動く。COP は数量が伸び、値段は物価並みに上がる。電池は数量の読みが最も難しい。
高機能材料の売上は、会社の開示では 2026 年 3 月期に 1,242 億円で、前の期より増えた。同じ年にエラストマー素材は減収だった。事業の重心が、じわじわと動いているのだ。
残りの売上は、その他の事業と社内取引の消去で、利益はほぼゼロだ。
優良さと弱いところ
強みは、替えのきかない素材を狭い市場で握っていることだ。弱みは、その市場がまだ小さいことである。
COP の堀は、品質と採用実績にある。先端半導体向けのシェアは会社の説明で 100% で、医療向けも採用実績が長い。顧客が素材を変えるには安全性の再確認が要るため、価格が守られやすい。樹脂からフィルムまで自社で一貫して作れる点も、競合との差になる。競合には三井化学や欧州の TOPAS がいる。
ゴム事業に堀は薄い。S-SBR(タイヤ用の合成ゴム)は旭化成や、JSR のゴム事業を引き継いだ ENEOS マテリアルと競り、アジアでは韓国・中国勢が値段で攻める。ゼオンは住友化学とゴム事業を統合して規模をそろえたが、利益率は低いままだ。会社自身が、徳山工場で E-SBR を止め、ブタジエンゴムも 2028 年度以降に止める。ここは守りの事業である。ただし、止める判断ができる経営だという点は、評価してよい。
資本の稼ぎはまだ細い。ROE は 9% 台だが、一時益が支えた面がある。会社が掲げる 2028 年度の ROIC は 7.0% で、資本コストを大きく超える水準ではない。筆者は、COP の増設が資本コストを上回る稼ぎで回るかが、評価を分けると見る。
経営は株主の方を向き始めた。政策保有株を純資産比 14.7% から 5% 未満へ落とし、DOE(純資産に対する配当の割合)4% 以上を約束した。ただ、電池の目標を下げた過去もある。計画の数字は割り引いて読むのが安全だ。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
ゼオンの市場は二つの世界に分かれる。縮むか横ばいのゴムと、年に 1 割前後伸びうる先端材料だ。
ゴムの側は厳しい。国内の石油化学は設備が過剰で、統合と停止が進む。中国は汎用品の増設を続け、値崩れが常態になっている。2026 年は中東情勢でナフサやブタジエンの調達が詰まり、ゼオンも原料の量に合わせて生産した。需要不足ではなく供給の問題で、2027 年前半にかけて落ち着くとの見方が多い。価格が戻れば、足元の増益の一部は消える。
先端材料は追い風だ。COP の用途は三つある。液晶向けフィルムは、55 インチ以上の TV 出荷面積が年 7% 伸びる前提で、会社は氷見二上で 2027 年度に増強する。半導体向けは、微細化で不純物を嫌う工程が増え、市場は年 10% 前後伸びると会社は見る。医療向けは、バイオ医薬品の増加で樹脂製シリンジ市場が年 15% 伸びるという推計を使う。
これらは会社の推計で、そのまま信じる必要はない。ただ、方向は確かだ。AI の計算基盤やバイオ医薬品は、素材の純度への要求が上がる分野である。
電池材料は逆風が続く。欧州の EV 販売が弱い。ゼオンの接着剤は抵抗と接着力を両立する点が売りで、北米の大手電池メーカーとの供給合意もあるが、数量が立ち上がる時期は読めない。
1 つ付け加えると、COP の新工場の完成は、中計の期間の終わりに近い。成果が見えるまで、待つ時間が長い。
競争の形も違う。ゴムは規模と原料の安さの勝負で、日本勢に値決めの力は小さい。COP は採用実績の勝負で、先行者が有利だ。中国勢の追い上げには時間がかかるが、中位グレードは 10 年のうちに削られる前提を置く。
資本政策と M&A
資本政策の主役は、政策保有株の売却と、成長投資への振り向けだ。
2025〜28 年度の 4 年で、営業キャッシュフロー 2,800 億円に、政策保有株の売却 770 億円と借入 600 億円を足す。その資金で 1,300 億円の新規投資を決め、さらに 800 億円を検討している。大半は COP の新工場とフィルム設備に向かう。政策保有株は、純資産比で 14.7% から 5% 未満へ減らす計画だ。
株主還元は、DOE 4% 以上を方針に置く。配当は長く増え続けてきた。自社株買いも機動的に使い、過去には最大 200 億円の枠を設けた。
財務の基準は、格付け単一 A を守り、D/E を 0.2〜0.5 倍に収めることだ。今は純現金なので、借入を使って投資を前倒しする余地がある。
M&A は、住友化学とのゴム統合のように、提携で規模をそろえる動きが中心だ。計画に大型買収の枠は見えない。過去 12 期のうち 8 期は PBR が 1 倍を割った。資産に近い値で売買される会社は、再編の対象にもなりうる。
還元の点検(P3 2026-10-19):開示された方針は DOE 4% 以上(配当は約 1,700 億円)で、自社株買いは「機動的」とだけ書かれ、過去の枠は最大 200 億円。中立の還元を純利益の合計の 71% から 60%(配当 1,700 億円+自社株買い 800 億円ほど)に下げ、留保は自己資本に残した。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
COP は、数量が伸びる市場で、ほぼ独占に近い位置にいる。先端半導体向けのシェアは 100% で、微細化が進むほど不純物を嫌う工程が増える。医療向けも、バイオ医薬品の増加で樹脂製シリンジの市場が年 15% 伸びる。新工場は 2028 年度の下期から年 1.2 万トンを足し、フィルムも 2027 年度に増強する。この増設が埋まれば、高機能材料の利益は会社計画の 285 億円を超えうる。
ゴム事業は縮むが、縮め方が前向きだ。低収益の E-SBR や BR を止めれば、残るのは H-NBR やアクリルゴムのような収益の高い品目で、売上が減っても利益率は上がる。政策保有株を 770 億円売って成長に回すので、資本の稼ぎも良くなる。
電池材料と単層 CNT は、まだ小さいが当たれば大きい。CNT 市場は 2030 年に 1,100 億円になると会社は見ており、ゼオンは長い繊維という差を持つ。一つ当たるだけで、10 年後の利益は大きく変わる。バインダーも、ゼオンは抵抗と接着力を両立する材料を持ち、大手電池メーカーに供給を始めた。EV の回復が来れば、数量は一気に積み上がる。
そして財務は強い。純現金で、自己資本比率は 69%、格付けは単一 A だ。失敗しても会社が傷まないので、挑戦を続けられる。
慎重な見方
COP の成長は、会社の推計に頼りすぎている。「市場が年 10〜15% 伸びる」は会社の仮定で、裏付けは薄い。新工場が動くのは 2028 年度の下期だ。その前に需要が鈍れば、増設は重荷になる。
ゴム事業は、利益を生む戦略になっていない。止めるのは採算の悪い品目だけで、残るゴムも中国の増設と原料の振れにさらされる。2026 年の増益には、ブタジエンの調達難による値上げと、円安が重なった面がある。為替が 150 円で止まるなら、この追い風は続かない。
電池は計画を下げた過去がある。2024 年に 2026 年度の目標を下方修正した後も、会社自身が電池売上は未達と認めている。CNT の年 127% 成長のような数字は、小さな分母の上の話だ。
最後に利益の質である。2026 年 3 月期の純利益 362 億円には、政策保有株の売却益が混じる。売却は 5% 未満になれば終わり、繰り返せない。毎年稼げる利益は 300 億円に届かず、今の PER は 15 倍を超える。成長が計画の 8 掛けなら、今の値段は割高だ。会社の ROIC 目標 7.0% は資本コストを大きく超えず、1,300 億円の投資を決めても、稼ぎが資本コストに届かなければ、規模だけが増えて価値は増えない。
どちらに重みを置いたか
COP の成長は方向として正しい。ただ、利益に出る時期が遅く、会社の数字は推計の上に立つ。一方、一時益を除くと今の PER が高いという点は、数字で確かめられる。この分、慎重な見方の方が重いと判断し、確率をやや悲観側に寄せた。
10 年は楽観側 32%、悲観側 34% である。COP の独占に近い位置と、ゴムの構造的な弱さの両方を残すため、中立を最大に置いた。やや悲観の筋書きが軽くない理由は、COP の新工場が動くまでの 2 年余り、利益を押し上げる材料が乏しいことにある。逆に楽観の確率を 1 割弱にとどめたのは、半導体・医療・電池・CNT の複数が同時に当たる必要があるからだ。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 3,416 円6,537 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,268 円2,427 億円)。 今の値に割り戻すと 2,641 円5,053 億円、今との差 +18.7%、 期待の年率 +7.7%(資本コスト 7.0%)→ やや割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 6,221 円1.19 兆円 | 1,600 円3,061 億円 | +251.5% | +13.4% | 782 円1,496 億円 |
| やや楽観 | 22% | 4,909 円9,393 億円 | 1,427 円2,731 億円 | +184.8% | +11.0% | 1,394 円2,667 億円 |
| 中立 | 34% | 3,804 円7,280 億円 | 1,278 円2,446 億円 | +128.4% | +8.6% | 1,728 円3,307 億円 |
| やや悲観 | 22% | 1,385 円2,651 億円 | 1,150 円2,201 億円 | +14.0% | +1.3% | 558 円1,067 億円 |
| 悲観 | 12% | 967 円1,850 億円 | 888 円1,700 億円 | −16.6% | −1.8% | 223 円426 億円 |
| 加重平均 | 100% | 3,416 円6,537 億円 | 1,268 円2,427 億円 | +110.5% | +7.7% | 4,685 円8,964 億円 |
今の株価時価総額 2,225 円4,257 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.0% を下回るほど割高。
楽観 10% COP が半導体・医療の標準素材になり、単層 CNT も当たる 利益 658 億円 · PER 18.1 倍 · 株価時価総額 6,221 円1.19 兆円
10 年のうちに、先端半導体のプロセスが微細化を重ね、超クリーン樹脂への要求が上がり続ける。ゼオンは新工場に続く増設を重ね、COP の数量は今の 1.8 倍になる。医療向けは、バイオ医薬品のシリンジで標準素材になる。単層 CNT は、電池メーカーが長い繊維を採用し、年数百億円の売上になる。ゴムは E-SBR・BR の停止後、H-NBR とアクリルゴムに絞り、益率が 7% 台に上がる。営業利益は 870 億円前後と今の 2.4 倍になり、ROE は 12% を超える。資本コストを大きく超える稼ぎが続くため、倍率も高く保たれる。会社は 2030 年度に ROIC 8% を超え、成長投資を借入と内部資金で賄いながら、還元も厚く続ける。
- エラストマー素材(合成ゴム・ラテックス・耐熱ゴム・石油化学原料):数量 62.0(販売重量(万トン、ゴム・ラテックス・石化原料の推定合計。実質の数量))× 価格 45(1 トンあたりの平均単価(万円、名目))→ 売上 2,814 億円・営業利益 211 億円。益率 7.5%
- 高機能材料(COP 樹脂・COP フィルム・特殊ケミカルほか):数量 8.0(販売量(COP 樹脂換算の万トン。フィルム・特殊ケミカルなどの原料重量を含む推定。実質の数量))× 価格 311(1 トンあたりの平均単価(万円、名目。フィルムなど加工品を含む))→ 売上 2,484 億円・営業利益 571 億円。益率 23.0%
- 電池材料(バインダー・セパレーター用接着剤・単層 CNT):数量 4.5(販売量(万トン、バインダー乾燥重量換算の推定。実質の数量))× 価格 188(1 トンあたりの平均単価(万円、名目))→ 売上 847 億円・営業利益 102 億円。益率 12.0%
倍率:事業の純利益 658 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 12.1% が k 7.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.5%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 18.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 18.1 倍。全体の PER 18.09 倍、時価総額 11,903 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:COP の増設が早く埋まり、CNT も量産に乗る必要がある。独占に近い位置は強いが、10 年先までの連続成功は確度が高くない。
やや楽観 22% COP は計画に近い伸び。電池と CNT は部分的に当たる 利益 548 億円 · PER 17.1 倍 · 株価時価総額 4,909 円9,393 億円
COP の数量は今の 1.7 倍に伸び、医療と半導体向けが利益の中心になる。フィルムは液晶の大型化で堅調だ。電池材料は、北米の大手電池メーカーに採用されて伸びるが、競合の非フッ素系材料との価格競争で益率は 1 割にとどまる。ゴムは縮みながら、益率を 7% で保つ。営業利益は 720 億円前後で、今の 2 倍になる。ゴムは縮んでも残る品目の単価が上がり、全社の益率は 11% 台に乗る。ROE は 11% 台で、資本コストを超える稼ぎが定着し、増設の投資も回収が見える状態になる。政策保有株は 5% 未満まで減り、売却資金は COP の増設と還元に回って、株主資本の使い方への評価も上がる。中国勢の COP は低価格の領域にとどまり、ゼオンの高付加価値の領域は守られる。
- エラストマー素材(合成ゴム・ラテックス・耐熱ゴム・石油化学原料):数量 60.0(販売重量(万トン、ゴム・ラテックス・石化原料の推定合計。実質の数量))× 価格 45(1 トンあたりの平均単価(万円、名目))→ 売上 2,685 億円・営業利益 188 億円。益率 7.0%
- 高機能材料(COP 樹脂・COP フィルム・特殊ケミカルほか):数量 7.3(販売量(COP 樹脂換算の万トン。フィルム・特殊ケミカルなどの原料重量を含む推定。実質の数量))× 価格 304(1 トンあたりの平均単価(万円、名目。フィルムなど加工品を含む))→ 売上 2,217 億円・営業利益 477 億円。益率 21.5%
- 電池材料(バインダー・セパレーター用接着剤・単層 CNT):数量 3.7(販売量(万トン、バインダー乾燥重量換算の推定。実質の数量))× 価格 188(1 トンあたりの平均単価(万円、名目))→ 売上 696 億円・営業利益 70 億円。益率 10.0%
倍率:事業の純利益 548 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.5% が k 7.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.7%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 17.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 17.1 倍。全体の PER 17.14 倍、時価総額 9,393 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:COP の伸びは堅いが、電池と CNT が揃って当たるとは限らない。それでも中立より良い方向に寄る余地は大きく、厚めに置いた。
中立 34% COP は堅く伸び、ゴムは縮み、電池は伸びても薄利にとどまる 利益 453 億円 · PER 16.1 倍 · 株価時価総額 3,804 円7,280 億円
COP の数量は今の 1.5 倍に伸びる。新工場と次の増設が埋まり、医療・半導体・液晶の三つが利益を支える。価格は物価並みに上がるが、競争で益率は 2 割で頭打ちになる。電池材料は数量が 1.8 倍になるが、競争で価格が物価ほど上がらず、益率は 8% である。ゴムは E-SBR と BR の停止で数量が 2 割減り、残る品目の構成が上がる分だけ平均単価は物価を上回る。益率は 6〜7% で落ち着く。営業利益は 590 億円で、今の 1.6 倍になる。名目の伸びは年 5% で、物価 3% に実質 2% が乗る形だ。ROE は 9% 前後で、倍率は中位に収まる。
- エラストマー素材(合成ゴム・ラテックス・耐熱ゴム・石油化学原料):数量 58.0(販売重量(万トン、ゴム・ラテックス・石化原料の推定合計。実質の数量))× 価格 45(1 トンあたりの平均単価(万円、名目))→ 売上 2,595 億円・営業利益 169 億円。益率 6.5%
- 高機能材料(COP 樹脂・COP フィルム・特殊ケミカルほか):数量 6.5(販売量(COP 樹脂換算の万トン。フィルム・特殊ケミカルなどの原料重量を含む推定。実質の数量))× 価格 302(1 トンあたりの平均単価(万円、名目。フィルムなど加工品を含む))→ 売上 1,960 億円・営業利益 392 億円。益率 20.0%
- 電池材料(バインダー・セパレーター用接着剤・単層 CNT):数量 3.0(販売量(万トン、バインダー乾燥重量換算の推定。実質の数量))× 価格 188(1 トンあたりの平均単価(万円、名目))→ 売上 565 億円・営業利益 45 億円。益率 8.0%
倍率:事業の純利益 453 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.0% が k 7.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.0%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.1 倍。全体の PER 16.07 倍、時価総額 7,280 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:COP が伸びる一方、ゴムは構造的に縮み、電池は価格競争で薄利になるという、業種ノートの中心の見方に沿った筋書きだ。最も厚く置く。
やや悲観 22% COP の中位グレードが中国勢に削られ、電池が採算に乗らない 利益 285 億円 · PER 9.3 倍 · 株価時価総額 1,385 円2,651 億円
中国の樹脂メーカーが COP のキャッチアップを進め、液晶用や一般の光学グレードの価格が物価ほど上がらない。半導体と医療は守るが、数量の伸びは 1.2 倍にとどまる。電池材料は価格競争に負け、益率が 3% に落ちる。ゴムは中国の増設で値が崩れ、益率は 5% 以下になる。会社は新規の増設を絞らざるをえず、COP の次の工場は先送りされる。成長の頭打ちが見えると、資本コスト並みの稼ぎを前提にした低い評価が定着する。営業利益は 370 億円と、今とほぼ同じ名目値だ。物価で割ると実質では 4 分の 3 に縮む。ROE は 7% で資本コストに届かず、倍率は低い。
- エラストマー素材(合成ゴム・ラテックス・耐熱ゴム・石油化学原料):数量 52.0(販売重量(万トン、ゴム・ラテックス・石化原料の推定合計。実質の数量))× 価格 43(1 トンあたりの平均単価(万円、名目))→ 売上 2,210 億円・営業利益 111 億円。益率 5.0%
- 高機能材料(COP 樹脂・COP フィルム・特殊ケミカルほか):数量 5.4(販売量(COP 樹脂換算の万トン。フィルム・特殊ケミカルなどの原料重量を含む推定。実質の数量))× 価格 286(1 トンあたりの平均単価(万円、名目。フィルムなど加工品を含む))→ 売上 1,543 億円・営業利益 262 億円。益率 17.0%
- 電池材料(バインダー・セパレーター用接着剤・単層 CNT):数量 2.2(販売量(万トン、バインダー乾燥重量換算の推定。実質の数量))× 価格 170(1 トンあたりの平均単価(万円、名目))→ 売上 375 億円・営業利益 11 億円。益率 3.0%
倍率:事業の ROE 6.9% が k 7% 以下なので、伸びても価値は増えず、正当化 PER は 1÷k = 13.3 倍(ためた利益は額面未満)。COP の中位グレードが中国勢に削られ、電池が採算に乗らない年なので、上限の 7 割の 9.3 倍に置いた。(還元を方針に合わせて再計算:還元 2500→2201 億円、自己資本 4141→4440 億円、事業の ROE 6.9%→6.4%、正当化 PER の上限 13.3→13.3 倍。上限に対する置き方の割合は変えず 9.30 倍)
確率:中国の追い上げで、COP の中位グレードの価格が崩れる筋書きは、10 年の幅で見れば現実的だ。ゴムの構造的な弱さと重なる。
悲観 12% 構造的な負け:COP の独占が崩れ、ゴムは赤字が常態になる 利益 85 億円 · PBR 0.5 倍 · 株価時価総額 967 円1,850 億円
10 年の間に、COP の競合が先端半導体向けの認証を取り、ゼオンの独占が崩れる。値下がりで益率は 1 割まで落ちる。電池材料は、技術の世代交代で採用を失い、赤字になる。ゴムは E-SBR・BR の停止後も、残る品目が値崩れし、益率は 2% まで下がる。大型の増設が稼働率を上げられず、減損が出る。営業利益は 100 億円前後になる。配当は DOE の下限で続けるため、還元は利益を上回り、手元の現金と保有株の売却資金で賄う。純現金と資産が下値を支え、株価は自己資本の 0.5 倍で測る。経営は再び選択と集中の組み直しを迫られ、他社との統合も現実の選択肢になる。
- エラストマー素材(合成ゴム・ラテックス・耐熱ゴム・石油化学原料):数量 45.0(販売重量(万トン、ゴム・ラテックス・石化原料の推定合計。実質の数量))× 価格 38(1 トンあたりの平均単価(万円、名目))→ 売上 1,711 億円・営業利益 34 億円。益率 2.0%
- 高機能材料(COP 樹脂・COP フィルム・特殊ケミカルほか):数量 4.0(販売量(COP 樹脂換算の万トン。フィルム・特殊ケミカルなどの原料重量を含む推定。実質の数量))× 価格 250(1 トンあたりの平均単価(万円、名目。フィルムなど加工品を含む))→ 売上 999 億円・営業利益 100 億円。益率 10.0%
- 電池材料(バインダー・セパレーター用接着剤・単層 CNT):数量 1.5(販売量(万トン、バインダー乾燥重量換算の推定。実質の数量))× 価格 139(1 トンあたりの平均単価(万円、名目))→ 売上 209 億円・営業利益 −6 億円。益率 -3.0%
倍率:COP の独占が崩れてゴムが赤字になり、純利益は 85 億円と薄く稼ぐ力(純利益 ÷ k で約 1,100 億円)では値が付かない。売れる資産の税後 1,850 億円(今の自己資本 3,775 億円の約 5 割)が大きい方なので、そちらで置いた。純現金と保有株が下を支える。
確率:COP の技術優位が失われ、ゴムも赤字化する筋書きだ。確率は低いが、10 年先の技術と競合の変化は読み切れないため、1 割強を置く。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
エラストマー素材(合成ゴム・ラテックス・耐熱ゴム・石油化学原料)
合成ゴム(S-SBR・BR・NBR・アクリルゴムなど)とラテックス、C4・C5 留分から取り出す石油化学原料を扱う、売上の 5 割強を占める事業。
| 数量販売重量(万トン、ゴム・ラテックス・石化原料の推定合計。実質の数量) | 価格1 トンあたりの平均単価(万円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 70.0 | 32 | 2,237 | 150 |
| 10 年後 中立 | 58.0 | 45 | 2,595 | 169 |
取り方:2026 年 3 月期のセグメント売上 2,237 億円・営業利益約 150 億円(益率 6.7%、営業利益は決算短信の概算と中計の数字から筆者が推定)を、販売重量の推定 70 万トンで割った平均単価で置いた。重量は開示が無く推定で、誤差は大きい。徳山工場で E-SBR・NBR ラテックスが止まり、BR も 2028 年度以降に止まるため、数量は減り、残る品目の構成が上がる分だけ平均単価に上振れが乗る。
高機能材料(COP 樹脂・COP フィルム・特殊ケミカルほか)
光学・半導体・医療向けの COP 樹脂、液晶用の COP フィルム、CPN・CPME などの特殊ケミカル、RIM 配合液などを含む、利益の主役の事業。電池材料は別の欄に分けた。
| 数量販売量(COP 樹脂換算の万トン。フィルム・特殊ケミカルなどの原料重量を含む推定。実質の数量) | 価格1 トンあたりの平均単価(万円、名目。フィルムなど加工品を含む) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 4.4 | 225 | 990 | 209 |
| 10 年後 中立 | 6.5 | 302 | 1,960 | 392 |
取り方:高機能材料の売上 1,242 億円(前期比 +2.1%)から、筆者が推定した電池材料の約 252 億円を除いた 990 億円を置いた。営業利益は高機能材料全体を約 224 億円と置いたうえで、電池を約 15 億円と見て、残りの 209 億円(益率約 21%)を割り当てた。COP 樹脂の能力は年約 4.2 万トン、新工場で約 5.4 万トンになるため、フィルム等の原料を含めた販売量を 4.4 万トンと置いた。分けた数字は推定で、誤差は大きい。
電池材料(バインダー・セパレーター用接着剤・単層 CNT)
リチウムイオン電池の電極用バインダー、セパレーター用接着剤、導電用の単層 CNT。EV 不振で立ち上がりが遅れている成長候補。
| 数量販売量(万トン、バインダー乾燥重量換算の推定。実質の数量) | 価格1 トンあたりの平均単価(万円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1.7 | 148 | 252 | 15 |
| 10 年後 中立 | 3.0 | 188 | 565 | 45 |
取り方:会社が売上指数で示す電池材料の水準から、約 252 億円と筆者が推定した(開示は無い)。バインダーの単価を 1 トンあたり約 150 万円と置き、販売量を約 1.7 万トンとした。営業利益は EV 不振と立ち上げ費用で薄く、約 15 億円と推定した。
リスクと懸念
COP の需要が会社の推計より遅れる
COP の成長は、半導体市場が年 10%、医療が年 15% で伸びるという会社の推計の上に立つ。新工場は 2028 年度の下期に動く。その前後で液晶や半導体の投資が一巡すると、増設分が埋まるまでに時間がかかり、減価償却だけが先に利益を削る。
ゴム事業の市況と原料の振れ
ゴムは売上の 5 割強を占め、利益率は 7% に届かない。2026 年の中東情勢によるブタジエンの調達難と値上げは、足元の増益を押し上げた。正常化すれば剥がれる。中国の増設が続けば、汎用品の価格は上がりにくい。
電池材料の立ち上がりが遅れる
会社は電池材料を成長ドライバに置くが、欧州の EV 不振で売上は計画に届かず、2024 年に目標を下げた経緯がある。北米向けの供給合意は材料だが、数量が立ち上がる時期は読めない。立ち上げ費用が先に出て、薄利か赤字が続く恐れがある。
単層 CNT など新規事業の不発
単層 CNT や COP 成形品は、会社計画で年 100% を超える成長を描く。しかし分母が小さく、顧客の採用が一社でもずれると数字は大きく変わる。検討中の 800 億円の投資が、稼ぎに結びつかないまま償却だけ残るリスクがある。
一時益の混じった利益の見かけ
2026 年 3 月期の純利益には、政策保有株の売却益が混じる。売却が進んで保有が 5% 未満になれば、この益は出なくなる。会社予想の純利益 360 億円も、繰り返せる利益ではない。これに高い倍率を掛けると、本質価値を高く見積もる。
資本の使い方:成長投資の稼ぎが資本コストに届かない
会社の ROIC 目標は 2028 年度に 7.0%、ROE 目標は 8.4% と、資本コストを大きく超えない。1,300 億円の投資と、売却資金の使い道が、COP で資本コスト以上の稼ぎを生まなければ、規模が増えても価値は増えない。
中国勢による COP のキャッチアップ
先端半導体向けのシェアは 100% でも、10 年は長い。中国の樹脂メーカーが認証を取れば、中位のグレードから価格が崩れる。液晶用の COP フィルムも、パネルメーカーの内製や代替素材で圧力を受けうる。
今後の分かれ目
- COP の新工場が 2028 年度の下期に予定どおり稼働し、半年で稼働率が 8 割に乗る
- 高機能材料の利益が会社目標の 285 億円を上回り、中立から楽観側へ確率が動く。10 年後の営業利益は中立の 590 億円を上回る見通しになる。
- 電池材料の北米向けが量産に入り、黒字化が確認される
- 電池が成長の足を引っ張る状態を脱し、10 年の楽観の確率が上がる。逆に採用が遅れれば、やや悲観の確率を上げる。
- ゴムの市況が正常化しても、営業利益が 360 億円を保つ
- 足元の増益が一時の追い風でなく、E-SBR・BR の停止による構造改善だと判断できる。やや悲観の確率を下げる。
- 政策保有株の売却が終わり、一時益が出なくなる
- 純利益の見かけが下がり、PER が上がって見える。繰り返せる利益だけで見る必要がある。
- 中国の樹脂メーカーが半導体向け COP の認証を取る
- 独占に近い位置が崩れ、10 年の悲観の確率を上げる。倍率の根拠である堀が弱まる。
- ゼオンの株価が純資産を大きく割り込む状態が続く
- 再編や買収の対象になりうる。TOB が起きれば、筋書きの外の上振れ要因になる。
見ておくもの
- 高機能材料の四半期の営業利益と益率(COP 樹脂・フィルムの出荷動向)
- COP 新工場(2028 年度下期)と氷見二上のフィルム増強(2027 年度)の進捗
- 電池材料の北米向け売上と、単層 CNT の採用先の拡大
- ブタジエン市況とエラストマー素材の益率(E-SBR・NBR ラテックス停止後の姿)
- 政策保有株の対純資産比率(5% 未満への進捗)と、DOE・自社株買いの実施
- 中計の ROIC・ROE の進捗(2028 年度 7.0%・8.4%)と新しい中期経営計画の中身
倍率と資本コストの決め方
セグメントは、ゴム(販売重量×平均単価)、COP を中心とした高機能材料、電池材料の三つに分け、数量は実質、価格は物価 3% 込みの名目で積んだ。電池材料の切り出しは筆者の推定で誤差が大きい。資本コストは基本 7.5% に quality(循環 +0.5・値決め力 −0.5 で 0%)を足した 7.5%。倍率は利益ベースの正当化 PER の上限に対する割合(楽観 9 割・やや楽観 8.7 割・中立 8.5 割・やや悲観 7 割)で置き、今の株価(繰り返せる利益では PER 15 倍超)には合わせていない。悲観は純利益が薄いので売れる資産の税後(概算)から置いた。純現金は時価総額の 3% で小さいため余った現金は分けず、純利益に利息分を含めた。純利益は一時益(政策保有株の売却益)を除いた繰り返せる利益で置いた。リース会計の形は今のまま(新リース会計基準は 2028 年 3 月期から)で揃えた。総合の差は +2.8%(適正)。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 15.21→18.09 倍・やや楽観 PER 13.8→17.14 倍・中立 PER 12.5→16.07 倍)。
資本コスト 7.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。