結論
荒川化学工業は、松やに(ロジン)を化学で加工して粘着剤・インキ・紙の薬品を作る老舗メーカーだ。近年はスマートフォンやAIサーバーの画面に使う光硬化樹脂が稼ぎ頭になった。筆者の結論は「割高」。事業は悪くないが、株主が出した元手に対する稼ぎが、10 年たっても資本コストに届かない。
いちばんの問題は、利益の薄さだ。営業利益率は過去 10 年ほぼ 3〜6% で、2023 年と 2024 年は赤字だった。原因は千葉の水素化石油樹脂(アルコン)の大型設備で、稼働が 6 割にとどまり、償却だけが重くのしかかった。純有利子負債は 320 億円あり、時価総額の 7 割に当たる。
会社の立て直しの筋は通っている。中計は 2030 年度の営業利益を 70 億円(今の約 3 倍)に置く。増益の半分は、赤字事業の改善と製紙薬品の統廃合で、残りは電子材料と海外だ。光硬化樹脂は過去最高で、アルコンの稼働も上がる。
ただ、筆者は会社の計画を 6 年遅れで置いた。過去の計画は大きな赤字で外れており、製紙薬品は中国勢の安値に押されている。中立の営業利益は 10 年後で 74 億円、ROE は 6% 止まりになる。確率で重みづけた本質価値は、今の時価総額より 3 割強低い。
株価は純資産の 0.7 倍で「安く」見える。だが、稼ぐ力が資本コストを下回る会社の純資産は、帳簿どおりの価値を持たない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社は「安く見えるが、持ちたくはない」部類に入る。10 年後も事業は残る。ただ、残るだけでは足りない。株主の元手が資本コストより低い率でしか回らない間は、会社が利益をためるほど、一株の価値は薄まる。
荒川は、その状態に長くいる。ROE は 10 年の中央値で 4% 弱、営業利益率は 3〜6% の幅だ。純資産の 0.7 倍という値札は、ここから来ている。市場が間違っているのではなく、帳簿の資産が稼ぎを生んでいないということだ。
株主のものになる利益、つまり設備の更新を引いたあとの利益は、小さい。設備は先に増やしてあり、当面の更新投資は減価償却の範囲に収まる。それは救いだが、借金の利払いが今後の金利上昇で 8 億円ほど増え、純利益を削る。
光硬化樹脂とファイン事業は、持ち続けたいと思える質だ。この二つが売上の 4 割を超え、利益の大半を担う姿になれば、会社の価値は変わる。筆者はその実現を中立の筋書きに入れ、約 6 年遅れの計画達成として置いた。
安全域は見当たらない。計画がすべて当たった楽観でも、価値は今の値段をわずかに上回るだけだ。わからないことが多い会社は、待つのが筆者の構えである。
何で稼ぐ会社か
稼ぎは四つの事業でできている。売上の最大は粘接着・バイオマスで、3 割強を占める。松やにから作るロジン誘導体は、粘着テープやラベルの粘着剤に混ぜて「くっつく力」を決める原料だ。千葉のアルコンは、石油系の樹脂を水素で安定させた粘着剤用の高級品で、設備の稼働が上がらず赤字の元になっている。
製紙・環境は売上の 25% 前後で、紙の強度を上げる薬品(ポリストロン)やにじみ止めの薬品を売る。顧客は製紙会社で、日本では紙の需要が減り、海外では中国勢が安値で攻めてくる。
機能性コーティングは売上の 2 割強だが、利益は今いちばん多い。光硬化樹脂(ビームセット)は、スマートフォンやディスプレイの傷防止の膜を作る材料で、光をあてると一瞬で固まる。AIサーバーやフォルダブル(折りたたみ)スマホ向けが伸び、売上は過去最高の約 70 億円になった。
ファイン・エレクトロニクスは売上の 18% で、ハードディスク用の精密研磨剤と電子・医農薬向けの中間体を作る。データセンター向けのディスクが伸び、水島工場に新しい設備を入れている。
新しい芽もある。2026 年 2 月に自然由来素材のナチュラルウェーブを子会社にし、女性の健康や農業向けのライフサイエンスを立ち上げる。売上はまだゼロだが、会社は 2030 年度に 30 億円を狙う。
利益の質は事業で大きく違う。光硬化樹脂とファイン事業は黒字で、製紙薬品は利益率が 6% 前後に下がり、アルコンを含む粘接着は赤字が続いてきた。
優良さと弱いところ
この会社の強みは、自然素材を扱う技術と、顧客の工程に入り込んだ材料だ。光硬化樹脂は、ディスプレイの工場で顧客と膜の性能を詰める共同開発の世界で、いったん採用されると他社品に替えにくい。ロジンの加工も 150 年の蓄積があり、粘着剤向けの品質調整が得意だ。
ただし、堀、つまり他社がまねできない強みは広くない。ロジン誘導体は中国やハリマ化成、Eastman などと価格で競り合う。製紙薬品も同じ構図だ。光硬化樹脂は DIC、東亞合成、Arkema、BASF などの大手が控え、荒川の世界シェアは 1% に満たない。
資本の効率が低いことが最大の弱点だ。ROE は直近で 3.5%、過去 10 年の中央値でも 3.7% で、資本コストの半分にも届かない。営業利益率の過去の最高は 2017 年 3 月期の 6.6% で、それ以降は届いていない。第 5 次中計では 150 億円の成長投資をして設備を先に増やしたが、需要が追いつかず、2023 年と 2024 年は赤字になった。
経営の姿勢は変わりつつある。ドイツの工場を閉鎖し、利益の出ない受注は断る。第 6 次中計は成長投資を 55 億円に絞り、配当性向を 50% に上げた。社外取締役も半数になる。悪い反省を、数字に出す動きだ。
筆者がまだ読み切れないのは、アルコンの扱いだ。設備はすでにある。稼働を上げるか、見切るか。この判断が 10 年の利益を大きく分ける。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
荒川の稼ぎは、顧客がまるで違う四つの市場の合成だ。業界全体の景気より、各市場の事情が効く。
ロジン樹脂の世界市場は約 3,500 億円で、名目で年 3〜5% ほど伸びる見通しだ。用途の 3 分の 1 強が接着剤で、バイオ由来の素材として需要はある。ただ、原料の松やには中国などに偏り、天候で値段が揺れる。石油系樹脂との代替競争も続く。
光硬化樹脂の世界市場は 1 兆円前後で、年 7〜8% の名目成長とされる。スマートフォンの買い替えが鈍っても、折りたたみ式、AIサーバーの冷却や基板、車載ディスプレイに用途が広がる。荒川が狙うのは、その中の電子・光学向けの特殊品だ。中国・韓国の追随は進んでいるが、最先端の品質の壁は厚い。
製紙薬品は構造が悪い。日本の紙・板紙の生産は人口とともに減り、荒川は数量が実質で縮むと見る。海外は成長するが、中国の製紙薬品メーカーが台湾、ベトナム、タイへ安値で攻め、荒川は数量を守るために値下げを強いられている。
ファイン事業の柱はハードディスクだ。生成AIでデータセンターのディスク需要が戻り、研磨剤は伸びる。ただし顧客は寡占で、値段交渉は強くない。
三つの追い風と一つの逆風がある、というのが業界の姿だ。電子材料はAIが追い風で、粘接着は稼働次第、製紙は逆風が続く。2026 年は中東情勢でナフサ(石油の原料)が高くなり、数億円の費用増も見込まれている。
資本政策と M&A
還元の姿勢は改善している。中計は配当性向を 40% から 50% に上げ、原則として配当を減らさない累進配当を続ける。2027 年 3 月期は創業 150 周年の記念配当を加えて増配する予定だ。ただし自社株買いは、2020 年 3 月期が最後になっている。
投資の優先は、まず借金の返済と設備の回収に置く。5 年の営業キャッシュフロー 340 億円のうち、定常投資に 165 億円、成長投資に 55 億円、還元に 78 億円、返済に 35 億円を割く。第 5 次中計の成長投資 150 億円に比べ、かなり絞った。
M&A は小粒だ。2026 年 2 月にナチュラルウェーブを買収したが、金額は小さく、ライフサイエンスの足がかりにとどまる。ドイツの水素化石油樹脂は製造を終えており、不採算から手を引く動きもある。
株主構成は、MUFG が政策投資として約 6.6%、三菱ケミカルが約 2%を持ち、従業員持株会が 7%台を占める。時価総額は 460 億円と小さく、純資産の 0.7 倍にとどまる。買われる側の確率は、データ上は 10 年以内に 2 割ほどだ。ただ、借金が重く利益が薄い会社を高い値で買う者は考えにくい。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
光硬化樹脂は、これから最も伸びる材料だ。AIサーバー、折りたたみスマホ、車載ディスプレイと用途が増え、荒川の売上はすでに過去最高を更新している。富士工場の新設備は顧客の認証を取り、量産に入った。会社は年 6% の成長を掲げ、実際に 2026 年度は 83 億円の予定だ。10 年で売上が 2 倍近くになれば、利益率も上がる。
アルコンの稼働が 6 割から満稼働へ上がるだけで、赤字だった粘接着が 20 億円規模の黒字に変わる。設備はすでにあるので、増産分の利益はほとんどが手取りになる。ドイツの工場を閉じ、利益の出ない受注を断る改革も、始まったばかりだ。
製紙薬品は、ASEAN とインド、欧米で伸びる。古紙の利用が進むほど紙の強度を上げる薬品が必要になり、ポリストロンは追い風を受ける。海外売上は 1.3 倍の計画だ。
こうして営業利益が 70 億円に届き、さらに伸びれば、ROE は資本コストを超える。配当性向 50% と累進配当で還元も厚く、倍率は上がる。純資産 0.7 倍という値段は、改革の成果を何も織り込んでいない。
慎重な見方
第 5 次中計は 150 億円の成長投資をしたが、結果は 2 年連続の赤字だった。会社が掲げる数字は、これまで外れてきた。第 6 次中計の営業利益 70 億円は、今の約 3 倍だ。増益の 20 億円以上を構造改革に頼る計画は、実行の難しさを考えると甘い。
アルコンは、中東情勢で定期修理の立ち上げが遅れ、稼働の改善も計画より遅い。満稼働になっても、石油系樹脂は競争が激しく、利益率は低い。設備はあるが、市場がなければ償却だけが残る。
製紙薬品は、中国勢の安値で値下げを続けている。国内の紙の生産は減り続けるので、海外で補えるかが分かれ目だが、現地の競争はさらに激しい。光硬化樹脂も、中国・韓国のメーカーが追い上げている。スマートフォンの需要は成熟し、AIサーバー向けは顧客が少数のため、1 社の動きで売上が振れる。
借金は 320 億円あり、金利が上がれば利払いが 8 億円ほど増える。営業利益が 40 億円に届かない年が続けば、利益は金利に食われ、ROE は 3% 台から動かない。純資産の 0.7 倍の値段は、割安ではなく、稼げない資産への妥当な評価である。
どちらに重みを置いたか
電子材料の伸びとアルコンの立て直しは、どちらも筋が通っている。ただ、そこから出てくる ROE は、楽観でも 10% 台前半だ。資本コストを少し超えるだけで、倍率は大きく上がらない。
慎重な見方の方が強い。会社の計画が過去に外れていること、製紙の構造が悪いこと、借金の金利が上がることが、同時に効く。確率は、計画が 6 年遅れて実現する中立を中心に置き、やや悲観に厚く寄せた。悲観は、電子材料の優位が崩れ、アルコンも立ち上がらない構造的な負けで、10 % とした。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 2,722 円540 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 890 円177 億円)。 今の値に割り戻すと 1,831 円363 億円、今との差 −11.3%、 期待の年率 +5.8%(資本コスト 8.3%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 5,974 円1,185 億円 | 1,558 円309 億円 | +264.7% | +13.8% | 602 円120 億円 |
| やや楽観 | 22% | 4,179 円829 億円 | 1,185 円235 億円 | +159.7% | +10.0% | 1,180 円234 億円 |
| 中立 | 38% | 2,969 円589 億円 | 887 円176 億円 | +86.7% | +6.4% | 1,465 円291 億円 |
| やや悲観 | 22% | 790 円157 億円 | 580 円115 億円 | −33.7% | −4.0% | 301 円60 億円 |
| 悲観 | 10% | 232 円46 億円 | 403 円80 億円 | −69.2% | −11.1% | 64 円13 億円 |
| 加重平均 | 100% | 2,722 円540 億円 | 890 円177 億円 | +74.9% | +5.8% | 3,613 円717 億円 |
今の株価時価総額 2,065 円410 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.3% を下回るほど割高。
楽観 8% 電子材料が伸び、アルコンも満稼働に 利益 90 億円 · PER 13.1 倍 · 株価時価総額 5,974 円1,185 億円
光硬化樹脂がAIサーバー、折りたたみスマホ、車載ディスプレイへ広がり、荒川のシェアは 7% 台後半まで上がる。アルコンは満稼働になり、粘接着は 6% の営業利益率を稼ぐ。ファイン事業は、データセンター向けのディスクと、電子の中間体が伸びる。
営業利益は 128 億円、今の 5 倍で、営業利益率は 9% に達する。ROE は 10% を超え、資本コストをようやく上回る。過去に外れ続けた計画が、すべて当たった姿だ。
製紙は、ASEAN とインドで成長して利益率が 7% になる。借金は返済が進み、金利負担も軽くなる。配当は累進配当を守りつつ、利益の 55% を返す。
- 機能性コーティング:数量 290(関連市場(実質・億円)× シェア)× 価格 134.0%(価格指数(今 1.00、物価 3% で 10 年 1.34))→ 売上 393 億円・営業利益 59 億円。売上 393 億円・営業利益率 15.0%
- 製紙・環境:数量 225(関連市場(実質・億円)× シェア)× 価格 134.0%(価格指数(今 1.00、物価 3% で 10 年 1.34))→ 売上 304 億円・営業利益 21 億円。売上 304 億円・営業利益率 7.0%
- 粘接着・バイオマス:数量 320(関連市場(実質・億円)× シェア)× 価格 134.0%(価格指数(今 1.00、物価 3% で 10 年 1.34))→ 売上 431 億円・営業利益 26 億円。売上 431 億円・営業利益率 6.0%
- ファイン・エレクトロニクス:数量 230(関連市場(実質・億円)× シェア)× 価格 134.0%(価格指数(今 1.00、物価 3% で 10 年 1.34))→ 売上 311 億円・営業利益 31 億円。売上 311 億円・営業利益率 10.0%
倍率:事業の純利益 90 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.3% が k 8.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.3%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% g_long の理由で から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.1 倍。全体の PER 13.11 倍、時価総額 1,185 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:光硬化樹脂とファインの伸びがそろい、アルコンも立ち上がり、製紙の逆風も和らぐ必要がある。10 年で起こりうるが、条件が重なる。
やや楽観 22% 電子材料が計画どおり、アルコンは稼働が改善 利益 68 億円 · PER 12.1 倍 · 株価時価総額 4,179 円829 億円
光硬化樹脂は年 5〜6% の勢いが続き、10 年で売上は 2 倍近くになる。アルコンの稼働は 8 割を超え、粘接着は黒字に定着する。ファイン事業は新しい水島の設備が量産に入り、利益率が 8.5% に上がる。
営業利益は 99 億円で、営業利益率は 7.5%。中計の目標をほぼ達成した姿で、時期は 6 年ほど遅れる。ROE は 8% で、資本コストにやや届かない。
製紙薬品は、海外の拡大で数量が国内の減少を補い、利益率は 6% にとどまる。借金は 250 億円ほどまで減り、利払いも落ち着く。会社の改革は成功するが、利益の質が「高い」ところまでは行かない、現実的な強気の姿である。
- 機能性コーティング:数量 265(関連市場(実質・億円)× シェア)× 価格 134.0%(価格指数(今 1.00、物価 3% で 10 年 1.34))→ 売上 359 億円・営業利益 49 億円。売上 359 億円・営業利益率 13.5%
- 製紙・環境:数量 212(関連市場(実質・億円)× シェア)× 価格 134.0%(価格指数(今 1.00、物価 3% で 10 年 1.34))→ 売上 286 億円・営業利益 17 億円。売上 286 億円・営業利益率 6.0%
- 粘接着・バイオマス:数量 305(関連市場(実質・億円)× シェア)× 価格 134.0%(価格指数(今 1.00、物価 3% で 10 年 1.34))→ 売上 411 億円・営業利益 19 億円。売上 411 億円・営業利益率 4.5%
- ファイン・エレクトロニクス:数量 212(関連市場(実質・億円)× シェア)× 価格 134.0%(価格指数(今 1.00、物価 3% で 10 年 1.34))→ 売上 287 億円・営業利益 24 億円。売上 287 億円・営業利益率 8.5%
倍率:事業の純利益 68 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.1% が k 8.25% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.1 倍。全体の PER 12.12 倍、時価総額 829 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:会社の計画に近い姿で、2026 年度の予想や光硬化樹脂の実績から、上に振れる材料ははっきりしている。ただ過去の計画の外れを考えると、中立より低くした。
中立 38% 計画が約 6 年遅れで実現する 利益 49 億円 · PER 12.1 倍 · 株価時価総額 2,969 円589 億円
光硬化樹脂は年 3% 前後の実質の伸びで、売上は今の 1.8 倍、営業利益率は 11.5% になる。アルコンは稼働が 8 割台後半に上がり、粘接着は 3.5% の営業利益率で黒字に定着する。ファイン事業は、水島の設備が量産に入り、利益率は 6.5% になる。
製紙薬品は、国内の数量が減る一方、海外が補う。数量は今よりやや減り、中国勢との競争で利益率は 5% にとどまる。
営業利益は 74 億円、今の約 3 倍。営業利益率は 5.9% で、過去の最高圏 6.6% の手前だ。これは、赤字だったアルコンが黒字になる分が主で、構造が変わった結果である。純利益は 48 億円、ROE は 6%。配当性向 50% を守り、借金は 250 億円ほどに下がる。会社の目標は 6 年遅れで届く。
- 機能性コーティング:数量 240(関連市場(実質・億円)× シェア)× 価格 134.0%(価格指数(今 1.00、物価 3% で 10 年 1.34))→ 売上 325 億円・営業利益 37 億円。売上 325 億円・営業利益率 11.5%
- 製紙・環境:数量 205(関連市場(実質・億円)× シェア)× 価格 134.0%(価格指数(今 1.00、物価 3% で 10 年 1.34))→ 売上 277 億円・営業利益 14 億円。売上 277 億円・営業利益率 5.0%
- 粘接着・バイオマス:数量 295(関連市場(実質・億円)× シェア)× 価格 134.0%(価格指数(今 1.00、物価 3% で 10 年 1.34))→ 売上 397 億円・営業利益 14 億円。売上 397 億円・営業利益率 3.5%
- ファイン・エレクトロニクス:数量 200(関連市場(実質・億円)× シェア)× 価格 134.0%(価格指数(今 1.00、物価 3% で 10 年 1.34))→ 売上 271 億円・営業利益 18 億円。売上 271 億円・営業利益率 6.5%
倍率:事業の純利益 49 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 6.1% が k 8.25% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.1 倍。全体の PER 12.12 倍、時価総額 589 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:改革の筋は通るが、過去の計画は外れており、製紙の逆風も残る。会社の目標をそのまま置かず、遅れて達成するとした。
やや悲観 22% アルコンは立ち上がるが、製紙と電子材料が伸びない 利益 24 億円 · PER 6.5 倍 · 株価時価総額 790 円157 億円
光硬化樹脂は、スマートフォンの需要が頭打ちになり、中国・韓国勢の追随で値段が伸びにくくなる。数量は年 1% 台にとどまり、利益率は 10% に下がる。
アルコンの稼働は 7 割前後で止まり、粘接着は 1% の営業利益率に終わる。製紙薬品は、中国勢との値下げ競争が続き、利益率が 3.5% に下がる。
営業利益は 43 億円で、今の 1.7 倍にとどまる。利払いが増える中、純利益は 24 億円で、ROE は 3% 台。累進配当の約束で配当は今の水準を守るが、利益の半分ほどが出ていき、借金の返済が進まない。会社が潰れる姿ではないが、10 年かけて価値が増えない、苦しい展開である。
- 機能性コーティング:数量 205(関連市場(実質・億円)× シェア)× 価格 134.0%(価格指数(今 1.00、物価 3% で 10 年 1.34))→ 売上 278 億円・営業利益 28 億円。売上 278 億円・営業利益率 10.0%
- 製紙・環境:数量 180(関連市場(実質・億円)× シェア)× 価格 134.0%(価格指数(今 1.00、物価 3% で 10 年 1.34))→ 売上 243 億円・営業利益 9 億円。売上 243 億円・営業利益率 3.5%
- 粘接着・バイオマス:数量 270(関連市場(実質・億円)× シェア)× 価格 134.0%(価格指数(今 1.00、物価 3% で 10 年 1.34))→ 売上 364 億円・営業利益 4 億円。売上 364 億円・営業利益率 1.0%
- ファイン・エレクトロニクス:数量 175(関連市場(実質・億円)× シェア)× 価格 134.0%(価格指数(今 1.00、物価 3% で 10 年 1.34))→ 売上 237 億円・営業利益 12 億円。売上 237 億円・営業利益率 5.0%
倍率:ROE 3.3%、RONIC=8.75%+1/2×(3.3−8.75)=6.0%、g 3.5% から正当化 PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)=7.9 倍。累進配当で配当は守るが、稼ぐ力が資本コストの半分以下のため、正当化 PER の約 8 割の 6.5 倍に置いた。
確率:中国勢の追い上げと製紙の構造的な悪化は実際に進んでおり、10 年なら現実味が高い。過去の計画の外れも考えると、中立に近い確率に置いた。
悲観 10% 構造的な負け:電子材料は奪われ、アルコンは立ち上がらない 利益 4 億円 · PBR 0.1 倍 · 株価時価総額 232 円46 億円
光硬化樹脂は、大手顧客が内製と中国勢に切り替え、数量が今を下回る。アルコンは、設備の稼働が 5 割台にとどまり、減損の対象になる。製紙薬品は中国勢との値下げで、赤字になる年が出る。
営業利益は 10 億円弱まで細り、金利の負担で純利益はほとんど残らない。もう「優良な特殊化学品会社」ではなくなり、設備と土地を持つ、利益の小さい会社だ。借金の返済に追われ、配当は削られる。
数量は電子材料が今の 9 割、製紙薬品は 7 割に縮み、値段は物価に届かない。10 年の末の利益は、物価で水増しされた売上に対し、実質でほぼ無い。
- 機能性コーティング:数量 165(関連市場(実質・億円)× シェア)× 価格 120.0%(価格指数(今 1.00、物価 3% で 10 年 1.34))→ 売上 200 億円・営業利益 10 億円。売上 200 億円・営業利益率 5.0%
- 製紙・環境:数量 140(関連市場(実質・億円)× シェア)× 価格 115.0%(価格指数(今 1.00、物価 3% で 10 年 1.34))→ 売上 162 億円・営業利益 0 億円。売上 162 億円・営業利益率 0.0%
- 粘接着・バイオマス:数量 230(関連市場(実質・億円)× シェア)× 価格 125.0%(価格指数(今 1.00、物価 3% で 10 年 1.34))→ 売上 289 億円・営業利益 0 億円。売上 289 億円・営業利益率 0.0%
- ファイン・エレクトロニクス:数量 130(関連市場(実質・億円)× シェア)× 価格 120.0%(価格指数(今 1.00、物価 3% で 10 年 1.34))→ 売上 158 億円・営業利益 6 億円。売上 158 億円・営業利益率 4.0%
倍率:10 年の悲観は稼ぐ力で測る。純利益は数億円に細り、資本コスト 8.25% で割った稼ぐ力は 50 億円に届かない。借金 320 億円が先に返済に回るため、株主の取り分は今の自己資本の 0.074 倍(約 46 億円)にとどまる。EV(時価総額+純有利子負債)÷営業利益は 40 倍近くで、借金の重さが株主の取り分を削る。純利益が小さく PER は意味を持たないので、今の自己資本に掛ける PBR で置いた。
確率:光硬化樹脂で中国・韓国勢に奪われ、アルコンが満稼働に届かず、製紙も悪化する、三つが重なった場合。重なる確率は低いが、借金が重い分、起きれば影響が大きい。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
機能性コーティング
光硬化型樹脂(ビームセット、オプスター)と熱硬化型樹脂(アラコート)。スマートフォン、ディスプレイ、AI サーバー向けの表面保護や接着の材料。
| 数量関連市場(実質・億円)× シェア | 価格価格指数(今 1.00、物価 3% で 10 年 1.34) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 180 | 100.0% | 182 | 22 |
| 10 年後 中立 | 240 | 134.0% | 325 | 37 |
取り方:光硬化型・熱硬化型のコーティング樹脂のうち、ディスプレイ・電子部品・工程用フィルム向けの世界市場を今の値段で約 2,600 億円と推定し、荒川のシェアを約 7% と置いた(売上 182 億円からの逆算。UV 硬化樹脂全体は 1 兆円規模だが、荒川は電子・光学の特殊品に絞るため狭く取った)。物価の分は価格指数に入れ、シェアは数量の側に置いた。
製紙・環境
紙力増強剤(ポリストロン)、サイズ剤など製紙用薬品と、環境関連の材料。
| 数量関連市場(実質・億円)× シェア | 価格価格指数(今 1.00、物価 3% で 10 年 1.34) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 205 | 100.0% | 207 | 14 |
| 10 年後 中立 | 205 | 134.0% | 277 | 14 |
取り方:紙力増強剤・サイズ剤など製紙用薬品の、日本とアジアを中心にした市場を今の値段で約 4,000 億円と推定し、シェアを約 5% と置いた(売上 207 億円からの逆算)。国内の紙需要は減り、海外は中国勢が低価格で攻める。物価の分は価格指数に入れた。
粘接着・バイオマス
ロジン誘導体(パインクリスタルなど)、水素化石油樹脂(アルコン)、粘着・接着剤用の樹脂。
| 数量関連市場(実質・億円)× シェア | 価格価格指数(今 1.00、物価 3% で 10 年 1.34) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 283 | 100.0% | 284 | −14 |
| 10 年後 中立 | 295 | 134.0% | 397 | 14 |
取り方:粘着付与樹脂(ロジン系と石油樹脂系)と関連樹脂の世界市場を今の値段で約 8,000 億円と推定し、荒川のシェアを約 3.5% と置いた(売上 284 億円からの逆算。ロジン樹脂だけで世界約 3,500 億円とされる)。物価の分は価格指数に入れた。今期は千葉のアルコン設備の償却が重く、セグメントは赤字。
ファイン・エレクトロニクス
ハードディスク用の精密研磨剤、ファインケミカル(電子・医農薬などの中間体)。
| 数量関連市場(実質・億円)× シェア | 価格価格指数(今 1.00、物価 3% で 10 年 1.34) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 146 | 100.0% | 147 | 9 |
| 10 年後 中立 | 200 | 134.0% | 271 | 18 |
取り方:ハードディスク用研磨剤と電子・精密向けファインケミカルの関連市場を今の値段で約 2,950 億円と推定し、シェアを約 5% と置いた(売上 147.5 億円からの逆算)。物価の分は価格指数に入れた。
リスクと懸念
アルコンの稼働が上がらない
千葉の水素化石油樹脂の設備は稼働が 6 割で、償却が重く粘接着が赤字だ。会社は 2027 年度にほぼ満稼働を目指すが、中東情勢で立ち上げが遅れた。石油系樹脂は競争が激しく、満稼働でも利益率は低い。上がらなければ減損と赤字の長期化がありうる。
会社の計画が外れる
第 5 次中計は成長投資 150 億円を使いながら、2023 年と 2024 年に赤字となった。第 6 次中計は営業利益 70 億円を掲げるが、今の約 3 倍で、改革の実行に頼る分が大きい。計画の達成が遅れるか、半分にとどまれば、中立の前提も崩れる。
製紙薬品の構造的な悪化
国内の紙・板紙は人口減で縮み、海外では中国勢が台湾やベトナムなどで安値攻勢をかけている。荒川は数量を守るために値下げしてきた。海外の拡販が思うように進まないと、利益率 6% 前後の事業が赤字に近づく。
光硬化樹脂の顧客と技術
売上は過去最高だが、顧客はスマートフォンとAIサーバーの少数のメーカーに偏る。中国・韓国の樹脂メーカーが追い上げており、大手顧客の仕様変更や内製化で、採用が一気に外れる恐れがある。利益の柱が 1 つの用途に寄っている。
借金と金利
純有利子負債は 320 億円で、時価総額の約 7 割、EBITDA の約 4 倍だ。金利が上がる中で借り換えが進むと、利払いが 10 年で 8 億円ほど増える。利益が薄い会社では、この増加が純利益の 3 分の 1 に当たる。
ロジンと原料の調達
ロジンの原料は松やにで、産地が中国などに偏り、天候で値段と量が揺れる。ナフサ由来の原料も中東情勢で高くなった。値上げの転嫁には時間がかかり、数億円の費用増が一時的に出る。調達が止まれば粘接着の稼働に響く。
今後の分かれ目
- 千葉アルコンの稼働が 8 割を超えて定着したら
- 粘接着の黒字化を確実とみて、中立の利益率を上げ、楽観側の確率を引き上げる。
- 光硬化樹脂の売上が会社予想を下回り、主要顧客の採用が減ったら
- 機能性コーティングの前提を下げ、やや悲観・悲観の確率を上げる。
- 製紙・環境で国内の拠点統廃合が進み、利益率が 7% を超えたら
- 製紙薬品の前提を上げる。ただし海外の価格競争が続くなら、持続性は割り引く。
- 中期計画の営業利益目標を下方修正したら
- 中立の達成時期をさらに遅らせ、筋書きの確率を悲観寄りに動かす。
- 純有利子負債が 250 億円を下回り、配当に加えて自社株買いが再開されたら
- 還元の前提を上げる。借金の減りは利払いにも効き、純利益の前提がわずかに良くなる。
- 第三者が公開買付けを提案したら
- 提示価格と、荒川の本質価値との差を確かめる。借金が重く、買い手は高く払いにくい点も考える。
見ておくもの
- アルコンの稼働率(粘接着・バイオマスの損益)
- 光硬化樹脂の売上(会社予想 83 億円)と主要顧客の動き
- 製紙・環境の営業利益率と海外売上の伸び
- ファイン・エレクトロニクスの水島の新設備の量産開始
- 純有利子負債とEBITDAの比、利払いの増減
- 配当性向 50% と自社株買いの再開
倍率と資本コストの決め方
4 つの事業を市場の規模とシェア(物価は価格指数に分離)で積み上げ、利益率から営業利益を出した。資本コストは基本 7.5% に quality +1.25% を足した 8.75%。ROE が k を下回るので、倍率は式の上限(1÷k=11.4 倍)の中で、利益の質に応じて置いた。今の PER や PBR 0.7 倍には寄せていない。中立は計画が 6 年遅れで届く姿で、10 年後の価値は今の時価総額より低い。これは株価に寄せた結果でなく、ROE が 6% で資本コストに届かないため。悲観は稼ぐ力と今の自己資本に掛けた倍率で測り、過去の PBR の底から置いていない。リース負債は小さく、新リース会計の影響は限定的と見たが、数字は今と同じ形で置いた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 11.4→13.11 倍・やや楽観 PER 10.1→12.12 倍・中立 PER 8→12.12 倍・悲観 PBR 0.07→0.074 倍)。
資本コスト 8.3% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality +1.25%(循環 +0.5、値決め +0.25、借金 +0.5、寿命 0)を足し、k は 8.25%。製紙や粘接着はナフサと景気で利益が振れ、純有利子負債は EBITDA の約 4 倍で金利上昇が利益を削る。個別の懸念は k に足さず、筋書きと確率で表した。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.75% → 8.25%。