結論
太陽ホールディングスは、プリント基板の表面を守る絶縁インキ「ソルダーレジスト」で世界首位の電子材料メーカーだ。筆者の結論は、堀の深い良い会社だが、今の時価総額は払いすぎ、というものだ。いちばんの理由は、2026年3月期の営業利益率が過去最高の24%に乗っていることにある。この山の高さを10年先も続くものとして払うのは危うい。
稼ぎの柱はエレクトロニクス事業で、利益の8割超を生む。AIサーバーのメモリ向けパッケージ基板に使うドライフィルムが好調で、世界シェアは液状で5割超、フィルムで8割超とされる。ただし市場はAI投資の波を受ける循環産業で、売上の4割強を中国向けが占める。医薬品事業は利益が1割台の脇役で、ここへの投資の巧拙が株主の不満の種になってきた。
現在、米投資会社KKRが約5,285億円で非公開化するTOB(公開買付け)を進めている。価格は時価総額とほぼ同じ水準で、開始は11月下旬ごろへ延びた。筆者はこれを本質価値の物差しにはしない。積み上げた中立の10年後は、ROE(自己資本利益率)が20%を超え、PER(株価利益率)は18倍。これを現在価値に直し、悲観側の落ち込みを確率で混ぜると、時価総額を1割ほど下回る。強気の筋書きまで進んだときだけ、今の値段を大きく上回る。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、見るべき点は3つある。第1は、持ち続けたい事業かどうかだ。ソルダーレジストは顧客の基板づくりに溶け込んだ消耗品で、使用量が基板の数に比例する。景気の波は受けるが、10年先も存在し、シェアが高い。この点は評価できる。
第2は、稼ぎの水準が平常かどうかだ。直近の利益は山にあり、これを平常と置いて払えば、少しの谷でも安全域が消える。筆者は、10年先の中立でも利益率は今より下がり、ROEは2割台前半と見る。それでも高い倍率が付かないのは、成長が実質で年3%台にとどまり、利益の大半は還元に回るからだ。
第3は、経営が資本を賢く使うかどうかだ。医薬は利益率が低いまま資本を食ってきた。非公開化が成立すれば、投資家が太陽に参加できるのは、KKRが決めた価格と時期だけになる。今の時価総額はその価格にほぼ張りついている。払う値段としては、積み上げた中立の価値に対して余裕がなく、安全域は見当たらない。
何で稼ぐ会社か
売上の約7割はエレクトロニクス事業だ。主力のソルダーレジストは、基板の配線を覆って、はんだが余計な所に付くのを防ぐ緑色のインキである。液状タイプと、フィルム状のドライフィルムがある。スマートフォンやパソコンのほか、AIサーバーに載る半導体パッケージ基板や車載基板に使われる。
顧客は基板メーカーだ。販売先を地域で見ると、中国が約4割、日本が約3割、韓国が1割強を占める。海外売上比率は高く、基板の生産拠点が集まるアジアに製造・技術の拠点を置いている。ドライフィルムは液状より利益率が高く、AI向けのメモリ基板で数量が伸びている。
医療・医薬品事業は売上の約4分の1を占める。長期収載品(特許が切れた後も売られる先発薬)の製造販売、他社薬の製造を請け負うCDMO(太陽ファルマテック)、歯科技工物の3本立てだ。2017年に中外製薬の長期収載品を承継して参入した。リーマン危機でエレクトロニクスが真っ先に落ちた経験から、景気に左右されにくい事業を求めた経緯がある。
残りはICT&S事業で、染料・顔料・インキ、システム開発、太陽光発電などを集めた小さな部門だ。直近は小さな赤字だった。
優良さと弱いところ
この会社の堀は、顧客の基板づくりに深く入り込んだ位置取りにある。ソルダーレジストは基板の微細な配線ごとに膜の厚さや解像度を合わせ込む。基板メーカーは新しい基板を開発するとき、まず太陽に相談するとされる。基本特許は切れたが、関連特許は400件を超え、現場の知見は簡単にまねできない。
液状は世界シェア5割超、ドライフィルムは8割超と、数字の上では寡占だ。ただし競合は消えていない。レゾナックが大型パッケージ基板向けのフィルムで世界トップクラスにおり、矢野経済研究所は両社が棲み分けていると見ている。筆者は、フィルム分野の高いシェアが10年そのまま続くとは見ない。
資本効率は高い。直近のROEは20%を超え、エレクトロニクスの営業利益率は3割に乗った。だがこの水準は過去には届かなかった。2020年3月期の営業利益率は13%、ROEは5%台である。山の数字を平常と取り違えないことが、この会社を見るときの要点になる。
経営の質には傷がある。医薬への投資は期待ほどの利益を出さず、2025年には大株主のオアシスが社長の解任を求めた。社長選任議案は賛成46%で否決された。ただし後任の下で、還元の強化とKKRへの売却に動き、株主の声には応えている。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
この会社の需要は、プリント基板、とくに半導体パッケージ基板の生産量に連動する。基板市場は2030年まで年率6%前後で伸びると見られ、AIサーバーやデータセンターが牽引する。物価の上昇分を除いた実質の伸びは3%前後、と筆者は置く。
AIの波は2つの形で効く。1つはメモリ向けパッケージ基板の増産だ。基板が大面積になるほど、ソルダーレジストの使用量は増える。もう1つは回路の微細化で、より高性能なフィルム品への切り替えが進む。この2つが重なり、ドライフィルムは前期に3割増えた。
一方、循環は消えていない。半導体投資は過去にも2〜4年周期で山と谷を作った。ミニLED向けの白色フィルムは、最終製品の需要が弱く前期に減った。民生品に近い液状品は、フィルム化が進むにつれて横ばいから微減と見られている。
競合ではレゾナックが最大で、車載・パッケージ向けのフィルムで追う。中国の地場メーカーが中位の品から力をつける懸念もある。顧客の基板メーカーも中国に集まり、現地調達の圧力が強まりやすい。医薬は、薬価が毎年引き下げられる逆風と、製造受託の需要増という追い風を併せ持つ。
資本政策と M&A
資本政策は、いま大きな転換点にある。KKR傘下の買収目的会社が、全株の取得を目指すTOBを発表した。会社側は賛同しつつ、応募するかどうかは株主の判断に委ねる「応募中立」の立場だ。総額は約5,285億円。当初は10月上旬の開始予定だったが、中国と日本の許認可の手続きが終わらず、11月下旬ごろに延びた。
TOBの成立を支える株主の構えも固まっている。オアシスは持ち株の15.6%を応募する契約を結んだ。筆頭株主のDIC(約20%)と創業家の資産管理会社は応募せず、会社が自己株として買い取り、後者はKKR側に再出資する。オアシスの応募と、DICと創業家の持ち分の整理を合わせると、全体の約42%の動きが事前に固まっている。買付けの下限は約40%だ。
還元は、この動きの中で止まった。中期経営計画では2028年3月期まで総還元性向100%を目安としていたが、2026年3月期の期末配当と2027年3月期の配当は無配になった。M&Aは近年、買う側としては目立たない。むしろ株主や創業家の資金を使った非公開化という形で、会社自体が動く側になった。
10年の還元は、TOBの最中に配当を止めているが、中計の総還元性向100%より薄い85%で置いた。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
AIサーバー向けの半導体パッケージ基板は、大面積化と多層化が続き、ソルダーレジストの使用量は基板1枚あたりでも増えていく。太陽はドライフィルムで世界シェア8割超を持ち、メモリ向けの数量が前期に3割伸びた。会社は埼玉・鶴ヶ島に生産技術センターを建設し、設備投資も約130億円と増やしている。供給力と技術で、成長を取り込める位置にある。
利益率にも上振れの余地がある。ドライフィルムは液状より利益率が高く、構成が上がるほど全体の利益率は押し上がる。中期経営計画は2031年3月期に営業利益470億円、ROE30%を掲げた。AIの波が続き、車載のグレード0向けフィルムの量産も始まれば、この目標を前倒しで超えることもありうる。
医薬も、製造受託の新規顧客が立ち上がり、前期の営業利益は2.5倍になった。長期収載品は薬価改定の逆風があるが、CDMO(製造受託)が補う。さらにKKRという資本の出し手が入れば、投資判断が速くなり、不採算の見直しも進む。上場コストや短期の株主対応から解放され、エレクトロニクスの成長に集中できる。そう見れば、10年後の姿は今より大きく、強い。
慎重な見方
前期の営業利益率24%は、過去最高である。この会社は2020年3月期には13%、ROEは5%台まで落ちた。メモリ向けの数量増はAI投資の過熱が支えており、投資が一服すれば数量も価格も同時に崩れる。ドライフィルムを伸ばした要因が、そのまま次の反動の火種になる。
競争も楽観できない。レゾナックはパッケージ基板向けのフィルムで世界トップクラスにおり、顧客はシェアの偏りを嫌って複線化を進める。売上の4割強は中国向けで、現地の基板メーカーは国産の材料を使う圧力を強く受ける。基本特許はすでに切れ、中位の品から中国メーカーの追い上げを受ける恐れがある。液状タイプは、フィルム化で縮む側にもいる。
医薬は資本を食う割に利益が薄い。今期の営業利益は21%減る見込みだ。会社は2030年に売上600億円、利益率15%を掲げるが、薬価は毎年下がり、選定療養で長期収載品の数量も減っている。
そもそも今の時価総額は、KKRが示した買収価格にほぼ張りついている。この価格は、堀の深さを織り込んでも、山の利益を永久には払わないという買い手の目利きの結果だ。市場がこれより高い値段を付ける根拠は薄い。
どちらに重みを置いたか
ドライフィルムの寡占と、AI向けの数量の伸びでは、強気の見方が優勢だ。ただし価格と利益率については、慎重な見方のほうが筋が通る。山の利益率を10年続くとは置きにくい。中立の10年後は、エレクトロニクスの営業利益率を27%台へ戻して置いた。確率は中立を軸に、楽観・やや楽観に計34%、やや悲観・悲観に計34%と、ほぼ釣り合わせた。ただし悲観では、中国勢が中位品を奪う構造的な負けまで含めた。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 6,908 円7,687 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 2,207 円2,456 億円)。 今の値に割り戻すと 5,085 円5,658 億円、今との差 +8.0%、 期待の年率 +6.8%(資本コスト 7.0%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 12% | 12,881 円1.43 兆円 | 3,154 円3,510 億円 | +240.5% | +13.0% | 1,924 円2,141 億円 |
| やや楽観 | 22% | 10,044 円1.12 兆円 | 2,712 円3,018 億円 | +170.8% | +10.5% | 2,806 円3,123 億円 |
| 中立 | 32% | 8,169 円9,090 億円 | 2,417 円2,690 億円 | +124.8% | +8.4% | 3,388 円3,770 億円 |
| やや悲観 | 22% | 2,106 円2,343 億円 | 1,730 円1,925 億円 | −18.6% | −2.0% | 844 円939 億円 |
| 悲観 | 12% | 624 円695 億円 | 647 円720 億円 | −73.0% | −12.3% | 153 円170 億円 |
| 加重平均 | 100% | 6,908 円7,687 億円 | 2,207 円2,456 億円 | +93.5% | +6.8% | 9,115 円1.01 兆円 |
今の株価時価総額 4,710 円5,241 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.0% を下回るほど割高。
楽観 12% AI向けの構造的な成長が続き、フィルム品が基板の標準になる 利益 586 億円 · PER 24.5 倍 · 株価時価総額 12,881 円1.43 兆円
AIとデータセンターの投資が10年を通じて続き、基板の大面積化と多層化がソルダーレジストの数量を今の1.65倍に押し上げる。ドライフィルムの構成が上がり、単価も物価を大きく上回る。エレクトロニクスの営業利益率は3割台を保ち、車載の最高グレード向けのフィルムも立ち上がる。医薬は製造受託が育ち、中期経営計画の売上と利益率を超える。中国勢は中位品にとどまり、最先端では太陽の技術が選ばれ続ける。10年後は、今より一回り大きく強い会社になっている。レゾナックなど競合とは棲み分けが続き、価格競争は限られる。ガバナンスの混乱も収まり、経営は増える利益を設備と技術に回して、成長をさらに伸ばす。
- エレクトロニクス(ソルダーレジスト・ドライフィルムなど):数量 6.3(ソルダーレジスト類の出荷量(万トン、推定・実質))× 価格 375(1トンあたりの平均単価(万円、名目。フィルム品の構成を含む))→ 売上 2,360 億円・営業利益 732 億円。エレクトロニクス:数量6.29・単価375.1、営業利益率31.0%
- 医療・医薬品(長期収載品・製造受託・歯科技工物):数量 42.5(医薬品の出荷量(億錠換算、推定・実質。製造受託の個数を含む))× 価格 17(1錠あたりの平均売上(円、名目))→ 売上 714 億円・営業利益 111 億円。医療・医薬品:数量42.50・単価16.8、営業利益率15.5%。薬価の毎年の引き下げで単価は物価に届かない
- ICT&S・その他(染料・顔料・システム開発・発電など):数量 5.4(稼働量(千人月換算、推定・実質。染料・発電も売上から換算))× 価格 241(1人月あたり売上(万円、名目))→ 売上 130 億円・営業利益 10 億円。ICT&S:数量5.40・単価240.7、営業利益率8.0%。染料やシステム開発は競争が強く物価ほど値上げできない
倍率:事業の純利益 586 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 33.0% が k 7.00% を上回る。残る割合 0.67(moat=strong)で RONIC 24.3%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 24.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 24.5 倍。全体の PER 24.46 倍、時価総額 14,334 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:AIの需要が10年途切れず、競合のレゾナックや中国勢にも負けないという、連続した成功が要る。実現すれば非常に強いが、確率は低めに置く。
やや楽観 22% エレクトロニクスが主軸として定着し、医薬も軌道に乗る 利益 470 億円 · PER 23.8 倍 · 株価時価総額 10,044 円1.12 兆円
ソルダーレジストの数量は年4%ほどで伸び、10年で今の1.5倍になる。パッケージ基板向けのフィルムの構成が上がり、単価は物価をやや上回る。エレクトロニクスの営業利益率は29%を保ち、中期経営計画が掲げた利益水準に近づく。医薬は製造受託の増設が実り、売上は今の1.7倍近くになる。レゾナックとは棲み分けが続き、価格競争は限定的にとどまる。経営が資本を設備と技術に振り向ける規律も保たれる。KKRのもとでの非公開化が進んでも、事業の方針は大きく変わらない。AIの波は途中で何度か息継ぎをするが、基板の大面積化が数量を下から支える。為替は150円のまま動かず、原材料も物価並みに上がるので、利益率は物価で勝手に下がらない。10年後のこの会社は、利益の柱がエレクトロニクスに一段と寄った、集中型の材料会社になっている。
- エレクトロニクス(ソルダーレジスト・ドライフィルムなど):数量 5.7(ソルダーレジスト類の出荷量(万トン、推定・実質))× 価格 358(1トンあたりの平均単価(万円、名目。フィルム品の構成を含む))→ 売上 2,042 億円・営業利益 592 億円。エレクトロニクス:数量5.71・単価357.6、営業利益率29.0%
- 医療・医薬品(長期収載品・製造受託・歯科技工物):数量 38.8(医薬品の出荷量(億錠換算、推定・実質。製造受託の個数を含む))× 価格 16(1錠あたりの平均売上(円、名目))→ 売上 622 億円・営業利益 87 億円。医療・医薬品:数量38.75・単価16.1、営業利益率14.0%。薬価の毎年の引き下げで単価は物価に届かない
- ICT&S・その他(染料・顔料・システム開発・発電など):数量 5.4(稼働量(千人月換算、推定・実質。染料・発電も売上から換算))× 価格 213(1人月あたり売上(万円、名目))→ 売上 115 億円・営業利益 7 億円。ICT&S:数量5.40・単価213.0、営業利益率6.0%。染料やシステム開発は競争が強く物価ほど値上げできない
倍率:事業の純利益 470 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 27.8% が k 7.00% を上回る。残る割合 0.67(moat=strong)で RONIC 20.9%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 23.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 23.8 倍。全体の PER 23.78 倍、時価総額 11,177 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:基板市場の年率6%前後の見通しが上限近くで実現し、競争も穏やかに推移する筋書き。
中立 32% 需要は伸びるが、利益率は今の山から下がる 利益 393 億円 · PER 23.1 倍 · 株価時価総額 8,169 円9,090 億円
ソルダーレジストの数量は年3%台で伸び、10年で今の1.4倍弱になる。単価はフィルム品の構成の上昇で、物価をわずかに上回る。ただし営業利益率は、今の山から27%台へ戻る。レゾナックとの競争や、顧客の基板メーカーの値下げ要求、積み増した設備の減価償却が効いてくるからだ。医薬は製造受託が伸び、営業利益率は1割ちょっとで安定する。全社の営業利益は今の1.7倍で、利益の大半は還元に回る。中国の基板メーカーへの販売は、現地の景気と国産化の圧力の中で、ほぼ今のシェアを守る。レゾナックとはフィルム品で競い合う。経営は利益の大半を還元に回し、規律ある配分を保つ。
- エレクトロニクス(ソルダーレジスト・ドライフィルムなど):数量 5.3(ソルダーレジスト類の出荷量(万トン、推定・実質))× 価格 345(1トンあたりの平均単価(万円、名目。フィルム品の構成を含む))→ 売上 1,815 億円・営業利益 499 億円。エレクトロニクス:数量5.26・単価345.1、営業利益率27.5%
- 医療・医薬品(長期収載品・製造受託・歯科技工物):数量 36.3(医薬品の出荷量(億錠換算、推定・実質。製造受託の個数を含む))× 価格 16(1錠あたりの平均売上(円、名目))→ 売上 572 億円・営業利益 72 億円。医療・医薬品:数量36.25・単価15.8、営業利益率12.5%。薬価の毎年の引き下げで単価は物価に届かない
- ICT&S・その他(染料・顔料・システム開発・発電など):数量 5.4(稼働量(千人月換算、推定・実質。染料・発電も売上から換算))× 価格 193(1人月あたり売上(万円、名目))→ 売上 104 億円・営業利益 5 億円。ICT&S:数量5.40・単価192.6、営業利益率5.0%。染料やシステム開発は競争が強く物価ほど値上げできない
倍率:事業の純利益 393 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 24.1% が k 7.00% を上回る。残る割合 0.67(moat=strong)で RONIC 18.4%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 23.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 23.1 倍。全体の PER 23.13 倍、時価総額 9,090 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:基板市場の中心的な見通しと、利益率の平均回帰を組み合わせた中心の筋書き。最も重みを置く。
やや悲観 22% 中国勢が中位品を取り、価格競争で利益率が2割まで下がる 利益 213 億円 · PER 11.0 倍 · 株価時価総額 2,106 円2,343 億円
中国の地場メーカーが中位の基板向けで力をつけ、数量は10年で1割ほどしか増えない。単価は値下げ圧力で物価に届かず、営業利益率は21%まで下がる。ドライフィルムの高いシェアは残るが、顧客の複線化で価格を決める力が薄れる。医薬は薬価の下げが続き、利益率は1割を切る。ROEは1割台前半に下がり、それまで払われてきた高い倍率は付かなくなる。レゾナックなど競合が割安な提案で顧客をつなぎ止め、太陽は一部の注文で値下げに応じる。経営は、シェアを守るか、利益率を守るかで難しい判断を迫られる。ミニLEDなど民生向けの伸びも期待に届かず、液状品はフィルム化で縮む。経営は医薬の再建と非公開化後の借入れの返済に追われ、エレクトロニクスへの再投資が細る。基板市場そのものは伸びるが、その果実は顧客と競合に分散し、太陽の取り分は今より薄くなる。
- エレクトロニクス(ソルダーレジスト・ドライフィルムなど):数量 4.3(ソルダーレジスト類の出荷量(万トン、推定・実質))× 価格 313(1トンあたりの平均単価(万円、名目。フィルム品の構成を含む))→ 売上 1,335 億円・営業利益 280 億円。エレクトロニクス:数量4.27・単価312.6、営業利益率21.0%
- 医療・医薬品(長期収載品・製造受託・歯科技工物):数量 31.3(医薬品の出荷量(億錠換算、推定・実質。製造受託の個数を含む))× 価格 15(1錠あたりの平均売上(円、名目))→ 売上 465 億円・営業利益 37 億円。医療・医薬品:数量31.25・単価14.9、営業利益率8.0%。薬価の毎年の引き下げで単価は物価に届かない
- ICT&S・その他(染料・顔料・システム開発・発電など):数量 5.4(稼働量(千人月換算、推定・実質。染料・発電も売上から換算))× 価格 167(1人月あたり売上(万円、名目))→ 売上 90 億円・営業利益 2 億円。ICT&S:数量5.40・単価166.7、営業利益率2.0%。染料やシステム開発は競争が強く物価ほど値上げできない
倍率:ROE 14.2%。中位品を奪われ堀は弱い側(残る割合 1/3)に傾くので、RONIC=k 7%+1/3×(14.2−7.5)=9.7%、長期の成長率 g 3.0% で正当化 PER=(1−3.0÷9.7)÷(7.5−3.0)=15.3 倍。顧客の複線化で価格を決める力が薄れる点を見て、その約 7 割の 11.0 倍に置いた。
確率:基本特許が切れた後、10年かけて中位品が侵食される形。競合の動きと顧客の複線化を踏まえ、やや厚めに置く。
悲観 12% 構造的な負けで、もう優良とは呼べなくなる 利益 48 億円 · PBR 0.6 倍 · 株価時価総額 624 円695 億円
中国メーカーが最先端でも通用する品を出し、レゾナックとの価格競争も重なって、ソルダーレジストの数量は今より2割減る。単価は物価に大きく届かず、エレクトロニクスの営業利益率は9%まで落ちる。医薬は薬価の下げと原材料高で、ほぼ利益が出ない。KKRのもとでの非公開化の借入れが重くなり、投資も還元も細る。10年後の太陽は、堀を失った普通の材料メーカーになっている。配当や自社株買いは細り、還元の多くは過去の利益の蓄えから出る。残った資産は、ほぼ事業の帳簿の価値で評価される水準にとどまる。2020年3月期に営業利益率が13%まで落ちたような谷が何度も来て、そのたびに戻りが鈍くなる。レゾナックの攻勢と中国勢の台頭に、顧客の複線化が重なれば、堀は事実上なくなる。買収の借入金を抱えた経営は、設備投資と研究開発の両方で守りに入る。
- エレクトロニクス(ソルダーレジスト・ドライフィルムなど):数量 3.1(ソルダーレジスト類の出荷量(万トン、推定・実質))× 価格 275(1トンあたりの平均単価(万円、名目。フィルム品の構成を含む))→ 売上 839 億円・営業利益 76 億円。エレクトロニクス:数量3.05・単価275.1、営業利益率9.0%
- 医療・医薬品(長期収載品・製造受託・歯科技工物):数量 25.0(医薬品の出荷量(億錠換算、推定・実質。製造受託の個数を含む))× 価格 15(1錠あたりの平均売上(円、名目))→ 売上 365 億円・営業利益 11 億円。医療・医薬品:数量25.00・単価14.6、営業利益率3.0%。薬価の毎年の引き下げで単価は物価に届かない
- ICT&S・その他(染料・顔料・システム開発・発電など):数量 4.0(稼働量(千人月換算、推定・実質。染料・発電も売上から換算))× 価格 175(1人月あたり売上(万円、名目))→ 売上 70 億円・営業利益 −2 億円。ICT&S:数量4.00・単価175.0、営業利益率-3.0%。染料やシステム開発は競争が強く物価ほど値上げできない
倍率:構造的な負けで利益がほとんど出ない(純利益 48 億円・ROE 2.6%)ので、稼ぐ力(48 億円÷k)と設備・在庫の売却価値のどちらか大きい方までとし、今の自己資本 1,158 億円に 0.6 倍を掛けた。
確率:10年の構造的な負け筋(中国の国産化とレゾナックの攻勢が同時に起きる)。一度始まると戻りにくいので、無視できない確率を置く。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
エレクトロニクス(ソルダーレジスト・ドライフィルムなど)
プリント基板・半導体パッケージ基板向けのソルダーレジスト(液状・フィルム)と関連材料。全社の利益の8割超を稼ぐ。
| 数量ソルダーレジスト類の出荷量(万トン、推定・実質) | 価格1トンあたりの平均単価(万円、名目。フィルム品の構成を含む) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 3.8 | 250 | 953 | 292 |
| 10 年後 中立 | 5.3 | 345 | 1,815 | 499 |
取り方:開示は金額だけで数量は無い。売上953億円を、液状とフィルムの平均で250万円/トンと置いて割り、約3.8万トンと推定した(液状は安く、フィルムは面積売りで高い)。数量は実質、価格は物価3%込みの名目で、フィルム品の構成が上がる分は価格に入れる。
医療・医薬品(長期収載品・製造受託・歯科技工物)
長期収載品の製造販売、他社薬の製造を請け負うCDMO、歯科技工物の3本立て。
| 数量医薬品の出荷量(億錠換算、推定・実質。製造受託の個数を含む) | 価格1錠あたりの平均売上(円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 25.0 | 15 | 365 | 51 |
| 10 年後 中立 | 36.3 | 16 | 572 | 72 |
取り方:開示は金額だけ。長期収載品19製品とCDMOの出荷を錠剤換算で約25億錠と推定し、売上365億円で割って1錠あたり14.6(億円÷億錠)とした。薬価は毎年下がるため、価格は物価並みには上がらないと見る。
ICT&S・その他(染料・顔料・システム開発・発電など)
染料・顔料・インキ、システム開発、太陽光発電、飲食施設などの小さな部門。
| 数量稼働量(千人月換算、推定・実質。染料・発電も売上から換算) | 価格1人月あたり売上(万円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 4.5 | 144 | 65 | −1 |
| 10 年後 中立 | 5.4 | 193 | 104 | 5 |
取り方:開示は金額(部門間の内部売上を含む65億円)だけ。稼働量は約4,500人月と置き、売上を割って144万円/人月とした(染料・発電を含む平均)。小さい部門なので全体への効きは薄い。
リスクと懸念
AI向けの数量の反動
メモリ向けドライフィルムの急な伸びは、AI投資の過熱に支えられている。投資が一服すれば、数量と価格が同時に崩れうる。前期の営業利益率24%は過去最高で、谷では半分に落ちた時期もある。基板メーカーの在庫調整が重なると、増設した設備の償却が重荷になる。
レゾナックと顧客の複線化
レゾナックはパッケージ基板向けのフィルムで世界トップクラスにあり、顧客は調達先の分散を進めたい。基本特許はすでに切れている。シェアが高い分、価格決定力を保てるかは顧客の交渉姿勢に左右される。最先端の大型案件を取られれば、利益率への傷は小さくない。
中国の基板メーカーと国産化
売上の4割強が中国向けで、現地の基板メーカーは国産材料を使う圧力を受ける。中位の品から地場メーカーに置き換えられると、数量と単価の両方が下がる。地政学の変化で、輸出や投資の許認可にも影響が出る。買収の手続きが中国の競争法で遅れたことも、その一例だ。
医薬の資本効率
医療・医薬品の利益は営業利益の1割台で、利益率は低い。薬価は毎年引き下げられ、選定療養で長期収載品の数量も減る。今期は営業利益が2割減る見込みで、投資の回収が長引く恐れがある。エレクトロニクスの稼ぎを薄める構図が続く。
TOBの不成立と非公開化後の姿
開始は中国と日本の許認可の遅れで11月下旬へ延びた。成立しなければ、会社は上場のまま、配当が止まった状態が続く。成立しても、買収の借入金の負担で、投資や還元が細る可能性がある。少数株主は、価格を受け入れるか否かの選択を迫られる。
ガバナンスの不安
2025年の総会で社長選任議案が賛成46%で否決され、医薬への投資を巡って大株主と対立した。タイ現地法人の不祥事も批判された。経営の意思決定の質は、数字以外の弱点として残る。非公開化で見えにくくなる点にも注意が要る。
今後の分かれ目
- KKRのTOBが成立し、上場が廃止されたら
- 少数株主の経済的な結果はTOB価格で確定する。筋書きの値は、非公開のまま会社が稼ぎ続けた場合の価値の目安になる。
- TOBの開始が再び延びる、または不成立になったら
- 上場が続き、配当のない状態が長引く。時価総額は買収価格の支えを失い、積み上げた中立の価値に近づく可能性が高い。
- メモリ向けドライフィルムの数量が2四半期続けて前年を下回ったら
- AI投資の反動が始まったサイン。やや悲観の確率を上げ、エレクトロニクスの利益率の前提を下げる。
- レゾナックなど競合が、最先端のパッケージ基板向けで大型の採用を取ったら
- ドライフィルムの高いシェアの前提が崩れる。やや悲観・悲観の確率を上げる。
- 車載の最高グレード向けフィルムの量産が立ち上がったら
- ドライフィルムの数量に新しい柱が加わる。楽観・やや楽観の確率を上げてよい。
- 医療・医薬品の営業利益率が2期続けて1割を下回ったら
- 医薬の再投資が回収できていないサイン。中立の利益率を下げ、悲観の確率を引き上げる。
見ておくもの
- ドライフィルム(メモリ向けPKG基板用)の四半期の数量と営業利益率
- TOBの開始時期と、中国・日本の許認可の進み方
- 半導体パッケージ基板の生産量とHBM向けの投資計画
- レゾナックなど競合のフィルム品の採用動向
- 医療・医薬品事業の営業利益率と製造受託の稼働
倍率と資本コストの決め方
数量(出荷量・錠数・稼働量)は実質、価格は物価3%込みの名目で積み、利益率は過去の幅(営業利益率10〜30%)から置いた。資本コストは基本7.5%+quality 0%(循環+0.5、値決め−0.5)の7.5%。倍率は利益ベースの正当化PERの上限の約8割(中立)で、今のPER22倍やKKRの買収価格には寄せていない。悲観は過去のPBRの底でなく稼ぐ力と売れる資産で置いた。TOBの価格は時価総額とほぼ同じだが、それは買い手が山の利益に払った値段であり、筆者の中立(エレクトロニクスの営業利益率が27%台へ戻る)とは前提が違う。医薬の単価が物価に届かないのは、薬価が毎年下がるため。自己資本は還元後の流れで置いた。店舗や倉庫を借りて営む会社ではなく、家賃の固定費の問題は小さい。新リース会計(2028/03期から)で営業利益と負債の形が少し変わるが、数字は今の形でそろえた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 20.32→24.46 倍・やや楽観 PER 18.97→23.78 倍・中立 PER 17.93→23.13 倍)。
資本コスト 7.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality 0%(循環 +0.5、値決め −0.5)を足して 7.5%。基板と半導体の循環を受ける中型の材料会社で、強い堀は残る割合 2/3 で既に見ている。ガバナンスの傷や KKR の TOB の不確かさは k に足さず、確率と利益率で表した。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 7.50% → 7.00%。