結論
堺化学工業は、スマホやサーバーに欠かせない積層セラミックコンデンサ(MLCC)の原料を作る化学メーカーだ。ほかに塩ビ用の添加剤、触媒、医薬中間体、化粧品材料などを手がける。筆者の結論は「やや割高」。電子材料は良い事業だが、会社全体の稼ぐ力に対して今の値段は少し高い。
いちばんの強みは電子材料だ。水熱合成法で、粒がそろった細かいチタン酸バリウムを作れる。AI サーバー向けの需要で、2026 年 3 月期は売上が 1 割強、営業利益が 2 割強伸びた。10 年後も市場は伸びる。
ただし、会社全体で見ると稼ぎは薄い。営業利益率は 8% 前後で、過去 10 年の自己資本利益率(ROE)の中央値は 3% ほどだ。赤字の年が 2 回あり、減損を繰り返してきた。2026 年 3 月期も、化粧品材料で 24 億円を超える減損が出た。
この会社は変わろうとしている。顔料用の酸化チタンをやめ、成長事業に絞る構造改革の最中だ。還元も増やし、自社株買いを続けている。筆者は、この改革が利益率を 8% 台で定着させると見るが、資本コスト 7.5% を安定して上回る姿までは見ていない。
10 年後の中立の時価総額は今とほぼ同じで、配当と自社株買いを足しても年率は資本コストに届かない。確率で重みづけた本質価値は、今の時価総額を 2 割弱下回る。電子材料の伸びが大きく上振れれば評価は変わるが、それは楽観の筋書きに入れてある。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点で見ると、この会社の本質は「電子材料という小さな良い事業が、大きな凡庸な事業に包まれている」姿だ。
良い事業の稼ぎは、全体の営業利益の 3 割弱にとどまる。残りは、値段を市場に決められる素材と、赤字の事業が混ざっている。ここに追加でお金を入れても、資本コストを上回る見返りは約束されない。
持ち続けたいかを自問すると、電子材料だけなら持ちたい。だが、会社の株を買えば、薄利の事業も一緒に買うことになる。会社が酸化チタンをやめ、成長事業に寄せていくのは正しい。ただ、その成果が ROE に表れるのは、まだ先だ。
安全域は薄い。今の時価総額は、会社全体の稼ぐ力を普通に評価した値とほぼ重なる。バリュー投資家が求めるのは、評価より 3 割ほど安く買える余地だ。それが見えない。
逆に、財務の安全性は高い。借金が少なく、自己資本が厚いので、悪い筋書きでも会社は倒れない。損をしにくい代わりに、増えにくい株だ。筆者は、電子材料の伸びを、10 年かけて確かめたい。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの源は大きく四つある。
一つめは電子材料で、売上の約 14% を占め、利益の伸びを引っ張る。MLCC の主原料であるチタン酸バリウムと、その元になる炭酸バリウムを作る。顧客は村田製作所や太陽誘電などの MLCC 大手だ。競合の多くが固相法やシュウ酸法で作るなか、水熱合成法で粒の細かさをそろえられる点が強みである。
二つめは樹脂添加剤、無機材料、触媒だ。売上は合わせて 2 割台半ばを占める。塩ビを丈夫にする安定剤が中心で、国内の成熟した需要に頼る。触媒は工場の拠点集約で、2026 年 3 月期に利益が大きく戻った。
三つめは、有機化学品、化粧品材料、医療、衛生材料、受託加工などの集まりだ。売上は全体の半分近いが、利益は薄い。医薬中間体の有機化学品は伸びる。一方で化粧品材料(日焼け止め用の無機材料)と医療事業は赤字だ。
四つめは酸化チタン・亜鉛製品だ。顔料用の酸化チタンは、設備投資に見合う利益が出ず、環境への負荷も高いため、2025 年末に作るのをやめた。2026 年 3 月に販売も終えている。残るのは酸化亜鉛などで、この事業の売上は 4 割ほど減る。
つまり、この会社は「伸びる電子材料」と「薄利の寄せ集め」の二階建てだ。中期経営計画は、利益の 6 割を成長事業で稼ぐ形を目指している。
優良さと弱いところ
優良さは、電子材料だけに宿っている。ほかの事業は、堀、つまり他社がまねできない強みが薄い。
電子材料は、顧客の MLCC メーカーと共同で粒の細かさを詰める。採用されれば、簡単には乗り換えられない。営業利益率は 15% 前後だ。ただし顧客は数社に偏り、顧客自身も内製を持つ。日本化学工業が増産を決め、中国勢も追ってくる。値段を自分で決める力は強くない。
樹脂添加剤や化粧品材料は、値段を市場に決められる素材だ。物価が上がっても、価格の転嫁には時間がかかる。
資本の効率は低い。売上は 10 年前から 800 億円台で動かず、営業利益率は 5% 前後で長く足踏みした。ROE は中央値で 3% ほどにとどまる。自己資本は 770 億円前後で、利益が薄いので帳簿が働いていない。
経営は、ようやく動き出した。酸化チタンをやめ、化粧品材料の設備を減損し、触媒の拠点を集約した。やめる決断が遅れたのは弱点だが、今回は実行している。2030 年に ROE 12% を目標に置くが、筆者は 6% 台までと見る。
財務は堅い。自己資本比率は 66%、純有利子負債はほぼゼロで、借り換えの金利が上がっても利益はほとんど削られない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
MLCC は、スマホ、車、AI サーバーに使われる小さな部品だ。1 台あたりの個数が増え、世界の需要は年 6〜8% ほどで伸びるとみられる。AI サーバーは 1 台に載る個数が特に多い。材料の需要も同じ方向に伸びる。
材料側の競争は厳しくなる。日本化学工業は 2027 年度の稼働を目標にチタン酸バリウムの設備を増やす。石原産業と富士チタン工業は、村田製作所と合弁で作る。中国のメーカーも追い上げ、汎用の品では値下がりが進む。伸びる市場だが、利益率が上がり続ける市場ではない。
塩ビ添加剤は、日本の建設や配管の需要に結びつく。人口が減るので、数量は 10 年でやや減るとみる。鉛を使わない安定剤への切り替えは進んでいるが、これは数量というより、品ぞろえの競争だ。
化粧品材料のうち、日焼け止め用の無機材料は、コスト重視で需要が伸び悩んでいる。有機化学品は、医薬中間体の受注の山と谷が大きい。反動減は 2027 年 3 月期の第 1 四半期にも出た。
化学業界は全体に、中国の過剰生産と、日本の内需の縮小に挟まれている。この会社は、汎用品をやめ、差別化できる材料に寄せる側にいる。方向は正しいが、10 年かけて進む話だ。
資本政策と M&A
還元は積極的になっている。中期経営計画では、3 年間で 80 億円以上の還元を掲げ、配当は自己資本の 3% を目安にする。2027 年 3 月期は、配当を増やし、70 億円を上限とする自社株買いも進めている。取った株は消却する。
筆者はこの還元を、評価するが、過信しない。利益が薄いので、配当と自社株買いの合計は利益を上回っている。自己資本が減って ROE が上がる形だ。利益そのものが増えるわけではない。
政策保有株は、上場 17 銘柄で約 48 億円と、自己資本の 1 割に満たない。売却しても、本業を変えるほどの額ではない。固定資産の売却益が 10 億円ほど出ており、遊休地を売る動きは続く。
買収については、中期経営計画の目標に M&A の利益を含めていない。自社で成長事業を伸ばし、効率化検討事業は撤退か安定化を目指す方針だ。
時価総額は 540 億円ほどと小さい。純有利子負債が少なく、買われる側にもなりうる。筆者は、10 年以内の TOB の可能性を無視はしないが、それを価値には織り込んでいない。
10年の還元は、配当を自己資本の3%の目安で続け、今期の70億円の自社株買いを足した水準(中立で330億円)。以前の置き方(400億円)は方針より厚かったので薄めた。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
電子材料は、AI の計算基盤が増えるほど必要になる。1 台のサーバーに載る MLCC の数は、普通のパソコンの何倍にもなる。同社は粒のそろった材料を作れる数少ない会社で、村田製作所のような大手が簡単に切れない。2026 年 3 月期の電子材料は売上が 1 割強、営業利益が 2 割強伸びた。この勢いが 10 年続けば、電子材料の利益は今の 3 倍に迫る。
そのうえ、会社は酸化チタンをやめて重荷を落とした。化粧品材料も減損で資産を軽くした。触媒は拠点を集約し、利益が大きく戻っている。重荷が消えれば、残る事業の利益率は上がる。
財務は堅く、借金はほとんどない。自社株買いと増配で、利益が増えなくても 1 株あたりの価値は上がる。時価総額は 540 億円ほどで、帳簿の自己資本を 3 割下回る。構造改革が実を結べば、利益率は 10% を超え、評価の見直しが起こる。
電子材料の利益率は 15% を超え、他の事業の 2 倍以上ある。構成比が上がるだけで、会社全体の利益率は自然に上がっていく。
慎重な見方
電子材料は良い事業だが、この会社の利益の 3 割弱にすぎない。残りが足を引っ張る構造は、10 年前から変わっていない。売上は 800 億円台で動かず、営業利益率は 5% 前後に張りついた。2021 年と 2024 年は赤字で、減損が何度も出た。今回の構造改革も、過去の失敗の後始末という面が強い。
電子材料の先行きも安泰ではない。日本化学工業が増産に動き、石原産業と富士チタン工業は村田製作所と合弁で作る。顧客が自前の調達に寄せれば、取引は細る。中国のメーカーも追い上げ、品質の差は縮む。値段は下がりやすい。
さらに、配当と自社株買いの合計が利益を上回っているのは、稼ぐ力が足りない裏返しだ。自己資本が減って ROE が上がるのは、見かけの改善にすぎない。資本コスト 7.5% を超える稼ぎを、10 年のあいだ安定して出せる見通しが立たない。
加えて、本命の電子材料を支える顧客の MLCC 大手は、仕入れ価格の引き下げに厳しい。利益が増えても、値段の交渉で取られかねない。
どちらに重みを置いたか
強いのは慎重な見方だ。電子材料の伸びは確かだが、会社全体の利益率と ROE が、資本コストを安定して超える実績がない。構造改革が利益率を 8% 台に押し上げるところまでは見るが、それ以上の改善は確かでない。
そこで、確率は中立に 38%、やや悲観に 22% を置き、楽観は 8% に抑えた。悲観は 10% で、電子材料の顧客離れと汎用品の悪化が重なる姿を見ている。全体としては、10 年後の価値が今の時価総額をやや下回る。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 4,375 円670 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 2,158 円330 億円)。 今の値に割り戻すと 3,626 円555 億円、今との差 +6.6%、 期待の年率 +6.7%(資本コスト 7.5%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 7,644 円1,170 億円 | 2,743 円420 億円 | +205.5% | +11.8% | 831 円127 億円 |
| やや楽観 | 22% | 6,097 円933 億円 | 2,417 円370 億円 | +150.4% | +9.6% | 1,873 円287 億円 |
| 中立 | 38% | 4,965 円760 億円 | 2,155 円330 億円 | +109.4% | +7.7% | 2,706 円414 億円 |
| やや悲観 | 22% | 1,835 円281 億円 | 1,960 円300 億円 | +11.6% | +1.1% | 835 円128 億円 |
| 悲観 | 10% | 1,319 円202 億円 | 1,568 円240 億円 | −15.1% | −1.6% | 289 円44 億円 |
| 加重平均 | 100% | 4,375 円670 億円 | 2,158 円330 億円 | +92.2% | +6.7% | 6,533 円1,000 億円 |
今の株価時価総額 3,400 円521 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.5% を下回るほど割高。
楽観 8% 電子材料が AI 需要で大きく伸び、改革が実を結ぶ 利益 81 億円 · PER 14.1 倍 · 株価時価総額 7,644 円1,170 億円
AI サーバーの増加で MLCC の需要が伸び続け、電子材料は 10 年後に売上が今の 2 倍を超える。粒をそろえる技術が評価され、シェアも 9.5% から 11% まで上がる。営業利益率は 19% に届き、この事業だけで 56 億円ほど稼ぐ。
酸化チタンの撤退と触媒の集約で重荷が消え、樹脂添加剤や無機材料の利益率も保たれる。医療と化粧品材料の赤字が止まり、全体の営業利益は 130 億円ほどと今の 2 倍になる。ROE は 9% 台まで上がる。
会社は自社株買いと増配を続け、還元の合計は 500 億円に達する。筆者は、ここまでの改善を可能とは見るが、中心とは考えない。
- 電子材料:数量 1.5(MLCC 誘電体材料の世界市場(億ドル・実質)× シェア)× 価格 128.0%(価格指数(今 1.00。物価 3% なら 10 年 1.34))→ 売上 296 億円・営業利益 56 億円。売上 296 億円・営業利益率 19.0%
- 樹脂添加剤・無機材料・触媒:数量 1.3(関連市場の出荷量(億ドル・実質)× シェア)× 価格 134.0%(価格指数(今 1.00。物価 3% なら 10 年 1.34))→ 売上 261 億円・営業利益 38 億円。売上 261 億円・営業利益率 14.5%
- 有機化学品・化粧品材料・医療・衛生材料・受託加工・その他:数量 3.0(関連市場の出荷量(億ドル・実質)× シェア)× 価格 134.0%(価格指数(今 1.00。物価 3% なら 10 年 1.34))→ 売上 597 億円・営業利益 42 億円。売上 597 億円・営業利益率 7.0%
- 酸化チタン・亜鉛製品:数量 0.4(関連市場の出荷量(億ドル・実質)× シェア)× 価格 134.0%(価格指数(今 1.00。物価 3% なら 10 年 1.34))→ 売上 85 億円・営業利益 7 億円。売上 85 億円・営業利益率 8.0%
倍率:事業の純利益 81 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.3% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 7.9%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.1 倍。全体の PER 14.14 倍、時価総額 1,145 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:電子材料が高い伸びを続け、シェアも上がり、残る事業の利益率が改善する全部が揃う姿。10 年ならありうるが、同社の利益率が長く 5% 前後だった実績を考えると 8% にとどめた。
やや楽観 22% 電子材料は順調、残る事業も改善 利益 68 億円 · PER 13.3 倍 · 株価時価総額 6,097 円933 億円
電子材料は、市場の伸びに合わせて売上が今の 1.9 倍ほどになる。シェアは 10% 強へ小幅に上がり、営業利益率は 18% で、利益は 40 億円近くに届く。
酸化チタンをやめた効果が出て、樹脂添加剤・無機材料は 14% の利益率を保つ。化粧品材料の赤字は止まり、医療事業は黒字に戻る。全体の営業利益は 110 億円ほどで、今の 7 割増になる。
ROE は 8% 近くまで上がるが、資本コストの 8.5% には届かない。自社株買いは続くが、規模は中計の目標と同程度だ。
筆者は、この筋書きを改革が素直に進んだ姿と見る。大当たりではないが、会社の方向が正しいことの確認になる。
- 電子材料:数量 1.4(MLCC 誘電体材料の世界市場(億ドル・実質)× シェア)× 価格 127.0%(価格指数(今 1.00。物価 3% なら 10 年 1.34))→ 売上 259 億円・営業利益 47 億円。売上 259 億円・営業利益率 18.0%
- 樹脂添加剤・無機材料・触媒:数量 1.3(関連市場の出荷量(億ドル・実質)× シェア)× 価格 134.0%(価格指数(今 1.00。物価 3% なら 10 年 1.34))→ 売上 253 億円・営業利益 35 億円。売上 253 億円・営業利益率 14.0%
- 有機化学品・化粧品材料・医療・衛生材料・受託加工・その他:数量 2.8(関連市場の出荷量(億ドル・実質)× シェア)× 価格 134.0%(価格指数(今 1.00。物価 3% なら 10 年 1.34))→ 売上 570 億円・営業利益 34 億円。売上 570 億円・営業利益率 6.0%
- 酸化チタン・亜鉛製品:数量 0.4(関連市場の出荷量(億ドル・実質)× シェア)× 価格 134.0%(価格指数(今 1.00。物価 3% なら 10 年 1.34))→ 売上 84 億円・営業利益 6 億円。売上 84 億円・営業利益率 7.0%
倍率:事業の純利益 68 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.1% が k 7.50% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 13.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.3 倍。全体の PER 13.33 倍、時価総額 906 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:電子材料の成長が続き、構造改革の効果も出る素直に良い姿。中計の方向どおりに進む場合で、筆者は 2 割強を見る。
中立 38% 電子材料は伸び、他は薄利のまま営業利益率 8% 台に定着 利益 55 億円 · PER 13.3 倍 · 株価時価総額 4,965 円760 億円
電子材料は、市場が年 4.5% ほどで伸び、シェアは 9.5% で変わらない。値段は中国勢との競争で物価ほど上がらず、売上は今の 2 倍弱になる。営業利益率は 17% で、利益は 37 億円ほどだ。
樹脂添加剤・無機材料・触媒は、数量が 1 割弱減り、値段が物価並みに上がって、利益率は 13% に落ち着く。その他の事業は利益率が 5% に上がるが、化粧品材料と医療は黒字にようやく届く程度だ。酸化チタンは残る分が小さく、利益はわずかだ。
全体の営業利益は 90 億円近く、今より 4 割ほど増える。10 年の還元は 330 億円(配当は自己資本の 3% 目安、今期の 70 億円の自社株買いを含む)。ROE は 6% 弱で、資本コストに届かない。会社の目標は 2030 年に ROE 12% だが、筆者はそこまで届かないと見る。
- 電子材料:数量 1.2(MLCC 誘電体材料の世界市場(億ドル・実質)× シェア)× 価格 125.0%(価格指数(今 1.00。物価 3% なら 10 年 1.34))→ 売上 221 億円・営業利益 38 億円。売上 221 億円・営業利益率 17.0%
- 樹脂添加剤・無機材料・触媒:数量 1.2(関連市場の出荷量(億ドル・実質)× シェア)× 価格 134.0%(価格指数(今 1.00。物価 3% なら 10 年 1.34))→ 売上 247 億円・営業利益 32 億円。売上 247 億円・営業利益率 13.0%
- 有機化学品・化粧品材料・医療・衛生材料・受託加工・その他:数量 2.7(関連市場の出荷量(億ドル・実質)× シェア)× 価格 134.0%(価格指数(今 1.00。物価 3% なら 10 年 1.34))→ 売上 549 億円・営業利益 27 億円。売上 549 億円・営業利益率 5.0%
- 酸化チタン・亜鉛製品:数量 0.4(関連市場の出荷量(億ドル・実質)× シェア)× 価格 134.0%(価格指数(今 1.00。物価 3% なら 10 年 1.34))→ 売上 82 億円・営業利益 6 億円。売上 82 億円・営業利益率 7.0%
倍率:事業の純利益 55 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 5.9% が k 7.50% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 13.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.3 倍。全体の PER 13.33 倍、時価総額 733 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:電子材料は伸びるが、他の事業は物価に追いつく程度で、全体の ROE は資本コストに届かない姿。これまでの実績に最も近く、最も重く見る。
やや悲観 22% 電子材料の値下がりと、汎用事業の悪化が重なる 利益 34 億円 · PER 7.0 倍 · 株価時価総額 1,835 円281 億円
電子材料は、日本化学工業の増産と中国勢の追い上げで値段が頭打ちになる。市場は伸びても、シェアが 8.5% に下がり、値段は物価の半分ほどしか上がらない。利益率は 14% に下がる。
塩ビ添加剤は数量が 1 割以上減り、物価の転嫁も追いつかない。有機化学品の受注は不安定なままで、化粧品材料と医療の赤字は止まらない。全体の営業利益率は 6% を切る。
営業利益は 56 億円ほどで、今を下回る。ROE は 4% 前後に落ち、資本コストを大きく割り込む。還元は配当を守る程度にとどまる。
構造改革は進むが、成果は売上の減少と値下がりに食われる。事業の入れ替えが、利益の回復に結びつかない姿である。
- 電子材料:数量 1.0(MLCC 誘電体材料の世界市場(億ドル・実質)× シェア)× 価格 115.0%(価格指数(今 1.00。物価 3% なら 10 年 1.34))→ 売上 164 億円・営業利益 23 億円。売上 164 億円・営業利益率 14.0%
- 樹脂添加剤・無機材料・触媒:数量 1.2(関連市場の出荷量(億ドル・実質)× シェア)× 価格 130.0%(価格指数(今 1.00。物価 3% なら 10 年 1.34))→ 売上 230 億円・営業利益 25 億円。売上 230 億円・営業利益率 11.0%
- 有機化学品・化粧品材料・医療・衛生材料・受託加工・その他:数量 2.6(関連市場の出荷量(億ドル・実質)× シェア)× 価格 130.0%(価格指数(今 1.00。物価 3% なら 10 年 1.34))→ 売上 506 億円・営業利益 18 億円。売上 506 億円・営業利益率 3.5%
- 酸化チタン・亜鉛製品:数量 0.4(関連市場の出荷量(億ドル・実質)× シェア)× 価格 130.0%(価格指数(今 1.00。物価 3% なら 10 年 1.34))→ 売上 73 億円・営業利益 4 億円。売上 73 億円・営業利益率 5.0%
倍率:ROE 4% は資本コストを大きく下回る。RONIC は 6.3%、g 4% から正当化 PER は約 8 倍。やや悲観は構造的な負けの筋書きなので上限に寄せず、7.0 倍とした。
確率:電子材料で中国勢との値下げ競争が進み、成熟事業の利益率も下がる姿。同社は過去 10 年に赤字が 2 回あり、2 割強の確率は妥当。
悲観 10% 電子材料の顧客を失い、汎用事業も縮む 利益 11 億円 · PBR 0.3 倍 · 株価時価総額 1,319 円202 億円
MLCC 大手が調達先を変え、電子材料のシェアは 6% に落ちる。値段は物価に追いつかず、利益率は 9% まで下がる。市場は伸びても、同社の売上は今を下回る。
塩ビ添加剤は数量が 2 割減り、値上げもできない。化粧品材料と医療は赤字が続き、減損が繰り返される。全体の営業利益は 20 億円ほどに縮む。
会社は配当を減らし、事業の売却や再編に追い込まれる。自己資本は減損で 650 億円まで減るが、財務の堅さと売れる資産が床を支える。
10 年後の会社は、小さく安定した素材メーカーに近い。優良さは失われ、株主への見返りは資本コストを大きく下回る。
- 電子材料:数量 0.6(MLCC 誘電体材料の世界市場(億ドル・実質)× シェア)× 価格 100.0%(価格指数(今 1.00。物価 3% なら 10 年 1.34))→ 売上 90 億円・営業利益 8 億円。売上 90 億円・営業利益率 9.0%
- 樹脂添加剤・無機材料・触媒:数量 1.1(関連市場の出荷量(億ドル・実質)× シェア)× 価格 120.0%(価格指数(今 1.00。物価 3% なら 10 年 1.34))→ 売上 193 億円・営業利益 15 億円。売上 193 億円・営業利益率 8.0%
- 有機化学品・化粧品材料・医療・衛生材料・受託加工・その他:数量 2.4(関連市場の出荷量(億ドル・実質)× シェア)× 価格 120.0%(価格指数(今 1.00。物価 3% なら 10 年 1.34))→ 売上 439 億円・営業利益 9 億円。売上 439 億円・営業利益率 2.0%
- 酸化チタン・亜鉛製品:数量 0.3(関連市場の出荷量(億ドル・実質)× シェア)× 価格 120.0%(価格指数(今 1.00。物価 3% なら 10 年 1.34))→ 売上 61 億円・営業利益 2 億円。売上 61 億円・営業利益率 3.0%
倍率:稼ぐ力(純利益 11 億円÷k)は約 130 億円と低く、売れる資産の税後 200 億円が床になる。今の自己資本 777 億円に PBR 0.26 倍を掛け、この床に合わせた。
確率:顧客の調達先の見直しと中国勢の浸透で電子材料が崩れ、他の事業も縮んで、もう優良ではなくなる姿。事業の入れ替えが遅れた実績から、1 割を置く。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
電子材料
積層セラミックコンデンサ(MLCC)の主原料、チタン酸バリウムと高純度の炭酸バリウム。水熱合成法で粒の細かさをそろえるのが売り。
| 数量MLCC 誘電体材料の世界市場(億ドル・実質)× シェア | 価格価格指数(今 1.00。物価 3% なら 10 年 1.34) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 0.8 | 100.0% | 114 | 18 |
| 10 年後 中立 | 1.2 | 125.0% | 221 | 38 |
取り方:世界の誘電体材料(チタン酸バリウム・炭酸バリウム)市場を実質 1,200 億円、同社のシェアを 9.5% と推定し、売上 114 億円から逆算した。市場規模は開示が無く推定(日本化学工業・富士チタン/石原産業・共立マテリアル・中国勢の規模から見積もり)。数量はシェアの側、物価は価格指数に入れた。
樹脂添加剤・無機材料・触媒
塩ビ用の安定剤などの樹脂添加剤、無機材料、触媒。国内中心の成熟した素材。
| 数量関連市場の出荷量(億ドル・実質)× シェア | 価格価格指数(今 1.00。物価 3% なら 10 年 1.34) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1.3 | 100.0% | 201 | 29 |
| 10 年後 中立 | 1.2 | 134.0% | 247 | 32 |
取り方:樹脂添加剤 115 億・無機材料 51 億・触媒 35 億円の合計(2026/03 期の開示)。シェア・市場規模は非開示のため、売上を実質の出荷額とみなして指数で置いた。数量は国内の成熟需要なので中立で 10 年 0.92 倍(塩ビ需要の縮小)。
有機化学品・化粧品材料・医療・衛生材料・受託加工・その他
医薬中間体などの有機化学品、化粧品用の無機材料、医療事業、衛生材料、受託加工、その他。
| 数量関連市場の出荷量(億ドル・実質)× シェア | 価格価格指数(今 1.00。物価 3% なら 10 年 1.34) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 2.7 | 100.0% | 398 | 15 |
| 10 年後 中立 | 2.7 | 134.0% | 549 | 27 |
取り方:有機化学品 72 億・化粧品材料 17 億・医療 84 億・衛生材料 54 億・受託加工 67 億・その他 104 億円の合計。営業利益の合計は、化粧品材料と医療の赤字を含めて約 15 億円(その他は開示なしで 0 とした)。売上を実質の出荷額とみなして指数で置いた。
酸化チタン・亜鉛製品
顔料用の酸化チタンは 2025 年末に製造をやめ、2026 年 3 月に販売も終えた。残るのは酸化亜鉛などの亜鉛製品と一部の微粒子品。
| 数量関連市場の出荷量(億ドル・実質)× シェア | 価格価格指数(今 1.00。物価 3% なら 10 年 1.34) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 0.7 | 100.0% | 102 | 12 |
| 10 年後 中立 | 0.4 | 134.0% | 82 | 6 |
取り方:2026/03 期の売上 102 億・営業利益 12 億円。この期は顔料酸化チタンの販売が最後まで含まれる。事業終了後に残る分は、亜鉛製品を中心に今の約 6 割(実質)と置いた(筆者の推定)。
リスクと懸念
電子材料の顧客と競合
利益の伸びの柱である電子材料は、MLCC 大手の数社に売る。顧客が調達先を分けたり内製を増やしたりすれば、数量と値段の両方が崩れる。日本化学工業の増産や中国勢の追い上げも、値下がりの圧力になる。
構造改革の成果が出ない
酸化チタンをやめて固定費は軽くなるが、2027 年 3 月期は営業利益が減る見通しだ。代わりに電子材料が伸びなければ、利益は減ったままになる。化粧品材料も減損を出しており、改革の効果が数字に出るのは遅れかねない。
減損が繰り返される
過去 10 年のうち 2 回が赤字で、減損が何度も出ている。今回も化粧品材料の設備で 24 億円を超える減損が出た。医療事業の赤字が続けば、次の減損の候補になる。減損は純利益を直接削る。
成熟事業の縮み
塩ビ用の添加剤は、国内の建設・配管需要に結びつく。人口が減れば数量は細り、環境規制による素材の切り替えも進む。値段を転嫁する力も弱く、利益率が下がる余地がある。
有機化学品の受注の波
医薬中間体は、顧客の薬の売れ行きや在庫調整で、受注が大きく動く。2027 年 3 月期の第 1 四半期は反動減で、営業利益が 4 割以上減った。利益の安定性は低い。
還元が利益を上回る
配当と自社株買いの合計が利益を上回る状態が続くと、自己資本が減る。ROE は上がって見えるが、稼ぐ力が上がるわけではない。景気が悪化した時に還元を続けられるかは、利益の水準次第だ。
今後の分かれ目
- 電子材料の売上が 2 桁の伸びを 3 年以上続け、利益率が 20% に近づいたら
- 電子材料だけで会社全体の利益の半分に近づく。楽観とやや楽観の確率を上げ、全体の評価を見直してよい。
- MLCC の大手顧客が、調達先を増やして取引量を減らしたら
- 電子材料の数量と値段の前提を下げる。やや悲観と悲観の確率を上げる。
- 化粧品材料と医療事業が黒字に転じ、有機化学品の利益が安定したら
- その他の事業の利益率が 5% を超える。中立より上の筋書きに確率を寄せられる。
- 2027 年 3 月期に営業利益が計画の 60 億円を下回り、減損が続いたら
- 構造改革が数字に表れていない。中立の利益率を引き下げ、悲観の確率を上げる。
- 他社が TOB を仕掛けるか、事業の売却・再編が発表されたら
- 買収価格は営業利益と資産の見直しで決まる。時価総額が小さく財務が堅いので、買われる側になる可能性は消えない。
見ておくもの
- 電子材料の売上・営業利益の四半期の伸び
- MLCC 大手の調達方針と日本化学工業などの増産の稼働時期
- 化粧品材料・医療事業の黒字化と追加の減損の有無
- 酸化チタン終了後の営業利益(2027 年 3 月期の 60 億円)
- 有機化学品(医薬中間体)の受注の戻り
- 総還元額と自社株買いの消却
倍率と資本コストの決め方
10 年後の倍率は、ROE と成長率 4%、資本コスト 7.5% から出した正当化 PER の 8 割に置いた(中立 8.2 倍)。ROE が資本コストを下回るので、上限は 1÷k の 11.8 倍までで、そこには近づけていない。今の株価や PER、同業の倍率からは決めていない。結果は、中立の時価総額が今とほぼ同じで、配当を足しても資本コストに届かず、総合は「やや割高」になった。電子材料の市場規模とシェアは推定で、実際と違えば筋書きが動く。余った現金は無いので分けていない。店舗や倉庫を大量に借りる事業ではなく、新リース会計基準の影響は小さいとみるが、数字は今と同じ形(家賃を費用に入れた形)で置いた。株数は台帳の値で、自社株買いが続いているため実数と数%ずれる可能性がある。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 9.7→14.14 倍・やや楽観 PER 9→13.33 倍・中立 PER 8.2→13.33 倍)。
資本コスト 7.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality +1.0% を足して 8.5%。個別のリスクは筋書きと確率で表した。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.50% → 7.50%。