結論
アトミクスは東京の塗料の中堅だ。道路の白線に使う路面標示の塗料、工場や倉庫の床と屋根、屋上の防水材、ホームセンターで売る家庭用の塗料を作る。筆者の結論はやや割高だ。値段は手元の純現金とほぼ同じ水準で安く見えるが、その現金は株主に戻らず積み上がり、事業の稼ぎも資本コストの半分ほどしかないからである。
強みは道路用だ。国と自治体の維持補修の予算で白線は塗り替えられ、景気の波を受けにくい。床や防水の高機能品も伸びている。一方で家庭用はホームセンターの節約志向で細り、原料高は値上げで後から返すしかない。営業利益率は過去12年で1〜6%台にとどまる。
2026年3月期は土地の売却益で純利益が膨らんだが、これは一度きりだ。現金と預金は42億円と時価総額に迫る。ただ、還元は年1億円強の配当だけで、10年で純現金は2.5倍に増えた。少数株主はこの現金の使い道を決められない。帳簿より大幅に安い値段は、それだけでは安全域にならない。現金の使い道が変わるまでは、筆者は現金を額面どおりには数えない。事業そのものは地味だが十年先も残る、という点が下値の支えだ。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、現金が多い会社が掘り出し物になるのは、その現金が株主のために使われる時だけだ。アトミクスの現金は、この10年ほとんど株主に戻っていない。
オーナー利益、つまり設備を保つ投資を済ませたあとに株主に残る利益は、ならせば年4〜5億円だ。白線という消耗品を公共の予算に納める事業は地味だが、十年先も残る。ここは評価できる。
問題は、その利益の使い道だ。配当で返すのは3割弱で、残りは利息の少ない預金に積まれる。自己資本の稼ぎが資本コストの半分ほどなのは、事業の力より資本の重さのせいが大きい。経営が現金の使い道を示さない限り、筆者は現金の半分ほどしか株主の価値と見ない。
払う値段は帳簿の4割で、悲観でも下値は限られる。それでも、ためた現金が眠り続けるなら、今の値段は安全域というほど安くない。筆者が見たいのは、配当の性向を上げるか、自社株を買って消却する一歩だ。それが出れば評価は大きく変わる。
何で稼ぐ会社か
売上の9割強は塗料の販売で、残りは自社の塗料を使った工事だ。塗料は大きく四つの用途に分かれる。
一つ目は道路用だ。横断歩道や車線の白線に使う路面標示の塗料と、視覚障がい者を誘導する製品を作る。買い手は道路の標示工事の会社で、その先には国と自治体の予算がある。国土強靭化や自転車道の整備で、2026年3月期も伸びた。
二つ目は建築用で、工場や倉庫の床、屋根、屋上の防水材だ。水性のアクリルゴム系の防水材「アトムレイズ」は大型の改修工事で採用が増えている。三つ目は床用で、高耐久の品と水性の品が伸びた。四つ目は家庭用で、子会社のアトムサポートがホームセンターに納める。ここは節約志向で前年を少し下回った。
施工は子会社のアトムテクノスが担い、床材や道路の工事を請け負う。売上は9億円ほどで、年によって長期の工事で振れる。
従業員は連結で278人と小さい。品目ごとの売上は開示していないが、成長しているのは道路と業務用の高機能品で、縮んでいるのは家庭用という構図ははっきりしている。工場は埼玉の加須などにあり、2026年には本社を新宿区に移した。設備投資は年に数億円で、すべて自己資金でまかなう。借入は短期の2億円だけだ。
優良さと弱いところ
強みは道路用の顧客の固さにある。白線は数年ごとに塗り直す消耗品で、需要は公共の維持補修の予算に結びつく。標示の工事会社は使い慣れた塗料を変えたがらず、納める側の顔ぶれもあまり変わらない。
ただ、値決め力は弱い。原料の樹脂や顔料は石油化学の市況で動き、値上げはいつも後から通る。家庭用はホームセンターのPBと棚を争い、日本ペイントや関西ペイントの家庭用部門とも競る。営業利益率は過去12年の最良でも5.8%で、自己資本の稼ぎは過去10年の中央値で3%台だ。
資本の使い方は最大の弱点だ。自己資本の3分の1以上が現金と預金で、それが年2%ほどしか生まない。これが自己資本の稼ぎを押し下げている。新本社への移転や工場の設備に自己資金を使う計画はあるが、規模は年数億円にとどまる。経営は2026年度から第15次三ヵ年計画に入ったが、売上や利益の数値目標は示していない。目標を数字で語らない経営は、資本の効率を問われにくい。株主の側から見れば、ここがいちばん物足りない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
世界の塗料市場は新興国の建築と自動車で伸びるが、アトミクスのいる日本の道路と建築の補修は、その流れの外にある。数量はほぼ横ばいで、伸びは値段から来る。
道路用は底堅い。日本の道路は延長が長く、白線は摩耗するので塗り替えが続く。国土強靭化の予算と、高齢の歩行者や自転車に配慮した整備が下支えになる。一方で、自治体の予算が細れば塗り替えの周期は延びる。人手不足で標示の工事会社が減れば、施工の手間の少ない製品が選ばれる。
建築用は改修の需要に乗る。高度成長期の工場や倉庫、マンションが一斉に古くなり、床と屋根と防水の塗り替えが続く。新築の戸建ては細るので、防水材の一部は減っている。物流倉庫の建設が続く限り、床用の需要も残る。
家庭用は縮む。DIYをする人は高齢化し、ホームセンターは再編とPBで納める側の取り分を削る。業界全体では、溶剤から水性への切り替えと揮発性の有機物の規制が技術の転換点になる。会社は第15次三ヵ年計画で水性と低VOCの製品を前に出した。この切り替えは大手も同じく進めており、技術で先行できる幅は大きくない。
資本政策と M&A
還元は配当だけだ。2026年3月期の配当は総額で1億円強と、ならした利益の3割弱にとどまる。自社株買いの最近の実績はない。発行済株式の4分の1ほどの自己株を持つが、消却はしていない。
その結果、純現金は10年で15億円から40億円に増えた。土地を売った資金も手元に残る。政策保有株は上場の10銘柄で6億円弱あり、配当は利益に入っている。
時価総額は45億円ほどで、現金と預金の42億円にほぼ並ぶ。この差は、同業の大手や投資ファンドの関心を引きうる。ただ、それは筋書きの確率でなく、事業と資本の中身で見る。株主の顔ぶれでは、個人の大株主が5%強を持つことが大量保有の報告で分かっている。取引先の持株会も株を買い増している。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
値段は手元の現金と預金にほぼ等しい。事業はただで付いてくるようなものだ。しかも事業は悪くない。白線は数年ごとに塗り直す消耗品で、国と自治体の維持補修の予算に支えられる。国土強靭化と自転車道の整備は、この先も続く。
利益も上向いている。2027年3月期の第1四半期は売上が2割近く増え、会社は経常利益の見通しを7億円に引き上げた。床と防水の高機能品、水性の製品が伸び、値上げも通り始めた。営業利益率が過去の山の6%台に戻れば、事業だけで今の値段を説明できる。
現金の使い道が変わる芽もある。土地を売って新本社に移り、資産の入れ替えに手を付けた。政策保有株を売り、自社株買いや増配に回せば、自己資本の稼ぎは一気に上がる。現金と同じ値段で買える会社は、そう多くない。悲観の筋書きでも、預金があるので株主の損は限られる。下値が固く、上値に変化の芽がある。この非対称こそ、この値段で持つ理由になる。足元の利益の勢いと現金の厚さが重なる局面は、そう長くは続かない。
慎重な見方
現金は株主のものではない。少なくとも、少数株主が使い道を決められない限りはそうだ。アトミクスは10年で純現金を2.5倍に積み上げ、還元は年1億円強の配当にとどめてきた。この姿勢が変わる証拠は、まだ一つもない。
事業の稼ぎも細い。営業利益率は過去12年で1〜6%台で、原料高の年にはすぐ2%を割る。値上げはいつも後から通る。家庭用はホームセンターのPBと節約志向で縮み、新築の戸建てが減れば防水材も細る。2026年3月期の純利益は土地の売却益で膨らんだだけで、ならせば4億円台だ。
道路用も盤石ではない。自治体の予算は高齢化の福祉に食われ、塗り替えの周期は延びうる。人手不足で標示の工事会社が減れば、施工の手間の少ない海外製や大手の製品に切り替わる。帳簿の4割という値段は、こうした稼ぎの低さと現金の眠りを、市場がそのまま映した結果だ。現金が多いことは、使わない限り株主の得にならない。経営が10年かけて示してきたのは、現金を手放さないという答えだ。
どちらに重みを置いたか
慎重な見方のほうがやや強い。足元の上方修正と道路用の底堅さは本物で、上振れの筋書きにも重みを残した。ただ、現金を株主に戻さない姿勢は10年続いてきた事実で、それが変わる兆しはない。中心は事業が過去の中ほどの稼ぎを保つ筋書きに置き、悲観は純現金が下値を支えるので1割にとどめた。現金の使い道が数字で示されれば、確率は強気の側に動かす。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 1,359 円72 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 244 円13 億円)。 今の値に割り戻すと 779 円42 億円、今との差 −9.1%、 期待の年率 +6.5%(資本コスト 8.3%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 2,422 円129 億円 | 376 円20 億円 | +226.4% | +12.6% | 224 円12 億円 |
| やや楽観 | 20% | 1,946 円104 億円 | 300 円16 億円 | +162.1% | +10.1% | 449 円24 億円 |
| 中立 | 40% | 1,538 円82 億円 | 263 円14 億円 | +110.2% | +7.7% | 721 円38 億円 |
| やや悲観 | 22% | 569 円30 億円 | 188 円10 億円 | −11.7% | −1.2% | 166 円9 億円 |
| 悲観 | 10% | 357 円19 億円 | 75 円4 億円 | −49.6% | −6.6% | 43 円2 億円 |
| 加重平均 | 100% | 1,359 円72 億円 | 244 円13 億円 | +87.1% | +6.5% | 1,603 円85 億円 |
今の株価時価総額 857 円46 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.3% を下回るほど割高。
楽観 8% 高機能品と値上げが定着し、現金も株主に回り始める 利益 9 億円 · PER 12.1 倍 · 株価時価総額 2,422 円129 億円
道路用は国土強靭化と自転車道の整備で数量を保ち、床と防水の高機能品がシェアを広げる。水性で臭いの少ない製品は、稼働中の工場や倉庫を止めずに塗れる強みで採用が増える。値上げは原料高を少し上回って通り、塗料の利益率は過去にない水準に届く。
家庭用の縮みは続くが、業務用の伸びがそれを打ち消す。営業利益は10年で今の2倍に増える。経営は政策保有株を売り、配当を厚くする。それでも預金は残り、自己資本の稼ぎは資本コストにわずかに届かない。白線と床の専門メーカーとして、地味だが確かな会社に育つ。自治体や工場の担当者に選ばれ続ける名前になれば、値上げも通りやすくなる。
- 塗料販売:数量 21.3(出荷量(千トン・年、推定))× 価格 828(1 kg あたりの平均出荷単価(円・名目))→ 売上 176 億円・営業利益 16 億円。数量 1.08 倍 × 単価 1.38 倍、利益率 9%
- 施工:数量 660(工事の件数(件・年、推定))× 価格 214(1 件あたりの工事額(万円・名目))→ 売上 14 億円・営業利益 1 億円。件数 1.1 倍 × 単価 1.38 倍、利益率 8%
倍率:事業の純利益 9 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 6.9% が k 8.25% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.1 倍 + 余った現金(戻り方込み)22 億円。全体の PER 12.12 倍、時価総額 126 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:水性・高機能品の伸びと足元の上方修正は追い風だが、利益率が過去の最良を超える筋書きなので低い確率にとどめた。
やや楽観 20% 業務用の伸びで家庭用の縮みを埋め、利益率が過去の山に並ぶ 利益 7 億円 · PER 12.1 倍 · 株価時価総額 1,946 円104 億円
道路用は維持補修の予算で横ばいを保ち、床と防水は工場や倉庫の改修で少しずつ伸びる。家庭用はホームセンターの節約志向で細るが、全体の数量はほぼ横ばいだ。値段はおおむね物価並みに上がる。
営業利益率は過去の山の5%台に並ぶ。配当は利益の3割を保つが、自社株買いはしない。預金は積み上がり、自己資本の稼ぎは5%前後にとどまる。会社は着実に稼ぐが、株主の価値はそれほどには増えない。現金の使い道が変わらない限り、ここが上限に近い。水性の防水材や高耐久の床材は、この筋書きでも売上を押し上げる柱になる。道路用の数量は横ばいでも、単価の高い品の比率が上がる。
- 塗料販売:数量 20.1(出荷量(千トン・年、推定))× 価格 816(1 kg あたりの平均出荷単価(円・名目))→ 売上 164 億円・営業利益 13 億円。数量 1.02 倍 × 単価 1.36 倍、利益率 8%
- 施工:数量 630(工事の件数(件・年、推定))× 価格 211(1 件あたりの工事額(万円・名目))→ 売上 13 億円・営業利益 1 億円。件数 1.05 倍 × 単価 1.36 倍、利益率 7.5%
倍率:事業の純利益 6 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 5.5% が k 8.25% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.1 倍 + 余った現金(戻り方込み)22 億円。全体の PER 12.12 倍、時価総額 100 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:道路と業務用の改修需要は底堅く、上方修正の勢いが続く道筋は十分ありうる。中立に次ぐ重みを置いた。
中立 40% 道路と業務用で横ばい、利益率は過去の中ほど 利益 5 億円 · PER 12.1 倍 · 株価時価総額 1,538 円82 億円
道路用と業務用は横ばいで、家庭用はゆっくり細る。全体の数量は10年で3%ほど減り、値段は物価並みに上がる。原料高の年は値上げが遅れて利益を削り、良い年がそれを取り戻す。
営業利益率は4%前後と、過去12年の中ほどに戻る。預金の利息が少し増え、純利益は名目で5億円ほどになる。配当は利益の3割弱を保ち、自社株買いはしない。自己資本は預金とともに膨らみ、その稼ぎは資本コストの半分ほどにとどまる。事業は残るが、株主の取り分はそれほど増えない。土地の売却のような一度きりの利益も、もう多くは見込めない。会社は静かに続くが、株主の取り分は預金の利息ほどにしか増えない。
- 塗料販売:数量 19.1(出荷量(千トン・年、推定))× 価格 804(1 kg あたりの平均出荷単価(円・名目))→ 売上 154 億円・営業利益 11 億円。数量 0.97 倍 × 単価 1.34 倍、利益率 7%
- 施工:数量 600(工事の件数(件・年、推定))× 価格 208(1 件あたりの工事額(万円・名目))→ 売上 13 億円・営業利益 1 億円。件数横ばい × 単価 1.34 倍、利益率 7%
倍率:事業の純利益 5 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 4.2% が k 8.25% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.1 倍 + 余った現金(戻り方込み)22 億円。全体の PER 12.12 倍、時価総額 78 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:道路用の底堅さと家庭用の縮みが打ち消し合い、利益率は過去12年の中ほどに戻るのが最もありそうな道筋とみた。
やや悲観 22% 原料高と家庭用の縮みで、稼ぎが細る 利益 2 億円 · PER 7.0 倍 · 株価時価総額 569 円30 億円
中東の情勢で原料の高値が長引き、値上げは毎年少しずつ遅れる。家庭用はホームセンターのPBに棚を奪われ、新築の戸建ての減少で防水材も細る。自治体の予算が窮屈になり、白線の塗り替えの周期も延びる。
数量は10年で1割強減り、値段は物価を下回ってしか上がらない。営業利益は1億円台に細り、純利益の半分以上は預金の利息になる。配当は保つが、預金は谷の年の穴埋めに少しずつ削られる。価値は事業の稼ぎより、手元の現金と売れる資産で測るしかなくなる。工場の更新の投資も先送りされ、競争力はさらに落ちる。株主に残るのは、現金の厚さという守りだけだ。
- 塗料販売:数量 17.4(出荷量(千トン・年、推定))× 価格 768(1 kg あたりの平均出荷単価(円・名目))→ 売上 133 億円・営業利益 6 億円。数量 0.88 倍 × 単価 1.28 倍、利益率 4.5%
- 施工:数量 540(工事の件数(件・年、推定))× 価格 198(1 件あたりの工事額(万円・名目))→ 売上 11 億円・営業利益 0 億円。件数 0.9 倍 × 単価 1.28 倍、利益率 4%
倍率:事業の利益が細るので PER は 1÷k の 54% の 7.0 倍に置き、稼ぐ力の床として扱う。余った現金は今の 30 億円の 0.75 倍に戻り方 0.5 を掛けて足し、床の資産 19 億円とほぼ並ぶ。
確率:原料の高騰が続き、値上げが追いつかない年は過去にも何度もあった。家庭用の縮みも速まりうるので厚めに置いた。
悲観 10% 業務用でも負け、本業が赤字に沈む 利益 −3 億円 · PBR 0.2 倍 · 株価時価総額 357 円19 億円
大手の塗料会社が道路と床の補修に力を入れ、施工の手間の少ない製品で標示の工事会社を取り込む。アトミクスの製品は値段でしか選ばれなくなり、原料高を返せない。家庭用はホームセンターの棚からほぼ外れる。
営業損益は赤字が続き、配当は大きく減らす。預金は赤字の穴埋めと工場の更新に食われる。価値は事業の稼ぎでなく、残った現金と政策保有株を売った手取りでしか測れない。少数株主は現金の使い道を決められず、清算の値段より低い所で値が付き続ける。工場の更新もままならず、ブランドの名だけが残る。下値を支えるのは、使われずに残った預金だけになる。
- 塗料販売:数量 14.8(出荷量(千トン・年、推定))× 価格 732(1 kg あたりの平均出荷単価(円・名目))→ 売上 108 億円・営業利益 1 億円。数量 0.75 倍 × 単価 1.22 倍、利益率 1.2%
- 施工:数量 480(工事の件数(件・年、推定))× 価格 189(1 件あたりの工事額(万円・名目))→ 売上 9 億円・営業利益 0 億円。件数 0.8 倍 × 単価 1.22 倍、赤字
倍率:赤字なので PER は当てない。今の自己資本 112 億円に PBR 0.169 を掛け、床の資産(余った現金の戻り方 0.5 の分と政策保有株の税後)の 19 億円に合わせた。
確率:純現金が下値を支え、借金もないので、本業が赤字に沈む筋書きでも株主の損は限られる。1割にとどめた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
塗料販売
路面標示などの道路用、床・屋根・防水の建築用、ホームセンター向けの家庭用の塗料を作って売る。
| 数量出荷量(千トン・年、推定) | 価格1 kg あたりの平均出荷単価(円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 19.7 | 600 | 118 | 9 |
| 10 年後 中立 | 19.1 | 804 | 154 | 11 |
取り方:セグメント売上 118.4 億円・利益 8.6 億円(短信)。品目別の数量は非開示。路面標示の溶融型(kg 数百円)と床・防水の高機能品(kg 千円超)、家庭用の小缶をならした 1 kg あたりの単価を 600 と置き、年 1.97 万トンと推定。
施工
子会社アトムテクノスが自社の塗料で床や道路の工事を請け負う。
| 数量工事の件数(件・年、推定) | 価格1 件あたりの工事額(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 600 | 155 | 9 | 1 |
| 10 年後 中立 | 600 | 208 | 13 | 1 |
取り方:セグメント売上 9.3 億円・利益 0.8 億円(短信)。件数は非開示なので 1 件 155 万円で年 600 件と推定。2026/03 期は長期工事の設計変更で一時的に膨らんだ。
リスクと懸念
現金が株主に戻らない
純現金は10年で15億円から40億円に増えたが、還元は配当だけだ。この姿勢が続けば、帳簿の現金は株主の価値として半分ほどしか数えられない。経営が使い道を示さないまま現金が積み上がるほど、自己資本の稼ぎはさらに下がる。
原料高の後追い
樹脂や顔料、溶剤は石油化学の市況で動く。会社は中東の情勢による調達の難しさを挙げている。値上げは後から通るので、原料が急に上がる年は利益が消えやすい。過去12年で営業利益率が2%を割った年もある。
公共の予算
道路用は国と自治体の維持補修の予算に結びつく。財政が窮屈になり、白線の塗り替えの周期が延びれば、数量はじわりと減る。国土強靭化の予算が一巡した後の落ち方も見ておきたい。
家庭用の縮み
家庭用はホームセンターの節約志向とPBに押され、前年を下回った。DIYをする人の高齢化で、この流れは長く続く。業務用の伸びで埋められなければ、全体の数量が減る。
一度きりの利益
2026年3月期の純利益は土地の売却益で膨らんだ。ならした稼ぎは4〜5億円で、見かけの利益で割安と見ると判断を誤る。売れる土地にも限りがある。
今後の分かれ目
- 自社株買いや増配で、純現金の使い道を数字で示したら
- 現金の戻り方を引き上げ、価値を見直す。
- 上方修正どおり経常利益7億円を達成し、翌期も続いたら
- 利益率が過去の山に並ぶ筋書きの確率を上げる。
- 原料高で値上げが追いつかず、営業利益率が2%を割ったら
- 稼ぎが細る筋書きに寄せる。
- 自治体の道路の補修予算が目に見えて減ったら
- 道路用の数量を下げ、悲観側の確率を上げる。
- 同業の大手や投資ファンドが株式の取得を始めたら
- 現金に近い値段が付く場面になりうる。ただし筋書きの確率は事業と資本の中身で決める。
見ておくもの
- 塗料販売セグメントの利益率
- 純現金と配当・自社株買いの額
- 原料の樹脂・顔料の価格
- 国と自治体の道路の維持補修予算
倍率と資本コストの決め方
倍率は今の値段から置かず、資本コスト8.25%と10年後の事業の稼ぎだけで決めた。事業のROEは中立で4%台とkに届かないので、PERの上限は1÷kで、中立はその7割に置いた。余った現金は戻り方0.5で別に足し、PERには混ぜていない。今のPBRが0.4倍であることや、時価総額が現金と預金にほぼ並ぶことは計算の後に比べただけで、割安の根拠にしていない。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 11→12.12 倍・やや楽観 PER 9.7→12.12 倍・中立 PER 9→12.12 倍)。
資本コスト 8.3% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。