結論
ケミプロ化成は、プラスチックの劣化を防ぐ紫外線吸収剤を主力にする売上 90 億円の化学メーカーだ。国外の販売はBASFジャパンに実質独占で任せている。筆者の結論は、今の値段は事業の稼ぐ力に対してかなり高い、というものだ。一番の理由は、営業利益が 3 億円台で、支払利息と持分の損益を引くと純利益がほとんど残らない構造にある。
2026 年 3 月期の純利益は 2.9 億円に見えるが、投資有価証券の売却益などの特別利益が押し上げた。本業の稼ぎは 1 億円前後で、過去 10 年もほぼ同じ水準で動いた。
BASF との基本契約は 2029 年 9 月までで、一定量以上の購入を約束している。これは数量の下支えになる。ただ売上に占める比率は 23% から 21% に下がっており、頼れる柱とは言いにくい。
10 年後の中立でも、営業利益率は 5% 台、ROE は 4% 前後だ。資本コストに届かない稼ぎに、純資産の 1.6 倍の値段が付いている。有利子負債も 40 億円ほどあり、金利が上がる世界では利益が削られる。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社は「小さくて、薄利で、借金がある」。株価は純資産の 1.6 倍。帳簿の資産の多くは専用の化学設備で、売れる額は簿価より小さい。
見るべきは、資本コストを超えて稼げるかどうかだ。この会社の ROE は 10 年を通じて 1 〜 7% で、資本コストを一度も超えていない。BASF との契約は強みだが、利益の増加には結びついてこなかった。
経営は堅実で、無理な買収はしない。それは評価できる。しかし稼ぎの薄さと財務の重さを考えると、高い値段を払う理由は見当たらない。
安全域は、悲観の筋書きでの売れる資産に残る。だが借金を引くとわずかだ。値段が純資産を大きく割るまで、待つほうが賢い。償却は物価で増えないが、更新の投資は建築費の上昇で膨らむので、会計の利益ほど現金は残らない。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの源は化学品の製造・販売だ。化学品事業が売上の 9 割を占め、紫外線吸収剤のほか、酸化防止剤、製紙用薬剤、写真薬の中間体、有機EL材料、他社からの受託製造を手がける。ホーム産業事業は木材保存薬剤で、住宅の防腐・防蟻に使う。
最大の製品が紫外線吸収剤で、売上の約 48%(43 億円)を占める。ベンゾトリアゾール系という種類が中心だ。プラスチックや塗料に混ぜて、日光による黄変や劣化を防ぐ。主な販売先は BASF ジャパンで、売上の 20.6%。国外では BASF が実質的に独占して売る。
受託製造が 24%、酸化防止剤が 11%、木材保存薬剤が 9%。区分別の利益は開示がない。従業員は 222 人、研究開発費は年 2.5 億円で、売上の 3% にあたる。工場は国内にあり、原料は石油化学品や中間体を外部から買う。原料の値動きと調達の難しさが、利益に直接響く。製品は少量多品種で、顧客ごとの認定を取るのに時間がかかる。売上の約 2 割を BASF ジャパンが占め、残りは国内外の多数の顧客に分かれる。子会社も親会社もなく、関連会社は 1 社だけだ。
優良さと弱いところ
優良さは「並みの下」と筆者は見る。強みは、特定の製品で長い実績と顧客の認定を持つことだ。紫外線吸収剤は品質のわずかな違いで性能が変わり、顧客は仕入れ先を簡単には替えない。BASF との基本契約は、数量の下限を決めている。
弱みは三つある。一つ目は規模だ。売上 90 億円では、世界の大手に価格で勝てない。業界では安値攻勢が続いている。二つ目は稼ぎの薄さだ。営業利益率は 10 年で 2 〜 6% に収まり、ROE の中央値は 3.3% だ。三つ目は営業利益と純利益のあいだの落差で、支払利息と持分の損益に利益が削られる。
財務は軽くない。純有利子負債は 32 億円で、営業利益は支払利息の 4 倍強しかない。自己資本比率は 39% で、借入に頼る度合いは中程度だ。経営は堅実だが、新製品が原料難で遅れるなど、実行力に疑問が残る。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
紫外線吸収剤の市場は、プラスチック、塗料、化粧品、電子材料の需要に連動する。自動車や建材の需要が景気に左右され、前期の後半は回復が遅れた。世界の紫外線吸収剤は、成長率が緩やかな成熟市場だ。
競合は、BASF や欧州の大手と、中国・インドの低価格メーカーだ。日本の中堅は、特殊品に限って生き残る。高機能品の比率を上げられるかが決め手になる。
構造の変化は二つある。環境規制の強まりで、一部の古いタイプの品が使えなくなる方向だ。それに伴い、顧客が新しい品への切り替えを進める。もう一つは、中国メーカーの追い上げで、汎用品の価格が下がることだ。
10 年の見通しは、数量はほぼ横ばいから微増、価格は物価に届かない。高機能品や電子材料の立ち上げが成功すれば質が上がるが、前期は原料の入手難で新製品が遅れた。原料とエネルギーの高止まりも、利益率を圧迫する。化学業界全体では、中国の過剰生産が汎用品の価格を押し下げ、日本の中堅は特殊品に絞る方向で動いている。ケミプロ化成も、数量の拡大より認定品の質で稼ぐ道を選ぶことになる。
資本政策と M&A
還元は控えめで、配当は年 1 億円弱、配当性向は 27% だ。次期の予想は未定。自社株買いは行っていない。
資金は設備更新と基幹システムに回る。前期の設備投資は 4 億円。基幹システムに約 1.8 億円を投じ、2026 年 4 月に完了予定だ。有利子負債は借入が中心で、短期借入金を 3 億円減らした。
上場株式(りそな、三井住友、みずほ)を持ち、前期はその一部を売って特別利益を計上した。売却益は一度限りで、本業の稼ぎではない。M&A の予定は見当たらない。10 年以内の買収・TOB の確率は 2 割弱という試算があるが、価値には入れていない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
紫外線吸収剤は、環境規制の強まりで代替の動きが進み、特殊品の需要が長期で伸びる。BASF との基本契約は 2029 年まで続き、購入の下限が決まっている。売上の下支えがあるのは、小さい会社には大きな安心だ。
前期の減収は、一時の需要の停滞と新製品の遅れによるもので、構造の悪化ではない。新製品は原料の調達先を広げれば立ち上がる。有機EL材料も加わり、2 本目の柱が育つ。
投資有価証券を売って財務を整える余地もある。純有利子負債は 32 億円で、10 年あれば返せる。配当性向は 27% と低く、増配の余地がある。
コスト面でも、基幹システムの更新で業務が効率化する。安値攻勢の中でも、品質の認定を持つ品は値下げを受け入れにくい。数量が戻れば、利益は何倍にもなりうる。
契約の数量下限に加えて、顧客が製品を認定する手間は、新規参入を難しくする。国内の受託製造は、医薬や電子材料の仕入れ先を日本に戻す流れの追い風も受ける。
慎重な見方
過去 10 年、営業利益率は 2 〜 6% に収まり、ROE は資本コストに一度も届かなかった。10 年間変わらなかった構造が、急に変わる理由は見当たらない。
前期の純利益は、投資有価証券の売却益で膨らんだ。本業の稼ぎは 1 億円前後で、時価総額 78 億円は PER で 50 倍を超える。BASF の比率は 23% から 21% に下がり、頼れる柱ではなくなりつつある。
契約は 2029 年に切れる。更新の条件が悪くなれば、国外の販売が一気に縮む。安値攻勢は続き、原料とエネルギーの高止まりも利益を削る。
財務も軽くない。営業利益は支払利息の 4 倍強で、金利が上がれば純利益はさらに消える。更新の投資は建築費の上昇で膨らみ、償却より先に現金が出ていく。配当を守る余力も小さい。時価総額が純資産を上回るのは、期待が先行している証拠だ。
前期は新製品の売上計上がゼロで、受託の受注も減った。成長の柱が見えないまま、値段だけが先に上がっている。
どちらに重みを置いたか
強気の言い分は、需要の回復と新製品の立ち上げに依存する。慎重な言い分は、10 年の実績と財務の薄さに根ざしている。実績のほうが重いと見て、確率を悲観側に寄せた。
やや悲観と悲観を合わせて 46%、やや楽観と楽観で 19%、中立が 35%。BASF との契約は下支えになるが、稼ぎの薄さを変えるほどの力はないと判断した。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 162 円26 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 41 円7 億円)。 今の値に割り戻すと 99 円16 億円、今との差 −78.1%、 期待の年率 −7.7%(資本コスト 8.5%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 5% | 546 円88 億円 | 87 円14 億円 | +40.4% | +3.4% | 32 円5 億円 |
| やや楽観 | 14% | 285 円46 億円 | 62 円10 億円 | −23.1% | −2.6% | 49 円8 億円 |
| 中立 | 35% | 190 円31 億円 | 50 円8 億円 | −46.9% | −6.1% | 84 円14 億円 |
| やや悲観 | 30% | 67 円11 億円 | 31 円5 億円 | −78.3% | −14.2% | 29 円5 億円 |
| 悲観 | 16% | 50 円8 億円 | 9 円2 億円 | −86.9% | −18.4% | 9 円2 億円 |
| 加重平均 | 100% | 162 円26 億円 | 41 円7 億円 | −55.0% | −7.7% | 203 円33 億円 |
今の株価時価総額 451 円73 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.5% を下回るほど割高。
楽観 5% 紫外線吸収剤が用途を広げ、電子材料も立ち上がる 利益 7 億円 · PER 12.4 倍 · 株価時価総額 546 円88 億円
BASF との基本契約が更新され、国外の販売が安定する。紫外線吸収剤は自動車、建材、ディスプレイの用途が広がり、数量が今の 1.5 倍になる。価格は高機能品の比率が上がって物価を少し上回る。有機EL材料などの電子材料と受託製造も育ち、2 本目の柱ができる。営業利益率は 8% を超え、これまでの最高水準を上回る。借入は返済が進み、配当も増える。自己資本は 75 億円ほどで、ROE は 9% 台。この筋書きでも、ようやく資本コストを少し超える程度の稼ぎにとどまる。売上は今の 1.9 倍に伸び、営業利益は 14 億円ほどになる。工場の増設には、建築費の上昇で多くの資金がいる。
- 紫外線吸収剤:数量 64.4(出荷の実質額(億円。今の値段のまま))× 価格 1.40(価格指数(今を 1.0。名目))→ 売上 90 億円・営業利益 10 億円。高機能品の比率上昇
- 受託製造・酸化防止剤・電子材料・その他化学品:数量 50.6(出荷の実質額(億円。今の値段のまま))× 価格 1.34(価格指数(今を 1.0。名目))→ 売上 68 億円・営業利益 5 億円。電子材料が育つ
- ホーム産業(木材保存薬剤):数量 7.7(出荷の実質額(億円。今の値段のまま))× 価格 1.34(価格指数(今を 1.0。名目))→ 売上 10 億円・営業利益 1 億円。横ばい
倍率:事業の純利益 7 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.6% が k 8.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.0%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.4 倍。全体の PER 12.4 倍、時価総額 88 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:売上 90 億円の小さな会社が、利益率を過去最高の倍近くに乗せる必要がある。最近は新製品の立ち上げも原料難で遅れており、確率は低く置く。これほどの利益率は過去 30 年で一度も届いておらず、条件が多く重なる必要があるため。
やや楽観 14% 新製品が育ち、紫外線吸収剤の需要が戻る 利益 4 億円 · PER 11.8 倍 · 株価時価総額 285 円46 億円
紫外線吸収剤の需要は車や建材向けで戻り、数量が 25% 増える。BASF との契約が更新され、国外の販売は安定する。新製品は原料の調達先を広げて軌道に乗る。受託製造も回復する。営業利益率は 6% 台に乗り、2022 年の 5.7% を上回る。借入の金利上昇は利益に響くが、増益が相殺する。配当は少しずつ増え、自己資本は 65 億円になる。ROE は 6% で、資本コストにはまだ届かない。売上は今の 1.5 倍になり、営業利益は 9 億円ほどに増える。新製品の投資が先行するため、現金の余裕はそれほど増えない。
- 紫外線吸収剤:数量 53.6(出荷の実質額(億円。今の値段のまま))× 価格 1.34(価格指数(今を 1.0。名目))→ 売上 72 億円・営業利益 7 億円。需要が戻る
- 受託製造・酸化防止剤・電子材料・その他化学品:数量 42.8(出荷の実質額(億円。今の値段のまま))× 価格 1.32(価格指数(今を 1.0。名目))→ 売上 57 億円・営業利益 3 億円。受託が回復
- ホーム産業(木材保存薬剤):数量 7.3(出荷の実質額(億円。今の値段のまま))× 価格 1.34(価格指数(今を 1.0。名目))→ 売上 10 億円・営業利益 1 億円。横ばい
倍率:事業の純利益 4 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 6.0% が k 8.50% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.8 倍。全体の PER 11.76 倍、時価総額 46 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:最近の減収は需要の一時的な停滞と新製品の遅れによるところが大きい。需要が戻る筋書きは十分あり得る。ただし過去 10 年の営業利益率は 2 〜 6% に収まっており、確率は中立の半分以下に置く。
中立 35% 需要は戻るが、利益率は 5% 前後にとどまる 利益 3 億円 · PER 11.8 倍 · 株価時価総額 190 円31 億円
紫外線吸収剤は数量が 1 割ほど増え、価格は物価並みに上がる。BASF との契約は条件を見直しながら続く。受託製造と酸化防止剤は横ばい。木材保存薬剤は住宅の数が減り、数量が 1 割落ちる。営業利益率は 5% で、過去の山 5.7% を超えない。営業利益と純利益の間には、支払利息と持分の損益が挟まり、純利益は営業利益の 4 割強にとどまる。更新の投資は建築費の上昇で膨らみ、償却より現金が先に出ていく。自己資本は 62 億円で、ROE は 4% 前後。資本コストに大きく届かない。売上は 120 億円ほどに増えるが、営業利益は 6 億円ほどにとどまる。借入の返済は進むが、更新の投資に回る資金も多い。
- 紫外線吸収剤:数量 47.2(出荷の実質額(億円。今の値段のまま))× 価格 1.30(価格指数(今を 1.0。名目))→ 売上 61 億円・営業利益 5 億円。数量 1 割増・価格は物価未満
- 受託製造・酸化防止剤・電子材料・その他化学品:数量 38.9(出荷の実質額(億円。今の値段のまま))× 価格 1.30(価格指数(今を 1.0。名目))→ 売上 51 億円・営業利益 2 億円。横ばい
- ホーム産業(木材保存薬剤):数量 6.9(出荷の実質額(億円。今の値段のまま))× 価格 1.34(価格指数(今を 1.0。名目))→ 売上 9 億円・営業利益 0 億円。住宅減
倍率:事業の純利益 3 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 4.2% が k 8.50% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.8 倍。全体の PER 11.76 倍、時価総額 31 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:過去 10 年の営業利益率は 2 〜 6% に収まっている。安値攻勢と原料高の中で、10 年かけて 5% に戻るという見方を中心に置く。大きな振れがない代わりに、大きな改善もない。
やや悲観 30% BASF との条件が悪化し、安値攻勢で単価が伸びない 利益 1 億円 · PER 9.0 倍 · 株価時価総額 67 円11 億円
契約更新の条件が悪化し、国外の販売量が減る。海外メーカーの安値攻勢で、紫外線吸収剤の価格は物価に届かない。受託製造も縮み、新製品の遅れで穴を埋められない。営業利益率は 3% を割る。借入の金利上昇が重く、純利益はほとんど残らない。配当は今の水準に近づけて維持するのが精いっぱいで、自己資本は 54 億円ほどだ。更新の設備投資は建築費の上昇で膨らみ、減価償却は物価で増えないため、会計の利益より現金が先に細る。会社は研究開発費を削って耐える。売上は 100 億円ほどに伸びても、営業利益は 3 億円止まりで、国外の販売が縮んだ穴は国内で埋まらない。
- 紫外線吸収剤:数量 40.8(出荷の実質額(億円。今の値段のまま))× 価格 1.20(価格指数(今を 1.0。名目))→ 売上 49 億円・営業利益 2 億円。国外の販売量減・価格低下
- 受託製造・酸化防止剤・電子材料・その他化学品:数量 35.0(出荷の実質額(億円。今の値段のまま))× 価格 1.25(価格指数(今を 1.0。名目))→ 売上 44 億円・営業利益 1 億円。受託縮小
- ホーム産業(木材保存薬剤):数量 6.5(出荷の実質額(億円。今の値段のまま))× 価格 1.30(価格指数(今を 1.0。名目))→ 売上 9 億円・営業利益 0 億円。住宅減
倍率:ROE 1.5% は k 8.5% を大きく下回る。稼ぐ力が資本コストから遠く、PER の上限 11.1 倍の 8 割の 9 倍に置いた。
確率:2029 年に BASF との契約が切れる。条件が悪くなる筋書きは、今の業績から見て現実的だ。売上のうち BASF の比率はすでに 2 割に下がっている。最も確率が高い悲観側の筋書きとして置く。
悲観 16% BASF との契約を失い、赤字が続く 利益 −3 億円 · PBR 0.2 倍 · 株価時価総額 50 円8 億円
BASF が契約を更新せず、国外の販売が止まる。他社が同じ品を安く売り、数量が 3 割落ちて、価格も物価に届かない。固定費を賄えず営業赤字が続き、工場の統廃合を迫られる。借入の返済が優先され、配当は止まる。国内で値下げ競争に勝てず、新製品の開発投資も続けられない。自己資本は赤字と減損で 40 億円まで下がる。取引先の認定を維持する費用も重く、研究開発を続ける力が失われていく。価値は稼ぐ力ではなく、売れる土地・設備・在庫の見積もりで決まる。受託や電子材料の一部は残るが、全社の固定費を賄う規模には届かず、人員と設備の縮小に追い込まれる。
- 紫外線吸収剤:数量 30.0(出荷の実質額(億円。今の値段のまま))× 価格 1.10(価格指数(今を 1.0。名目))→ 売上 33 億円・営業利益 0 億円。契約喪失
- 受託製造・酸化防止剤・電子材料・その他化学品:数量 31.1(出荷の実質額(億円。今の値段のまま))× 価格 1.15(価格指数(今を 1.0。名目))→ 売上 36 億円・営業利益 0 億円。受託縮小
- ホーム産業(木材保存薬剤):数量 6.2(出荷の実質額(億円。今の値段のまま))× 価格 1.20(価格指数(今を 1.0。名目))→ 売上 7 億円・営業利益 0 億円。住宅減
倍率:赤字で稼ぐ力では値が付かない。今の自己資本 50 億円に掛ける形で、売れる資産の税後と同じ水準の 0.16 倍に置いた。
確率:売上の 2 割を占める BASF を失い、小さな会社が固定費を賄えなくなる筋書きだ。過去にも 2 度の赤字があり、有利子負債は純資産の 6 割強ある。起こりうる負けとして置く。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
紫外線吸収剤
プラスチックの劣化を防ぐ添加剤。ベンゾトリアゾール系が中心で、国外の販売はBASFジャパンに実質独占で任せる。
| 数量出荷の実質額(億円。今の値段のまま) | 価格価格指数(今を 1.0。名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 42.9 | 1.00 | 43 | 3 |
| 10 年後 中立 | 47.2 | 1.30 | 61 | 5 |
取り方:紫外線吸収剤の売上 42.9 億円(売上の 47.9%、2026/03)を今の値段の出荷額と置いた。区分別の利益は開示がなく、全社の営業利益 3.4 億円のうち 2.6 億円と推定した(推定)。
受託製造・酸化防止剤・電子材料・その他化学品
他社から請け負う化学品の製造、酸化防止剤、写真薬中間体、有機EL材料、製紙用薬剤。
| 数量出荷の実質額(億円。今の値段のまま) | 価格価格指数(今を 1.0。名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 38.9 | 1.00 | 39 | 1 |
| 10 年後 中立 | 38.9 | 1.30 | 51 | 2 |
取り方:受託製造品(売上の 24.3%)、酸化防止剤(10.6%)ほかの合計 38.9 億円を今の値段の出荷額と置いた。区分別の利益は開示がなく、1.0 億円と推定した(推定)。
ホーム産業(木材保存薬剤)
住宅の木材の防腐・防蟻薬剤の製造・販売と、施工に絡む工事。
| 数量出荷の実質額(億円。今の値段のまま) | 価格価格指数(今を 1.0。名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 7.7 | 1.00 | 8 | 0 |
| 10 年後 中立 | 6.9 | 1.34 | 9 | 0 |
取り方:木材保存薬剤(売上の 8.6%)の 7.7 億円を今の値段の出荷額と置いた。区分別の利益は開示がなく、0.3 億円と推定した(推定)。
リスクと懸念
BASF との契約の更新
基本契約は 2029 年 9 月まで。更新の条件が悪化したり、更新されなかったりすれば、国外の販売量が大きく減る。売上の約 2 割に当たる。
安値攻勢と中国・インド勢
業界では低価格品の攻勢が続く。品質の認定を持つ特殊品でも、価格を物価に合わせて上げ続けるのは難しい。
新製品の遅れ
前期の新製品は原料の入手難で立ち上がりが遅れた。成長の柱を新製品に頼る度合いが大きく、遅れが続けば利益の回復が先に延びる。
金利上昇と有利子負債
純有利子負債は 32 億円。営業利益は支払利息の 4 倍強しかなく、借り換えの金利が 3.5% に上がれば純利益がさらに削られる。
原料・エネルギーの高止まり
化学品の原料とエネルギーは高止まりしている。値上げが通らなければ、営業利益率は 3% を割る。
住宅減によるホーム産業の縮小
木材保存薬剤は住宅の新設数に連動する。人口減で数量は緩やかに縮み、工事受注も減っている。
今後の分かれ目
- BASF との基本契約が条件改善つきで更新される
- 国外の販売の下支えが強まる。やや楽観・中立の確率を上げる。
- 新製品が原料の調達を解決して売上に計上される
- 高機能品の比率が上がる。営業利益率の前提を引き上げる。
- 営業利益率が 2 期続けて 3% を割る
- 悲観側の確率を上げる。配当の減額も織り込む。
- BASF が購入量の下限を引き下げる、または契約を延長しない
- 悲観の確率を引き上げる。国外の販売量が減り、固定費を賄えなくなる。
- 株主から再編・資産売却の提案が出る
- 買い手の価格が価値を超えるかを確かめる。確率は価値に入れていない。
見ておくもの
- BASF 向け売上の比率と契約更新の条件
- 紫外線吸収剤の数量と価格
- 新製品の売上計上
- 営業利益の支払利息に対する倍率
- 原料・エネルギーのコスト
倍率と資本コストの決め方
3 区分の数量と価格を、出荷の実質額と価格指数に分けて積んだ(区分別の売上は開示値、利益と将来の数量は推定)。k は 7.5% に quality 1.5% を足した 9.0%。倍率は式から出し、ROE が k を下回る中立以下は 1÷k を上限にその 7 〜 9 割に置いた。今の株価や過去の PER・PBR は倍率の根拠に使っていない。流れの起点の純利益は特別利益を除いて置いた。減価償却は物価で増やさず、新規の設備だけを新しい値段で足した。リースの影響は小さい。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 11→12.4 倍・やや楽観 PER 10→11.76 倍・中立 PER 9.5→11.76 倍)。
資本コスト 8.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。