結論
ラサ工業は、リン酸を軸にした化学会社だ。いま稼ぎの中心にあるのは、半導体の製造で窒化膜を削るのに使う高純度のリン酸である。売上の 35% を占め、利益は半分以上を稼ぐと筆者は推定する。会社は世界首位と説明している。筆者の結論は「やや割高」。事業は強いが、今の値段は先の成長をかなり先取りしている。
強みは、顧客が簡単に乗り換えられないことだ。半導体メーカーは薬液の品質を厳しく審査する。一度採用されれば、長く使い続ける。大阪と台湾の工場で作り、TSMC が大口の顧客である。営業利益率は 10 年前の 6% から 12% 台へ上がり、直近は 2 期続けて過去最高益になった。
弱みは、稼ぎの偏りだ。主力は 1 つの薬液で、売り先は少数の大手に集まる。需要は半導体投資の波に乗る。2009 年と 2010 年には赤字も出した。
いま会社は、台湾に 188 億円の新工場を建てると決めた。自己資本 318 億円の 6 割にあたる大きな賭けだ。需要が続けば実り、外れれば重い償却と借金が残る。
10 年後の中立の営業利益は今の 1.7 倍で、年 5〜6% の伸びである。物価の 3% に、実質の成長が少し乗る姿だ。配当を足しても、期待の年率は資本コスト 7.75% に届かない。確率で重みづけた本質価値は、今の時価総額を 3 割ほど下回る。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、事業は好ましい。半導体の薬液という、なくならない需要の上に立ち、顧客の審査が堀になっている。小さいが、世界で戦う会社だ。
問題は 2 つある。1 つは、事業の偏りだ。持ち続けたい会社の条件は 10 年先を見通せることだが、半導体の技術は変わりやすく、見通しは霞む。もう 1 つは、資本の使い方だ。いま会社は、自己資本の 6 割にあたる 188 億円を 1 つの工場に投じる。成功すれば価値は大きいが、失敗の穴も深い。
株主のものになる利益、つまり設備の更新と増設に要る分を引いたあとの利益は、これからの数年は小さくなる。投資が先行し、償却費が増えるからだ。
安全域は、今の値段にはない。10 年後の利益を中立で今の 1.7 倍に置いても、資本コストで割り引くと、今の時価総額に届かない。買うなら、半導体の投資が冷え、値段が自己資本の 1 倍台まで下がった時だ、というのが筆者の構えである。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの柱は化成品事業で、売上の 84% を占める。中身は三つに分かれる。
一つめは半導体向けの高純度リン酸で、売上は 168 億円。全社の 35% だ。半導体の製造では、回路を作る途中で窒化膜という薄い膜を削る。その薬液がリン酸である。純度が低いと不良が出るため、顧客は厳しく審査する。製造は大阪工場と、台湾の子会社(理盛精密科技)が担う。台湾子会社の売上は 5 年で 2 倍になった。韓国の合弁会社は、北米に新工場を建てている。
二つめは、一般向けのリン酸とリン酸塩、水道の浄化に使う凝集剤、コンデンサー向けの原料、消臭剤だ。売上は 230 億円ほどあるが、利益率は 1 桁である。水道向けは堅いが、一般品は弱い。
残りは小さな事業だ。電子材料(売上 24 億円)は、光通信の部品に使うインジウム・ガリウム・赤リンを作る。データセンターの光通信が追い風だが、ガリウムの一部は一回限りの売りで、来期は剥がれる。機械(売上 42 億円)は、下水道向けの掘進機や破砕機である。ほかに触媒の再生と不動産賃貸があり、利益率が高い。
最大の販売先は丸善薬品産業(売上の 18%)、次が TSMC(12%)で、2 社で 3 割になる。全社の費用が約 14 億円あり、各事業の利益から引かれる。
優良さと弱いところ
優良さの核は、半導体向けの高純度リン酸にある。顧客が薬液を替えるには、品質審査をやり直す必要があり、手間も不良の危険も重い。このため値段を叩かれにくい。営業利益率が 12% 台まで上がったのは、この薬液が増えたからだと筆者は見る。
資本効率も悪くない。ROE は 14.6%、ROIC は 12.2% で、会社の目標 10% を上回る。自己資本比率は 64%、純借入は 27 億円で、財務は軽い。
ただし、堀、つまり他社がまねできない強みは「強い」とまでは言えない。理由は三つある。主力が 1 つの薬液に寄っていること。顧客が少数の半導体メーカーで、交渉力が相手にあること。台湾・韓国・中国にも同じ薬液を作る会社がいて、いまは品質で差がついても詰められうることだ。会社は世界首位と説明するが、第三者のシェアの数字は確かめられなかった。
資本の使い方は、これから試される。配当性向は 32% と中庸で、無理な買収の歴史は見えない。一方で、188 億円の新工場は、この会社の歴史で飛び抜けて大きな投資だ。一般品の弱さと、機械の薄い利益は、全体を押し下げる側に残る。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
追い風は、半導体の中身の変化だ。NAND フラッシュは層の数が増え、窒化膜を削る回数も増える。先端ロジックも工程が増える。AI のデータセンター向けの投資が、これを押し上げている。
ただし、窒化膜のリン酸エッチングは成熟した工程だ。半導体材料の全体が年 6〜8% で伸びる見通しのなかで、この薬液の使用量は実質で年 5% ほどと筆者は見る。材料全体より遅く置く理由は、工程の置き換えの危険と、顧客の自社内調達の動きがあるからだ。
半導体投資は、2〜4 年の周期で山と谷をつくる。AI 需要という新しい柱があっても、この波は消えない。ラサの利益は、いま山の上にある。谷では、増設した工場の稼働が下がり、利益率が落ちる。
競争の形は分散的だ。台湾・韓国・中国に同じ薬液を作る会社があり、欧米の大手もいる。顧客は品質を最優先するので、いまは日本勢が優位だが、中位のグレードでは追い上げが進むと見るのが妥当だ。
一般品のリン酸や凝集剤は、国内の成熟した需要で、数量は横ばいから微減だ。水道の更新需要は堅いが、エッチング向けの凝集剤は景気で振れる。分かれ目は、AI 投資の続き方、顧客の北米・日本での増設、中国勢の品質の追い上げの 3 つである。
資本政策と M&A
還元は中庸で、少しずつ厚くなっている。配当性向の目標は「30% 以上」で、今期の実績は 32%。年間配当は前の期より 5 割増えた。自社株買いの実績は確かめられなかった。
お金の使い道は、ほぼ設備に向かう。中期計画で 3 年の設備投資は 95 億円とされたが、台湾の増設に約 30 億円、さらに新工場に 188 億円を決めた。借金は増える。いまは純借入 27 億円で軽いが、10 年の途中で 150 億円前後まで増えるとみる(推定)。
M&A は、大きなものは見当たらない。買収に頼らず、自前の増設で伸ばす会社だ。韓国の合弁会社は持分法で入っている。
大株主は信託銀行や取引先持株会などで、支配株主は見当たらない。TOB の話は確かめられず、筋書きには織り込まない。ただ、半導体材料は他社が欲しがる領域で、買われる側になる余地はある。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
高純度リン酸は、これから 10 年、半導体のなかで使う量が増える薬液の一つになる。NAND は積層が進み、窒化膜を削る工程が増える。先端ロジックの新しい構造でも同じだ。需要は AI のデータセンター投資に支えられる。
ラサは、この薬液で世界首位とみられる。台湾の子会社は 5 年で売上が 2 倍になり、今年 4 月に能力を 4 割増やした。188 億円の新工場が動けば、台湾の能力はさらに大きくなる。北米では、韓国の合弁会社が新工場を建てる。顧客が米国に工場を建てれば、そこへ供給できる立場にある。
電子材料も効く。光通信のインジウムリン基板は、データセンターの光トランシーバーで需要が伸びる。インジウムのリサイクルまで手がけ、供給を握る力は強い。
利益率の余地もある。新工場は自動化を進めるので、人手の費用が下がる。高純度品が売上の半分に近づけば、営業利益は 10 年で今の 2.5 倍を超えうる。その場合は、倍率が 13 倍台でも今の値段を大きく上回る。
慎重な見方
この会社は、稼ぎの大半を 1 つの薬液に頼る。しかも売り先は TSMC をはじめ少数の大手だ。大手は強い。薬液の値下げを求め、複数の会社から買う。品質で追いつく同業が台湾・韓国・中国にいる限り、いまの利益率は永続しない。
半導体には投資の波がある。AI の熱が冷めれば、NAND とロジックの増設が止まり、工場の稼働が下がる。ラサは 188 億円を新工場に投じる。自己資本の 6 割だ。需要が足りなければ、年に十数億円の償却だけが残る。
さらに、窒化膜を削る工程そのものが、別の方法に置き換わる可能性がある。その場合、リン酸の使用量は伸びず、減りさえする。
一般品のリン酸や凝集剤は利益率が 1 桁で、中国の安値に押される。機械は薄利だ。主力が崩れた時に、下支えになる事業が見当たらない。今の PBR は 2 倍で、期待が先に値段に載っている。利益が 1.7 倍になっても、倍率が縮めば、時価総額は伸びない。
どちらに重みを置いたか
強気の見方は、需要の伸びと世界首位という点で筋が通る。ただ、今の営業利益はすでに過去最高で、強気をかなり織り込んだ数字だ。伸びの余地より、波と集中のほうが重い。
中立は 35% に抑え、強気側に 31%、慎重側に 34% を置いて、やや慎重側に寄せた。悲観は、新工場が遊ぶ筋書きと、主力の置き換えが重なる場合を 12% に置いた。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 2,796 円1,092 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 525 円205 億円)。 今の値に割り戻すと 1,687 円659 億円、今との差 +4.8%、 期待の年率 +7.5%(資本コスト 7.8%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 9% | 5,396 円2,108 億円 | 819 円320 億円 | +286.0% | +14.5% | 559 円219 億円 |
| やや楽観 | 22% | 4,113 円1,607 億円 | 696 円272 億円 | +198.7% | +11.6% | 1,058 円413 億円 |
| 中立 | 35% | 3,132 円1,224 億円 | 563 円220 億円 | +129.5% | +8.7% | 1,293 円505 億円 |
| やや悲観 | 22% | 1,184 円463 億円 | 430 円168 億円 | +0.2% | +0.0% | 355 円139 億円 |
| 悲観 | 12% | 407 円159 億円 | 51 円20 億円 | −71.5% | −11.8% | 55 円21 億円 |
| 加重平均 | 100% | 2,796 円1,092 億円 | 525 円205 億円 | +106.2% | +7.5% | 3,320 円1,297 億円 |
今の株価時価総額 1,610 円629 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.8% を下回るほど割高。
楽観 9% 拡大が続く:薬液の需要が伸び、新工場が埋まる 利益 116 億円 · PER 17.8 倍 · 株価時価総額 5,396 円2,108 億円
高純度リン酸の市場が 10 年で 2 倍近くに育ち、ラサのシェアも 3 割台半ばへ上がる。台湾と北米の新しい能力が埋まり、この薬液だけで売上は今の 2 倍を超える。利益率は自動化の効果で 23% に上がる。
電子材料は、光通信の需要で規模が倍になる。一般品は数量が横ばいで、値段は物価並みに上がる。機械と賃貸は、物価に沿ってゆっくり伸びる。
新工場は、顧客の増設の波に乗って早めに埋まる。顧客との共同の開発も進み、他社が入りにくい関係ができる。
営業利益は今の 2.7 倍で、年 10% の伸びになる。ROE は 14% 台を保つ。配当は利益の 4 割を返し、それでも自己資本は積み上がる。成長株の顔をした、堅実な素材会社になる。
- 半導体向け高純度リン酸:数量 123(出荷量(千トン・推定)= 世界の関連市場 × シェア)× 価格 4.02(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 496 億円・営業利益 114 億円。売上 496 億円・営業利益率 23.0%
- 一般リン酸・凝集剤・その他化成品:数量 200(出荷量(千トン・推定))× 価格 1.61(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 322 億円・営業利益 29 億円。売上 322 億円・営業利益率 9.0%
- 電子材料(化合物半導体の原料):数量 133(出荷量(トン換算・推定))× 価格 53.6%(1 トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 71 億円・営業利益 21 億円。売上 71 億円・営業利益率 30.0%
- 機械(掘進機・破砕機):数量 34.3(受注・販売の件数換算(推定))× 価格 1.88(1 件あたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 64 億円・営業利益 7 億円。売上 64 億円・営業利益率 11.0%
- その他(触媒再生・不動産賃貸):数量 44.1(契約・処理の件数換算(推定))× 価格 39.5%(1 件あたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 17 億円・営業利益 10 億円。売上 17 億円・営業利益率 58.0%
倍率:事業の純利益 116 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 16.4% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 12.1%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 17.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 17.8 倍。全体の PER 17.83 倍、時価総額 2,059 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:半導体の薬液の需要が構造的に伸び、新工場も埋まる筋書き。起きる確率は低めに置く。主力の偏りと投資の波があり、強気に寄せすぎない。
やや楽観 22% 順調:市場が年 6% で伸び、新工場も予定どおり動く 利益 91 億円 · PER 17.1 倍 · 株価時価総額 4,113 円1,607 億円
高純度リン酸の市場が年 6% ほどで伸び、ラサのシェアは 3 割に届く。新工場は予定どおり動き、稼働も高い。利益率は 21% 台で、今の水準とほぼ変わらない。
電子材料は光通信向けで 5 割ほど伸びる。一般品は数量が少し減るが、値段の上昇で補う。機械と賃貸は、物価並みの伸びにとどまる。
北米の合弁会社の新工場も、予定に近い形で動き出す。会社の中期計画の目標を、大きく上回る姿だ。
営業利益は今の 2.1 倍、年 7% 台の伸びになる。ROE は 12% 台。配当は利益の 4 割弱を返す。強気の筋書きほどではないが、成長の果実を素直に受け取る姿である。
- 半導体向け高純度リン酸:数量 106(出荷量(千トン・推定)= 世界の関連市場 × シェア)× 価格 4.02(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 427 億円・営業利益 92 億円。売上 427 億円・営業利益率 21.5%
- 一般リン酸・凝集剤・その他化成品:数量 190(出荷量(千トン・推定))× 価格 1.61(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 306 億円・営業利益 26 億円。売上 306 億円・営業利益率 8.5%
- 電子材料(化合物半導体の原料):数量 100(出荷量(トン換算・推定))× 価格 53.6%(1 トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 54 億円・営業利益 15 億円。売上 54 億円・営業利益率 28.0%
- 機械(掘進機・破砕機):数量 31.4(受注・販売の件数換算(推定))× 価格 1.88(1 件あたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 59 億円・営業利益 6 億円。売上 59 億円・営業利益率 10.0%
- その他(触媒再生・不動産賃貸):数量 42.4(契約・処理の件数換算(推定))× 価格 39.5%(1 件あたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 17 億円・営業利益 9 億円。売上 17 億円・営業利益率 55.0%
倍率:事業の純利益 91 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 14.6% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 11.2%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 17.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 17.1 倍。全体の PER 17.11 倍、時価総額 1,554 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:市場が年 6% で伸び、新工場も予定どおり動く筋書き。今の営業利益が高水準で、これ以上の上振れは見込みにくい。
中立 35% 中立:物価の上昇に、実質の小さな成長が乗る 利益 72 億円 · PER 16.2 倍 · 株価時価総額 3,132 円1,224 億円
高純度リン酸の市場は年 5% で伸び、ラサはシェアを守る。この薬液の売上は、数量が 1.6 倍、値段が物価並みで、今の 2.2 倍になる。ただし新工場の償却と借金の利払いが重く、利益率は 19% 台へ少し下がる。
一般品は数量が横ばいで、利益率は 8%。電子材料は一回限りの売りが剥がれたあと、光通信向けで 5 割伸びる。
営業利益は今の 1.7 倍で、年 5〜6% の伸びだ。借金が増え、利払いが利益を 3 億円ほど削る。ROE は 10% 台に下がる。配当は利益の 4 割弱で、悪くはないが成長株でもない会社に落ち着く。
- 半導体向け高純度リン酸:数量 91.3(出荷量(千トン・推定)= 世界の関連市場 × シェア)× 価格 4.02(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 367 億円・営業利益 72 億円。売上 367 億円・営業利益率 19.5%
- 一般リン酸・凝集剤・その他化成品:数量 187(出荷量(千トン・推定))× 価格 1.61(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 301 億円・営業利益 24 億円。売上 301 億円・営業利益率 8.0%
- 電子材料(化合物半導体の原料):数量 90.0(出荷量(トン換算・推定))× 価格 53.6%(1 トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 48 億円・営業利益 13 億円。売上 48 億円・営業利益率 27.0%
- 機械(掘進機・破砕機):数量 30.0(受注・販売の件数換算(推定))× 価格 1.88(1 件あたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 56 億円・営業利益 5 億円。売上 56 億円・営業利益率 9.0%
- その他(触媒再生・不動産賃貸):数量 40.0(契約・処理の件数換算(推定))× 価格 39.5%(1 件あたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 16 億円・営業利益 8 億円。売上 16 億円・営業利益率 50.0%
倍率:事業の純利益 72 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 12.6% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.2%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.2 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.2 倍。全体の PER 16.18 倍、時価総額 1,162 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:市場が年 5% で伸び、シェアを守る筋書き。会社の目標(10 年後の営業利益 80 億円)より高いが、すでに 60 億円に届いている現実から置いた。
やや悲観 22% 伸び悩み:新工場は動くが、需要が鈍り同業が詰める 利益 43 億円 · PER 9.5 倍 · 株価時価総額 1,184 円463 億円
新工場は動くが、薬液の需要の伸びは年 2〜3% に鈍り、稼働が思うように上がらない。台湾・韓国・中国の同業が品質で追い上げ、高純度品の値段は物価ほど上がらず、利益率は 16% まで下がる。
一般品は数量が減り、利益率も 7% に落ちる。電子材料は中国の安値で、利益率が下がる。機械は更新需要が戻らず、薄利のままだ。
新工場の資金は借金に頼るため、金利の上昇で利払いがかさむ。顧客は仕入れ先を増やし、値下げの圧力も強まる。
営業利益は今と同じ 60 億円台で、物価で売上が 3 割ふえても、実質では目減りした姿だ。借金の利払いが重く、ROE は 7% 台で資本コストに届かない。配当は据え置く。
- 半導体向け高純度リン酸:数量 70.0(出荷量(千トン・推定)= 世界の関連市場 × シェア)× 価格 4.02(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 281 億円・営業利益 45 億円。売上 281 億円・営業利益率 16.0%
- 一般リン酸・凝集剤・その他化成品:数量 180(出荷量(千トン・推定))× 価格 1.61(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 289 億円・営業利益 20 億円。売上 289 億円・営業利益率 7.0%
- 電子材料(化合物半導体の原料):数量 57.5(出荷量(トン換算・推定))× 価格 53.6%(1 トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 31 億円・営業利益 7 億円。売上 31 億円・営業利益率 22.0%
- 機械(掘進機・破砕機):数量 29.3(受注・販売の件数換算(推定))× 価格 1.88(1 件あたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 55 億円・営業利益 4 億円。売上 55 億円・営業利益率 7.0%
- その他(触媒再生・不動産賃貸):数量 39.0(契約・処理の件数換算(推定))× 価格 39.5%(1 件あたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 15 億円・営業利益 7 億円。売上 15 億円・営業利益率 45.0%
倍率:ROE 7.4% は資本コスト 7.75% に届かない。ためた利益は額面より低く評価され、PER の上限は 1÷k の 12.1 倍。RONIC は k より低く、正当化 PER は 11.5 倍。稼ぐ力の細りを考え、さらに低い 9.5 倍に置いた。
確率:需要の鈍りと同業の追い上げで、利益が実質で目減りする筋書き。半導体の周期と顧客の少なさを考え、中立並みに厚く置く。
悲観 12% 構造的な負け:主力は置き換えと値崩れ、新工場は遊ぶ 利益 2 億円 · PBR 0.5 倍 · 株価時価総額 407 円159 億円
窒化膜を削る工程が別の方法へ移り、顧客は 2 社目、3 社目の仕入れ先を増やす。ラサの高純度リン酸は、数量が今を割り込み、値段も物価に追いつかない。利益率は 4% まで落ちる。
188 億円の新工場は稼働が低く、償却だけが利益を食う。一部は減損になり、借金の返済が重くなる。一般品は中国の安値に負け、機械も薄利のままだ。
営業利益は 10 年後に 7 億円ほどで、ほぼ稼げない会社になる。もう優良とは言えない。ただ、純資産と土地・設備は残り、会社が傾くわけではない。配当は利益が出ない中でも一部を続け、手元の資金から払う。株主には、10 年かけて価値が減る、つらい展開である。
- 半導体向け高純度リン酸:数量 44.7(出荷量(千トン・推定)= 世界の関連市場 × シェア)× 価格 3.42(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 153 億円・営業利益 6 億円。売上 153 億円・営業利益率 4.0%
- 一般リン酸・凝集剤・その他化成品:数量 160(出荷量(千トン・推定))× 価格 1.53(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 245 億円・営業利益 11 億円。売上 245 億円・営業利益率 4.5%
- 電子材料(化合物半導体の原料):数量 45.0(出荷量(トン換算・推定))× 価格 53.6%(1 トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 24 億円・営業利益 2 億円。売上 24 億円・営業利益率 10.0%
- 機械(掘進機・破砕機):数量 27.1(受注・販売の件数換算(推定))× 価格 1.88(1 件あたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 51 億円・営業利益 2 億円。売上 51 億円・営業利益率 3.0%
- その他(触媒再生・不動産賃貸):数量 37.3(契約・処理の件数換算(推定))× 価格 39.5%(1 件あたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 15 億円・営業利益 5 億円。売上 15 億円・営業利益率 35.0%
倍率:主力の置き換えと新工場の遊びで優良ではなくなる姿。稼ぐ力(純利益÷k)は小さく、床は純資産と土地・設備が支える。床は純現金や売れる資産の税後(下の内訳)で、今の自己資本 318 億円に 0.5 倍を掛けた。
確率:工程の置き換えと新工場の遊びが重なり、優良ではなくなる筋書き。半導体材料の同業の確率(12% 前後)と揃え、新工場の重さを考えて置く。k の quality と同じ理由では上げていない。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
半導体向け高純度リン酸
窒化膜のウェットエッチングに使う高純度リン酸(大阪工場と台湾子会社)。化成品事業の一部で、会社は世界首位のシェアと説明している。
| 数量出荷量(千トン・推定)= 世界の関連市場 × シェア | 価格1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 56.0 | 3.00 | 168 | 37 |
| 10 年後 中立 | 91.3 | 4.02 | 367 | 72 |
取り方:開示は売上 168 億円だけ。利益は化成品の利益 55.3 億円を、高純度品(利益率 22% と推定)と一般品(同 8%)に分けた推定。出荷量は開示がなく、世界の半導体向けエッチング用リン酸の需要を約 20 万トン、同社のシェアを 28% と置いて 5.6 万トンとし、売上 168 億円から 1 千トンあたり 3.0 億円の単価を逆算した推定。 数量は実質(半導体材料の名目年 6〜8% から物価を除いた年 5% ほど)。
一般リン酸・凝集剤・その他化成品
一般向けリン酸とリン酸塩、水処理用の凝集剤、コンデンサー向け原料、消臭剤、購入品の販売。
| 数量出荷量(千トン・推定) | 価格1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 193 | 120.0% | 232 | 19 |
| 10 年後 中立 | 187 | 1.61 | 301 | 24 |
取り方:化成品の売上 399.6 億円から高純度リン酸 168 億円を引いた約 232 億円を、平均単価を 1 千トンあたり 1.2 億円(一般リン酸・塩類・凝集剤・原料の混合)と置いて割り、出荷量を約 19 万トンと推定した。
電子材料(化合物半導体の原料)
インジウム・ガリウム・赤リン・酸化ホウ素などの高純度無機素材と放射性ヨウ素吸着剤。光通信向けのインジウムリン基板の原料が伸びている。
| 数量出荷量(トン換算・推定) | 価格1 トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 60.0 | 40.0% | 24 | 7 |
| 10 年後 中立 | 90.0 | 53.6% | 48 | 13 |
取り方:開示は売上 24.0 億円・利益 7.0 億円。インジウム(1 トン約 1 億円)・ガリウム(同約 0.3 億円)・赤リン(同約 0.02 億円)の混合で平均を 1 トンあたり 0.4 億円と置き、出荷量を約 60 トンと推定した。ガリウムのスポット販売は来期に剥がれる。 数量は出荷量(実物)で、化合物半導体向けの需要増による。
機械(掘進機・破砕機)
下水道向けの掘進機(レンタル含む)、破砕機・選別機などの建設機械、精密機械加工。
| 数量受注・販売の件数換算(推定) | 価格1 件あたり売上(億円)。物価 3% を含む名目 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 30.0 | 140.0% | 42 | 4 |
| 10 年後 中立 | 30.0 | 1.88 | 56 | 5 |
取り方:開示は売上 42.0 億円・利益 4.1 億円。本体・レンタル・部品を 1 件あたり約 1.4 億円に換算し、年 30 件相当と置いた推定。
その他(触媒再生・不動産賃貸)
石油精製用触媒の再生と、不動産の賃貸。
| 数量契約・処理の件数換算(推定) | 価格1 件あたり売上(億円)。物価 3% を含む名目 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 40.0 | 29.5% | 12 | 8 |
| 10 年後 中立 | 40.0 | 39.5% | 16 | 8 |
取り方:開示は売上 11.8 億円・利益 7.5 億円。触媒の再生と賃貸の契約を 1 件あたり約 0.3 億円に換算し、年 40 件相当と置いた推定。賃貸が利益の多くを占める。
リスクと懸念
主力が 1 つの薬液に寄る
高純度リン酸が売上の 35%、利益の半分以上を占めると推定される。工程が別の方法に置き換わる、使用量が伸びない、などが起きれば、利益の柱が細る。ほかの事業は利益率が低く、下支えにならない。
顧客が少数の大手に集まる
最大の販売先は丸善薬品産業(売上の 18%)、次が TSMC(12%)で、2 社で 3 割に近い。大手は値下げを求め、仕入れ先を増やす力がある。1 社の方針変更が利益に響く。
188 億円の新工場
2028 年度に完成予定の台湾の新工場は、自己資本の 6 割にあたる。需要が計画に届かなければ、年に十数億円の償却と借金の利払いが利益を食う。土地は賃借で、現地の事情にも左右される。
半導体投資の波
半導体の投資は 2〜4 年の周期で山と谷をつくる。いまの利益は過去最高で、山の上にある。谷では、増設した工場の稼働が下がり、利益率が落ちる。2009〜10 年には赤字も出した。
同業の追い上げ
台湾・韓国・中国に同じ薬液を作る会社がいる。いまは品質で日本勢が優位だが、中位のグレードから追い上げが進む。顧客が自社内での調達や複数社購買を強めれば、値段が下がる。
台湾への集中
台湾子会社は売上の約 4 分の 1、経常利益では全社の半分近くを占める。地政学の変化、台湾ドルの動き、現地の税や規制の変更が、全社の利益に直接効く。
一過性の利益と一般品の弱さ
電子材料のガリウムは一回限りの売りが含まれ、来期は剥がれる。一般品のリン酸は国内向けが低調で、機械は利益が薄い。全体の利益率が山から下がる時の振れは大きい。
今後の分かれ目
- 台湾の新工場が計画どおり稼働し、顧客の増設に合わせて売上が伸び始めたら
- 高純度リン酸の数量の前提を上げ、強気側の確率を引き上げてよい。
- 主要顧客が仕入れ先を増やす、または薬液の工程を別の方法に変えると明らかになったら
- 主力の数量と利益率の前提を下げ、慎重側の確率を厚くする。
- 半導体投資が減速し、顧客の増設が延びたら
- 新工場の稼働が遅れ、償却が先に利益を圧迫する。やや悲観の筋書きに近づく。
- 北米の韓国合弁の新工場が動き、現地の大口顧客に採用されたら
- 持分法の利益と、将来の追加の増設の余地が増える。楽観の確率を少し上げる。
- 他社による買収の提案が出たら
- 事業の価値が確認される動きであり、筋書きの確率を見直す。ただし倍率の上積みは前提にしない。
- 配当性向が 40% を超え、自社株買いが始まったら
- 投資と還元のバランスが改善し、資本の使い方の評価を上げる。
見ておくもの
- 高純度リン酸の売上(台湾子会社の売上と能力の稼働)
- 台湾の新工場の進捗と投資額の変更
- 丸善薬品産業・TSMC の売上構成比
- 電子材料のインジウム・ガリウムの数量と価格
- 営業利益率(12% 台が保てるか)
- 純借入と配当性向の推移
倍率と資本コストの決め方
4 つの事業を数量(市場の実質規模×シェアなど)と物価込みの価格で積み、利益率から営業利益を出した。資本コストは基本 7.5% に quality +0.75%(半導体の循環 +0.5、値決め力 −0.25、寿命 +0.5)で 8.25%。倍率は ROE 10% 台から出した正当化 PER の 9 割強(12.5 倍)で、今の PER 16 倍には寄せていない。結果は中立の 10 年が今の 1.7 倍の利益で、総合は 3 割弱のやや割高に出た。これは今の株価が高いからではなく、物価プラス実質の小さな成長で式の倍率が 12〜13 倍に収まるため。悲観は稼ぐ力と今の自己資本で測り、過去の PBR の底からは置いていない。リースは小さく、新リース会計基準の影響は限定的と見て、数字は家賃を費用に入れた今の形で置いた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 13.5→17.83 倍・やや楽観 PER 12.8→17.11 倍・中立 PER 12.5→16.18 倍)。
資本コスト 7.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality +0.75% を足して 8.25%。会社自身の見積もり(株主資本コスト 8〜9%)とも合う。新工場の実行の危うさは k に足さず、筋書きと確率で表した。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.25% → 7.75%。