結論
小林製薬は、アンメルツ、ブルーレット、サワデーのように「あったらいいな」を小さな商品に仕立てて稼いできた会社だ。売上の7割は国内で、海外が3割弱を占める。2024年の紅麹サプリ事件で信頼を失い、営業利益は2年で4割ほど減った。
筆者の結論は、今の値段は割高ということだ。いちばんの理由は、事件前の稼ぐ力にほぼ戻る前提が値段に入っていることだ。経営陣自身の3年計画でも営業利益は220億円で、事件前を下回る。しかも上期は大幅な減益で、足もとの回復は計画より遅い。
堀は残っている。ニッチな日用品で小さく多く打ち、店頭でブランドの名前を覚えてもらう仕組みだ。ただ、堀の一部だった自社通販は2025年末で終わった。国内の高い利益率を支えた柱の1本が抜けた形で、元の利益率にそのまま戻るとは考えにくい。
海外は売上が伸びたが、利益は薄い。売上は2018年から1.8倍になったのに、利益は縮んだ。ここは10年かけて育てる事業で、中立でも利益率は1桁台にとどまる。
財布は強い。実質的に借金がなく、純現金が時価総額の1割ある。ただし紅麹の補償が残るため、全部を余りとは見ず、約300億円だけを別に足した。創業家の持株と物言う株主の13%が並ぶため、再編の芽はあるが、それを前提にはしない。
10年後の中立は今の時価総額を大きく下回り、楽観でも今の値段をわずかに上回る程度にとどまる。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、小林製薬は良い会社だが、今の値段は払い過ぎだ。小さな商品を大量に積み上げる商売は、再投資が少なく、安定して現金を生む。事件前の利益率15%超は、その強さを示していた。
問題は事件後の姿だ。信頼が傷ついたまま、通販という高い利益率の柱を失った。筆者は、元の利益率に戻る前提には慎重になる。経営の資本の使い方も、守りに入った。投資の優先は医薬品とオーラルケアだが、工場の減損が先に出た。
安全域という観点では、値段の側が厳しい。今の利益で測ればPERは140倍を超える。経営計画どおりに進んでも、今の値段を正当化するには足りない。持つとすれば、実質の純現金と厚い自己資本を床に、利益がはっきり戻ってからになる。
持ち続けたい会社かと問われれば、答えは「条件つき」だ。信頼の回復が数字に出て、通販に代わる稼ぎ方が見えたら、見方は変わる。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの源は、生活の小さな困りごとを解く商品だ。肩や腰に塗るアンメルツ、トイレ用のブルーレット、消臭芳香のサワデー。どれも単価は小さいが、棚に長く居座る。商品が多く、1つが外れても全体は揺らぎにくい。
国内事業が売上の約7割で、利益のほぼすべてを生む。ドラッグストアが主な売り場で、訪日客の購入も追い風になった。医薬品、オーラルケア、衛生用品が中心だ。自社の通販サイトとコールセンターは2025年末で販売を終えた。利益率の高い通販を失ったことで、国内の利益率の天井は下がった。
海外事業は売上の3割弱で、2018年から約1.8倍になった。ただ利益は8億円ほどで、利益率は2%に届かない。拡大のために広告と人を先に使う段階が長く続いている。
事業の外側に、紅麹がある。2024年に、紅麹原料を使ったサプリで健康被害が出た。死亡例を含む報告もあり、会社は責任を問われた。補償、広告の停止、工場の減損が重なり、2025年12月期の純利益は37億円まで落ちた。国内の売上は2023年12月期の1305億円から縮んでおり、事件の傷は国内にも及んでいる。
優良さと弱いところ
優良さの核は、商品の多さと売り場の強さだ。1商品の売上は小さくても、棚を確保する力は大きい。店頭での認知が長年のブランド投資で積み上がっている。小さな市場ばかりを狙うので、巨大メーカーが本気で入りにくいという面もある。
弱点は2つある。1つ目は信頼だ。日用品は「安心」を買ってもらう商売で、健康被害の記憶は簡単には消えない。サプリや医薬品の分野では、買い手が慎重になる。2つ目は経営の体制だ。創業家の会長と社長が責任を取って退いたが、創業家は今も株の約3割を持つ。2025年3月に豊田賀一氏が社長になり、2026年3月の総会で監査等委員会設置会社に移った。変化は進んでいるが、筆者は定着まで見たい。
資本効率は低い。事件前でも自己資本利益率は1割ほどだった。事件後は1〜5%に落ちている。自己資本比率は8割近くと分厚く、現金が積み上がり、稼ぐ力に比べて資本が重い。株主還元で資本を絞る余地は大きい。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
市場の土台は、国内の日用品とドラッグストアの売り場だ。人口が減るので、国内の個数はほぼ横ばいか小幅な減少とみる。伸びは単価の上昇と、一段高い商品への入れ替えから来る。訪日客の購入は追い風だが、国全体の数量を変えるほどではない。
競争は2層だ。大手は花王、ライオン、ユニ・チャームなどで、棚の取り合いが続く。小林製薬は大手が手を出しにくい小さな隙間で、規模が小さくても利益率を稼いできた。ここに中小のD2Cが加わる。ドラッグストアの自社ブランドも脅威で、売り場が強くなるほど値決めの力は売り場に移る。
化粧品・日用品の世界市場は年率7%台で伸びるとされる。ただ、小林製薬の海外は、その成長を利益に変えられていない。売上は伸びても利益が出ないのは、市場の取り込み方が広告頼みだからだ。
2026年の上期は大幅な減益だった。原材料や資材の供給に不透明感があり、販促の見直しが国内の販売に響いたと会社は説明している。回復の道のりは平らではない。新しい競争相手も増えた。ネットの売り場では、小さな新興ブランドが短期間で棚を取れるようになり、ブランドの認知だけに頼る商売は守りにくくなっている。
資本政策と M&A
還元は配当が中心で、2026年12月期の予想は前の期から小幅の増配だ。自社株買いは確認できなかった。
手元には、実質で647億円の純現金がある。紅麹の補償の残りがどれだけあるかは確認できなかったので、筆者は全額を余りとは見ず、約300億円だけを別に足した。残りは補償、品質投資、運転資金の備えとみる。
大株主の構造が資本政策を縛る。創業家が株の約3割、物言う株主のオアシス・マネジメントが約13%を持つ。2025年2月の臨時総会と2026年3月の定時総会で、オアシスの提案はどちらも否決された。ただ、圧力は続く。
再編の芽はある。ただ筆者は、買収の期待を値段に入れるのは危ういと見る。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
事件の傷は深いが、小林製薬の売り場の力は消えていない。アンメルツ、ブルーレット、サワデーといった商品は、事件のあともドラッグストアの棚に残った。国内の売上は2025年も前年並みで、訪日客の購入も増えた。足もとの減益は、広告の停止や補償費など、一時的な費用が主因だ。
経営計画は2028年に売上1880億円、営業利益220億円を掲げる。3年で営業利益を5割近く増やす計画だ。通販を終えた分、本業の利益率は戻りやすい。海外も、売上は2018年から約1.8倍で、利益を出す段階に入れば伸びしろが大きい。
財布の強さも見逃せない。純現金が時価総額の1割あり、自己資本比率は8割を超える。株主還元を強めれば、資本効率は大きく改善する。創業家と物言う株主の綱引きが、再編や買収の呼び水になる可能性もある。経営の刷新が進めば、元の高い評価に戻る道はある。筆者が強気の言い分でいちばん説得力があると見るのは、売り場の力が残っていることだ。
慎重な見方
信頼の回復は想像より時間がかかる。健康被害が出た会社の商品は、買い手が慎重になる。しかも通販という高い利益率の柱は2025年末に終わった。国内の利益率が事件前の17〜19%に戻る理由は見当たらない。
足もとの数字は計画より弱い。2026年の上期は営業利益が7割近く減り、通期予想の据え置きは、下期の急な回復を前提にしている。経営計画の営業利益220億円も、事件前の水準を下回る。それでも今の時価総額は、その利益の20倍を優に超える。
海外は売上が伸びたが利益が出ない。広告で売上を買う段階が長く、拡大が利益を生む保証はない。補償の残りが大きくなれば、現金の余裕も削られる。仙台の新工場とタイの工場で146億円の減損を出したことは、投資の判断が甘かったことを示す。
再編の期待も頼りにならない。創業家が3割、物言う株主が13%という並びでは、誰も動けない。この値段で買う人は、事件前の稼ぐ力への復帰と再編の両方を信じていることになる。
どちらに重みを置いたか
慎重な見方が強い。国内の利益率が戻る道筋が見えず、通販を失った分、事件前の水準にそのまま戻るとは考えにくい。経営計画が示す方向は正しいが、その計画自体が事件前を下回り、今の値段を支えるには足りない。
確率は中立を軸に、やや悲観と悲観に合わせて4割を置いた。事件の後遺症が長引く筋書きは、強い筋書きよりも起こりやすい。
10 年後の 5 つの筋書き(2035/12 期)
確率で加重した株価時価総額 4,920 円3,658 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,600 円1,190 億円)。 今の値に割り戻すと 3,642 円2,707 億円、今との差 −49.1%、 期待の年率 −0.9%(資本コスト 7.0%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 7% | 8,641 円6,424 億円 | 2,018 円1,500 億円 | +49.1% | +4.1% | 746 円555 億円 |
| やや楽観 | 18% | 7,027 円5,224 億円 | 1,816 円1,350 億円 | +23.7% | +2.1% | 1,592 円1,183 億円 |
| 中立 | 37% | 5,663 円4,210 億円 | 1,681 円1,250 億円 | +2.7% | +0.3% | 2,718 円2,020 億円 |
| やや悲観 | 25% | 3,019 円2,245 億円 | 1,480 円1,100 億円 | −37.1% | −4.5% | 1,125 円836 億円 |
| 悲観 | 13% | 1,540 円1,145 億円 | 1,076 円800 億円 | −63.4% | −9.6% | 340 円253 億円 |
| 加重平均 | 100% | 4,920 円3,658 億円 | 1,600 円1,190 億円 | −8.8% | −0.9% | 6,520 円4,847 億円 |
今の株価時価総額 7,150 円5,315 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.0% を下回るほど割高。
楽観 7% 元の稼ぐ力に戻り、海外も育つ 利益 338 億円 · PER 18.6 倍 · 株価時価総額 8,641 円6,424 億円
10年かけて信頼を取り戻し、国内の利益率は事件前に近い20%に戻る。医薬品とオーラルケアが新しい柱になり、海外は広告頼みから抜けて利益率が13%まで上がる。企業統治の改革が進み、資本の使い方も締まる。再編や買収で、一般株主にも利益が及ぶ。事件前の稼ぐ力を超え、日用品の中でも高い評価に戻る強気の姿だ。この筋書きですら、今の値段には届かない。海外で現地の生産と販売網が整い、広告頼みを脱する。医薬品とオーラルケアの新商品が、通販で失った利益を補って余りある。純現金が厚いので、企業統治の改革が進めば、現金を株主に返す動きも出る。配当と自社株買いの強化は、資本効率の改善を後押しする。
- 国内(日用品・ヘルスケア・衛生用品):数量 8.0(国内の販売個数(億個、推定。実質の数量))× 価格 201(1個あたりの平均単価(円、名目))→ 売上 1,610 億円・営業利益 322 億円。営業利益率 20.0%
- 国際(海外):数量 6.5(海外の販売個数(億個、推定。実質の数量))× 価格 162(1個あたりの平均単価(円、名目))→ 売上 1,050 億円・営業利益 136 億円。営業利益率 13.0%
倍率:事業の純利益 334 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 13.0% が k 7.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.0%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 18.6 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 18.6 倍 + 余った現金(戻り方込み)225 億円。全体の PER 18.57 倍、時価総額 6,424 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:10年の強気はあらゆる条件が揃う必要があり、低く置いた。
やや楽観 18% 国内は高い利益率に戻り、海外は黒字が定着 利益 286 億円 · PER 17.7 倍 · 株価時価総額 7,027 円5,224 億円
国内は信頼が戻り、医薬品とオーラルケアの新商品が育って利益率は18%台に戻る。海外は10%まで上がり、売上は国内の6割に迫る。通販の穴は、店頭と新しい販売の形で埋まる。配当は増え、自社株買いも入る。元の稼ぐ力に近づくが、通販の高い利益率までは戻らない。花開く条件は多いが、可能性はある。国内の棚の位置は守られ、ドラッグストアの自社ブランドとも共存できる。海外では、現地の流通が整って、広告費の効率が上がる。配当は増え、自社株買いも入って資本は絞られる。純現金は補償を払い終えたあとも十分に残る。10年後の稼ぐ力は、事件前の水準に近づく。
- 国内(日用品・ヘルスケア・衛生用品):数量 7.7(国内の販売個数(億個、推定。実質の数量))× 価格 201(1個あたりの平均単価(円、名目))→ 売上 1,550 億円・営業利益 284 億円。営業利益率 18.3%
- 国際(海外):数量 6.0(海外の販売個数(億個、推定。実質の数量))× 価格 162(1個あたりの平均単価(円、名目))→ 売上 969 億円・営業利益 102 億円。営業利益率 10.5%
倍率:事業の純利益 282 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.5% が k 7.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.2%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 17.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 17.7 倍 + 余った現金(戻り方込み)225 億円。全体の PER 17.74 倍、時価総額 5,224 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:事件前の稼ぐ力に近づく筋書き。可能性はあるが、確率は2割弱。
中立 37% 国内は安定、海外は伸びても薄利 利益 240 億円 · PER 16.9 倍 · 株価時価総額 5,663 円4,210 億円
国内は個数が1割弱減るが、単価の上昇で売上は物価並みに伸びる。利益率は16.5%で、事件前より3ポイント低い。通販を失った影響が残る。海外は個数が4割増えるが、利益率は8.5%どまりで、広告を使い続ける。全社の営業利益は320億円ほど。売上の伸びは物価並みで、利益は名目で事件前を上回る程度の10年になる。医薬品とオーラルケアは伸びるが、国内の個数の減少を補う程度にとどまる。補償や再発防止の費用は10年の前半で終わり、後半は普通の日用品会社として淡々と稼ぐ。配当は穏やかに増えるが、自己資本は純利益の積み上げで少しずつ膨らむ。資本の使い方は、守りの姿勢が続く。
- 国内(日用品・ヘルスケア・衛生用品):数量 7.5(国内の販売個数(億個、推定。実質の数量))× 価格 201(1個あたりの平均単価(円、名目))→ 売上 1,510 億円・営業利益 249 億円。営業利益率 16.5%
- 国際(海外):数量 5.4(海外の販売個数(億個、推定。実質の数量))× 価格 162(1個あたりの平均単価(円、名目))→ 売上 872 億円・営業利益 74 億円。営業利益率 8.5%
倍率:事業の純利益 236 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.1% が k 7.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.6%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.9 倍 + 余った現金(戻り方込み)225 億円。全体の PER 16.9 倍、時価総額 4,210 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:名目の売上は物価並みに伸びるが、事件前の利益率には戻らない姿を中心にした。
やや悲観 25% 信頼の回復が不十分で、売り場を失う 利益 161 億円 · PER 13.2 倍 · 株価時価総額 3,019 円2,245 億円
事件の後遺症が長く尾を引く。国内は個数が1割以上減り、ドラッグストアの自社ブランドに棚を奪われる。利益率は12.5%に下がる。海外は広告負担が重く、利益率は5%どまり。営業利益は210億円ほどで、事件前を大きく下回る。配当は維持するが、増やす余裕はない。補償の追加費用や再発防止の投資が長く続き、新商品に回す資金が細る。海外は売上が伸びても、広告と物流の費用が利益を食う。配当は維持するのがやっとで、自己資本の効率も上がらない。国内の売上は個数の減少が響き、名目でも伸びが鈍る。信頼の回復は途中で止まる。
- 国内(日用品・ヘルスケア・衛生用品):数量 7.2(国内の販売個数(億個、推定。実質の数量))× 価格 195(1個あたりの平均単価(円、名目))→ 売上 1,404 億円・営業利益 176 億円。営業利益率 12.5%
- 国際(海外):数量 4.6(海外の販売個数(億個、推定。実質の数量))× 価格 155(1個あたりの平均単価(円、名目))→ 売上 713 億円・営業利益 36 億円。営業利益率 5.0%
倍率:事業の ROE 7.3%。RONIC=k 7%+残る割合 1/2×(7.3%−7.25%)=7.3%、長期の成長率 g 3.75%から正当化 PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)=13.9 倍。構造的な後退(やや悲観)として、やや悲観は上限の9割の 13.15 倍に置いた。時価総額は(純利益 161 − 余った現金 225 億の税後利息)× PER + 余った現金 × 戻り方。
確率:10年の構造的な後退として、強気の筋書きより厚く置いた。
悲観 13% 構造的に優良さを失う 利益 55 億円 · PBR 0.7 倍 · 株価時価総額 1,540 円1,145 億円
信頼の回復に失敗し、国内の個数が2割落ちる。ドラッグストアの棚の確保力が弱まり、値引きとの交換で利益率は6%まで沈む。海外は赤字が続く。補償や再発防止の費用が長く重く、配当を減らす。かつての高い収益力は戻らず、普通の日用品会社として評価される。実質的な純現金と厚い自己資本が床となり、経営は続く。ドラッグストアの自社ブランドと新興のD2Cに押され、小林製薬ならではの隙間の商品が模倣される。値引きに頼る売り方に変わり、堀は事実上失われる。補償と再発防止の費用に加えて、広告費や値引きの負担が重なり、利益は事件の底に近い水準まで落ちる。株主還元は削られ、投資家の評価も大きく下がる。
- 国内(日用品・ヘルスケア・衛生用品):数量 6.4(国内の販売個数(億個、推定。実質の数量))× 価格 185(1個あたりの平均単価(円、名目))→ 売上 1,184 億円・営業利益 71 億円。営業利益率 6.0%
- 国際(海外):数量 3.6(海外の販売個数(億個、推定。実質の数量))× 価格 140(1個あたりの平均単価(円、名目))→ 売上 504 億円・営業利益 −5 億円。営業利益率 -1.0%
倍率:利益が谷底の年なので、稼ぐ力でなく売れる資産で測る。実質的な純現金と、工場・在庫・投資有価証券の売却価値(税後)を床とし、この筋書きの自己資本に 0.65 倍を掛けた。ブランドは傷んでも日用品の売り場は残る。
確率:10年の構造的な負けとして、一定の確率を置いた。事件の傷は消えず、統治の改革も途中のため、小さくは置けない。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
国内(日用品・ヘルスケア・衛生用品)
アンメルツ・ブルーレット・サワデーなど。ドラッグストアが主な売り場で、利益のほぼすべてを生む。
| 数量国内の販売個数(億個、推定。実質の数量) | 価格1個あたりの平均単価(円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 7.9 | 150 | 1,187 | 140 |
| 10 年後 中立 | 7.5 | 201 | 1,510 | 249 |
取り方:国内の売上約1187億円を、1個あたりの平均単価で割って約7.9億個と推定した。国内は人口減で個数が年0.5%ほど減るが、訪日客と新商品で補い、おおむね横ばいとみた。単価は物価並みに上がる。通販は2025年末で終了。
国際(海外)
海外で売る日用品・ヘルスケア。2018年から売上は約1.8倍になったが、利益はまだ薄い。
| 数量海外の販売個数(億個、推定。実質の数量) | 価格1個あたりの平均単価(円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 3.9 | 121 | 470 | 8 |
| 10 年後 中立 | 5.4 | 162 | 872 | 74 |
取り方:海外の売上約470億円を、国内より安い単価帯の商品の個数に換算して約3.9億個と推定した。国内より単価が低い商品の構成とみた。世界のパーソナルケア市場の伸び(年5〜7%)のうち、シェア維持から小幅の拡大を取り込む。
リスクと懸念
信頼の回復が遅れる
紅麹の健康被害で傷ついた信頼は、数字に戻るまで時間がかかる。サプリや医薬品の分野では買い手が慎重で、広告を再開しても売上が戻りきらない恐れがある。国内の利益率が事件前の17〜19%に戻らない最大の理由だ。筆者は、これが筋書きと確率に織り込むべき最も具体的な懸念の1つと見る。
補償費用の見えにくさ
補償の残額と、今後の訴訟や追加の対応費用の全体像は、開示から確かめきれない。費用が膨らめば、純現金の厚みが削られる。筆者が現金の一部しか余りとみなさなかった理由もここにある。筆者は、これが筋書きと確率に織り込むべき最も具体的な懸念の1つと見る。
通販を失った穴
自社通販サイトとコールセンターの販売は2025年末で終わった。利益率の高い販路を失い、売り場に頼る度合いが上がる。ドラッグストアの交渉力が強まれば、値決めの力は小さくなる。筆者は、これが筋書きと確率に織り込むべき最も具体的な懸念の1つと見る。
海外の利益が育たない
海外は売上が2018年から約1.8倍になったが、利益は2019年の19億円から2025年は8億円に縮んだ。広告で売上を買う型が続けば、拡大が利益を生まない。計画の達成は海外の黒字化に懸かっている。筆者は、これが筋書きと確率に織り込むべき最も具体的な懸念の1つと見る。
工場投資の失敗
2026年2月に、仙台の新工場とタイの工場で減損146億円を出した。需要を見誤った投資が重荷になり、稼働率が上がらなければ減価償却が利益を押し下げ続ける。筆者は、これが筋書きと確率に織り込むべき最も具体的な懸念の1つと見る。
創業家と物言う株主の綱引き
創業家は株の約3割、オアシスは約13%を持つ。総会の提案は否決が続くが、経営の方針が定まらない期間は長引く。決断が遅れれば資本の使い方も変わらず、資本効率の改善が先延ばしになる。筆者は、これが筋書きと確率に織り込むべき最も具体的な懸念の1つと見る。
今後の分かれ目
- 国内の営業利益率が2桁後半に戻り、複数の四半期続いたら
- 信頼の回復が数字に出たサインで、強気の筋書きの確率を上げてよい。
- 2026年12月期の通期予想を下方修正したら
- 中立の前提を下げる。回復の起点がさらに先へずれる。
- 補償の追加の引当金や訴訟の拡大が出たら
- 余った現金の前提(約300億円)を縮め、やや悲観・悲観の確率を上げる。
- 海外の営業利益率が5%を超えて定着したら
- 海外が稼ぐ事業に変わったサイン。10年の中立の海外の利益率を上げる。
- 自社株買いや増配の大幅な強化が出たら
- 資本効率が上がる方向で、自己資本の膨らみが抑えられ、ROEの前提を上げる。
- 創業家の持株の売却や、買い手の登場が報じられたら
- 買収の値段の可能性が出るが、買う側の判断が基準になるため、本質価値は変えず確率だけ見直す。
見ておくもの
- 国内セグメントの営業利益率の四半期推移
- 海外セグメントの営業利益と広告費
- 紅麹関連の補償・特別損失の残り
- 仙台新工場とタイ工場の稼働率
- 配当と自社株買いの方針、中計の資本効率の目標
- 創業家とオアシスの持株の動き
倍率と資本コストの決め方
倍率は、事業のROEから正当化PER((1−g÷RONIC)÷(k−g))を出し、中立・楽観は上限の8〜9割に置いた。今のPER140倍超や時価総額は倍率の決定に使っていない。資本コストは基本7.5%+quality−0.25%の7.25%。余った現金は、実質の純現金約650億円のうち約300億円だけを分け、戻り方0.5で足した。補償の残額が確かめられないためで、時価総額は(純利益−現金の税後利息)×PER+余った現金で出した。新リース会計基準(2028/03期から強制)は、店舗を借りて営む会社ほどの影響はないが、数字の形は今と同じ(家賃を営業費用に入れた形)でそろえて置いた。結果は大きな割高になった。今の値段が元の稼ぐ力への復帰を先取りしていることが理由で、寄せたのではなく、数量と価格と利益率から出た値だ。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 16.19→18.57 倍・やや楽観 PER 14.56→17.74 倍・中立 PER 13.81→16.9 倍・やや悲観 PER 12.48→13.15 倍)。
資本コスト 7.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality −0.25%(需要の安定 −0.5、通販を失った値決めの弱さ +0.25)を足して 7.25%。紅麹の後遺症(信頼・補償・ガバナンス)は k に足さず、筋書きと確率で表した。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 7.25% → 7.00%。