結論
東ソーは、食塩電解とナフサ熱分解を起点とする一つながりのプロダクトチェーンから、石油化学(オレフィン・ポリマー)とクロル・アルカリ(苛性ソーダ・塩ビ・MDI・セメント)という社会に不可欠な基礎素材を産出し、その塩素・苛性・エチレンを原料に臭素・ハイアミン・クロロプレンゴムといった付加価値素材へつなげる総合化学メーカーである。これに加えて、半世紀の供給実績を持つ分離精製剤(バイオサイエンス)、半導体向け石英・薄膜材料や歯科材料向けジルコニア(高機能材料)、先端半導体工場向け超純水プラント(水処理エンジニアリング)という先端事業を育ててきた。2025年5月の中期経営計画で、会社は事業区分を「石油化学/クロル・アルカリ/機能商品/エンジニアリング」から「チェーン事業(基礎素材・付加価値素材)」「先端事業(バイオサイエンス・高機能材料・水処理エンジニアリング)」へ再編し、2030年度に先端事業の営業利益比率を65%へ引き上げる方針を掲げている。
2026年3月期は、中国不動産不況でクロル・アルカリの海外市況が急落し営業利益19億円(益率0.6%)まで沈む一方、機能商品(399億円・益率14.6%)と水処理中心のエンジニアリング(404億円・益率21.7%、先端半導体向け大型案件が牽引)が全社を支える年になった。ここでは旧4区分で数量×価格を積み、クロル・アルカリ・石油化学は市況連動のコモディティとして大きく変動させ、機能商品・水処理エンジニアリングはバイオ医薬品・半導体投資の構造的な成長を織り込んだ。倍率は利益ベースの正当化PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)で決め、正当化PERの下限1÷kを下回らせない範囲で、コモディティ色の重さを踏まえ上限の9割台半ばに置いた。
結果、中立は 10 年後に ROE 10.0%・PER 11.1 倍で時価総額約 12,332 億円(それまでの還元約 4,364 億円は別)。確率で重みづけた本質価値は今の時価総額(約 8,056 億円)より +8.0%、「適正」。前中計がクロル・アルカリの市況想定割れで営業利益目標を大幅に下回った実績を踏まえ、やや悲観・悲観の重みを厚めに置いた。資本コストは基本 7.5% に quality(循環 +1.0%)を足した 8.5%。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、東ソーは「市況に揺れる基礎素材・付加価値素材(チェーン事業)が稼ぐキャッシュを、堀の深い先端事業に振り向けて全社の質を上げていく」という構図の会社とみるのが妥当だろう。チェーン事業のうち苛性・塩ビ・オレフィンは正味のコモディティで、中国の供給過剰が続く限り恒常的な価格決定力は望みにくい。一方でMDI・臭素・ハイアミン・クロロプレンといった付加価値素材は、原料塩素の自社調達という構造的な優位と、世界で数社しか作れない高度な製造技術に支えられた実質的な堀を持ち、コモディティと機能材が同じ事業区分に同居している点をどう評価するかが分析の分かれ目になる。
先端事業、とりわけ分離精製剤(半世紀の供給実績・デファクトスタンダード化した製品がある)と水処理エンジニアリング(高度にカスタマイズされた設備と継続的なアフターサービス)は、顧客が簡単には切り替えられない構造的な堀を持ち、長期的に評価してよい事業だと考える。ただし、水処理エンジニアリングは大型プラント案件の計上時期で利益が跳ねるロット性の強いビジネスでもあり、直近の高い利益率がそのまま定着するとは限らない点には注意がいる。
オーナー利益の観点では、自己資本比率59%・純有利子負債523億円という健全な財務に支えられ、総還元性向50%という還元方針のもとで事業に必要な再投資を終えた後の利益が株主に還元される仕組みは評価できる。安全域については、クロル・アルカリの市況変動が前中計のように会社の業績予想を大きく外した実績があることを踏まえ、悲観の筋書きの重みを厚めに取るべき局面にある。
何で稼ぐ会社か
東ソーは、食塩電解とナフサ熱分解を起点とする一つながりの「プロダクトチェーン」から、石油化学(オレフィン・ポリマー)とクロル・アルカリ(苛性ソーダ・塩ビ樹脂・MDI・セメント)という社会生活に不可欠な基礎素材を産出し、その塩素・苛性・エチレンを原料に、臭素・エチレンアミン・合成ゴム(クロロプレンゴム=CR、クロロスルホン化ポリエチレン=CSM)といった付加価値素材へと連鎖させる、垂直統合型の総合化学メーカーである。四日市(三重)はナフサクラッカーと電解を併せ持つ中京地区唯一の拠点、南陽(山口)は国内最大級の電解能力とセメント(工場廃棄物を原料化)を持つ拠点で、この2拠点が基礎素材・付加価値素材の収益基盤を支える。
この事業に加えて、会社は「先端事業」として、半世紀にわたりバイオ医薬品メーカーに供給してきた分離精製剤「トヨパール」を中心とするバイオサイエンス(分離精製剤・糖尿病診断システム・免疫診断システム)、半導体メーカー向けの石英素材・薄膜材料や歯科材料向けジルコニア粉末・自動車排ガス触媒向けハイシリカゼオライトを手がける高機能材料、先端半導体工場向け超純水プラントを中心とする水処理エンジニアリングの3事業を育ててきた。2025年5月の中期経営計画で、従来の「石油化学/クロル・アルカリ/機能商品/エンジニアリング」という4区分を、「チェーン事業(基礎素材・付加価値素材)」と「先端事業(バイオサイエンス・高機能材料・水処理エンジニアリング)」の2区分に再編し、2027年3月期から新区分での開示に移る方針を示している。
2026年3月期(本稿の「今」)を旧区分で見ると、石油化学は売上1,697億円・営業利益97億円(益率5.7%)、クロル・アルカリは売上3,460億円・営業利益19億円(益率0.6%、前年比8割減益)、機能商品は売上2,729億円・営業利益399億円(益率14.6%)、エンジニアリング(水処理中心)は売上1,864億円・営業利益404億円(益率21.7%、半導体工場向け大型案件の受注が続伸)という構図で、好調な先端事業(機能商品+エンジニアリングで営業利益803億円)が、中国不動産不況で急失速したクロル・アルカリ(同19億円)を支える年になった。
優良さと弱いところ
東ソーの優良さは事業ごとに大きく割れる。苛性・塩ビ・オレフィンは中国の大増設による世界的な供給過剰にさらされる正味のコモディティで、会社自身も「収益のボラティリティが高い」と認めるとおり、クロル・アルカリの営業利益率は2021年度14.6%から2024年度0.6%まで一年で急落するような市況連動事業である。これに対し、MDI(国内シェア50%超、原料塩素を自社電解で供給、世界のMDIメーカーは7社のみ)、臭素(国内シェア8割超、海水由来で原料制約なし)、エチレンアミンのハイアミン(EDC法メーカーは世界3社のみ)、クロロプレンゴムCR(ハイエンド向けは世界4社のみ)・CSM(ハイエンド向けは東ソー単独)といった付加価値素材は、原料塩素の自社調達と高度な製造技術が参入障壁となり、コモディティの中でも価格決定力を保っている。
先端事業はさらに質が高い。分離精製剤は大手バイオ医薬品メーカーへの半世紀にわたる供給実績があり、許認可の関係で一度採用されると切り替えが起きにくい。水処理エンジニアリングも、先端半導体メーカーの超純水プラントという高度にカスタマイズされた設備を納入し、アフターサービスで継続的に収益を得るビジネスで、切り替えコストの高さが堀になっている。ジルコニア粉末は歯科材料・装飾品向けで世界トップシェアを持つが、安価な模倣品による市場侵食という課題も抱える。
ROEは2026年3月期5.0%と資本コスト8.75%を下回り、過去10年も2022年3月期の15.2%(過去最高益の年)を除けば7〜10%台が中心という、市況に左右されやすい資本効率である。自己資本比率59.0%・純有利子負債523億円(時価総額比6.5%)と財務は健全で、構造的な存続リスクはない。経営の優良さを左右する最大の変数は、クロル・アルカリ・石油化学という市況連動のコモディティ事業の比率をどこまで下げ、先端事業の構造的な成長をどこまで取り込めるかにある。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
東ソーの主戦場である苛性・塩ビ・オレフィンは、業種ノートが示すとおり、中国の大規模増設による世界的な供給過剰が構造的に続く業界にある。2024年度はこの中国不動産不況の影響で、クロル・アルカリの海外市況(苛性ソーダ・MDI)が会社の想定を大きく下回り、営業利益目標550億円に対し実績95億円という大幅未達に終わった。国内ではナフサクラッカーの統合・停止という10年単位の構造調整が続いており、四日市は中京地区唯一のクラッカーという立場を活かして誘導品強化・コンビナート各社との連携でフル稼働を維持する方針を掲げるが、業界共通の供給過剰という前提は変わらない。
一方、先端事業が向き合う市場は構造的な追い風が強い。会社自身の説明では、バイオ医薬品市場は年率10%、免疫診断市場は年率8%、糖尿病診断(患者数)は年率5%で成長する見通しで、半導体向け石英素材・薄膜材料の市場も年率7〜10%の成長が見込まれる。2024年度は「半導体市場が踊り場を迎え」機能商品(電子材料関連)が目標を大幅に下回ったが、会社は半導体市場の回復を2025年度後半と見込んでおり、AI向け投資を中心に先端半導体メーカーの設備投資は中長期で拡大が見込まれる。水処理エンジニアリングはこの先端半導体の投資拡大を追い風に、2022年度以降受注が急拡大し、2024年度には営業利益311億円(2015年度比8倍近く)まで伸びた。
会社は2030年度に向けたVision2030で、先端事業の営業利益比率を現在の約6割から65%まで引き上げ、2030年度の全社営業利益1,700億円(2024年度比ほぼ倍)を目指す方針を示しているが、2022〜2024年度の前中期経営計画は、クロル・アルカリの海外市況想定割れで営業利益目標1,500億円に対し実績989億円という大幅未達に終わった実績があり、コモディティ事業の市況変動が会社全体の業績予想を外しやすい構造であることは今後も変わらないとみられる。
資本政策と M&A
株主還元は2025〜2027年度の中期経営計画で、総還元性向50%を基本とし、年間配当総額(今の株数ベースで約308億円)を下限としたうえで配当性向が50%未満なら自己株取得で50%まで引き上げる方針に転換した(前中計は配当性向30%目安)。これに加えて3ヶ年で500億円の自己株取得を追加的株主還元として計画しており、2022〜2024年度実績の3年累計配当性向50%超・2期連続の増配の流れを強化する内容になっている。
設備投資は2025〜2027年度に2,200〜2,500億円を計画し、チェーン事業(付加価値素材の増強。クロロプレンゴム第2系列・臭素能増・ハイアミン増産設備)に32%、先端事業(分離精製剤の四日市第5系列など、前中計の成長投資の刈り取りと2030年度を見据えた能力増強)に35%を配分する。M&Aについて、会社が買収する側として具体的な大型案件を進めている公表情報は見当たらず、今中計の成長投資は自社設備投資が中心である。東ソー自身が買収される側になる可能性(TOB)について市場で思惑が語られることはあるが、本稿で確認できる具体的な動きはなく、筋書きには織り込んでいない。前中計期間は投資キャッシュフローが営業キャッシュフロー・利益目標未達を上回り、借入等975億円で賄いながら増配した実績があり、収益性改善と並行した資本配分の規律が今後の分かれ目になる。
(点検済み:2026年3月期の純利益416億円は低い側で、起点は高くない。中立の営業利益率11.4%は過去10年の平均(11.5%)並み。クロル・アルカリは0.5%から5.5%への回復を置いたが、やや悲観・悲観に合わせて34%を割いた。還元は総還元性向50%の範囲。)
還元の点検(P3 2026-10-19):方針は総還元性向50%(配当総額約308億円が下限)+3年で自社株買い500億円。最初の3年は500億円上乗せ、以後は50%で、10年の平均は57%ほど。中立の還元を68%から57%に下げ、留保は自己資本に残した。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
先端事業は構造的な追い風の中にある。分離精製剤はバイオ医薬品市場の年率10%成長を背景に、南陽・四日市の2拠点体制で生産能力をほぼ倍増させる投資を進めており、2030年度には売上高を2025年度比2倍にする計画を掲げる。糖尿病診断・免疫診断システムは世界で数万台が稼働し、消耗品(試薬)で継続的に収益を得るビジネスモデルを持ち、日欧でのトップシェアを武器に新興国でも拡大できる。水処理エンジニアリングは、AI投資を背景にした先端半導体メーカーの設備投資拡大を追い風に、2022年度以降受注が急拡大しており、半導体の超微細化・大型化が続く限り、超純水プラントの需要は10年単位で拡大が見込める。
付加価値素材についても、臭素(国内シェア8割超)・ハイアミン(EDC法メーカーは世界3社のみ)・クロロプレンゴム(ハイエンド向けは世界4社のみ)は、いずれも原料塩素の自社調達という構造的な優位を持ち、需給タイト化が見込まれる中でタイムリーな能力増強を進めれば、コモディティ部分を補って余りある収益源になりうる。クロロプレンゴムは750億円を投じて南陽の生産能力を2.2万トン増強する計画で、医療用手袋向けなど新しい需要基盤の開拓も進む。
クロル・アルカリ・石油化学についても、2024年度の大幅な業績悪化は中国不動産不況という一時的要因の影響が大きく、中国の需給が循環的に戻れば、国内最大級の電解能力・四日市のクラッカーという規模の優位を生かして相応の収益回復が見込める。ベトナムへのMDI蒸留塔設置(2027年4月稼働予定)は、東南アジアの成長需要を取り込む布石であり、構造改革と成長投資が同時に進めば、2030年度の営業利益1,700億円という会社目標の達成も視野に入る。財務面でも自己資本比率59%・ほぼ無借金という健全性があり、総還元性向50%の還元方針を維持しながら成長投資を続けられる余力は十分にある。
慎重な見方
クロル・アルカリの収益はきわめて市況連動性が高く、2021年度の営業利益率14.6%から2024年度には0.6%まで一年で急落した実績がある。前中計(2022〜2024年度)も、クロアリ・MDIの海外市況が想定を大きく下回ったことで、営業利益目標1,500億円に対し実績989億円という大幅な未達に終わっており、中国の大規模増設による供給過剰は10年単位で続くとみられるため、同じパターンの業績予想外れが今後も起きうる。石油化学も、四日市のナフサクラッカーが中京地区唯一という立場はある一方、内需縮小の中でクラッカーの高稼働維持は他社との連携頼みであり、構造的な収益改善の道筋は明確ではない。
機能商品(電子材料関連)も、2024年度は「半導体市場が踊り場を迎え」目標を大幅に下回った実績があり、会社が見込む2025年度後半の半導体市場回復が計画どおり進む保証はない。水処理エンジニアリングの高い利益率(2024年度21.7%)は、先端半導体向けの大型案件受注という足元の好調に支えられたロット性の強い収益で、2027年度の会社目標(営業利益368億円)がむしろ現状(404億円)を下回っていることからも、現在の水準がそのまま定着するとは考えにくい。
ジルコニア粉末は安価な模倣品による市場侵食という課題を抱え、免疫診断の新製品AIA-CLは米国での認可取得が遅れている。会社全体で見ると、コモディティ色の強いチェーン事業(売上構成の約8割を基礎素材が占め、市況変動が大きい)の比率がなお大きく、ROEは2026年3月期に5.0%まで低下し、資本コスト8.75%を下回る水準が続いている。先端事業の構造的な成長が、クロル・アルカリ・石油化学の市況変動を打ち消すほどの規模に育つには時間がかかり、その間に中国の需給がさらに悪化すれば、会社の還元方針(総還元性向50%・3年500億円の自己株取得)の持続性にも疑問符がつく。
どちらに重みを置いたか
先端事業(分離精製剤・水処理エンジニアリング)の堀の強さと構造的な成長性では強気の見方に相応の根拠があるが、全社売上の過半を占めるチェーン事業(特にクロル・アルカリ)の市況連動性の高さと、前中計が大幅未達に終わった実績を踏まえると、慎重な見方の指摘も軽視できない。中立の10年後のROEは10%で資本コスト7.5%をわずかに上回る水準にとどまり、正当化PERの上限の9割に置いた。確率は中立を軸に、クロル・アルカリの市況変動の大きさを踏まえてやや悲観・悲観をやや厚めに置き、結果として本質価値は今の値段と大きくは乖離しない水準になった。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 5,663 円1.74 兆円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,418 円4,365 億円)。 今の値に割り戻すと 3,735 円1.15 兆円、今との差 +47.3%、 期待の年率 +10.8%(資本コスト 7.5%)→ 割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 11% | 13,351 円4.11 兆円 | 2,453 円7,553 億円 | +523.4% | +20.1% | 1,738 円5,352 億円 |
| やや楽観 | 22% | 8,599 円2.65 兆円 | 1,842 円5,672 億円 | +311.9% | +15.2% | 2,297 円7,072 億円 |
| 中立 | 33% | 5,429 円1.67 兆円 | 1,417 円4,364 億円 | +170.1% | +10.4% | 2,259 円6,956 億円 |
| やや悲観 | 22% | 1,703 円5,245 億円 | 1,019 円3,138 億円 | +7.4% | +0.7% | 599 円1,844 億円 |
| 悲観 | 12% | 1,137 円3,502 億円 | 422 円1,300 億円 | −38.5% | −4.7% | 187 円576 億円 |
| 加重平均 | 100% | 5,663 円1.74 兆円 | 1,418 円4,365 億円 | +179.3% | +10.8% | 7,081 円2.18 兆円 |
今の株価時価総額 2,535 円7,805 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.5% を下回るほど割高。
楽観 11% 先端事業がVision2030を上回って育ち、チェーン事業も構造改革が進む 利益 2,234 億円 · PER 18.4 倍 · 株価時価総額 13,351 円4.11 兆円
分離精製剤は2030年度売上2倍の計画を上回るペースで拡大し、糖尿病・免疫診断システムも新興国でシェアを広げる。水処理エンジニアリングはAI投資による半導体工場建設ラッシュを取り込み続けて益率24%を維持し、機能商品も電子材料・バイオサイエンスの成長で益率19%に達する。クロル・アルカリ・石油化学も、ベトナムMDI拠点の稼働や付加価値素材(臭素・ハイアミン・クロロプレン)へのシフトが進み益率11%台まで改善する。Vision2030が掲げる2030年度営業利益1,700億円を上回り、総還元性向50%を保ちながら成長投資を続けられる、会社にとって最も理想的な10年になる。
- 石油化学(オレフィン・ポリマー):数量 160(エチレン換算の国内外販売数量(万トン、実質))× 価格 17(1トンあたり平均単価(万円、名目。ナフサ・市況連動))→ 売上 2,720 億円・営業利益 299 億円。益率11.0%、付加価値素材シフトが進展
- クロル・アルカリ(苛性ソーダ・塩ビ・MDI・セメント):数量 330(苛性ソーダ・塩ビ・MDI・セメント等の出荷数量合計(万トン、実質))× 価格 17(1トンあたり平均単価(万円、名目。中国市況・原燃料連動))→ 売上 5,445 億円・営業利益 599 億円。益率11.0%、ベトナムMDI拠点が寄与
- 機能商品(電子材料・バイオサイエンス・高機能材料):数量 36,000(対象市場の実質規模(億円、電子材料・分離精製剤・診断システム・ジルコニア等の合計、2026年の物価で))× 価格 16.5%(東ソーの取り分(シェア、物価の指数込み))→ 売上 5,940 億円・営業利益 1,129 億円。益率19.0%
- 水処理エンジニアリング:数量 24,000(対象市場の実質規模(億円、半導体工場向け超純水プラント・一般産業向け水処理の合計))× 価格 19.5%(東ソーの取り分(シェア))→ 売上 4,680 億円・営業利益 1,123 億円。益率24.0%、半導体工場建設ラッシュが継続
倍率:事業の純利益 2,234 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 15.0% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 11.2%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 18.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 18.4 倍。全体の PER 18.4 倍、時価総額 41,106 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:先端事業がVision2030目標を上回る規模に育ち、かつチェーン事業の構造改革(付加価値素材比率の向上)も計画以上に進む必要があり、実現すれば非常に強いが連続成功の確度は高くない。
やや楽観 22% 先端事業がVision2030目標並みに育ち、チェーン事業も緩やかに改善 利益 1,574 億円 · PER 16.8 倍 · 株価時価総額 8,599 円2.65 兆円
分離精製剤・水処理エンジニアリングの成長が続き、先端事業(バイオサイエンス・高機能材料・水処理エンジニアリング)はおおむねVision2030目標並みの営業利益水準に達する。半導体・バイオ医薬品向けの需要拡大を着実に取り込み、糖尿病・免疫診断システムも新興国市場での採用が進む。クロル・アルカリ・石油化学は中国の供給過剰が緩和し益率8%前後まで改善するが、本格的な価格決定力の回復には至らず、付加価値素材へのシフトも計画ほどには進まない。全社としてROEが10%台前半まで改善し、会社の還元方針を維持しながら成長投資を継続する10年になる。
- 石油化学(オレフィン・ポリマー):数量 155(エチレン換算の国内外販売数量(万トン、実質))× 価格 16(1トンあたり平均単価(万円、名目。ナフサ・市況連動))→ 売上 2,449 億円・営業利益 208 億円。益率8.5%
- クロル・アルカリ(苛性ソーダ・塩ビ・MDI・セメント):数量 320(苛性ソーダ・塩ビ・MDI・セメント等の出荷数量合計(万トン、実質))× 価格 15(1トンあたり平均単価(万円、名目。中国市況・原燃料連動))→ 売上 4,896 億円・営業利益 392 億円。益率8.0%
- 機能商品(電子材料・バイオサイエンス・高機能材料):数量 32,000(対象市場の実質規模(億円、電子材料・分離精製剤・診断システム・ジルコニア等の合計、2026年の物価で))× 価格 15.5%(東ソーの取り分(シェア、物価の指数込み))→ 売上 4,960 億円・営業利益 818 億円。益率16.5%
- 水処理エンジニアリング:数量 21,000(対象市場の実質規模(億円、半導体工場向け超純水プラント・一般産業向け水処理の合計))× 価格 18.0%(東ソーの取り分(シェア))→ 売上 3,780 億円・営業利益 794 億円。益率21.0%
倍率:事業の純利益 1,574 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.9% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.7%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.8 倍。全体の PER 16.82 倍、時価総額 26,475 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:先端事業がおおむねVision2030目標(営業利益808億円)並みに育つという、会社の資本配分方針に沿った上位レンジの想定。
中立 33% 中立:先端事業がVision2030にやや届かず、チェーン事業は構造的な低成長 利益 1,115 億円 · PER 15.0 倍 · 株価時価総額 5,429 円1.67 兆円
10年後もクロル・アルカリ・石油化学は中国の過剰生産能力の影響が続き、構造改革は道半ばで益率5.5〜6%程度にとどまる。苛性・塩ビ・オレフィンの縮小を臭素・ハイアミン・クロロプレンなど付加価値素材の緩やかな成長が部分的に相殺する構図が続く。機能商品はバイオサイエンス・電子材料の着実な成長で益率14.5%に達し、水処理エンジニアリングも半導体投資の構造的な拡大を取り込みつつ大型案件のロット性で益率18%に落ち着く。会社のVision2030目標(営業利益1,700億円)にはやや届かないが、先端事業が全社利益の過半を支える主力として定着する10年になる。
- 石油化学(オレフィン・ポリマー):数量 150(エチレン換算の国内外販売数量(万トン、実質))× 価格 15(1トンあたり平均単価(万円、名目。ナフサ・市況連動))→ 売上 2,250 億円・営業利益 135 億円。益率6.0%
- クロル・アルカリ(苛性ソーダ・塩ビ・MDI・セメント):数量 310(苛性ソーダ・塩ビ・MDI・セメント等の出荷数量合計(万トン、実質))× 価格 15(1トンあたり平均単価(万円、名目。中国市況・原燃料連動))→ 売上 4,495 億円・営業利益 247 億円。益率5.5%
- 機能商品(電子材料・バイオサイエンス・高機能材料):数量 29,000(対象市場の実質規模(億円、電子材料・分離精製剤・診断システム・ジルコニア等の合計、2026年の物価で))× 価格 14.8%(東ソーの取り分(シェア、物価の指数込み))→ 売上 4,292 億円・営業利益 622 億円。益率14.5%
- 水処理エンジニアリング:数量 18,500(対象市場の実質規模(億円、半導体工場向け超純水プラント・一般産業向け水処理の合計))× 価格 16.8%(東ソーの取り分(シェア))→ 売上 3,108 億円・営業利益 559 億円。益率18.0%
倍率:事業の純利益 1,115 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.3% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.4%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.0 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.0 倍。全体の PER 14.99 倍、時価総額 16,714 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:先端事業の相対的な強さと、クロル・アルカリ・石油化学のコモディティ構造が10年単位で続くという業種ノートの中心的な見通しを組み合わせた中心シナリオ。前中計が大幅未達だった実績も踏まえた。
やや悲観 22% チェーン事業の低迷が長引き、先端事業の伸びも力不足 利益 596 億円 · PER 8.8 倍 · 株価時価総額 1,703 円5,245 億円
クロル・アルカリ・石油化学は中国メーカーの増設がさらに進み、構造転換もほとんど進まないまま益率2.5〜3%にとどまり続ける。国内のナフサクラッカー再編も期待したほど進まず、四日市の高稼働維持にもコストがかかる。付加価値素材(臭素・ハイアミン・クロロプレン)の能力増強も需要の伸び悩みで投資回収が遅れる。機能商品は半導体材料・診断機器で韓国・中国勢との競争が激化し益率11%にとどまり、水処理エンジニアリングも大型案件の受注が細り益率13%まで低下する。会社のVision2030目標には遠く届かず、総還元性向50%の維持にも疑問符がつき、資本配分の見直しが迫られる10年になる。
- 石油化学(オレフィン・ポリマー):数量 140(エチレン換算の国内外販売数量(万トン、実質))× 価格 14(1トンあたり平均単価(万円、名目。ナフサ・市況連動))→ 売上 1,960 億円・営業利益 59 億円。益率3.0%
- クロル・アルカリ(苛性ソーダ・塩ビ・MDI・セメント):数量 290(苛性ソーダ・塩ビ・MDI・セメント等の出荷数量合計(万トン、実質))× 価格 13(1トンあたり平均単価(万円、名目。中国市況・原燃料連動))→ 売上 3,857 億円・営業利益 96 億円。益率2.5%
- 機能商品(電子材料・バイオサイエンス・高機能材料):数量 25,000(対象市場の実質規模(億円、電子材料・分離精製剤・診断システム・ジルコニア等の合計、2026年の物価で))× 価格 13.8%(東ソーの取り分(シェア、物価の指数込み))→ 売上 3,450 億円・営業利益 380 億円。益率11.0%
- 水処理エンジニアリング:数量 15,500(対象市場の実質規模(億円、半導体工場向け超純水プラント・一般産業向け水処理の合計))× 価格 15.0%(東ソーの取り分(シェア))→ 売上 2,325 億円・営業利益 302 億円。益率13.0%
倍率:事業の ROE 6.1% が k 7.5% 以下なので、伸びても価値は増えず、正当化 PER は 1÷k = 11.8 倍(ためた利益は額面未満)。クロル・アルカリ・石油化学の構造的な低迷が 10 年続く年なので、上限の 8 割の 8.8 倍に置いた。(還元を方針に合わせて再計算:還元 3679→3138 億円、自己資本 9791→10332 億円、事業の ROE 6.1%→5.8%、正当化 PER の上限 11.8→11.8 倍。上限に対する置き方の割合は変えず 8.80 倍)
確率:中国の供給過剰が解消されずクロル・アルカリ・石油化学の構造的な低迷が10年単位で続く一方、先端事業の成長も半導体・バイオの競争激化で鈍るという、業種見通しの弱めのレンジに相当。
悲観 12% チェーン事業の構造的な負け筋が続き、先端事業の堀も崩れる 利益 −90 億円 · PBR 0.4 倍 · 株価時価総額 1,137 円3,502 億円
クロル・アルカリ・石油化学は中国の増設が止まらず恒常的な営業損失に陥り、四日市・南陽の設備の一部で減損が発生する。国内ナフサクラッカーの再編も実現せず、電解・セメント事業の収益基盤も揺らぐ。機能商品は半導体材料・診断機器で韓国・中国勢に技術的な優位を奪われ益率4%まで落ち込み、水処理エンジニアリングも大型案件の受注が途絶え益率3%まで低下する。配当は手元現金や資産売却で最低限を維持するにとどまり、会社が「優良な化学メーカー」という市場からの評価を失う10年になるが、ジルコニア・分離精製剤などニッチ首位製品の顧客基盤と健全な財務は残り、清算価値としての下支えはある。
- 石油化学(オレフィン・ポリマー):数量 95.0(エチレン換算の国内外販売数量(万トン、実質))× 価格 12(1トンあたり平均単価(万円、名目。ナフサ・市況連動))→ 売上 1,093 億円・営業利益 −55 億円。営業損失(益率-5.0%)
- クロル・アルカリ(苛性ソーダ・塩ビ・MDI・セメント):数量 185(苛性ソーダ・塩ビ・MDI・セメント等の出荷数量合計(万トン、実質))× 価格 10(1トンあたり平均単価(万円、名目。中国市況・原燃料連動))→ 売上 1,906 億円・営業利益 −152 億円。営業損失(益率-8.0%)
- 機能商品(電子材料・バイオサイエンス・高機能材料):数量 18,000(対象市場の実質規模(億円、電子材料・分離精製剤・診断システム・ジルコニア等の合計、2026年の物価で))× 価格 11.2%(東ソーの取り分(シェア、物価の指数込み))→ 売上 2,016 億円・営業利益 81 億円。益率4.0%
- 水処理エンジニアリング:数量 9,000(対象市場の実質規模(億円、半導体工場向け超純水プラント・一般産業向け水処理の合計))× 価格 11.5%(東ソーの取り分(シェア))→ 売上 1,035 億円・営業利益 31 億円。益率3.0%
倍率:複数事業の損失・減損で赤字になるので稼ぐ力では値が付かない。売れる資産の税後 3,500 億円(今の自己資本 8,318 億円の約 4 割 2 分)に置いた。分離精製剤・水処理エンジニアリングの顧客基盤と、純負債の軽さ(自己資本比率 59%)を踏まえる。
確率:クロル・アルカリ・石油化学の構造的な負け筋(中国の増設継続でコモディティ事業が恒常的な損失に陥る)と、先端事業の競争力低下が同時に起きる複合シナリオ。確度は低いが、2009年3月期に実際に赤字を経験した実績もあり無視できない確率を置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
石油化学(オレフィン・ポリマー)
四日市のナフサクラッカーを中心に、エチレン・プロピレン等のオレフィンとポリエチレン等のポリマーを生産する。
| 数量エチレン換算の国内外販売数量(万トン、実質) | 価格1トンあたり平均単価(万円、名目。ナフサ・市況連動) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 150 | 11 | 1,697 | 97 |
| 10 年後 中立 | 150 | 15 | 2,250 | 135 |
取り方:2026年3月期の石油化学セグメントの売上高1,697億円・営業利益97億円(益率5.7%)をもとに、エチレン換算の国内外販売数量を約150万トンと推定して割った平均単価を価格とした。中国の大型増設で世界的な供給過剰が続き、国内はクラッカー再編による需給改善頼みの構造。
クロル・アルカリ(苛性ソーダ・塩ビ・MDI・セメント)
食塩電解による苛性ソーダ・塩素を起点に、塩ビ樹脂、ウレタン原料MDI、セメント(工場廃棄物の原料化)を生産する、市況変動の大きい基礎素材事業。
| 数量苛性ソーダ・塩ビ・MDI・セメント等の出荷数量合計(万トン、実質) | 価格1トンあたり平均単価(万円、名目。中国市況・原燃料連動) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 300 | 12 | 3,460 | 19 |
| 10 年後 中立 | 310 | 15 | 4,495 | 247 |
取り方:2026年3月期のクロル・アルカリセグメントの売上高3,460億円・営業利益19億円(益率0.6%、前年比8割減益)をもとに、出荷数量合計を約300万トンと推定して割った平均単価を価格とした。中国不動産不況で苛性ソーダ・MDIの海外市況が急落、国内最大級の電解能力を持つが市況のボラティリティが非常に大きい。
機能商品(電子材料・バイオサイエンス・高機能材料)
半導体向け石英素材・薄膜材料、分離精製剤・診断システム等のバイオサイエンス、ジルコニア粉末・ハイシリカゼオライト等の高機能材料、臭素・ハイアミン等の有機化成品を含む。
| 数量対象市場の実質規模(億円、電子材料・分離精製剤・診断システム・ジルコニア等の合計、2026年の物価で) | 価格東ソーの取り分(シェア、物価の指数込み) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 20,000 | 13.7% | 2,729 | 399 |
| 10 年後 中立 | 29,000 | 14.8% | 4,292 | 622 |
取り方:2026年3月期の機能商品セグメントの売上高2,729億円・営業利益399億円(益率14.6%)をもとに、電子材料・分離精製剤・診断システム・ジルコニア・臭素等の対象市場の実質規模を合計約2兆円と推定し、その約13.65%を東ソーの取り分とした。2024年度は半導体市場の踊り場で目標未達だったが、バイオ医薬品・診断市場は年率5〜10%の構造的な成長が続く。
水処理エンジニアリング
先端半導体工場向け超純水プラントを中心に、一般産業向けの水処理設備・メンテナンスを手がける。
| 数量対象市場の実質規模(億円、半導体工場向け超純水プラント・一般産業向け水処理の合計) | 価格東ソーの取り分(シェア) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 12,000 | 15.5% | 1,864 | 404 |
| 10 年後 中立 | 18,500 | 16.8% | 3,108 | 559 |
取り方:2026年3月期のエンジニアリングセグメント(水処理中心)の売上高1,864億円・営業利益404億円(益率21.7%、先端半導体向け大型案件が牽引)をもとに、対象市場の実質規模を約1.2兆円と推定し、その約15.5%を東ソーの取り分とした。AI向け投資を中心に半導体メーカーの設備投資が続く限り、超純水プラントの需要は構造的に拡大が見込める一方、大型案件の計上時期で利益が跳ねるロット性がある。
リスクと懸念
クロル・アルカリの市況変動リスク
苛性ソーダ・MDIの海外市況は中国の不動産市況・大規模増設の影響を強く受け、2024年度は営業利益率が14.6%(2021年度)から0.6%まで一年で急落した。前中計(2022〜2024年度)もこの市況変動で営業利益目標を大幅に下回っており、同じパターンの業績予想外れが今後も起きうる。
中国の供給過剰による石油化学の構造的な収益低迷
中国の大規模増設による世界的な供給過剰は10年単位で続くとみられ、四日市のナフサクラッカーが中京地区唯一という立場があっても、国内需要縮小の中でクラッカーの高稼働維持は他社との連携頼みになる。構造的な収益改善の道筋は明確ではない。
半導体市況の踊り場・先端事業の収益変動
機能商品(電子材料関連)は2024年度、半導体市場が踊り場を迎えたことで目標を大幅に下回った。会社は半導体市場の回復を2025年度後半と見込んでいるが、AI向け投資の持続性次第では計画どおりに進まず、石英素材・薄膜材料の需要回復が遅れる可能性がある。
水処理エンジニアリングの受注のロット性
先端半導体向け超純水プラントの大型案件は計上時期で利益が大きく跳ねるロット性の強いビジネスで、2027年度の会社目標(営業利益368億円)が現状(404億円)を下回っていることからも、直近の高い利益率がそのまま定着するとは限らない。
ニッチ首位製品の模倣品・規制対応リスク
ジルコニア粉末は安価な模倣品によるハイエンド歯科材料市場の侵食という課題を抱え、免疫診断の新製品AIA-CLは米国での認可取得が遅れている。世界で数社しか作れない製品群でも、技術・規制対応の優位が永続する保証はない。
脱炭素・CO2排出削減コストの負担
電解・ナフサ熱分解はエネルギー多消費でCO2排出量が多く、会社はVision2030で2030年度にCO2排出量30%削減(2018年度比)を掲げる。経済合理性を重視した対応策を選ぶ方針だが、将来の規制強化やエネルギーコスト次第で追加負担が生じる可能性がある。
今後の分かれ目
- クロル・アルカリの海外市況(苛性ソーダ・MDI)が中国不動産市況の底打ちで明確に回復したら
- 楽観・やや楽観の筋書きの確率を上げてよい。会社の四半期セグメント利益と中国の市況データを確認する。
- 半導体市場の回復が会社の想定(2025年度後半)どおりに進み、機能商品・水処理エンジニアリングの受注が増えたら
- 先端事業の成長シナリオの確度が上がり、中立〜やや楽観側に重みを移してよい。
- 水処理エンジニアリングで大型案件の受注が途切れ、営業利益が会社目標(2027年度368億円)を大きく下回ったら
- 直近の高い利益率がロット性による一時的なものだったサインとみて、やや悲観側の確率を上げる。
- 分離精製剤の南陽・四日市の増産投資が計画どおり完了し、バイオ医薬品メーカーへの供給が拡大したら
- 先端事業の構造的な成長シナリオの確度が上がり、やや楽観側の確率を上げてよい。
- 次の中期経営計画の更新で2030年度の営業利益目標1,700億円が下方修正されたら
- チェーン事業の構造改革・先端事業の成長投資の実行が計画より遅れているサインとみて、中立シナリオの前提を下方修正する。
- 中国のクロル・アルカリ・石化メーカーの増設がさらに加速し、国内のナフサクラッカー再編(統合・停止)が具体化したら
- 石油化学・クロル・アルカリの構造的な収益改善がさらに遠のくとみて、やや悲観側の確率を上げる。
見ておくもの
- クロル・アルカリ(苛性ソーダ・MDI)の海外市況と四半期益率
- 機能商品・水処理エンジニアリングの四半期益率と半導体関連の受注動向
- 分離精製剤の増産投資(南陽・四日市)の進捗とバイオ医薬品メーカーへの供給拡大
- 新中期経営計画(2025〜2027年度)・Vision2030(2030年度)の進捗(営業利益目標との距離)
- 中国のクロル・アルカリ・石化メーカーの増設動向と国内ナフサクラッカーの再編
- 総還元性向50%・3年500億円の自己株取得の実施状況
倍率と資本コストの決め方
石油化学・クロル・アルカリ(市況連動の数量×単価)、機能商品・水処理(市場×シェア)で数量は実質、価格は物価 3% 込みの名目で積んだ。資本コストは基本 7.5% に quality(循環 +1.0%)を足した 8.5%。倍率は利益ベースの正当化 PER を上限に、楽観・やや楽観・中立を 9 割、やや悲観を 7.5 割に置いた。悲観は赤字なので売れる資産の税後(概算)から置き、過去の最安 PBR は使っていない。確率は同じ領域の旭化成・住友化学・三菱ケミカルより、クロル・アルカリの市況変動の大きさ(前中計の大幅未達)を踏まえ、やや悲観・悲観をやや厚めに置いた。今の PBR・PER は最後に比べただけ。総合の差は +16.5%(やや割安)。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 13.2→18.4 倍・やや楽観 PER 12.21→16.82 倍・中立 PER 11.06→14.99 倍)。
資本コスト 7.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。