結論
トクヤマは、山口県周南市に拠点を置く総合化学会社だ。苛性ソーダやソーダ灰の化成品、半導体用の多結晶シリコンと洗浄用の高純度イソプロピルアルコール(IPA)を作る電子先端材料、歯科材料や体外診断薬のライフサイエンスで稼ぐ。筆者の結論は、10 年後の価値は今の時価総額をやや下回る、つまり「やや割高」だ。
会社は大きく姿を変えている途中にある。2026 年 3 月、セグメント利益の約 2 割を稼ぐセメントの国内販売を、太平洋セメントへ 370 億円で売ると決めた。身軽になった資金は半導体材料とヘルスケアに回す。方向は正しいと筆者は見る。
稼ぎ頭は電子先端材料だ。AI 向けの先端半導体で需要が強く、前期の営業利益は 157 億円と 6 割増えた。ただ、この好調がそのまま続くとは置かない。中国勢の追い上げがあり、半導体投資には 2〜4 年の山谷も必ず来るからだ。
弱いのは資本の稼ぎ方である。前期の自己資本利益率(ROE、株主のお金でどれだけ稼ぐか)は 7.8% で、株主が求める 8.5% に届かない。中立の筋書きでも 10 年後の ROE は同程度で、利益が伸びても倍率は上がらない。
過去の傷も忘れられない。マレーシアに約 2,000 億円を投じた太陽電池向けの工場は、供給過剰で手放した。市況に振り回された歴史があるぶん、悪い筋書きの確率は軽くしない。
バリュー投資の観点から
オーナー目線の問いは単純だ。この会社の利益のうち、株主が自由に使えるお金はいくらか。
トクヤマは、稼いだお金の多くを設備と買収に再投資する。半導体材料の増産に、マレーシアの合弁で 4.35 億ドル、ライフサイエンスの買収に 820 億円。投資が実って稼ぎが 2 倍になるなら悪くない。だが、化学の設備は市況が悪い年も固定費を食う。実らなければ、自己資本が膨らんで ROE が薄まるだけだ。
バリュー投資の観点では、「安いかどうか」より「長く持って増えるか」を見る。電子先端材料は、堀があり、需要も伸びる。ただ 1 つの顧客層と 1 つの循環に利益が偏る。化成品は持ち続けても価値が増えない。その分だけ、全社の倍率は資本コストの水準から低めにしか置けない。
筆者が安全域を取るのは、悪い筋書きの床だ。多結晶シリコンと IPA の設備、ライフサイエンスの事業には売れる価値がある。だが、それでも今の時価総額には届かない。今の値段には、成長がうまくいくことがすでに織り込まれていると見る。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの柱は 4 つある。
電子先端材料は前期の売上 909 億円、営業利益 157 億円。半導体ウエハーの原料になる高純度の多結晶シリコン(1984 年に参入)と、半導体の洗浄に使う高純度 IPA が中心だ。顧客は半導体メーカーとウエハーメーカー。台湾では台塑グループとの合弁で IPA を作り、韓国の合弁でも先端向けの納入を見込む。多結晶シリコンは、ベトナムの破砕・エッチング工場が 2026 年 3 月に完成し、マレーシアでは OCI との合弁で析出工場を建てている。両方が動けば、グループの生産能力は今の 1.5 倍強になる。
ライフサイエンスと環境は売上 553 億円、営業利益 85 億円。歯科用材料や調光レンズの材料が土台だ。2025 年 10 月に JSR の体外診断薬と材料の事業を 820 億円で買い、検査薬の分野へ広げた。
化成品は売上 1,061 億円、営業利益 97 億円。苛性ソーダ、ソーダ灰、塩ビの原料、塩化カルシウムなど、市況で振れる基礎品だ。東南アジアの市況と国内のガラス需要に左右される。
セメントは売上 661 億円、営業利益 95 億円。国内の販売事業を太平洋セメントへ売り、2028 年度を目途に製造停止も検討している。もともとはソーダ灰の副産物と自家発電の石炭灰を使い切るために始めた事業で、この役目が消えつつある。
優良さと弱いところ
堀、つまり他社がまねできない強みは、事業ごとにまるで違う。
電子先端材料には堀がある。半導体向けの多結晶シリコンは、純度と安定供給を長い認定の期間で試されるため、顧客は簡単に乗り換えない。ただ相手は強い。ワッカー、ヘムロック、OCI などが並び、トクヤマのシェアは 1 割前後と推定する(調査会社の集計で確度は低い)。首位ではなく、値段を自分で決める立場でもない。
ライフサイエンスは、歯科材料の専門顧客に根付いた小さな堀がある。検査薬は買ってきた事業で、使いこなせるかはこれからだ。
化成品に堀は無い。値段は市況が決め、勝負はコストだけである。
資本の稼ぎ方も強くない。ROE は直近 4 年が 4〜9% にとどまる。過去 10 年の中央値 12% は、債務整理の直後に跳ねた年が混じった数字だ。
経営には教訓がある。マレーシアの大型投資で財務を傷め、立て直しに何年もかけた。今の経営は、不採算の入れ替えと政策保有株の売却を進め、資本の効率を意識している。この姿勢は評価できる。ただ、結果はまだ数字に出ていない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
利益の中心は半導体材料の循環に乗っている。
半導体材料の市場は、AI データセンター向けの先端ロジックとメモリが引っ張り、10 年で年 6〜8% の拡大が見込まれる。ただ半導体投資は 2〜4 年ごとに山と谷を作ってきた。AI という新しい柱ができても、この循環は消えない。多結晶シリコンは中国の国産化の影響も受ける。高い純度の先端品は当面日本と欧米が優位だが、中位の品は時間をかけて追いつかれる。
化成品は、構造的に苦しい。中国の増設で汎用品は供給過剰が続き、国内はガラスや塩ビの需要が人口とともに細る。2026 年のナフサ供給の混乱は一時の追い風だが、需要の強さではない。実際、2027 年 3 月期の第 1 四半期は、原燃料と物流の費用増で化成品の営業利益が 8 割減った。
セメントは国内需要が 1990 年度の約 8,600 万トンから 3,300 万トン弱まで落ちた。値上げで利益は出たが、需要の縮小は止まらない。会社が売却を選んだのは、買い手がいるうちに手放す判断だと筆者は見る。
検査薬と歯科の分野は、高齢化で需要が底堅い。ただ医療費の抑制と競争で、値段は物価ほどは上がらない。
資本政策と M&A
資本政策は、成長投資と還元のあいだで綱引きになっている。
新しい中期経営計画は 2030 年度に株主資本配当率(DOE)4%、ROE 10.6% を掲げる。配当は性向 30% 以上も下限にする。政策保有株は、保有していた 23 銘柄のうち 12 銘柄を全部売った。
一方で、お金の使い道は成長に偏る。今後 5 年の支出の約 5 割を事業投資に、還元には約 1 割しか回さない。半導体材料の増産と、ライフサイエンスの買収が中心だ。マレーシアの合弁だけで投資額は 4.35 億ドルにのぼる。
セメントの売却代金 370 億円は、借金の返済と成長投資に回る。前期末の純有利子負債は 1,085 億円まで増えており、JSR 事業の買収の跡が残る。
買収される側になる可能性は、筆者は低いと見る。時価総額は 3,000 億円弱と小さいが、周南の拠点と事業の入り組みが大きく、割って買いにくい。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
半導体材料は、AI の計算需要が続く限り、数量が伸びる市場にある。先端ロジックと HBM(高帯域メモリ)では、ウエハーの純度が歩留まりに直結する。顧客は認定を通した供給元を替えたがらず、トクヤマはその認定を長く保ってきた。
増産も具体的だ。ベトナムの工場は完成し、マレーシアの合弁も 2028 年のサンプル出荷を見込む。完成すれば生産能力は 1.5 倍強になる。台湾の IPA も、2026 年にフル稼働する。先端プロセスでは洗浄の回数が増えるので、IPA の数量は半導体の出荷より速く伸びる。
セメントを手放すと、利益のぶれは小さくなる。売却代金で借金を減らし、成長分野に資金を集められる。ライフサイエンスは JSR の検査薬が加わり、会社が目指す売上の 3 倍化に近づく。
この筋書きが続けば、電子先端材料の営業利益は 10 年で 3 倍近くになり、ROE も資本コストを上回る。資本の稼ぎが改善した会社は、今より高い倍率で評価される。
慎重な見方
電子先端材料の好調は循環の山で、続かない。多結晶シリコンはコモディティに近く、中国勢が中位の品から追い上げる。新しい工場が同時に立ち上がるのは、供給が増える局面でもある。需給が緩めば、増産は値崩れに変わる。
トクヤマはこの罠を知っているはずだ。マレーシアで約 2,000 億円を投じた工場は、供給過剰で売らざるを得なかった。今回の合弁は半導体向けで条件は違うが、巨額の設備投資と市況の関係は同じである。
化成品は、構造的に稼げない。中国の過剰生産と国内需要の縮小で、売上の約 3 割が慢性的に低収益だ。ライフサイエンスも、買収で売上を 3 倍にする計画は、高値づかみになる恐れが大きい。
何より、ROE は 7.8% で資本コストに届かない。利益が増えても、増えた資本を同じ稼ぎで回せないなら、株主の価値は増えない。会社の目標である 10.6% には、事業が計画どおりに進んでも距離がある。しかも投資は先に出て、利益は後から来る。その間に市況が崩れれば、配当を守りながら投資を続けることもむずかしくなる。
どちらに重みを置いたか
強気の根拠は事業の実在で、慎重な見方の根拠は資本の稼ぎ方と循環だ。筆者は慎重な見方の方がやや強いと見て、確率を悪い側に寄せた。電子先端材料の伸びは認める。ただ ROE が資本コストを超えない限り、利益の伸びは倍率に結びつかない。確率は楽観 10%、やや楽観 22%、中立 34%、やや悲観 23%、悲観 11% とした。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 6,644 円4,780 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 2,203 円1,585 億円)。 今の値に割り戻すと 4,758 円3,424 億円、今との差 +25.2%、 期待の年率 +8.8%(資本コスト 7.5%)→ やや割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 14,705 円1.06 兆円 | 3,336 円2,400 億円 | +374.7% | +16.9% | 1,804 円1,298 億円 |
| やや楽観 | 22% | 10,319 円7,425 億円 | 2,752 円1,980 億円 | +244.0% | +13.1% | 2,876 円2,069 億円 |
| 中立 | 34% | 6,233 円4,485 億円 | 2,293 円1,650 億円 | +124.4% | +8.4% | 2,899 円2,086 億円 |
| やや悲観 | 23% | 2,612 円1,879 億円 | 1,807 円1,300 億円 | +16.3% | +1.5% | 1,016 円731 億円 |
| 悲観 | 11% | 1,668 円1,200 億円 | 625 円450 億円 | −39.7% | −4.9% | 252 円182 億円 |
| 加重平均 | 100% | 6,644 円4,780 億円 | 2,203 円1,585 億円 | +132.8% | +8.8% | 8,847 円6,366 億円 |
今の株価時価総額 3,800 円2,734 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.5% を下回るほど割高。
楽観 10% AI 需要が続き、増産が実り、検査薬も育つ 利益 618 億円 · PER 17.1 倍 · 株価時価総額 14,705 円1.06 兆円
AI データセンターの投資が 10 年を通して太く続き、先端ロジックとメモリの需要が数量を押し上げる。トクヤマはベトナムとマレーシアの増産が予定どおり立ち上がり、多結晶シリコンと高純度 IPA の数量をほぼ倍にする。
高純度品では値段を下げずに済み、益率は 21% まで上がる。ライフサイエンスは JSR の検査薬が軌道に乗り、買収も 1〜2 件成功して売上が今の 2 倍近くになる。
セメントの売却代金は借金の返済に回り、純有利子負債はほぼ消える。化成品は国内再編で供給が絞られ、市況が戻って益率 12% に改善する。10 年後の営業利益は 876 億円と、会社が計画する 2030 年度の水準を大きく超える。
- 電子先端材料(多結晶シリコン・高純度 IPA ほか):数量 1,700(半導体向け材料の世界の対象市場(実質・億円)× 当社シェア)× 価格 1.38(値段の指数(今 = 1.00、名目))→ 売上 2,346 億円・営業利益 493 億円。AI で数量が倍近く、益率 21%
- ライフサイエンス・環境(歯科材料・調光レンズ材料・体外診断薬):数量 900(対象市場(実質・億円)× 当社シェア)× 価格 1.38(値段の指数(今 = 1.00、名目))→ 売上 1,242 億円・営業利益 261 億円。検査薬が育ち益率 21%
- 化成品(ソーダ灰・苛性ソーダ・塩ビの原料・塩化カルシウム):数量 215(販売量(万トン、各製品の合計の推定))× 価格 6.75(1 トンあたりの平均単価(万円、名目))→ 売上 1,452 億円・営業利益 174 億円。市況が戻り益率 12%
- セメント(国内販売事業を 2026 年 10 月に売却予定):数量 0.0(販売量(万トン、セメント・固化材・石炭灰処理などの推定))× 価格 1.77(1 トンあたりの平均単価(万円、名目))→ 売上 0 億円・営業利益 0 億円。売却済みで売上なし
- その他・本社費(売電・商事・物流ほか):数量 160(その他の事業の実質規模(億円、今の値段))× 価格 1.38(値段の指数(今 = 1.00、名目))→ 売上 221 億円・営業利益 −52 億円。本社費が残る
倍率:事業の純利益 618 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 12.5% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.0%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 17.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 17.1 倍。全体の PER 17.12 倍、時価総額 10,580 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:電子先端材料の需要、マレーシアとベトナムの増産、検査薬の買収が 10 年すべてで当たる必要がある。会社の計画(2030 年度に電子先端の営業利益 371 億円)は過去の計画の達成実績から見て強気に過ぎる。
やや楽観 22% 電子先端材料が着実に伸び、ライフサイエンスも育つ 利益 472 億円 · PER 15.7 倍 · 株価時価総額 10,319 円7,425 億円
電子先端材料は、増産が立ち上がり数量が 1.7 倍近くになる。半導体投資の谷で 1〜2 年は足踏みするが、10 年では年 5% の数量成長を保つ。益率は 20% に乗る。
ライフサイエンスは、検査薬の統合が進み、歯科と合わせて益率 18% を保つ。化成品は国内の再編が進み、益率 10% まで戻る。
セメントの売却益で財務は軽くなり、配当は DOE 4% の目標どおりに出せる。営業利益は 675 億円で、会社の計画には届かない。それでも、セメントを除いた今の水準の 2 倍を超える。売上の 4 割強が半導体材料になり、利益の構成は大きく変わる。
- 電子先端材料(多結晶シリコン・高純度 IPA ほか):数量 1,550(半導体向け材料の世界の対象市場(実質・億円)× 当社シェア)× 価格 1.33(値段の指数(今 = 1.00、名目))→ 売上 2,062 億円・営業利益 412 億円。益率 20%
- ライフサイエンス・環境(歯科材料・調光レンズ材料・体外診断薬):数量 760(対象市場(実質・億円)× 当社シェア)× 価格 1.35(値段の指数(今 = 1.00、名目))→ 売上 1,026 億円・営業利益 185 億円。益率 18%
- 化成品(ソーダ灰・苛性ソーダ・塩ビの原料・塩化カルシウム):数量 205(販売量(万トン、各製品の合計の推定))× 価格 6.56(1 トンあたりの平均単価(万円、名目))→ 売上 1,345 億円・営業利益 134 億円。益率 10%
- セメント(国内販売事業を 2026 年 10 月に売却予定):数量 0.0(販売量(万トン、セメント・固化材・石炭灰処理などの推定))× 価格 1.77(1 トンあたりの平均単価(万円、名目))→ 売上 0 億円・営業利益 0 億円。売却済みで売上なし
- その他・本社費(売電・商事・物流ほか):数量 155(その他の事業の実質規模(億円、今の値段))× 価格 1.35(値段の指数(今 = 1.00、名目))→ 売上 209 億円・営業利益 −56 億円。本社費が残る
倍率:事業の純利益 472 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.3% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.9%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.7 倍。全体の PER 15.73 倍、時価総額 7,425 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:電子先端材料の増産は完成まで見えており、需要の成長も業界の見通しの範囲に収まる。ただ半導体の循環があり、計画どおりに行く確率は半分に満たない。
中立 34% 中立:半導体材料が稼ぎを支え、化成品は縮む 利益 320 億円 · PER 13.7 倍 · 株価時価総額 6,233 円4,485 億円
電子先端材料は、数量が 10 年で 1.45 倍になる。中国の追い上げで値段は物価ほど上がらず、益率は 18% を保つ。半導体投資の谷が 2 回は来るが、10 年の平均では伸びる。
ライフサイエンスは、検査薬と歯科の安定成長で益率 15.5%。化成品は国内需要の縮小で数量が 1 割以上減り、益率は 7.5% にとどまる。
セメントは売却済みで、利益から消える。代わりに売却代金で借金を減らし、利払いは軽くなる。営業利益は 466 億円。今のセメントを除いた利益の 1.7 倍だが、物価で名目は膨らむので、実質では 2 割増の水準だ。
- 電子先端材料(多結晶シリコン・高純度 IPA ほか):数量 1,320(半導体向け材料の世界の対象市場(実質・億円)× 当社シェア)× 価格 1.28(値段の指数(今 = 1.00、名目))→ 売上 1,690 億円・営業利益 304 億円。数量は 1.45 倍、益率 18%
- ライフサイエンス・環境(歯科材料・調光レンズ材料・体外診断薬):数量 650(対象市場(実質・億円)× 当社シェア)× 価格 1.32(値段の指数(今 = 1.00、名目))→ 売上 858 億円・営業利益 133 億円。益率 15.5%
- 化成品(ソーダ灰・苛性ソーダ・塩ビの原料・塩化カルシウム):数量 190(販売量(万トン、各製品の合計の推定))× 価格 6.27(1 トンあたりの平均単価(万円、名目))→ 売上 1,191 億円・営業利益 89 億円。数量が減り益率 7.5%
- セメント(国内販売事業を 2026 年 10 月に売却予定):数量 0.0(販売量(万トン、セメント・固化材・石炭灰処理などの推定))× 価格 1.77(1 トンあたりの平均単価(万円、名目))→ 売上 0 億円・営業利益 0 億円。売却済みで売上なし
- その他・本社費(売電・商事・物流ほか):数量 150(その他の事業の実質規模(億円、今の値段))× 価格 1.34(値段の指数(今 = 1.00、名目))→ 売上 201 億円・営業利益 −60 億円。本社費が残る
倍率:事業の純利益 320 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.8% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 7.7%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.7 倍。全体の PER 13.65 倍、時価総額 4,368 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:電子先端材料の伸びと、化成品の低収益という業種ノートの見通しの中心に置く。ROE が資本コストに届かない現状の延長で、慎重な見方の方がやや強いと見て、悪い側にやや重く振った。
やや悲観 23% 中国の追い上げと設備投資の重さで稼ぎが伸びない 利益 177 億円 · PER 8.0 倍 · 株価時価総額 2,612 円1,879 億円
電子先端材料は、数量は伸びるが、値段が物価に追いつかない。新工場が立ち上がる時期に供給が増え、多結晶シリコンの値段は崩れる。益率は 15% にとどまる。
検査薬の統合は想定より時間がかかり、ライフサイエンスの益率は 12% に下がる。化成品は中国の過剰生産に押され、益率 4.5%。
新工場の償却が重くなるうえ、買収で積み上がったのれんが利益を薄める。営業利益は 274 億円と、セメントを除く今の水準とほぼ同じだ。10 年で物価は 3 割以上上がるので、実質では目減りしている。株主への配当も、利益の伸びに頼れず、薄い取り分にとどまる。
- 電子先端材料(多結晶シリコン・高純度 IPA ほか):数量 1,150(半導体向け材料の世界の対象市場(実質・億円)× 当社シェア)× 価格 1.20(値段の指数(今 = 1.00、名目))→ 売上 1,380 億円・営業利益 207 億円。数量は伸びるが値段が伸びず益率 15%
- ライフサイエンス・環境(歯科材料・調光レンズ材料・体外診断薬):数量 560(対象市場(実質・億円)× 当社シェア)× 価格 1.28(値段の指数(今 = 1.00、名目))→ 売上 717 億円・営業利益 86 億円。益率 12%
- 化成品(ソーダ灰・苛性ソーダ・塩ビの原料・塩化カルシウム):数量 170(販売量(万トン、各製品の合計の推定))× 価格 5.88(1 トンあたりの平均単価(万円、名目))→ 売上 1,000 億円・営業利益 45 億円。益率 4.5%
- セメント(国内販売事業を 2026 年 10 月に売却予定):数量 0.0(販売量(万トン、セメント・固化材・石炭灰処理などの推定))× 価格 1.77(1 トンあたりの平均単価(万円、名目))→ 売上 0 億円・営業利益 0 億円。売却済みで売上なし
- その他・本社費(売電・商事・物流ほか):数量 140(その他の事業の実質規模(億円、今の値段))× 価格 1.30(値段の指数(今 = 1.00、名目))→ 売上 182 億円・営業利益 −64 億円。本社費が残る
倍率:事業の ROE 4.6% が k 7.5% 以下なので、正当化 PER の上限は 1÷k = 11.8 倍。構造が傾き伸びも堀の持ちも低く見て、上限の 7 割弱の 8.0 倍に置いた(やや悲観は 7 割へ引き上げない)。
確率:多結晶シリコンの中位品で中国が追いつき、同時に増える新工場が供給を緩める。検査薬の買収の効果も弱い。過去のトクヤマが市況で振れた歴史から、この筋書きは軽くしない。
悲観 11% 値崩れと買収の失敗が重なり、稼ぎがほぼ消える 利益 −80 億円 · PBR 0.4 倍 · 株価時価総額 1,668 円1,200 億円
新しい多結晶シリコン工場が一斉に立ち上がり、世界で供給が余る。中国勢の中位品の攻勢も加わり、値段は今を下回り、益率は 5% に落ちる。マレーシアの合弁も、かつての太陽電池向けと同じ道をたどる。
JSR から買った検査薬は期待した成長がなく、のれんを大きく減損する。ライフサイエンスの益率は 4% にとどまる。化成品はソーダ灰の工場の一部を止めても営業赤字が続く。
セメントの跡地とキルン、石炭火力に関わる設備は遊休のまま費用を生む。営業利益はわずかな赤字となり、配当は DOE 3% の最低線も守れなくなる。価値の下支えは、設備や事業の売却価値だけだ。
- 電子先端材料(多結晶シリコン・高純度 IPA ほか):数量 850(半導体向け材料の世界の対象市場(実質・億円)× 当社シェア)× 価格 0.95(値段の指数(今 = 1.00、名目))→ 売上 808 億円・営業利益 40 億円。値崩れで益率 5%
- ライフサイエンス・環境(歯科材料・調光レンズ材料・体外診断薬):数量 470(対象市場(実質・億円)× 当社シェア)× 価格 1.10(値段の指数(今 = 1.00、名目))→ 売上 517 億円・営業利益 21 億円。益率 4%
- 化成品(ソーダ灰・苛性ソーダ・塩ビの原料・塩化カルシウム):数量 140(販売量(万トン、各製品の合計の推定))× 価格 5.06(1 トンあたりの平均単価(万円、名目))→ 売上 709 億円・営業利益 −14 億円。営業赤字
- セメント(国内販売事業を 2026 年 10 月に売却予定):数量 0.0(販売量(万トン、セメント・固化材・石炭灰処理などの推定))× 価格 1.77(1 トンあたりの平均単価(万円、名目))→ 売上 0 億円・営業利益 0 億円。売却済みで売上なし
- その他・本社費(売電・商事・物流ほか):数量 120(その他の事業の実質規模(億円、今の値段))× 価格 1.25(値段の指数(今 = 1.00、名目))→ 売上 150 億円・営業利益 −75 億円。遊休設備と本社費が残る
倍率:稼ぐ力では値が付かないので、売れる資産の税後 1,200 億円(今の自己資本 2,831 億円の約 4 割 2 分)に置いた。
確率:多結晶シリコンの値崩れ、検査薬の減損、化成品の赤字が同時に重なる複合の筋書き。重なる条件が多いので確率は 1 割台前半にとどめた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
電子先端材料(多結晶シリコン・高純度 IPA ほか)
半導体ウエハーの原料の高純度多結晶シリコンと、半導体の洗浄用の高純度 IPA、ヒュームドシリカなど。
| 数量半導体向け材料の世界の対象市場(実質・億円)× 当社シェア | 価格値段の指数(今 = 1.00、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 909 | 1.00 | 909 | 157 |
| 10 年後 中立 | 1,320 | 1.28 | 1,690 | 304 |
取り方:対象市場を約 6,000 億円(多結晶シリコン、洗浄用 IPA、ヒュームドシリカなどの世界の合計の推定。根拠は弱い)、当社の取り分を約 15% と置くと、前期売上 909 億円になる。シェアは数量の側で、価格の欄は値段の指数。
ライフサイエンス・環境(歯科材料・調光レンズ材料・体外診断薬)
歯科用材料、調光レンズの材料、JSR から買った体外診断薬と材料、環境(イオン交換膜など)の小さな事業。
| 数量対象市場(実質・億円)× 当社シェア | 価格値段の指数(今 = 1.00、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 553 | 1.00 | 553 | 85 |
| 10 年後 中立 | 650 | 1.32 | 858 | 133 |
取り方:歯科・調光レンズ材料・検査薬の対象市場の合計を約 5,000 億円、当社の取り分を約 11% と置くと前期の売上 553 億円(買収した検査薬事業は半年分)になる。シェアは数量の側。
化成品(ソーダ灰・苛性ソーダ・塩ビの原料・塩化カルシウム)
市況で値が決まる基礎化学品。周南と南陽の工場で作る。
| 数量販売量(万トン、各製品の合計の推定) | 価格1 トンあたりの平均単価(万円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 220 | 4.82 | 1,061 | 97 |
| 10 年後 中立 | 190 | 6.27 | 1,191 | 89 |
取り方:ソーダ灰・苛性ソーダ・塩ビ原料・塩化カルシウムなどの販売量を合計 220 万トン前後と推定し、前期の売上 1,061 億円で割った平均単価。製品ごとの開示がないので、販売量は筆者の推定。
セメント(国内販売事業を 2026 年 10 月に売却予定)
セメント・固化材。国内販売と子会社 2 社を太平洋セメントへ売り、製造は 2028 年度を目途に停止を検討する。
| 数量販売量(万トン、セメント・固化材・石炭灰処理などの推定) | 価格1 トンあたりの平均単価(万円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 500 | 1.32 | 661 | 95 |
| 10 年後 中立 | 0.0 | 1.77 | 0 | 0 |
取り方:前期のセメント売上 661 億円を、販売量約 500 万トンで割った平均単価。売却後はこの利益が無くなる。
その他・本社費(売電・商事・物流ほか)
売電、商事、物流などと、全社の本社費。セメントと一緒に売る商事子会社の分は売却で抜ける。
| 数量その他の事業の実質規模(億円、今の値段) | 価格値段の指数(今 = 1.00、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 311 | 1.00 | 311 | −64 |
| 10 年後 中立 | 150 | 1.34 | 201 | −60 |
取り方:全社売上 3,495 億円から 4 つのセグメントの売上合計を引いた残り 311 億円を、その他の事業とする。営業利益は全社 370 億円との差で、本社費を含めて −64 億円。
リスクと懸念
多結晶シリコンの供給過剰と中国の追い上げ
ベトナムとマレーシアの新工場が動くころ、中国勢も中位品の増産を進める。需給が緩めば、増産が値崩れにつながる。半導体用は太陽電池用より堅いが、過去にマレーシアで約 2,000 億円を投じて手放した経験があり、同じ轍を踏むかどうかが分かれ目になる。
半導体投資の循環
半導体投資は 2〜4 年ごとに山と谷を作ってきた。電子先端材料は全社の営業利益の約 4 割を占め、谷の年は設備の稼働率と値段が同時に下がる。AI 需要の過熱後に調整が来れば、前期の 6 割増益は反転する。
化成品の慢性的な低収益
中国の過剰生産と国内のガラス・塩ビ需要の縮小で、化成品は伸びにくい。2027 年 3 月期の第 1 四半期は、原燃料と物流の費用増で営業利益が 8 割減った。国内の再編に取り残されると、ソーダ灰などの工場閉鎖と減損が現実になる。
セメント撤退後の電力と周辺設備
セメントは、自家発電の石炭灰とソーダ灰の副産物を使い切る役目も持っていた。製造を止めた後の処理、キルンの跡地、売電の契約が残る。前期はすでに電力受給契約の引当金 36 億円を特別損失に計上した。想定外の費用が出る余地はある。
検査薬の買収の消化
JSR の体外診断薬と材料の事業は 820 億円という大きな買い物だった。ライフサイエンスの売上を 2030 年度に 3 倍にする計画は、さらに買収を重ねる前提だ。高値づかみになれば、のれんの減損が資本の稼ぎ方を悪化させる。
資本の稼ぎが資本コストに届かない
ROE は直近 4 年が 4〜9% で、株主が求める 8.5% 前後に届かない。投資が先に出て利益が後から来る構造なので、その間に配当と投資の両方を賄えるかが問われる。DOE 4% の目標も、利益が伸びなければ重い。
今後の分かれ目
- マレーシアの合弁工場が 2027 年 3 月末に完成し、2028 年にサンプル出荷へ進んだら
- 電子先端材料の数量の筋書きの確度が上がり、中立から楽観側へ確率を移してよい。顧客の認定の進み具合を確かめる。
- 多結晶シリコンの契約価格が下がり始めたら
- 新工場の立ち上げ時期と重なれば、やや悲観側の確率を上げる。中国勢の増産の動きも合わせて見る。
- セメントの売却が予定どおり 2026 年 10 月に実行され、2028 年度の製造停止が決まったら
- 撤退後の費用の見通しが固まる。石炭火力と売電の扱いが明らかになれば、その他の費用を見直す。
- ライフサイエンスでさらに大型の買収を発表したら
- 価格と相乗効果を確かめる。高値の買収ならやや悲観側に、検査薬の成長が数字に出れば楽観側に確率を移す。
- 化成品でソーダ灰や塩ビの工場の統合・停止が決まったら
- 減損は出るが、赤字を生む設備が消えるので、中立の益率が少し上がる余地がある。
- 2028 年度に近づいても ROE が 8% 台にとどまったら
- 資本の稼ぎが改善していないとみて、倍率の上限を引き下げる。会社の目標 10.6% との距離を確認する。
見ておくもの
- 電子先端材料の四半期の営業利益と多結晶シリコン・IPA の出荷動向
- マレーシア合弁(OTSM)とベトナム工場の立ち上がり
- セメント売却の実行(2026 年 10 月 1 日)と製造停止の判断
- 化成品の営業利益と、国内の石化・塩ビの再編
- ライフサイエンスの検査薬の売上と買収の発表
- ROE と純有利子負債 ÷ EBITDA の推移(中期経営計画 2030 年度の目標 10.6%)
倍率と資本コストの決め方
セグメントは電子先端材料・ライフサイエンス(市場×シェア)、化成品・セメント(トン数×単価)で積んだ。数量は実質、値段は物価 3% 込みの名目。k は基本 7.5% に quality +1.0%(循環 +0.75・値決め 0・借金 +0.25・寿命 0)を足した 8.5%。倍率は利益ベースの正当化 PER で、中立は上限 11.8 倍(ROE が k 以下なので 1÷k)の 8.5 割。今の株価・同業・過去の PER は参照していない。悲観は売れる資産の税後の床。最後に今の時価総額と比べ、−11% 前後(やや割高)。売上をそのまま数量にする注意(電子先端・ライフ・その他)は、開示が無く市場規模×シェアの推定のため残した(シェアは数量の側、価格欄は値段の指数)。リース:賃借はほぼ無く影響は小さいが、新リース会計基準で 2028/03 期から数字の形が変わるため、10 年後も今と同じ形(家賃は営業費用)でそろえた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 12.4→17.12 倍・やや楽観 PER 10.9→15.73 倍・中立 PER 10→13.65 倍)。
資本コスト 7.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。