結論
東洋紡は、フィルム・ライフサイエンス・環境材料・繊維と商事を抱える 140 年超の老舗素材メーカーだ。いまの稼ぎの大半は工業用フィルムが握る。筆者の結論は、10 年で見て今の値段はやや割高、である。
工業用フィルムの強さは本物だ。液晶の偏光板を守る特殊フィルムは世界シェアが約 6 割、積層セラミックコンデンサ(MLCC)の製造に使う離型フィルムも約 25% を持つ。AI サーバー向けの需要がこれを押し上げ、2026 年 3 月期のフィルム営業利益は前の期の 2 倍超に伸びた。
弱みは三つある。一つは借金だ。純有利子負債は 2,200 億円超で、営業利益の 8 倍ほどになる。借り換えで金利が上がれば、利益の一部がそのまま利払いに消える。二つは利益の質だ。過去 10 年で赤字の期が 3 回あり、ROE の中央値は 3.8% にとどまる。三つは計画の達成率で、前の中期計画は営業利益 350 億円の目標に対し大きく届かなかった。
中立の筋書きでは、10 年後の営業利益は約 490 億円、ROE は 7% 台まで戻る。それでも資本コスト 8.25% には届かない。フィルムの伸びと不振事業の立て直しが想定どおり進めば強気の見方が通るが、液晶・MLCC のどちらかで競争が激しくなれば借金の重さが一気に効く。確率で重みづけた本質価値は今の時価総額(約 1,450 億円)を下回り、「やや割高」と見る。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、東洋紡は「良い芯と重い荷物を一緒に抱えた会社」に見える。芯は偏光子保護フィルムと MLCC 離型フィルムだ。これだけなら、資本をあまり食わずに安定して稼ぐ事業になりうる。
荷物は、借金と、利益を生まない事業の数々だ。純有利子負債は営業利益の 8 倍近くあり、毎年の利益から利息を払った残りが株主のものになる。10 年先の金利は今より高いと置くので、この荷物は軽くならない。
筆者がいちばん気にするのは、経営の資本配分の実績だ。大型投資が営業利益に結びつくまでに時間がかかり、前の計画では財務が悪化した。今回は投資を絞ると言う。言葉どおりなら評価は上がる。ただ、まだ 1 期分の実績しかない。
安全域の目で見ると、中立の筋書きでも ROE が資本コストを下回る。悲観の筋書きでは、借金があるぶん株主の取り分が先に削られる。逆に、強気の筋書きが実現したとき、株主のものになる利益は大きく増える。この非対称さを織り込んでも、今の値段には余裕がない。
何で稼ぐ会社か
売上の 4 割強を占めるフィルムが稼ぎ頭だ。工業用では、液晶偏光子保護フィルム(偏光板を湿気や傷から守る特殊なフィルム)と、MLCC を焼成する前のシートを剥がす離型フィルムが二枚看板になる。どちらも顧客の工場で品質認定を受ける製品で、一度採用されると切り替えにくい。包装用フィルム(食品の袋など)は汎用品に近く、荷動きは鈍い。
ライフサイエンスは、診断薬の原料酵素と、人工腎臓(透析器)に使う中空糸膜が中心だ。秋田県大館ではニプロと透析器の一貫生産工場を共同で整えた。2026 年 3 月期は新工場の立ち上げ費用がかさみ、利益はほぼゼロまで落ちた。医薬品の製造受託も抱えるが、こちらは立て直しの途中にある。
環境・機能材には、子会社の東洋紡エムシーが手がける樹脂・接着剤・電子材料、不織布、VOC(揮発性有機化合物)回収装置が入る。不織布は国内の生産体制を組み替えて収益が上向いた。VOC 回収装置は EV の減速を受けて弱い。
機能繊維・商事は、エアバッグ用基布、衣料繊維、繊維商社機能が中身だ。中国・米国・タイの拠点をタイに集約してコストを下げたが、利益率は 1% 台と薄い。会社はこの事業と包装フィルム、不織布、衣料繊維、医薬受託を「要改善」と位置づけ、整理や改善を進めている。
優良さと弱いところ
筆者が評価するのは、フィルムの二つの製品に限られる。他社がまねしにくい強みが明確だからだ。偏光子保護フィルムは世界シェアが約 6 割で、顧客が品質を認定する必要があり、置き換えが難しい。MLCC 離型フィルムは東レや韓国勢と競るが、薄く均一な塗工の技術で一目置かれている。
それ以外の事業は、堀が深いとは言いにくい。包装フィルムは汎用品で値段を市場に決められる。エアバッグ用基布や衣料繊維は、顧客や需要の縮小に利益が左右される。ライフサイエンスは酵素と中空糸膜という良い芯を持つが、新工場の償却が当面は重い。
資本の使い方には反省が要る。前の中期計画(2022〜2025 年度)では、フィルムなどに大型投資をして営業利益 350 億円を狙ったが、実際は 2026 年 3 月期でも 279 億円にとどまり、純有利子負債は増えた。新しい計画は設備投資を年 350 億円に抑え、営業キャッシュフローで借金を減らすと言う。方針は正しい。あとは実行の証拠が要る。
稼ぐ力の弱さは数字にも出る。営業利益率の過去 10 年の最高は 7.9% で、10 年の ROE の中央値は 3.8% だ。直近の 6.6% は、高機能フィルムの好況に助けられた高めの水準と筆者は見る。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
東洋紡の稼ぎは、化学素材の中でも「差別化できる領域」にある。汎用の化学品は中国の増設で過剰供給が続くが、液晶向けと半導体向けの高機能フィルムは、品質認定が壁になって中国勢の追い上げに時間がかかる。
液晶向けは、パネルの大型化で面積が増える一方、台数は成熟している。有機 EL への置き換えが進む領域もあり、長い目では伸びが鈍る。東洋紡の偏光子保護フィルムは現在フル稼働で、2026 年 3 月期の第 4 四半期にライン改造をして、最大 3 割の増産に動いた。需要がある間は利益が付いてくる。
MLCC は、AI サーバーの普及で数量が増える。AI サーバー 1 台が使う MLCC は一般サーバーの 10 倍以上とされる。離型フィルムも同じ速さで増えるが、東レが岐阜工場で能力を 1.6 倍にするなど、競合も増産している。需給が緩めば、値段で競争になる。
繊維・包装フィルム・不織布は、中国と東南アジアの安い製品との競争が長く続く。ここは「稼ぐ」のでなく「傷を浅くする」領域だ。中東情勢によるナフサ高は、2027 年 3 月期の会社予想(営業利益 230 億円、前期より 17% 減)にも織り込まれている。
日本の石化・総合化学の業界では、事業の統合と整理が 10 年単位で進む。東洋紡も、不振事業の売却や統合の候補になりうる位置にいる。
資本政策と M&A
資本政策の中心は借金の返済だ。新しい中期計画(2027 年 3 月期〜2031 年 3 月期)は、営業キャッシュフローを年平均 467 億円に引き上げ、設備投資を 350 億円まで抑え、総還元性向 30% を目安にする。配当は年 35 億円ほどの水準を保つ。自社株買いの実績は薄い。
大株主は信託銀行(信託口)と従業員持株会で、オーナーも親会社もいない。外国人保有は 16% ほどで、浮動株が多い。政策保有株と不動産の含み益は確認できていないため、本稿では価値に加算しない。
買収する側としての動きは少なく、むしろ事業の整理が焦点だ。包装フィルム、不織布、医薬受託、エアバッグ用基布のどれかを手放す可能性はある。逆に、買われる側になる可能性も否定できない。時価総額が小さく、フィルム部門だけを切り出す価値が大きいからだ。外部の推計では、10 年以内の TOB(株式公開買い付け)や買収の確率は 2 割ほどとされる。ただし、借金が重く、買い手が背負う負担も大きい。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
高機能フィルムの勢いは、まだ序盤だ。液晶偏光子保護フィルムは 3 割の増産に入り、世界シェア 6 割という立場から値崩れしにくい。MLCC は AI サーバー 1 台に必要な個数が一般サーバーの 10 倍超で、離型フィルムの需要は構造的に増える。
要改善とされた事業の黒字化は、会社の目標を上回って進んだ。エアバッグ用基布はタイへの集約で、不織布は国内の再編で、それぞれ採算が上向いた。ここからライフサイエンスが投資の効果を出し始めれば、営業利益は 2031 年 3 月期に 450 億円という会社目標を超えうる。
設備投資は山を越えた。営業キャッシュフローは今の 2 倍近くに増え、借金は確実に減る。借金が減れば利払いが減り、純利益は営業利益より速く伸びる。株主のものになる利益は、今の数倍になりうる。
東洋紡は時価総額が小さく、フィルム部門だけで会社全体の価値を説明できる点も見逃せない。事業の整理や統合が進めば、市場の見方が一気に変わる余地がある。
慎重な見方
好調の中身をよく見る必要がある。2026 年 3 月期の営業利益の 6 割はフィルム 1 事業が稼いだ。需要が山にある時の数字を、そのまま先に延ばせない。偏光子保護フィルムは液晶という成熟市場に依存し、有機 EL への移行で縮む用途もある。MLCC 離型フィルムは東レなどが増産中で、需給が緩めば値段で競争になる。
前の中期計画は、営業利益 350 億円の目標に対して大きく届かなかった。今回の 450 億円も、同じ失敗を繰り返さないという保証はない。ライフサイエンスは利益が 20 億円から 1 億円へ落ち、新工場が稼ぐ時期もまだ不明だ。
最大の弱点は借金だ。純有利子負債は営業利益の 8 倍近くあり、借り換えで金利が上がると利益が薄くなる。景気が悪くなり、フィルムの利益が減れば、ほとんど利益が残らない。過去 10 年で赤字の期が 3 回あったのは、まさにその構図だった。
さらに、新しい計画が頼る前提はいくつも重なっている。ライフサイエンスの回復、新設備の稼働、不振 5 事業の黒字化が同時に起きなければ、目標には届かない。
どちらに重みを置いたか
強気の見方は、フィルム事業の力を正しく捉えている。ただし、強気の筋書きでも、それが実現する確率はそう高くない。慎重な見方は、借金の重さと経営の実行力の実績を突いており、こちらの根拠のほうが具体的だ。
中立の確率は 34% で、強気側(楽観・やや楽観)の 30% より、慎重側(やや悲観・悲観)の 36% を重くした。ただし資本コストの借金の項ですでに借金の重さは数えているため、悲観を厚くした理由は、前の計画の未達という経営の実行面に絞った。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 3,056 円2,698 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 549 円484 億円)。 今の値に割り戻すと 1,752 円1,547 億円、今との差 +12.8%、 期待の年率 +8.8%(資本コスト 8.3%)→ やや割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 9% | 6,860 円6,056 億円 | 1,110 円980 億円 | +412.9% | +17.8% | 717 円633 億円 |
| やや楽観 | 21% | 4,955 円4,374 億円 | 816 円720 億円 | +271.3% | +14.0% | 1,212 円1,070 億円 |
| 中立 | 34% | 3,264 円2,882 億円 | 589 円520 億円 | +148.0% | +9.5% | 1,310 円1,157 億円 |
| やや悲観 | 23% | 967 円854 億円 | 272 円240 億円 | −20.3% | −2.2% | 285 円252 億円 |
| 悲観 | 13% | 507 円448 億円 | 113 円100 億円 | −60.1% | −8.8% | 81 円71 億円 |
| 加重平均 | 100% | 3,056 円2,698 億円 | 549 円484 億円 | +132.0% | +8.8% | 3,605 円3,182 億円 |
今の株価時価総額 1,554 円1,372 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.3% を下回るほど割高。
楽観 9% 楽観:高機能フィルムが伸び続け、要改善事業も整理が済む 利益 430 億円 · PER 13.8 倍 · 株価時価総額 6,860 円6,056 億円
偏光子保護フィルムは増産分も売り切り、MLCC 離型フィルムは AI サーバー向けで伸びて、フィルムの利益は 400 億円近くまで届く。ライフサイエンスは新工場が採算に乗り、透析膜と診断酵素で 120 億円を超える利益を出す。環境・機能材は電子材料が牽引する。要改善の事業は整理が進み、赤字をほぼ出さなくなる。営業キャッシュフローで借金は半分以下に減り、利払いも軽くなる。会社の 2031 年 3 月期目標(営業利益 450 億円)を 10 年のうちに大きく超える。稼いだ利益の 35% 程度を配当と自社株買いで戻す。
- フィルム(工業用・包装用):数量 46.0(販売量(万トン、推定))× 価格 72(1 トンあたり平均単価(万円、名目・製品構成込み))→ 売上 3,333 億円・営業利益 383 億円。益率 11.5%
- ライフサイエンス(診断酵素・人工腎臓用中空糸膜・医薬受託):数量 5.2(東洋紡が取る市場規模(百億円、実質=2026 年の値段。対象市場約 6,900 億円×シェア約 5% と推定))× 価格 140(価格指数(2026 年 = 100、名目))→ 売上 728 億円・営業利益 124 億円。益率 17%
- 環境・機能材(樹脂・不織布・電子材料・VOC 装置):数量 14.0(販売量(万トン相当、装置は金額から換算した推定))× 価格 134(1 トンあたり平均単価(万円、名目))→ 売上 1,878 億円・営業利益 207 億円。益率 11%
- 機能繊維・商事(エアバッグ基布・衣料繊維・商社):数量 18.0(取扱量(万トン相当、推定))× 価格 60(1 トンあたり平均単価(万円、名目))→ 売上 1,081 億円・営業利益 43 億円。益率 4%
- 不動産・その他:数量 80.0(賃貸等の面積(万 m2、推定))× 価格 2.04(1 m2 あたり年収入(万円、名目))→ 売上 163 億円・営業利益 41 億円。益率 25%
倍率:事業の純利益 430 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.1% が k 8.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.7%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.8 倍。全体の PER 13.79 倍、時価総額 5,930 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:強気の根拠(世界シェア 6 割・MLCC の構造需要・不振事業の改善が目標超え)は具体的だが、前の中期計画が大きく未達だった実績があり、5% を大きく超える確率までは置かない。
やや楽観 21% やや楽観:フィルムは堅調、不振事業は黒字化が定着 利益 330 億円 · PER 13.0 倍 · 株価時価総額 4,955 円4,374 億円
偏光子保護フィルムの増産分が売れ、MLCC 離型フィルムも数量を増やして、フィルムは益率 10% を保つ。ライフサイエンスは回復して益率 13% 台に届く。環境・機能材は益率 10% に乗る。繊維・商事は縮小を続けながら黒字を守る。営業利益は 600 億円台に達し、会社の 2031 年 3 月期目標に近いか少し上を行く。借金は 3 割ほど減り、純利益は 330 億円まで伸びる。利益の 36% 程度を配当と自社株買いで戻す。一方で、フィルムの伸びは楽観ほど続かず、競合の増産で値段の伸びも物価並みにとどまる。会社が描く構造改革の多くは進むが、繊維は縮み続け、全社の益率は 1 桁後半の水準に落ち着く。
- フィルム(工業用・包装用):数量 43.0(販売量(万トン、推定))× 価格 71(1 トンあたり平均単価(万円、名目・製品構成込み))→ 売上 3,058 億円・営業利益 306 億円。益率 10%
- ライフサイエンス(診断酵素・人工腎臓用中空糸膜・医薬受託):数量 4.8(東洋紡が取る市場規模(百億円、実質=2026 年の値段。対象市場約 6,900 億円×シェア約 5% と推定))× 価格 135(価格指数(2026 年 = 100、名目))→ 売上 648 億円・営業利益 87 億円。益率 13.5%
- 環境・機能材(樹脂・不織布・電子材料・VOC 装置):数量 13.2(販売量(万トン相当、装置は金額から換算した推定))× 価格 134(1 トンあたり平均単価(万円、名目))→ 売上 1,770 億円・営業利益 177 億円。益率 10%
- 機能繊維・商事(エアバッグ基布・衣料繊維・商社):数量 18.5(取扱量(万トン相当、推定))× 価格 60(1 トンあたり平均単価(万円、名目))→ 売上 1,111 億円・営業利益 33 億円。益率 3%
- 不動産・その他:数量 80.0(賃貸等の面積(万 m2、推定))× 価格 2.04(1 m2 あたり年収入(万円、名目))→ 売上 163 億円・営業利益 41 億円。益率 25%
倍率:事業の純利益 330 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.7% が k 8.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.0%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.0 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.0 倍。全体の PER 13.02 倍、時価総額 4,297 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:要改善事業の改善が目標を上回って進み、新しい計画が投資を絞って返済に回す方針のため、上振れ側にも厚めに置く。ただし液晶・MLCC の需給は循環するので、楽観ほどは置かない。
中立 34% 中立:フィルムが主力として定着し、周辺は低成長のまま 利益 230 億円 · PER 12.1 倍 · 株価時価総額 3,264 円2,882 億円
偏光子保護フィルムと MLCC 離型フィルムは伸び続けるが、競合の増産で値段の伸びは物価をわずかに上回る程度にとどまる。フィルムの益率は 9% で、会社の 2031 年 3 月期目標(9.1%)と同じ水準になる。ライフサイエンスは回復して益率 10% になるが、会社目標(18%)には届かない。環境・機能材は益率 9% を維持する。繊維・商事は数量が縮み続け、益率 2.5% の低収益のままになる。借金は 2,000 億円を切る程度までしか減らず、利払いが利益を削り続ける。10 年後の営業利益は約 490 億円、ROE は 7% 台で、資本コストに届かない。
- フィルム(工業用・包装用):数量 41.0(販売量(万トン、推定))× 価格 70(1 トンあたり平均単価(万円、名目・製品構成込み))→ 売上 2,860 億円・営業利益 257 億円。益率 9%
- ライフサイエンス(診断酵素・人工腎臓用中空糸膜・医薬受託):数量 4.4(東洋紡が取る市場規模(百億円、実質=2026 年の値段。対象市場約 6,900 億円×シェア約 5% と推定))× 価格 130(価格指数(2026 年 = 100、名目))→ 売上 572 億円・営業利益 57 億円。益率 10%
- 環境・機能材(樹脂・不織布・電子材料・VOC 装置):数量 12.4(販売量(万トン相当、装置は金額から換算した推定))× 価格 134(1 トンあたり平均単価(万円、名目))→ 売上 1,663 億円・営業利益 150 億円。益率 9%
- 機能繊維・商事(エアバッグ基布・衣料繊維・商社):数量 17.0(取扱量(万トン相当、推定))× 価格 60(1 トンあたり平均単価(万円、名目))→ 売上 1,021 億円・営業利益 26 億円。益率 2.5%
- 不動産・その他:数量 80.0(賃貸等の面積(万 m2、推定))× 価格 2.04(1 m2 あたり年収入(万円、名目))→ 売上 163 億円・営業利益 41 億円。益率 25%
倍率:事業の純利益 230 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.4% が k 8.25% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.1 倍。全体の PER 12.12 倍、時価総額 2,788 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:強気の根拠と慎重な根拠が拮抗する中心の筋書き。フィルムの伸びと不振事業の改善は、おおむね会社計画の 8 割程度の達成と置いた。
やや悲観 23% やや悲観:高機能フィルムの値段が崩れ、借金が足かせになる 利益 90 億円 · PER 7.5 倍 · 株価時価総額 967 円854 億円
液晶向けは有機 EL への移行と中国勢の追い上げで、偏光子保護フィルムの数量が増えず、値段も下がる。MLCC 離型フィルムは東レや韓国勢の増産で需給が緩み、値下がりが続く。フィルムの益率は 6.5% まで下がる。ライフサイエンスは新工場が稼がず益率 4%。繊維・商事は薄い黒字にとどまる。営業利益は 260 億円と今より少ない。借金は減らず、利払いが重くのしかかる。純利益は 90 億円にとどまり、資本コストを大きく下回る。配当は維持するが、自社株買いは見送る。会社が掲げる総還元性向 30% の目安は守れず、返済を優先する。包装フィルムなどの整理は遅れて減損が出て、自己資本は伸びない。大きな買い手が現れる可能性はあるが、借金が重いため割安な価格で決まる。
- フィルム(工業用・包装用):数量 36.0(販売量(万トン、推定))× 価格 64(1 トンあたり平均単価(万円、名目・製品構成込み))→ 売上 2,294 億円・営業利益 149 億円。益率 6.5%
- ライフサイエンス(診断酵素・人工腎臓用中空糸膜・医薬受託):数量 3.6(東洋紡が取る市場規模(百億円、実質=2026 年の値段。対象市場約 6,900 億円×シェア約 5% と推定))× 価格 120(価格指数(2026 年 = 100、名目))→ 売上 432 億円・営業利益 17 億円。益率 4%
- 環境・機能材(樹脂・不織布・電子材料・VOC 装置):数量 11.5(販売量(万トン相当、装置は金額から換算した推定))× 価格 130(1 トンあたり平均単価(万円、名目))→ 売上 1,496 億円・営業利益 97 億円。益率 6.5%
- 機能繊維・商事(エアバッグ基布・衣料繊維・商社):数量 15.5(取扱量(万トン相当、推定))× 価格 58(1 トンあたり平均単価(万円、名目))→ 売上 903 億円・営業利益 9 億円。益率 1%
- 不動産・その他:数量 80.0(賃貸等の面積(万 m2、推定))× 価格 2.04(1 m2 あたり年収入(万円、名目))→ 売上 163 億円・営業利益 33 億円。益率 20%
倍率:ROE 3.3%(k を大きく下回る)。RONIC = 9.0% + 1/2 ×(3.3 − 9.0)= 6.2%、g 3.0% から正当化 PER = 8.5 倍が上限。利益が細ったまま借金を抱えるので、上限の 9 割弱の 7.5 倍に置いた。稼ぐ力(純利益 ÷ k)は約 1,000 億円で、置いた値はそれを下回る。
確率:前の計画の未達と、フィルムが 1 事業に偏る構造から、慎重側にやや厚く置いた。液晶・MLCC の需給は循環するので、緩む局面が 10 年の間に来る確率は高い。
悲観 13% 悲観:高機能フィルムの優位が崩れ、減損と借金の重さで株主の取り分が細る 利益 −200 億円 · PBR 0.2 倍 · 株価時価総額 507 円448 億円
液晶向けの需要が有機 EL へ移り、偏光子保護フィルムは数量が 2 割減る。MLCC 離型フィルムも競合の増産で値崩れし、フィルム全体の益率は 3% まで落ちる。ライフサイエンスは赤字が続き、繊維・商事も赤字になる。新設備の減損と事業整理の費用がかさみ、純利益は赤字になる。配当は大きく減り、資産売却と借金の返済に追われる。事業は残るが、優良な素材メーカーという評価は外れる。それでも工場・不動産・投資有価証券は売れるため、清算に近い局面でも株主の取り分が完全には消えない。TOB が出るとしても、借金を背負う買い手の側が値段を低く抑える。
- フィルム(工業用・包装用):数量 30.0(販売量(万トン、推定))× 価格 60(1 トンあたり平均単価(万円、名目・製品構成込み))→ 売上 1,802 億円・営業利益 54 億円。益率 3%
- ライフサイエンス(診断酵素・人工腎臓用中空糸膜・医薬受託):数量 3.0(東洋紡が取る市場規模(百億円、実質=2026 年の値段。対象市場約 6,900 億円×シェア約 5% と推定))× 価格 105(価格指数(2026 年 = 100、名目))→ 売上 315 億円・営業利益 −6 億円。赤字
- 環境・機能材(樹脂・不織布・電子材料・VOC 装置):数量 10.5(販売量(万トン相当、装置は金額から換算した推定))× 価格 120(1 トンあたり平均単価(万円、名目))→ 売上 1,261 億円・営業利益 38 億円。益率 3%
- 機能繊維・商事(エアバッグ基布・衣料繊維・商社):数量 12.0(取扱量(万トン相当、推定))× 価格 52(1 トンあたり平均単価(万円、名目))→ 売上 618 億円・営業利益 −6 億円。赤字
- 不動産・その他:数量 70.0(賃貸等の面積(万 m2、推定))× 価格 1.83(1 m2 あたり年収入(万円、名目))→ 売上 128 億円・営業利益 32 億円。益率 25%
倍率:赤字になり稼ぐ力では値が付かない。売れる資産の税後と純有利子負債の差し引き後を、今の自己資本 2,133 億円の約 2 割と置いた。純有利子負債 2,243 億円(今の値)を足した EV ÷ 営業利益は 30 倍超になり、赤字に近い営業利益では利益の倍率は意味を持たないため、売れる資産の価値から置いた。
確率:偏光子保護フィルムと MLCC 離型フィルムが同時に値崩れする確率は低いが、前の計画の未達と財務の脆さがあり、10% を超える確率を置く。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
フィルム(工業用・包装用)
液晶偏光子保護フィルムと MLCC 用離型フィルムを中心とする工業用フィルムと、食品包装などの包装用フィルム。
| 数量販売量(万トン、推定) | 価格1 トンあたり平均単価(万円、名目・製品構成込み) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 35.0 | 50 | 1,752 | 166 |
| 10 年後 中立 | 41.0 | 70 | 2,860 | 257 |
取り方:開示は売上と利益だけで、販売量は無い。工業用の高付加価値品(1 トン 100 万円級)と包装用(1 トン数十万円)の混合平均を 1 トン約 50 万円と置き、売上から約 35 万トンと逆算した。工業用が伸びると数量は小さく、平均単価は高くなる。
ライフサイエンス(診断酵素・人工腎臓用中空糸膜・医薬受託)
診断薬の原料酵素、透析器用の中空糸膜、医薬品の製造受託。
| 数量東洋紡が取る市場規模(百億円、実質=2026 年の値段。対象市場約 6,900 億円×シェア約 5% と推定) | 価格価格指数(2026 年 = 100、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 3.5 | 100 | 345 | 1 |
| 10 年後 中立 | 4.4 | 130 | 572 | 57 |
取り方:対象市場(診断酵素・人工腎臓用膜・医薬受託)の規模と東洋紡のシェアは開示が無く、売上 345 億円から市場約 6,900 億円×シェア約 5% と推定した。価格は 2026 年を 100 とする指数。
環境・機能材(樹脂・不織布・電子材料・VOC 装置)
東洋紡エムシーの樹脂・接着剤・電子材料、不織布マテリアル、VOC 回収装置。
| 数量販売量(万トン相当、装置は金額から換算した推定) | 価格1 トンあたり平均単価(万円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 11.0 | 100 | 1,101 | 97 |
| 10 年後 中立 | 12.4 | 134 | 1,663 | 150 |
取り方:樹脂・接着剤(1 トン数十万円)、電子材料・装置(1 トン数百万円以上)の混合平均を 1 トン約 100 万円と置き、売上から約 11 万トン相当と逆算した推定。
機能繊維・商事(エアバッグ基布・衣料繊維・商社)
エアバッグ用基布、衣料用繊維と、その商社機能(東洋紡 STC など)。
| 数量取扱量(万トン相当、推定) | 価格1 トンあたり平均単価(万円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 20.0 | 45 | 896 | 13 |
| 10 年後 中立 | 17.0 | 60 | 1,021 | 26 |
取り方:繊維製品と商社の取扱品を平均 1 トン約 45 万円と置き、売上から約 20 万トン相当と推定した。エアバッグ基布と衣料の縮小で数量は減る。
不動産・その他
保有地の賃貸、小規模のその他事業。
| 数量賃貸等の面積(万 m2、推定) | 価格1 m2 あたり年収入(万円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 80.0 | 1.53 | 122 | 32 |
| 10 年後 中立 | 80.0 | 2.04 | 163 | 41 |
取り方:不動産賃貸と小規模事業の合計 122 億円を、面積約 80 万 m2 とその他の収入の混合平均で置いた粗い推定。本業ではなく、利益への寄与は小さい。
リスクと懸念
借金の重さと金利の上昇
純有利子負債は営業利益の 8 倍ほどある。10 年国債が 3% の世界では借り換えのたびに利払いが増え、推定で 10 年後に年 56 億円ほど利益を削る。フィルムの利益が落ちれば、利払いを払った残りがほとんど無くなる。過去 10 年の赤字の期が 3 回あるのも、同じ構造が働いた。
フィルム 1 事業への偏り
2026 年 3 月期の営業利益の 6 割はフィルムが稼ぐ。偏光子保護フィルムは液晶の需要、MLCC 離型フィルムは電子部品の投資循環に左右される。どちらかが崩れると、全社の利益が一気に細る。
液晶から有機 EL への移行
偏光子保護フィルムは液晶向けの需要に依存する。有機 EL やマイクロ LED への置き換えが進む用途では、需要が減る。世界シェア 6 割という立場も、市場自体が縮めば守れない。
MLCC 離型フィルムの競争
東レは岐阜工場で能力を 1.6 倍にし、韓国の Cosmo AM&T も増産している。AI サーバー向けの需要が一服すれば、値段で競争になる。東洋紡は宇都宮で増設したが、需要の山を越えたあとの稼働率が課題になる。
中期計画の未達の繰り返し
前の中期計画は営業利益 350 億円を目標にしたが届かず、財務が悪化した。新しい計画は 2031 年 3 月期に営業利益 450 億円・ROE 8% 超を掲げるが、ライフサイエンスの回復と不振事業の改善に頼る部分が大きい。
ライフサイエンスの回復の遅れ
2026 年 3 月期の営業利益は 1 億円まで落ちた。新工場(秋田のニプロとの合弁含む)の償却と、診断薬・透析の需要の見立てが外れれば、会社が描く 90 億円(2031 年 3 月期)は遠くなる。
不振事業の整理の遅れ・減損
包装用フィルム、不織布、エアバッグ基布、衣料繊維、医薬受託は「要改善」とされる。改善が止まれば減損や撤退の費用が出る。整理に動くなら、一時の損失が出る。
今後の分かれ目
- 偏光子保護フィルムの増産分(最大 3 割)が、顧客の認定を経て予定どおり売れたら
- フィルムの益率が 10% 前後で安定する。楽観・やや楽観の確率を上げてよい。
- MLCC 離型フィルムの値段が、東レなどの増産で下がり始めたら
- フィルムの益率が 6〜7% に戻る。やや悲観・悲観の確率を上げる。
- ライフサイエンスの利益が 2028 年 3 月期までに 50 億円を超えたら
- 会社目標(2031 年 3 月期に 90 億円)が現実味を帯びる。やや楽観の確率を上げてよい。
- 純有利子負債が営業利益の 5 倍を下回り、返済が計画どおり進んだら
- 利払いの重さが和らぎ、純利益が営業利益よりも速く伸びる。ただし、新リース会計基準でリース負債が加わる点には注意が要る。
- 包装用フィルムや不織布などの事業を売却・統合すると発表したら
- 一時の損失は出るが、益率が改善し、中立の筋書きの上振れ要因になる。
- TOB や事業売却の打診が表に出たら
- 借金が重く買い手の負担も大きいので、価格は低めに出やすい。筋書きでは中立の確率を維持する。
見ておくもの
- フィルムの四半期の営業利益率(9% 台を保つか)
- 偏光子保護フィルムの増産ラインの稼働開始時期と顧客の認定
- ライフサイエンスの利益の回復(2027 年 3 月期下期)
- 純有利子負債と営業キャッシュフロー(年 467 億円の計画に対する実績)
- 要改善 5 事業の営業利益の合計
倍率と資本コストの決め方
フィルム(トン数×単価)・ライフサイエンス(市場×シェア×価格指数)・環境・機能材・繊維・商事(取扱量×単価)で積んだ。数量は実質、価格は物価 3% 込みの名目で、中立の価格は 10 年 1.34 倍が基本。資本コストは基本 7.5% に quality(循環 +0.5・値決め力 0・借金 +0.75・寿命 +0.25 で +1.5%)を足した 9.0%。倍率は利益ベースの正当化 PER を上限に、楽観 9 割・やや楽観 8.5 割・中立 9 割・やや悲観 9 割弱の割引(ROE が k を下回るため上限が低い)に置いた。今の株価・今の PER・過去の PBR の底は参照していない。悲観は赤字で、売れる資産の税後と借金の差し引き(概算)から置いた。数字の形は今と同じ(家賃を営業費用に入れた形)で揃え、新リース会計基準でリース負債が載る点だけ注記した。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 10.8→13.79 倍・やや楽観 PER 9.7→13.02 倍・中立 PER 9.2→12.12 倍)。
資本コスト 8.3% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。