結論
ダイトーケミックスは、顧客の注文に応じて化学品をつくる受託製造の会社だ。染料づくりから 80 年以上続き、今は半導体の露光に使うフォトレジスト用の感光材料、液晶や有機ELの表示材料、インスタント写真用の色材が主力である。売上の約 9 割がこの化成品事業で、残りは産業廃棄物を扱う環境関連事業だ。
結論から言う。筆者は、利益で測った本質価値は今の時価総額の約 6 割で、割高と見る。理由は二つある。受託製造は顧客が値段を握るので、営業利益率が 4〜5% と薄い。そして ROE が 5% 前後と、資本コスト 8.2% に届かない。事業は着実に伸びても、株主の取り分は増えにくい。
10 年中立では、電子材料の数量が 1.3 倍になり、売上は 313 億円まで増える。営業利益率は 7.8% で、過去 12 年の山(10.9%)より低い。会社は 2030 年度に売上 250 億円・経常利益 25 億円を掲げる。ただ、2026 年度(2027 年 3 月期)の目標の経常利益 13 億円も、会社予想は 11.5 億円で届かない見込みだ。
株主には、12.6% を持つ個人投資家がいる。この点が、今後の変化の種になり得る。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社を「質の良い地味な会社」と呼ぶのは難しい。
受託製造は、顧客に値段を決められる商売だ。10 年の営業利益率の中央値は 6〜7% で、ROE は 5% 前後。資本コストの 8.7% を超えた年は、過去 12 年で 4 回しかない。技術の幅と環境関連事業の安定は長所だが、堀と呼べるほどの強みは見当たらない。
財務は健全だ。純負債は 20 億円で自己資本比率は 57%。ただ、配当性向 30% の方針で、稼いだ利益の 7 割は社内に残る。その 7 割が資本コストを下回る稼ぎにしかならなければ、ためるほど株主の価値は薄まる。
本質価値は、10 年後の利益に妥当な倍率を掛けて決める。ROE が資本コスト以下なら、倍率の上限は 1÷k の 11.5 倍だ。安全域は、薄い利益率と顧客依存の分だけ小さい。筆者は、今の値段にその安全域は織り込まれていないと見る。
何で稼ぐ会社か
ダイトーケミックスは、1938 年に大東化学工業所として生まれた。染料の製造で磨いた有機合成の技術を、写真材料、電子材料、医薬中間体へ広げてきた会社だ。大阪を拠点に、静岡工場(1972 年)と福井工場(1998 年)を持つ。
事業は二つある。化成品事業は売上の 91% で、受託製造が中心だ。電子材料は先端フォトレジスト用の材料、i 線レジスト用の感光性材料、カラーフィルター用材料、有機EL材料。イメージング材料はインスタントカラー用の色材、フィルム用材料、インクジェット用色素。ほかに医薬中間体がある。実験室の検討から、工場で量産できる製法の確立までを引き受ける。
環境関連事業は売上の 9% だが、営業利益の 3 割を稼ぐ。子会社の日本エコロジーが産業廃棄物の処理と化学品のリサイクルを行う。
2026 年 3 月期の売上は 194.8 億円、営業利益は 8.7 億円。連結の従業員は約 330 人で、研究者が 100 人を超える。取引先の開示は少ない。2025 年に株式を 1 対 3 で分割し、株主優待も始めた。
優良さと弱いところ
強みは三つある。
一つ目は技術の幅だ。感光材料、有機EL材料、色材、医薬中間体と、有機合成で多様な物質をつくれる。二つ目は小回りだ。研究者が顧客の要望を直接聞き、実験室から量産までを一貫して引き受ける。三つ目は環境関連事業で、売上は 1 割弱でも利益率は約 15% あり、化成品の薄い利益を支える。
弱みも多い。利益率は化成品で 3〜4% と薄い。受託製造は顧客が値段を決め、原料や人件費が上がっても転嫁に時間がかかる。ROE は過去 10 年の中央値で 5.8%。赤字の期は 20 年弱で 6 回ある。顧客は半導体と表示材料の循環、インスタント写真の流行に左右される。
同じ領域の東洋合成工業が感光材の「自社製品」を持つのに対し、ダイトーは受託が中心で、製品の値付けに関与しにくい。経営は中期経営計画で自社製品(開発品 30 億円)を増やす方針だが、実績はこれからだ。堀は「普通」と筆者は考える。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
ダイトーの電子材料は、半導体のフォトレジストと表示材料の市場に連動する。フォトレジストの市場は、先端の EUV 世代や先進パッケージ向けが成長の中心で、名目で年 5〜11% 伸びるという調査がある。実質では年 3〜5% だ。半導体の投資は 2〜4 年の周期で山と谷を作り、AI 向けの需要があっても循環は消えない。
足元は回復途上にある。2026 年 3 月期は、半導体材料の需要拡大とインスタント写真向けの好調で増収増益になった。2027 年 3 月期の第 1 四半期は、売上が前年同期比 7% 増、営業利益が 23% 増となり、会社は通期の営業利益を 11.5 億円(32% 増)と見込む。
競争の形は、顧客の製品に対する「受託先の一つ」だ。同じ領域には東洋合成工業(フォトレジスト用の感光材)などがいる。中国の感光材料メーカーが育てば、原料や中間体の受託が価格で攻められる。液晶用のカラーフィルター材料は、液晶から有機ELへの移行で縮む。医薬中間体は在庫調整が続き、環境関連は産業廃棄物処理の規制と需要に支えられて安定している。
資本政策と M&A
還元の方針は、配当性向 30% を重要な指標とする。配当は 2026 年 3 月期が総額約 2.6 億円(性向 33%)、2027 年 3 月期は約 2.9 億円を予定する。自己株式は発行済みの約 4% を持つが、新たな取得の発表は確認できていない。
2025 年 11 月に株主優待を新設した。1,000 株以上を持つ株主に図書カードを贈る制度で、費用は年 1 億円に満たず、還元への影響は小さい。
設備投資は、3 年間で総額約 30 億円の計画だ。2023〜2024 年に大きく投じたあとで、年の償却費(約 14 億円)より少ない。大阪事業所は周辺環境の変化で規模を縮小してきた。2026 年 7 月に再編の検討を始めた。
株主は、個人投資家の平松裕将氏が 12.6% を持つ筆頭株主で、2023 年の 5% から買い増してきた。2025 年 11 月の報告で保有目的が変わっている。ほかに東京応化工業(4.7%)、三木産業、日本生命が各 4% 台にいる。PBR が 1 倍近くで事業が小さい会社は、買収や株主提案の対象になり得る。ただし、その可能性は本質価値の計算には入れていない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
半導体の微細化は止まらず、先端フォトレジスト用の感光材料の需要は 10 年伸び続ける。ダイトーケミックスは、その受託先として育ってきた。中期経営計画の設備投資 30 億円で能力を増強し、開発品を 30 億円まで育てる方針だ。2027 年 3 月期は、第 1 四半期の営業利益が 23% 増で、会社予想の 11.5 億円(32% 増)に向けて順調だ。
償却費は年 14 億円で、売上が伸びても増えない。2023〜2024 年に集中した設備投資で、能力はすでに先回りして用意してある。売上が 6 割増えれば、償却費の売上比が 7% から 4% に下がり、それだけで利益率が 3 ポイント近く上がる。
環境関連は利益率 15% の安定事業で、化学品リサイクルは新分野へ広がっている。大阪事業所の再編で研究開発が強化されれば、自社製品が増える。
12.6% を持つ個人株主が買い増しているのは、経営計画への支持の表れだ。PBR は 1 倍に近く、業績が戻れば再評価が進む。
慎重な見方
ROE は過去 10 年の中央値で 5.8%、資本コストの 8.7% を下回る。配当性向 30% の方針で、稼ぎの 7 割を社内に残しても、それが資本コスト以下にしか回らない。ためるほど価値が薄まる構造だ。
受託製造は顧客が値段を握り、2024 年 3 月期には赤字になった。営業利益率は 4〜5% と薄く、原料と人件費の上昇を転嫁しきれない。2026 年度(2027 年 3 月期)の経営目標は経常利益 13 億円だが、会社予想は 11.5 億円にとどまる。2030 年度に経常利益 25 億円という計画を、そのまま信じる根拠が乏しい。
設備投資は 3 年で 30 億円と償却費より少ない。更新の投資は建築費の上昇で膨らむ。大阪事業所は縮小を続け、再編の費用も出る。
顧客は半導体、表示材料、インスタント写真と、流行や循環に左右される。中国の感光材料メーカーが育てば、受託の価格を崩される。個人投資家が 12.6% を持つのは、株価を押し上げる一方、保有目的が変わった今、売り圧力にもなり得る。
どちらに重みを置いたか
回復の方向は強気の見方が正しい。ただ、戻った先の利益率は 8% 前後で、ROE は 7% 台にとどまる。資本コストを下回る限り、倍率は 1÷k の 11.5 倍が天井になる。慎重な見方の「利益率と ROE が低い」という指摘のほうが、評価を決める力が強い。確率は中立を 36% と厚くし、悲観側の合計を楽観側より 4 ポイント多い 34% に置いた。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 637 円205 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 127 円41 億円)。 今の値に割り戻すと 375 円121 億円、今との差 −22.3%、 期待の年率 +4.7%(資本コスト 8.2%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 1,317 円424 億円 | 211 円68 億円 | +216.4% | +12.2% | 122 円39 億円 |
| やや楽観 | 22% | 945 円304 億円 | 173 円56 億円 | +131.3% | +8.7% | 246 円79 億円 |
| 中立 | 36% | 697 円225 億円 | 140 円45 億円 | +73.4% | +5.7% | 301 円97 億円 |
| やや悲観 | 22% | 254 円82 億円 | 90 円29 億円 | −28.7% | −3.3% | 76 円24 億円 |
| 悲観 | 12% | 140 円45 億円 | 19 円6 億円 | −67.2% | −10.6% | 19 円6 億円 |
| 加重平均 | 100% | 637 円205 億円 | 127 円41 億円 | +58.2% | +4.7% | 764 円246 億円 |
今の株価時価総額 483 円156 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.2% を下回るほど割高。
楽観 8% 楽観:先端品の受託が伸び、利益率が山に並ぶ 利益 31 億円 · PER 13.6 倍 · 株価時価総額 1,317 円424 億円
半導体の微細化が進み、先端フォトレジスト用の感光材料の需要が 10 年で大きく伸びる。ダイトーケミックスは能力増強と開発品(中期経営計画で 30 億円を目標)を受託の拡大につなげ、電子材料の数量は今の 1.7 倍になる。有機EL材料も加わる。受託の価格は物価並みに上がり、償却費が据え置きのまま売上が増えるため、電子材料の利益率は 11% に上がる。
イメージング材料は、インスタント写真向けが堅調を保ち、数量が 1.15 倍になる。環境関連は化学品リサイクルが新分野を取り込んで伸びる。
売上は約 395 億円、営業利益は約 42 億円(利益率 10.6%)。会社が掲げる「2030 年度に売上 250 億円・経常利益 25 億円」を、6 年遅れで上回る姿だ。利益率は過去 12 年の山(10.9%)に並ぶ。
- 電子材料(先端フォトレジスト用材料・i線感光性材料・カラーフィルター用材料・有機EL材料の受託製造):数量 211(対象市場の実質規模(億円)× シェア)× 価格 134(値段の指数(今 100。名目))→ 売上 283 億円・営業利益 31 億円。数量 1.7 倍・単価 1.34 倍、利益率 11%
- イメージング材料・医薬中間体・その他化成品:数量 61.4(対象市場の実質規模(億円)× シェア)× 価格 134(値段の指数(今 100。名目))→ 売上 82 億円・営業利益 6 億円。数量 1.15 倍、利益率 7%
- 環境関連事業(日本エコロジー:産業廃棄物処理・化学品リサイクル):数量 50.1(処理・再生量(千トン、推定))× 価格 0.60(1 千トンあたりの売上(億円。名目))→ 売上 30 億円・営業利益 5 億円。処理量 1.3 倍、利益率 16%
倍率:事業の純利益 31 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.4% が k 8.20% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.3%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.5 倍。全体の PER 13.55 倍、時価総額 424 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:先端品の受託拡大と開発品の成功がそろう上振れ。2026 年度の経営目標(経常利益 13 億円)に会社予想が届かず、営業利益率 10% 超は実績が 2022 年 3 月期の一度だけなので 8% にとどめた。
やや楽観 22% やや楽観:半導体材料が回復し、利益率が 9% に乗る 利益 24 億円 · PER 12.6 倍 · 株価時価総額 945 円304 億円
電子材料は先端品が牽引し、数量は今の 1.5 倍になる。ただ、液晶向けのカラーフィルター材料は縮み、有機EL材料の立ち上がりも遅い。受託の価格は物価並みの 1.34 倍に近づく。電子材料の利益率は 9.5%、全社で 9.2% まで上がる。
イメージング材料は横ばいから微増。環境関連は処理量が 2 割増える。大阪事業所の再編が研究開発の強化に実り、新しい受託品が増える。
売上は約 351 億円、営業利益は約 32 億円。中期経営計画の「経常利益率 6% 以上」は常態化し、2030 年度の目標(10%)には届かない。
- 電子材料(先端フォトレジスト用材料・i線感光性材料・カラーフィルター用材料・有機EL材料の受託製造):数量 186(対象市場の実質規模(億円)× シェア)× 価格 134(値段の指数(今 100。名目))→ 売上 249 億円・営業利益 24 億円。数量 1.5 倍・単価 1.34 倍、利益率 9.5%
- イメージング材料・医薬中間体・その他化成品:数量 56.1(対象市場の実質規模(億円)× シェア)× 価格 132(値段の指数(今 100。名目))→ 売上 74 億円・営業利益 4 億円。数量 1.05 倍、利益率 6%
- 環境関連事業(日本エコロジー:産業廃棄物処理・化学品リサイクル):数量 46.2(処理・再生量(千トン、推定))× 価格 0.60(1 千トンあたりの売上(億円。名目))→ 売上 28 億円・営業利益 4 億円。処理量 1.2 倍、利益率 15%
倍率:事業の純利益 24 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.8% が k 8.20% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.5%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.6 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.6 倍。全体の PER 12.57 倍、時価総額 304 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:半導体材料の回復が続き、受託の単価が戻る筋書き。2027 年 3 月期の会社予想(営業利益 +32%)が土台にある。
中立 36% 中立:受託は物価並みに伸びるが、転嫁が遅れて利益率は 8% 利益 18 億円 · PER 12.2 倍 · 株価時価総額 697 円225 億円
電子材料の対象市場は実質で年 3% 弱伸び、ダイトーケミックスは先端フォトレジスト用の受託を取り込んで、数量は今の 1.33 倍になる。受託製造は原料と人件費の上昇を価格に転嫁するが、顧客との改定に時間がかかる。電子材料の単価は物価(1.34 倍)をやや下回る 1.32 倍にとどまる。
利益率は、償却費の据え置きが支える。いま年 14 億円の償却費は、2023〜2024 年に集中した投資の分が続き、新しい投資(年 10 億円ほど)が加わっても 10 年後に 14〜15 億円にとどまる。売上が 6 割増えるので、償却費の重さは売上の 7% から 4% に下がる。一方、原料・人件費・外注費は物価で 1.34 倍になる。電子材料の利益率は 8%、イメージングは 5%、環境は 14%。
売上は約 313 億円、営業利益は約 24 億円(利益率 7.8%)。会社の 2030 年度目標(売上 250 億円・経常利益 25 億円)は、売上は超えるが、利益は 1 割ほど届かない。
- 電子材料(先端フォトレジスト用材料・i線感光性材料・カラーフィルター用材料・有機EL材料の受託製造):数量 165(対象市場の実質規模(億円)× シェア)× 価格 132(値段の指数(今 100。名目))→ 売上 218 億円・営業利益 17 億円。数量 1.33 倍・単価 1.32 倍(転嫁がやや遅れる)、利益率 8%
- イメージング材料・医薬中間体・その他化成品:数量 53.4(対象市場の実質規模(億円)× シェア)× 価格 130(値段の指数(今 100。名目))→ 売上 69 億円・営業利益 4 億円。数量は横ばい・単価 1.30 倍、利益率 5%
- 環境関連事業(日本エコロジー:産業廃棄物処理・化学品リサイクル):数量 42.4(処理・再生量(千トン、推定))× 価格 0.60(1 千トンあたりの売上(億円。名目))→ 売上 26 億円・営業利益 4 億円。処理量 1.1 倍・単価 1.34 倍、利益率 14%
倍率:事業の純利益 18 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.2% が k 8.20% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.2 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.2 倍。全体の PER 12.2 倍、時価総額 224 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:先端品の受託の伸びと、顧客への価格転嫁の遅れがともにある、最も起きやすい姿。受託製造の薄い利益率(3〜5%)が長く続いてきた実績を重く見て中立を厚くした。
やや悲観 22% やや悲観:回復が遅れ、薄い利益率に逆戻り 利益 10 億円 · PER 8.5 倍 · 株価時価総額 254 円82 億円
AI 向け以外の半導体材料の回復が遅く、顧客のレジストメーカーが一部の工程を内製化する。電子材料の数量は今の 1.12 倍、単価は物価を大きく下回る 1.25 倍にとどまり、利益率は 5%。インスタント写真は流行が一巡して数量が 1 割落ちる。
大阪事業所の再編は費用がかさみ、静岡・福井工場も更新の投資が膨らむ。原料と人件費の上昇を価格に載せきれず、利益率は 2024 年 3 月期の赤字に近い水準に戻る年が混じる。
売上は約 256 億円、営業利益は約 13 億円(利益率 5.2%)。今の水準(4.5%)をやや上回る程度で、中期経営計画とは遠い。
- 電子材料(先端フォトレジスト用材料・i線感光性材料・カラーフィルター用材料・有機EL材料の受託製造):数量 139(対象市場の実質規模(億円)× シェア)× 価格 125(値段の指数(今 100。名目))→ 売上 174 億円・営業利益 9 億円。数量 1.12 倍・単価 1.25 倍、利益率 5%
- イメージング材料・医薬中間体・その他化成品:数量 48.1(対象市場の実質規模(億円)× シェア)× 価格 125(値段の指数(今 100。名目))→ 売上 60 億円・営業利益 2 億円。数量 0.9 倍、利益率 3%
- 環境関連事業(日本エコロジー:産業廃棄物処理・化学品リサイクル):数量 38.5(処理・再生量(千トン、推定))× 価格 0.59(1 千トンあたりの売上(億円。名目))→ 売上 23 億円・営業利益 3 億円。処理量は横ばい、利益率 13%
倍率:事業の ROE は約 4.3% と低い。利益が薄く、固定費の重さで下振れしやすいので、1÷k=11.5 倍の 74% の 8.5 倍に置いた。
確率:回復が遅く、転嫁も進まない筋書き。過去 12 年で営業利益率が 5% を割った年が 4 回ある。
悲観 12% 悲観:中国の追随と顧客離れで受託が構造的に縮む 利益 0 億円 · PBR 0.3 倍 · 株価時価総額 140 円45 億円
構造的に負ける筋書き。中国の感光材料メーカーが価格と品質でキャッチアップし、国内のレジストメーカーも中国メーカーの原料へ切り替える。主要顧客を失い、電子材料の数量は今の 0.9 倍、単価は 1.1 倍にとどまる。インスタント写真は市場が縮み、数量は 3 割落ちる。
受託製造の利益率は 0% 前後に落ち、固定費の重い大阪・静岡・福井の工場の減損が出る。物価で上がる人件費を価格に転嫁できない。環境関連だけが黒字を保つ。
売上は約 183 億円、営業利益はほぼゼロ。配当は性向 30% の方針のもとで大きく減る。価値は稼ぐ力ではなく、売掛金・在庫・土地や設備の売却額の税後で支えられる姿になる。
- 電子材料(先端フォトレジスト用材料・i線感光性材料・カラーフィルター用材料・有機EL材料の受託製造):数量 112(対象市場の実質規模(億円)× シェア)× 価格 110(値段の指数(今 100。名目))→ 売上 123 億円・営業利益 0 億円。数量 0.9 倍・単価 1.1 倍、利益率 0%
- イメージング材料・医薬中間体・その他化成品:数量 37.4(対象市場の実質規模(億円)× シェア)× 価格 110(値段の指数(今 100。名目))→ 売上 41 億円・営業利益 −1 億円。インスタント需要の縮小で 0.7 倍、利益率 −2%
- 環境関連事業(日本エコロジー:産業廃棄物処理・化学品リサイクル):数量 34.7(処理・再生量(千トン、推定))× 価格 0.54(1 千トンあたりの売上(億円。名目))→ 売上 19 億円・営業利益 2 億円。処理量 0.9 倍、利益率 10%
倍率:稼ぐ力はほぼゼロで、価値は売れる資産で測る。売掛金・在庫・工場の土地と設備の回収額から負債を引いた税後 約 45 億円(floor_assets_oku)。今の自己資本 164 億円に対する PBR にして 0.27 倍。EV(時価総額+純負債 20 億円)÷営業利益は利益がほぼゼロで意味を持たないが、床の資産が負債を上回る範囲で値を付けている。(2026-10-22 の式の直しで機械で置き直し、今は PBR 0.3 倍・時価総額 45 億円。上の倍率は置き直す前の値)
確率:中国の追随と顧客の切り替えで構造的に負ける筋書き。小型・受託中心で顧客が偏る会社なので、業界ノートの標準(12% 前後)をそのまま置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
電子材料(先端フォトレジスト用材料・i線感光性材料・カラーフィルター用材料・有機EL材料の受託製造)
半導体の露光工程で使うフォトレジスト用の感光材料(光酸発生剤など)や、液晶・有機ELの表示材料を、顧客の仕様で製造する。化成品の約 7 割を占める最大の柱。
| 数量対象市場の実質規模(億円)× シェア | 価格値段の指数(今 100。名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 124 | 100 | 124 | 4 |
| 10 年後 中立 | 165 | 132 | 218 | 17 |
取り方:事業区分別の数字は 2025/03 期まで公表(電子材料 112.7 億円)。2026/03 期は半導体材料の需要拡大で増収とされ、化成品 177.4 億円から他を引いた約 124 億円と推定。受託製造で数量も単価も開示がないため、半導体・ディスプレイ向けの感光材料や有機EL材料の受託製造の対象市場を 3,000 億円前後(実質・推定)と置き、シェア約 4.1% で 124 億円とした。営業利益は化成品の 6.05 億円(利益率 3.4%)を電子材料とイメージング等で按分した推定。
イメージング材料・医薬中間体・その他化成品
インスタント写真用の色材、フィルム用材料、記録材料、インクジェット用色素に加え、医薬中間体を受託製造する。染料づくりに始まる会社の原点の事業。
| 数量対象市場の実質規模(億円)× シェア | 価格値段の指数(今 100。名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 53.4 | 100 | 53 | 2 |
| 10 年後 中立 | 53.4 | 130 | 69 | 4 |
取り方:2025/03 期はイメージング材料 45.4 億円・医薬中間体 8.7 億円・その他 3.8 億円。2026/03 期はインスタント写真向けが好調で、医薬中間体は在庫調整で低調。化成品 177.4 億円から電子材料を引いた約 53.4 億円と推定。対象市場を 1,500 億円前後(実質・推定)、シェア約 3.6% と置いた。営業利益は化成品の按分による推定。
環境関連事業(日本エコロジー:産業廃棄物処理・化学品リサイクル)
子会社の日本エコロジーが産業廃棄物を処理し、化学品(溶剤など)を再生する。売上は 1 割弱だが、利益は 3 割を占める。
| 数量処理・再生量(千トン、推定) | 価格1 千トンあたりの売上(億円。名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 38.5 | 0.45 | 17 | 3 |
| 10 年後 中立 | 42.4 | 0.60 | 26 | 4 |
取り方:環境関連事業の売上は 17.34 億円(産業廃棄物処理と化学品リサイクル。後者は約 5.8 億円)、セグメント利益 2.58 億円。処理量は開示がなく、1 トンあたり約 4.5 万円の売上と仮定して 3.85 万トンに直した推定。
リスクと懸念
顧客の集中と受託の価格決定力の弱さ
受託製造は顧客が値段を決める。利益率は化成品で 3〜4% と薄く、原料・人件費の上昇を転嫁しきれない年がある。主要顧客を一つ失えば、売上と利益に直接響く。
半導体材料と表示材料の循環
電子材料は売上の約 6 割を占め、半導体の投資循環と液晶・有機ELの需要に連動する。カラーフィルター材料は液晶の縮小で細る。赤字の期は 17 年で 6 回ある。
中国の感光材料メーカーの追随
中国のフォトレジスト関連の材料メーカーが育てば、国内レジストメーカーが原料の調達先を切り替え、受託の数量と単価が下がる。東洋合成工業などとの競争も続く。
更新投資の膨らみ
3 年で 30 億円の設備投資は年の償却費(約 14 億円)より少ない。次の更新は建築費の上昇で膨らみ、償却は取得時の値段のままでも、現金は物価で細る。
大阪事業所の再編の費用
2026 年 7 月に再編の検討を始めた。縮小を続けてきた拠点で、研究開発の強化と生産の移管に費用がかかる。内容と時期は未定で、減損が出る可能性もある。
インスタント写真と医薬中間体の変動
インスタント写真向けの色材は流行に左右され、イメージング材料は 2025 年 3 月期に 47% 増えた反動がある。医薬中間体は在庫調整で低調が続く。
大株主の動き
個人投資家の平松裕将氏が 12.6% を持ち、買い増してきた。2025 年 11 月に保有目的を変更している。株主提案や売却が出れば、株価と経営に影響する。
今後の分かれ目
- 先端フォトレジスト用の感光材料で、新しい大型の受託が発表されたら
- 電子材料の数量が 1.5 倍を超える筋書きの確率を上げる。単価の転嫁が進むかは、利益率の動きで確かめる。
- 2027 年 3 月期の営業利益が会社予想の 11.5 億円に届かなかったら
- 中期計画の信頼が一段下がり、やや悲観の確率を上げる。
- 大阪事業所の再編で、減損や特別損失が発表されたら
- 自己資本が減り、悲観側の確率を上げる。研究開発の強化が自社製品の増加につながるなら中立のままにする。
- 個人投資家が株主提案や保有目的の変更を明らかにしたら
- 資本政策(自社株買い・配当)の変化を通じて ROE が上がる可能性がある。事業の価値は変わらないが、還元が増えるなら payout を見直す。
- 中国の感光材料メーカーが国内レジストメーカーの調達に入ったと報じられたら
- 悲観の確率を上げる。数量と単価の両方が下がり、受託の利益率が 5% 以下に落ちる姿を想定する。
- 借入を使った買収や、自己株式の取得が発表されたら
- ROE は上がるが、受託製造の薄い利益率と循環に借金が重なる。k の借金の評価を上げて見直す。
見ておくもの
- 四半期の営業利益率(今期の会社予想 5.6%)と、電子材料の受託の増減
- 半導体フォトレジストの市場(SEMI、レジストメーカーの業績)と、液晶・有機ELの需要
- 大阪事業所の再編の内容と、静岡・福井工場の更新投資の計画
- 平松裕将氏の保有比率と、保有目的の変更の内容
- 配当性向 30% の維持と、自己株式の取得や増配の発表
倍率と資本コストの決め方
倍率は今の株価(PER 約 21 倍・PBR 1.0 倍)から置いていない。事業の ROE は中立で 7% 台と資本コスト 8.2% を下回るので、正当化 PER の上限は 1÷k の 11.5 倍で、中立は 85% の 9.8 倍に置いた。楽観のみ ROE が k を超えて式から約 12.4 倍。中立の営業利益率 7.8% は過去 12 年の山 10.9% より低い。会社の 2030 年度目標(経常利益率 10%)は筋書きの根拠に使っていない。株主優待は年 1 億円未満で、還元への影響は 1 ポイント未満のため足していない。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 11.8→13.55 倍・やや楽観 PER 10.8→12.57 倍・中立 PER 9.8→12.2 倍)。
資本コスト 8.2% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5%+quality+1.2%=8.7%。同じ領域の東洋合成工業(8.3%)、KHネオケム(8.3%)より高く、有沢製作所(8.5%)に近い。小型の受託製造で薄い利益率が続いてきた点を値決めに入れた。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.70% → 8.20%。