結論
大日本塗料は、橋や鉄塔、プラントを錆から守る重防食塗料に強い、創立1929年の中堅塗料メーカーである。2026年3月期は売上937億円、営業利益38億円。売上は買収で3割伸びたが、営業利益は2割減った。
筆者の結論は、10年後の本質価値が今の時価総額469億円を14%ほど下回る「やや割高」である。理由は一つで、稼ぐ力が資本コストに届かない。自己資本は668億円あるが、自己資本利益率(ROE)は直近で2.5%にとどまる。中立の10年でも6.5%で、資本コストの7.75%を下回る。
この会社の利益は二本の柱に乗っている。国内の塗料と、営業利益の約半分を稼ぐ照明機器だ。後者の主力の蛍光灯は、水銀規制で2027年末に作れなくなる。その穴を紫外線ランプとLEDで埋め、さらに神東塗料とボンフロンの買収を利益に変えられるか。これが次の10年を決める。
良い点もある。財務は堅く、政策保有株を減らして還元に回す動きがある。ただし、それは利益が戻る前提の話だ。2026年3月期は配当が純利益とほぼ同額で、足元の利益に余裕はない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社は「悪くない事業を、資本効率の低い形で持っている」と映る。
事業の本質は、橋や鉄塔の寿命を延ばす塗料という、地味だが需要の絶えない仕事だ。10年後もこの需要は残る。堀は構造物用塗料の実績と品質への信頼にある。だが、その信頼を2度傷つけた経営の統治力に、筆者は慎重である。
株主の手元に残る利益は、2026年3月期で17億円しかない。減損と事業整理の特別損失が重なった年だ。通常の稼ぐ力は会社予想の34億円前後とみるが、それでも自己資本668億円に対して5%程度にすぎない。株主のお金は、利益を生みにくい株式や現金に寝ている。
資本配分の評価は割れる。神東塗料を16.5億円で取った判断は、再建が成れば割安だった。ただ、赤字企業を50.1%だけ持つ形は、少数株主の取り分を生む。政策保有株を減らす姿勢は正しい。しかし売却代金を、より高い稼ぎに回す具体策がまだ見えない。
安全域は財務の堅さと資産の厚みにある。悲観の筋書きでも、現金と株式の売却価値で自己資本の3割ほどは残る。それでも今の値段には、利益が戻る前提がすでに入っている。確信度は高くない。
何で稼ぐ会社か
事業は大きく四つに分かれる。
中心は国内塗料で、売上の約8割を占める。建築用の外壁・木部用塗料、自動車部品や建材向けの工業用塗料、橋梁・鉄塔・プラント向けの構造物用塗料がある。構造物用の重防食塗料は、会社が国内トップクラスと説明する看板分野だ。顧客は塗装業者、ゼネコン、官公庁、電力会社など。買い手は値段だけでなく、施工実績と品質への信頼で選ぶ。
2025年に二つの買収が加わった。3月に子会社にした神東塗料(売上約215億円)は、住友化学系の中堅塗料メーカーである。公開買付けと第三者割当で50.1%を握ったが上場は維持され、少数株主の取り分が残る。12月に完全子会社にしたボンフロン(旧AGCコーテック)は、ふっ素樹脂塗料の老舗だ。ふっ素塗料は超高耐久で、橋梁や大型建築の長持ち塗装に使われ、付加価値が高い。
二つ目は照明機器(売上約104億円、営業利益約19億円)。蛍光灯、LED、紫外線(UV)ランプを作る。蛍光灯は消えゆく市場だが、利益率は高く、会社の利益を支えてきた。UVランプは半導体や殺菌向けが伸びている。
三つ目の海外塗料(売上約86億円)は、東南アジアとメキシコで自動車部品向けを売る。中国の製造子会社は売却を決めた。四つ目の蛍光色材(約11億円)は蛍光顔料で、国内ではほぼ寡占である。
優良さと弱いところ
堀、つまり他社がまねしにくい強みは、構造物用塗料と蛍光色材に限られる。
橋や鉄塔の塗装は、いったん仕様に入ると十数年は塗り替えない。発注者は価格より実績と品質を見る。ところが、この信頼が2023年と2024年に揺らいだ。子会社の検査結果の改ざん、外注先への社内規定外の委託が続き、JISマークの表示が一時停止された。解除は2025年11月である。堀は傷のつきやすい資産だと、筆者は考える。
値決めの力は中程度だ。2024年度は価格是正が国内塗料の増益の約8割を占めた。しかし酸化チタンや溶剤の値上がりへの転嫁は、後手に回りがちである。
資本効率は低い。ROEの10年の中央値は8.1%だが、政策保有株の売却益や買収の負ののれん益が混じっている。それを除いた稼ぐ力は5%前後とみる。配当しか生まない株式と現金が、貸借対照表に厚く残るからだ。
財務は堅い。純有利子負債は36億円と小さく、自己資本比率は49%ある。2026年中計の営業利益目標は80億円から55億円へ下がった。計画を達成する力は、これから示す段階にある。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
国内の塗料市場は、数量が縮み、金額だけが値上げで保たれる成熟市場である。2025年の暦年で販売数量は144万トン(前年比2.1%減)、販売金額は7,418億円(1.6%増)。原材料高を値上げで転嫁した結果だ。人口減と住宅着工の弱さを考えると、数量は10年で横ばいから1割減とみるのが自然である。
用途で温度差がある。建築用と木工用は弱く、自動車用も国内生産は横ばいだ。一方、船舶・構造物用は2025年9月・10月の業況調査で前年を上回った。橋やトンネル、送電設備の老朽化が進み、塗り替えは続く。会社の看板分野はここだ。2027年3月期の第1四半期は、JIS表示の解除に加え、中東情勢を受けた在庫確保で構造物用が急増したと会社は説明している。
競争の形は、日本ペイントホールディングスと関西ペイントの大手二強に、中国塗料、エスケー化研、大日本塗料、神東塗料などの中堅が続く構図だ。大日本塗料の海外比率は売上の約1割で、会社は2割に上げる方針を掲げ、買収で取りに行くとしている。
業界の分かれ目は三つある。原材料(酸化チタン、樹脂、溶剤)の値動きに価格転嫁が追いつくか。環境規制で水性・高固形分塗料へ移る投資負担。そして再編だ。住友化学が神東塗料を手放したように、大手の子会社や中堅の売り物が今後も出てくる。
照明機器は別の世界である。蛍光灯は水俣条約を受け、会社の説明では2027年末で生産を終える。LEDは中国勢との価格競争が激しい。UVランプは半導体製造や殺菌で需要が伸びている。
資本政策と M&A
資本の使い方は、保守的な本体と、積極的な買収の二つの顔を持つ。
還元は配当が中心で、2022年3月期から2026年3月期まで自社株買いはゼロである。配当は株主資本配当率(DOE)3%の目標を前倒しで達成した。2026年3月期の配当総額は約17億円で、配当性向は約98%。2027年3月期も据え置く。会社はDOEを2029年度に5%以上へ上げる目標を掲げた。株主優待のQUOカードもある。費用は開示がなく、単元株主約1.7万名(株主総数43,401名の大半は100株未満で対象外)と優待の額から、年3億円ほどと推定する。費用は販管費に入って利益から引かれているが、株主の受け取りとして10年の還元に加えた。
政策保有株は純資産の10%未満へ縮める方針で、数年で20〜25億円を売る。2025年3月期の純利益94億円は、神東塗料の負ののれん益と株式の売却益が押し上げた。一回限りの利益である。
買収は2件ある。神東塗料は公開買付けと第三者割当で50.1%を約16.5億円で取得した。赤字が続いた再建案件で、2026年3月期も最終赤字だった。ボンフロンはAGCから全株を取得した(価格非公表)。大株主は信託銀行、保険会社、取引先の持株会などに分散し、支配株主はいない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
2026年3月期の営業利益38億円は谷である。国内塗料はJISマークの停止の影響と工業用の不振で沈んだ。これらは一過性で、2027年3月期は売上960億円、営業利益55億円と会社は見ている。第1四半期には、JIS解除と構造物用の急増で国内塗料が動き出した。
買収が利益に変わる局面でもある。神東塗料は再建で赤字を脱し、ボンフロンのふっ素塗料は付加価値が高い。ボンフロンは3か月分しか入っておらず、通年で効く分だけで売上は60億円ほど増える。国内トップクラスの重防食塗料を持つ会社が、ふっ素塗料の開発元を抱えた。橋やプラントの長期耐久塗装という、いちばん収益性の高い分野で選ばれる立場になる。
株主還元は変わる。DOEは3%から5%へ向かい、政策保有株の売却資金は配当や自社株買いに回りうる。配当しか生まない資産を動かせば、資本効率は大きく改善する。
照明は、蛍光灯が消えても、UVランプが半導体向けで伸びる。10年で営業利益120億円規模に届く道筋が、この会社にはある。
慎重な見方
利益の約半分を握る照明の主力、蛍光灯が2027年末で作れなくなる。LEDは中国勢との価格競争で、同じ利益率を保てない。UVランプは有望だが、まだ小さい。照明の営業利益19億円が、10年で細るのは避けにくい。
塗料は、数量が減る市場で値上げに頼っている。2025年の暦年で国内の販売数量は2.1%減った。原材料高の転嫁が遅れれば、利益は消える。国内塗料の営業利益率は2026年3月期で2%に届かなかった。
品質への信頼の傷は深い。2023年と2024年の不正は、いずれも検査と委託という基本の管理の穴だった。3度目があれば、官公庁と大手ゼネコンの信用を失い、構造物用という看板分野を失う。
買収は重荷になりうる。神東塗料は赤字が続いている。2026年3月期の最終損益は5.9億円の赤字だった。再建に失敗すれば減損になる。中計の営業利益目標は80億円から55億円へ下がった。計画を下げるたびに、次の計画の信用は薄れる。
最後に、資本効率の低さは構造的である。ROEが資本コストを下回り続ける会社は、利益が出ても株主の価値が増えない。配当が利益に並ぶ状態は続けられない。
どちらに重みを置いたか
強気の見方には裏づけがある。国内トップクラスの重防食塗料、買収の上積み、政策保有株の整理による還元の拡大だ。ただ、慎重な見方の指摘のほうが重い。蛍光灯の消失で利益の半分が細ること、中立でもROEが資本コストに届かないこと、品質不正を2度続けた統治の弱さである。確率は中立を36%と中心に置き、悲観側(やや悲観と悲観)に計38%、楽観側(楽観とやや楽観)に計26%を振った。結果は10年の価値が今の時価総額を14%ほど下回り、「やや割高」と出た。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 2,280 円652 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 843 円241 億円)。 今の値に割り戻すと 1,761 円503 億円、今との差 +8.7%、 期待の年率 +6.8%(資本コスト 7.0%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 7% | 4,778 円1,366 億円 | 1,329 円380 億円 | +277.0% | +14.2% | 427 円122 億円 |
| やや楽観 | 19% | 3,462 円990 億円 | 1,102 円315 億円 | +181.7% | +10.9% | 867 円248 億円 |
| 中立 | 36% | 2,699 円772 億円 | 944 円270 億円 | +124.9% | +8.4% | 1,312 円375 億円 |
| やや悲観 | 26% | 882 円252 億円 | 637 円182 億円 | −6.3% | −0.6% | 395 円113 億円 |
| 悲観 | 12% | 724 円207 億円 | 297 円85 億円 | −36.9% | −4.5% | 123 円35 億円 |
| 加重平均 | 100% | 2,280 円652 億円 | 843 円241 億円 | +92.8% | +6.8% | 3,124 円893 億円 |
今の株価時価総額 1,620 円463 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.0% を下回るほど割高。
楽観 7% 構造物用の更新需要とふっ素塗料が重なり、照明の穴も埋まる 利益 83 億円 · PER 16.5 倍 · 株価時価総額 4,778 円1,366 億円
国内塗料は、構造物用の更新需要を取り込み、ボンフロンのふっ素塗料と合わせて高単価品の比率が上がる。出荷量は今の1.2倍、単価は物価を超えて上がり、営業利益率は8%に届く。神東塗料は再建が成り、益率5%まで戻る。海外は買収を重ねて売上の1割台後半に広がる。照明は蛍光灯の穴をUVランプとLEDで埋め、益率14%を保つ。
政策保有株の売却資金は配当と自社株買いに回り、DOEは5%に届く。品質の不正は再発せず、統治への不安は後退する。10年後の営業利益は約120億円、純利益は83億円。会社が掲げる売上1,000億円、営業利益100億円を超える水準だ。
- 国内塗料(本体・ボンフロン):数量 112(出荷量(千トン))× 価格 784(1kgあたり単価(円))→ 売上 878 億円・営業利益 70 億円。益率8%
- 神東塗料グループ(国内塗料):数量 45.0(出荷量(千トン))× 価格 643(1kgあたり単価(円))→ 売上 289 億円・営業利益 15 億円。益率5%
- 海外塗料:数量 20.0(出荷量(千トン))× 価格 804(1kgあたり単価(円))→ 売上 161 億円・営業利益 13 億円。益率8%
- 照明機器・蛍光色材:数量 620(出荷点数(万点))× 価格 2,680(1点あたり平均単価(円))→ 売上 166 億円・営業利益 23 億円。益率14%
倍率:事業の純利益 83 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.5% が k 7.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.3%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.5 倍。全体の PER 16.46 倍、時価総額 1,366 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:重防食の需要、買収の統合、照明の穴埋め、還元の拡大がそろって初めて届く筋書きで、連続して当たる確度は高くない。中計の目標が下がった実績もあり、7%にとどめた。
やや楽観 19% ボンフロンが通年で効き、構造物用が底堅く推移する 利益 66 億円 · PER 15.0 倍 · 株価時価総額 3,462 円990 億円
国内塗料は、ボンフロンの通年の寄与と構造物用の底堅さで、出荷量は今の1.14倍。単価は物価並み、益率は7%まで戻る。神東塗料は再建が軌道に乗り、益率4%。海外は東南アジアとメキシコで自動車部品向けを広げ、出荷量は今の1.2倍になる。照明は蛍光灯を失うが、UVランプで益率12.5%を守る。
政策保有株の売却は計画どおり進み、その資金で配当はDOE4%台に上がる。品質問題は再発せず、統治への不安は残るものの表には出ない。10年後の営業利益は約96億円、純利益は66億円。売上は価格の上昇でビジョン2029の1,000億円を超えるが、営業利益は100億円に届かない。会社の計画は、おおむね遅れつつ達成される。
- 国内塗料(本体・ボンフロン):数量 108(出荷量(千トン))× 価格 750(1kgあたり単価(円))→ 売上 810 億円・営業利益 57 億円。益率7%
- 神東塗料グループ(国内塗料):数量 42.7(出荷量(千トン))× 価格 643(1kgあたり単価(円))→ 売上 275 億円・営業利益 11 億円。益率4%
- 海外塗料:数量 17.5(出荷量(千トン))× 価格 804(1kgあたり単価(円))→ 売上 141 億円・営業利益 10 億円。益率7%
- 照明機器・蛍光色材:数量 560(出荷点数(万点))× 価格 2,680(1点あたり平均単価(円))→ 売上 150 億円・営業利益 19 億円。益率12.5%
倍率:事業の純利益 66 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.7% が k 7.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 7.4%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.0 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.0 倍。全体の PER 15 倍、時価総額 990 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:会社の再建計画(2027年3月期に営業利益55億円)が順調に進み、中計の目標に近づく筋書き。過去の計画の未達を見て、確率は2割弱にした。
中立 36% 中立:蛍光灯の穴を買収が埋め、利益は戻るがROEは資本コストに届かない 利益 54 億円 · PER 14.3 倍 · 株価時価総額 2,699 円772 億円
国内塗料は、数量が市場なみに細るなか、ボンフロンの通年の寄与がそれを打ち消す。出荷量は今の1.09倍、単価は物価どおり1.34倍。益率は価格是正と統合の効果で6%まで戻る。神東塗料は益率3.5%にとどまる。海外は中国を外し、東南アジアとメキシコの伸びで今の水準に戻る。照明は蛍光灯の売上(推定で約25億円)を失い、LEDとUVが後を継ぐが、益率は17%から11%に下がる。
営業利益は約79億円で益率は6.1%。過去12年の山(9.0%)を下回る。純利益は54億円。配当はDOE3〜4%で10年に約240億円、優待の推定年3億円を10年分加えて、還元は約270億円になる。
- 国内塗料(本体・ボンフロン):数量 103(出荷量(千トン))× 価格 750(1kgあたり単価(円))→ 売上 773 億円・営業利益 46 億円。益率6%
- 神東塗料グループ(国内塗料):数量 40.6(出荷量(千トン))× 価格 643(1kgあたり単価(円))→ 売上 261 億円・営業利益 9 億円。益率3.5%
- 海外塗料:数量 15.0(出荷量(千トン))× 価格 804(1kgあたり単価(円))→ 売上 121 億円・営業利益 7 億円。益率6%
- 照明機器・蛍光色材:数量 540(出荷点数(万点))× 価格 2,680(1点あたり平均単価(円))→ 売上 145 億円・営業利益 16 億円。益率11%
倍率:事業の純利益 54 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 6.4% が k 7.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 14.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.3 倍。全体の PER 14.29 倍、時価総額 772 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:会社予想(2027年3月期に営業利益55億円)から、買収の寄与と照明の縮小を差し引いた落としどころ。強気の見方と慎重な見方のうち、慎重な側が強いので中立は3割台半ばにした。
やや悲観 26% 品質問題で取引を失い、照明の穴も埋まらない 利益 26 億円 · PER 9.7 倍 · 株価時価総額 882 円252 億円
国内塗料の数量は市場とともに年1%縮み、価格転嫁も遅れて単価は物価を下回る1.25倍にとどまる。品質問題の余波で、一部の官公庁・大手ゼネコン向けの取引を失い、益率は3.8%に沈む。神東塗料は黒字化しても益率1.5%で、再建の果実は薄い。海外は伸びず益率3.5%。照明は中国のLEDに押され、蛍光灯の穴を埋められずに売上が今を下回る。
営業利益は約36億円、純利益は26億円。会社は配当を守ろうとするが利益が足りず、10年の配当は約160億円、優待約22億円と合わせて還元は182億円にとどまる。自己資本の積み上がりは遅く、ROEは3%台。買収で広げた事業は、利益を生まないまま重荷として残る。
- 国内塗料(本体・ボンフロン):数量 90.0(出荷量(千トン))× 価格 700(1kgあたり単価(円))→ 売上 630 億円・営業利益 24 億円。益率3.8%
- 神東塗料グループ(国内塗料):数量 36.0(出荷量(千トン))× 価格 600(1kgあたり単価(円))→ 売上 216 億円・営業利益 3 億円。益率1.5%
- 海外塗料:数量 11.0(出荷量(千トン))× 価格 750(1kgあたり単価(円))→ 売上 83 億円・営業利益 3 億円。益率3.5%
- 照明機器・蛍光色材:数量 400(出荷点数(万点))× 価格 2,500(1点あたり平均単価(円))→ 売上 100 億円・営業利益 6 億円。益率6%
倍率:ROE 3.4% は k 以下。ためた利益は額面未満の価値で、PER の上限は 1÷k=12.9 倍。価値は稼ぐ力(純利益÷k)までとし、その 7.5 割の 9.7 倍に置いた。
確率:国内数量の縮小、価格転嫁の遅れ、品質問題の取引への影響が重なる筋書き。過去2年に不正が続き、中計の目標が引き下げられた実績があるので、慎重な側に厚く置いた。
悲観 12% 不祥事が再発し、神東塗料の再建も失敗する 利益 −12 億円 · PBR 0.3 倍 · 株価時価総額 724 円207 億円
品質の不祥事が再び起き、官公庁・電力・大手ゼネコンの一部が発注を絞る。構造物用の看板が傷つき、国内塗料の出荷量は今の8割、単価も値引きで物価に届かない1.15倍にとどまり、益率は1%。神東塗料は再建に失敗し、固定資産の減損を計上して営業赤字になる。海外は縮小、照明は蛍光灯の終了後にUV・LEDも競争に負け、益率は2%。
営業利益は約1億円、減損を含む純利益は12億円の赤字。配当は大きく減らし、10年で約70億円、優待の半分の15億円と合わせて還元は85億円。現金と株式の売却価値が株価の床になる。
- 国内塗料(本体・ボンフロン):数量 76.0(出荷量(千トン))× 価格 644(1kgあたり単価(円))→ 売上 489 億円・営業利益 5 億円。益率1%
- 神東塗料グループ(国内塗料):数量 30.0(出荷量(千トン))× 価格 552(1kgあたり単価(円))→ 売上 166 億円・営業利益 −5 億円。営業赤字
- 海外塗料:数量 9.0(出荷量(千トン))× 価格 690(1kgあたり単価(円))→ 売上 62 億円・営業利益 0 億円。収支ゼロ
- 照明機器・蛍光色材:数量 250(出荷点数(万点))× 価格 2,300(1点あたり平均単価(円))→ 売上 58 億円・営業利益 1 億円。益率2%
倍率:減損で赤字になるため PBR。稼ぐ力はほぼ消え、床は今の自己資本 668 億円に 0.31 を掛けた 207 億円とした。現金と株式を売った後の価値(floor_assets_oku)で測った。純有利子負債の返済も、この床の中で済ませる。
確率:品質不正の再発、神東塗料の再建失敗、照明の縮小が重なる筋書き。三つが同時に起きる確度は高くないが、過去に不正が2度あり、赤字企業を買った経緯もあるため、1割強を置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
国内塗料(本体・ボンフロン)
建築用・工業用・構造物(重防食)用の塗料と、2025年12月に加わったふっ素樹脂塗料のボンフロン。粉体塗料などの小さな事業も含む。
| 数量出荷量(千トン) | 価格1kgあたり単価(円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 94.9 | 560 | 532 | 13 |
| 10 年後 中立 | 103 | 750 | 773 | 46 |
取り方:セグメント開示の国内塗料 718.7 億円から神東塗料の国内分(推定 205 億円)を除き、開示されないその他事業の差額を足して 531.6 億円とした。営業利益は国内塗料 12.3 億円から神東分 2.4 億円を除き、セグメント合計と連結営業利益の差(調整額 +2.6 億円)を寄せて 12.5 億円。単価は国内市場の平均(2025 年暦年の販売金額 7,418 億円 ÷ 販売数量 144 万トン = 515 円/kg)に、重防食・ふっ素樹脂の高単価品を見て 560 円/kg と置き、出荷量 = 売上 ÷ 単価で逆算した推定(開示なし)。ボンフロンは 12 月買収で 3 か月分(推定約 20 億円)しか入っておらず、通年では約 60 億円が加わる。 【優待費用の根拠】単元株主は約1.7万名(有報の所有者別状況、2023〜24年)で、43,401名の大半は100株未満。うち継続保有1年以上を8割とし、100株台は2,000円と1,000円が半々で平均1,500円、1,000株以上(約1割)は平均4,000円として、約1.7万×0.8×(0.9×1,500+0.1×4,000)≒2.4億円。株主数の誤差を見て年3億円と置いた。
神東塗料グループ(国内塗料)
2025年3月に50.1%を取得し子会社にした、上場の中堅塗料メーカー。再建中で、少数株主の取り分が残る。
| 数量出荷量(千トン) | 価格1kgあたり単価(円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 42.7 | 480 | 205 | 2 |
| 10 年後 中立 | 40.6 | 643 | 261 | 9 |
取り方:神東塗料の 2026 年 3 月期の売上 214.8 億円・営業利益 2.55 億円のうち、海外子会社の分(推定約 10 億円)を海外塗料に回し、国内分を 205 億円・営業利益 2.4 億円とした。単価は開示がなく、国内平均 515 円/kg より低い建材・汎用寄りの品揃えと見て 480 円/kg と置き、出荷量を逆算した推定。
海外塗料
東南アジア(タイなど)とメキシコで自動車部品向けを中心に売る。中国の製造子会社は売却を決めた。
| 数量出荷量(千トン) | 価格1kgあたり単価(円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 14.3 | 600 | 86 | 4 |
| 10 年後 中立 | 15.0 | 804 | 121 | 7 |
取り方:セグメント開示の海外塗料の売上 85.9 億円・営業利益 3.7 億円。単価は自動車部品向けの工業用塗料を見て 600 円/kg と置き、出荷量を逆算した推定。中国分(推定約 20 億円)は売却で今後外れる。
照明機器・蛍光色材
蛍光灯(2027年末で生産終了)、LED照明、半導体や殺菌に使うUVランプ。蛍光色材(蛍光顔料)を含む。
| 数量出荷点数(万点) | 価格1点あたり平均単価(円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 576 | 2,000 | 115 | 20 |
| 10 年後 中立 | 540 | 2,680 | 145 | 16 |
取り方:セグメント開示の照明機器 104.2 億円と蛍光色材 10.9 億円を合わせて 115.1 億円、営業利益は 19.3 億円と 0.6 億円で 19.9 億円。出荷点数は開示がなく、蛍光ランプ(数百円)・LED器具・UVランプ(高単価)の混在から平均単価を 2,000 円と置いて逆算した推定。
リスクと懸念
蛍光灯の終了で照明の利益が細る
照明機器と蛍光色材の営業利益は約20億円で、全社の約半分を占める。主力の蛍光灯は水俣条約を受け、会社の説明では2027年末で生産を終える。LEDは中国勢との価格競争が激しく、UVランプはまだ小さい。穴を埋め切れなければ、全社の利益は大きく細る。
品質不正の再発
2023年の検査結果の改ざんと、2024年の外注先への社内規定外の委託で、JISマークの表示が一時停止された。解除は2025年11月で、会社は再発防止策と役員報酬の返納を公表している。3度目が起きれば、官公庁や大手ゼネコンからの信頼が崩れ、構造物用の看板分野を失いかねない。
神東塗料の再建が進まない
神東塗料は買収前から赤字が続き、2026年3月期も最終赤字だった。50.1%の出資のため、利益が出ても約半分は少数株主に流れる。再建に失敗すれば、固定資産の減損や追加の資金支援が必要になる。
原材料高の価格転嫁が遅れる
酸化チタン、樹脂、溶剤は市況や原油に連れて動く。2024年度は価格是正が利益を支えたが、競争の厳しい建築用・工業用では転嫁が後手に回りがちだ。転嫁が遅れた年は、営業利益率が1%台まで落ちる。
国内数量の縮小
国内の塗料の販売数量は2025年に2.1%減った。人口減と住宅着工の弱さで、建築用・木工用は構造的に細る。構造物用の更新需要はこれを和らげるが、全体の数量を押し上げるほどではない。
資本効率が改善しない
ROEは直近で2.5%。政策保有株の縮減は数年で20〜25億円と小さく、売却資金の使い道も示されていない。利益が戻らないままでは、配当は利益と同水準で、自己資本は積み上がっても価値は増えない。
買収の統合と少数株主の取り分
ボンフロンの買収価格は非公表で、統合の成否が見えにくい。神東塗料は上場が続き、親子上場の利益相反の指摘を受けやすい。M&Aで海外比率を2割へ上げる方針は、のれんの減損の火種にもなる。
今後の分かれ目
- 2027年3月期の営業利益が会社予想の55億円に届き、第1四半期の勢いが続いたら
- 中立から楽観側へ確率を移してよい。国内塗料の益率が4%台に戻るかを見る。
- 照明機器の営業利益が、蛍光灯の終了後も15億円を保ったら
- UVランプとLEDが穴を埋めている証拠。照明の益率の置き方を上げる。
- JISマークの停止や、検査・委託の不備が再び表に出たら
- 悲観側の確率を大きく上げる。構造物用の取引への影響を見る。
- 神東塗料が通期で黒字化し、益率が3%を超えたら
- 買収の評価を上げ、やや楽観側に重みを移す。
- 政策保有株の売却を加速し、売却代金を配当や自社株買いに充てると発表したら
- 資本効率の改善として評価し、ROEの置き方を上げる。
- 国内の塗料の数量が前年比で3%以上、続けて減ったら
- 数量の置き方を下げ、やや悲観側の確率を上げる。
見ておくもの
- 四半期ごとの国内塗料の営業利益率と構造物用の出荷
- 照明機器の営業利益と、UVランプ・LEDの売上
- JISマークと品質管理に関する開示
- 神東塗料の通期の損益
- 政策保有株の売却額と、配当・自社株買いの方針(DOE)
- 酸化チタン・溶剤など原材料の価格と、価格改定の動き
倍率と資本コストの決め方
4区分の出荷量(実質)× 単価(物価込みの名目)で積んだ。中立の営業利益率は6.1%で、過去12年の山(9.0%)を下回る。倍率は式から出した。k 7%、ROE 6.5%(k を下回る)、RONIC 7.1%、g 4% で正当化 PER は 11.7 倍。堀は普通の 1/2。一過性益の混在と品質不正の履歴を見て、上限の 8.5 割の 10.0 倍とした。やや悲観は稼ぐ力(純利益 ÷ k)の 7.5 割。悲観は今の自己資本に 0.31 を掛けた床で、現金と株式の売却後の価値と照らした。利払いの変化は10年で -1 億円と小さく、純利益に入れた。今の PER(27.7 倍。利益が谷)と PBR(0.70 倍)は最後に見ただけで、倍率には使っていない。店舗の賃借は小さく、リースの形の違いは影響しない。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 12.9→16.46 倍・やや楽観 PER 11.4→15 倍・中立 PER 10→14.29 倍)。
資本コスト 7.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality +0.25%(循環 +0.25)を足して 7.75%。品質不正や統治の弱さ、神東塗料の再建の失敗は k に足さず、やや悲観・悲観の確率と利益率で表した。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 7.75% → 7.00%。