結論
ミルボンは、美容室だけに売るヘアケア・ヘアカラーのメーカーだ。営業担当が全国の美容室を回り、使い方まで教えて売る。この関係が参入障壁になっている。
筆者の結論は、今の値段は割高ということだ。最大の理由は利益率の水準にある。かつて18%台あった営業利益率は、人件費や原材料の上昇で10%前後まで下がった。会社は回復を計画するが、10年で13〜14%に戻るのが筆者の中心の見方だ。
事業そのものは悪くない。国内のヘアケアは店販品が伸び、価格改定も通った。海外は米国が急拡大し、韓国は利益の柱になった。ただ海外はまだ売上の4分の1で、米国と欧州は赤字が続く。大きく育つ前に、国内の染毛剤の伸び悩みと中国の停滞が重くのしかかる。
10年後の姿は、売上が800億円台、純利益が80億円前後だ。物価の上昇を値段に転嫁できる強さはあるが、利益が今の倍になるには数量の増えない国内がボトルネックになる。
財務は堅い。純現金があり、自己資本比率は85%に近い。ただ堅いことと、利益が伸びることは別の話だ。確率で重みづけた本質価値は、今の時価総額を3割ほど下回る。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点でまず見るのは、10年後もこの事業が今より強いかだ。美容室専売の関係は10年後も残るが、市場の量は増えない。強いのは値段を上げる力と店販で、数量の成長は海外頼みになる。
オーナーとして残る利益は、純利益の半分前後とみる。配当と自社株買いで半分を返し、残りを工場と海外の人に回す。海外の投資は黒字化が見えれば報われるが、米国は人を増やしても営業利益はまだ赤字だ。
経営の資本の使い方は評価できる。無駄な買収をせず、借金を持たず、還元も安定する。ただ、堀が広がっているとまでは言い切れない。ここ数年の利益率の低下は、強いブランドでも費用の上昇を全部は価格に移せないことを示した。
安全域の面では、今の値段は余裕が乏しい。10年後の中心の姿でも、時価総額は今とほぼ同じ水準で、そこまでの還元を足しても年3%台の収益にとどまる。事業の質は高いが、払う値段が高い。筆者はそう見る。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの中心はヘアケア用剤で、売上の6割強を占める。シャンプーやトリートメントを美容室が施術に使い、客に店頭で売る。ここに「オージュア」「オーバイトーリ」などのブランドがある。
次がヘアカラー、つまり染毛剤で、売上の3割強だ。白髪染めとおしゃれ染めがあり、おしゃれ染めは国内で減っている。パーマ用剤と化粧品は合わせて5%に満たない。化粧品は新製品が振るわず、在庫の評価損も出した。
売り方に特徴がある。ドラッグストアには置かず、代理店を通して美容室にだけ売る。美容室ごとに営業担当が付き、国内だけで360人を超える。教える人を多く抱えるのでコストは重いが、美容師の信頼がそのまま売上になる。
海外は売上の約26%にあたる。韓国が海外の中核で、中国は市場が厳しい中でも踏みとどまっている。伸びが最も速いのは米国だ。代理店の網を広げ、現地向けの新製品が当たった。ドイツを中心にした欧州も取扱いの美容室が増えている。
商品別の利益は開示がない。国内の利益率は約12%、海外は約7%と開きがあり、海外が黒字を厚くできるかが全社の利益率を決める。
優良さと弱いところ
この会社の強みは、美容師との長い付き合いにある。美容室の目線で作った商品を、営業担当が現場で教えながら売る。美容師が客にすすめれば、店販品が売れる。この循環は、広告で追う他社にまねしにくい。
国内の美容室向けヘア化粧品はおよそ1,600億円の市場とされ、ミルボンはヘアケアと染毛剤で約15%のシェアを持つ最大手だ。資生堂、ロレアル、ナプラなどの競合がいるが、専売でこの規模を持つ上場企業は少ない。
利益の水準は強みを物語る。過去10年の自己資本利益率は中央値で12%、営業利益率は16〜18%台が長かった。借金はなく、投資は自己資金でまかなう。
弱みもある。2023年以降、営業利益率は10%台前半に落ちた。人件費と物流費が上がり、上半期に在庫の評価損も出た。値上げで取り返しつつあるが、2025年の営業利益は2割近く減った。
もう1つの弱みは、売る先が美容室に偏ることだ。美容室の数は緩やかに減り、来店の間隔も延びている。筆者がいちばん気にしているのはここで、強い堀が守る市場そのものが細る可能性は消えない。
経営は慎重で、配当は累進を掲げ、政策保有株は1銘柄まで減らした。ゆめが丘工場の増設を止めた判断も、資本を大切にする姿勢の表れとみる。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
国内の美容室向け市場は、量が伸びない成熟市場だ。人口は減り、美容室の数も減っていく。来店の頻度も、ヘアカラーの間隔が延びる傾向にある。
その中で伸びるのは値段と店販だ。美容室専売品は、サロンでの体験を持ち帰る商品として値上げを受け入れられやすい。ミルボンも2025年に価格改定を通した。一方、ファッションカラーは需要が減り、白髪染めに寄っていく。
競争は静かに進む。資生堂プロフェッショナル、ロレアル、花王のゴールドウェルなどの外資・大手に加え、ナプラ、タカラベルモントなどの専売メーカーがいる。ドラッグストア向けの白髪染めや、通販のヘアケアが美容室の外側から需要を奪う面もある。
海外は成長の余地が大きい。世界の美容・パーソナルケアは年率7%前後の成長が見込まれる。業種のノートでも、日本企業は高付加価値の機能性分野でシェアを保つ前提だ。ただミルボンの海外売上は約137億円と小さく、世界の専売市場でのシェアも数%にすぎない。
米国は2025年に売上が約27%増えた。ただ中国は現地ブランドの台頭で量の伸びが乏しく、韓国は消費クーポンの追い風が一巡する。海外の伸びは、米国と欧州がどこまで続くかにかかっている。
原料と物流のコストは中東情勢で上がる気配がある。新しいカラー剤の発売も延期された。価格改定でどこまで吸収できるかが、ここ数年の利益を決める。
資本政策と M&A
還元は手厚い。配当は累進を掲げ、配当性向の目安は50%、自社株買いを含めた総還元も50%以上を目安にする。2025年は自社株買いに約20億円を使った。
自己資本比率は85%近く、借金はない。投資の余力はあるが、使い方は慎重だ。ゆめが丘工場の増設は中断し、次の中期計画で見直す。大型の買収はこれまでなく、成長は自前の海外展開で取ろうとしている。
2022年から2026年の中期事業構想は、最終年の営業利益目標を108億円から84億円へ下げた。売上は580億円で据え置いた。コストの上昇を目標に取り込んだ形で、2026年は計画の66億円にとどまる。
政策保有株は1銘柄まで減っている。経営者や創業家が強く支配する株主構成ではなく、持ち合いもない。このため買収の標的になる余地はあるが、美容師との関係は買った側が簡単に引き継げない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
米国と欧州で、美容室専売の仕組みが現地に根づき始めた。2026年は米国の売上が7割以上伸び、海外全体の営業利益も大きく増えた。人員を増やして先に投資した分が、ようやく利益に出る段階に入る。海外の売上は10年で3倍近くになりうる。
国内でも、値上げを通した力は本物だ。ヘアケアと店販は伸び、美容師の教育を通じた信頼は競合がまねできない。ファッションカラーの減少は、新ブランドの投入で止められる。
利益率はまだ底にある。人件費と物流費の高騰が一巡し、万博関連の費用も消えるので、営業利益は2年で2倍近くに戻る。海外が黒字を厚くし、国内の利益率が13%に届けば、全社で16%台も見える。自己資本利益率14%という会社の目標も、手の届く範囲にある。
財務は純現金で、借金がない。還元は累進配当と自社株買いで安定している。10年後に売上が1,000億円に届けば、堀の広がりを市場は評価し直すはずだ。
新しいカラー剤の投入と、教育を軸にした営業担当の生産性の向上も、国内の利益率を支える。会社が長期の目標に掲げる売上1,000億円と海外比率35〜40%は、米国の勢いが続けば現実の射程に入る。
慎重な見方
利益率の低下は一時的な費用の上昇ではなく、構造の問題だ。美容師の人手不足と賃金の上昇は続き、営業担当を360人も抱えるモデルのコストは今後も重い。計画の目標を2度下げたことが、その証拠になる。
国内の市場は量が増えない。美容室の数は減り、来店の間隔は延びる。染毛剤は2025年に減り、2026年も横ばいだ。ファッションカラーの需要は戻らず、白髪染めはドラッグストアの商品と競合する。
海外の成長は小さい土台の上の話だ。中国は営業利益がほぼゼロで、韓国の利益も減った。米国は売上が伸びても赤字が続く。欧州の先行投資の回収は先になる。海外が全社の利益を押し上げるまでには、10年近くかかる可能性がある。
今の値段は、利益が2倍になる前提を先取りしている。それが実現しても、10年後の倍率は成熟した会社の水準に落ちる。事業の質は高くても、投資家が受け取る収益は低い。
最後に、会社自身が利益目標を引き下げたことを重く見る。営業利益108億円の目標は84億円に下がり、2026年の見込みはそれをさらに下回る。計画に対する信頼の積み上げには、まだ時間が要る。
どちらに重みを置いたか
筆者は慎重な見方が強いと判断した。強気の人の言う海外の成長と利益率の回復は、中心の筋書きにも織り込んである。それでも10年後の時価総額は今と同水準で、還元を足しても年3%台にとどまる。
根拠は国内の量が増えないことと、海外の黒字化に時間がかかることだ。そのため、楽観の確率は8%、やや楽観は20%に抑え、やや悲観を24%、悲観を11%と厚めに置いた。
10 年後の 5 つの筋書き(2035/12 期)
確率で加重した株価時価総額 3,602 円1,139 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,037 円328 億円)。 今の値に割り戻すと 2,520 円797 億円、今との差 −26.4%、 期待の年率 +3.1%(資本コスト 7.2%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 6,872 円2,174 億円 | 1,397 円442 億円 | +141.4% | +9.2% | 662 円209 億円 |
| やや楽観 | 20% | 5,345 円1,691 億円 | 1,230 円389 億円 | +92.0% | +6.7% | 1,315 円416 億円 |
| 中立 | 37% | 4,145 円1,311 億円 | 1,094 円346 億円 | +53.0% | +4.3% | 1,938 円613 億円 |
| やや悲観 | 24% | 1,461 円462 億円 | 869 円275 億円 | −32.0% | −3.8% | 559 円177 億円 |
| 悲観 | 11% | 900 円285 億円 | 601 円190 億円 | −56.2% | −7.9% | 165 円52 億円 |
| 加重平均 | 100% | 3,602 円1,139 億円 | 1,037 円328 億円 | +35.5% | +3.1% | 4,639 円1,467 億円 |
今の株価時価総額 3,425 円1,083 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.2% を下回るほど割高。
楽観 8% 楽観:米国・欧州が黒字化し売上1,000億円に届く 利益 118 億円 · PER 18.4 倍 · 株価時価総額 6,872 円2,174 億円
10年後、米国と欧州に美容室専売の仕組みが根づき、海外の売上は今の3倍を超える。人員への先行投資が回収に入り、海外の営業利益率は2桁に乗る。国内は新しい染毛剤ブランドが当たり、ファッションカラーの減少に歯止めがかかる。
ヘアケアは店販の伸びと高付加価値品への入れ替えで、国内でも数量を保ちながら値段を物価以上に上げる。営業担当の生産性が上がり、売上は1,000億円に届く。営業利益率はかつての水準には戻らないが16%台まで回復する。
自己資本利益率は14%近くまで上がる。ただ国内の量が増えないことは変わらず、この筋書きでも成長の主役は海外だ。美容室の外へ需要が流れない前提が、この筋書きの条件になる。
- ヘアケア用剤(シャンプー・トリートメント・スタイリング):数量 28.6(販売個数(百万個、推定。実質の数量))× 価格 2,338(1個あたり平均卸値(円、名目))→ 売上 669 億円・営業利益 120 億円。営業利益率18%
- 染毛剤(ヘアカラー):数量 27.4(販売個数(百万個、推定。実質の数量))× 価格 1,105(1個あたり平均卸値(円、名目))→ 売上 303 億円・営業利益 45 億円。営業利益率15%
- パーマ用剤・化粧品・その他:数量 2.0(販売個数(百万個、推定。実質の数量))× 価格 1,742(1個あたり平均卸値(円、名目))→ 売上 35 億円・営業利益 0 億円。営業利益率0%
倍率:事業の純利益 118 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 13.8% が k 7.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.5%、10 年より先の名目の伸び g 3.7% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 18.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 18.4 倍。全体の PER 18.42 倍、時価総額 2,174 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:米国の急拡大と国内の値上げの定着が重なる筋書きは、実現すれば会社の長期目標に近い。ただ国内の量が増えない制約があり、根拠も薄いので8%にとどめた。
やや楽観 20% やや楽観:海外が育ち国内は横ばいを保つ 利益 97 億円 · PER 17.4 倍 · 株価時価総額 5,345 円1,691 億円
米国は年率10%台、韓国は一桁後半の伸びが続き、海外の売上は10年で2.4倍ほどになる。欧州は黒字に入るが、中国は横ばいにとどまる。国内はヘアケアの店販が伸び、染毛剤は白髪染めが支えて、全体の数量はほぼ変わらない。
価格改定は物価並みに通り、営業利益率は海外の黒字化と生産性向上で15%まで戻る。ミルボンの計画に近い道筋で、売上は900億円台に届く。
ただ、人件費と物流費の上昇が一巡しても、国内の営業担当を支えるコストは重い。かつての18%台には戻らない。米国の黒字が定着するまでに数年かかる点も、この筋書きの中身に含めている。
- ヘアケア用剤(シャンプー・トリートメント・スタイリング):数量 26.4(販売個数(百万個、推定。実質の数量))× 価格 2,288(1個あたり平均卸値(円、名目))→ 売上 604 億円・営業利益 100 億円。営業利益率16.5%
- 染毛剤(ヘアカラー):数量 25.3(販売個数(百万個、推定。実質の数量))× 価格 1,073(1個あたり平均卸値(円、名目))→ 売上 272 億円・営業利益 37 億円。営業利益率13.5%
- パーマ用剤・化粧品・その他:数量 1.9(販売個数(百万個、推定。実質の数量))× 価格 1,742(1個あたり平均卸値(円、名目))→ 売上 33 億円・営業利益 0 億円。営業利益率-0.5%
倍率:事業の純利益 97 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 12.0% が k 7.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.6%、10 年より先の名目の伸び g 3.7% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 17.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 17.4 倍。全体の PER 17.43 倍、時価総額 1,691 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:会社の計画どおりに海外が育ち、国内の費用上昇を価格で吸収する筋書きは十分ありうる。筆者は中立より少し軽く20%とした。
中立 37% 中立:海外は育つが国内の量が重く、利益率は13.5% 利益 80 億円 · PER 16.4 倍 · 株価時価総額 4,145 円1,311 億円
海外は米国と韓国が伸び、欧州は赤字を抜ける。海外の売上は10年で2倍弱、今の約137億円が300億円台になる。中国は横ばいで、利益はほとんど出ない。
国内は、美容室数の減少で数量が緩やかに減る一方、店販と高付加価値品で売上を保つ。ヘアケアの数量は2割ほど増えるが、これはほぼ海外の伸びによる。染毛剤はおしゃれ染めの減少で国内が縮み、数量の伸びは1割強にとどまる。
営業利益率は13.5%まで戻るが、かつての水準には届かない。人件費と物流費の高止まりが続き、営業担当を抱えるモデルのコストは軽くならない。売上は830億円台、純利益は80億円前後になる。
- ヘアケア用剤(シャンプー・トリートメント・スタイリング):数量 24.4(販売個数(百万個、推定。実質の数量))× 価格 2,238(1個あたり平均卸値(円、名目))→ 売上 546 億円・営業利益 82 億円。営業利益率15%
- 染毛剤(ヘアカラー):数量 23.6(販売個数(百万個、推定。実質の数量))× 価格 1,073(1個あたり平均卸値(円、名目))→ 売上 253 億円・営業利益 30 億円。営業利益率12%
- パーマ用剤・化粧品・その他:数量 1.9(販売個数(百万個、推定。実質の数量))× 価格 1,742(1個あたり平均卸値(円、名目))→ 売上 33 億円・営業利益 0 億円。営業利益率-1%
倍率:事業の純利益 80 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.3% が k 7.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.8%、10 年より先の名目の伸び g 3.7% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.4 倍。全体の PER 16.39 倍、時価総額 1,311 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:国内の量は増えず、海外の黒字化は時間がかかるという現実的な見方を中心に置いた。確率は最も高いが、慎重側の方が重いので4割は超えない。
やや悲観 24% やや悲観:国内の染毛剤が縮み、海外の伸びが鈍る 利益 42 億円 · PER 11.0 倍 · 株価時価総額 1,461 円462 億円
国内の美容室数の減少が速まり、染毛剤の数量が1割落ちる。ヘアケアは店販で持ちこたえるが、競合の値引きと費用上昇で値上げの幅が物価に届かない。
海外は米国が赤字を抜けられず、中国の現地ブランドとの競争が強まる。韓国も消費クーポンの追い風が消えて伸びが鈍る。海外の数量は1.35倍ほどにとどまる。
営業利益率は9%台で、2025年とほぼ同じ水準が続く。会社が掲げる利益率の回復は、費用の上昇に食われて実現しない。売上は640億円台、純利益は40億円強で、自己資本利益率は資本コストを下回る。配当は累進を守るので還元の比率は高まり、新しい投資に回せるお金は細る。
- ヘアケア用剤(シャンプー・トリートメント・スタイリング):数量 20.6(販売個数(百万個、推定。実質の数量))× 価格 2,088(1個あたり平均卸値(円、名目))→ 売上 430 億円・営業利益 47 億円。営業利益率11%
- 染毛剤(ヘアカラー):数量 19.0(販売個数(百万個、推定。実質の数量))× 価格 1,001(1個あたり平均卸値(円、名目))→ 売上 190 億円・営業利益 13 億円。営業利益率7%
- パーマ用剤・化粧品・その他:数量 1.6(販売個数(百万個、推定。実質の数量))× 価格 1,500(1個あたり平均卸値(円、名目))→ 売上 24 億円・営業利益 −1 億円。営業利益率-3%
倍率:ROE 約6.6%で k 7.25% に届かず、ためた利益は額面未満の価値。RONIC は k を下回り、新しく投じるお金の稼ぎは資本コストに届かない。正当化 PER を g 2.5% で見ると約 10〜11 倍なので 11 倍にした。
確率:国内の市場縮小が速まり、海外の黒字化が遅れる筋書きは、計画の目標を2度下げた会社の実績に照らして軽くない。確率は24%とした。
悲観 11% 悲観:美容室専売の仕組みが崩れ、固定費が重く残る 利益 15 億円 · PBR 0.6 倍 · 株価時価総額 900 円285 億円
美容室の廃業が続き、来店の間隔も延びて、国内の数量が15%以上減る。通販やドラッグストアのヘアケアが美容室の外で需要を奪い、専売の価格を保つ力が落ちる。値上げは物価に届かず、競合の値引きに押される。
海外は、米国の関税や現地の競合で収益化が遅れ、中国は撤退に近づく。営業担当を抱えるコストは売上が減っても落ちず、固定費として重くのしかかる。
営業利益率は4%台に落ち、純利益は15億円ほどになる。ブランドは残るが、もう優良とは呼べない。会社は配当を保とうとして自己資本を食う。専売の営業網を縮めれば美容師との関係も薄れ、立て直しの手段が限られる。
- ヘアケア用剤(シャンプー・トリートメント・スタイリング):数量 17.0(販売個数(百万個、推定。実質の数量))× 価格 1,837(1個あたり平均卸値(円、名目))→ 売上 312 億円・営業利益 19 億円。営業利益率6%
- 染毛剤(ヘアカラー):数量 15.8(販売個数(百万個、推定。実質の数量))× 価格 881(1個あたり平均卸値(円、名目))→ 売上 139 億円・営業利益 3 億円。営業利益率2%
- パーマ用剤・化粧品・その他:数量 1.3(販売個数(百万個、推定。実質の数量))× 価格 1,400(1個あたり平均卸値(円、名目))→ 売上 18 億円・営業利益 −2 億円。営業損失(-10%)
倍率:稼ぐ力(純利益15億円÷k≒210億円)より、純現金と売れる資産の税後の方が大きい。今の自己資本 491 億円に 0.58 倍を掛けた。市場の水準からは置いていない。
確率:構造的な負けは、美容室の数の急減と通販・ドラッグストアへの需要の流出が同時に起きる場合だ。専売の堀は一度緩むと戻りにくいが、起きにくいので11%とした。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
ヘアケア用剤(シャンプー・トリートメント・スタイリング)
美容室の施術と店販で使うヘアケア商品。全社売上の6割強で利益の柱。
| 数量販売個数(百万個、推定。実質の数量) | 価格1個あたり平均卸値(円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 20.0 | 1,670 | 334 | 42 |
| 10 年後 中立 | 24.4 | 2,238 | 546 | 82 |
取り方:売上約334億円を、美容室専売の卸値の平均で割って約2,000万個と推定した。国内は美容室数の減少で数量が緩やかに減るが店販で支え、海外は韓国・米国を中心に伸びる。単価は高付加価値品への入れ替えと価格改定で物価並みに上がる。
染毛剤(ヘアカラー)
白髪染めとおしゃれ染め。国内はファッションカラーが減り、白髪染めと海外が支える。
| 数量販売個数(百万個、推定。実質の数量) | 価格1個あたり平均卸値(円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 21.1 | 801 | 169 | 19 |
| 10 年後 中立 | 23.6 | 1,073 | 253 | 30 |
取り方:売上約169億円を、1剤・2剤の卸値の平均で割って約2,100万個と推定した。国内の需要は人口とおしゃれ染めの縮小で減り、海外の染毛剤が補う。単価は物価並みに上げられるが、国内の競争で上げ幅は限られる。
パーマ用剤・化粧品・その他
パーマ用剤と化粧品など。縮小傾向で利益への寄与は小さい。
| 数量販売個数(百万個、推定。実質の数量) | 価格1個あたり平均卸値(円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 2.0 | 1,300 | 26 | −4 |
| 10 年後 中立 | 1.9 | 1,742 | 33 | 0 |
取り方:パーマ用剤約14億円・化粧品約7億円ほかで約26億円。卸値の平均を高めにみて約200万個と推定した。パーマは国内で減り続け、化粧品は新製品が振るわず在庫の評価損も出た。
リスクと懸念
国内の美容室と来店の減少
売上の7割強を占める国内は、美容室の数が緩やかに減り、来店の間隔も延びている。専売の強みは、売る先の市場が縮めば守る範囲も狭まる。数量が増えない前提の下で、値上げと店販でどこまで補えるかが分かれ目だ。
利益率の低下が戻らないリスク
営業利益率は2022年の16.7%から2025年の10.7%まで下がった。人件費・物流費・原料の上昇を価格で取り返せない場合、会社の計画する回復は遅れる。中期構想の利益目標を2度引き下げた実績は軽くない。
染毛剤の需要の質の変化
国内の染毛剤は、ファッションカラーが減り、白髪染めがドラッグストアの商品と競合する構図が強まっている。美容室で染めること自体の頻度が下がれば、二番目の柱の数量が崩れる。新しいカラー剤の発売延期も不安材料だ。
海外の黒字化の遅れ
海外の売上は約26%だが、営業利益率は約7%にとどまる。米国と欧州は先行投資で赤字が続き、中国は利益がほとんど出ない。成長の主役である海外が利益に結びつくまでに、想定より時間がかかる可能性がある。
中国市場と現地ブランドの台頭
中国は市場の環境が厳しく、美容室専売の現地ブランドも育っている。2025年は計画を上回ったが、利益は小さい。消費の冷え込みが長引けば、営業担当への投資を回収できなくなる。
原料・物流コストと中東情勢
中東情勢で原料・資材のコストが上がる気配があり、会社も下期のコスト増を見込む。専売品は価格を上げやすいが、値上げが続けば美容室の仕入れが鈍る恐れもある。価格改定の効果が薄れる局面が続くと、利益に直撃する。
経営の慎重さが機会損失になる可能性
大型の買収をせず、ゆめが丘工場の増設も止めた。資本を守る姿勢は評価できるが、海外の専売ブランドを買う好機を逃すこともありうる。慎重すぎれば、国内の成熟から抜け出す選択肢が狭まる。
今後の分かれ目
- 米国の営業利益が黒字に転じ、黒字幅が年々広がったら
- 海外の先行投資が回収に入ったと見て、やや楽観・楽観の確率を上げてよい。
- 国内の染毛剤が新ブランドの投入後も減り続けたら
- 二番目の柱の数量が構造的に縮んでいるとみて、中立の染毛剤の前提を下げ、やや悲観の確率を上げる。
- 国内営業利益率が13%を超えて2年続いたら
- 価格改定とコスト吸収が定着したサインとみて、中立の営業利益率の前提を上げてよい。
- 美容室数の減少が速まり、国内のヘアケアの数量が前年割れを続けたら
- 専売の堀が守る市場そのものが縮み始めたとみて、悲観側の重みを増す。
- 海外の専売ブランドの買収を発表したら
- 買収の価格と海外の利益率次第で評価が割れる。割高な買収なら、資本の使い方への評価を下げる。
- 中国の営業赤字が続き、拠点縮小に動いたら
- 海外のうち最も弱い部分を整理したとみて、利益率には前向きだが、成長の前提は下げる。
見ておくもの
- 国内の染毛剤とヘアケアの数量・店販の伸び
- 米国・欧州の営業損益
- 海外の営業利益率(計画 8.1%)
- 国内営業利益率(計画の達成度)
- 原料・物流コストと価格改定の効果
- 次の中期経営計画での工場投資と目標
倍率と資本コストの決め方
数量は個数、価格は物価3%込みの名目(中立で10年1.34倍)で積み、利益率は国内・海外の利益率の差と費用の上昇から出した。資本コストは基本7.5%に quality −0.25% を足した 7.25%。倍率は利益ベースの正当化 PER で決めた。g は k−3.5% で 3.75%、堀は普通なので残る割合 1/2、RONIC は k+1/2×(ROE−k)。中立は ROE が k を超えるので 1÷k を割らない範囲の上限の約8.5割、楽観は約9割。やや悲観は ROE が k に届かないので g を 2.5% に下げた式で置き、悲観は稼ぐ力でなく純現金と売れる資産で測った。今の株価・PER は最後に比べただけで、寄せていない。国内は賃借の店舗が少なく、新リース会計基準の影響は小さい。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 16.5→18.42 倍・やや楽観 PER 14.8→17.43 倍・中立 PER 14→16.39 倍)。
資本コスト 7.2% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality −0.25% を足して 7.25%。同じ領域の花王(−0.5%)より値決め力の幅が狭く、売る先の偏りがあるので下げ幅を小さくした。