結論
大阪有機化学工業は、アクリル酸から特殊な化学品を作る会社だ。いちばんの稼ぎ頭は、半導体の回路を焼き付けるレジストの原料で、とくに ArF 用では世界シェアの 7 割を握るとされる。筆者の結論は「やや割高」。事業は優れているが、いまの利益は半導体ブームの山にあり、値段はその先の成長まで払っている。
強みは、代わりを探しにくいことだ。レジストの原料は、顧客の製造工程に組み込まれると、変えるのに年単位の検証が要る。だから値上げも通りやすく、営業利益率は 10 年前の 6〜7% から 20% 前後まで上がった。借金はなく、自己資本比率も 78% と堅い。
ただし、利益の半分前後は電子材料の一本が稼ぐ。顧客はレジストメーカー数社で、半導体の投資が冷えれば直撃を受ける。今期の営業利益は 93 億円と前期の 1.5 倍になる見通しだが、価格転嫁の追い風も混じる。この水準が続くとは、筆者は見ない。
酒田工場の新設備は、投資額が 100 億円から 200 億円に膨らみ、完成も 2028〜29 年に遅れた。需要を読み違えれば、重い減価償却が利益を削る。
10 年後の中立は、営業利益が今期予想の 1.3 倍の 125 億円ほど。物価の分は伸びるが、実質の成長はゆるやかだ。資本コスト 7.25% で割り引くと、確率で重みづけた本質価値は今の値段を 3 割近く下回る。良い会社を、高い値段で買う局面だと筆者は見る。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、事業は気に入るが、値段が追いつかない会社だ。
気に入る点は、代わりを探しにくい原料を、ほぼ借金なしで作っていることだ。顧客が変えにくい品は、値上げがしやすい。10 年後もレジストは使われ続け、その原料の大きな部分を握る会社は残る。
気になる点は二つある。一つは、利益が半導体の山にいることだ。営業利益率が 2 割を超えるのは過去にない高さで、均すと今より 1〜2 割低いのが自然だと筆者は見る。もう一つは、資本の使い方だ。設備投資が 1 年足らずで倍になった。建設費の上昇は避けにくいが、需要の読みが外れれば、重い減価償却だけが残る。
株主のものになる利益、つまり設備の更新と増強に使う分を引いた後の利益は、いまは小さい。成長のために、利益の多くを設備に戻す段階だからだ。この投資が高い稼ぎで返ってくるなら素晴らしい。だが、返ってくる前に、今の山が崩れる危険がある。
安全域でみると、中立の筋書きでも 10 年の年率は 4% 台で、資本コストに届かない。良い会社を高い値段で買えば、リターンは会社の質ではなく、払った値段で決まる。買うなら、半導体の在庫調整で利益が落ち、値段が下がった時だと筆者は考える。
何で稼ぐ会社か
事業は三つに分かれる。いちばん大きいのは電子材料で、売上の約 45% を占める。中心は、半導体のレジスト(回路の型を写し取る感光剤)に使うモノマー、つまり原料の分子だ。ArF(フッ化アルゴン)光で露光する汎用から先端の品と、最先端の EUV(極端紫外線)光向けまでを作る。子会社の高純度特殊溶剤も、ここに入る。
二つめの化成品は、売上の約 36%。アクリル酸エステルの汎用品と特殊品で、顧客は塗料、粘着剤、インクのメーカーだ。景気で量が動く古い事業だが、他社が低収益の品から手を引く中で供給を続け、残存者としての利益を得ている。
三つめの機能化学品は、売上の約 18%。化粧品の原料、機能性ポリマー、医療・バイオ向けの親水性材料などを扱う。会社が次の柱にしたい分野でもある。
特徴は、多品種を少量ずつ作る体制だ。大手が手を出しにくい小さな市場を、顧客ごとの注文に合わせて取っていく。生産は金沢が軸で、これから酒田を増やす。両拠点で作ることで、災害や事故の時にも供給を止めにくくする狙いもある。
利益の質は、事業で大きく違う。上期の増益率から逆算すると、利益率は電子材料が 2 割前後、機能化学品が 2 割近く、化成品が 1 割台半ばだ。電子材料が全社の利益の半分前後を稼いでいる、というのが筆者の推定である。
優良さと弱いところ
この会社の堀、つまり他社がまねしにくい強みは、レジスト原料での「採用の重さ」にある。ArF 用のモノマーでは、世界の約 7 割を押さえるとされる。レジストメーカーが一度配合に採用すると、変えるには品質の再検証が要り、顧客は簡単に乗り換えない。純度を高め、金属の混入を抑える精製の技術も、積み上がった強みだ。
資本の効率は、改善の途上にある。ROE は過去 10 年の中央値が 9% ほどで、前期にようやく 14% に届いた。ただし前期は一過性の利益も含む。営業利益率は 2022 年の 18% を超え、今期は 2 割を超える見込みだ。
強みの裏側で、弱いところもある。電子材料は顧客が数社に偏り、その開発計画に左右される。ArF から EUV への移行で、どちらの原料でも勝ち続けられるかは決まっていない。大有機は EUV 用も量産に入れたが、ダイセルなども原料を手がけ、競争は続く。
化成品は、強い堀とは言えない。需要は塗料やインクの景気で動き、中国の汎用品とも競る。利益率が戻ったのは、他社の撤退と値上げの追い風があったからで、これが続くとは限らない。
経営は堅実だ。借金を持たず、配当を 12 年続けて増やし、配当性向 40% を目安にする。一方で、設備投資の見積もりが 1 年足らずで倍になった点を、筆者は気にしている。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
大有機の稼ぎは、半導体材料、塗料・インクなどの汎用アクリル、化粧品や医療向けの特殊品の三つに分かれる。市場の見方も、別々に置く。
半導体は、生成 AI の投資で需要の山にある。先端のロジックとメモリは、回路を細かくするためにレジストを使う回数が増える。EUV を使う層が増えるほど、レジスト原料の数量も増える。ただし半導体は、数年ごとに設備投資が振れる。山のあとに在庫調整が来ると、原料の出荷は 1〜2 年落ち込む。大有機にも、ArF 原料が在庫調整で長く低迷した時期があった。
10 年では、半導体材料の数量は実質で年 4〜5% 伸びるとみる。ArF から EUV への移りは、原料の需要を奪うのではなく、足していく形になる。ただし最先端では、JSR が買った Inpria のように、モノマーを使わない金属系のレジストも育っている。技術の入れ替わりは速く、ここが 10 年の最大の不確実性だ。
化成品が属するアクリル酸エステルは、成熟した市場だ。国内の塗料・粘着剤の量は、人口とともに細る。中国の増産で、汎用品は物価並みの値上げが難しい。残存者利益が効いている間は利益率が高く出るが、長くは続かない。
機能化学品は、化粧品原料と医療・バイオ向けの材料で、特殊品の世界の成長率(年 5〜7%)に近い伸びが期待できる。市場は小さく、個々の用途で採用を積み上げる商売になる。
もう一つの注意は PFAS(有機フッ素化合物)の規制だ。会社はフッ素の使用は少量とするが、顧客はフッ素を使わない原料を求めている。
資本政策と M&A
還元は、拡大の途上にある。配当は 12 年続けて増え、今期も増配の予想だ。配当性向は 3 割台前半で、目安は 40%で、機動的な自社株買いも掲げる。自社株は発行済みの約 9% にのぼる。
資金の使い道は、設備に偏る。中計の 7 年間で、投資は累計 300 億円以上を見込み、うち酒田の新設備は 200 億円に倍増した。営業の稼ぎは累計 600 億円以上の見込みで、設備を賄ったうえで配当も出せる。純現金は 145 億円ある。
M&A は、小さな出資が中心だ。今年 6 月には、感光性材料を手がける三宝化学研究所に、議決権の約 3 分の 1 を出資した。大有機のモノマーと、三宝の感光材を組み合わせ、レジストの周辺へ広げる狙いである。金額は公表されていない。
買われる側の可能性は、データ上は 10 年以内に 18% ほどだ。筆頭株主は信託銀行の口座で、特定の親会社はない。レジストの業界では、JSR や富士フイルムが原料側の会社を買う動きが続いてきた。大有機が候補になっても不思議はないが、半導体の重要材料でもあり、実際に動くかは読みにくい。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
半導体の需要は、まだ入り口にある。生成 AI の計算基盤は、先端ロジックと高性能メモリの増産を長く必要とする。回路を細かくするほど EUV の層が増え、レジスト原料の数量も増える。大有機は ArF で 7 割を握り、EUV 用もすでに量産に入った。両方で採用が続けば、数量は 10 年で 2 倍近くになる。
値段の面でも追い風がある。原料の純度の要求は年々上がり、品質の再検証は重い。顧客は価格交渉よりも供給の安定を優先する。今期の利益の伸びは、価格を転嫁できる力の証拠だ。酒田の新設備が動き出す 2028 年以降は供給の余力が増え、新しい顧客や用途にも踏み込める。
化成品は、競合の撤退で残存者利益が続く。機能化学品は、化粧品原料と親水性材料が加わり、会社の目標である売上の年 7% 成長に近づく。三宝化学研究所との提携で、感光材まで含めた提案ができ、レジスト周辺に商圏が広がる。
営業利益率は 2 割台を保ち、10 年後の営業利益は今期予想の 1.7 倍になる。ROE は 12% 前後まで上がり、倍率も上がる。借金はなく、配当も増える。強い会社が、強い需要の中で、自分の力で伸ばす姿だ。
慎重な見方
利益は、すでに山にある。今期の営業利益は前期の 1.5 倍で、営業利益率は 2 割を超える。これは過去 10 年で最高の水準だ。半導体の投資が一服すれば、在庫調整で出荷が落ちる。過去にも、ArF 原料が長く低迷した時期があった。
しかも原料の優位は、永遠ではない。顧客のレジストメーカーは、複数の原料先を持ちたがる。中国は半導体の国産化を進めており、レジストとその原料も自前で育てる方向にある。JSR が買った Inpria のように、モノマーを使わない金属系のレジストが広がれば、需要の前提が変わる。
投資の重さも気になる。酒田の設備は、1 年足らずで 100 億円から 200 億円に倍増し、完成も遅れた。稼働が遅れ、需要が読みより弱ければ、年に十数億円(筆者の推定)の減価償却だけが利益を削る。三宝化学研究所への出資も、成果が見えるまでは重しになる。
化成品と機能化学品には、会社を支えるほどの堀がない。中国の汎用品に押され、値上げも止まる。今期の利益率の高さは、原燃料高の転嫁のずれが生んだ面もあり、下期は伸びが鈍る、と会社自身も見ている。営業利益率が 15% に戻るだけで、利益は 3 割落ちる。
どちらに重みを置いたか
半導体の需要と、原料の乗り換えにくさは、どちらも本物だ。ただし利益は山にあり、今の値段が求める成長は、強気の筋書きでやっと届く水準である。筆者は、中立を「物価の分に、ゆるやかな実質の成長が乗る姿」に置いた。確率は上と下でほぼ釣り合わせ、悲観をわずかに厚くした。顧客が少数で、最先端の技術の入れ替わりが速く、新設備が重いからだ。強気の言い分が当たれば、値段はそれほど高くない。ただ、その時でも資本コストを大きくは上回らない。
10 年後の 5 つの筋書き(2035/11 期)
確率で加重した株価時価総額 6,259 円1,273 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,815 円369 億円)。 今の値に割り戻すと 4,388 円892 億円、今との差 +0.7%、 期待の年率 +6.4%(資本コスト 7.2%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 9,975 円2,029 億円 | 2,271 円462 億円 | +181.2% | +10.9% | 980 円199 億円 |
| やや楽観 | 22% | 8,450 円1,719 億円 | 2,099 円427 億円 | +142.2% | +9.3% | 2,321 円472 億円 |
| 中立 | 38% | 7,060 円1,436 億円 | 1,947 円396 億円 | +106.8% | +7.5% | 3,423 円696 億円 |
| やや悲観 | 21% | 3,719 円756 億円 | 1,485 円302 億円 | +19.5% | +1.8% | 1,093 円222 億円 |
| 悲観 | 11% | 1,254 円255 億円 | 1,091 円222 億円 | −46.1% | −6.0% | 258 円52 億円 |
| 加重平均 | 100% | 6,259 円1,273 億円 | 1,815 円369 億円 | +85.4% | +6.4% | 8,074 円1,642 億円 |
今の株価時価総額 4,355 円886 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.2% を下回るほど割高。
楽観 8% AI 需要が長く続き、ArF と EUV の両方で勝つ 利益 116 億円 · PER 17.5 倍 · 株価時価総額 9,975 円2,029 億円
生成 AI の投資が 10 年続き、先端ロジックと高性能メモリの増産が止まらない。EUV の層が増え、ArF も多重露光で使われ続ける。大有機は両方の原料で採用を広げ、電子材料の数量は今の 1.9 倍近くになる。
酒田の新設備は計画どおり動き、供給の余力で新しい顧客も取る。価格は物価並みに上がり、品質の要求が高いぶん、値下げ圧力は弱い。電子材料の営業利益率は 25% に乗る。
化成品は残存者利益が続き、利益率が 17% を保つ。機能化学品は、化粧品原料と医療・バイオ向けが育ち、会社の目標どおりの成長になる。三宝化学研究所との提携も、感光材まで含めた提案で実を結ぶ。営業利益は 10 年で今期予想の 1.7 倍、ROE は 12% 前後になる。ただし倍率は、成熟した優良会社の水準にとどめる。
- 電子材料:数量 2.6(出荷量(千トン・推定))× 価格 161(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 413 億円・営業利益 103 億円。売上 413 億円・営業利益率 25.0%
- 化成品:数量 14.0(出荷量(千トン・推定))× 価格 13(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 188 億円・営業利益 32 億円。売上 188 億円・営業利益率 17.0%
- 機能化学品:数量 2.2(出荷量(千トン・推定))× 価格 67(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 145 億円・営業利益 29 億円。売上 145 億円・営業利益率 20.0%
倍率:事業の純利益 116 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 12.1% が k 7.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.7%、10 年より先の名目の伸び g 3.7% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 17.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 17.5 倍。全体の PER 17.49 倍、時価総額 2,029 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:AI 投資と先端品の増産が 10 年続く場合で、需要は有力だが、技術の入れ替わりと顧客の動きがそろって味方する必要がある。
やや楽観 22% 半導体は堅調で、新設備も順調に立ち上がる 利益 102 億円 · PER 16.9 倍 · 株価時価総額 8,450 円1,719 億円
半導体の需要は、途中で何度か調整を挟みながらも、実質で年 5% ほどの伸びを保つ。EUV 用の原料が増え、ArF の需要も崩れない。電子材料の数量は今の 1.7 倍ほどになり、営業利益率は 23% 台を保つ。
酒田の設備は 1 年遅れで稼働し、投資の回収はやや重いが、新しい顧客も加わる。化成品は物価並みに値が上がり、利益率は 16% で落ち着く。機能化学品は、化粧品原料と親水性材料の採用が少しずつ増える。
営業利益は今期予想の 1.5 倍ほどで、年 4% 台の伸びだ。物価の 3% に、実質の成長が少し乗った姿である。配当と自社株買いで、利益の半分を返す。強気ではあるが、三つの事業のうち一つは計画に届かない前提を含んでいる。
- 電子材料:数量 2.4(出荷量(千トン・推定))× 価格 161(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 384 億円・営業利益 90 億円。売上 384 億円・営業利益率 23.5%
- 化成品:数量 13.6(出荷量(千トン・推定))× 価格 13(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 182 億円・営業利益 29 億円。売上 182 億円・営業利益率 16.0%
- 機能化学品:数量 2.0(出荷量(千トン・推定))× 価格 67(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 131 億円・営業利益 25 億円。売上 131 億円・営業利益率 19.0%
倍率:事業の純利益 102 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.0% が k 7.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.1%、10 年より先の名目の伸び g 3.7% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.9 倍。全体の PER 16.85 倍、時価総額 1,719 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:半導体の需要が堅調で、新設備が計画どおり動く筋書き。起こる材料はそろっているが、一部が計画に届かない前提を含む。
中立 38% 中立:物価の上昇に、ゆるやかな実質の成長が乗る 利益 89 億円 · PER 16.1 倍 · 株価時価総額 7,060 円1,436 億円
電子材料は、半導体の数量が実質で年 4〜5% 伸びるのに合わせて増え、数量は今の 1.6 倍になる。値段は物価並みに上がる。利益率は、今の 2 割強の山から 22% に均す。途中で一度は在庫調整がくるが、10 年ではならして伸びる。
化成品は、数量が横ばいで、値段は物価並みに上がる。他社の撤退による残存者利益は薄れ、利益率は 15% に戻る。機能化学品は、数量が年 3% で増え、利益率は 17.5% とする。
営業利益は今期予想の 1.3 倍の 125 億円。物価に実質 2% が乗った姿で、年 3% 台の伸びだ。借金がなく利益の半分を返し、手元の現金は積み上がる。優良だが、成長の速い会社ではない。ROE は 10% ほどで、資本コストをわずかに上回る。
- 電子材料:数量 2.2(出荷量(千トン・推定))× 価格 161(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 358 億円・営業利益 79 億円。売上 358 億円・営業利益率 22.0%
- 化成品:数量 13.3(出荷量(千トン・推定))× 価格 13(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 179 億円・営業利益 27 億円。売上 179 億円・営業利益率 15.0%
- 機能化学品:数量 1.8(出荷量(千トン・推定))× 価格 67(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 122 億円・営業利益 21 億円。売上 122 億円・営業利益率 17.5%
倍率:事業の純利益 89 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.0% が k 7.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.6%、10 年より先の名目の伸び g 3.7% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.1 倍。全体の PER 16.13 倍、時価総額 1,436 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:半導体の山と谷をならして、会社の力が市場並みに伸びる筋書き。電子材料の優位は続くが、利益率は今の山から均す。
やや悲観 21% ArF の頭打ちと中国勢の追い上げ 利益 52 億円 · PER 13.0 倍 · 株価時価総額 3,719 円756 億円
半導体の投資が一服し、ArF 原料の数量は伸び悩む。EUV 用でも、顧客が別の原料先を使い始め、大有機のシェアが下がる。電子材料の数量は今の 1.15 倍にとどまり、値段も物価に届かない。利益率は 17.5% に下がる。
酒田の新設備は、稼働率が上がらず、減価償却が重くのしかかる。化成品は、中国の汎用品に押されて数量が減り、利益率が 11% に下がる。機能化学品は、伸びても市場並みにとどまる。
営業利益は今期予想の 8 割にとどまる。ROE は 6% 台で、資本コストを下回る。倍率も縮み、時価総額は今を割り込む。三つの事業のうち少なくとも二つが期待に届かない、現実的な弱気の姿だ。
- 電子材料:数量 1.6(出荷量(千トン・推定))× 価格 150(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 240 億円・営業利益 42 億円。売上 240 億円・営業利益率 17.5%
- 化成品:数量 12.2(出荷量(千トン・推定))× 価格 13(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 159 億円・営業利益 18 億円。売上 159 億円・営業利益率 11.0%
- 機能化学品:数量 1.5(出荷量(千トン・推定))× 価格 65(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 98 億円・営業利益 14 億円。売上 98 億円・営業利益率 14.0%
倍率:ROE 6.5%で k を下回るので、PER の上限は 1÷k の 12.9 倍。減価償却の重い設備と顧客の分散を見込み、上限より低い 13.04 倍に置いた。
確率:最先端の技術の入れ替わりや中国の国産化は、10 年では現実味のある話で、一部が起きる程度の筋書き。
悲観 11% 構造的な負け:原料の優位が崩れ、新設備が重荷になる 利益 20 億円 · PBR 0.5 倍 · 株価時価総額 1,254 円255 億円
金属系レジストなどモノマーを使わない方式が広がり、中国の国産化も進む。大有機は ArF と EUV の両方で、顧客の囲い込みを失う。電子材料の数量は今を下回り、値段も上がらない。利益率は 1 割を割る。
酒田の新設備は、稼働率が上がらないまま重い減価償却を負い、一部を減損する。化成品は、汎用品の価格競争で利益率が 6% まで下がる。機能化学品も、育ちきらない。
営業利益は今の 4 割台にとどまる。ROE は 4% を割り、もう優良会社の評価は付かない。それでも借金はなく、純現金が残る。会社が傾くわけではないが、株主にとっては、10 年かけて価値が減る、つらい展開である。
- 電子材料:数量 1.2(出荷量(千トン・推定))× 価格 138(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 163 億円・営業利益 15 億円。売上 163 億円・営業利益率 9.0%
- 化成品:数量 10.6(出荷量(千トン・推定))× 価格 12(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 128 億円・営業利益 8 億円。売上 128 億円・営業利益率 6.0%
- 機能化学品:数量 1.3(出荷量(千トン・推定))× 価格 60(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 77 億円・営業利益 6 億円。売上 77 億円・営業利益率 8.0%
倍率:構造的な負けで優良ではなくなる姿。稼ぐ力(純利益 20 億円÷k で約 260 億円)と、純現金 145 億円のうち大きい方に近い水準として、今の自己資本 497 億円に 0.513 倍を掛けた(やや悲観の PER 12.0 倍を超えないよう、PBR を 0.55 から 0.48 に下げた。純現金 145 億円の床よりは大きい)。ためた利益には掛けていない。
確率:顧客の少数化、中国の国産化、技術の入れ替わり、設備の過大投資が重なる場合。優良ではなくなる姿で、確率は低いが十分ある。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
電子材料
半導体のレジスト(ArF・EUV)用モノマー、子会社の高純度特殊溶剤など。顧客はレジストメーカー数社。
| 数量出荷量(千トン・推定) | 価格1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/11 | 1.4 | 120 | 167 | 31 |
| 10 年後 中立 | 2.2 | 161 | 358 | 79 |
取り方:2025/11 期の電子材料の売上は約 167 億円(全社の 45%)。ArF 原料で世界の約 7 割というシェアは、この中の一部に当てはまる。出荷量は開示が無いので、高純度の特殊モノマーの平均単価を 1 キログラムで 1.2 万円ほどと置いて割り、約 1,400 トンと推定した(品目の混ぜ方で幅が大きい)。営業利益は開示を確かめられず、上期の増益率から逆算した推定。 数量は実質(半導体材料の数量が実質で年 4〜5% 伸びるとみた)。
化成品
アクリル酸エステルなどの汎用・特殊品。顧客は塗料・粘着剤・インクのメーカー。
| 数量出荷量(千トン・推定) | 価格1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/11 | 13.3 | 10 | 133 | 20 |
| 10 年後 中立 | 13.3 | 13 | 179 | 27 |
取り方:開示は金額だけなので、売上約 133 億円を、1 キログラムで千円ほど(特殊品を含むアクリル酸エステルの平均)と置いて割り、出荷量を約 1.3 万トンと推定した。営業利益は上期の増益率から逆算した推定。
機能化学品
化粧品原料、機能性ポリマー、医療・バイオ向けの親水性材料など。
| 数量出荷量(千トン・推定) | 価格1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/11 | 1.4 | 50 | 68 | 13 |
| 10 年後 中立 | 1.8 | 67 | 122 | 21 |
取り方:2025/11 期の機能化学品の売上は約 68 億円(全社の 18%)。開示は金額だけなので、化粧品原料や機能性ポリマーの平均単価を 1 キログラムで五千円ほどと置いて割り、出荷量を約 1,350 トンと推定した(品目で単価の差が大きく幅がある)。営業利益は上期の増益率から逆算した推定。
リスクと懸念
利益が半導体の山にある
今期の営業利益は前期の 1.5 倍で、営業利益率は 2 割を超える。この水準は、AI 投資と価格転嫁が重なった結果だ。半導体の投資が一服し、在庫調整が来ると、原料の出荷は 1〜2 年落ちる。利益の半分前後を電子材料が稼ぐため、全社の利益はその分だけ大きく振れる。
最先端の技術が入れ替わる
ArF から EUV への移行は、今のところ原料の需要を足している。ただし JSR が買った Inpria のように、モノマーを使わない金属系レジストも育っている。主流が入れ替われば、大有機の ArF 原料の優位は薄れる。10 年で見ると、いちばん大きな不確実性だ。
顧客がレジストメーカー数社に偏る
電子材料の売上は、レジストを作る数社に集まる。個別の顧客の比率は開示から確かめられなかったが、数社が調達先を分けたり、自社で原料を作ったりすれば、価格交渉力が落ちる。中国の国産化も、長い目では脅威だ。
酒田の新設備が重荷になる
酒田の投資額は 1 年足らずで 100 億円から 200 億円に倍増し、完成は 2028〜29 年に遅れた。需要が弱い時に完成すれば、重い減価償却だけが利益を削る。稼働の立ち上がりと投資の回収が、中計の後半の焦点になる。
化成品の残存者利益が薄れる
化成品の利益率が戻ったのは、他社の撤退と値上げの追い風があったからだ。景気が崩れれば塗料・インク向けの量が落ち、中国の汎用品との競争も強まる。会社自身も、下期は価格転嫁の効果が薄れ、伸びが鈍ると見ている。
三宝化学研究所との提携の実り
議決権の約 3 分の 1 を出資した三宝化学研究所とは、モノマーと感光材の共同設計を狙う。ただし共同開発の権利は別の契約で決める必要があり、出資が成果に結びつく保証はない。取得額も公表されておらず、投資としての重さは読み切れない。
今後の分かれ目
- 半導体メーカーの設備投資が減り、レジスト原料の在庫調整が報じられたら
- 電子材料の数量の前提を下げ、やや悲観の確率を上げる。
- 金属系などモノマーを使わないレジストが、先端品の量産で採用されたら
- 電子材料の長期の数量と利益率の前提を下げ、悲観の確率を引き上げる。
- 酒田の新設備が前倒しで動き、新しい大口顧客の採用が発表されたら
- 電子材料の数量の前提を上げ、楽観・やや楽観の確率を引き上げてよい。
- 電子材料の営業利益率が 25% を超えて定着したら
- 中立の利益率の前提を上げる。ただし倍率は上限を超えさせない。
- 酒田の投資額がさらに膨らむか、稼働が大きく遅れたら
- 減価償却の重さを利益率に織り込み、やや悲観側の確率を上げる。
- レジストメーカーが大有機に出資するか、買収を提案したら
- 価値の水準は買収価格で決まる。事業の見通し自体は変えず、確率ではなく別の前提で見直す。
見ておくもの
- 電子材料の売上と営業利益率(四半期)
- ArF と EUV の原料の数量(会社の説明)
- 酒田の新設備の投資額と完成時期
- 化成品の営業利益率(価格転嫁の効果が薄れる下期以降)
- 三宝化学研究所との共同開発の成果
- 配当性向と自社株買いの実績(中計の 40% 目安)
倍率と資本コストの決め方
3 つのセグメントを、電子材料と機能化学品は市場×取り分(物価は価格指数に分離)、化成品は推定した出荷量で積み、利益率から営業利益を出した。資本コストは基本 7.5%+quality+0.25%(半導体の循環+0.5、値決め力−0.5、顧客の偏りと技術の入れ替わり+0.25)の 7.75%。倍率は g 4%・ROE 10% から出した正当化 PER の 8.8 割(中立 13.0 倍)で、今の PER には寄せていない。結果は総合でおよそ 3 割の割高だが、これは今の利益が山にあり、10 年の営業利益の伸びが物価+実質 2% にとどまるため。強気の筋書きを厚くすれば結論は動くので、確率の置き方(上 30%・下 32%)を debate.verdict に書いた。悲観は稼ぐ力と純現金に近い水準で、過去の PBR の底からは置いていない。製造業でリース負債は小さく、新リース会計基準の影響は限定的とみて、数字は今と同じ形(家賃を費用に入れた形)で置いた。 2026-10-22 の見直し(R1〜R4)で倍率・時価総額を機械で置き直した(前後は notes/audit/fix_stage2_20261022.csv)。
資本コスト 7.2% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality +0.25% を足して 7.75%。設備の過大投資や顧客の偏りは k に足さず、悲観の筋書きと確率で厚く見た。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 7.75% → 7.25%。