結論
大阪ソーダは、塩素と電気分解を土台にした化学会社である。売上の4割を占める基礎化学品が土台で、売上の15%にすぎないヘルスケアが営業利益の4割近くを稼ぐ。そのヘルスケアの中身は、肥満症治療薬など医薬品の精製に使うシリカゲルだ。世界シェアは6〜7割とされる。
筆者の結論は、強い会社だが今の値段は先を行きすぎている、というものだ。2026年3月期の営業利益は176億円で、益率は17.6%と過去最高になった。この益率には、水島工場の供給障害が解けた反動と、エピクロルヒドリンの海外市況の追い風が混じる。この上振れが10年続くとは見ない。
一方で、ヘルスケアの伸びは本物だ。尼崎と松山に100億円超の新棟を建て、能力を2倍以上にする。需要の裏づけがあるから踏み切れる投資である。筆者は、この部門の量が10年で2倍強に育つと見る。それでも償却と競争で益率は下がり、全社の営業利益は10年かけて300億円前後に届く程度だ。
中立の10年後は、ROEが11%台で資本コストを3ポイントほど上回る。確率で重みづけた本質価値は、今の時価総額を25%下回り、「やや割高」と出た。中期計画が総還元性向70%以上へ引き上げた点は評価できる。ただ、その還元の厚みも、今の値段の高さを埋めるほどではない。
バリュー投資の観点から
この会社を長く持ちたいかと聞かれたら、ヘルスケアの部分だけなら持ちたい、と筆者は答える。
理由は、切り替えの難しい消耗品を、世界の6〜7割で供給していることにある。顧客は変える手間を嫌い、値段より品質を見る。こういう事業は、一度築いた立場が長く続く。しかも、新棟の投資は、需要の裏づけを得てから踏み切るやり方で、見栄の投資ではない。
ただし、会社の利益の6割は別の部門から来ている。基礎化学品は、今の高い益率が戻る前提で見るべきだ。ここを永続の収益として評価すると、持ち主の利益を過大に見積もる。
資本の使い方には、変化が見える。40%だった総還元性向を、70%以上へ上げた。現金を貯め込む会社が、返す会社へ変わろうとしている。この変化が本物なら、持ち主にとって大きな前進だ。
安全域は、今の値段にはほとんど無い。需要の読み違えと中国勢の追い上げが重なる筋書きまで考えると、払う値段は低くあるべきだ。肥満症治療薬という新しい市場が、10年後も同じ形で続くかどうかは、筆者には読み切れない。確信度を下げ、筋書きの幅を広げて評価した。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの源は4つの部門に分かれる。
基礎化学品は、売上の約4割を占める土台である。塩水を電気分解して苛性ソーダと塩素を作り、塩素を使ってアリルクロライドを経由し、エピクロルヒドリン(エポキシ樹脂の原料)へつなげる。苛性ソーダの国内能力は4位だ。この部門は市況品で、益率が大きく振れる。2024年3月期の営業利益は2億円、2026年3月期は62億円と、2年で27倍になった。
機能化学品は、売上の約3割だ。自動車のホースに使うエピクロルヒドリンゴム「エピクロマー」やアリル樹脂など、世界の小さな市場で上位のシェアを持つ品が並ぶ。益率は16%前後で安定している。
ヘルスケアは、売上の15%ながら営業利益の4割近くを稼ぐ。主力は、医薬品の精製工程に使うシリカゲル「ダイソーゲル」だ。薬の有効成分は、不純物と一緒に作られる。それを分けて取り出すのに、粒の細かいシリカゲルを詰めた筒を使う。肥満症治療薬のようなペプチド医薬は、この精製の量が多く、需要を押し上げている。新棟のほか、核酸・ペプチド向けのポリマーゲルや原薬・中間体にも手を広げる。
商社部門ほかは、売上の16%で益率は6%と低い。製品を持たず、顧客の情報と新事業の種を拾う役割が大きい。
優良さと弱いところ
堀は部門ごとに質が違う。いちばん強いのはヘルスケアだ。
医薬品の精製は、一度承認された工程の部材を変えにくい。薬の品質が変わるからだ。使う会社にとって、シリカゲルの値段は薬の価値に比べて小さい。品質が悪いと薬がだめになるので、実績のある材料を使い続けやすい。この切り替えの難しさが、世界首位級のシェアを支える堀である。競合にはYMCや富士シリシア化学などがいる。
機能化学品は、小さな市場で上位を取る品の集まりだ。堀は中くらいで、自動車の電動化で一部の用途は変わりうる。
基礎化学品に堀はない。苛性ソーダは電力コストと需要で決まり、EPは中国の増設に値を押さえられる。今の高い益率は、堀ではなく追い風だと筆者は見る。
ROEは過去10年の中央値が9%台で、2026年3月期は12%まで上がった。財務は強く、自己資本比率は76%、純現金は416億円ある。経営は、従来の総還元性向40%を70%以上へ上げた。資本を抱え込まず戻すという方針転換は評価できる。弱点は、利益の柱がシリカゲルという単一の用途に偏ることと、その用途の需要が肥満症治療薬という新しい市場に依存することだ。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
ヘルスケアの市場は、薬の種類が変わる大きな流れの中にある。肥満症治療薬を含むペプチド医薬は、化学合成で作るため、精製の工程でシリカゲルを大量に使う。核酸医薬も同じ構図だ。需要は実質で年8%前後伸びるとみる。ただし、10年後も同じ勢いが続く保証はない。精製の工程が変われば、使う量も変わる。
競合には、YMCや富士シリシア化学などの充填剤メーカーがいる。中国勢が品質を上げれば、中位の用途から入ってくる恐れがある。会社が先制的に能力を増やすのは、この追い上げに備え、顧客を囲い込む狙いもある。
基礎化学品は、構造的に厳しい業界にいる。苛性ソーダは、アルミナやパルプなど国内の需要先が縮み、輸出に頼る部分が増える。EPは、中国が大規模に増設しており、世界で供給が過剰だ。2026年は中東情勢でナフサが跳ねて、一時的に市況は上向いた。しかし、これは供給の制約によるもので、構造を変えるものではない。化学業界のノートが置く前提どおり、基礎化学品は10年を通じて価格の天井が低い。
機能化学品は、自動車向けが中心で、台数と電動化の影響を受ける。ゴムの用途は、燃料系から空調系へ移る動きが進む。
全体として、利益の重心が基礎化学品からヘルスケアへ移る10年になる。そのヘルスケアの需要と、中国勢の出方が、会社の分かれ目である。
資本政策と M&A
還元の方針は、大きく変わった。2030年度までの中期計画は、総還元性向70%以上を掲げる。前の計画は40%だった。ここ数年は、利益の多くを内部に残し、純現金が416億円まで積み上がった。この積み上げを、今後は還元へ回す。2025年11月と2026年5月には、立会外取引で自己株式を取得した。自己株式の比率は約8%にのぼる。
投資は先行している。尼崎と松山の新棟に100億円超を使い、2027年11月から2028年2月に完成する。営業キャッシュフローは5年で約1,100億円を見込み、還元と投資の両方をこれで賄う。
確認できた範囲では、大型の買収は見当たらない。会社は自前の技術で伸びてきた。中期計画も、ポリマーゲルや原薬・バイオ医薬の分野は、自前の拡張が中心である。買う側としての失敗リスクは小さい。一方、株主構成を見ると、筆頭は信託銀行で、支配株主は見当たらない。10年以内に買収される確率は、外部の推計で17%ほどとされる。世界首位級の精製材料は、大手の買い手にとって魅力のある資産だろう。
点検済み:中立の営業利益率19.5%は会社予想(27・28年3月期18.8〜19.0%)に近く、事業別は基礎化学11%・機能化学16.1%・ヘルスケア42.9%・商社5.3%と今以下で、超えは利益率の高いヘルスケアの構成比の上昇。数字は据え置く。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
ヘルスケアは、需要が先に見えている。肥満症治療薬は、世界の製薬会社が増産を競う分野で、その精製に使うシリカゲルは、品質が命の部材だ。世界シェア6〜7割の会社が、100億円超を投じて能力を2倍以上にする。能力を2倍にする規模の投資は、需要の見通しがなければ踏み切れない。新棟は2027年末から2028年初に稼働し、その時点から営業利益は一段上がる。
しかも、能力増強は始まりにすぎない。核酸・ペプチド向けのポリマーゲル、原薬・中間体の拡大、バイオ医薬への進出と、精製材料の周りに事業が広がる。世界首位の立場を使って、売上の15%の部門が全社の利益の半分を担うようになる。
基礎化学品も、強靭化の投資で益率を支える。電解のコストを下げ、ACからEPへのつながりを深めれば、市況が悪くても利益を残せる。2026年3月期に益率は15%まで上がっており、体質は変わった可能性がある。
財務は純現金で、自己資本比率は76%ある。総還元性向70%以上の方針に切り替わった今、持ち主が受け取る利益の割合も上がる。全固体電池向けの材料が2030年に事業化すれば、さらに上乗せになる。営業利益300億円の目標は、現実的である。
慎重な見方
今の利益は、いちばん良い年のものだ。2026年3月期の営業利益率17.6%は、過去30年の最高である。利益の3分の1は基礎化学品で、この部門は2年前には2億円しか稼げなかった。供給障害の解消と海外市況の追い風が重なった年を、基準にしてはいけない。EPは中国の増設で、苛性ソーダは国内需要の縮小で、益率が元に戻る力が働き続ける。
ヘルスケアは、強いが単一だ。利益の柱が医薬精製用シリカゲルにあり、その需要は肥満症治療薬の勢いに支えられている。精製の工程が変わる、または需要の伸びが想定より遅れれば、能力を2倍にした新棟は、稼働の立ち上がりが遅れ、償却の負担だけが先に来る。中国のメーカーが品質を上げれば、中位の用途から入ってくる。
中期計画の営業利益300億円は、5年で70%増という高い目標だ。達成の確度は高くない。
株価の面でも、会社の世界首位級という評判と肥満症治療薬の話題性が、先の成長を織り込んでいる。10年の期待収益は、資本コストの8%に届かない。強い会社であることと、割安であることは別だ。
どちらに重みを置いたか
ヘルスケアの質と投資の裏づけは、強気の見方に分がある。一方、全社の益率の高さが供給障害の反動と海外市況に支えられている点は、慎重な見方が正しい。中立では、ヘルスケアが量を2倍強に伸ばしても、基礎化学品が平常の益率へ戻るので、営業利益は10年かけて300億円前後に届く程度とした。確率は、中立を最も厚く35%とし、需要の剥がれと競争を合わせたやや悲観・悲観に36%を置いた。強気側は、能力増強が埋まる筋書きにやや楽観として21%を置いた。結果は、今の時価総額を25%下回る「やや割高」である。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 2,941 円3,545 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 909 円1,095 億円)。 今の値に割り戻すと 2,101 円2,532 億円、今との差 +7.7%、 期待の年率 +7.0%(資本コスト 7.2%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 5,258 円6,336 億円 | 1,207 円1,455 億円 | +231.4% | +12.7% | 517 円623 億円 |
| やや楽観 | 21% | 4,322 円5,209 億円 | 1,112 円1,340 億円 | +178.5% | +10.8% | 1,141 円1,375 億円 |
| 中立 | 35% | 3,643 円4,391 億円 | 1,050 円1,266 億円 | +140.6% | +9.2% | 1,643 円1,980 億円 |
| やや悲観 | 24% | 1,117 円1,346 億円 | 776 円935 億円 | −3.0% | −0.3% | 454 円547 億円 |
| 悲観 | 12% | 581 円700 億円 | 207 円250 億円 | −59.6% | −8.7% | 95 円114 億円 |
| 加重平均 | 100% | 2,941 円3,545 億円 | 909 円1,095 億円 | +97.3% | +7.0% | 3,850 円4,640 億円 |
今の株価時価総額 1,951 円2,351 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.2% を下回るほど割高。
楽観 8% 精製材料の需要が想定を超え、基礎化学品も強靭化が実る 利益 314 億円 · PER 19.4 倍 · 株価時価総額 5,258 円6,336 億円
肥満症治療薬に続き、核酸医薬やペプチド医薬の量産が立ち上がり、医薬精製用シリカゲルの需要が増強後の能力を超える。尼崎・松山の新棟はフル稼働し、追加の増設も決まる。ポリマーゲルとバイオ医薬向けの新製品が、世界首位の精製材料の上に積み上がる。
基礎化学品は、電解とAC・EPチェーンの強靭化が実る。国内の苛性ソーダの縮小を輸出と値上げで補い、益率は13%を保つ。機能化学品はエピクロマーが世界で伸び、全固体電池向けの材料も小さく事業化する。
会社は今の2倍を超える稼ぐ力を持ち、総還元性向60%台の還元が続く。自己資本は厚みを増し、ROEは14%近くに上がる。
- 基礎化学品(苛性ソーダ・エピクロルヒドリン・アリルクロライドなど):数量 82.0(出荷重量(万トン。苛性ソーダ・EP・AC・関連品の推定合計。実質の数量))× 価格 6.99(1 トンあたりの平均単価(万円、名目))→ 売上 573 億円・営業利益 75 億円。益率 13%。電解と AC・EP の強靭化が効く
- 機能化学品(エピクロマー・ダイソーダップ・電子材料など):数量 17.0(出荷重量(万トン、推定。実質の数量))× 価格 28(1 トンあたりの平均単価(万円、名目))→ 売上 475 億円・営業利益 85 億円。益率 18%。エピクロマーが世界で伸びる
- ヘルスケア(医薬精製用シリカゲル・ポリマーゲル・原薬中間体・医薬品):数量 3.0(対象市場の実質規模(億ドル)× 自社シェア(精製材料・原薬中間体の取り分の実質額))× 価格 1.34(価格の指数(今を 1.0 とする名目の値段))→ 売上 603 億円・営業利益 271 億円。益率 45%。能力増強が満杯になる
- 商社部門ほか(化学品・資材の販売):数量 75.0(取扱量(万トン換算、推定。実質の数量))× 価格 2.80(1 トンあたりの平均販売額(万円、名目))→ 売上 210 億円・営業利益 14 億円。益率 6.5%
倍率:事業の純利益 310 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 16.1% が k 7.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 11.7%、10 年より先の名目の伸び g 3.7% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 19.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 19.4 倍 + 余った現金(戻り方込み)300 億円。全体の PER 19.4 倍、時価総額 6,310 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:能力増強の完全な稼働、新用途(ポリマーゲル・バイオ医薬)の立ち上がり、基礎化学品の強靭化が揃う必要がある。実現すれば大きいが、揃う確度は高くない。
やや楽観 21% 中期計画に近い形で、ヘルスケアが利益の半分を担う 利益 260 億円 · PER 19.0 倍 · 株価時価総額 4,322 円5,209 億円
中期計画の骨格がほぼ実現する。ヘルスケアは新棟が計画どおり稼働し、精製材料の世界シェアを保ったまま量を伸ばす。益率は償却の増加でやや下がるが、それでも4割台に残る。ポリマーゲルや原薬も少しずつ利益に加わる。
機能化学品は、エピクロマーなど既存品のシェア拡大で緩やかに伸びる。益率は17%前後を保つ。基礎化学品は、電解の電力コストを転嫁でき、EPも海外市況に支えられて、益率は12%前後を保つ。
営業利益は、2030年度の計画値に届かないまでも、そこへ近づいて10年を終える。還元は総還元性向60%台が続き、ROEは12%台になる。
- 基礎化学品(苛性ソーダ・エピクロルヒドリン・アリルクロライドなど):数量 80.0(出荷重量(万トン。苛性ソーダ・EP・AC・関連品の推定合計。実質の数量))× 価格 6.78(1 トンあたりの平均単価(万円、名目))→ 売上 543 億円・営業利益 65 億円。益率 12%
- 機能化学品(エピクロマー・ダイソーダップ・電子材料など):数量 15.5(出荷重量(万トン、推定。実質の数量))× 価格 27(1 トンあたりの平均単価(万円、名目))→ 売上 415 億円・営業利益 70 億円。益率 17%
- ヘルスケア(医薬精製用シリカゲル・ポリマーゲル・原薬中間体・医薬品):数量 2.5(対象市場の実質規模(億ドル)× 自社シェア(精製材料・原薬中間体の取り分の実質額))× 価格 1.34(価格の指数(今を 1.0 とする名目の値段))→ 売上 502 億円・営業利益 221 億円。益率 44%
- 商社部門ほか(化学品・資材の販売):数量 71.0(取扱量(万トン換算、推定。実質の数量))× 価格 2.80(1 トンあたりの平均販売額(万円、名目))→ 売上 199 億円・営業利益 12 億円。益率 6.0%
倍率:事業の純利益 256 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 15.1% が k 7.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 11.2%、10 年より先の名目の伸び g 3.7% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 19.0 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 19.0 倍 + 余った現金(戻り方込み)300 億円。全体の PER 18.96 倍、時価総額 5,150 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:医薬精製の需要が会社の増強計画どおり伸びる筋書き。世界シェアの高さと増強の先行投資を踏まえ、同じ領域の会社より少し厚めに置いた。
中立 35% 中立:能力増強は埋まるが、基礎化学品は平常の益率へ戻る 利益 222 億円 · PER 18.5 倍 · 株価時価総額 3,643 円4,391 億円
ヘルスケアは新棟が稼働して量が2倍強になり、利益の最大の源泉であり続ける。ただし償却が増え、競合の追い上げもあって、益率は今より少し下がる。ポリマーゲルや原薬は育つが、全体を動かすほどの規模にはならない。
基礎化学品は、2026年3月期の益率15%を支えた追い風が剥がれ、益率は11%前後に戻る。苛性ソーダの国内需要は縮み、EPは中国の供給過剰に抑えられる。機能化学品とその他は、物価並みに伸びる。
中期計画の営業利益300億円は、10年かけて到達する水準になる。還元は総還元性向の目標より低い66%を見る。ROEは11%台に乗る。
- 基礎化学品(苛性ソーダ・エピクロルヒドリン・アリルクロライドなど):数量 78.0(出荷重量(万トン。苛性ソーダ・EP・AC・関連品の推定合計。実質の数量))× 価格 6.78(1 トンあたりの平均単価(万円、名目))→ 売上 529 億円・営業利益 58 億円。益率 11%。今の 15% は戻らない
- 機能化学品(エピクロマー・ダイソーダップ・電子材料など):数量 14.6(出荷重量(万トン、推定。実質の数量))× 価格 26(1 トンあたりの平均単価(万円、名目))→ 売上 385 億円・営業利益 62 億円。益率 16%を保つ
- ヘルスケア(医薬精製用シリカゲル・ポリマーゲル・原薬中間体・医薬品):数量 2.2(対象市場の実質規模(億ドル)× 自社シェア(精製材料・原薬中間体の取り分の実質額))× 価格 1.30(価格の指数(今を 1.0 とする名目の値段))→ 売上 429 億円・営業利益 184 億円。益率 43%。償却の増加で今よりやや低い
- 商社部門ほか(化学品・資材の販売):数量 68.0(取扱量(万トン換算、推定。実質の数量))× 価格 2.80(1 トンあたりの平均販売額(万円、名目))→ 売上 190 億円・営業利益 10 億円。益率 5.5%
倍率:事業の純利益 218 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 14.0% が k 7.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.6%、10 年より先の名目の伸び g 3.7% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 18.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 18.5 倍 + 余った現金(戻り方込み)300 億円。全体の PER 18.48 倍、時価総額 4,325 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:能力増強は埋まるが、2026年3月期の基礎化学品の益率は供給障害の解消と海外市況の追い風を含み、そのまま続かないという中心の見方。
やや悲観 24% 精製材料に競争が及び、基礎化学品も中国勢に押される 利益 116 億円 · PER 9.0 倍 · 株価時価総額 1,117 円1,346 億円
医薬精製の需要は伸びるが、中国のシリカゲル・充填剤メーカーが品質を上げ、顧客の値下げ要請が強まる。新棟は動くものの、稼働の立ち上がりが遅れ、償却の負担だけが先に来る。ヘルスケアの益率は3割台へ下がる。
基礎化学品は、中国のEP増設と国内苛性ソーダの縮小で、益率が6%台に落ちる。機能化学品でも、自動車向けのゴムが価格競争にさらされ、益率は12%まで下がる。
営業利益は今の水準を大きく割り込み、ROEは資本コストを下回る。それでも自己資本比率は高く、純現金も残るので、存続の不安はなく、配当は保つ。総還元性向70%の方針は守れず、実際の還元は利益の7割に近い水準にとどまる。中期計画の300億円は、10年たっても届かない。
- 基礎化学品(苛性ソーダ・エピクロルヒドリン・アリルクロライドなど):数量 74.0(出荷重量(万トン。苛性ソーダ・EP・AC・関連品の推定合計。実質の数量))× 価格 6.26(1 トンあたりの平均単価(万円、名目))→ 売上 463 億円・営業利益 30 億円。益率 6.5%。EP と苛性ソーダが中国勢の増設に押される
- 機能化学品(エピクロマー・ダイソーダップ・電子材料など):数量 13.5(出荷重量(万トン、推定。実質の数量))× 価格 25(1 トンあたりの平均単価(万円、名目))→ 売上 337 億円・営業利益 40 億円。益率 12%
- ヘルスケア(医薬精製用シリカゲル・ポリマーゲル・原薬中間体・医薬品):数量 1.6(対象市場の実質規模(億ドル)× 自社シェア(精製材料・原薬中間体の取り分の実質額))× 価格 1.15(価格の指数(今を 1.0 とする名目の値段))→ 売上 267 億円・営業利益 91 億円。益率 34%。値下げ圧力と償却
- 商社部門ほか(化学品・資材の販売):数量 64.0(取扱量(万トン換算、推定。実質の数量))× 価格 2.71(1 トンあたりの平均販売額(万円、名目))→ 売上 174 億円・営業利益 8 億円。益率 4.5%
倍率:事業の ROE 6.9% は k 7.25% を下回る。伸びても価値は増えないので正当化 PER は 1÷k = 12.5 倍が上限(ためた利益は額面未満)。競争の侵食で堀が薄れ、基礎化学品の益率も落ちているため、上限の約 7 割の 9.0 倍に置いた。
確率:中国勢の追い上げと基礎化学品の市況悪化が部分的に起きる筋書き。基礎が利益の3分の1を占め、益率の振れが大きいので厚めに置いた。
悲観 12% 精製の需要が剥がれ、増設設備と基礎化学品が重荷になる 利益 30 億円 · PBR 0.5 倍 · 株価時価総額 581 円700 億円
ペプチド精製の工程が変わる、または肥満症治療薬の需要が想定を大きく下回り、増設した精製材料の設備が過剰になる。新棟と基礎化学品の設備で、数百億円の減損が出る。
基礎化学品は、中国の供給過剰が極まってEPが原価割れとなり、国内の苛性ソーダも縮んで、赤字に近い益率に沈む。機能化学品の差別化も崩れ、価格が下がる。全社の稼ぐ力は、今の2割に落ちる。
ただし純現金と土地・投資有価証券は残り、価値はそれらの資産が下から支える。配当は最低限にとどまり、自己株式の取得は止まる。経営は新事業の立ち上げどころではなく、設備の整理と固定費の削減に追われる。投資家は、世界首位級という評判の割に稼げない会社として見直す。
- 基礎化学品(苛性ソーダ・エピクロルヒドリン・アリルクロライドなど):数量 62.0(出荷重量(万トン。苛性ソーダ・EP・AC・関連品の推定合計。実質の数量))× 価格 5.48(1 トンあたりの平均単価(万円、名目))→ 売上 340 億円・営業利益 3 億円。益率 1%。国内の苛性ソーダが縮み EP も原価割れ
- 機能化学品(エピクロマー・ダイソーダップ・電子材料など):数量 11.0(出荷重量(万トン、推定。実質の数量))× 価格 22(1 トンあたりの平均単価(万円、名目))→ 売上 241 億円・営業利益 14 億円。益率 6%
- ヘルスケア(医薬精製用シリカゲル・ポリマーゲル・原薬中間体・医薬品):数量 1.0(対象市場の実質規模(億ドル)× 自社シェア(精製材料・原薬中間体の取り分の実質額))× 価格 1.00(価格の指数(今を 1.0 とする名目の値段))→ 売上 150 億円・営業利益 27 億円。益率 18%。増設設備が余る
- 商社部門ほか(化学品・資材の販売):数量 56.0(取扱量(万トン換算、推定。実質の数量))× 価格 2.50(1 トンあたりの平均販売額(万円、名目))→ 売上 140 億円・営業利益 4 億円。益率 3%
倍率:赤字に近く稼ぐ力では値が付かないので、純現金と売れる資産の税後 700 億円(今の自己資本 1,285 億円の約 5 割 5 分)を今の自己資本に掛ける形で置いた。
確率:ヘルスケアの需要が剥がれて新棟が過剰になり、基礎化学品の損失と重なる複合の筋書き。単一の用途への依存と投資の先行を見て、同領域の平均並みに置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
基礎化学品(苛性ソーダ・エピクロルヒドリン・アリルクロライドなど)
電解で作る苛性ソーダと、アリルクロライド(AC)からエピクロルヒドリン(EP)へつながる塩素・アリル系の基礎原料。国内では水島・松山・尼崎の工場で作る。
| 数量出荷重量(万トン。苛性ソーダ・EP・AC・関連品の推定合計。実質の数量) | 価格1 トンあたりの平均単価(万円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 80.0 | 5.22 | 417 | 62 |
| 10 年後 中立 | 78.0 | 6.78 | 529 | 58 |
取り方:開示は金額だけなので、苛性ソーダ(国内 4 位の能力)と EP・AC・関連品の出荷を合計 80 万トンと推定し、売上 417 億円を割った平均単価を価格とした。EP は中国の増設に抑えられ、苛性ソーダは国内需要が縮むので、価格は物価並みに届かない前提(10 年で 1.30 倍)。
機能化学品(エピクロマー・ダイソーダップ・電子材料など)
エピクロルヒドリンゴム「エピクロマー」(自動車の燃料系・空調ホースなど)、アリル樹脂、電子・光学向けの材料など。世界の小さな市場で高いシェアを持つ品が多い。
| 数量出荷重量(万トン、推定。実質の数量) | 価格1 トンあたりの平均単価(万円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 14.0 | 20 | 279 | 46 |
| 10 年後 中立 | 14.6 | 26 | 385 | 62 |
取り方:売上 279 億円を、ゴム・樹脂・電子材料の出荷合計 14 万トンの推定で割って平均単価を置いた。自動車の台数と電動化で数量は緩やかに伸び、価格は特殊品のため物価並み(1.32 倍)。
ヘルスケア(医薬精製用シリカゲル・ポリマーゲル・原薬中間体・医薬品)
医薬品の精製工程(クロマトグラフィー)に使うシリカゲル「ダイソーゲル」が中核。肥満症治療薬などペプチド医薬の精製に使われ、世界シェアは約 6〜7 割とされる。原薬・中間体の受託や医薬品も含む。
| 数量対象市場の実質規模(億ドル)× 自社シェア(精製材料・原薬中間体の取り分の実質額) | 価格価格の指数(今を 1.0 とする名目の値段) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1.0 | 1.00 | 146 | 72 |
| 10 年後 中立 | 2.2 | 1.30 | 429 | 184 |
取り方:精製材料・原薬中間体の対象市場を実質で約 1.5 億ドルと置き、自社の取り分を約 65% とみて 0.976 億ドル(150 円で 146 億円)。市場は肥満症治療薬・核酸医薬で実質年 8% 前後伸び、新棟で能力は 2〜2.5 倍になる。価格は物価並みを基本に置き、競争のある筋書きでは下げる。数量は実物(新棟で能力が 2〜2.5 倍になる分に沿う)で、名目の市場の伸びを置いたものではない。価格は物価の 1.34 倍以下。
商社部門ほか(化学品・資材の販売)
子会社を通じた化学品・資材などの販売。メーカーとしての製品を持たず、利益率は低いが、顧客の情報と新事業の種を拾う役を持つ。
| 数量取扱量(万トン換算、推定。実質の数量) | 価格1 トンあたりの平均販売額(万円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 75.0 | 2.09 | 156 | 9 |
| 10 年後 中立 | 68.0 | 2.80 | 190 | 10 |
取り方:売上 156 億円を、取扱量 75 万トン換算の推定で割った。国内の化学品需要は縮むので数量は漸減、価格は物価並み。
リスクと懸念
ヘルスケアが単一の用途と顧客に偏る
営業利益の4割近くが、医薬精製用シリカゲルという1つの用途に集まる。その需要は、肥満症治療薬を作る大手の製薬会社や受託製造会社の投資に左右されるとみられる。需要の伸びが想定より遅れれば、増設した設備が空いたまま、償却だけが重くのしかかる。
新棟の稼働の遅れと投資の回収
尼崎・松山の新棟は100億円超で、2027年11月から2028年2月に完成する。能力を2倍以上にしたあと、需要が追いつくまでの数年は、利益率が下がる。投資の回収は、顧客との長期契約と稼働の速さにかかっている。
中国勢の追い上げ
中国のシリカゲル・充填剤メーカーが品質を上げれば、中位の用途から入ってくる。価格競争が精製材料にも及べば、世界首位級のシェアを保っても、益率は下がる。会社は先制的な増強で備えるが、守り切れる保証はない。
基礎化学品の益率が元に戻る
2026年3月期の益率15%は、供給障害の解消と海外市況の追い風を含む。EPの中国増設と、苛性ソーダの国内需要の縮小は構造的で、益率は10%前後に戻る力が働く。今の利益を基準にすると、全社の稼ぐ力を過大に見る。
精製の工程が変わる技術リスク
ペプチド医薬の精製は、今はシリカゲルによる分離が主流だ。結晶化や膜分離など別の方法が広がれば、使う量が減る。この可能性は低くないが、時期は読めない。10年という長さでは、無視できない。
投資の先行と還元の両立
総還元性向70%以上を掲げつつ、設備投資と新事業にも資金を使う。営業キャッシュフローは5年で約1,100億円を見込むが、需要が伸びなければ、還元か投資のどちらかを削る場面が来る。純現金が厚いので存続の不安はないが、方針の信頼性は試される。
円高と海外市況の振れ
EPと苛性ソーダの一部は輸出で、海外市況とドル円の影響を受ける。モデルは150円で固定したが、実際に円高が進めば、基礎化学品の利益は想定より下がる。
今後の分かれ目
- 新棟が計画どおり稼働し、顧客との長期の供給契約が増えたら
- ヘルスケアの量が早く埋まる筋書きとして、やや楽観・楽観の確率を上げる。
- 中国のシリカゲルメーカーが、ペプチド医薬の大型工程で採用を広げたら
- 世界首位級の価格決定力が崩れ始めたとみて、やや悲観側の確率を上げる。
- 肥満症治療薬の製造が大きく伸び悩み、精製材料の発注が減ったら
- 新棟が過剰になる悲観の筋書きの確率を上げ、ヘルスケアの量の想定を下げる。
- EPと苛性ソーダの市況が、供給障害の解消後も高止まりを続けたら
- 基礎化学品の益率が戻らない前提に近づき、中立の益率を引き上げて見直す。
- 自己株式の取得や増配が、総還元性向70%の線で実際に続いたら
- 還元の方針が本物とみて、中立の還元の合計を上方に見直す。
- 全固体電池向けの材料が、2030年の事業化目標どおり量産の段階に入ったら
- 新事業の上乗せがあるとして、楽観の筋書きの確率を上げる。
見ておくもの
- ヘルスケア部門の四半期の営業利益と、新棟の完成・稼働の時期
- EP・苛性ソーダの海外市況と、国内のエチレン・塩素系設備の再編
- 総還元性向70%以上の実行(配当と自己株式の取得の額)
- 医薬精製用シリカゲルの顧客の大型契約と、中国メーカーの採用動向
- ポリマーゲル・原薬・バイオ医薬の立ち上がり
- 中期計画の営業利益300億円・ROE15%の進捗
倍率と資本コストの決め方
基礎化学品は出荷重量×単価、機能化学品は出荷重量×単価、ヘルスケアは市場×シェアの実質額×価格指数で積んだ。数量は実質、価格は名目で、中立は物価並み(基礎化学品は中国の過剰で 1.30 倍、ヘルスケアも 1.30 倍)に置いた。k は 7.5% に quality +0.5% を足した 8.0%。倍率は利益ベースの正当化 PER の上限の 7〜9 割で置き、今の PER・過去の PBR の底は使っていない。悲観は赤字に近いので、純現金と売れる資産から値を置いた。余った現金 300 億円は、事業の純利益と分けて足した。数字の形は今と同じ(家賃を営業費用に入れる形)で、自社工場中心のためリースの影響は小さい。最後に今の時価総額と比べ、差は −25%。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 14.3→19.4 倍・やや楽観 PER 13→18.96 倍・中立 PER 11.8→18.48 倍)。
資本コスト 7.2% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。