結論
戸田工業は、微粒子の合成技術を武器に、AIサーバー向けの電子部品材料や自動車用の磁石材料、顔料を作る材料メーカーだ。売上は280億円。
筆者の結論は、今の値段は高いというものだ。事業は改善しているが、借入の重さがそれを打ち消す。
2026年3月期は、営業利益が9億円と、前期の6億円の赤字から黒字に戻った。AIサーバー向けの誘電体材料は過去最高の売上になり、2027年3月期の第1四半期も営業利益が32%増えた。ただし最終損益は35億円の赤字で、継続企業の前提に関する注記は付いていない。赤字の主因は、BASFとの電池材料の合弁事業を手放すことによる約30億円の損失と、持分法の損失11億円だ。
財務は重い。借入は251億円で、自己資本の2.8倍。営業利益で利息を賄う倍率は2倍にとどまり、金利が3%台に上がれば負担が増える。配当は出せていない。
過去12期のうち7期は最終赤字だった。直近の改善を認めても、利益が定着する確証はまだない。
10年後の営業利益率は4%台と置いた。過去12年の最高(7.1%)より低い。借入の利息を引くと、株主に残る利益は薄く、今の時価総額97億円は、その回復を先取りした値段と見る。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、戸田工業は「技術はあるが、財務が重く、利益が定着していない会社」だ。
よい商売の条件を順に見る。10年後も存在するか。MLCCも磁石も顔料も用途は続くので、存在はする。堀は広がるか。微粒子の合成技術は強みだが、収益に結びつかない年が長く続いてきた。経営は資本を上手に使うか。ここに最大の問題がある。電池材料の合弁で30億円を超える損失を出し、配当も出せていない。
オーナー利益、つまり設備投資を引いて自由に使える利益は、平常で年数億円。借入の利息を払うと、ほとんど残らない。営業CFは年33億円出ているが、設備投資と借入の返済に回る。
安全域はどうか。自己資本は90億円で、時価総額97億円とほぼ同じ。ただし、借入が251億円あり、自己資本の約2.8倍の借金を負っている。売れる資産は投資有価証券と土地で75億円ほど。借入の返済に先に回るので、少数株主の取り分にはならない。
筆者は、ここに安全域はないと見る。結論として、技術の評価はできても、値段に余裕はない。
何で稼ぐ会社か
戸田工業は、化学の微粒子を湿式合成する技術を核にした材料メーカーだ。売上は280億円で、報告セグメントは2つ。
機能性顔料は売上78億円。祖業の着色材料、トナーや記録材に使う材料、触媒向け材料、CO2を分離回収する環境関連材料を作る。2026年3月期の部門営業利益は15億円で、利益率は19%と高い。
電子素材は売上約202億円で、会社の主力だ。AIサーバーや自動車に使われる積層セラミックコンデンサ(MLCC)用の誘電体材料、自動車のモーターやセンサに使う磁石材料、軟磁性材料を作る。誘電体は150nm以下の微粒子に特化し、顧客が使いやすい分散体の形で出すことも目指している。部門営業利益は22億円。
このほか、リチウムイオン電池の正極材料は、BASFとの合弁会社で作っていた。持分法適用会社のため売上には入らず、赤字が連結の足を引っ張った。2026年2月に、会社はこの持分をBASF側へ譲渡し、合弁を解消することを決めた。
全社費用が重い。研究開発費14億円を含む全社費用が28億円あり、部門利益の合計37億円の4分の3にあたる。
海外は米国の子会社(戸田アドバンストマテリアルズ)の解散・清算を決めた。
顧客は電子部品メーカー、自動車部品メーカー、記録材・トナーのメーカーなど。中期経営計画は「Vision2026」で、事業ポートフォリオの見直しを軸に、成長分野の磁石材料と誘電体材料に資源を集める方針だ。
優良さと弱いところ
堀、つまり他社がまねできない強みは、微粒子の合成技術にある。150nm以下の誘電体材料は、MLCCの小型化・大容量化で求められる水準が高く、顧客が使いやすい分散体で出せる点も差になる。2026年3月期の誘電体は過去最高の売上だった。
ただし、この強みが全体の利益に結びついていない。全社の営業利益率は過去12年で、2022年3月期の7.1%が最高。ほかは4%以下で、赤字も多い。電子素材のうち磁石と軟磁性は、中国の同業との競争が激しい。
資本効率は低い。ROE(自己資本に対する純利益の割合)は直近でマイナス38%。10年の中央値もマイナスで、特別損失や減損が毎期のように出てきた。
財務は弱い。自己資本比率は19%(2027年3月期の第1四半期末は22%)。借入251億円に対し、現金は73億円。営業利益で支払利息を賄う倍率は2倍にとどまる。
手元の資産は厚く、投資有価証券が43億円、土地が55億円ある。ただし借入の返済が先で、少数株主への分配は限られる。
弱点は3つ。借入の重さ、全社費用の重さ、中国勢との価格競争だ。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
電子素材は、成長と競争の両方がある市場だ。
MLCCは、スマートフォンやAIサーバー、自動車の電装化で、搭載数が増え続けている。小型で大容量のコンデンサが求められ、材料の粒子は細かく均一なほうがよい。AIサーバーは1台あたりの搭載数が多く、需要は当面強い。ただし、MLCCは景気で在庫調整の波が来る。2026年3月期は、同社の誘電体が過去最高の売上になった。
磁石材料と軟磁性材料は、自動車のモーターやセンサ向けで、新車販売の減少と電動化の遅れで数量が伸びにくい。中国の同業は価格が低く、日本勢のシェアを削っている。
電池材料は、EV市場の成長鈍化で、正極材料の合弁事業が赤字だった。同社は撤退を決めた。
顔料は成熟市場だが、触媒向け材料や記録材は好調で、値上げも通っている。価格是正と原価低減で、利益率は19%まで上がった。
競争は、MLCC材料では国内外の同業が相手になる。同社の強みは微粒子の細かさだが、価格交渉力は強くない。
物価が上がる局面では、原材料とエネルギーのコストも上がる。顔料のように値上げが通る分野は守られるが、電子素材は中国勢の価格圧力で転嫁が一部にとどまる。
資本政策と M&A
資本政策は、守りが続いている。配当は2025年3月期も2026年3月期も出ておらず、2027年3月期も無配の予想だ。自社株は約31万株を保有する。
借入の返済が最優先課題だ。借入は251億円で、短期88億円、1年以内に返す長期が43億円、長期が119億円。支払利息は年4.5億円で、平均金利は約1.8%と低いが、借り換えで3.5%に上がれば利息は年8億円を超える。
設備投資は2026年3月期に12億円と、前期の31億円から大きく減らした。減価償却は年5.5億円。
電池材料の合弁の譲渡が、財務の鍵になる。譲渡損失の引当は30億円で、出資金の帳簿価額(64億円)から引くと、約33億円が回収の目安になる(推定。譲渡金額は短信に書かれていない)。実行日は監督官庁の認可で延び、2026年8月とされた。入金があれば、借入が減り、持分法の損失(10億円規模)も消える。
TOBや買収の確率は、市場の推計で1割台半ばある。ただし、噂の段階であり、価値には織り込まない。
政策保有株に近い投資有価証券が43億円ある。評価益で自己資本は増えたが、売却して借入を返す方針は明確でない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
この会社は、ようやく底を打った。
2026年3月期は営業利益が9億円と、前期の6億円の赤字から黒字に戻った。第1四半期も営業利益は32%増え、通期予想の37%まで進んだ。原価低減と価格是正が効いている。
AIが追い風になる。AIサーバーは1台あたりに載るMLCCの数が多く、小型・大容量の要求は強まる一方だ。同社の誘電体は150nm以下の微粒子に特化し、過去最高の売上を記録した。この需要は10年続く。
電池材料の合弁を譲渡することで、持分法の損失(10億円規模)が消え、借入も減る。事業ポートフォリオを成長分野に集中する方針は明確だ。
顔料は価格是正が通り、利益率は19%に上がった。触媒向けや記録材も好調。
全社費用が重いのは確かだが、売上が伸びれば固定費の負担は薄まる。営業利益率が6%に乗れば、純利益は18億円になり、今の時価総額の2割弱だ。さらに誘電体が主役になれば、利益は数倍に伸びる。
財務の不安は、合弁の譲渡代金と営業CFの返済で、数年で和らぐ。10年後に利益が数倍になれば、今の値段は割安だった、と言える。
慎重な見方
この会社は、利益が定着しない。
過去12期のうち7期が最終赤字。営業利益率が4%を超えたのは2期だけ。2026年3月期の黒字は、前期の赤字からの戻りにすぎず、水準は低い。純損失は35億円で、合弁の損失と持分法の損失が主因だが、特別損失が毎期のように出てきたことも事実だ。
財務は危うい。借入251億円は自己資本の2.8倍。営業利益で利息を賄う倍率は2倍にとどまる。金利が3%台に上がれば、利息が年4億円ほど増え、営業利益の半分近くが消える。配当は出せていない。
電子素材のうち、磁石材料と軟磁性材料は中国勢の価格攻勢で苦戦している。誘電体が伸びても、その稼ぎは全社費用28億円と利息に吸い上げられる。
合弁の譲渡代金は金額が開示されておらず、実行日も延びた。入金が遅れれば、借入の返済も遅れる。
AI向けの需要は波がある。MLCCの在庫調整が来れば、誘電体の売上は一気に減る。
予想の数字は例外であり、平常の利益は直近に近い。倍率が低くて当然である。
どちらに重みを置いたか
強いのは、微粒子の合成技術と、AI向けの誘電体の伸び、顔料の高い利益率だ。弱いのは、借入の重さ、全社費用の重さ、利益が定着しない過去である。
筆者は、10年後の営業利益率を4%台に置いた。市場予想の2028年3月期の水準を10年保つ姿で、過去12年の最高(7.1%)を大きく下回る。
確率は、中立の38%を中心に、悲観側(やや悲観25%、悲観10%)を、楽観側(やや楽観20%、楽観7%)より厚くした。赤字の連続と借入の重さという具体的な根拠があるためだ。悲観の確率を1割にとどめたのは、営業CFが年30億円台と出ており、借入の返済が続く見通しがあるからである。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 2,086 円121 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 170 円10 億円)。 今の値に割り戻すと 950 円55 億円、今との差 −41.0%、 期待の年率 +3.4%(資本コスト 9.5%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 7% | 7,582 円439 億円 | 691 円40 億円 | +413.9% | +17.8% | 579 円34 億円 |
| やや楽観 | 20% | 3,621 円210 億円 | 346 円20 億円 | +146.4% | +9.4% | 793 円46 億円 |
| 中立 | 38% | 1,813 円105 億円 | 138 円8 億円 | +21.2% | +1.9% | 742 円43 億円 |
| やや悲観 | 25% | 461 円27 億円 | 0 円0 億円 | −71.4% | −11.8% | 115 円7 億円 |
| 悲観 | 10% | 264 円15 億円 | 0 円0 億円 | −83.6% | −16.5% | 26 円2 億円 |
| 加重平均 | 100% | 2,086 円121 億円 | 170 円10 億円 | +40.1% | +3.4% | 2,256 円131 億円 |
今の株価時価総額 1,610 円93 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 9.5% を下回るほど割高。
楽観 7% AIサーバー向けの誘電体が10年伸び、電子素材が主役になる 利益 33 億円 · PER 12.6 倍 · 株価時価総額 7,582 円439 億円
MLCCは、AIサーバーと自動車の電装化で、小型・大容量の要求が強まり続ける。150nm以下の微粒子に特化した誘電体材料が、顧客の高性能品で選ばれ、電子素材の販売量は10年で8割増える。単価も物価に近い1.35倍まで上がる。
磁石材料と軟磁性材料も、モーターの小型化で持ち直す。中国勢との差は、微粒子の品質で保つ。
顔料は、触媒向けと記録材の好調が続き、利益率は20%台に乗る。
全社の営業利益率は8%台。過去の最高(7.1%)を超えるのは、需要の質が変わった姿だ。
電池材料の合弁事業の譲渡で、持分法の損失は消え、借入も減る。配当を再開し、10年の還元は40億円。
設備投資は年10億円台で、減価償却は少しずつ増える。それでも増収で吸収できる。
- 機能性顔料:数量 22.0(年間の販売量(千トン))× 価格 52(1トンあたりの平均販売価格(万円))→ 売上 115 億円・営業利益 23 億円。営業利益率 20.0%
- 電子素材:数量 14.4(年間の販売量(千トン))× 価格 341(1トンあたりの平均販売価格(万円))→ 売上 492 億円・営業利益 64 億円。営業利益率 13.0%
倍率:事業の純利益 33 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 16.6% が k 9.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 13.1%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.6 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.6 倍。全体の PER 12.61 倍、時価総額 416 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:AI向けMLCCの需要が長く続き、同社の微粒子が高性能品で選ばれ続け、自動車用の磁石も持ち直す必要がある。過去に営業利益率が8%を超えたのは1999年が最後で、確度は高くない。
やや楽観 20% 誘電体が伸び、全社費用の削減も効いて利益率が6%に乗る 利益 18 億円 · PER 11.1 倍 · 株価時価総額 3,621 円210 億円
誘電体の販売量は10年で5割増え、単価は物価より低い1.30倍。中国勢との競争で価格転嫁が一部にとどまる。
磁石材料は自動車の電動化に合わせて緩やかに戻り、軟磁性材料は新規テーマの獲得で伸びる。
顔料は安定した利益を出す。
全社の営業利益率は6%台。2022年3月期の7.1%を超えない。全社費用は研究開発費を保ちつつ、物価より低い伸びに抑える。
電池材料の合弁の損失がなくなり、借入も減る。純利益は18億円。
配当は再開し、性向は低く、10年の還元は20億円。
借入は返済が進み、金利負担も軽くなる。ただし中国勢の価格圧力は残り、電子素材全体の利益率は1割強にとどまる。誘電体の増収が全体を引き上げる形だ。
- 機能性顔料:数量 21.0(年間の販売量(千トン))× 価格 52(1トンあたりの平均販売価格(万円))→ 売上 110 億円・営業利益 21 億円。営業利益率 19.0%
- 電子素材:数量 12.0(年間の販売量(千トン))× 価格 329(1トンあたりの平均販売価格(万円))→ 売上 395 億円・営業利益 45 億円。営業利益率 11.5%
倍率:事業の純利益 18 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.9% が k 9.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.2%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 11.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.1 倍。全体の PER 11.06 倍、時価総額 199 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:2026年3月期の営業利益は黒字に戻り、2027年3月期の第1四半期は営業利益が32%増えた。誘電体は過去最高の売上で、改善は偶然ではない。ただし過去12年で6%を超えたのは1度だけ。
中立 38% 誘電体は伸びるが、価格競争と全社費用で利益率は4%台にとどまる 利益 10 億円 · PER 10.5 倍 · 株価時価総額 1,813 円105 億円
誘電体の販売量は10年で3割半増え、単価は物価に届かない1.25倍。電子素材全体は、磁石・軟磁性での中国勢との競争で、利益率が10%に張りつく。
顔料は物価並みの1.34倍まで値上げし、利益率は18%を保つ。
全社の営業利益率は4%台。市場予想の2028年3月期(営業利益率4%程度)の水準を、10年を通して維持する姿だ。全社費用は人員と物価で10年に25%増える。
減価償却は年5〜6億円と小さく、物価で増やさない。更新の投資は年10億円台でまかなえる。
電池材料の合弁事業の譲渡により、持分法の損失が消え、借入も減る。純利益は約10億円。
配当は低い性向で再開し、10年の還元は8億円。借入の返済が先になる。
- 機能性顔料:数量 20.0(年間の販売量(千トン))× 価格 52(1トンあたりの平均販売価格(万円))→ 売上 105 億円・営業利益 19 億円。営業利益率 18.0%
- 電子素材:数量 10.8(年間の販売量(千トン))× 価格 316(1トンあたりの平均販売価格(万円))→ 売上 341 億円・営業利益 34 億円。営業利益率 10.0%
倍率:事業の純利益 10 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 6.6% が k 9.50% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 10.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 10.5 倍。全体の PER 10.53 倍、時価総額 101 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:黒字化と受注の戻りは事実だが、過去12年のうち営業利益率が4%を超えたのは2期にとどまり、赤字も多い。改善を認めつつ、水準は低く見る。
やや悲観 25% 誘電体は伸びても、磁石と全社費用の重さで利益率が1〜2%に張りつく 利益 3 億円 · PER 7.5 倍 · 株価時価総額 461 円27 億円
中国勢の低価格品に押され、磁石材料と軟磁性材料の単価が物価に届かない。電子素材の価格上昇は1.15倍にとどまる。誘電体の増収も、その分を打ち消す。
顔料は数量が1割弱減り、利益率も17%に下がる。
全社費用は研究開発費の負担が重く、削減が進まない。営業利益は8〜9億円で、直近と同じ水準に張りつく。
借入の金利が3.5%に上がり、利息が利益を食う。純利益は約3億円。
配当は出せず、利益は借入の返済に回る。還元はゼロ。
2023年3月期のような黒字化の年は混ざるが、赤字の年も続く。
自己資本は毎年少しずつ増えるが、配当を出せず、株主への還元は進まない。誘電体は伸びても、磁石と軟磁性の弱さ、重い全社費用、借入の利息が、その成果をほぼ吸い上げる。
- 機能性顔料:数量 19.0(年間の販売量(千トン))× 価格 49(1トンあたりの平均販売価格(万円))→ 売上 93 億円・営業利益 16 億円。営業利益率 17.0%
- 電子素材:数量 8.8(年間の販売量(千トン))× 価格 291(1トンあたりの平均販売価格(万円))→ 売上 256 億円・営業利益 24 億円。営業利益率 9.5%
倍率:ROEは約2%で資本コストを大きく下回り、PERの上限は1÷k(約10倍)。借入が重く赤字の期も多いため上限の約75%の7.5倍に置いた。EV(時価総額+純負債178億円)÷営業利益は約23倍と高く、利益の倍率だけでは割安と言えない。売れる資産(投資有価証券と土地)が借入の返済に先に回る点も踏まえ、これより高くは置かない。
確率:2024〜2025年3月期は営業利益が1億円前後か赤字だった。中国勢の価格攻勢と自動車の減産が重なれば、直近の水準にも届かない。
悲観 10% 合弁の損失と借入の重さで、事業の再編を迫られる 利益 −8 億円 · PBR 0.2 倍 · 株価時価総額 264 円15 億円
自動車の磁石材料と軟磁性材料が、中国勢の台頭で大きく縮む。電池材料の合弁事業は譲渡したが、米国の戸田アドバンストマテリアルズの整理に続き、さらに設備の整理が出る。
電子素材の販売量は4割減り、利益率はほぼゼロになる。顔料は安定して利益を出すが、全社費用を賄えない。
借入は自己資本の2倍近くあり、金利が上がれば利息が重くのしかかる。取引銀行は返済の猶予に応じるが、配当はなく、設備投資も絞る。
ここで効くのが、投資有価証券(約43億円)と土地(約55億円)などの売れる資産だ。ただし、借入の返済が先で、少数株主には売却益の一部しか残らない。事業の再編で、少数株主の取り分は小さい。
- 機能性顔料:数量 17.0(年間の販売量(千トン))× 価格 45(1トンあたりの平均販売価格(万円))→ 売上 76 億円・営業利益 10 億円。営業利益率 13.0%
- 電子素材:数量 4.8(年間の販売量(千トン))× 価格 266(1トンあたりの平均販売価格(万円))→ 売上 128 億円・営業利益 0 億円。営業利益率 0.0%
倍率:稼ぐ力は赤字で、床の資産が上回る。売れる資産(投資有価証券と土地の税引き後で約75億円)から借入の返済に回る分を引くと、少数株主に残るのは自己資本90億円の約17%の15億円とした。
確率:2016〜2017年・2020〜2021年・2024〜2026年3月期と、赤字の連続が10年に3回あった。借入は自己資本の2倍で、金利上昇に弱い。確率は1割とした。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
機能性顔料
酸化鉄などの着色材料、記録材・トナー用材料、触媒向け材料、環境関連材料。同社の祖業。
| 数量年間の販売量(千トン) | 価格1トンあたりの平均販売価格(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 20.0 | 39 | 78 | 15 |
| 10 年後 中立 | 20.0 | 52 | 105 | 19 |
取り方:2026年3月期の部門売上78.2億円を、顔料と記録材・触媒向け材料の平均価格を1トン約39万円と置いて販売量に直した推定(年2万トン)。部門営業利益は短信の14.98億円(前期比48%増)。全社費用はセグメントに配分されていない。
電子素材
積層セラミックコンデンサ(MLCC)用の誘電体材料、自動車モーターやセンサ用の磁石材料、軟磁性材料。電池材料は合弁会社(持分法)にあり売上に入らない。
| 数量年間の販売量(千トン) | 価格1トンあたりの平均販売価格(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 8.0 | 253 | 202 | 22 |
| 10 年後 中立 | 10.8 | 316 | 341 | 34 |
取り方:2026年3月期の売上280.4億円から顔料の78.2億円を引いた約202.3億円(短信本文の20,726百万円は合計と合わず、差し引きで置いた)を、微粒子の高付加価値品の平均価格を1トン約250万円として販売量に直した推定(年8千トン)。部門営業利益は短信の21.51億円(前期比78%増)。
リスクと懸念
借入の重さと金利
借入250億円は自己資本の約2.8倍にのぼり、営業利益で利息を賄う倍率は約2倍。借り換えで金利が3.5%に上がれば、利息が年4億円ほど増える。配当は出せていない。
電池材料の合弁解消の完了
BASFとの合弁(BTBM)の出資持分の譲渡は、監督官庁の認可で実行日が延び、2026年8月とされた。譲渡金額の最終確定と代金の入りが遅れれば、借入の返済も遅れる。
中国勢との競争
磁石材料と軟磁性材料は、中国の同業との競争が厳しく、2026年3月期は苦戦した。価格の下落が続けば、電子素材の利益率が戻らない。
自動車の需要
磁石材料はモーターやセンサ向けで、自動車の新車販売の減少と電動化の遅れが数量を削る。
全社費用の重さ
研究開発費14億円を含む全社費用が28億円あり、部門利益の合計37億円の4分の3にあたる。売上が伸びても、費用が増えれば利益は残らない。
誘電体材料の顧客集中
MLCCは世界でも大手数社が主な顧客で、AIサーバー向けの需要が一巡したり、顧客が内製化や他社への切り替えを進めたりすれば、受注が急減する。
赤字の常態化
直近12期のうち7期で純損失を計上した。特別損失や減損が繰り返し、自己資本が削られてきた。
今後の分かれ目
- 2027年3月期の営業利益が10億円を超えて着地し、翌期も増益を続けたら
- 誘電体の伸びが本物とみて、やや楽観・楽観の確率を厚くする。
- 電池材料の合弁の譲渡代金が入り、借入が目に見えて減ったら
- 財務の不安が和らぐとみて、資本コストの借金の上乗せを下げる。
- 磁石材料・軟磁性材料の数量が回復せず、電子素材の利益率が10%を割ったら
- 中国勢との競争が深刻とみて、悲観寄りに見直す。
- 借入の金利が3.5%を超えて借り換えが進み、利息が営業利益の半分を超えたら
- 財務の悪化を重く見て、悲観の確率を厚くする。
- 配当を再開し、方針が示されたら
- 財務の回復を確認したとみて、還元の額を引き上げる。
見ておくもの
- 四半期の営業利益と電子素材の利益率
- 誘電体材料の売上(AIサーバー向け)
- 借入残高と金利
- 電池材料の合弁の譲渡代金の入り
- 全社費用と研究開発費
倍率と資本コストの決め方
今の株価は見ずに、顔料と電子素材の販売量×平均単価で10年後の利益を積んだ。顔料は販売量1.0倍、単価は物価の1.34倍、部門利益率18%。電子素材は販売量1.35倍、単価は中国勢との競争で1.25倍、部門利益率10%。全社費用は物価に届かない25%増の35億円。営業利益率は4%台で、過去12年の最高(7.1%)を大きく下回る。純利益÷営業利益は、合弁の損失が消え、特別損失が出ない前提で約0.5にした。減価償却は物価で増やさない。借入の利息は3.5%の借り換えを入れた。倍率はROEが資本コスト(10%)に届かないため、1÷kの約75%に置いた。堀は普通と判断した。今の時価総額と比べたのは最後。新リース会計基準の影響は小さい。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 10→12.61 倍・やや楽観 PER 9→11.06 倍・中立 PER 7.5→10.53 倍)。
資本コスト 9.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。