結論
有沢製作所は、スマートフォンの中で折れ曲がる細い配線板(FPC)の材料で稼ぐ会社だ。売上の半分強がこの材料で、台湾の子会社ThinFlexを含めて世界の大手に納める。残りは水処理用の圧力容器、航空機の内装パネル、医療用の3D材料である。筆者の結論は、会社の中身は確かによくなっているが、10年の本質価値は今の時価総額を3割余り下回る、というものだ。理由は、稼ぎの主役が成熟したモバイル向けで、値段を自分で決めにくいことにある。
追い風は本物だ。AIサーバーや半導体向けの基板材料が伸び、水処理と航空機も需要が強い。会社は2030年3月期に営業利益85億円を掲げ、足元は計画を上回る。ただ半導体向けの材料はまだ売上の1割に届かない。全社を引っ張るには小さい。
資本政策は株主に優しい。総還元性向80%以上を掲げ、持ち合い株を売って設備に回した。一方で自己資本比率を50%まで下げる方針で、これから借り入れは増える。利益の質は、特別利益を除くと見かけより低い。
10年後の中立は、純利益で今の1.4倍ほどの70億円前後、倍率は12倍ほどだ。10年の還元を足し、資本コストで今の価値に割り引くと、今の時価総額に届かない。割り引いても上回るのは楽観の筋書きだけだ。本質価値の目安は今の時価総額の7割近くで、判定は「割高」である。楽観側の確率が3割強あっても、結論は動かない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の目で見ると、有沢は「悪くない会社が、割高な値段で売られている」例に近い。事業は10年後も残る。FPC材料も、水処理の容器も、航空機の内装も、需要がなくなる事業ではない。
問題は、堀が深くないことだ。営業利益率が1割ほどの材料メーカーが、顧客に値段を決められる立場で、設備投資を続ける。投じたお金が資本コストを大きく超えて稼ぐ保証はない。オーナー利益、つまり設備の維持に必要な分を引いて株主に残る利益は、純利益の7割ほどと見る。
経営の資本の使い方は、ほぼ合格だ。持ち合い株を売り、本業の設備へ移した。還元も惜しまない。ただ自己資本比率を50%に下げると、景気の谷で利息の重さが増す。安全域を取るなら、その分を倍率から引く必要がある。
筆者が最も慎重になるのは、特別利益込みの純利益に引かれやすい点だ。直近の純利益は、関連会社株式の売却益と助成金で膨らんでいる。繰り返す利益は40億円前後と見るのが妥当で、そこから10年で70億円前後へ伸びる。これに12倍をかけ、還元を足して今の価値に割り引いても、今の時価総額に届かない。安全域は、見当たらない。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの柱はFPC用の材料で、売上の約55%を占める。FPCは薄くて曲がる配線板で、スマートフォンのカメラや画面、電池まわりをつなぐ。有沢は、配線を守るカバーレイ(保護膜)や、層を貼り合わせるボンディングシート、銅を張った積層板を作り、FPCメーカーに売る。うち4割弱は台湾の連結子会社ThinFlexの分だ。FPC向けの7割超はモバイル用である。
同じ電子材料に、半導体の基板に使うICGCとプリプレグ、プリント配線板がある。ICGC・プリプレグの売上は28億円とまだ小さいが、AIサーバー向けの需要で最も伸びが速い。岐阜県の可児工場に約100億円を投じ、能力を増やしている。
もう一つの柱が産業用構造材料だ。海水淡水化などに使う逆浸透膜を収めるFRP製の圧力容器と、航空機内装用のハニカムパネルが中心である。売上は137億円で電子材料の4割弱だが、利益は29億円と電子材料の35.6億円に迫る。利益率が2割を超え、全社の利益の質を支えている。
ディスプレイ材料は、医療用モニター向けの3D材料と、AR・VR向けの偏光部材を扱う。映画館向けの3Dは先細りで、売上は前期に2割近く減った。新しい用途を探している段階だ。
共通の技術は「織る」「塗る」「形づくる」である。ガラス繊維を織り、樹脂を塗り、パネルや容器に成形する。顧客は世界のFPCメーカー、半導体基板メーカー、水処理の機器メーカー、航空機の内装メーカーだ。
優良さと弱いところ
有沢の強みは、織り、塗り、成形までを自社で一貫する技術と、顧客の認定を通った実績だ。FPC材料は世界の大手に採用され、水処理の圧力容器は高い耐圧が必要で、航空機の内装は難燃の認証が要る。切り替えは簡単ではない。
ただ筆者は、堀、つまり他社がまねできない強みは、強くはないと見る。利益の中心であるFPC材料には、日鉄ケミカル&マテリアルや台湾の同業が並ぶ。売上の半分強が、一つの用途、一つの需要の波に乗っている。営業利益率は直近で10%ほどにとどまり、過去10年では3%台まで落ちた年もある。ROEの10年の中央値は6%に届かない。
この会社は、値段を自分で決めるより、顧客に決められる側にいる。研究開発費は売上の4%ほどで、特許の出願も少ない。会社自身が件数を20件、50件へ増やす目標を立てるほどだ。
経営の姿勢は評価できる。持ち合い株を売って160億円を作り、設備投資に回した。創業家の資産管理会社を吸収し、その自社株を従業員向けの株式報酬に充てる。還元の方針も明確だ。一方で、利益が伸びる局面でも、営業利益の伸びは売上より遅い。稼ぐ力が量に比べて弱いのは、材料メーカーとしての宿命でもある。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
稼ぎの源泉であるFPC材料は、スマートフォンの台数に左右される。台数はすでに成熟しており、これから大きくは増えない。折りたたみ端末やカメラの高機能化でFPCの枚数は増えるが、材料の値段は台湾・中国勢との競争で上がりにくい。FPC向けの銅張積層板では、日鉄ケミカル&マテリアルが2層品で世界首位級にあり、台湾のTaiflexなども力をつけている。
伸びが期待されるのはAI向けの基板材料だ。AIサーバーの基板に使うガラスクロスは、日東紡が世界の大半を握るとされ、2026年末に150億円の新棟が完成する。旭化成も参入する。需給は今は逼迫しているが、増産が進めば落ち着く可能性がある。有沢が割り込める余地は、小さい。
水処理は、世界の水不足と海水淡水化の増設で、圧力容器の市場が年率8%ほどで伸びるとされる。数量の伸びは年5%前後とみてよい。ただ中国の安い容器が増えている。有沢が勝つ余地は、品質の差と北米の拠点の近さだ。
航空機の内装は、旅客の増加と機材の更新で需要が続く。内装メーカーのジャムコや昭和飛行機が、同じ分野の競合になる。
この4つの事業は、需要の波がずれている。スマートフォンが弱い年に、水処理や航空機が支える。反対に、全部がそろって強い年は少ない。10年の中立は、各事業が数量では世の中並みに、価格は物価並みを少し下回るペースで伸びる姿だ。
資本政策と M&A
還元の方針は、自己資本に対する配当率(DOE)6%と総還元性向80%以上の高い方だ。前期は総還元性向80.6%を適用した。ただ来期は純利益が減る見通しで、配当は下がる計算になる。還元は利益に連動する、と見ておくのがよい。
設備投資は2026年度から5年で約280億円。うち約100億円が可児工場のAI向け増強だ。持ち合い株の売却で160億円を作り、その大半を設備に回した。自己資本比率を67%台から50%程度まで下げる方針で、借り入れを使う。金利が3%へ上がる世界では、借り入れの利息が利益を削る。
創業家の資産管理会社を2025年に吸収し、その自社株50万株を自己株にした。売り出されて市場に出る株がなくなり、需給の面ではすっきりした。大株主は信託口が約14〜16%、三菱瓦斯化学が約4.5%を持つ。時価総額が1,000億円に届かず、買収の話が出ても不思議はない。確率は、外部の推計で10年に14%ほどだ。
10年の還元は、株主資本配当率6%と総還元性向80%以上の高い方の方針どおり(中立で80%)。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
AIサーバーの基板需要は、まだ序盤だ。有沢のICGC・プリプレグは前期に3割以上伸び、可児工場の増強で能力が数倍になる。日東紡のガラスクロスは供給が足りず、有沢の材料が使われる余地は大きい。会社は中計を上回る可能性が「非常に高い」としている。AI向けの売上が数年で3倍になれば、利益率の高い電子材料の構成が一気に変わる。
産業用構造材料も強い。世界で水の需要が増え、海水淡水化の設備が増える。有沢の圧力容器は北米の拠点に近く、納期で有利だ。航空機の内装は、旅客の増加と機材の更新が10年続く。この事業は利益率が2割を超えており、利益の質が高い。
政策保有株を売って作った現金は、成長に回されている。財務は無借金に近い。DOE6%か総還元性向80%以上という方針が守られれば、10年の還元だけで今の時価総額の半分以上になる。小型株で認知度が低く、評価の見直しが入る余地もある。
3D材料の医療用途や、燃料電池・車載の材料が立ち上がれば、そこは追加の上振れだ。すべてが噛み合えば、営業利益は180億円近くになり、時価総額は今の2倍近くになりうる。
慎重な見方
利益の過半を支えるFPC材料が、モバイル向けの成熟した市場に縛られている。スマートフォンの台数は伸びず、材料は台湾・中国勢との値下げ競争になる。ThinFlexを傘下に持って規模は得たが、値下がりの波も一緒に受けることになる。営業利益率は10年を通して10%前後で、強い堀とは言えない。
AI向けの基板材料は、有沢が主役になれる市場ではない。日東紡が世界のガラスクロスの大半を握り、150億円で増産する。旭化成も参入する。需給が緩めば、足元の高い単価は続かない。ICGC・プリプレグは売上28億円で、全体の1割にも届かない。
産業用構造材料の利益率は、今期の21%が高すぎる。会社自身が、来期は高利益品が減って減益になると言う。水処理の容器は中国の安値品に押され、航空機の内装も大手に価格を下げられる。
しかも会社は、自己資本比率を50%まで下げる。2%の短期金利と3%の国債の世界で、借り入れの利息は確実に増える。来期の純利益は特別利益が消えて2割減る見込みだ。10年かけて利益が戻っても、倍率は12倍ほどが上限で、今の値段を正当化するのは難しい。
どちらに重みを置いたか
AI基板と水処理という成長の芽は強気の見方に分がある。だがその成長は全社の利益を動かすには小さく、慎重な見方の指摘、つまり主役のFPC材料が成熟していて値段を決められないことが、全体の評価を決める。中立の10年のROEは1割強に乗るが、残る割合を1/2とすると倍率は12倍ほどが上限だ。確率は、AIの追い風と産業材料の強さを楽観側に3割余り置き、FPCの値下がりと中国勢の追随を悲観側に3割台半ば置いた。中立を軸に、慎重な見方をやや強く取った。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 2,933 円962 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,239 円406 億円)。 今の値に割り戻すと 2,202 円722 億円、今との差 −15.5%、 期待の年率 +4.8%(資本コスト 8.0%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 6,628 円2,174 億円 | 2,006 円658 億円 | +231.2% | +12.7% | 863 円283 億円 |
| やや楽観 | 22% | 4,030 円1,322 億円 | 1,518 円498 億円 | +112.8% | +7.8% | 1,221 円400 億円 |
| 中立 | 34% | 3,142 円1,031 億円 | 1,345 円441 億円 | +72.1% | +5.6% | 1,526 円500 億円 |
| やや悲観 | 22% | 1,010 円331 億円 | 936 円307 億円 | −25.4% | −2.9% | 428 円140 億円 |
| 悲観 | 12% | 773 円254 億円 | 345 円113 億円 | −57.1% | −8.1% | 134 円44 億円 |
| 加重平均 | 100% | 2,933 円962 億円 | 1,239 円406 億円 | +60.0% | +4.8% | 4,172 円1,368 億円 |
今の株価時価総額 2,607 円855 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.0% を下回るほど割高。
楽観 10% AI基板と水処理が噛み合い、利益が3倍になる 利益 125 億円 · PER 17.5 倍 · 株価時価総額 6,628 円2,174 億円
10年間でAIサーバーの基板需要が続き、ICGC・プリプレグの売上は数倍に育つ。FPC材料も半導体向けと折りたたみ端末で面積が増え、電子材料の面積は今の1.75倍、営業利益率は13.5%まで上がる。
水処理は世界の水不足と淡水化の増設で、数量が今の1.8倍になる。航空機の内装も旅客の増加を取り込み、産業用構造材料は営業利益率20%を保つ。3D材料は医療用で定着する。
会社は中計を大きく上回り、営業利益は180億円近くに達する。持ち合い株の売却で作った現金が、成長投資へ回り、借り入れは小さいままだ。還元も厚く、DOE6%を超えて総還元性向80%以上が守られる。ThinFlexの値下がりは、半導体向けの構成で相殺される。
- 電子材料(FPC用材料・ICGC・プリプレグ・プリント配線板):数量 3,150(FPC材料・基板材料の販売面積(万平方メートル、推定))× 価格 0.28(1平方メートルあたりの平均単価(万円、名目))→ 売上 866 億円・営業利益 117 億円。面積1.75倍・単価1.38倍、営業利益率13.5%
- 産業用構造材料・電気絶縁材料(水処理FRP容器・航空機内装パネルなど):数量 14,400(構造材料の販売重量(トン、推定))× 価格 230(1トンあたりの平均単価(万円、名目))→ 売上 331 億円・営業利益 68 億円。数量1.80倍・単価1.34倍、営業利益率20.5%
- ディスプレイ材料ほか(3D関連材料・偏光利用部材):数量 288(ディスプレイ用フィルム等の販売面積(万平方メートル、推定))× 価格 0.39(1平方メートルあたりの平均単価(万円、名目))→ 売上 112 億円・営業利益 10 億円。数量1.25倍・単価1.30倍、営業利益率9.0%
倍率:事業の純利益 124 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 18.5% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 13.3%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 17.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 17.5 倍。全体の PER 17.46 倍、時価総額 2,174 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:半導体向けの急成長、水処理の高利益、航空機の追い風が10年続く必要があり、全部がそろう確率は高くない。
やや楽観 22% AI向けが全社の2割まで育ち、産業材料も堅調 利益 85 億円 · PER 15.6 倍 · 株価時価総額 4,030 円1,322 億円
AI向けの材料が全社の2割ほどまで育ち、電子材料の面積は今の1.4倍、営業利益率は12.5%まで上がる。モバイル向けは横ばいだが、半導体向けと車載・ロボット向けの新用途が、量を押し上げる。
産業用構造材料は、水処理の実質成長を年4%で取り込み、営業利益率19%を保つ。航空機の内装は安定して伸びる。ディスプレイ材料は医療用途が戻り、小さな黒字を続ける。
会社は中計の2030年3月期85億円を達成し、その後も物価並みに利益を伸ばす。借り入れで自己資本比率は50%へ下がるが、金利負担は利益で吸収できる。還元は総還元性向80%を保つ。
- 電子材料(FPC用材料・ICGC・プリプレグ・プリント配線板):数量 2,502(FPC材料・基板材料の販売面積(万平方メートル、推定))× 価格 0.26(1平方メートルあたりの平均単価(万円、名目))→ 売上 648 億円・営業利益 81 億円。面積1.39倍・単価1.30倍、営業利益率12.5%
- 産業用構造材料・電気絶縁材料(水処理FRP容器・航空機内装パネルなど):数量 11,600(構造材料の販売重量(トン、推定))× 価格 227(1トンあたりの平均単価(万円、名目))→ 売上 263 億円・営業利益 50 億円。数量1.45倍・単価1.32倍、営業利益率19.0%
- ディスプレイ材料ほか(3D関連材料・偏光利用部材):数量 250(ディスプレイ用フィルム等の販売面積(万平方メートル、推定))× 価格 0.37(1平方メートルあたりの平均単価(万円、名目))→ 売上 93 億円・営業利益 8 億円。数量1.09倍・単価1.25倍、営業利益率8.0%
倍率:事業の純利益 84 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 13.4% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.7%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.6 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.6 倍。全体の PER 15.64 倍、時価総額 1,322 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:AI基板の追い風が長く続き、中計の85億円を超えて伸びる姿。足元の勢いからは十分ありうる。
中立 34% 中立:モバイルは横ばい、水処理と航空機が支える 利益 70 億円 · PER 14.7 倍 · 株価時価総額 3,142 円1,031 億円
モバイル向けFPC材料は台数が横ばいで、面積はほぼ変わらない。半導体向けと新用途が増えて、電子材料の面積は今の1.25倍になる。値段は台湾勢との競争で物価をやや下回り、10年で1.25倍にとどまる。営業利益率は11.5%に上がる。
産業用構造材料は、水処理の実質成長と航空機の需要増で、数量が1.5倍になる。ただ今期の高利益品の構成は薄まり、営業利益率は18%に落ち着く。ディスプレイ材料は医療とARで小さく伸びる。
全社の営業利益は100億円ほどで、中計の85億円は達成するが、その先の伸びは物価並みだ。借り入れで自己資本比率は50%へ下がり、利払いと税で純利益は営業利益の7割弱になる。還元は総還元性向80%を守る。
- 電子材料(FPC用材料・ICGC・プリプレグ・プリント配線板):数量 2,241(FPC材料・基板材料の販売面積(万平方メートル、推定))× 価格 0.25(1平方メートルあたりの平均単価(万円、名目))→ 売上 558 億円・営業利益 64 億円。面積1.25倍・単価1.25倍、営業利益率11.5%
- 産業用構造材料・電気絶縁材料(水処理FRP容器・航空機内装パネルなど):数量 12,000(構造材料の販売重量(トン、推定))× 価格 223(1トンあたりの平均単価(万円、名目))→ 売上 268 億円・営業利益 48 億円。数量1.50倍・単価1.30倍、営業利益率18.0%
- ディスプレイ材料ほか(3D関連材料・偏光利用部材):数量 253(ディスプレイ用フィルム等の販売面積(万平方メートル、推定))× 価格 0.36(1平方メートルあたりの平均単価(万円、名目))→ 売上 91 億円・営業利益 6 億円。数量1.10倍・単価1.20倍、営業利益率7.0%
倍率:事業の純利益 70 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.4% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.7%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.7 倍。全体の PER 14.68 倍、時価総額 1,030 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:モバイルは横ばい、水処理と航空機は世の中並みに伸びるという、各事業の見通しの中心を重ねた筋書き。
やや悲観 22% FPCが値下がりし、AI向けも大手に押される 利益 37 億円 · PER 9.0 倍 · 株価時価総額 1,010 円331 億円
モバイル向けのFPC材料は、台湾・中国勢の値下げで単価が10年で1.15倍にしか上がらない。半導体向けの基板材料も、日東紡と旭化成の増産と、台湾勢の織布の参入に押され、有沢が取れる量は小さいままだ。電子材料の営業利益率は8%に下がる。
産業用構造材料は、今期の高利益品の構成が戻らず、営業利益率は14.5%になる。水処理は中国の安値品に価格を抑えられ、航空機内装は大手に値引きを求められる。
会社は中計の目標に届かず、営業利益は50億円台にとどまる。借り入れを増やした設備投資の償却と利息が重く、純利益は今の特別利益込みの水準を下回る。還元は維持されるが、配当の伸びは止まる。
- 電子材料(FPC用材料・ICGC・プリプレグ・プリント配線板):数量 1,980(FPC材料・基板材料の販売面積(万平方メートル、推定))× 価格 0.23(1平方メートルあたりの平均単価(万円、名目))→ 売上 454 億円・営業利益 36 億円。面積1.10倍・単価1.15倍、営業利益率8.0%
- 産業用構造材料・電気絶縁材料(水処理FRP容器・航空機内装パネルなど):数量 10,400(構造材料の販売重量(トン、推定))× 価格 215(1トンあたりの平均単価(万円、名目))→ 売上 223 億円・営業利益 32 億円。数量1.30倍・単価1.25倍、営業利益率14.5%
- ディスプレイ材料ほか(3D関連材料・偏光利用部材):数量 230(ディスプレイ用フィルム等の販売面積(万平方メートル、推定))× 価格 0.33(1平方メートルあたりの平均単価(万円、名目))→ 売上 76 億円・営業利益 3 億円。数量1.00倍・単価1.10倍、営業利益率4.0%
倍率:ROE 6.3% は k 8% 以下なので、ためた利益は額面未満の価値で PER は 1÷k=11.8 倍まで。モバイル向けの値下がりと中位品の競争で稼ぐ力は物価並みに落ちるため、上限の 7.7 割の 9.0 倍に置いた。
確率:FPCの値下がりが物価に届かず、AI向けも日東紡や旭化成に押される筋書き。主力が値決めできない構造から、確率は厚めに取った。
悲観 12% FPC材料の優位が崩れ、利益がほぼ消える 利益 5 億円 · PBR 0.5 倍 · 株価時価総額 773 円254 億円
台湾・中国のメーカーがFPC材料の主要顧客に食い込み、有沢の面積は10%減り、単価も10年でほぼ上がらない。電子材料の営業利益率は3%まで下がる。AI向けの設備投資は回収できず、償却が利益を食う。
産業用構造材料も、水処理の容器と航空機内装の双方で価格競争が強まり、営業利益率は8%まで落ちる。ディスプレイ材料は小さな赤字になる。全社の営業利益は10億円に届かない。
自己資本比率を50%に下げた借り入れが重荷になり、配当は大きく削られる。会社は設備の売却と事業の整理を迫られる。優良な材料メーカーという評価は外れ、設備と在庫の売れる価値が値段の床になる。
- 電子材料(FPC用材料・ICGC・プリプレグ・プリント配線板):数量 1,620(FPC材料・基板材料の販売面積(万平方メートル、推定))× 価格 0.20(1平方メートルあたりの平均単価(万円、名目))→ 売上 323 億円・営業利益 10 億円。面積0.90倍・単価1.00倍、営業利益率3.0%
- 産業用構造材料・電気絶縁材料(水処理FRP容器・航空機内装パネルなど):数量 8,800(構造材料の販売重量(トン、推定))× 価格 197(1トンあたりの平均単価(万円、名目))→ 売上 174 億円・営業利益 14 億円。数量1.10倍・単価1.15倍、営業利益率8.0%
- ディスプレイ材料ほか(3D関連材料・偏光利用部材):数量 161(ディスプレイ用フィルム等の販売面積(万平方メートル、推定))× 価格 0.30(1平方メートルあたりの平均単価(万円、名目))→ 売上 48 億円・営業利益 −1 億円。数量0.70倍・単価1.00倍、営業利益率-2.0%
倍率:構造的に優位を失い利益がほとんど出ない筋書きなので、稼ぐ力でなく売れる資産で測る。事業資産の売却価値(税後)を床とし、今の自己資本 507 億円に 0.5 倍を掛けた。
確率:台湾・中国勢がFPC材料の優位を崩し、産業材料の利益率も落ちる筋書き。一度崩れると10年で戻りにくいため、無視できない確率を置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
電子材料(FPC用材料・ICGC・プリプレグ・プリント配線板)
スマートフォン向けを中心とするFPC用材料と、半導体向けのICGC・プリプレグ、プリント配線板を手掛ける中核事業。
| 数量FPC材料・基板材料の販売面積(万平方メートル、推定) | 価格1平方メートルあたりの平均単価(万円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1,800 | 0.20 | 359 | 36 |
| 10 年後 中立 | 2,241 | 0.25 | 558 | 64 |
取り方:面積は開示がないため、FPC材料の平均単価を1平方メートルあたり約0.2万円と置いて売上から割り戻した推定である(1,800万平方メートル)。数量は実質、価格は名目。モバイル向けの単価は台湾勢との競争で物価に届かない上がり方にとどまるため中立は10年1.25倍とし、半導体向けの高付加価値品の構成上昇を含めてこの水準とした。
産業用構造材料・電気絶縁材料(水処理FRP容器・航空機内装パネルなど)
逆浸透膜を収める水処理用FRP圧力容器、航空機内装用ハニカムパネル、絶縁材料、車載・燃料電池向け材料の集合。
| 数量構造材料の販売重量(トン、推定) | 価格1トンあたりの平均単価(万円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 8,000 | 172 | 137 | 29 |
| 10 年後 中立 | 12,000 | 223 | 268 | 48 |
取り方:重量は開示がないため、FRP容器・パネル・絶縁材の平均単価を1キログラムあたり約0.17万円と置いて売上から割り戻した推定(8,000トン)。数量は実質で、水処理市場の実質成長(年5%前後)と航空機の旅客増が根拠。価格は物価並みを基本とするが、高利益品の構成が薄まる分を見て中立は10年1.30倍とした。 数量は実質(名目の市場の伸び年 8% 前後から物価を除いた年 5% 前後)。
ディスプレイ材料ほか(3D関連材料・偏光利用部材)
医療用モニターなどの3D関連材料、AR・VR向けの偏光利用部材ほか。全社の残差を含む。
| 数量ディスプレイ用フィルム等の販売面積(万平方メートル、推定) | 価格1平方メートルあたりの平均単価(万円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 230 | 0.30 | 69 | 5 |
| 10 年後 中立 | 253 | 0.36 | 91 | 6 |
取り方:全社売上から電子材料と産業用構造材料を引いた残り(68.6億円)を売上とし、1平方メートルあたり約0.3万円と置いて面積を推定した。営業利益は開示の減益とセグメントの差から約5億円と推定。技術の進歩で単価は物価より遅れて上がる。
リスクと懸念
モバイル向けFPC材料の値下がり
売上の半分強がスマートフォン向けのFPC材料に依存する。台数は成熟し、台湾・中国の同業が値下げで攻める。単価が物価を大きく下回れば、増やした面積も利益に結びつかない。
AI基板の主役が他社になる
AIサーバー向けのガラスクロスは日東紡が大半を握り、150億円の増産に入る。旭化成も参入し、台湾の織布も加わる。有沢のICGC・プリプレグが、小さい市場のままで終わる恐れがある。
産業用構造材料の高い利益率が続かない
今期の産業材料の営業利益率は21%と高いが、会社自身が来期は高利益品が減ると見る。水処理は中国の安い容器との競争が強まり、航空機内装も大手の値引き要求を受ける。この利益が薄れれば、全社の質が下がる。
借り入れの増加と金利の上昇
自己資本比率を67%台から50%まで下げ、設備投資280億円を借り入れで賄う方針だ。借り入れは3.5%で回るようになり、利払いが利益を削る。景気の谷で設備の償却と利息が重なる恐れもある。
特別利益の剥落
前期の純利益には、関連会社株式の売却益・助成金収入・負ののれん発生益が含まれる。これらは繰り返さない。来期の会社予想では純利益が2割減る。繰り返す利益は40億円前後と見るべきだ。
スマートフォンと半導体の需要の波
電子材料の利益は、スマートフォンの在庫調整や半導体の投資循環で大きく振れる。過去10年でも、営業利益が15億円まで落ちた年がある。需要が戻るまでの固定費が重い。
今後の分かれ目
- ICGC・プリプレグの売上が2年で2倍を超え、可児工場の増強が満稼働したら
- 楽観・やや楽観の確率を上げてよい。AI向けが全社の2割に届くかが分かれ目になる。
- モバイル向けFPC材料の単価が、台湾勢の値下げで2年続けて下がったら
- やや悲観・悲観側に確率を移す。主力の値決め力が弱い、という見方が当たっていたことになる。
- 産業用構造材料の営業利益率が来期以降も2割を保ったら
- 利益の質が想定より高い。中立の営業利益率を上げ、倍率の評価も見直す。
- 日東紡の増産が済み、AI向けガラスクロスの需給が緩んだら
- ICGC・プリプレグの単価と稼働が下がる。半導体向けの成長前提を下げる。
- 借り入れで自己資本比率が50%を割り込み、利払いが営業利益の1割を超えたら
- 財務の余裕がなくなる。k を見直し、やや悲観側の確率を上げる。
- 大手が有沢の買収や資本提携を提案したら
- 価値が時価総額に近づく。ただ本質価値からは、提示される値段が高いかどうかで見る。
見ておくもの
- 電子材料とICGC・プリプレグの四半期の売上と営業利益率
- 産業用構造材料の営業利益率(水処理容器と航空機内装の構成)
- 可児工場の増強の進み方と、設備投資の総額
- スマートフォンの出荷台数と、台湾の同業のFPC材料の価格
- 自己資本比率と借り入れの金利、総還元性向
倍率と資本コストの決め方
数量は実質(面積・重量)、価格は名目で、物価3%の中立は10年1.34倍だが、FPC材料と産業材料は競争と構成の変化を見て1.25〜1.30倍とした。利益率は事業ごとの構造から置き、過去の山と谷から逆算していない。倍率は正当化PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)(k 8%=基本7.5%+quality+1.0%、g 4%、RONIC=k+1/2×(ROE−k))で決めた。中立のROEがkを超えるため、倍率の下限は1÷k=11.8倍で、上限の13.28倍に対し9割の12倍にした。今の株価や同業の倍率は見ていない。本質価値が今の時価総額の7割近くにとどまるのは、10年の純利益が今の特別利益込みの水準から大きくは伸びず、倍率が12倍ほどにとどまるためである。形はリースを含めず、今と同じ形でそろえた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 14.7→17.46 倍・やや楽観 PER 12.5→15.64 倍・中立 PER 12→14.68 倍)。
資本コスト 8.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本7.5%にquality +1.0%(循環+0.5、値決め+0.5)を足して8.5%。FPC材料は需要の波と顧客の値引き要求を受けやすい。借金は純現金に近く0、寿命は事業が分散しており0とした。堀の評価は倍率の残る割合で別に見ており、k には重ねていない。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.50% → 8.00%。