結論
ナトコは、名古屋で創業した工業用塗料の会社だ。金属や建材に塗る塗料、スマホや光学フィルム向けのコーティング剤、使い終えた溶剤を蒸留して再生する事業の三つで、売上は223億円(2025年10月期)ある。2026年11月には日本ゼオンからトウペの塗料事業を21.9億円で買い、塗料の売上は2割ほど増える。
筆者の結論は「やや割高」だ。純現金が時価総額の半分近くある点は魅力に映る。しかし、その現金は、築50〜60年の本社工場の建て替えと、買収後の統合に先に使われる。株主に戻る額は、見かけの半分もない。
本業の稼ぐ力は、まだ資本コストに届いていない。営業利益率は6%前後、ROEは4〜5%だ。2026年10月期の営業利益は20億円に上方修正されたが、中東情勢の不安を受けた前倒しの需要と、円安の効果を含む。筆者はこれを土台にしなかった。
良い点もある。溶剤の蒸留再生は環境意識の高まりが追い風で、景気に左右されにくい。上振れは、トウペとの工場統合が進み、利益率が戻る時に来る。下振れは、原材料高を価格に移せず、買収が重荷になる時に来る。確率は中立を最も厚くし、慎重な側へ少し寄せた。新興国の成長に乗る会社ではなく、国内の少量多品種で稼ぐ会社だという点を、評価の出発点にしている。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点で、まず問うのは、10年後もこの事業が残り、強くなっているかだ。塗料は消えない。蒸留は伸びる。電子材料は波が大きいが、技術に実績がある。事業は残る。
堀は、尖っているが小さい。少量多品種の工業用塗料と、高純度の再生溶剤で、顧客との関係は長い。ただし、値段を決める力は弱く、利益率は原材料の動きに振り回される。株主のものになる利益は、営業利益の7割ほどだ。
経営の資本配分は、評価が分かれる。自己資本の厚い会社が、買収と設備に慎重に資金を使うのは、悪くない。しかしROEが4〜5%に低迷してきた事実は重い。中期計画でも、目標は6%前後と「資本コストと同水準」にとどまる。目標の置き方が低い。筆者は、ここに緊張感の不足を見る。
安全域は、現金と財務の厚さにある。純現金はあるが、使い道が先に決まっている。売れる資産の価値も、工場用地が中心で、見える形になっていない。
結論は、今の値段にやや割高の印象を持つ。割安になるのは、トウペの統合で利益率が戻り、余った現金が株主に返る道が示された時だ。
何で稼ぐ会社か
稼ぎ口は三つある。最大は塗料事業で、売上の6割強を占める。自動車でも住宅でもなく、金属製の家具、屋根材、建材、工作機械などに塗る工業用塗料が中心だ。注文は少量で種類が多く、顧客ごとに色や性能を調整する。2024年7月には、DICから内装建材用塗料の販売事業を譲り受けた。
二つ目はファインケミカル事業だ。スマホやパソコンの外装、光学フィルム、自動車の内装に使うコーティング剤を作る。売上は25億円と小さいが、営業利益が5億円ある。利益率は2割を超え、全社でもっとも高い。電子機器の市況に左右される点が弱みだ。
三つ目は蒸留事業だ。工場から出る使用済みの有機溶剤を集め、蒸留して売る。売上は55億円で、塗料に次ぐ。巴興業とアイシー産業を傘下に持ち、2025年6月には宮城の三丸化学を66%の出資で加えた。リサイクルの需要が増える中で、廃液の集荷力が競争力になる。
海外は、タイ、フィリピン、ベトナム、中国の青島に子会社がある。ただし、規模は小さく、売上の大半は国内だ。
利益の波は、原材料の値段で決まる。顔料、樹脂、溶剤の値上がりを価格に移すまでに数か月かかる。その間、利益が削られる。2021年に10.6%あった営業利益率が、2024年に5.9%まで下がったのは、これが理由だ。本社と基幹工場は愛知県みよし市にある。
優良さと弱いところ
堀、つまり他社がまねできない強みは、普通かやや薄い。工業用塗料は、顧客の製品と工程に合わせて調合するため、いったん採用されると切り替えにくい。多品種を少量で作る力は、小さい会社の武器だ。しかし、塗料の値段は原材料と競合で決まり、値決めの力は強くない。
収益性は低い。営業利益率は、2013年の16%を頂点に下がり、近年は6%前後だ。ROEは10年の中央値で5.4%と、資本コストに届かない。自己資本比率が79%と厚く、現金が眠っているためだ。
財務は極めて堅い。借金はほとんどなく、純現金は78億円ある。潰れる心配はない。
弱点は、資本の使い方と設備だ。筆者がいちばん気にしているのは、本社のみよし工場だ。第一工場は1966年、樹脂工場は1979年の竣工で、敷地に空きがなく建て替えられない。会社が自ら「老朽化が喫緊の課題」と認める。設備が古いまま、利益率を上げるのは難しい。
一方で、ファインケミカルの技術力は本物だ。1993年に液晶向けのスペーサーを出した研究所の力が、今も新商品を生む。蒸留でも、高純度の再生溶剤という付加価値を付けられる。小さくても、尖った部分がある会社だ。ただ、それが利益率の高さにつながっているのは、ファインケミカルの一部にとどまる。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
塗料の世界市場は、名目で年6%ほど伸びる見通しだ。ただし、成長の中心は新興国の建築と自動車で、ナトコの主戦場である国内の工業用塗料ではない。国内は人口が減り、数量はほぼ横ばいが標準だ。伸びは価格の上昇と、輸出やアジアの現地生産で稼ぐことになる。
競合は、関西ペイント、大日本塗料、日本特殊塗料、藤倉化成などだ。ナトコは大手の取らない少量多品種の分野に居場所を持つ。トウペの買収で、建築、道路、防食の分野にも足を伸ばす。ただし、トウペは工業用・粉体塗料で重なる部分もあり、統合の手間は小さくない。
原材料は、ナフサ由来の樹脂と溶剤、酸化チタンなどの顔料だ。市況が動くたびに利益率が揺れる。中東情勢が不安定になれば、溶剤の値段が上がり、塗料や蒸留の販売が先に増えることがある。2026年の好調には、この動きが含まれる。
蒸留事業は、環境規制とリサイクル意識の高まりが追い風だ。使用済みの溶剤を再生して使う動きは広がり、集荷できる量が成長の上限を決める。競合は地域の中小の蒸留業者で、大手は少ない。
ファインケミカルは、電子機器の市況に連動する。スマホやパソコンの出荷、自動車の塗装工程の変化(塗装レス)が左右する。
10年の標準像は、塗料と蒸留が物価並みに伸び、電子材料が数量で伸びる形だ。鋼材の高騰のような外部要因が無ければ、数量は実質で年1〜3%と見る。ナトコの価格は、原材料の上昇を転嫁できる範囲で物価並みに動くとみる。
資本政策と M&A
株主還元は、配当性向40%を目途にしている。年間配当の下限も決めた。自社株買いはほとんどしない。中期経営計画の方針は「投資を優先しつつ、残りを株主へ」で、現金は投資に先に回る。
キャッシュの使い道は決まっている。3年で営業のキャッシュを50億円以上生み、60億円以上を買収、成長投資、設備の更新に使う。すでに三丸化学とトウペで約26億円、更新投資で約6億円を使った。今後は、みよし工場の建て替えと、巴興業での蒸留の増強が控える。
トウペの買収は、土地の取得でもある。三重工場の9.6万㎡と茨城工場の7万㎡が付いてくる。筆者は、これを「建て替えの代わりに土地を買った」と読む。みよし工場の生産を移せば、スクラップ・アンド・ビルドの高いハードルを避けられる。ただし、トウペの収益は薄く、単純に合算すると会社の利益率は下がる。
株主の構成は、個人が上位を占める。上位3人の個人で合計約32%を持つ。銀行は三菱UFJ、三井住友、あいちが入る。純投資のファンドは目立たない。
減価償却は年8億円前後(営業利益とEBITDAの差から推定)だ。償却は取得した時の値段のままで、物価では増えない。工場を建て替えれば、新しい値段の償却が上乗せされる。投資の資金は手元の現金で賄うので、余る現金は減る。この点が、純現金の半分も株主に戻らないと見る理由だ。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
ナトコは、尖った小さい会社が、買収で規模と収益力を同時に引き上げる局面に入った。2030年の売上300億円は、トウペの取得で前倒しできる。土地の付いた買収なので、みよし工場の老朽化という最大の弱点を、ほぼ費用をかけずに解決できる。
蒸留事業は、環境規制の強まりで需要が構造的に伸びる。三丸化学で東北に拠点を得た。巴興業でも増強を検討している。廃液の集荷が増えれば、固定費の負担が薄まり、営業利益率は11%まで上がる。
ファインケミカルは、塗装レスと電子材料の分野で、新商品が出る。利益率は2割を保ち、売上は5割増える。塗料は、輸出とアジアの現地生産で数量が3割増える。DICから譲り受けた内装建材塗料の効果も、通年で効く。
足元の数字もそれを裏づける。2026年10月期の営業利益は、前回の予想から4割上げて20億円になった。第3四半期までの累計は、前年同期から65%増えた。中期経営計画の2027年10月期の営業利益目標20億円を、1年前倒しで達成する勢いだ。
資本政策も変わる。ROEの目標を8%まで引き上げる意思がある。工場の再編が終われば、現金が余り、配当性向は5割に上がる。時価総額が現金の2倍にすぎない会社が、この成長を実現すれば、価値は倍になりうる。
慎重な見方
好調に見える2026年10月期は、一過性の要素が大きい。会社が明かしたとおり、中東情勢の不安を受けて、顧客が溶剤や塗料を前倒しで仕入れた。円安による差益と、受取利息の増加も含む。これらは翌年に反動が出る。
トウペは、売上60億円規模でも、営業利益は薄い。会社自身が「収益性は低下する」と書いた。のれん相当の費用は小さいが、工場の統合には投資が要り、移転の最中は生産が乱れる。三重と茨城へ生産を移す間、品質の問題や顧客離れが起きる恐れがある。
資本効率は改善しない。中期計画のROE目標は6%前後と、資本コストと同じ水準にすぎない。純現金78億円のうち、26億円をトウペと三丸化学に使い、さらに工場の建て替え、蒸留の増強と続く。現金はほとんど株主に返らない。
塗料の本業は、ここ数年、原材料の高騰を価格に移しきれなかった。営業利益率は2021年の10.6%から2024年に5.9%へ下がった。ファインケミカルも市況に左右され、2024年は利益が18%減った。
国内の数量は人口とともに細る。大手の関西ペイントや大日本塗料が、同じ工業用塗料で価格競争を仕掛ければ、少量多品種という強みも長くは持たない。
どちらに重みを置いたか
蒸留と電子材料の伸びは、強気の見方が正しい。しかし、現金の多くは投資に先に使われ、株主に戻るのは限られるという指摘と、足元の好調に一過性が混ざるという指摘は、慎重な見方が正しい。そこで、現金は半分だけ価値に数え、2026年の利益は土台にしなかった。
確率は、楽観を7%、やや楽観を20%と薄く置き、中立を37%、やや悲観を24%、悲観を12%とした。トウペの統合の成否が分かれ目で、成功する筋書きを少し下回る確率にした。
10 年後の 5 つの筋書き(2035/10 期)
確率で加重した株価時価総額 3,658 円276 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 849 円64 億円)。 今の値に割り戻すと 2,366 円179 億円、今との差 +16.3%、 期待の年率 +8.3%(資本コスト 7.5%)→ やや割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 7% | 7,942 円600 億円 | 1,508 円114 億円 | +364.6% | +16.6% | 662 円50 億円 |
| やや楽観 | 20% | 5,864 円443 億円 | 1,164 円88 億円 | +245.5% | +13.2% | 1,406 円106 億円 |
| 中立 | 37% | 4,182 円316 億円 | 873 円66 億円 | +148.5% | +9.5% | 1,871 円141 億円 |
| やや悲観 | 24% | 1,412 円107 億円 | 582 円44 億円 | −2.0% | −0.2% | 479 円36 億円 |
| 悲観 | 12% | 355 円27 億円 | 397 円30 億円 | −63.1% | −9.5% | 90 円7 億円 |
| 加重平均 | 100% | 3,658 円276 億円 | 849 円64 億円 | +121.6% | +8.3% | 4,506 円341 億円 |
今の株価時価総額 2,034 円154 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.5% を下回るほど割高。
楽観 7% 統合が当たり、蒸留と電子材料が伸びる 利益 34 億円 · PER 16.5 倍 · 株価時価総額 7,942 円600 億円
トウペの統合がうまくいき、蒸留と電子材料が想定を超えて伸びる筋書きだ。みよし工場の生産がトウペの三重・茨城に移り、物流と調色の効率化が効く。トウペの塗料は利益率が7%に上がる。蒸留は廃液の集荷が5割増え、利益率は11%に達する。ファインケミカルは塗装レスと電子材料の新商品が当たり、売上が5割増える。既存の塗料は輸出とアジアの現地生産で数量が3割増え、利益率は10%。営業利益は43億円、純利益は34億円になる。余った現金は70億円に積み上がり、配当性向は5割に上がって10年の還元は114億円。ROEは9.5%に上がり、資本コストを超える。会社が掲げる2030年の売上300億円は、この筋書きでは通過点にすぎない。工場の再編で生まれた余力を、蒸留の増強やアジアの現地生産に回し、投資も回収できる。
- 塗料(ナトコ単体と国内外子会社):数量 32.6(塗料の出荷量(千トン・年、推定))× 価格 7.75(1千トンあたり売上(億円・名目))→ 売上 253 億円・営業利益 25 億円。営業利益率10.0%
- ファインケミカル:数量 1,863(出荷量(トン・年、推定))× 価格 0.03(1トンあたり売上(億円・名目))→ 売上 47 億円・営業利益 10 億円。営業利益率22.0%
- 蒸留(使用済み溶剤の再生):数量 55.0(受け入れ・処理する溶剤の量(千トン・年、推定))× 価格 2.04(1千トンあたり売上(億円・名目))→ 売上 112 億円・営業利益 12 億円。営業利益率11.0%
- トウペの塗料事業(2026年11月に連結入り):数量 14.8(塗料の出荷量(千トン・年、推定))× 価格 6.03(1千トンあたり売上(億円・名目))→ 売上 89 億円・営業利益 6 億円。営業利益率7.0%
倍率:事業の純利益 33 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.5% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.5%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.5 倍 + 余った現金(戻り方込み)52 億円。全体の PER 16.54 倍、時価総額 600 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:統合、蒸留の高成長、電子材料の当たりの全部がそろう必要がある。会社の目標のROE6%を考えると、確度は低い。
やや楽観 20% 統合が順調で、蒸留が堅調 利益 28 億円 · PER 14.9 倍 · 株価時価総額 5,864 円443 億円
トウペの統合が順調に進み、蒸留が堅調に伸びる筋書きだ。みよし工場の移転は予定どおりに進み、トウペの利益率は5.5%まで改善する。蒸留は集荷が4割増え、利益率は10%。ファインケミカルは売上が約1.7倍(価格の下落を含む)になり、利益率は21%を保つ。塗料は数量が2割強増え、物価並みの値上げで売上が伸びる。営業利益は35億円、純利益は28億円。還元は配当性向45%で88億円。余った現金は60億円。ROEは8%近くまで上がるが、資本コストの8%にようやく並ぶ水準だ。会社の計画に近い、堅実に成功する姿だ。ただし、資本効率は資本コストに並ぶだけで、価値を生むところまでは届かない。減価償却は、新工場の分が加わって年10億円を超える。
- 塗料(ナトコ単体と国内外子会社):数量 30.6(塗料の出荷量(千トン・年、推定))× 価格 7.64(1千トンあたり売上(億円・名目))→ 売上 234 億円・営業利益 22 億円。営業利益率9.5%
- ファインケミカル:数量 1,714(出荷量(トン・年、推定))× 価格 0.02(1トンあたり売上(億円・名目))→ 売上 42 億円・営業利益 9 億円。営業利益率21.0%
- 蒸留(使用済み溶剤の再生):数量 51.3(受け入れ・処理する溶剤の量(千トン・年、推定))× 価格 2.01(1千トンあたり売上(億円・名目))→ 売上 103 億円・営業利益 10 億円。営業利益率10.0%
- トウペの塗料事業(2026年11月に連結入り):数量 13.9(塗料の出荷量(千トン・年、推定))× 価格 5.94(1千トンあたり売上(億円・名目))→ 売上 83 億円・営業利益 5 億円。営業利益率5.5%
倍率:事業の純利益 27 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.2% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.3%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.9 倍 + 余った現金(戻り方込み)45 億円。全体の PER 14.88 倍、時価総額 443 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:会社の中期計画と整合し、現実的な成功の姿だ。統合の成果と電子材料の波という二つの不確かさが残る。
中立 37% 買収を消化し、物価並みに伸びる 利益 22 億円 · PER 13.3 倍 · 株価時価総額 4,182 円316 億円
トウペを消化しながら、各事業が物価並みに伸びる標準の筋書きだ。塗料の数量は15%増え、価格は物価に沿って3割強上がる。トウペは生産の統合で利益率が4.5%に改善するが、工場の投資は重く、全体の利益率は6%台にとどまる。蒸留は3割増え、利益率は9%。ファインケミカルは数量が25%増えるが、価格の下落があり、売上は5割増にとどまる。営業利益は28億円、純利益は22億円。還元は配当性向40%で66億円。余った現金は50億円。ROEは6%台と、資本コストをわずかに下回る。減価償却は新工場の分が加わり、年11億円前後になる。2026年の好調は土台に入れていない。トウペの旧工場の土地には含み益があるはずだが、金額は開示がなく、価値に数えていない。
- 塗料(ナトコ単体と国内外子会社):数量 28.8(塗料の出荷量(千トン・年、推定))× 価格 7.64(1千トンあたり売上(億円・名目))→ 売上 220 億円・営業利益 19 億円。営業利益率8.5%
- ファインケミカル:数量 1,553(出荷量(トン・年、推定))× 価格 0.02(1トンあたり売上(億円・名目))→ 売上 37 億円・営業利益 8 億円。営業利益率20.0%
- 蒸留(使用済み溶剤の再生):数量 47.6(受け入れ・処理する溶剤の量(千トン・年、推定))× 価格 2.01(1千トンあたり売上(億円・名目))→ 売上 96 億円・営業利益 9 億円。営業利益率9.0%
- トウペの塗料事業(2026年11月に連結入り):数量 12.9(塗料の出荷量(千トン・年、推定))× 価格 5.85(1千トンあたり売上(億円・名目))→ 売上 75 億円・営業利益 3 億円。営業利益率4.5%
倍率:事業の純利益 21 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.1% が k 7.50% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 13.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.3 倍 + 余った現金(戻り方込み)38 億円。全体の PER 13.33 倍、時価総額 316 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:数量は実質で年1〜3%、価格は物価並みという標準の見方だ。トウペの収益性は低いまま、統合は無難にこなす。最も確度が高く、厚く置いた。
やや悲観 24% 原材料高と統合の遅れ 利益 11 億円 · PER 8.5 倍 · 株価時価総額 1,412 円107 億円
原材料の高騰を価格に移しきれず、トウペの統合も遅れる筋書きだ。塗料の数量は5%増にとどまり、価格も物価に届かない。利益率は6.5%に下がる。トウペは利益率2%に低迷し、生産移転の費用が重い。蒸留は集荷が1割強増えるが、利益率は7%。ファインケミカルは電子機器の市況の悪化で、利益率が17%に下がる。営業利益は13.5億円、純利益は11億円で、今の水準と変わらない。還元は配当性向40%で44億円。余った現金は工場の建て替えに回って25億円。ROEは3%台にとどまる。10年の成長が、ほとんど利益に結びつかない姿だ。売上は4割近く増えても、買収した分の薄い利益と、物価で膨らむ本社費に食われる。株主にとっては、規模だけが大きくなる10年になる。
- 塗料(ナトコ単体と国内外子会社):数量 26.3(塗料の出荷量(千トン・年、推定))× 価格 7.30(1千トンあたり売上(億円・名目))→ 売上 192 億円・営業利益 13 億円。営業利益率6.5%
- ファインケミカル:数量 1,366(出荷量(トン・年、推定))× 価格 0.02(1トンあたり売上(億円・名目))→ 売上 31 億円・営業利益 5 億円。営業利益率17.0%
- 蒸留(使用済み溶剤の再生):数量 42.1(受け入れ・処理する溶剤の量(千トン・年、推定))× 価格 1.92(1千トンあたり売上(億円・名目))→ 売上 81 億円・営業利益 6 億円。営業利益率7.0%
- トウペの塗料事業(2026年11月に連結入り):数量 11.9(塗料の出荷量(千トン・年、推定))× 価格 5.58(1千トンあたり売上(億円・名目))→ 売上 66 億円・営業利益 1 億円。営業利益率2.0%
倍率:事業のROEは3.7%で資本コスト7.5%を大きく下回る。PERの上限は1÷k=12.5倍だが、稼ぐ力が弱く、約68%の8.5倍に置いた。余った現金25億円の半分を足している。
確率:原材料の転嫁の遅れは、2022年以降に実際に起きた。トウペの収益が薄いことも、会社自身が認めている。
悲観 12% 価格競争と統合の失敗 利益 2 億円 · PBR 0.1 倍 · 株価時価総額 355 円27 億円
構造的に負ける筋書きだ。大手との価格競争で、塗料の価格が物価を大きく下回る。数量も国内の人口減で1割弱減る。利益率は5%まで落ちる。トウペは移転で顧客を失い、利益が出ない。蒸留は顧客の生産減で集荷が伸びず、ファインケミカルは電子材料の市況で利益率が14%に下がる。本社費は物価で膨らむ。営業利益は3億円にとどまり、純利益は2億円。工場の建て替えと移転で現金は使い果たし、余った現金は5億円に減る。配当は下限の水準を守るのがやっとで、10年に27億円。価値の大半は、純現金から投資を引いた残りと、工場用地の価値に頼る。優良な小さい会社という評価は外れ、市況に振り回される加工業として見られる。
- 塗料(ナトコ単体と国内外子会社):数量 23.1(塗料の出荷量(千トン・年、推定))× 価格 6.56(1千トンあたり売上(億円・名目))→ 売上 151 億円・営業利益 8 億円。営業利益率5.0%
- ファインケミカル:数量 1,118(出荷量(トン・年、推定))× 価格 0.02(1トンあたり売上(億円・名目))→ 売上 22 億円・営業利益 3 億円。営業利益率14.0%
- 蒸留(使用済み溶剤の再生):数量 36.6(受け入れ・処理する溶剤の量(千トン・年、推定))× 価格 1.73(1千トンあたり売上(億円・名目))→ 売上 63 億円・営業利益 4 億円。営業利益率5.5%
- トウペの塗料事業(2026年11月に連結入り):数量 11.0(塗料の出荷量(千トン・年、推定))× 価格 4.95(1千トンあたり売上(億円・名目))→ 売上 54 億円・営業利益 0 億円。営業利益率0.0%
倍率:事業の純利益は小さく、稼ぐ力は弱い。事業の価値は純利益2億円に6.5倍を掛けた額とし、余った現金5億円の半分を足した。この額が、純現金54億円(今の78億円からトウペ取得の24億円を引いた額)の戻り方0.5を掛けた27億円を下回るため、価値は純現金の戻り方込みの27億円(床)に置いた。(2026-10-22 の式の直しで機械で置き直し、今は PBR 0.11 倍・時価総額 27 億円。上の倍率は置き直す前の値)
確率:価格競争、統合の失敗、現金の枯渇が重なる必要がある。確度は低いが、塗料の転嫁の弱さから、無視できない。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
塗料(ナトコ単体と国内外子会社)
金属・建材・工作機械向けの工業用塗料と、粉体塗料、建材用塗料。
| 数量塗料の出荷量(千トン・年、推定) | 価格1千トンあたり売上(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/10 | 25.1 | 5.70 | 143 | 12 |
| 10 年後 中立 | 28.8 | 7.64 | 220 | 19 |
取り方:塗料事業の売上は142.95億円(2025年10月期)、営業利益は11.64億円。工業用塗料の平均単価を1トンあたり約57万円と仮定して出荷量を25.1千トンと推定した。開示は無く推定。数量は実質のトン数で、物価は価格に入れる。
ファインケミカル
スマホ・パソコン・光学フィルム・自動車向けのコーティング剤、液晶スペーサーなど。
| 数量出荷量(トン・年、推定) | 価格1トンあたり売上(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/10 | 1,242 | 0.02 | 25 | 5 |
| 10 年後 中立 | 1,553 | 0.02 | 37 | 8 |
取り方:売上24.85億円、営業利益5.36億円(利益率21.6%)。高機能コーティング剤の平均単価を1トンあたり約200万円と仮定して出荷量を約1,242トンと推定した。開示は無く推定。
蒸留(使用済み溶剤の再生)
工場から出る使用済み有機溶剤を集めて蒸留し、再生溶剤を売る。巴興業・アイシー産業・三丸化学が担う。
| 数量受け入れ・処理する溶剤の量(千トン・年、推定) | 価格1千トンあたり売上(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/10 | 36.6 | 1.50 | 55 | 5 |
| 10 年後 中立 | 47.6 | 2.01 | 96 | 9 |
取り方:売上54.95億円、営業利益4.89億円。再生溶剤と処理の売上を1トンあたり約15万円と仮定して処理量を36.6千トンと推定した。三丸化学(2025年6月に66%取得)は4か月分しか入っていない。開示は無く推定。
トウペの塗料事業(2026年11月に連結入り)
建築・建材・皮革・道路・防食向けの塗料。日本ゼオンからアクリルゴム事業を除いて取得する。
| 数量塗料の出荷量(千トン・年、推定) | 価格1千トンあたり売上(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/10 | 12.9 | 4.50 | 58 | 1 |
| 10 年後 中立 | 12.9 | 5.85 | 75 | 3 |
取り方:トウペ全体(アクリルゴム込み)の2025年3月期は売上99億円、営業利益5.8億円。アクリルゴムを除いた塗料事業の売上を58億円、営業利益を1億円と仮置きし(開示は無く、取得後の単純合算で収益性が下がるという会社の説明に合わせた)、単価を1トンあたり約45万円として出荷量を12.9千トンと推定した。2026年10月期の損益には載らず、ここは通年に直した仮の数。
リスクと懸念
原材料価格の転嫁の遅れ
顔料、樹脂、溶剤の値上がりを価格に移すまで、数か月の遅れがある。2022年以降、この遅れで営業利益率は10.6%から5.9%へ下がった。中東情勢でナフサ系の溶剤が上がれば、再び利益を圧迫する。物価が年3%続く世界では、転嫁の巧拙が利益率を決める。大手との価格競争が重なれば、値上げは通らない。
トウペの統合と工場の再編
取得額は21.9億円と安いが、三重・茨城の工場に生産を移す投資と、移転中の品質管理の負担が重い。会社は単純合算で収益性が低下すると認めている。アクリルゴム事業を除いた後の実際の損益は、開示が少なく読みにくい。統合の成果が数字に出るのは、早くて2028年10月期だろう。
一過性の需要の反動
2026年10月期の上振れには、中東情勢を受けた前倒しの仕入れと、円安の差益、受取利息の増加が含まれる。翌年に反動が出れば、営業利益が大きく戻る可能性がある。20億円を土台にすると、利益を過大に見る。中期計画の2027年10月期の目標も、営業利益20億円だった。
電子材料の市況
ファインケミカルは、スマホとパソコン、光学フィルムの出荷に左右される。2024年10月期は利益が18%減った。利益率が高い事業なので、波の影響は全社の利益に大きく効く。新商品の育成が遅れる恐れもある。自動車向けは、塗装工程を省く動きで需要の形が変わる。
蒸留事業の集荷と規制
蒸留は、顧客の工場の稼働と溶剤の使用量で決まる。既存顧客の生産が減ると、集荷が落ちる。地域ごとの競争や、環境規制の変更も影響する。66%出資の三丸化学の残り34%は少数株主の取り分で、利益の一部は外に出る。三丸化学の取り込みは始まったばかりで、統合の成否は見えにくい。
老朽設備の停止リスク
みよし工場の第一工場は1966年、第二工場は1974年、樹脂工場は1979年の竣工だ。建て替えが遅れると、事故や不具合で生産が止まる恐れがある。トウペへの移転が進むまで、リスクは残る。老朽設備の保守費も、物価で増えていく。
今後の分かれ目
- トウペの2期目で営業利益率が3%を超えたら
- 統合が軌道に乗っている。楽観・やや楽観の確率を上げ、中立の利益率も見直す。
- 2027年10月期の営業利益が、中期計画の20億円を下回ったら
- 2026年の好調が一過性だった可能性が高い。やや悲観の確率を上げる。
- みよし工場の生産移転の計画と投資額が具体的に示されたら
- 余った現金の見込みが固まる。投資額が50億円を超えるなら、余り現金を減らす。
- 配当性向や総還元性向の目標が引き上げられ、自社株買いが始まったら
- 資本効率の改善が動いている。現金の戻り方を上げ、中立の線を上へ見直す。
- 蒸留事業の営業利益率が10%を超えたら
- 集荷の拡大と固定費の薄まりが効いている。蒸留の成長の見通しを強める。
- 原材料価格が急騰して、塗料の営業利益率が6%を割ったら
- 転嫁の遅れが再発している。やや悲観の確率を上げる。
見ておくもの
- 塗料・ファインケミカル・蒸留のセグメント利益率(特に2027年10月期の四半期)
- トウペの統合後の売上と営業損益、生産移転の計画
- 純現金の推移と、工場の建て替え・蒸留の増強の投資額
- 配当性向と自社株買いの実績
- ナフサ・溶剤・酸化チタンの価格
- 三丸化学を含む蒸留事業の集荷量
倍率と資本コストの決め方
倍率は、事業のROEと資本コスト7.5%の比べ方で式から出した。中立は事業のROEが7.1%でkを下回るため、PERの上限は1÷k=12.5倍。そこから利益の質で2割引いた10.0倍に置いた。今の株価や過去のPER、同業の倍率は使っていない。2026年10月期の上方修正(営業利益20.3億円)は、中東情勢を受けた前倒しの需要と為替差益を含むため、10年の土台に入れていない。減価償却は年8億円前後(推定)を取得時の値段で据え置き、物価では増やさず、新工場の分だけ足す前提で利益率を置いた。トウペの損益は開示が無く、売上58億円・営業利益1億円の仮置きで、統合後の利益率の幅を筋書きで表した。10年後の数字は家賃や設備のリースを営業費用に入れた今と同じ形で置いた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 13→16.54 倍・やや楽観 PER 12.5→14.88 倍・中立 PER 10→13.33 倍)。
資本コスト 7.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。