結論
関西ペイントは、自動車用塗料に強い国内大手だ。稼ぎは日本・インド・アフリカ・アジア・欧州の5地域に散らばり、売上の7割近くが海外にある。
筆者は、今の値段を「やや割安だが、安全域は厚くない」と見る。10年先で見るとやや割安という結果だ。割安幅を大きく見ないのは、10年たっても営業利益が300億円台から500億円台をうろうろしてきたからである。今期は欧州の立て直し費用で純利益が300億円台前半に沈み、市場が見ているのは来期以降の戻りである。
伸びの芯はインドとアフリカだ。人口が増え、車と家が増える国では、塗料の量が実際に増える。一方、国内は人口減で横ばい、欧州は2017年に買ったヘリオス以来、益率が低いままだ。欧州が2桁近い益率に戻るなら株主の取り分は大きく増える。戻らなければ、買収の失敗が重しとして残る。
資本の使い方は変わった。創業来の大株主が株を手放し、会社は自社株買いと配当を厚くしている。大型の買収はしない方針だ。バリュー投資の目で見ると、これは歓迎できる変化である。ただ、自己資本が大きく増えない前提だと、稼ぐ力そのものを上げない限り企業価値は伸びにくい。
結果は、10年後の中立で時価総額は約9,000億円、それまでの還元約4,200億円が別に入る。確率で重みをつけた本質価値は今の値段より2割台半ば高く、「やや割安」と出た。ROEは自社株買いの厚い還元で高く保たれ、今の値段は欧州の回復を完全には織り込んでいない。ただし利益の山谷が大きく、悲観側(計37%)の落ち込みもあるため、安全域は厚くない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点で一番に問うのは、10年後もこの事業が残り、いま以上に強いかだ。自動車用塗料は、仕様に組み込まれる性質から、10年後も残る可能性が高い。ただし電気自動車への移行で塗料の使い方が変わる点は気がかりである。
次に、株主が自由に使える利益、つまりオーナー利益を考える。塗料は設備投資が軽く、利益の大半を株主に返せる。会社が配当と自社株買いを厚くする方針なので、この点は良い。
資本の使い方は、過去に欧州の買収で価値を壊したが、いまは改めている。この修正が続くかを、筆者は見ていきたい。
安全域はどうか。今の値段は、欧州が立ち直り、インドとアフリカが伸びる前提でようやく見合う水準である。利益の山と谷が大きく、2018年3月期の純利益は177億円と、2016年3月期の283億円から4割近く落ちた。わかりにくい部分があるので、確信度は低めに置くのが妥当だ。
筆者は、この会社を「悪くはない会社で、やや割安だが安全域は厚くない」と見る。
何で稼ぐ会社か
事業は5つの地域に分かれる。日本(売上約1,600億円)は祖業の地盤で、自動車用・工業用・建築用を扱う。取引先は自動車メーカーと、その部品・工場である。塗料の仕様は車種ごとに決まるため、一度採用されると他社に替えにくい。
インド(約1,400億円)は子会社のカンサイ・ネロラックが担い、現地の上場会社として自動車用と工業用に強い。建築用は大手との競争が激しく、低価格品へ買い手が移っている。
アジア(約700億円)は東南アジアと中国などの自動車・工業用が中心で、益率は1割に届かない。アフリカ(約500億円)は長く赤字だったが、立て直しが進んで2026年3月期にはセグメント利益が60億円を超えた。
欧州(約1,600億円)は2017年に買ったヘリオスの事業で、売上は最大だが利益はわずか25億円しかない。ドイツの工場閉鎖を終え、「True Color」と名づけた構造改革を進めている最中だ。トルコのインフレも利益を削ってきた。
つまり、利益の中身は日本・インド・アフリカが稼ぎ、欧州が足を引っ張る形である。会社の計画では、2027年3月期の売上は6,100億円、営業利益は530億円、うち欧州の改革費用は特別損失として約70億円を見込む。
優良さと弱いところ
関西ペイントの堀、つまり他社がまねしにくい強みは、自動車メーカーとの長い取引にある。塗装の仕様は車の設計に組み込まれ、品質事故のリスクを避けたい顧客は塗料会社をめったに替えない。日本とインドで自動車向けが強いのは、この堀のおかげだ。
ただし堀の強さは地域で違う。建築用塗料は、ブランドと流通で勝負する世界なので、インドの大手や新規参入組との競争が続く。アフリカは現地通貨の変動に利益が振られる。
弱いのは欧州だ。買収から9年がたっても益率は1桁前半にとどまり、筆者は資本の使い方として失敗に近いと見ている。立て直しの成否が、会社全体の評価を分ける。
財務は普通である。自己資本比率は約37%、純有利子負債は自己資本の約半分で、営業利益で利息を十分に払える。ROEは2026年3月期で約10%と、資本コストを少し上回る程度だ。
経営は、政策保有株を減らし、自社株買いと配当を増やす方向に動いた。これは資本効率を重んじる姿勢で、筆者は評価する。残る課題は、稼ぐ力そのものを上げることだ。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
世界の塗料は、年率でおよそ6%の名目成長が見込まれる。自動車用は4%程度、建築用は6%程度で、中心は新興国の都市化と自動車生産の拡大である。塗料は運ぶ費用が重いので、現地で作って現地で売るのが基本になる。
主な競争相手は、日本ペイント、PPG、AkzoNobel、シャーウィン・ウィリアムズなどの世界大手だ。インドではアジアンペイント、バーガー、2024年に参入したバーラ・オーパスなどが建築用でシェアを争い、自動車用ではBASFやPPGなどと競う。欧州は需要が弱く、ヘリオスは規模の小さい地域企業と大手の間で苦しい位置にある。
原料は樹脂・顔料・溶剤で、石油や酸化チタンの値動きが益率を揺らす。物価が年3%上がる前提では、原料も人件費も上がるので、値上げがきちんと通る会社だけが益率を守れる。
技術の転機は、電気自動車への移行と環境規制だ。電気自動車は車体の作りが変わり、塗装工程が短くなる可能性がある。水性化や粉体化など、環境に優しい塗料へ切り替える投資も続く。
業界ノートの前提では、同じ領域の会社は同じ市場の見通しを使う。この会社の差は、地域の組み合わせにある。成長の速いインド・アフリカを持つ点は強みで、成熟し弱い欧州の重さが弱みだ。
資本政策と M&A
資本政策は大きく変わった。2023年2月に、創業来の政策保有株主5社が持ち株を売り出し、会社は最大120億円の自社株買いを発表した。その後も、数百億円規模の自社株買いと消却を重ねている。配当は2026年3月期に前の期の2倍超まで増え、配当性向は50%以上を掲げる。
第18次中期経営計画では、大型のM&Aをしないと明言した。フリーキャッシュフローは、買収を除いてすべて株主に返す方針である。筆者は、欧州の買収で懲りた経営が方針を改めたと見ている。
2026年4月には、英国の運用会社シルチェスターが5%超を保有していると届け出た。目的として、増配や自社株買いなどの資本政策の変更を求めることがあると書かれている。具体的な株主提案の記事は確認できていない。
買収される側になる可能性も、ゼロではない。創業来の大株主が離れ、株主は分散した。ただし自動車メーカー向けの取引や上場子会社を抱える構造は複雑で、買い手は限られる。
10年の還元は、買収を除くフリーキャッシュフローを全額返す方針と配当性向50%以上に沿った約95%。
点検済み(見落とし点検 2026-10-19):起点の純利益 316 億円は欧州の改革費用で下振れしており、割高の根拠にしていない(予想は 280 億円→380 億円)。出荷量は実質・単価は物価で二重がけなし。還元約 95% と自己資本の流れが整合していることを確かめた。借り換えの利払い増(10 年で 36 億円)は純利益に入れてある。
還元の点検(P3 2026-10-19):10年の還元は純利益の約89%。方針(買収を除くFCFの全額還元+配当性向50%以上)どおりで、直さず。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
関西ペイントの強みは、長年かけて作った自動車向けの取引関係にある。国内とインドで自動車メーカーとの付き合いが深く、新しい車種にも塗料が採用されやすい。
インドでは、人口と所得が伸び、車と家が毎年増える。数量が実際に増える市場で、現地の上場子会社が自動車用と工業用に強い。アフリカも立て直しが進み、2026年3月期にセグメント利益が60億円を超えた。
欧州は、ドイツの工場閉鎖を終え、構造改革が始まったばかりだ。益率が1桁前半から高い1桁へ戻るだけで、営業利益は100億円近く増える。資本の使い方も正しい方向に変わった。大型買収をやめ、余ったお金を株主に返すからだ。
物価が上がる世界では、価格転嫁できる会社の利益は名目で伸びる。この会社の売上は10年で約1.8倍になりうる。益率が1ポイント上がるだけで、純利益は1割強増える。市場は、改革が進んだ後の利益を安く見ている。
配当と自社株買いを合わせた還元は、今後の営業キャッシュフローとほぼ同じ規模になる見込みだ。会社は第18次中期経営計画で、2027年度の調整後ROE15%を掲げている。この目標が達成されるだけで、利益あたりの評価は大きく変わる。創業来の大株主が手放したいま、株主の目線で経営される会社への転換が進んでいる。
慎重な見方
関西ペイントは、利益が伸びない会社だと筆者は見る。2015年3月期の営業利益は316億円、2026年3月期は497億円で、10年で5割増にとどまる。年率4%は物価と同じ程度だ。買収で売上は増えたが、実質の利益は増えなかった。
欧州は2017年の買収から9年、益率が低いままだ。ドイツ工場を閉じても、トルコのインフレや欧州の需要不振が続く。構造改革の費用もまだ出ていく。立て直しが長引けば、買収ののれんを減らす損失が出る可能性もある。
インドの建築用は低価格品へ買い手が移り、バーラ・オーパスのような新規参入組も出てきた。自動車の電気化は塗料の使い方を変える。国内は人口減で、数量は横ばいから微減である。
さらに、今の株価は来期以降の利益の戻りを織り込んでいる。戻りが半分でも、倍率は高いままだ。安全域がほとんどない。
配当と自社株買いを厚くしても、稼ぐ力が上がらなければ、一時的な支えにしかならない。アクティビストが入ったのも、利益の伸びではなく、資本の返し方を変えさせたいからだろう。大型の買収をしない方針は、成長の手段を自分で閉ざすことでもある。成長の鈍い会社が還元に頼るとき、株価は割高に留まりやすい。
どちらに重みを置いたか
強気の言い分は、インドとアフリカの伸びと資本政策の改善で説得力がある。慎重な言い分は、10年続いた利益の停滞と欧州の重さで、こちらのほうが強い。確率は慎重な側に寄せ、やや悲観と悲観に合わせて4割近くを置いた。それでも中立は、欧州が改革の途中で止まる程度とし、極端な悲観にはしていない。結果は、10年でやや割安になった。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 5,703 円1.00 兆円(+ 配当配当と自社株買いの合計 2,225 円3,909 億円)。 今の値に割り戻すと 4,485 円7,881 億円、今との差 +52.4%、 期待の年率 +10.4%(資本コスト 7.0%)→ 割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 10,070 円1.77 兆円 | 3,133 円5,505 億円 | +348.6% | +16.2% | 1,056 円1,856 億円 |
| やや楽観 | 20% | 8,420 円1.48 兆円 | 2,829 円4,970 億円 | +282.1% | +14.3% | 2,250 円3,953 億円 |
| 中立 | 35% | 6,715 円1.18 兆円 | 2,409 円4,232 億円 | +210.0% | +12.0% | 3,193 円5,611 億円 |
| やや悲観 | 24% | 3,135 円5,508 億円 | 1,903 円3,344 億円 | +71.2% | +5.5% | 1,209 円2,125 億円 |
| 悲観 | 13% | 853 円1,499 億円 | 835 円1,467 億円 | −42.6% | −5.4% | 219 円386 億円 |
| 加重平均 | 100% | 5,703 円1.00 兆円 | 2,225 円3,909 億円 | +169.3% | +10.4% | 7,928 円1.39 兆円 |
今の株価時価総額 2,944 円5,172 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.0% を下回るほど割高。
楽観 8% 欧州が立ち直り、インドとアフリカが10年かけて倍近くに伸びる。 利益 785 億円 · PER 22.5 倍 · 株価時価総額 10,070 円1.77 兆円
インドの出荷量は10年で2倍になり、自動車用と工業用の首位級を保つ。アフリカは人口の増加を背景に1.7倍へ伸び、益率も1割を超える。欧州はTrue Colorが成功し、益率が8%台まで戻る。日本は微減ながら高付加価値品へ移り、益率を保つ。会社は大型買収をせず、利益を株主に返し続ける。10年後の営業利益は1,200億円を超え、今の2倍以上になる。それでも、倍率は成長が成熟に向かう時点の水準にとどまる。
物価が年3%で上がる前提のため、売上は10年で約1.8倍の1兆円を超える。自動車用の塗料は、長年の取引関係に守られて値上げが通りやすい。アフリカは通貨の安定にも助けられる。純利益は800億円近くに達し、自社株買いと配当の合計も5,000億円を超える。ただし、これだけ伸びた時点では市場も先行きの成長を低めに見るので、倍率は17倍弱で止まる。
- 日本(国内の自動車用・工業用・建築用塗料):数量 263(出荷量(百万リットル))× 価格 5.36(1リットルあたり単価(ドル、150円/ドル固定換算・物価込みの名目))→ 売上 2,111 億円・営業利益 296 億円。益率14.0%
- インド(カンサイ・ネロラック):数量 937(出荷量(百万リットル))× 価格 2.68(1リットルあたり単価(ドル、150円/ドル固定換算・物価込みの名目))→ 売上 3,765 億円・営業利益 452 億円。益率12.0%
- アジア(東南アジア・中国など):数量 222(出荷量(百万リットル))× 価格 3.75(1リットルあたり単価(ドル、150円/ドル固定換算・物価込みの名目))→ 売上 1,252 億円・営業利益 131 億円。益率10.5%
- 欧州(ヘリオス・トルコなど):数量 274(出荷量(百万リットル))× 価格 6.03(1リットルあたり単価(ドル、150円/ドル固定換算・物価込みの名目))→ 売上 2,479 億円・営業利益 211 億円。益率8.5%
- アフリカ:数量 298(出荷量(百万リットル))× 価格 2.68(1リットルあたり単価(ドル、150円/ドル固定換算・物価込みの名目))→ 売上 1,198 億円・営業利益 162 億円。益率13.5%
倍率:事業の純利益 785 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 26.2% が k 7.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 16.6%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 22.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 22.5 倍。全体の PER 22.54 倍、時価総額 17,694 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:改革の成功・インドの高成長・自動車の底堅さがすべてそろう必要があり、連続成功の確度は高くない。
やや楽観 20% インドとアフリカの成長が続き、欧州は黒字へ戻る。 利益 678 億円 · PER 21.8 倍 · 株価時価総額 8,420 円1.48 兆円
インドは建築用の競争がありながら、自動車用の強さで出荷が1.85倍になる。アフリカも1.6倍近く伸びる。欧州は益率が7%に戻り、会社全体の利益を支える。日本は人口減で微減だが、益率は13%台を保つ。会社は自社株買いと配当を続け、ROEは20%を超える水準になる。10年後の営業利益は1,000億円を超える。
欧州は2017年の買収が結果として報われる形になる。インドの工業用はインフラ投資の追い風も受ける。全体の益率は9%台後半まで上がり、これは過去の最高水準である10.7%に近い。純利益は680億円ほどで、今期から倍以上になる。それでも倍率は、成長が落ち着いた会社の水準にとどまる。
- 日本(国内の自動車用・工業用・建築用塗料):数量 257(出荷量(百万リットル))× 価格 5.36(1リットルあたり単価(ドル、150円/ドル固定換算・物価込みの名目))→ 売上 2,068 億円・営業利益 279 億円。益率13.5%
- インド(カンサイ・ネロラック):数量 866(出荷量(百万リットル))× 価格 2.68(1リットルあたり単価(ドル、150円/ドル固定換算・物価込みの名目))→ 売上 3,483 億円・営業利益 383 億円。益率11.0%
- アジア(東南アジア・中国など):数量 211(出荷量(百万リットル))× 価格 3.75(1リットルあたり単価(ドル、150円/ドル固定換算・物価込みの名目))→ 売上 1,187 億円・営業利益 116 億円。益率9.8%
- 欧州(ヘリオス・トルコなど):数量 264(出荷量(百万リットル))× 価格 6.03(1リットルあたり単価(ドル、150円/ドル固定換算・物価込みの名目))→ 売上 2,390 億円・営業利益 167 億円。益率7.0%
- アフリカ:数量 277(出荷量(百万リットル))× 価格 2.68(1リットルあたり単価(ドル、150円/ドル固定換算・物価込みの名目))→ 売上 1,113 億円・営業利益 139 億円。益率12.5%
倍率:事業の純利益 678 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 22.6% が k 7.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 14.8%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 21.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 21.8 倍。全体の PER 21.82 倍、時価総額 14,794 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:会社の資本配分方針と、新興国の成長が続く上位レンジの想定。
中立 35% 欧州は黒字に戻るが力強さはなく、インドとアフリカが成長を支える。 利益 575 億円 · PER 20.5 倍 · 株価時価総額 6,715 円1.18 兆円
インドの出荷量は10年で1.7倍、アフリカは1.45倍に増える。物価の分は価格に入り、売上は約1.6倍の9,700億円になる。欧州は益率5%台まで戻るが、それ以上は上がらない。日本は人口減で数量が減り、益率は12%台にとどまる。会社は大型買収をせず、利益の95%を株主に返す。10年後の営業利益は900億円台で、今の約1.8倍になる。
アジアは益率9%台を保つが、競争が続き、大きくは上がらない。アフリカは人口の増加に支えられ、益率12%台で安定する。為替は150円のままという前提なので、円換算の追い風はない。純利益は570億円ほどで、今期の約1.8倍だが、大部分は物価の分である。実質の成長はゆるやかなものにとどまる。
- 日本(国内の自動車用・工業用・建築用塗料):数量 252(出荷量(百万リットル))× 価格 5.36(1リットルあたり単価(ドル、150円/ドル固定換算・物価込みの名目))→ 売上 2,024 億円・営業利益 253 億円。益率12.5%
- インド(カンサイ・ネロラック):数量 796(出荷量(百万リットル))× 価格 2.68(1リットルあたり単価(ドル、150円/ドル固定換算・物価込みの名目))→ 売上 3,200 億円・営業利益 320 億円。益率10.0%
- アジア(東南アジア・中国など):数量 198(出荷量(百万リットル))× 価格 3.75(1リットルあたり単価(ドル、150円/ドル固定換算・物価込みの名目))→ 売上 1,113 億円・営業利益 100 億円。益率9.0%
- 欧州(ヘリオス・トルコなど):数量 257(出荷量(百万リットル))× 価格 6.03(1リットルあたり単価(ドル、150円/ドル固定換算・物価込みの名目))→ 売上 2,324 億円・営業利益 128 億円。益率5.5%
- アフリカ:数量 254(出荷量(百万リットル))× 価格 2.68(1リットルあたり単価(ドル、150円/ドル固定換算・物価込みの名目))→ 売上 1,022 億円・営業利益 123 億円。益率12.0%
倍率:事業の純利益 575 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 17.9% が k 7.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 12.4%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 20.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 20.5 倍。全体の PER 20.52 倍、時価総額 11,799 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:業界ノートの中立(数量は新興国で伸び、成熟国は横ばい)と、会社の還元方針を合わせた中心の筋書き。
やや悲観 24% インドの競争が厳しくなり、欧州は低益率のまま続く。 利益 427 億円 · PER 12.9 倍 · 株価時価総額 3,135 円5,508 億円
インドの建築用で新規参入組にシェアを奪われ、益率が9%に下がる。出荷量の伸びも1.45倍にとどまる。欧州は需要が回復せず、益率3%台で足踏みする。国内は人口減と電気自動車化で数量が1割以上減る。アフリカは通貨安に悩まされる。営業利益は680億円前後と、今よりは増えるが、成長は物価の範囲にほぼ収まる。ROEは1割強で、資本コストをやや上回る程度だ。
欧州は黒字を保つものの、のれんの重さと需要の弱さで、投資の元が取れない状態が続く。アジアは中国勢との競争で益率が8%に落ちる。会社は配当と自社株買いを続けるが、成長のための投資は限られる。10年たっても、会社の姿は今とほとんど変わらない。
- 日本(国内の自動車用・工業用・建築用塗料):数量 238(出荷量(百万リットル))× 価格 5.20(1リットルあたり単価(ドル、150円/ドル固定換算・物価込みの名目))→ 売上 1,858 億円・営業利益 214 億円。益率11.5%
- インド(カンサイ・ネロラック):数量 679(出荷量(百万リットル))× 価格 2.60(1リットルあたり単価(ドル、150円/ドル固定換算・物価込みの名目))→ 売上 2,648 億円・営業利益 238 億円。益率9.0%
- アジア(東南アジア・中国など):数量 173(出荷量(百万リットル))× 価格 3.64(1リットルあたり単価(ドル、150円/ドル固定換算・物価込みの名目))→ 売上 945 億円・営業利益 76 億円。益率8.0%
- 欧州(ヘリオス・トルコなど):数量 240(出荷量(百万リットル))× 価格 5.85(1リットルあたり単価(ドル、150円/ドル固定換算・物価込みの名目))→ 売上 2,104 億円・営業利益 74 億円。益率3.5%
- アフリカ:数量 219(出荷量(百万リットル))× 価格 2.60(1リットルあたり単価(ドル、150円/ドル固定換算・物価込みの名目))→ 売上 855 億円・営業利益 90 億円。益率10.5%
倍率:ROE 12.7%。今の利益はそのまま残り、先で薄れるのは新しく投じるお金の稼ぎだけとみて、RONIC=k 7%+残る割合 1/2×(12.7−7.8)=10.2%、長期の成長率 g 4%から正当化 PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)=16.2 倍。伸びと堀の持ちを低く見るが、ROE は k を上回るので 1÷k の下限 12.9 倍に置いた。
確率:10年続いた利益の停滞が今後も続くという慎重な見方に相当し、強い確率を置く。
悲観 13% 電気自動車への移行と新興国の通貨危機で、優良さを失う。 利益 173 億円 · PBR 0.5 倍 · 株価時価総額 853 円1,499 億円
電気自動車の普及で塗装工程が短くなり、国内とインドの自動車向けの数量が減る。インドは価格競争で益率が6%に落ち、アフリカとトルコは通貨危機で利益が消える。欧州は赤字が続き、のれんの減損も出る。全社の営業利益は300億円を割り、会社の存在感は今より小さくなる。それでも自動車メーカーとの取引と設備という資産は残り、自己資本の半分の水準が下値になる。
10年後に、塗料メーカーとしての優良さは失われている。自動車メーカーが塗装を内製に近づけ、価格交渉力を強める。会社はやむなく配当を絞り、資産の売却に動く。それでも、自己資本は厚く、清算価値に近い水準で下支えされる。
- 日本(国内の自動車用・工業用・建築用塗料):数量 217(出荷量(百万リットル))× 価格 4.88(1リットルあたり単価(ドル、150円/ドル固定換算・物価込みの名目))→ 売上 1,585 億円・営業利益 127 億円。益率8.0%
- インド(カンサイ・ネロラック):数量 515(出荷量(百万リットル))× 価格 2.44(1リットルあたり単価(ドル、150円/ドル固定換算・物価込みの名目))→ 売上 1,885 億円・営業利益 113 億円。益率6.0%
- アジア(東南アジア・中国など):数量 148(出荷量(百万リットル))× 価格 3.42(1リットルあたり単価(ドル、150円/ドル固定換算・物価込みの名目))→ 売上 760 億円・営業利益 38 億円。益率5.0%
- 欧州(ヘリオス・トルコなど):数量 220(出荷量(百万リットル))× 価格 5.49(1リットルあたり単価(ドル、150円/ドル固定換算・物価込みの名目))→ 売上 1,814 億円・営業利益 −18 億円。益率-1.0%
- アフリカ:数量 175(出荷量(百万リットル))× 価格 2.44(1リットルあたり単価(ドル、150円/ドル固定換算・物価込みの名目))→ 売上 642 億円・営業利益 38 億円。益率6.0%
倍率:谷の利益に低い倍率を掛けると二重に下げるので、資産で置いた。稼ぐ力(純利益 173 億円÷k≒2,200 億円)より低い水準として、自動車メーカーとの取引と製造設備という資産の厚みを床に、今の自己資本 2,998 億円に 0.5 倍を掛けた。純有利子負債 1,455 億円を足した EV÷営業利益は 24 倍だが、谷で利益が小さい年なので意味を持たず、資産の側で見た。
確率:複数の構造要因(電気化・新興国の通貨・欧州の失敗)が同時に重なる想定。10年続いた利益の停滞を考え、1割強を置く。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
日本(国内の自動車用・工業用・建築用塗料)
国内の祖業。自動車メーカー向けを中心に、工業用・建築用も扱う。人口減で成熟した市場。
| 数量出荷量(百万リットル) | 価格1リットルあたり単価(ドル、150円/ドル固定換算・物価込みの名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 271 | 4.00 | 1,624 | 207 |
| 10 年後 中立 | 252 | 5.36 | 2,024 | 253 |
取り方:公開のセグメント売上 1,599 億円を、連結売上との差(消去・その他)に合わせて 1.0153 倍し 1,624 億円とした。価格は自動車用・工業用が中心の高付加価値品として 4.0 ドル/L と置き、数量は売上÷(価格×1.5) で逆算した。 益率は公開のセグメント利益から。全社の営業利益 497 億円に合わせて調整 +7 億円。
インド(カンサイ・ネロラック)
インドの上場子会社。自動車用・工業用に強く、建築用も扱う。
| 数量出荷量(百万リットル) | 価格1リットルあたり単価(ドル、150円/ドル固定換算・物価込みの名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 468 | 2.00 | 1,405 | 136 |
| 10 年後 中立 | 796 | 2.68 | 3,200 | 320 |
取り方:セグメント売上 1,384 億円を同じく 1.0153 倍して 1,405 億円。建築用中心で低価格帯が多いので 2.0 ドル/L と置き、数量を逆算した。 益率は公開のセグメント利益から。全社の営業利益 497 億円に合わせて調整 +7 億円。 数量は出荷量(実物)。世界の塗料の名目年 6% の見通しは物価を除いた実質で置いた。
アジア(東南アジア・中国など)
東南アジアと中国などの自動車・工業用塗料が中心。
| 数量出荷量(百万リットル) | 価格1リットルあたり単価(ドル、150円/ドル固定換算・物価込みの名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 165 | 2.80 | 692 | 60 |
| 10 年後 中立 | 198 | 3.75 | 1,113 | 100 |
取り方:セグメント売上 681 億円を 1.0153 倍して 692 億円。自動車・工業用が多く 2.8 ドル/L と置いた。 益率は公開のセグメント利益から。全社の営業利益 497 億円に合わせて調整 +7 億円。
欧州(ヘリオス・トルコなど)
2017 年に買収した欧州の工業用・粉体塗料などの事業とトルコ。改革の最中。
| 数量出荷量(百万リットル) | 価格1リットルあたり単価(ドル、150円/ドル固定換算・物価込みの名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 245 | 4.50 | 1,652 | 25 |
| 10 年後 中立 | 257 | 6.03 | 2,324 | 128 |
取り方:セグメント売上 1,627 億円を 1.0153 倍して 1,652 億円。工業用・特殊品が多く 4.5 ドル/L と置いた。 益率は公開のセグメント利益から。全社の営業利益 497 億円に合わせて調整 +7 億円。
アフリカ
アフリカの建築用・自動車用塗料。長く赤字だったが黒字化した。
| 数量出荷量(百万リットル) | 価格1リットルあたり単価(ドル、150円/ドル固定換算・物価込みの名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 175 | 2.00 | 526 | 62 |
| 10 年後 中立 | 254 | 2.68 | 1,022 | 123 |
取り方:セグメント売上 518 億円を 1.0153 倍して 526 億円。普及価格帯が中心で 2.0 ドル/L と置いた。 益率は公開のセグメント利益から。全社の営業利益 497 億円に合わせて調整 +7 億円。
リスクと懸念
欧州事業の立て直しの遅れ
2017年に買ったヘリオスの益率は、9年たっても1桁前半にとどまる。ドイツ工場の閉鎖後も、構造改革「True Color」の費用や、トルコのインフレ、欧州の需要不振が重くのしかかる。立て直しが長引けば、のれんの減損も視野に入る。 会社は2026年度に欧州の改革で約70億円の特別損失を見込むが、これで終わる保証はない。
自動車の電気化と国内の人口減
電気自動車は車体の作りと塗装工程を変え、塗料の使い方が減る可能性がある。国内は人口減で車の台数が細り、日本セグメントは数量が横ばいから微減になる。祖業の稼ぐ力が長期でどこまで保てるかが問われる。 欧州に頼らず日本・インドで利益を稼げる構造だが、国内の数量が細れば全体の底が下がる。
インド建築用の競争と低価格品への移行
インドの建築用塗料は、アジアンペイント、バーガー、2024年に参入したバーラ・オーパスなどが争う。買い手が低価格品へ移り、子会社の利益率を押し下げた。シェアを失えば、インドの成長の前提が崩れる。 人口増と所得増の追い風があるぶん、競争も激しくなりやすい市場である。
新興国の通貨と物価
アフリカやトルコでは、現地通貨の下落と物価の急上昇が、円換算の利益を大きく揺らす。2026年3月期にアフリカは黒字化したが、過去は赤字の年が続いた。通貨危機が重なると、利益が一気に減る。 円換算では、為替の変動がさらに利益を揺らす。
原料価格の変動
樹脂・顔料・溶剤は石油や酸化チタンの値動きの影響を受ける。値上げが遅れると、数か月から数四半期にわたって益率が低下する。2026年3月期の営業利益が減ったのも、原材料高と人件費増の影響が大きい。 値上げが通る間は問題ないが、需要が弱いときは転嫁が難しい。
資本政策の方針転換
大型M&Aをしないとの方針は現中計の間だけで、次の中計で変わる可能性がある。アクティビストが5%超を持つため、株主還元の圧力は強まる一方、成長投資が削られる恐れもある。 株主還元の水準は、その時の中計に左右され、一度上げても下げられる。
今後の分かれ目
- 欧州のセグメント利益が100億円に近づいたら
- 全社の営業利益が600億円台に乗り、強気側の確率を上げてよい。欧州の益率と費用の出方を確かめる。
- 欧州の構造改革が2027年3月期以降も追加の特別損失を出し続けたら
- 欧州の黒字化が遠のくので、やや悲観の確率を上げる。のれんの減損の可能性も見る。
- インドの建築用でシェアを失い、子会社の営業利益が100億円を下回ったら
- インドの成長が止まる筋書きに近づくため、やや悲観側へ重みを移す。
- 自社株買いと配当が計画どおり続き、純有利子負債が減ったら
- 資本政策への評価が高まり、中立〜やや楽観の確率を保てる。
- 電気自動車の普及で、国内・インドの自動車用塗料の量が減り始めたら
- 自動車用の長期の数量を下方修正する。
- 大型M&Aの方針が変わり、再び買収に動いたら
- 資本の使い方への評価が崩れるので、確率を悲観側へ寄せる。
見ておくもの
- 欧州セグメントの益率と構造改革費用の追加の有無
- インド子会社(カンサイ・ネロラック)の建築用シェアと営業利益
- アフリカのセグメント利益と現地通貨
- 自社株買い・配当の実績と純有利子負債の推移
- 国内・インドの自動車生産台数と電気自動車の比率
- アクティビスト(シルチェスター)の提案内容
倍率と資本コストの決め方
今の株価と今のPER・PBRは最後に比べただけで、筋書きには寄せていない。5地域を出荷量(実質)×単価(物価込みの名目)で積み、単価は中立で10年1.34倍に置いた。利払いは借り換えの分(10年で−36億円)を純利益に入れた。資本コストは基本7.5%+quality 0.25%の7.75%。同じ領域の日本ペイントは世界最大級の中国の建築用が堀で、同じ堀を持たない当社の倍率はやや低めに置くのが筋だ。上限の割合は中立0.85、やや楽観・楽観0.9とし、やや悲観はROEがkを上回るので1÷kの下限に置いた。悲観は稼ぐ力と自己資本で置き、過去のPBRの底からは置いていない。純有利子負債は時価総額の約3割なのでEV÷営業利益も確かめ、いずれも20倍を下回る。今期の純利益は欧州の改革費用で下振れているため、PERの高さだけで割高とは言わない。賃借は店舗が少なく影響は小さいが、2028年3月期から新リース会計で純有利子負債が増える形になる。10年後の数字は家賃を営業費用に入れた今の形でそろえた。 2026-10-22 の見直し(R1〜R4)で倍率・時価総額を機械で置き直した(前後は notes/audit/fix_stage2_20261022.csv)。
資本コスト 7.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality +0.25%(自動車の循環)を足して 7.75%。自動車の景気に連動する塗料会社として普通の位置で、堀は普通(残る割合 1/2)。欧州の立て直しの難しさは k に足さず、やや悲観・悲観の確率と筋書きで表した。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 7.75% → 7.00%。