結論
石原ケミカルは、半導体や電子部品の端子に使う「すずめっき液」で国内首位の薬品メーカーである。筆者の結論は、利益率が過去最高の今は強いが、10年で測ると価値は今の時価総額を1割台半ばほど下回る「やや割高」というものだ。いちばんの理由は、稼ぎが先端パッケージ向けの一本足に寄り、設備投資と償却が重くなる点にある。
稼ぎ頭は金属表面処理剤で、売上の5割強、事業利益の7割を占める。生成AI向けのHBMや先端パッケージで、バンプ(接続用の小さな突起)をつくるめっき液が伸びている。2026年3月期の営業利益率は16.4%と、ここ30年の最高だ。
一方で、足元の追い風を10年続く姿と見るのは危うい。今期は過去最大の設備投資で償却が増え、営業利益は横ばいの計画だ。中国・台湾の新工場が動くまでは利益が増えにくい。
自動車ディーラー向けのエアコン洗浄剤は、純正採用で値が崩れにくい安定した稼ぎだ。商社機能の工業薬品は利益が薄く、成長にはほとんど効かない。銅ナノインクが育てば上振れるが、まだ量産の入口にある。
財務は強い。自己資本比率は8割を超え、純現金が約84億円ある。ただ、これから工場に使う現金であり、余り資産として別に足すほどではない。
10年後の中立は、純利益が約52億円、倍率は11〜12倍とみる。楽観と悲観の差は大きく、確率で重みづけた価値は今の時価総額に届かない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点で、この会社の問いは1つに絞れる。AIパッケージ向けの高い利益率が、10年先も株主の手元に残るか、である。
利益の質は悪くない。すずめっき液の首位という位置と、自動車向けの安定した稼ぎ、純現金が土台にある。だが、オーナー利益、つまり再投資を引いて株主に残る利益は、いまの数字ほど厚くない。過去最大の設備投資と償却増が控え、新工場が稼ぐまでに数年かかるからだ。
資本配分は保守的だ。現金をため込む傾向があり、ROEが資本コストを大きく超える水準が続かなければ、ためた利益は額面より小さな価値しか生まない。筆者は、帳簿の自己資本を床に使わず、稼ぐ力で測った。
安全域は中途半端だ。楽観では今を大きく上回るが、最先端品のシェア喪失と中国勢の台頭が重なる悲観では、価値は今の3割以下に落ちうる。予測の難しい先端パッケージ需要に依存する以上、確信度は高くない。この銘柄を持つなら、割安に買える局面を待つのが筋だと考える。
何で稼ぐ会社か
石原ケミカルは、界面化学を核に研究から製造、販売までを自社で担う小さな薬品メーカーで、連結の従業員は約270人。売上は約235億円で、4つの事業を持つ。
金属表面処理剤及び機器等(売上の55%)が中核だ。電子部品、半導体、プリント基板の端子や配線に、すずやその合金、銅をめっきする薬液を売る。鉛を使わないすず系めっき液は国内首位とされる。HBMなどのウエハ上に接合用の突起を立てる「バンプ用めっき液」が、いまの成長の中心である。顧客は半導体・電子部品メーカーで、薬液は顧客の量産ラインに合わせて調整するため、一度採用されると切り替えにくい。
自動車用化学製品等(15%)は、カーディーラー向けのエアコン洗浄剤が柱で、国内メーカーの純正品として採用されている。工業薬品(24%)は、鉄鋼・重工業向けに薬品を仕入れて届ける商社の役割で、利益率は低い。
電子材料(5%)は銅ナノインクなどの金属ナノ粒子で、会社が「第5の柱」と位置づける新事業だ。国内1社での量産採用が決まったが、売上はまだ12億円ほどにとどまる。
海外は中国の現地法人、台湾支店、タイの駐在所を軸に広げている。2019年に表面処理薬品のキザイを完全子会社にした。
優良さと弱いところ
質は「狭いが深い」。すずめっき液では国内首位で、顧客の量産ラインに合わせた配合が堀、つまり他社がまねしにくい強みになっている。売上の約1割を研究開発に回し、従業員の3分の1が研究員という体制も、この堀を支える。
エアコン洗浄剤の純正採用も、価格競争を避けられる小さな堀だ。ここは景気の波が小さく、利益を安定させる役目を果たす。
弱みは3つある。第1は規模だ。売上は上村工業やJCUの半分以下で、米国の大手薬品メーカーと真正面では戦えない。第2は顧客と用途の集中で、利益の大半が先端パッケージ向けのめっき液に頼る。顧客の工程が変われば、薬液ごと置き換わりうる。第3は、売上の4分の1ほどを占める商社機能の工業薬品が、堀を持たないことだ。
資本の使い方では、配当性向を23%前後に抑え、現金をためる傾向が続いてきた。ROEは過去10年の中央値で7.5%と低く、直近の12%は利益率が最高に達したことによる一時的な高さだ。筆者は、この水準が定着するかどうかを、今回の分析でいちばん厳しく見た。
ただ、純現金があり借金の心配はない。この点が、小さな会社のもろさをやわらげている。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
半導体材料の世界市場は、AIデータセンター向けの先端ロジックとHBM、先端パッケージを牽引役に、2030年にかけて名目で年5〜8%の成長が見込まれる。実質の数量では年3〜5%だ。ただ半導体投資は2〜4年の周期で山と谷を繰り返してきた。AIという新しい柱ができても、循環そのものは消えない。
めっき薬品の領域には、競合が並ぶ。上村工業は国内最大手で、プリント基板と半導体向けに強い。JCUは国内の電子部品めっきで大きく、メックはパッケージ基板の表面処理で伸びている。世界では米国の大手薬品メーカーが顧客をおさえる。石原ケミカルは、すずと銅のめっき液というニッチで戦う。
構造の変化は2つある。1つは先端パッケージの層数が増え、チップ1個あたりに使うめっき液の量と単価が上がることだ。もう1つは中国の国産化で、汎用のめっき液では現地メーカーが追い上げ、中位品の単価は下がる。最先端品は当面日本勢が優位だが、10年のうちに差が縮む可能性は高い。
自動車は、EV化で部品点数は変わるが、ディーラーの車内洗浄は需要が安定している。ただ国内の新車販売は人口と共に細るため、数量は横ばいと見る。工業薬品は鉄鋼・重工業の稼働に連動する。
資本政策と M&A
還元は「業績に裏づけられた安定的で継続的な配当」が基本で、配当性向は2026年3月期で24%前後。今期も配当を増やし、8期連続の増配となる。自社株買いも機動的に実施し、2025年3月期に約31億円、今期も上限10億円を発表した。株主優待はクオカードなどで、年間の費用は1億円に満たない小さな額だ。
財務は純現金が約84億円、自己資本比率は82%。しかしこの現金は、中国・台湾の新工場と国内増設に向かう。運転資金も必要で、余った現金とは言い切れない。
M&Aでは2019年にキザイを子会社にしたが、これが同社初の本格的な統合で、手探りの面がある。大株主には取引先持株会のほか、アクティビスト系のファンドが上位に名を連ねており、資本効率の改善を求める圧力は続くだろう。時価総額が小さく、10年以内に買収の対象となる確率は2割弱と見込まれる。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
AIの計算需要は、まだ入口にある。HBMは世代が進むたびに積層数が増え、めっき工程が増える。石原ケミカルのバンプ用めっき液は、この工程の中心に入っており、チップ1個あたりに使う薬液の量と単価が同時に上がる。顧客の生産ラインに合わせた配合で認定を取るため、一度入れば簡単には外れない。
2026年4〜6月期の営業利益は前年同期比75%増と、実際に利益は伸びている。会社の中計は2028年3月期の営業利益を48億円とし、その先に銅ナノインクの量産、中国・台湾工場の稼働が控える。銅ナノインクはパワーデバイスの放熱など、まだ数字に入っていない用途の問い合わせが多い。
財務に余裕があり、借金なしで能力を増やせる。小さな会社なので、買収の対象になれば倍率が一気に上がる可能性もある。アクティビストの存在は、資本効率の改善と還元の増額を後押しする。
利益率30%を超える上村工業、メックの水準に近づけば、今の時価総額は割安に見える。
慎重な見方
いまの利益率は景気と先端パッケージの山にある。過去30年の営業利益率は2割に届いたことがなく、直近の16%は最高値だ。この水準を前提に10年の利益を積むのは危うい。
今期は過去最大の設備投資と償却増で、営業利益は2%減の計画だ。新工場が稼働しても、稼働率が上がるまでは固定費が重い。しかも設備投資が大きいほど、需要が一時的に落ちた時の痛みも大きい。HBMを含む半導体投資は、2〜4年周期で山と谷を繰り返してきた。
顧客と用途の集中も問題だ。先端パッケージは顧客の工程が変われば薬液ごと置き換わる。中国の国産メーカーは汎用のめっき液から先端品へ這い上がり、単価を押し下げる。上村工業やJCU、世界の大手は規模も開発力も上で、価格交渉力は石原ケミカルより強い。
売上の4分の1を占める商社機能の工業薬品は堀を持たず、利益は薄い。ROEの10年の中央値は7.5%で、資本コストを下回る年が多かった。直近の12%を定着した姿と見るのは早すぎる。
どちらに重みを置いたか
慎重な見方のほうがやや強いと判断した。足元の利益は確かだが、10年で見ると設備投資と償却の重さ、顧客集中、中国の追い上げが利益率を押し下げる。ROEが過去に資本コストを下回った年が多い点も重い。一方、強気の見方が示す先端パッケージの需要拡大は、数量に確かに効く。そのため確率は、悲観側に2〜3ポイントだけ寄せた(楽観10%、やや楽観21%、中立32%、やや悲観24%、悲観13%)。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 6,203 円846 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,120 円153 億円)。 今の値に割り戻すと 3,968 円541 億円、今との差 +41.7%、 期待の年率 +10.1%(資本コスト 7.0%)→ 割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 11,682 円1,593 億円 | 1,526 円208 億円 | +371.5% | +16.8% | 1,321 円180 億円 |
| やや楽観 | 21% | 9,580 円1,306 億円 | 1,408 円192 億円 | +292.3% | +14.6% | 2,308 円315 億円 |
| 中立 | 32% | 7,263 円990 億円 | 1,203 円164 億円 | +202.2% | +11.7% | 2,709 円369 億円 |
| やや悲観 | 24% | 2,505 円341 億円 | 836 円114 億円 | +19.3% | +1.8% | 802 円109 億円 |
| 悲観 | 13% | 748 円102 億円 | 660 円90 億円 | −49.7% | −6.6% | 183 円25 億円 |
| 加重平均 | 100% | 6,203 円846 億円 | 1,120 円153 億円 | +161.4% | +10.1% | 7,322 円998 億円 |
今の株価時価総額 2,801 円382 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.0% を下回るほど割高。
楽観 10% AI需要が長く続き、銅ナノインクも育つ 利益 81 億円 · PER 19.5 倍 · 株価時価総額 11,682 円1,593 億円
HBMと先端パッケージの層数が増え続け、金属表面処理剤の数量は今の1.8倍になる。先端品への構成替えで単価は物価を少し上回り1.40倍。営業利益率は25%まで上がる。中国・台湾の新工場は早く満ちる。銅ナノインクは複数の顧客に量産採用され、売上は50億円を超える。エアコン洗浄剤は安定し、工業薬品は横ばい。全社の営業利益率は20%に近づき、上村工業やメックの水準に並ぶ。配当や自社株買いも利益に連れて増え、還元は厚くなる。ただ過去に例がない水準なので、確率は低く置く。顧客の増設が前倒しで続き、新工場の償却は増収で吸収される。中国法人は現地の先端品の認定も取り、台湾拠点がHBMの集積地の需要を取り込む。
- 金属表面処理剤及び機器等(すず・銅めっき液):数量 23.5(出荷量(千トン、売上と推定単価から逆算))× 価格 14(1千トンあたり売上(億円、名目))→ 売上 329 億円・営業利益 82 億円。数量1.8倍・価格1.4倍
- 電子材料(銅ナノインクなど金属ナノ粒子):数量 3.2(出荷量(千トン、推定))× 価格 20(1千トンあたり売上(億円、名目))→ 売上 64 億円・営業利益 13 億円。数量4.0倍・価格1.34倍
- 自動車用化学製品等(エアコン洗浄剤など):数量 420(販売本数(万本、推定))× 価格 0.12(1万本あたり売上(億円、名目))→ 売上 51 億円・営業利益 11 億円。数量1.05倍・価格1.34倍
- 工業薬品(鉄鋼・重工業向けの仕入れ販売):数量 5.6(販売量(万トン、推定))× 価格 13(1万トンあたり売上(億円、名目))→ 売上 75 億円・営業利益 5 億円。数量1.0倍・価格1.34倍
倍率:事業の純利益 81 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 14.8% が k 6.95% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.9%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 19.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 19.5 倍。全体の PER 19.51 倍、時価総額 1,584 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:先端パッケージの需要拡大と新事業の立ち上がりが10年続くには、連続した成功が要る。実現すれば大きいが確度は高くない。
やや楽観 21% 先端パッケージが主軸として定着 利益 67 億円 · PER 19.0 倍 · 株価時価総額 9,580 円1,306 億円
金属表面処理剤の数量は今の1.65倍に伸び、単価は物価並みの1.34倍。営業利益率は24%を保つ。電子材料は銅ナノインクで3倍の規模になる。自動車用は横ばい、工業薬品はやや縮む。全社の営業利益率は18%。新工場の償却は吸収できるが、利益率は最高をさらに更新する形ではなく、足元の水準を維持する。中国と台湾の新工場は計画どおりに満ち、海外の売上比率が上がる。還元は利益に連れて増える。HBMの世代交代で薬液の単価が上がり、顧客との共同開発が広がる。ただ顧客が増設を一時止める年もあり、数量は直線では伸びない。
- 金属表面処理剤及び機器等(すず・銅めっき液):数量 21.6(出荷量(千トン、売上と推定単価から逆算))× 価格 13(1千トンあたり売上(億円、名目))→ 売上 289 億円・営業利益 69 億円。数量1.65倍・価格1.34倍
- 電子材料(銅ナノインクなど金属ナノ粒子):数量 2.4(出荷量(千トン、推定))× 価格 20(1千トンあたり売上(億円、名目))→ 売上 48 億円・営業利益 9 億円。数量3.0倍・価格1.34倍
- 自動車用化学製品等(エアコン洗浄剤など):数量 408(販売本数(万本、推定))× 価格 0.12(1万本あたり売上(億円、名目))→ 売上 49 億円・営業利益 10 億円。数量1.02倍・価格1.34倍
- 工業薬品(鉄鋼・重工業向けの仕入れ販売):数量 5.5(販売量(万トン、推定))× 価格 13(1万トンあたり売上(億円、名目))→ 売上 73 億円・営業利益 4 億円。数量0.98倍・価格1.34倍
倍率:事業の純利益 67 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 13.6% が k 6.95% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.3%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 19.0 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 19.0 倍。全体の PER 19 倍、時価総額 1,269 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:AIパッケージの需要拡大という業界の上位の見通しに近い想定。足元の利益の伸びと一致する。
中立 32% 中立:先端パッケージ向けが伸びるが利益率は最高から下がる 利益 52 億円 · PER 18.1 倍 · 株価時価総額 7,263 円990 億円
金属表面処理剤の数量は実質年3.8%で伸び、10年で1.45倍。単価は物価並みの1.34倍。営業利益率は償却増と顧客からの値下げ要求で22%に下がる。電子材料は銅ナノインクで売上が32億円に育つ。自動車用は人口減で数量が横ばい、工業薬品はわずかに減る。全社の営業利益は65億円、利益率は16%で、直近の最高圏にとどまる。ROEは10%強で、資本コストを少し上回る程度だ。還元は利益の4割ほどで、配当は増やし続け、自社株買いは時々行う。中国の現地メーカーの追い上げで中位品の単価は物価を少し下回り、先端品の値上がりで相殺される。新工場の稼働率は数年かけて上がる。
- 金属表面処理剤及び機器等(すず・銅めっき液):数量 18.9(出荷量(千トン、売上と推定単価から逆算))× 価格 13(1千トンあたり売上(億円、名目))→ 売上 254 億円・営業利益 56 億円。数量1.45倍・価格1.34倍
- 電子材料(銅ナノインクなど金属ナノ粒子):数量 1.6(出荷量(千トン、推定))× 価格 20(1千トンあたり売上(億円、名目))→ 売上 32 億円・営業利益 5 億円。数量2.0倍・価格1.34倍
- 自動車用化学製品等(エアコン洗浄剤など):数量 400(販売本数(万本、推定))× 価格 0.12(1万本あたり売上(億円、名目))→ 売上 48 億円・営業利益 10 億円。数量1.0倍・価格1.34倍
- 工業薬品(鉄鋼・重工業向けの仕入れ販売):数量 5.3(販売量(万トン、推定))× 価格 13(1万トンあたり売上(億円、名目))→ 売上 71 億円・営業利益 4 億円。数量0.95倍・価格1.34倍
倍率:事業の純利益 52 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.9% が k 6.95% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.4%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 18.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 18.1 倍。全体の PER 18.12 倍、時価総額 942 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:業界の中心的な見通し(実質年3〜5%)と、償却増や価格交渉による利益率の低下を組み合わせた中心の筋書き。
やや悲観 24% 利益率が崩れ、中位品を中国に取られる 利益 32 億円 · PER 9.2 倍 · 株価時価総額 2,505 円341 億円
金属表面処理剤の数量は1.2倍にとどまり、単価は物価を下回る1.30倍。営業利益率は17%に下がる。中位品は中国の現地メーカーに取られ、先端品でも値下げ要求が続く。新工場の稼働率が上がらず、償却が重い。銅ナノインクは小さなままだ。自動車用と工業薬品は縮む。全社の営業利益は約39億円、利益率は12%。ROEは資本コストを下回る。還元は利益の減りに合わせて抑えられ、自社株買いは止まる。大株主のファンドから改善を求められるが、事業の立て直しには時間がかかる。HBMの投資が一巡した年には数量が大きく落ち、新工場の償却だけが残る。顧客の値下げ要求は強まり、研究開発費も削れない。
- 金属表面処理剤及び機器等(すず・銅めっき液):数量 15.7(出荷量(千トン、売上と推定単価から逆算))× 価格 13(1千トンあたり売上(億円、名目))→ 売上 204 億円・営業利益 35 億円。数量1.2倍・価格1.3倍
- 電子材料(銅ナノインクなど金属ナノ粒子):数量 1.0(出荷量(千トン、推定))× 価格 20(1千トンあたり売上(億円、名目))→ 売上 19 億円・営業利益 2 億円。数量1.2倍・価格1.3倍
- 自動車用化学製品等(エアコン洗浄剤など):数量 380(販売本数(万本、推定))× 価格 0.12(1万本あたり売上(億円、名目))→ 売上 46 億円・営業利益 9 億円。数量0.95倍・価格1.34倍
- 工業薬品(鉄鋼・重工業向けの仕入れ販売):数量 5.0(販売量(万トン、推定))× 価格 13(1万トンあたり売上(億円、名目))→ 売上 67 億円・営業利益 3 億円。数量0.9倍・価格1.34倍
倍率:ROE 7.3%でkを下回る。RONIC=8.2%+1/2×(7.3−8.2)=7.75%、g 4%から正当化PER=11.5倍。やや悲観は稼ぐ力の弱さを見て上限の8割の9.2倍に置いた。
確率:設備投資の回収が遅れ、中国の追い上げで単価が押される筋書き。足元の利益が山にあることを踏まえると、起こりやすい。
悲観 13% 先端品でもシェアを失い、設備が重荷になる 利益 12 億円 · PER 8.5 倍 · 株価時価総額 748 円102 億円
顧客の工程が変わり、バンプ用めっき液の採用が他社や中国勢に移る。金属表面処理剤の数量は今の0.85倍、単価は1.15倍に抑えられ、営業利益率は10%まで落ちる。銅ナノインクは顧客が定着せず利益が出ない。新工場の稼働が低く、償却が利益を食う。自動車用と工業薬品も縮む。本社費は一部しか減らせない。全社の営業利益は約14億円で、稼ぐ力は今の3分の1以下になる。配当は維持が精一杯で、自社株買いは止まる。買収の対象になる可能性が高まるが、それでも価値は今を大きく下回る。中国の現地メーカーが先端品にも広がり、顧客は調達先を分散する。新工場の償却が残り、研究開発費も削れず、立て直しの原資が足りなくなる。
- 金属表面処理剤及び機器等(すず・銅めっき液):数量 11.1(出荷量(千トン、売上と推定単価から逆算))× 価格 12(1千トンあたり売上(億円、名目))→ 売上 128 億円・営業利益 13 億円。数量0.85倍・価格1.15倍
- 電子材料(銅ナノインクなど金属ナノ粒子):数量 0.6(出荷量(千トン、推定))× 価格 17(1千トンあたり売上(億円、名目))→ 売上 11 億円・営業利益 0 億円。数量0.8倍・価格1.15倍
- 自動車用化学製品等(エアコン洗浄剤など):数量 340(販売本数(万本、推定))× 価格 0.11(1万本あたり売上(億円、名目))→ 売上 38 億円・営業利益 6 億円。数量0.85倍・価格1.25倍
- 工業薬品(鉄鋼・重工業向けの仕入れ販売):数量 4.5(販売量(万トン、推定))× 価格 12(1万トンあたり売上(億円、名目))→ 売上 54 億円・営業利益 2 億円。数量0.8倍・価格1.2倍
倍率:ROE 3.6%でkを大きく下回る。稼ぐ力は純利益12億円÷k 6.95%=約146億円で、帳簿の純現金84億円より大きい。倍率は式の上限(1÷k≒12.2倍)を下回る8.5倍に置いた。
確率:顧客の工程変更と中国の国産化が重なり、先端品でも置き換えが進む構造的な負け。小さな会社のため一度崩れると立て直しが難しい。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
金属表面処理剤及び機器等(すず・銅めっき液)
半導体・電子部品・プリント基板向けのめっき液。HBMなど先端パッケージ向けが成長の中心。
| 数量出荷量(千トン、売上と推定単価から逆算) | 価格1千トンあたり売上(億円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 13.1 | 10 | 131 | 32 |
| 10 年後 中立 | 18.9 | 13 | 254 | 56 |
取り方:開示は金額のみ。めっき液の単価を1トンあたり約100万円と推定し、売上130.6億円から出荷量を約1.3万トンと置いた。営業利益はセグメント利益の約70.6%配分から推定。数量は実質、価格は物価に先端品の構成を足して見る。
電子材料(銅ナノインクなど金属ナノ粒子)
会社が第5の柱と位置づける新事業。国内1社で量産採用が決まった段階。
| 数量出荷量(千トン、推定) | 価格1千トンあたり売上(億円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 0.8 | 15 | 12 | 2 |
| 10 年後 中立 | 1.6 | 20 | 32 | 5 |
取り方:売上は1四半期2.9億円(前年比27%増)から年12億円ほどと推定し、単価を1トンあたり約150万円として出荷量を約800トンと置いた。営業利益は推定。
自動車用化学製品等(エアコン洗浄剤など)
国内メーカーの純正採用のエアコン洗浄剤が中心。ディーラー向け。
| 数量販売本数(万本、推定) | 価格1万本あたり売上(億円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 400 | 0.09 | 36 | 8 |
| 10 年後 中立 | 400 | 0.12 | 48 | 10 |
取り方:1四半期約10億円の売上と、洗浄剤1本が千円弱という見立てから年約400万本と置いた。数量は国内の新車販売に連動して横ばいが基本。
工業薬品(鉄鋼・重工業向けの仕入れ販売)
薬品を仕入れて届ける商社機能。利益率は低い。
| 数量販売量(万トン、推定) | 価格1万トンあたり売上(億円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 5.6 | 10 | 56 | 4 |
| 10 年後 中立 | 5.3 | 13 | 71 | 4 |
取り方:売上55.9億円は全社売上から他3事業を引いた残りで、薬品の平均単価を1トン約10万円と推定して販売量を約5.6万トンと置いた。
リスクと懸念
先端パッケージ向けへの集中
利益の大半が、生成AI向けのバンプ用めっき液に寄る。顧客の工程が変わると薬液ごと置き換わる。HBMの投資が2〜4年の周期で冷えれば、金属表面処理剤の数量が一度に落ち、利益率も崩れる。
過去最大の設備投資と償却増
中国と台湾の新工場、国内の増設で償却負担が重くなる。稼働率が想定に届かなければ固定費が利益を食う。今期は営業利益が2%減る計画で、先行投資の回収には数年かかる。
中国の国産化と単価の下落
中国の現地メーカーが汎用のすずめっき液で追い上げ、中位品の単価を押し下げる。やがて先端品にも手を伸ばす。顧客の現地調達が進めば、石原ケミカルの中国法人は価格競争に巻き込まれる。
規模の小ささと競合の大手
売上は上村工業やJCUの半分以下で、米国の大手薬品メーカーとは資金力が違う。研究開発費は売上の1割だが、絶対額は小さく、次世代の技術競争で後れを取る恐れがある。
商社機能の工業薬品
売上の24%を占めるが、利益率は低く堀がない。中東情勢で樹脂の供給が滞る恐れも経営者が口にしている。景気後退で鉄鋼・重工業の稼働が落ちれば、数量が減る。
統合の経験の浅さ
2019年のキザイの統合が、同社初の本格的なPMIで、経営者自身が手探りと語る。隣接分野でM&Aを選択肢にしているが、失敗すれば小さな会社には重い負担になる。
株主構成と資本政策の変化
アクティビスト系のファンドが大株主に名を連ねる。還元の増額や再編を求められる一方、買収提案で経営の方針が変わる可能性もある。
今後の分かれ目
- 生成AI向けのHBM・先端パッケージの設備投資が、2年以上の長さで調整に入る
- 金属表面処理剤の数量が落ちるので、やや悲観〜悲観の確率を上げる。新工場の稼働が重なれば、利益は急に落ちる。
- 銅ナノインクが複数の顧客で量産採用され、売上が数十億円規模になる
- 電子材料が第2の柱になり、楽観側に寄せる。パワーデバイスの放熱用途が鍵になる。
- 中国現地メーカーが先端品のめっき液でも認定を取り始める
- 単価と数量の両方が崩れるので、悲観の確率を上げ、中位品の利益率を下げて見直す。
- 営業利益率が3期続けて16%を超える
- 過去の最高を超えて定着したと見て、中立の利益率を上げてよい。ただし償却の増加を引いたあとの数字で見る。
- 大株主のファンドが増配や自社株買いの拡大を求め、会社が応じる
- 還元が増え、10年の還元額が厚くなる。ただ事業の稼ぐ力は変わらない。
- 買収提案(TOB)が出る
- 本質価値を上回る水準かで判断する。事業の価値は10年の利益で測り、提案の倍率だけで決めない。
見ておくもの
- 金属表面処理剤の四半期売上と営業利益率
- 中国・台湾の新工場の稼働開始と償却額
- HBMと先端パッケージの設備投資の動向
- 銅ナノインクの量産採用の件数
- 大株主の異動と還元方針の変更
倍率と資本コストの決め方
数量は実質(出荷トン数・販売本数)、価格は物価3%込みの名目(中立で10年1.34倍)で積んだ。利益率は直近の最高圏を超えない範囲に置き、倍率は利益ベースの正当化PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)から決めた(k6.95%、g4%、RONICはk+1/2×(ROE−k))。中立は上限の8.5割に置き、今の株価や同業の倍率は使っていない。リースは小規模で家賃の固定費は営業費用に含めた形でそろえた。新リース会計基準で営業利益と負債の形が変わるが、10年後の数字は今と同じ形で置いた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 13.9→19.51 倍・やや楽観 PER 12.85→19 倍・中立 PER 11.6→18.12 倍)。
資本コスト 7.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality +0.7% を足して 8.2%。小さな会社のもろさは、借金なしと純現金でやわらいでいるので足していない。顧客集中や設備投資の重さは k でなく筋書きと確率で表した。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.20% → 6.95%。