結論
ダイキョーニシカワは、自動車の内外装の樹脂部品をつくる広島の会社だ。主力はインパネ(運転席まわりの大型部品)とバンパーで、売上の7割以上をマツダが占める。マツダと一緒に伸び、マツダと一緒に縮む会社である。
筆者の結論は、今の値段はおおむね妥当というものだ。10年後を見た本質価値は、今の時価総額を1割弱下回る程度に収まる。割安とも割高とも言い切れない。
決め手は利益率の低さだ。会社は中計で営業利益率7%を掲げるが、2019年3月期の7.9%を最後に7%を超えていない。今期の予想も5%台にとどまる。売上は物価の分だけ伸びても、利益がそれに付いてこない。資本コストを9%と置くと、ROEが7%台の会社は、ためた利益に帳簿どおりの値打ちを付けられない。
明るい材料もある。株主還元は配当の下限を純資産の4%とし、配当性向40%を目安に引き上げた。マツダは新型CX-5と大型車で台数の回復を狙っている。だが10年で測ると、顧客が1社に偏る危うさと、部品メーカーが値段を自分で決められない構造が、その追い風を打ち消す。
上振れの鍵は、マツダ以外の取引先を増やして利益率を8%に近づけることだ。下振れの鍵は、マツダの電動化の遅れと関税で生産がさらに細ることにある。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社は「長く持ちたい会社」とまでは言えない。
事業の本質は、マツダの車に樹脂部品を納める下請けの製造業だ。つくる技術は確かだが、自動車メーカーが値段と量を決める。利益率は5〜6%で、資本コストを安定して上回る水準に届かない。強い堀、つまり他社がまねできない強みがあるとは評価しにくい。
よい点は、堅い財務と、株主還元の姿勢の変化だ。借金は小さく、赤字の年でもつぶれない。DOE4%を下限に置いたのは、資本効率を意識し始めた証拠である。ただ、還元は利益が伸びる会社にとっての上乗せだ。利益の土台が細ければ、還元だけで価値は増えない。
筆者は、7%という利益率の目標を長く達成できていないことを、いちばん重く見る。経営の意思より、事業の構造の問題だからだ。安全域、つまり払う値段が価値より十分低いという余裕も、今の値段には見えない。中立の姿は、今の時価総額とほぼ釣り合う。
仮にマツダ以外の取引先が育ち、利益率が8%に近づくなら、評価は変わる。それまでは、「適正」の評価を超えて買う理由は見つからない。
何で稼ぐ会社か
ダイキョーニシカワは、自動車用の樹脂部品に絞った専業メーカーだ。本社は広島県東広島市にあり、マツダの工場の近くで部品をつくって納める。
主力はインパネとバンパーだ。インパネは運転席の前にある大きな部品で、メーターや送風口、画面がここに収まる。バンパーは衝突の衝撃を受ける外装部品である。ほかにも内装の樹脂部品を幅広く手がける。樹脂は金属より軽く、形の自由度が高い。燃費や電費のために車体を軽くしたい自動車メーカーにとって、欠かせない素材だ。
顧客はマツダが7割以上を占め、続いてダイハツの系列、そのほかにトヨタなどがある。会社は事業を1つで開示しているので、ここでは顧客別に3つに分けて見る。ダイハツ系と「その他」の内訳は、開示から確かめられなかったため筆者の推定だ。
稼ぎ方は受注生産の積み重ねである。新型車の開発の段階から加わり、金型をつくり、量産が始まれば、その車が売れた台数だけ部品が出ていく。1つの車種の寿命は一般に6〜8年だ。数年先の売上は、マツダの車種計画でほぼ決まる。
値段は、自動車メーカーとの年ごとの交渉で動く。樹脂や塗料の値上がりは、あとから追いかけて転嫁する形になる。海外ではメキシコに拠点を持つ。米国向けの部品は委託生産に頼っているという報道があり、関税の影響を受けやすい。
優良さと弱いところ
優良さは中くらいだ。強みはあるが、堀と呼べるほど深くない。
強みは、大きな樹脂部品を一貫してつくる技術と、マツダとの近さである。インパネやバンパーは大型で、成形・塗装・組み付けの手間がかかる。1つの車種の中では金型と認証が済んでいるため、他社への切り替えは起きにくい。マツダ自身も株主に名を連ねる。
弱みは、車種が替わるたびに受注の競争がやり直されることだ。自動車メーカーが値段を決め、部品メーカーは原価を下げて応える側に立つ。値上げで利益率を守る力は弱い。実際、営業利益率は2016年3月期の10.7%から、2022年3月期の赤字まで振れた。直近でも6%前後で、会社の目標の7%に届いていない。
資本効率も資本コストを下回る。ROEは過去10年の中央値で7%台、直近で9.8%だが、これは税の要因が押し上げた面がある。自己資本比率は56%、純現金も小さな黒字で、財務は堅い。つぶれる心配はない。ただ、堅い財務は稼ぐ力の弱さを補うだけで、価値を上げる力にはならない。
経営は、還元の強化と量産準備の費用を抱えながら、「商品主導の成長」と「経営体質の変革」を掲げている。方向は正しい。だが、7%という目標を7年近く達成できていない事実は重い。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
この会社の業界は、結局のところマツダの生産台数と、自動車の内外装の樹脂の使い方で決まる。
まずマツダだ。2026年3月期の世界生産は116.5万台で、前の期より4%減った。米国の関税で、メキシコ生産を絞る動きが響いた。今期は新型CX-5と米国向けの大型車で、世界販売を8%増の132万台に戻す計画だ。ただし電動化の投資は1.2兆円に縮め、EVの世界戦略車は2029年以降に先送りされた。マツダは電動化で他社より身軽に構えている。内燃機関の車が長く残れば、樹脂の内外装部品の需要も長く残る。
次に素材の流れだ。車は軽くなる方向にあり、金属から樹脂への置き換えは続く。EVになっても、インパネやバンパーはなくならない。エンジン周りの部品が減る分、内装の質感や軽さで差をつける競争が強まる。一方で、1台あたりの樹脂の量が増えても、値段は自動車メーカーが決める。
競合は、同じ樹脂の内外装を手がける豊田合成、河西工業、林テレンプなどだ。トヨタ系やホンダ系の大きな系列に属さず、マツダの近くで育った会社は、取引先が偏る代わりに、マツダの車種が当たれば強い。
人口が減る国内の販売は細る。だがマツダは国内生産70万台の維持を掲げ、輸出と海外生産で台数を支えている。業界の数量の見通しは、世界の自動車生産が10年で数%伸びる程度とみる。物価の分は、部品の価値の増加と値下げ要求がほぼ相殺する。
資本政策と M&A
資本政策は、この数年でよい方向に動いた。配当の下限を連結純資産配当率(DOE)4.0%に引き上げ、連結配当性向40%を目安にした。自己株式の取得も適宜行う。実際に、自己株式は発行済みの7%台に達している。
大株主は、西川ゴム工業が約9%、イノアックコーポレーションが約6%、広島銀行とマツダがそれぞれ約4.5%だ。取引先と地元の金融機関が並ぶ、安定株主の形である。親子上場ではない。そのため、少数株主が犠牲になる構図は見えにくい。一方で、持ち合いが厚い会社は、資本効率の改善が遅れやすい面もある。
M&Aは、買う側として大きなものは見当たらない。今の戦略は、既存の拠点と受注で量を伸ばすことだ。買われる側になる可能性は、否定できないが、見込みとして置く根拠もない。マツダの出資は4.5%にとどまり、支配の構図ではない。
今後の資本の使い道は、量産準備と新製品の設備が優先になる。借金は小さく、純現金は薄い。還元を厚くすれば自己資本は積み上がりにくくなり、ROEは上がる。ただ、利益そのものが増えるわけではない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
マツダの回復が、会社の成長を引っ張る。新型CX-5と米国向けの大型車で、マツダの世界の生産台数は10年で140万台に近づく。大型車は部品の数も大きさも増えるため、1台あたりの納入額が上がる。ダイキョーニシカワの売上は、台数の伸びと金額の伸びの両方を取り込める。
マツダ以外の取引先も育つ。トヨタ向けの電動車の部品に続き、ほかの自動車メーカーからも受注が増える。マツダ向けが7割を切れば、顧客の偏りという最大の弱みが薄まる。取引先が分散すれば、値段交渉の力も強まる。会社が掲げる営業利益率7%は、超えて8%に届く。
原価の面でも、新製品の量産準備が済めば費用が落ち着く。AIを使った設計や生産の改革が、人手を減らして固定費を下げる。米国子会社の業績改善は、税の負担を軽くする。
還元は、配当の下限の純資産の4%を守ったうえで、自社株買いを重ねる。ROEは12%近くに戻り、資本コストを超える水準で安定する。2016年3月期前後に営業利益率が10%を超えた実績の、延長にある姿だ。
慎重な見方
マツダへの依存が、そのまま弱点になる。マツダの世界販売は、中国勢の台頭と米国の関税、電動化への対応の遅れで、計画どおりには伸びない。大型車のやり直しも、需要が追いつかなければ在庫になる。
今期の営業利益は88億円と、前の期より減る見通しだ。原材料の値上がりと、新製品の量産準備の費用が重いからである。値上げの転嫁は後追いになる。会社が掲げる営業利益率7%は、2019年3月期以降、1度も達成されていない。
部品メーカーの値段は、自動車メーカーが決める。インパネやバンパーは、車種が替わるたびに入札のやり直しになる。電動化で車の作り方が変われば、部品の発注先の組み替えも起きる。マツダが協業先の車を増やせば、部品の調達先の見直しも起こりうる。
北米は、米国での委託生産に頼り、関税の影響を受けやすい。海外に拠点がないため、現地の調達に切り替えにくい。純利益は税の要因で増えて見えるが、事業の力は強くない。資本コストを下回るROEの会社に高い倍率を付ける理由は、乏しい。
どちらに重みを置いたか
慎重な見方のほうが、わずかに強い。7%の利益率目標を7年近く達成できていないこと、顧客が1社に偏ること、部品の値段を自分で決められないことは、どれも事実だ。ここは確率を悲観側に寄せた。
ただし、強気の見方にも根拠がある。マツダが回復基調にあり、還元の姿勢も変わった。そのため、やや楽観の確率は20%、やや悲観は24%と、差は小さくとどめた。楽観の確率は8%に抑え、悲観は12%まで厚くした。中立は、利益率6%と台数の小さな伸びで置き、価値は今の時価総額に近く収まった。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 1,569 円1,006 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 670 円430 億円)。 今の値に割り戻すと 1,098 円704 億円、今との差 +5.3%、 期待の年率 +7.9%(資本コスト 9.0%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 3,425 円2,197 億円 | 998 円640 億円 | +324.1% | +15.5% | 354 円227 億円 |
| やや楽観 | 20% | 2,337 円1,499 億円 | 873 円560 億円 | +207.8% | +11.9% | 642 円412 億円 |
| 中立 | 36% | 1,732 円1,111 億円 | 733 円470 億円 | +136.4% | +9.0% | 887 円569 億円 |
| やや悲観 | 24% | 641 円411 億円 | 515 円330 億円 | +10.8% | +1.0% | 277 円178 億円 |
| 悲観 | 12% | 415 円266 億円 | 234 円150 億円 | −37.8% | −4.6% | 78 円50 億円 |
| 加重平均 | 100% | 1,569 円1,006 億円 | 670 円430 億円 | +114.6% | +7.9% | 2,239 円1,436 億円 |
今の株価時価総額 1,043 円669 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 9.0% を下回るほど割高。
楽観 8% マツダの回復と取引先の分散が重なる 利益 178 億円 · PER 12.3 倍 · 株価時価総額 3,425 円2,197 億円
マツダが新型CX-5と米国向けの大型車で台数を戻し、世界の生産台数は140万台に近づく。大型車は部品が大きく、1台あたりの納入額が上がる。ダイキョーニシカワは台数と金額の両方の伸びを取り込む。
トヨタ向けの電動車部品をきっかけに、ほかの自動車メーカーからも受注が増え、マツダ向けは売上の7割を割る。取引先が分散して値段交渉の力が戻り、営業利益率は8%に乗る。新製品の量産準備費用は落ち着き、AIを使った生産の改革で固定費も下がる。
還元は純資産の4%を下限に守りつつ、自社株買いも続く。ROEは12%近くに戻り、資本コストを安定して上回る。会社の中計が掲げる姿が、ほぼそのまま実現した10年である。
- マツダ向け:数量 140(マツダの世界生産台数(万台))× 価格 15(1台あたりの納入額(万円。部品の搭載量と単価の指数))→ 売上 2,092 億円・営業利益 167 億円。大型車で台数と単価が上がる
- ダイハツ系:数量 62.0(ダイハツ系の納入先車種の生産台数(万台、概算))× 価格 4.66(1台あたりの納入額(万円))→ 売上 289 億円・営業利益 19 億円。軽自動車は台数が横ばい
- その他の取引先:数量 110(納入先車種の生産台数(万台、概算))× 価格 6.21(1台あたりの納入額(万円))→ 売上 683 億円・営業利益 62 億円。トヨタなど新規の受注が積み上がる
倍率:事業の純利益 178 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.9% が k 9.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.4%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.3 倍。全体の PER 12.34 倍、時価総額 2,196 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:マツダの大型車が当たり、マツダ以外の取引先が育ち、原材料の値上がりも転嫁できる、という3つが同時に起きる必要がある。利益率7%を7年近く達成できていない会社なので、確率は低く抑えた。
やや楽観 20% マツダ回復とやや広がる取引先 利益 133 億円 · PER 11.3 倍 · 株価時価総額 2,337 円1,499 億円
マツダの世界生産は130万台まで戻る。ただし関税と電動化の費用が重く、マツダの増産は計画の8割ほどにとどまる。ダイキョーニシカワは台数の回復と、大型車による単価の上昇を取り込み、売上は物価を少し上回って伸びる。
取引先の分散は進むが、マツダ向けは7割近くで高止まりする。値段の交渉力は大きくは変わらず、営業利益率は7%にぎりぎり届く。会社の中計が掲げた目標が、10年かかって達成される形だ。
還元は純資産の4%を下限に、配当性向40%の目安を保つ。自社株買いは小さな規模にとどまる。ROEは9%台に上がり、資本コストにほぼ届く。ただし、堀が深まったわけではなく、環境が良い間は届くという位置づけの姿である。
- マツダ向け:数量 130(マツダの世界生産台数(万台))× 価格 14(1台あたりの納入額(万円。部品の搭載量と単価の指数))→ 売上 1,847 億円・営業利益 129 億円。マツダが回復基調
- ダイハツ系:数量 60.0(ダイハツ系の納入先車種の生産台数(万台、概算))× 価格 4.46(1台あたりの納入額(万円))→ 売上 268 億円・営業利益 15 億円。台数は横ばい
- その他の取引先:数量 90.0(納入先車種の生産台数(万台、概算))× 価格 5.99(1台あたりの納入額(万円))→ 売上 539 億円・営業利益 43 億円。新規の受注が増える
倍率:事業の純利益 133 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.3% が k 9.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.2%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 11.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.3 倍。全体の PER 11.27 倍、時価総額 1,499 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:マツダの回復が進み、新規の取引先も少し増える。中計の目標(営業利益率7%)に届くかどうかの水準で、実現の可能性は十分にある。楽観の条件の全部は要らない分、楽観より厚くした。
中立 36% マツダ頼みのまま、利益率は6%前後 利益 100 億円 · PER 11.1 倍 · 株価時価総額 1,732 円1,111 億円
マツダの世界生産は120万台まで緩やかに戻る。国内の生産は70万台を維持し、増えた分は米国・欧州向けが中心になる。ダイキョーニシカワの売上は、台数の小さな伸びと物価の分で、10年で4割ほど増える。
取引先の分散は少しずつ進むが、マツダ向けは7割台のままだ。自動車メーカーの値下げ要求と原材料の値上がりが相殺し、営業利益率は6%前後で動かない。利益は物価の分だけ増えるが、伸びは小さい。
還元は純資産の4%の下限に沿って、毎年おおむね純利益の半分前後を出す。ROEは7%台で、資本コストを下回る状態が続く。事業としては続くが、価値は今の時価総額に近い水準にとどまる。
- マツダ向け:数量 120(マツダの世界生産台数(万台))× 価格 14(1台あたりの納入額(万円。部品の搭載量と単価の指数))→ 売上 1,656 億円・営業利益 99 億円。台数は緩やかに回復
- ダイハツ系:数量 58.0(ダイハツ系の納入先車種の生産台数(万台、概算))× 価格 4.46(1台あたりの納入額(万円))→ 売上 259 億円・営業利益 13 億円。台数はほぼ横ばい
- その他の取引先:数量 75.0(納入先車種の生産台数(万台、概算))× 価格 5.74(1台あたりの納入額(万円))→ 売上 431 億円・営業利益 30 億円。電動車向けなどで増加
倍率:事業の純利益 100 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.3% が k 9.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.1 倍。全体の PER 11.11 倍、時価総額 1,111 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:マツダは緩やかに回復し、世界生産は10年で3%ほど増える。部品の値段は物価並みに上がるが、値下げ要求と相殺されて利益率は6%前後にとどまる。中計の7%には届かない。過去の実績と、足元の予想に最も近い姿である。
やや悲観 24% マツダの伸び悩みで利益率が3%台 利益 47 億円 · PER 7.0 倍 · 株価時価総額 641 円411 億円
マツダの世界生産は105万台前後で伸び悩む。米国の関税と、中国勢の価格攻勢で、大型車の販売が計画に届かない。ダイキョーニシカワの売上は台数の減少を物価の分が補いきれず、10年で1割強しか増えない。
値段の転嫁は後追いのままだ。原材料の値上がりが利益を削り、営業利益率は3%台に下がる。新製品の量産準備の費用は、売上が伸びない中で重くのしかかる。
還元は配当の下限を守るのが精いっぱいで、自社株買いは止まる。ROEは4%を割り込む。財務の堅さがあるので、赤字が続いてもつぶれることはない。ただ、優良な部品メーカーとは言えない姿である。
- マツダ向け:数量 105(マツダの世界生産台数(万台))× 価格 13(1台あたりの納入額(万円。部品の搭載量と単価の指数))→ 売上 1,352 億円・営業利益 47 億円。台数が伸びず単価転嫁も遅れる
- ダイハツ系:数量 52.0(ダイハツ系の納入先車種の生産台数(万台、概算))× 価格 4.16(1台あたりの納入額(万円))→ 売上 216 億円・営業利益 7 億円。軽自動車の減少が続く
- その他の取引先:数量 55.0(納入先車種の生産台数(万台、概算))× 価格 5.35(1台あたりの納入額(万円))→ 売上 294 億円・営業利益 15 億円。新規の受注が思うように増えない
倍率:ROE 3.9% は k 9.0% を大きく下回る。RONIC=k 9.0%+残る割合 1/2×(3.9−9.0)=6.45%、長期の成長率 g 4%から正当化 PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)=7.6 倍。ROE が k に届かないため価値は稼ぐ力(純利益÷k)までとし、その約 9 割の 7.0 倍に置いた。
確率:マツダが関税と電動化の遅れで台数を伸ばせず、値段の転嫁も遅れる。利益率7%を7年近く達成できていない実績と、顧客が1社に偏る構造からみて、起こりやすい。慎重な見方がわずかに強いため、強気側より厚くした。
悲観 12% マツダ依存が崩れ、構造的に負ける 利益 7 億円 · PBR 0.3 倍 · 株価時価総額 415 円266 億円
マツダの世界生産は85万台まで縮み、協業先の車が増えて部品の調達先も組み替えられる。インパネやバンパーの受注が減り、残る受注も値下げ要求が強まって、値段は物価の分も上がらない。
ダイハツ系の軽自動車の部品も、車種の整理で台数が減る。新規の取引先の開拓は、価格競争に阻まれて思うように進まない。工場の稼働が落ち、固定費を吸収できず、営業利益はほぼゼロに近づく。
会社は工場の統廃合を迫られる。優良さは失われ、価値は稼ぐ力ではなく、持っている資産の売却価値で測られる姿になる。ただし借金が小さく、現金と売上債権、土地・設備の売却で、一定の価値は残る。
- マツダ向け:数量 85.0(マツダの世界生産台数(万台))× 価格 11(1台あたりの納入額(万円。部品の搭載量と単価の指数))→ 売上 963 億円・営業利益 5 億円。台数と単価の両方が下がる
- ダイハツ系:数量 45.0(ダイハツ系の納入先車種の生産台数(万台、概算))× 価格 3.66(1台あたりの納入額(万円))→ 売上 165 億円・営業利益 2 億円。車種整理で台数が減る
- その他の取引先:数量 45.0(納入先車種の生産台数(万台、概算))× 価格 4.71(1台あたりの納入額(万円))→ 売上 212 億円・営業利益 4 億円。価格競争で伸びない
倍率:10 年の構造的に負ける筋書き。純利益は 7 億円(ROE 0.7%)に細り、稼ぐ力では測れない。工場や設備、土地、売上債権・在庫など、売れる資産の税後の価値を今の自己資本に掛けて 0.30 倍とした。
確率:マツダがさらに台数を落とし、協業先の車の調達で部品の発注先が見直され、ダイキョーニシカワの受注が構造的に減る筋書き。顧客が1社に偏る会社の最悪の姿で、確率は慎重な見方に沿って厚くした。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
マツダ向け
マツダの国内外の工場に納めるインパネ・バンパーなどの内外装樹脂部品。売上の7割以上を占める。
| 数量マツダの世界生産台数(万台) | 価格1台あたりの納入額(万円。部品の搭載量と単価の指数) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 117 | 10 | 1,200 | 74 |
| 10 年後 中立 | 120 | 14 | 1,656 | 99 |
取り方:マツダ向けは売上の7割以上という報道に合わせ、1,657億円のうち約72%(1,200億円)とみた。数量はマツダの2026年3月期の世界生産116.5万台、1台あたり約10.3万円は逆算。ダイキョーニシカワの全部品が全車に載るわけではないので、搭載の割合を含んだ平均の値。
ダイハツ系
ダイハツ工業の軽自動車向けなどの内外装樹脂部品。
| 数量ダイハツ系の納入先車種の生産台数(万台、概算) | 価格1台あたりの納入額(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 60.0 | 3.33 | 200 | 10 |
| 10 年後 中立 | 58.0 | 4.46 | 259 | 13 |
取り方:会社の中計の指標にある「ダイハツ系売上」の区分から、売上の約12%(200億円)と推定。台数は約60万台(概算)。軽自動車は小さいので1台あたりの額も低く約3.3万円になる。内訳は開示で確かめられず推定。
その他の取引先
トヨタなどマツダ・ダイハツ以外の自動車メーカー向け。電動車向けの部品の供給も始まっている。
| 数量納入先車種の生産台数(万台、概算) | 価格1台あたりの納入額(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 60.0 | 4.28 | 257 | 18 |
| 10 年後 中立 | 75.0 | 5.74 | 431 | 30 |
取り方:残りの売上257億円(約16%)。台数約60万台、1台あたり約4.3万円は逆算の推定。内訳は開示で確かめられない。
リスクと懸念
マツダ1社への依存
売上の7割以上をマツダが占める。マツダが車種を整理したり、調達先を組み替えたりすれば、受注は一気に減りうる。取引先を広げる努力はしているが、割合は急には下がらない。
米国の関税と北米の拠点の薄さ
米国への輸出車の関税は、マツダの生産を直接動かす。ダイキョーニシカワは北米でメキシコにしか拠点を持たず、米国向けの部品は委託生産に頼っているという報道がある。関税が重くなれば、納入が減り、現地化の投資も必要になる。
利益率の低さと中計の達成
営業利益率は2019年3月期の7.9%を最後に7%を超えていない。今期の予想も5%台に下がる。中計の目標(7%)を最終年度に達成できなければ、経営への信頼が下がる。
原材料の値上がりと転嫁の遅れ
樹脂や塗料の価格が上がると、利益が先に削られ、転嫁は後追いになる。自動車メーカーとの値段の交渉力が弱いほど、利益率の振れは大きい。
電動化と車づくりの変化
マツダはEVを急がないが、電動化の時期が前倒しされれば、車の設計が変わり、部品の発注先が組み替えられる。内装の樹脂部品の需要は残るが、受注の競争がやり直しになる可能性が高い。
車種ごとの受注の入れ替わり
1つの車種の寿命は一般に6〜8年で、車種が替わるたびに受注競争が行われる。主力車種の受注を落とせば、数年にわたって売上が減る。
今後の分かれ目
- マツダの新型CX-5と大型車が計画どおりに売れる
- マツダの世界生産が増え、1台あたりの納入額も上がるため、中立より上振れしやすい。
- 米国の関税がさらに強まる
- マツダのメキシコ生産が絞られ、ダイキョーニシカワの数量も減る。北米の現地化の負担も重くなる。
- 営業利益率が7%に乗る
- 中計の目標の達成で、ROEが資本コストに届く。利益の質の評価が上がる。
- マツダ以外の取引先が売上の3割を超える
- 依存の弱みが薄まり、値段の交渉力が強まる。楽観に近い筋書きに寄る。
- マツダが協業先の車を増やし、部品の調達先を見直す
- 受注が構造的に減り、悲観に近い筋書きに寄る。
- 原材料の値上がりが続く
- 転嫁の遅れで利益率が一段と下がる。やや悲観に近い筋書きに寄る。
見ておくもの
- マツダの世界生産台数と新型車の販売
- 営業利益率(中計目標7%に届くか)
- マツダ向け売上の比率
- 米国の関税とマツダのメキシコ生産
- 株主還元(DOE4%と自社株買いの実績)
倍率と資本コストの決め方
倍率は今の株価を見る前に、取引先別の台数と1台あたりの納入額の積み上げと、資本コスト9.0%(基本7.5%+quality 1.5%)、ROEから式で出した。中立のROEは7.2%で資本コストを下回るため、倍率は式の上限(10.1倍)の約8割に置いた。結果が今の時価総額に近いのは、利益の土台が細い会社に高い倍率を付けないという式の結論であり、株価に寄せたわけではない。悲観は過去のPBRの底ではなく、売れる資産の税後を今の自己資本に掛けて置いた。確率は、利益率7%を7年近く達成できていない実績から、悲観側をやや厚くした。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 11.5→12.34 倍・やや楽観 PER 10.5→11.27 倍・中立 PER 8.5→11.11 倍)。
資本コスト 9.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality +1.5% を足して 9.0%。事業が傾いている様子はなく extra は 0。マツダ依存の危うさは寿命の項に入れ、確率には二重に入れない。