結論
ニックスは、複写機やプリンターの中で部品を留めるプラスチックのファスナーと、電子基板を運ぶラックを作る部品メーカーだ。筆者の結論は、今の値段はほぼ適正で、わずかに高い。本業の稼ぎは細いが、時価総額に近い現金を持つ。ただ、その現金は配られず積み上がっている。
2026 年 9 月期は好調だ。半導体の実装工場向けのラックと、北米・東南アジアの売上が伸び、9 か月で営業利益は前の年の 2 倍になった。一方で、主力の事務機器向けは、紙に印刷する量が減るにつれて細っていく。
筆者は 10 年後の営業利益を 4 億円ほどと見る。事務機器の減りを、自動車・住宅設備・基板のラックが埋める姿だ。自己資本利益率(ROE)は 5% 前後で、資本コストに届かない。現金の山は株主の持ち物だが、創業家が 3 割超を持ち、配当性向は 2 割台にとどまる。現金がいつ株主に戻るかわからない以上、帳簿の額どおりには数えられない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、ニックスは「良い小さな事業」と「眠った現金」の組み合わせだ。客の図面に入り込んだ留め具の商売は、地味だが長く続く。部品 1 個は安く、客は替える理由がない。本業だけを見れば、資本コストに近い稼ぎはある。
問題は現金の扱いだ。時価総額に近い現金を持ちながら、配当性向は 2 割台で、自社株買いもしない。現金は株主の持ち物だが、使い道を決めるのは経営と創業家だ。現金が会社の中で 2% で回るだけなら、株主にとっての値打ちは帳簿の額を下回る。
安全域は一見厚い。PBR は 0.5 倍で、現金だけで時価総額をまかなえる。それでも筆者は、現金を半分の値打ちで数える。配る方針に変わるか、買い手が現れるかで、この半分が一気に埋まる可能性はある。そこが、この会社を持つ人の賭けになる。
もう 1 つ確かめたいのは、本業の稼ぎが 2026 年の山の後も続くかどうかだ。
何で稼ぐ会社か
ニックスの稼ぎの柱は、工業用のプラスチック・ファスナーだ。複写機やプリンター、住宅設備、自動車の中で、配線や部品を留めるクリップやバンド、スペーサーである。1 個数円の小さな部品だが、機械 1 台に何十個も使われる。客の設計の段階から図面に入り込み、指定部品として長く売れる。売上の 7 割強がこのファスナーと精密部品だ。
2 つめの柱は、生産設備の治具である。電子部品を基板に載せる実装の工場で、基板を並べて運ぶラックを作る。車載や半導体向けの基板の工場が客で、売上の 2 割強を占める。設備投資の波で売上が上下する。ほかに金型を少し売る。
素材も自前だ。NIXAM という自社開発のプラスチック素材を持ち、静電気を逃がす、熱に強いといった性質を部品に持たせる。海外は米国・香港・上海・タイに拠点があり、売上の 4 割を海外で稼ぐ。日系の事務機器メーカーの海外工場に、日本と同じ部品を納める形が多い。
客との付き合い方にも特徴がある。営業と設計の担当が客の開発の場に通い、試作の段階から形と素材を一緒に決める。小さな注文を多くの客から積み重ねる商売なので、1 社への依存は小さく、売上の 1 割を超える客はいない。
優良さと弱いところ
強みは、小さな部品で客の図面に入り込んでいることだ。事務機器の設計者がニックスの部品番号を図面に書けば、その機種が作られる限り注文が続く。1 個の値段が安いので、客は数円のために部品を替える手間をかけない。事務機器向けのファスナーでは、一定のシェアを長く保っている。
弱さは、その主力の市場が細っていることだ。オフィスの紙の印刷は年々減り、複写機の台数も先進国では縮む。住宅設備と自動車の部品で埋めようとしているが、大手のニフコや欧米の留め具メーカーがいる市場で、値段の勝負になりやすい。
資本の稼ぎも低い。過去 10 年の ROE の中央値は 4.8% で、資本コストの半分ほどだ。理由の 1 つは、使わない現金が自己資本の半分近くを占めていることにある。本業だけで見れば、稼ぐ力はもう少し高い。経営は堅実だが、資本を株主に返す意識は薄い。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
プラスチックの留め具の市場は、機械の台数に連れて動く。事務機器は、ペーパーレスと在宅勤務の広がりで、先進国の出荷台数が長い下り坂にある。日系の事務機器メーカーは再編が進み、生産の拠点も中国から東南アジアへ移っている。部品メーカーは、客の工場の移転についていけるかが問われる。
住宅設備は国内の着工の減少で細り、自動車は電動化で配線と電子部品が増える一方、車の台数は伸びない。留め具の業界には、ニフコのような大手と、多くの中小が並ぶ。汎用の留め具は中国製との値段の勝負だ。
基板のラックは、電子部品の実装の工場の設備投資に連れて動く。2026 年は半導体と車載の基板の投資で需要が伸びたが、設備投資は 2〜3 年の波で上下する。
筆者は、10 年でファスナーの数量は 5% ほど減り、ラックは 1 割増えると見る。値段は物価並みに上がる。為替は円安の追い風が利益を押し上げているが、10 年の前提では動かさない。
もう 1 つの変化は、客の工場の場所だ。日系の事務機器や電子部品の工場は中国から東南アジア、さらに北米へ分散している。ニックスは香港・上海・タイ・米国に拠点を持ち、この動きについていけている。2026 年の北米と東南アジアの伸びは、その表れである。
資本政策と M&A
還元は配当だけで、1 株あたりの配当を長く据え置いている。2025 年 9 月期の配当の総額は 0.46 億円で、配当性向は 24% だ。自社株買いはしていない。株主優待はない。
財務は現金があふれている。2026 年 6 月末で現預金は 23 億円、投資有価証券は 3 億円あり、借入はわずか 1 億円だ。純現金は約 26 億円で、今の時価総額にほぼ等しい。現金は 10 年で 4 倍に増えた。利益の 4 分の 3 を残してきた結果だ。
株主は創業の青木家と中島家、従業員の持株会、取引先が並び、合わせて 3 割を超える。経営は保守的で、M&A の大きな動きもない。PBR が 0.5 倍を割る水準で放置されれば、資本の使い方を問う株主や、現金と土地を狙う買い手が現れても不思議はない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
まず、現金だけで時価総額をまかなえる。純現金は 26 億円で、本業は実質ただで手に入る。その本業も悪くない。2026 年 9 月期は 9 か月で営業利益が 3.6 億円と、前の年の 2 倍になった。半導体と車載の基板の工場向けのラックが伸び、北米と東南アジアで新しい客を取った。
留め具の商売は長持ちする。客の図面に部品番号が入れば、機種が続く限り注文が来る。自社素材の NIXAM で、静電気や熱に強い部品を作れるのも強みだ。事務機器が減っても、住宅設備や自動車、医療機器に同じ技術を広げられる。
資本の使い方が変われば、値打ちは大きく動く。PBR 0.5 倍の会社には、東証の改善の要請や、物言う株主の目が向く。配当を増やすか自社株を買えば、眠った現金はすぐに株主の手に届く。
海外の拠点網も生きてきた。客の工場が中国から東南アジアと北米へ動く中で、同じ部品を現地で納められる会社は限られる。2026 年の伸びは、その網の成果だ。
慎重な見方
主力の事務機器向けは、構造的に縮む市場だ。オフィスの印刷量は戻らず、複写機の台数も先進国で減り続ける。住宅設備や自動車に広げるといっても、そこには大手の留め具メーカーがいて、値段の勝負になる。2026 年の好調は基板のラックの設備投資の山と円安の分が大きく、長くは続かない。
現金も株主の手には届かない。配当性向は 2 割台で、自社株買いは一度もない。現金は 10 年で 4 倍に積み上がり、創業家と取引先で 3 割超を持つ。経営が方針を変える理由は見当たらない。2% で回る現金は、資本コストを大きく下回る稼ぎしか生まない。
過去には 2009 年 9 月期に営業利益率が −19% まで落ちた。小さな部品メーカーは、客の工場の移転や機種の切り替えで、注文がまとめて消えることがある。
2026 年の利益の伸びには、円安による為替の益と、利息・配当の増加も含まれる。本業の実力として数えられるのは、その一部にすぎない。
どちらに重みを置いたか
両者の言い分は拮抗する。本業の長持ちと現金の厚さは本物だが、主力の市場の縮みと現金を配らない方針も事実だ。筆者は現金を戻り方 0.5 で数え、中立を厚く置いた。2026 年の好調は山の側にあるとみて、楽観は 1 割未満にとどめた。現金の床があるので、悲観は 1 割に抑えた。現金の戻り方が変われば、評価は大きく上に動く。
10 年後の 5 つの筋書き(2035/09 期)
確率で加重した株価時価総額 2,322 円54 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 241 円6 億円)。 今の値に割り戻すと 1,213 円28 億円、今との差 +19.3%、 期待の年率 +9.7%(資本コスト 8.3%)→ やや割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 7% | 4,182 円97 億円 | 344 円8 億円 | +345.1% | +16.1% | 317 円7 億円 |
| やや楽観 | 20% | 3,334 円77 億円 | 301 円7 億円 | +257.5% | +13.6% | 727 円17 億円 |
| 中立 | 40% | 2,614 円61 億円 | 258 円6 億円 | +182.4% | +10.9% | 1,149 円27 億円 |
| やや悲観 | 23% | 1,136 円26 億円 | 194 円5 億円 | +30.8% | +2.7% | 306 円7 億円 |
| 悲観 | 10% | 560 円13 億円 | 86 円2 億円 | −36.5% | −4.4% | 65 円2 億円 |
| 加重平均 | 100% | 2,322 円54 億円 | 241 円6 億円 | +152.0% | +9.7% | 2,563 円60 億円 |
今の株価時価総額 1,017 円24 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.3% を下回るほど割高。
楽観 7% 基板のラックが育ち、留め具も新しい分野で伸びる 利益 6 億円 · PER 13.3 倍 · 株価時価総額 4,182 円97 億円
基板のラックが第 2 の柱に育つ筋書きだ。半導体と車載の電子部品の実装工場が東南アジアと北米で増え、ラックの台数は 25% 伸びる。静電気に強い NIXAM の素材が、精密な基板の運搬で選ばれる。
留め具は、事務機器の減りを医療機器と自動車の電装品で埋め、個数は 7% 増える。値段は物価並みに上がる。営業利益率は 9% と好調期の水準に戻り、営業利益は 7 億円近くになる。現金はさらに積み上がるが、配当も利益とともに増える。ROE は 7% ほどで、それでも資本コストには届かない。現金の使い道を問われた経営が、10 年の後半に還元を厚くする可能性もある。
- ファスナー・精密部品:数量 11.5(出荷個数(億個、推定))× 価格 4.10(1,000 個あたりの売上(千円))→ 売上 47 億円・営業利益 4 億円。11.5 億個(1.07 倍)× 1,000 個あたり 4.1 千円(1.37 倍)、9%
- 生産設備治具・金型:数量 15,000(ラック・治具の台数(台、推定))× 価格 18(1 台あたりの売上(万円))→ 売上 27 億円・営業利益 2 億円。1.5 万台(1.25 倍)× 18 万円(1.8 倍、大型・高機能のラックへ移る)、9%
倍率:事業の純利益 6 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.2% が k 8.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.2%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.3 倍 + 余った現金(戻り方込み)14 億円。全体の PER 13.31 倍、時価総額 90 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:営業利益率 9% 超は 2006〜2007 年の好調期だけで、ラックの需要の伸びと留め具の分野の広がりが重なる必要がある。7% とした。
やや楽観 20% ラックの伸びと海外の新しい客で、利益率が一段上がる 利益 5 億円 · PER 12.4 倍 · 株価時価総額 3,334 円77 億円
2026 年の好調の一部が定着する筋書きだ。北米と東南アジアで取った客が残り、基板のラックの台数は 17% 増える。留め具は事務機器の減りを住宅設備と自動車で埋め、個数は横ばいだ。
営業利益率は留め具で 8%、ラックで 7.5% に上がり、営業利益は 5 億円を超える。配当は少し増えるが、配当性向は 2 割台のままで、現金は積み上がる。ROE は 6% ほどにとどまる。株主の手に届く値打ちは、本業の利益と、眠った現金の半分だ。
2026 年に取った北米の客は、現地で車載と産業機器の電子部品を作る工場で、ラックの更新の需要も続く。
- ファスナー・精密部品:数量 10.7(出荷個数(億個、推定))× 価格 4.05(1,000 個あたりの売上(千円))→ 売上 43 億円・営業利益 3 億円。10.7 億個(横ばい)× 1,000 個あたり 4.05 千円(1.35 倍)、8%
- 生産設備治具・金型:数量 14,000(ラック・治具の台数(台、推定))× 価格 18(1 台あたりの売上(万円))→ 売上 25 億円・営業利益 2 億円。1.4 万台(1.17 倍)× 17.9 万円(1.79 倍、大型ラックへ移る)、7.5%
倍率:事業の純利益 5 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.6% が k 8.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.4%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.4 倍 + 余った現金(戻り方込み)14 億円。全体の PER 12.39 倍、時価総額 70 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:2026 年 9 月期は 9 か月で営業利益が前の年の 2 倍になり、北米・東南アジアの新しい客は実績として出ている。その一部が定着する筋書きとして 20% とした。
中立 40% 事務機器の減りを他の分野が埋め、現金は積み上がる 利益 4 億円 · PER 12.1 倍 · 株価時価総額 2,614 円61 億円
事務機器の減りを、住宅設備・自動車・医療の留め具がほぼ埋める筋書きだ。留め具の個数は 10 年で 5% 減り、値段は物価並みに上がる。基板のラックは設備投資の波を繰り返しながら、台数は 1 割増える。
営業利益率は 7% 弱で、過去のならしをやや上回る。2026 年の好調の一部と値上げの定着が支えだ。営業利益は 4 億円ほどで、ROE は 5% 前後にとどまる。配当は少しずつしか増えず、現金は積み上がる。株主の値打ちは、本業の利益と、現金のうち戻ってくる見込みの分で決まる。
東証の資本の使い方の要請を受けて配当は少し増えるが、現金の山を崩すほどではない。
- ファスナー・精密部品:数量 10.2(出荷個数(億個、推定))× 価格 4.02(1,000 個あたりの売上(千円))→ 売上 41 億円・営業利益 3 億円。10.2 億個(0.95 倍、事務機器の縮み)× 1,000 個あたり 4.02 千円(物価並み 1.34 倍)、7%
- 生産設備治具・金型:数量 13,200(ラック・治具の台数(台、推定))× 価格 13(1 台あたりの売上(万円))→ 売上 18 億円・営業利益 1 億円。1.32 万台(1.10 倍)× 13.4 万円(1.34 倍)、6%
倍率:事業の純利益 3 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.3% が k 8.25% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.1 倍 + 余った現金(戻り方込み)14 億円。全体の PER 12.12 倍、時価総額 54 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:指定部品の長持ちと、事務機器の構造的な縮みが打ち消し合う落としどころで、最も起こりやすい。40% とした。
やや悲観 23% 事務機器の減りが速く、留め具が値段の勝負に巻き込まれる 利益 2 億円 · PER 8.0 倍 · 株価時価総額 1,136 円26 億円
事務機器の減りが想定より速い筋書きだ。複写機の再編で機種が減り、ニックスの部品が図面から外れる。住宅設備と自動車では大手と中国製に値段で押され、留め具の個数は 16% 減る。値上げは物価に届かない。
基板のラックは設備投資の山を越え、台数は 2 割減る。営業利益率は留め具で 4%、ラックで 2% に落ち、営業利益は 1.7 億円ほどになる。現金の一部は工場の移転や縮小の費用に使われる。配当は据え置かれ、ROE は 2% 台に沈む。
現金はなお厚く、会社がつぶれる心配はない。ただ、株主の手に届く値打ちは、稼ぐ力の細りとともに縮む。
- ファスナー・精密部品:数量 9.0(出荷個数(億個、推定))× 価格 3.80(1,000 個あたりの売上(千円))→ 売上 34 億円・営業利益 1 億円。9.0 億個(0.84 倍)× 1,000 個あたり 3.8 千円(1.27 倍、物価に届かない)、4%
- 生産設備治具・金型:数量 10,000(ラック・治具の台数(台、推定))× 価格 15(1 台あたりの売上(万円))→ 売上 15 億円・営業利益 0 億円。1.0 万台(0.83 倍)× 15 万円(1.5 倍)、2%
倍率:ROE 2.5% は k 8.25% を大きく下回る。稼ぐ力(純利益÷k)で見て 1÷k の 11.8 倍の 7 割弱の 8.0 倍。余った現金は筋書きに額を書かず 0.75 倍の 13.5 億円を戻り方 0.5 で足した。
確率:事務機器の印刷量の縮みは構造的で、日系の事務機器メーカーの再編も進む。ラックの需要が山を越える可能性も高い。23% とした。
悲観 10% 主力の客を失い、赤字のなかで現金が細る 利益 −1 億円 · PBR 0.3 倍 · 株価時価総額 560 円13 億円
主力の事務機器の客が生産を海外の別の部品メーカーに切り替える筋書きだ。留め具の個数は 3 割減り、値段の勝負で赤字になる。基板のラックも中国製に押され、台数は 4 割減る。
営業赤字が続き、現金は工場の閉鎖と移転、赤字の穴埋めで細る。配当は減らされる。株主の値打ちは、残った純現金に近づくが、その現金も経営が抱えたままで、少数株主には半分しか届かない。帳簿にある土地や工場の価値も、事業を続ける限り株主には戻らない。
同業や取引先に安く買われる道もあるが、その値段は純現金に近い水準にとどまる。自社素材の強みも、汎用の留め具では値段の差を埋められない。
- ファスナー・精密部品:数量 7.5(出荷個数(億個、推定))× 価格 3.60(1,000 個あたりの売上(千円))→ 売上 27 億円・営業利益 −1 億円。7.5 億個(0.70 倍)× 1,000 個あたり 3.6 千円(1.2 倍)、−2%
- 生産設備治具・金型:数量 7,000(ラック・治具の台数(台、推定))× 価格 14(1 台あたりの売上(万円))→ 売上 10 億円・営業利益 0 億円。0.7 万台(0.58 倍)× 14 万円、−5%
倍率:赤字なので PBR で置く。床は今の純現金を戻り方 0.5 で数えた約 13 億円で、今の自己資本 44.7 億円の 0.29 倍。
確率:2009 年 9 月期に営業利益率 −19% の前例がある。ただ現金の厚さが床になるので、構造的に負ける筋書きは 10% とした。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
ファスナー・精密部品
事務機器・住宅設備・自動車向けのプラスチック・ファスナー(留め具)と精密成形部品。自社素材 NIXAM の応用品を含む。
| 数量出荷個数(億個、推定) | 価格1,000 個あたりの売上(千円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/09 | 10.7 | 3.00 | 32 | 2 |
| 10 年後 中立 | 10.2 | 4.02 | 41 | 3 |
取り方:個数の開示がないため推定。品目別売上 32.1 億円を、留め具と精密部品の1,000 個あたり約 3 千円で割った約 10.7 億個。利益は全社の営業利益 2.13 億円を、売上と粗利の高さから約 8 割と推定。
生産設備治具・金型
電子部品の実装工場向けの基板ラックなどの治具と金型。
| 数量ラック・治具の台数(台、推定) | 価格1 台あたりの売上(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/09 | 12,000 | 10 | 12 | 0 |
| 10 年後 中立 | 13,200 | 13 | 18 | 1 |
取り方:台数の開示がないため推定。治具 10.8 億円と金型 1.2 億円の合計 12.0 億円を、1 台約 10 万円で割った約 1.2 万台。利益は全社の営業利益の残り約 2 割。
リスクと懸念
事務機器の構造的な縮み
オフィスの紙の印刷は減り続け、複写機の台数も先進国で縮む。主力の留め具はこの市場に多くを頼る。日系の事務機器メーカーの再編で機種が減れば、図面から部品が外れる。
設備投資の波
基板のラックは、電子部品の実装工場の設備投資に連れて動く。2026 年は半導体と車載で伸びたが、2〜3 年で山を越えることが多い。山の利益を 10 年の実力と見誤らないことが大事だ。
現金が株主に戻らない
純現金は時価総額に近いが、配当性向は 2 割台で自社株買いもない。創業家と取引先で 3 割超を持ち、方針が変わる兆しは見えない。現金が 2% で回るだけなら、株主にとっての値打ちは帳簿の額を下回る。
大手と中国製との値段の勝負
住宅設備や自動車の留め具には、ニフコのような大手と欧米の専業メーカーがいる。汎用品では中国製との値段の勝負になる。事務機器の外に広げるほど、値決めの力は弱くなる。
海外拠点の管理
米国・香港・上海・タイに拠点を持ち、売上の 4 割を海外で稼ぐ。2024 年 9 月期には在外子会社で送金詐欺の損失が出た。小さな本社が海外の拠点を管理しきれるかが問われる。
今後の分かれ目
- 配当性向を 5 割以上に上げるか、自社株買いを始めたら
- 現金の戻り方を 0.75〜1.0 に上げ、価値を積み直す。
- 2027 年 9 月期も営業利益 3.5 億円以上が続いたら
- ラックと海外の新しい客が定着した証拠として、やや楽観の確率を上げる。
- 事務機器向けの売上が 2 期続けて 1 割以上減ったら
- 主力の縮みが速いとみて、やや悲観の確率を上げる。
- 物言う株主の大量保有や、同業・ファンドからの買収提案が出たら
- 眠った現金と土地に値段が付く。現金の戻り方を見直す。
- 現金を使った大きな M&A をしたら
- 買った事業の稼ぎが k を超えるかで、余った現金の扱いを積み直す。
見ておくもの
- 品目別の売上(ファスナー・治具・金型)
- 地域別の売上(北米・東南アジアの伸び)
- 配当性向と自社株買いの有無
- 現預金と投資有価証券の残高
- 大株主の顔ぶれの変化
倍率と資本コストの決め方
倍率は今の株価や PBR 0.5 倍を見ずに、ROE と k 8.25% から決めた。中立の ROE は 5% 前後で k を下回るので、PER の上限は 1÷k の 11.8 倍になり、その 8 割を使った。中立の営業利益率は 6.7% で過去 12 年の山 9.8% より下。余った現金 18 億円は利息を事業の利益から除き、戻り方 0.5 で足した。2026 年の上振れは 1 年目の利益にだけ入れ、10 年後の利益率には一部しか入れていない。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 9.5→13.31 倍・やや楽観 PER 9.6→12.39 倍・中立 PER 9.4→12.12 倍)。
資本コスト 8.3% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。