結論
藤倉化成は、自動車の樹脂部品に塗る塗料を主力とする、アクリル樹脂の会社だ。売上は約560億円、営業利益率は4%台である。
筆者の結論は、今の値段は適正ということだ。本業の稼ぐ力は弱いが、純現金と手厚い還元が値段を支えている。
主力のコーティングは、売上の半分を占めるのに利益率が2%台と薄い。一方で、リフォーム用の塗料と電子材料が伸び、営業利益は7期ぶりに20億円台へ戻った。2027年9月に稼働する佐野の新工場が、この改善を定着させられるかが焦点になる。
財務は堅い。純現金が約84億円あり、自己資本比率は68%ある。会社は総還元性向70%以上を掲げ、自社株買いも続ける。ただROEの中央値は過去10年で3%台で、資本コスト8%台を一度も超えていない。
営業利益の外に、受取配当などの黒字が大きい点にも注意がいる。これは毎期続く保証がなく、筆者は割り引いて見ている。確率で重みづけた本質価値は、今の時価総額を約7%下回る「適正」の範囲だ。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社は買いたいと思える事業ではない。ROEの中央値が10年で3%台と、資本コストを大きく下回ってきたからだ。主力のコーティングは売上の半分を占めるのに、利益率が2%台にとどまる。
救いは財務と経営の姿勢だ。純現金は約84億円で、時価総額の4分の1にあたる。総還元性向70%を掲げ、自社株買いも続ける。無理な買収もしない。
問題は利益の質だ。営業利益23億円に対し、経常利益は42億円と、営業外が稼ぎの半分近い。受取配当や為替差益が毎期続くとは限らない。筆者は、この部分を割り引いて見る。
堀の持続は、自動車メーカーの標準仕様に入っていることに依存する。電動化や現地メーカーの台頭で、この仕様の座が揺らぐ恐れがある。
今の時価総額は純資産の約7割だが、ROEが資本コストを下回る会社では、ためた利益は額面の価値に満たない。安全域は、悲観の筋書きでも残る現金と資産に支えられ、薄いとは言えない。
何で稼ぐ会社か
藤倉化成は、アクリル樹脂の技術を軸に、塗料や電子材料を作る。売上は約556億円で、海外が47%を占める。事業は五つに分かれる。
コーティングは、自動車のバンパーなど樹脂部品に塗る塗料が中心だ。売上は約278億円で全体の半分を占めるが、営業利益は6億円と薄い。国内と海外のアジア・欧州に拠点があり、日系自動車メーカーの現地生産に連動する。
塗料は、リフォーム用や建築用の塗料を扱う。売上は約134億円で、前期は14.5%増、営業利益は8億円と2.5倍になった。
電子材料は、電子部品やディスプレイ向けの材料で、売上約46億円。営業利益は前期の0.3億円から4億円へ増えた。化成品は約49億円で営業利益は4億円。合成樹脂は約49億円で、ほぼ収支ゼロだ。
従業員は連結で約1,200人。栃木県の佐野事業所が主要な生産拠点で、約98億円を投じた第三工場の隣に新工場を建設中だ(2027年9月完了予定)。主要顧客と売上比は開示で確認できなかった。自動車向けの比重が高い会社だと筆者は見ている。販売先は自動車メーカーの部品会社や塗装会社が中心で、取引は長期に続く。
優良さと弱いところ
同社の強みは、自動車メーカーの標準仕様に入り込むことにある。主力ユーザーで標準仕様の採用が進んでいると、格付会社も評価している。いったん仕様に入れば、塗料を他社に替えるには試験のやり直しが要るため、簡単には切り替わらない。
だが筆者は、これを堀とまでは言い切れない。コーティングは営業利益率が2%台と低く、採用が増えても利益に結びつきにくい。値段は自動車メーカーに決められ、原料の石油化学品の上昇も転嫁しきれない。
利益の質にも注意がいる。2026年3月期は営業利益が23億円なのに、経常利益は42億円、純利益は31億円と、営業外の黒字が大きい。内訳は確認できていない。受取配当や為替差益、持分法の損益が含まれるとみられ、毎期続く保証はない。
財務は健全だ。純現金が84億円あり、格付けはBBB+(安定的)。筆頭株主はフジクラで22.55%を持つ。
前の中期計画は、最終年度に営業利益40億円とROE8%を掲げたが、実績は営業利益23億円、ROE6.5%にとどまる。目標を大きく下回った事実は重い。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
自動車の塗料は、完成車メーカーの現地生産に合わせて動く。日本国内の生産は伸びず、タイや中国では日系メーカーの減産が続いている。2025年3月期には、中国、欧州、タイの低迷と国内の減産で、コーティングの営業利益が半減した。
電動化は、部品の塗装工程を変える可能性がある。樹脂部品の軽量化は追い風だが、採用車種の入れ替わりで需要は読みにくい。
塗料の領域では、日本ペイント、関西ペイントなどの大手が世界で競う。同社は規模が小さく、自動車向けは部品用の樹脂への塗装に特化した小さな市場で戦う。
リフォーム用の塗料は、築年数が進んだ住宅が増えるため、需要は底堅い。電子材料は半導体や電子部品の需要に左右され、成長の余地がある一方、競合の値下げ圧力も強い。
業界の分かれ目は、日系自動車メーカーのアジア生産がどれだけ続くか、電動化で塗装工程がどう変わるかである。塗料の世界市場は名目で年6%台の成長が見込まれるが、同社の主力は自動車の樹脂部品向けという狭い領域だ。完成車メーカーが生産を移すと、取引も現地に移る。
資本政策と M&A
還元は手厚くなっている。前の中期計画は総還元性向70%以上を掲げ、配当は下限を決めて維持するとした。2026年3月期の配当総額は約6億円だった。自社株買いも続き、同期の支出は約6億円だった。2026年5月にも、発行済み株式の2.4%にあたる上限70万株の取得枠を決めた。
投資は重い。佐野事業所の新工場に約98億円を投じる計画で、すでに約27億円を払っている。完成は2027年9月の予定だ。2026年3月期の設備投資は46億円だった。
投資有価証券は、上場株が約72億円とみられる。売却は一部にとどまり、2026年3月期の売却額は約2.6億円だった。持ち合い株からの配当は営業外収益に入っているので、価値をさらに別に足すことはしていない。
筆頭株主のフジクラが22.55%を持ち、同社の持分法適用会社だ。買収や再編の可能性は外部の推定で約25%あるが、筆者は材料としては数えていない。
10年の還元は、純利益の約7割(配当と自社株買い)とみた。利益が減る筋書きでは還元も減る。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
足元は明らかに底を打った。2026年3月期の営業利益は23億円と前期から74%増え、7期ぶりに20億円台へ戻った。塗料は14.5%増収で営業利益が2.5倍に、電子材料も営業利益が10倍以上に伸びた。
自動車向けのコーティングは、採用が広がっている。タイや中国、東南アジアの生産に合わせて現地の供給を厚くすれば、数量は10年で2割以上増える。
2027年9月に稼働する佐野の新工場は、約98億円の投資で、生産効率が大きく上がる。固定費が下がれば、薄いコーティングの利益率も改善する。
財務は強い。純現金は時価総額の4分の1に当たり、総還元性向70%と自社株買いが続く。2026年5月には、発行済み株式の2.4%を上限に取得する枠を決めた。
時価総額が純資産の7割という今の値段は、これらの改善を先取りしていない。一方、化成品も営業利益が7割近く伸び、収益の足場は広がっている。合成樹脂の赤字が縮めば、全体の利益はさらに上がる余地がある。
慎重な見方
本業の稼ぐ力は薄い。営業利益率は過去10年のうち、5%を超えたのは2019年3月期の1年だけだ。前の中期計画が掲げた営業利益40億円は、実績23億円と大きく未達になった。
主力のコーティングは、利益率が2%台と低く、2025年3月期には営業利益が半減した。日系自動車の減産と、中国・タイの低迷が主因だ。電動化で塗装工程が変われば、採用品が減る恐れもある。
2026年3月期の純利益31億円は、営業外の黒字と特別利益に支えられた。営業利益23億円の1.4倍に当たる。内訳が確認できず、毎期続く保証はない。会社の来期予想も、経常利益が約10%減の38億円だ。
新工場に約98億円を投じ、すでに約27億円を払った。稼働率が上がらなければ、償却と減損が利益を食う。
ROEは過去10年の中央値が3%台で、資本コストを一度も超えていない。純資産の7割という値段は、その低い稼ぐ力にむしろ見合っている。リフォーム用塗料の伸びも、足元の好調が反動で落ちる恐れがある。電子材料は小さく、全体の利益を支えるには規模が足りない。
どちらに重みを置いたか
足元の改善と財務の厚みでは強気の見方が優勢だが、稼ぐ力が資本コストに届かない点では慎重な見方が正しい。営業外の黒字を割り引いても、純現金と還元が値段を支える。
中立は、新工場の効果で営業利益率が4%台後半に戻り、ROEは6%にとどまる。倍率は上限の1÷kの約8割に置いた。確率は中立を軸に、主力の自動車向けの弱さを踏まえ、やや悲観と悲観に計37%を置いた。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 1,468 円416 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 722 円205 億円)。 今の値に割り戻すと 1,171 円332 億円、今との差 +8.2%、 期待の年率 +7.3%(資本コスト 8.0%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 7% | 2,745 円779 億円 | 1,100 円312 億円 | +255.0% | +13.5% | 269 円76 億円 |
| やや楽観 | 19% | 1,983 円563 億円 | 948 円269 億円 | +170.6% | +10.5% | 557 円158 億円 |
| 中立 | 37% | 1,533 円435 億円 | 818 円232 億円 | +117.1% | +8.1% | 870 円247 億円 |
| やや悲観 | 25% | 936 円266 億円 | 532 円151 億円 | +35.6% | +3.1% | 367 円104 億円 |
| 悲観 | 12% | 810 円230 億円 | 247 円70 億円 | −2.4% | −0.2% | 127 円36 億円 |
| 加重平均 | 100% | 1,468 円416 億円 | 722 円205 億円 | +102.2% | +7.3% | 2,190 円621 億円 |
今の株価時価総額 1,083 円307 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.0% を下回るほど割高。
楽観 7% 自動車のアジア採用が広がり、電子材料も大きく伸びる 利益 58 億円 · PER 13.5 倍 · 株価時価総額 2,745 円779 億円
自動車部品用のコーティングが、アジアで標準仕様の採用を広げる。タイや中国、東南アジアの生産に合わせて現地の供給を厚くし、数量は10年で2割5分増える。電子材料は半導体や電子部品の需要を取り込み、数量がほぼ倍になる。リフォーム用塗料も販売網が育つ。栃木の佐野に建てる新工場は2027年9月に稼働し、生産効率が上がって営業利益率は6.9%まで改善する。自社株買いと配当で還元も厚く続く。ただし数量の伸びを、原料の石油化学品の値上がりが一部食うため、過去の山である10%台までは届かない。また、化成品や合成樹脂の整理も進み、利益率の底上げに寄与する。
- コーティング(自動車部品用プラスチック塗料ほか):数量 43.5(出荷量(千トン・推定))× 価格 1,104(1キログラムあたりの平均単価(円・名目))→ 売上 480 億円・営業利益 26 億円。営業利益率5.5%
- 塗料(リフォーム用・建築用ほか):数量 25.6(出荷量(千トン・推定))× 価格 816(1キログラムあたりの平均単価(円・名目))→ 売上 209 億円・営業利益 18 億円。営業利益率8.5%
- 電子材料:数量 2.6(出荷量(千トン・推定))× 価格 3,900(1キログラムあたりの平均単価(円・名目))→ 売上 102 億円・営業利益 11 億円。営業利益率11.0%
- 化成品:数量 13.5(出荷量(千トン・推定))× 価格 552(1キログラムあたりの平均単価(円・名目))→ 売上 74 億円・営業利益 7 億円。営業利益率9.0%
- 合成樹脂:数量 14.1(出荷量(千トン・推定))× 価格 469(1キログラムあたりの平均単価(円・名目))→ 売上 66 億円・営業利益 2 億円。営業利益率3.0%
倍率:事業の純利益 58 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.4% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.7%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.5 倍。全体の PER 13.47 倍、時価総額 779 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:自動車の採用拡大・電子材料の成長・新工場の効率化がそろう必要がある。前の中期計画が営業利益40億円を目標にしながら、実績は23億円にとどまり、実現の確度は高くない。
やや楽観 19% 新工場が効いて、塗料と電子材料が稼ぎを底上げする 利益 45 億円 · PER 12.5 倍 · 株価時価総額 1,983 円563 億円
新工場が計画どおり稼働し、生産コストが下がる。塗料は住宅リフォームの需要が続き、数量が1割増える。電子材料は数量が5割伸び、利益率は1割近くになる。コーティングは自動車の現地生産に合わせて1割台後半の増加にとどまるが、採用の拡大が続く。営業利益率は5.7%まで改善し、前の中期計画が掲げた6%台に近づく。還元は総還元性向70%の方針に沿って続く。足元の改善が一過性でなく、構造として定着する10年だ。それでも資本コストを上回る水準には届かない。海外の売上比率は5割近くを保ち、為替が円安のまま続くことも利益を下支えする。
- コーティング(自動車部品用プラスチック塗料ほか):数量 41.1(出荷量(千トン・推定))× 価格 1,088(1キログラムあたりの平均単価(円・名目))→ 売上 447 億円・営業利益 19 億円。営業利益率4.3%
- 塗料(リフォーム用・建築用ほか):数量 24.5(出荷量(千トン・推定))× 価格 810(1キログラムあたりの平均単価(円・名目))→ 売上 199 億円・営業利益 15 億円。営業利益率7.5%
- 電子材料:数量 2.3(出荷量(千トン・推定))× 価格 3,840(1キログラムあたりの平均単価(円・名目))→ 売上 89 億円・営業利益 9 億円。営業利益率9.8%
- 化成品:数量 12.9(出荷量(千トン・推定))× 価格 540(1キログラムあたりの平均単価(円・名目))→ 売上 69 億円・営業利益 6 億円。営業利益率8.0%
- 合成樹脂:数量 13.4(出荷量(千トン・推定))× 価格 462(1キログラムあたりの平均単価(円・名目))→ 売上 62 億円・営業利益 1 億円。営業利益率2.0%
倍率:事業の純利益 45 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.5% が k 8.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.5 倍。全体の PER 12.5 倍、時価総額 562 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:新工場の稼働と塗料・電子材料の増益が続く筋書き。足元で営業利益が7期ぶりに20億円台に戻っており、現実味はある。
中立 37% 利益は少しずつ戻るが、資本コストには届かない 利益 35 億円 · PER 12.5 倍 · 株価時価総額 1,533 円435 億円
自動車部品向けのコーティングは、日本の国内生産が伸びない中で、アジアの採用の広がりで数量が1割増える。利益率はまだ薄く、3%台にとどまる。リフォーム用塗料は足元の好調がいくらか続き、利益率は6%台半ばで安定する。電子材料は数量が3分の1増えるが、価格の下落が利益を抑える。化成品は横ばい、合成樹脂は縮小して低い利益率が続く。新工場の稼働で、営業利益率は4%台後半まで改善する。営業外では受取配当や利息が利益を支える。還元は総還元性向70%の方針に沿って続くが、利益の絶対額が小さく、ROEは6%どまりだ。
- コーティング(自動車部品用プラスチック塗料ほか):数量 38.3(出荷量(千トン・推定))× 価格 1,072(1キログラムあたりの平均単価(円・名目))→ 売上 410 億円・営業利益 14 億円。営業利益率3.4%
- 塗料(リフォーム用・建築用ほか):数量 23.4(出荷量(千トン・推定))× 価格 804(1キログラムあたりの平均単価(円・名目))→ 売上 188 億円・営業利益 12 億円。営業利益率6.5%
- 電子材料:数量 2.1(出荷量(千トン・推定))× 価格 3,750(1キログラムあたりの平均単価(円・名目))→ 売上 78 億円・営業利益 7 億円。営業利益率8.5%
- 化成品:数量 12.3(出荷量(千トン・推定))× 価格 536(1キログラムあたりの平均単価(円・名目))→ 売上 66 億円・営業利益 5 億円。営業利益率7.0%
- 合成樹脂:数量 12.7(出荷量(千トン・推定))× 価格 455(1キログラムあたりの平均単価(円・名目))→ 売上 58 億円・営業利益 1 億円。営業利益率1.0%
倍率:事業の純利益 35 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 6.0% が k 8.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.5 倍。全体の PER 12.5 倍、時価総額 435 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:自動車向けの低迷と、塗料・電子材料の好調が打ち消し合う中心の筋書き。来期予想の営業利益率4.1%に近い。
やや悲観 25% 自動車部品向けが細り、利益が出にくい形に戻る 利益 20 億円 · PBR 0.5 倍 · 株価時価総額 936 円266 億円
自動車の生産が国内で細り、タイや中国でも日系メーカーの減産が続く。コーティングの数量は5%減り、値上げも原料高の転嫁が遅れて通りにくい。リフォーム用塗料は足元の好調が反動で落ち込み、利益率が5%まで下がる。電子材料は競合の値下げで価格が上がらず、利益率が伸びない。合成樹脂は赤字が続く。新工場の償却が重くなり、営業利益率は3%台に戻る。配当は維持するが、自社株買いは絞られる。営業外の黒字があるので赤字にはならないが、本業の稼ぐ力は資本コストを大きく下回る。海外の売上比率が高いため、現地景気の悪化はそのまま利益の低下になる。
- コーティング(自動車部品用プラスチック塗料ほか):数量 33.1(出荷量(千トン・推定))× 価格 1,024(1キログラムあたりの平均単価(円・名目))→ 売上 339 億円・営業利益 7 億円。営業利益率2.2%
- 塗料(リフォーム用・建築用ほか):数量 21.2(出荷量(千トン・推定))× 価格 768(1キログラムあたりの平均単価(円・名目))→ 売上 163 億円・営業利益 8 億円。営業利益率5.0%
- 電子材料:数量 1.7(出荷量(千トン・推定))× 価格 3,450(1キログラムあたりの平均単価(円・名目))→ 売上 58 億円・営業利益 4 億円。営業利益率6.5%
- 化成品:数量 11.0(出荷量(千トン・推定))× 価格 512(1キログラムあたりの平均単価(円・名目))→ 売上 57 億円・営業利益 3 億円。営業利益率5.0%
- 合成樹脂:数量 11.3(出荷量(千トン・推定))× 価格 438(1キログラムあたりの平均単価(円・名目))→ 売上 49 億円・営業利益 −1 億円。営業損失(営業利益率-1.0%)
倍率:ROE 3.4%は k 8% を大きく下回り、稼ぐ力(純利益 20 億円÷k≒242 億円)は売れる資産の税後より小さい。このため稼ぐ力でなく、売れる資産の税後約 260 億円を床とし、今の自己資本 484 億円に 0.54 倍を掛けた。
確率:主力のコーティングが細り、営業利益率が過去6年のほとんどで2〜3%台だった実績に戻る筋書き。実現しやすい。
悲観 12% 主力の自動車向けを失い、売れる資産で測られる会社になる 利益 6 億円 · PBR 0.5 倍 · 株価時価総額 810 円230 億円
日系の完成車メーカーがタイや中国で撤退・縮小し、コーティングの数量が4分の1減る。現地の塗料メーカーが標準仕様の座を奪い、残った受注も低い値段で受けるしかない。電動化で部品の塗装工程が変わり、採用品の需要も細る。リフォーム用塗料は競合に押され、電子材料は価格競争でほぼ儲からなくなる。98億円を投じた佐野の新工場は稼働率が上がらず、減損が出る。本業の営業利益はほぼゼロになり、営業外の受取配当で黒字を保つのがやっとだ。会社は資産の売却で還元をつなぐ。稼ぐ力ではなく、手元の現金と有価証券、売れる資産で測られる会社になる。
- コーティング(自動車部品用プラスチック塗料ほか):数量 26.1(出荷量(千トン・推定))× 価格 920(1キログラムあたりの平均単価(円・名目))→ 売上 240 億円・営業利益 −2 億円。営業損失(営業利益率-1.0%)
- 塗料(リフォーム用・建築用ほか):数量 17.8(出荷量(千トン・推定))× 価格 708(1キログラムあたりの平均単価(円・名目))→ 売上 126 億円・営業利益 3 億円。営業利益率2.5%
- 電子材料:数量 1.2(出荷量(千トン・推定))× 価格 3,000(1キログラムあたりの平均単価(円・名目))→ 売上 37 億円・営業利益 1 億円。営業利益率3.0%
- 化成品:数量 9.2(出荷量(千トン・推定))× 価格 460(1キログラムあたりの平均単価(円・名目))→ 売上 42 億円・営業利益 1 億円。営業利益率2.5%
- 合成樹脂:数量 9.2(出荷量(千トン・推定))× 価格 392(1キログラムあたりの平均単価(円・名目))→ 売上 36 億円・営業利益 −1 億円。営業損失(営業利益率-4.0%)
倍率:本業の利益がほぼゼロで、稼ぐ力でなく売れる資産の税後で測る。投資有価証券・現金・売掛金・土地設備の売却価値から、約 230 億円を床とし、今の自己資本 484 億円に 0.475 倍を掛けた。新工場の減損は自己資本に反映している。
確率:日系自動車の縮小と電動化が重なる構造的な負け。同じ領域の日本特殊塗料と同じ程度の確率を置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
コーティング(自動車部品用プラスチック塗料ほか)
自動車の樹脂部品(バンパーなど)に塗る塗料。日本・タイ・中国・欧州で供給する。
| 数量出荷量(千トン・推定) | 価格1キログラムあたりの平均単価(円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 34.8 | 800 | 278 | 6 |
| 10 年後 中立 | 38.3 | 1,072 | 410 | 14 |
取り方:セグメント売上 278 億円を平均単価 800(円/kg)と置いて出荷量を約 3.5 万トンと推定した(出荷量は開示されない)。数量は日系自動車メーカーのアジア生産と採用車種で動き、価格は物価並みの名目で、原料の転嫁が遅れる。
塗料(リフォーム用・建築用ほか)
リフォーム用・建築用の塗料。前期は14.5%増収。
| 数量出荷量(千トン・推定) | 価格1キログラムあたりの平均単価(円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 22.3 | 600 | 134 | 9 |
| 10 年後 中立 | 23.4 | 804 | 188 | 12 |
取り方:セグメント売上 134 億円を平均単価 600(円/kg)と置いて出荷量を約 2.2 万トンと推定した(開示されない)。数量は住宅リフォーム需要と販売網で動く。
電子材料
電子部品・ディスプレイ向けの材料。前期は16.5%増収。
| 数量出荷量(千トン・推定) | 価格1キログラムあたりの平均単価(円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1.5 | 3,000 | 46 | 4 |
| 10 年後 中立 | 2.1 | 3,750 | 78 | 7 |
取り方:セグメント売上 46 億円を平均単価 3,000(円/kg)と置いて出荷量を約 1,540 トンと推定した(開示されない)。数量は電子部品の需要で動き、価格は競合の値下げ圧力を受ける。
化成品
アクリル系の化学品。
| 数量出荷量(千トン・推定) | 価格1キログラムあたりの平均単価(円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 12.3 | 400 | 49 | 4 |
| 10 年後 中立 | 12.3 | 536 | 66 | 5 |
取り方:セグメント売上 49 億円を平均単価 400(円/kg)と置いて出荷量を約 1.2 万トンと推定した(開示されない)。数量は国内の産業需要で動く。
合成樹脂
合成樹脂。前期は23.2%減収で小幅な営業赤字。
| 数量出荷量(千トン・推定) | 価格1キログラムあたりの平均単価(円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 14.1 | 350 | 49 | 0 |
| 10 年後 中立 | 12.7 | 455 | 58 | 1 |
取り方:セグメント売上 49 億円を平均単価 350(円/kg)と置いて出荷量を約 1.4 万トンと推定した(開示されない)。数量は縮小傾向で、利益は薄い。
リスクと懸念
自動車の生産が細る
売上の半分はコーティングで、日系自動車メーカーの現地生産に連動する。国内の減産と、中国・タイの低迷で、2025年3月期には営業利益が半減した。電動化で塗装工程が変われば、採用品が減る恐れもある。
営業外の黒字が続かない
2026年3月期は営業利益23億円に対し、経常利益が42億円だった。営業外の黒字は約19億円で、受取配当や為替差益、持分法の損益が含まれるとみられる。内訳は確認できておらず、毎期続く保証はない。
新工場の稼働率
佐野事業所の新工場に約98億円を投じ、2027年9月に完了する予定だ。需要が伸びなければ、償却が重くなり、減損が出る恐れがある。
原料と為替
原料は石油化学品に依存し、特定メーカーへの調達の偏りもある。値上がりを転嫁しきれないと利益が薄くなる。海外売上が47%あり、為替の変動も受ける。
栃木に集中する生産
主要な生産拠点は栃木県の佐野事業所にある。地震や台風などの災害で止まれば、供給が途切れる。
中期計画の未達
前の中期計画は、最終年度に営業利益40億円とROE8%を掲げた。実績は営業利益23億円、ROE6.5%にとどまる。計画が達成できない構造の問題が残っている。
今後の分かれ目
- コーティングの営業利益率が4%を超えて続いたら
- 新工場と採用拡大が利益に結びついたサインとみて、楽観・やや楽観側の確率を上げてよい。
- 営業外の黒字が大きく減り、経常利益が営業利益に近づいたら
- 利益の質が悪化しているとみて、中立の純利益を見直し、やや悲観側に寄せる。
- 日系自動車メーカーがタイや中国で生産の縮小を打ち出したら
- コーティングの数量が減る前触れ。悲観側の確率を上げる。
- フジクラが追加で株式を買い増すか、TOBに動いたら
- 再編の材料。ただし本質価値は動かさず、値付けが先行する局面として見る。
- 新工場が計画より遅れるか、減損が出たら
- 投資の回収が遅れるサインで、やや悲観側の確率を上げる。
見ておくもの
- コーティングの営業利益率
- 営業外収益の内訳(受取配当・為替・持分法)
- 日系自動車メーカーのアジア生産
- 佐野の新工場の稼働と償却
- 総還元性向と自社株買いの継続
倍率と資本コストの決め方
5つのセグメントを数量と価格で積み、倍率は ROE が資本コストを下回るため、上限 1÷k=12.1 倍に対する8〜9.6割に置いた(k 8%、堀は普通で残る割合 1/2)。やむを得ず推定した出荷量と単価は、どれも売上から逆算した推定で、開示とは違う。やや悲観・悲観は稼ぐ力でなく売れる資産の税後で測り、過去のPBRの底は使っていない。今のPERやPBRは最後に比べただけで、寄せていない。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 12.3→13.47 倍・やや楽観 PER 10.2→12.5 倍・中立 PER 9.7→12.5 倍)。
資本コスト 8.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality +0.75% を足して 8.25%。同じ領域の日本ペイント(+0.8%)に近い幅にした。フジクラとの関係や新工場の実行は k に足さず、筋書きと確率で表した。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.25% → 8.00%。