結論
ポーラ・オルビスは、訪問販売の「ポーラ」と通販の「オルビス」を二本柱にする化粧品会社である。筆者の結論は、今の値段は割高だ。稼ぐ力を素直に見ると、本質価値は今の時価総額の半分前後にとどまる。
稼ぎの中身は、すでに入れ替わっている。2025 年 12 月期の営業利益は、オルビスが 93 億円、ポーラが 87 億円だった。売上がポーラの半分ほどのオルビスが、利益では上に立つ。ポーラは販売員の引退が止まらず、顧客数が細っている。売り方そのものが縮んでいる。
強みは本物だ。ポーラは顔を見て売る直販で、一人あたりの購入額が高い。オルビスは会員に自社で売るので、小売りに利益を削られない。純現金は 600 億円を超え、財務は固い。
重いのは育成ブランドだ。ジュリークとスリーは赤字から抜けきれない。2024 年からの中期計画も、海外と育成ブランドは未達と自己評価している。会社の予想どおり利益が戻っても、10 年先のポーラは今より小さい。
配当にも注意したい。配当性向は 120% を超え、利益より多く払っている。ためた現金を取り崩す形で、長くは続かない。現金の厚みは評価するが、事業の稼ぐ力に見合う値段は、今の値段に届かない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資家が見るのは、10 年先も稼ぎ続けるかと、その稼ぎがどれだけ株主の手元に残るかだ。この会社は、その答えが事業ごとに分かれる。
オルビスは、持ち続けたい事業だ。利益率が高く、再投資の負担が軽い。会員の数が減らない限り、現金を生み続ける。ただし通販は競争が激しく、堀が厚いとは言えない。
ポーラは、堀が細りつつある事業だ。顧客との関係は価値があるが、それを支える販売員が 3 年で 4 割減った。会社は利益率を上げる手を打っているが、売上の土台が縮む事業を高く評価するのは危うい。
資本の使い方は、いちばん気になる点だ。利益を超える配当は、取り崩しながらの還元で、事業を成長させるお金ではない。赤字のブランドに投じた資金は、15 年たっても戻っていない。
安全域は、財務の厚みにある。純現金と含みのある不動産で、事業が傷んでも守れる価値はかなり大きい。しかし、今の時価総額は、その上に事業の回復をほぼ織り込んだ水準だ。10 年先の事業を保守的に見ると、払う値段に余裕がない。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの柱は 2 つある。ポーラは、販売員(ビューティーディレクター)が顧客の肌を見ながら売る訪問販売と店舗の事業だ。売上は 900 億円ほどで、国内が中心になる。販売員は委託で、売れた分だけ歩合を払う。全国に約 2,500 の店があり、百貨店にも 63 のコーナーを持つ。固定費は軽いが、人が減ると売上も減る。
オルビスは、会員向けの通販が中心の事業だ。売上は 500 億円ほど、営業利益率は 18% 台と、グループでいちばん高い。スキンケアの戦略商品に広告と開発を集め、自社の通販サイトと店舗で売る。商品を小売りに卸さないので、利益が自社に残る。
残りの 2 つは赤字の事業だ。ジュリークは 2011 年に買ったオーストラリア発の自然派ブランドで、中国と百貨店の不振が長い。育成ブランドにはスリー、ディセンシア、フジミなどが入る。ディセンシアは収益が良くなったが、スリーは赤字が続く。
最近の増益は、本業の伸びだけではない。ポーラ青山ビルディングが稼働し、不動産の賃料が増えた。ジュリークと育成ブランドの赤字が縮んだ分も大きい。2026 年 12 月期の売上は 1,730 億円の予想で、2018 年の山の 7 割ほどにとどまる。
ポーラでは約 160 人の希望退職を募り、費用の約 14 億円を 2026 年 12 月期の特別損失に入れる。国内の人件費の重さを、会社自身が認めた形だ。
優良さと弱いところ
ポーラの強みは、顔の見える関係にある。販売員が肌を診て、化粧品やエステを組み合わせて売る。一人の顧客が長く買い続けるので、購入額が高い。会社は、顧客が減っても一人あたりの生涯の購入額は伸びたと説明している。
しかし、この強みは販売員の数に支えられている。2022 年末に約 2.7 万人いた販売員は、2025 年末に約 1.7 万人になった。3 年で 4 割近い減りだ。高齢の引退と、コロナ後の店の閉鎖が重なった。新しい担い手が入らなければ、顧客との関係は細り続ける。
オルビスの堀は、会員の数と通販の運営力にある。ただし、通販の化粧品は参入が容易で、ファンケルや大手各社も同じ土俵に立つ。オルビスの高い利益率は、広告費をかけ続けて保っている面もある。堀として長持ちするかは、まだ言い切れない。値決めも、ブランドで強気に上げられる段階にはない。
経営の資本の使い方には、疑問が残る。ジュリークの買収から 15 年たっても赤字だ。財団と創業家で株の過半を握るため、投資の失敗を株主が止めにくい。配当を利益以上に払う方針も、成長の投資先が乏しいことの裏返しに映る。
財務は強い。純現金が厚く、利息もほぼ払っていない。この点だけは、10 年先でも揺らがない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
世界の美容・パーソナルケア市場は、年 7% ほどで伸びるとされる。ただし日本の会社は、その波に乗りにくい。国内は人口が減り、量はほぼ横ばいか微減だ。値上げと高級化で、売上を名目で伸ばす世界になる。物価が 3% ずつ上がる中で売上を保つには、顧客一人あたりの購入額を物価並みに上げ続けねばならない。
訪問販売は、国内の化粧品の中でも縮む側にある。人手を介する売り方は、担い手の高齢化に弱い。ポーラは、成長する店に人と資金を集める方針に変えた。二次流通への出荷も抑えている。量を追わず、利益の取れる売上に絞る転換だ。
通販と自社サイトは、構造的に伸びる側にある。顧客データで広告を絞り、小売りの取り分を省ける。オルビスはそこで勝っている。ただ、この市場には資生堂、コーセー、ファンケル、海外のロレアルなどが同じ顧客を狙う。差は、商品の新しさと会員の維持で決まる。
中国は、現地ブランドの台頭で、日系の勢いが落ちた。オルビスの中国法人は清算され、ジュリークの中国も減収が続く。会社の海外成長の前提は、中計の想定と違った。訪日客の消費は下支えになるが、国内の人口減を打ち消すほどではない。
化粧品は景気で売上が揺れる品目だが、日用品ほどではない。購入額の高い顧客は、不況でも買い続けると筆者は見る。10 年の勝負は、販売員の減りをどこで止めるかと、通販の伸びを守れるかの二つだ。
資本政策と M&A
還元は、手厚いが無理がある。方針は連結配当性向 60% 以上で、2025 年は 120% 台だった。利益が落ちても配当を据え置いたためで、足りない分は手元の現金から出している。自社株買いは確約していない。
買収の実績は冴えない。ジュリークの 2011 年の取得は、15 年たっても黒字化していない。育成ブランドの赤字も続く。大型の買収より、新規事業(カオカラ、ダイヴなど)を内部で立ち上げる方針だ。この方針が実を結ぶかは、スリーの黒字化が試金石になる。
大株主は、ポーラ美術振興財団と創業家の鈴木郷史氏で、合わせて半分を超える。2025 年 3 月の報告書では財団が約 35%、鈴木氏が約 22% だった(2026 年 6 月の別の集計は数字が違い、確認できていない)。この株主構成では、TOB で会社が買われる動きは起きにくい。
政策保有株は「単なる安定株主目的では持たない」としている。一方、ポーラ青山ビルなど賃貸の不動産は、簿価に比べ時価が 500 億円ほど高い。事業に使わない資産であり、価値として数えてよい。
10年の還元は、配当を年52億円で据え置く前提(配当性向60%以上の方針の上)。中立でも利益を約80億円上回るので、その分は余った現金で払い、筋書きの余った現金を減らした(二重に数えない)。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
ポーラの販売員の減りは、底に近づいている。会社は、数を追わず、成長する店に集める方針を採る。希望退職で人件費の重さも手当てした。顧客数が減っても一人あたりの購入額は伸びており、売上は崩れていない。2026 年上期の営業利益は 7% 増えた。利益率が 1 割を超えれば、ブランドの価値が数字に出てくる。
オルビスは、ほかの国内ブランドにない成長力を持つ。戦略商品のスキンケアが売れ、2026 年上期も売上が 5% 以上伸び、営業利益は 24% 増えた。会員に直接売る仕組みは、物価の上昇を価格に移しやすい。会員が増え続ければ、10 年後も 17〜19% の利益率を保てる。
赤字の 2 事業も、止血が進んでいる。ジュリークの上期の損失は前の年の半分になり、育成ブランドも赤字が小さくなった。この 2 つが黒字になるだけで、営業利益は 20 億円以上増える。ポーラ青山ビルの賃料も、これから積み上がる。
財務は純現金で、借金に頼らず新しい手を打てる。配当を維持できる体力もある。事業が改善して利益が配当に追いつけば、取り崩しの心配は消える。ポーラとオルビスの双方で利益率が上がれば、時価総額は今の値段を正当化する水準に近づく。
慎重な見方
ポーラの販売員は 3 年で 2.7 万人から 1.7 万人に減った。この流れは、高齢の引退が続く限り止まらない。新しい担い手を集めるには、報酬の仕組みを変える必要があるが、それは利益率を削る。希望退職と店の絞り込みは、売上の縮みを認めた動きでもある。中期計画は、自己評価で海外と育成が×、国内も△だ。2026 年の目標は届かない。
オルビスの好調は、通販の競争が穏やかな間の話だ。参入は容易で、広告費を増やさなければ会員は維持できない。中国法人の清算が示すとおり、海外で通販の強みは移植できなかった。国内でも、人口が減る中で会員を増やし続けるのは難しい。
育成ブランドは、15 年たっても黒字にならない。ジュリークの買収は、のれんと資金を長く寝かせた。スリーも赤字から抜けきれない。創業家と財団が株の過半を持ち、買収や新ブランド投資の失敗を外から止める力が弱い。
配当は、利益の 1.2 倍を払っている。取り崩しが続けば、現金の厚みは減る。減配になれば、株を持つ理由の一つが消える。今の値段は、会社予想の増益がそのまま続く姿を映した水準に見える。そこに届かなければ、評価は大きく下がる。
どちらに重みを置いたか
事業の中身を見ると、慎重な見方のほうが強い。ポーラの縮みは 3 年で数字に出た事実で、オルビスの好調は競争の穏やかさに頼る面がある。強気の見方が言う利益率の回復は、赤字の事業が黒字になる前提に立つ。
そこで、確率は慎重な側に寄せた。楽観とやや楽観を合わせて 3 割弱、やや悲観と悲観を合わせて 4 割弱に置いた。中立は、ポーラの縮みが続くが、オルビスと不動産が支える姿だ。10 年先の営業利益は、2025 年の 1.4 倍ほどにとどまる。
10 年後の 5 つの筋書き(2035/12 期)
確率で加重した株価時価総額 1,065 円2,361 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 531 円1,178 億円)。 今の値に割り戻すと 871 円1,930 億円、今との差 −39.1%、 期待の年率 +1.1%(資本コスト 7.8%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 2,217 円4,913 億円 | 767 円1,700 億円 | +108.7% | +7.6% | 239 円529 億円 |
| やや楽観 | 19% | 1,653 円3,663 億円 | 654 円1,450 億円 | +61.4% | +4.9% | 438 円971 億円 |
| 中立 | 34% | 1,169 円2,592 億円 | 587 円1,300 億円 | +22.8% | +2.1% | 597 円1,323 億円 |
| やや悲観 | 27% | 473 円1,049 億円 | 451 円1,000 億円 | −35.3% | −4.3% | 250 円553 億円 |
| 悲観 | 12% | 404 円895 億円 | 203 円450 億円 | −57.5% | −8.2% | 73 円161 億円 |
| 加重平均 | 100% | 1,065 円2,361 億円 | 531 円1,178 億円 | +11.7% | +1.1% | 1,597 円3,538 億円 |
今の株価時価総額 1,430 円3,168 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.8% を下回るほど割高。
楽観 8% ポーラが下げ止まり、オルビスが伸び続ける 利益 258 億円 · PER 17.9 倍 · 株価時価総額 2,217 円4,913 億円
ポーラの販売員の減りが 2〜3 年で止まり、顧客数は今の 9 割弱で落ち着く。一人あたりの購入額は高級品への集中で物価以上に伸び、営業利益率は 14% まで戻る。オルビスは会員を増やし続け、顧客数は今の 1.3 倍、利益率は 19% を保つ。
ジュリークと育成ブランドは黒字になり、合わせて 8% の利益率に届く。ポーラ青山ビルの賃料も積み上がる。配当は維持され、やがて利益が配当に追いつく。
10 年後の営業利益は 370 億円になり、2018 年の山の水準に並ぶ。ここまでそろうのは、国内の担い手不足、通販の競争、中国の不振という三つの問題が同時に解けた時だ。会社の中計が掲げた「利益率 12〜13%」も超える、最良の姿である。
- ポーラ(訪問販売・店舗・百貨店・海外):数量 88.0(年間の購入顧客数(万人、推定。実質の数量))× 価格 131,000(顧客 1 人あたりの年間購入額(円、名目))→ 売上 1,153 億円・営業利益 161 億円。営業利益率 14.0%
- オルビス(通販・店舗):数量 330(年間の購入顧客数(万人、推定。実質の数量))× 価格 27,740(顧客 1 人あたりの年間購入額(円、名目))→ 売上 915 億円・営業利益 174 億円。営業利益率 19.0%
- ジュリーク・育成ブランド(スリー・ディセンシア・フジミなど):数量 560(販売個数(万個、推定。実質の数量))× 価格 8,450(1 個あたりの平均単価(円、名目))→ 売上 473 億円・営業利益 38 億円。営業利益率 8.0%
- 不動産・その他(ポーラ青山ビルの賃貸と調整):数量 4.0(賃貸・その他収益の面積換算(万㎡、推定。実質の数量))× 価格 21(1 ㎡あたりの年間収益(万円、名目))→ 売上 82 億円・営業利益 7 億円。営業利益率 8.0%
倍率:事業の純利益 252 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 16.5% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 12.1%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 17.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 17.9 倍 + 余った現金(戻り方込み)400 億円。全体の PER 17.88 倍、時価総額 4,913 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:販売員の減少、通販の競争、海外の不振という三つの逆風が 10 年のあいだ全部和らぐ必要がある。中計の目標すら届かない実績を見ると、重なる確率は低い。
やや楽観 19% オルビスが支え、ポーラは小さく安定する 利益 199 億円 · PER 16.9 倍 · 株価時価総額 1,653 円3,663 億円
オルビスは顧客数を今の 1.2 倍に増やし、利益率は 17.5% を保つ。ポーラは販売員が減り続けるが、店の絞り込みと希望退職で人件費が軽くなり、顧客数は今の 8 割で落ち着く。営業利益率は 12% 台まで戻る。
ジュリークは小さな黒字になり、スリーも損益が均衡する。育成ブランドと合わせて 5% の利益率だ。ポーラ青山ビルの賃料は増える。
10 年後の営業利益は 290 億円ほどで、2027 年の会社予想を 1.5 倍にした程度に収まる。配当は少しずつ増え、利益が配当に追いつく。中国は戻らないが、国内の通販と不動産が全体を支える。三つの逆風のうち、二つが和らいだ姿である。
- ポーラ(訪問販売・店舗・百貨店・海外):数量 80.0(年間の購入顧客数(万人、推定。実質の数量))× 価格 128,300(顧客 1 人あたりの年間購入額(円、名目))→ 売上 1,026 億円・営業利益 126 億円。営業利益率 12.3%
- オルビス(通販・店舗):数量 300(年間の購入顧客数(万人、推定。実質の数量))× 価格 27,200(顧客 1 人あたりの年間購入額(円、名目))→ 売上 816 億円・営業利益 143 億円。営業利益率 17.5%
- ジュリーク・育成ブランド(スリー・ディセンシア・フジミなど):数量 500(販売個数(万個、推定。実質の数量))× 価格 8,250(1 個あたりの平均単価(円、名目))→ 売上 413 億円・営業利益 21 億円。営業利益率 5.0%
- 不動産・その他(ポーラ青山ビルの賃貸と調整):数量 4.0(賃貸・その他収益の面積換算(万㎡、推定。実質の数量))× 価格 21(1 ㎡あたりの年間収益(万円、名目))→ 売上 82 億円・営業利益 6 億円。営業利益率 7.0%
倍率:事業の純利益 193 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 14.0% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.9%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.9 倍 + 余った現金(戻り方込み)400 億円。全体の PER 16.87 倍、時価総額 3,663 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:オルビスの勢いは 2026 年上期も続いており、半分の好転は十分ありうる。ただしポーラの販売員の減りが止まる保証はなく、育成ブランドの黒字化も遠い。
中立 34% 中立:ポーラは縮み、オルビスと不動産が支える 利益 149 億円 · PER 15.7 倍 · 株価時価総額 1,169 円2,592 億円
ポーラの顧客数は今の 7 割まで減る。販売員の高齢化は止まらないが、高級品への集中と希望退職で営業利益率は 10% 台前半に戻る。売上は、値上げで名目では今より少し増える。
オルビスは顧客数を 1 割ほど増やし、利益率は 16% まで落ち着く。通販の競争が強まり、広告費の負担が増えるためだ。ジュリークと育成ブランドは赤字が止まり、損益均衡に近づく。
ポーラ青山ビルの賃料が加わり、10 年後の営業利益は 220 億円ほどになる。2025 年の 1.4 倍だが、物価が 3 割上がる中では実質の成長は小さい。配当は、利益が増えるぶん無理が減る。中計の目標は遠いままだが、事業は壊れない。
- ポーラ(訪問販売・店舗・百貨店・海外):数量 72.0(年間の購入顧客数(万人、推定。実質の数量))× 価格 126,500(顧客 1 人あたりの年間購入額(円、名目))→ 売上 911 億円・営業利益 96 億円。営業利益率 10.5%
- オルビス(通販・店舗):数量 270(年間の購入顧客数(万人、推定。実質の数量))× 価格 26,930(顧客 1 人あたりの年間購入額(円、名目))→ 売上 727 億円・営業利益 116 億円。営業利益率 16.0%
- ジュリーク・育成ブランド(スリー・ディセンシア・フジミなど):数量 440(販売個数(万個、推定。実質の数量))× 価格 8,040(1 個あたりの平均単価(円、名目))→ 売上 354 億円・営業利益 7 億円。営業利益率 2.0%
- 不動産・その他(ポーラ青山ビルの賃貸と調整):数量 4.0(賃貸・その他収益の面積換算(万㎡、推定。実質の数量))× 価格 21(1 ㎡あたりの年間収益(万円、名目))→ 売上 82 億円・営業利益 6 億円。営業利益率 7.0%
倍率:事業の純利益 145 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.8% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.8%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.7 倍 + 余った現金(戻り方込み)318 億円。全体の PER 15.73 倍、時価総額 2,592 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:ポーラの縮みは事実として進み、オルビスの伸びは続くが競争で鈍る。双方の言い分の落としどころとして、最も当てはまりやすい姿に最大の確率を置いた。
やや悲観 27% ポーラの縮みが続き、通販の競争も強まる 利益 90 億円 · PER 9.5 倍 · 株価時価総額 473 円1,049 億円
ポーラの販売員の減りが止まらず、顧客数は今の 6 割まで減る。人件費を絞っても売上の縮みに追いつかず、営業利益率は 7% に落ちる。オルビスは国内の競争で広告費がかさみ、顧客数は今の水準を保つのがやっとで、利益率は 13% まで下がる。
ジュリークと育成ブランドは、赤字が小さくなるだけで黒字にならない。不動産の賃料は入るが、全体を支えるには小さい。営業利益は 125 億円ほどで、今より 2 割少ない。
配当は、利益に合わせて減らされる。余った現金の一部は赤字の穴埋めと買収の失敗に消える。会社は存続するが、ポーラという看板の価値は細り、普通の化粧品会社に近づいていく。
- ポーラ(訪問販売・店舗・百貨店・海外):数量 62.0(年間の購入顧客数(万人、推定。実質の数量))× 価格 121,100(顧客 1 人あたりの年間購入額(円、名目))→ 売上 751 億円・営業利益 53 億円。営業利益率 7.0%
- オルビス(通販・店舗):数量 240(年間の購入顧客数(万人、推定。実質の数量))× 価格 26,500(顧客 1 人あたりの年間購入額(円、名目))→ 売上 636 億円・営業利益 83 億円。営業利益率 13.0%
- ジュリーク・育成ブランド(スリー・ディセンシア・フジミなど):数量 380(販売個数(万個、推定。実質の数量))× 価格 7,800(1 個あたりの平均単価(円、名目))→ 売上 296 億円・営業利益 −3 億円。営業利益率 -1.0%
- 不動産・その他(ポーラ青山ビルの賃貸と調整):数量 4.0(賃貸・その他収益の面積換算(万㎡、推定。実質の数量))× 価格 20(1 ㎡あたりの年間収益(万円、名目))→ 売上 80 億円・営業利益 4 億円。営業利益率 5.0%
倍率:ROE 5.5% は k 7.75% を下回り、ためた利益は帳簿より低い価値になるので、PER の上限は 1÷k=12.5 倍。構造の悪化を織り込み、その 7.6 割の 9.5 倍に置いた(7 割へ引き上げない)。余った現金は 3 割減の 300 億円から、利益を上回る還元の分(約 76 億円)を引いた 224 億円を足している。
確率:ポーラの 3 年の縮み方と、中計の未達が示す流れを、そのまま 10 年に延ばした姿。オルビスの競争も強まり、ほぼ並んで起きうる。
悲観 12% ポーラの販売網が崩れ、優良さを失う 利益 20 億円 · PBR 0.6 倍 · 株価時価総額 404 円895 億円
ポーラの販売員が、10 年のあいだに半分以下に減る。顧客数は今の 4 割台に落ち、営業利益率は 2% まで下がる。報酬の仕組みを変えようとして、残った販売員も離れる。オルビスは通販の競争に押され、顧客数が減り、利益率は 8% になる。
ジュリークと育成ブランドは赤字が続き、のれんの減損を出す。ポーラ青山ビルの賃料があっても、全体の営業利益は 30 億円ほどにしかならない。配当は、最初の数年は現金を取り崩して払い、のちに大きく減る。必要なら不動産の売却でも払う。
純利益が小さくなる中で、会社は赤字の穴埋めと減損で自己資本を減らす。稼ぐ力ではなく、持っている現金と不動産の価値が、株の下値を決める。優良な化粧品会社ではなくなる筋書きである。
- ポーラ(訪問販売・店舗・百貨店・海外):数量 45.0(年間の購入顧客数(万人、推定。実質の数量))× 価格 113,000(顧客 1 人あたりの年間購入額(円、名目))→ 売上 509 億円・営業利益 10 億円。営業利益率 2.0%
- オルビス(通販・店舗):数量 190(年間の購入顧客数(万人、推定。実質の数量))× 価格 24,000(顧客 1 人あたりの年間購入額(円、名目))→ 売上 456 億円・営業利益 37 億円。営業利益率 8.0%
- ジュリーク・育成ブランド(スリー・ディセンシア・フジミなど):数量 300(販売個数(万個、推定。実質の数量))× 価格 7,000(1 個あたりの平均単価(円、名目))→ 売上 210 億円・営業利益 −8 億円。営業利益率 -4.0%
- 不動産・その他(ポーラ青山ビルの賃貸と調整):数量 4.0(賃貸・その他収益の面積換算(万㎡、推定。実質の数量))× 価格 19(1 ㎡あたりの年間収益(万円、名目))→ 売上 76 億円・営業利益 3 億円。営業利益率 4.0%
倍率:優良さを失い利益が細る筋書きなので、稼ぐ力(純利益 20 億円÷k=250 億円ほど)でなく、売れる資産で測る。純現金と賃貸不動産の売却価値(税後)を床とし、今の自己資本 1,628 億円に 0.55 倍を掛けた。
確率:販売員の減り方は 3 年で 4 割と速く、止まらなければ売上の土台が崩れる。創業家と財団が株の過半を持ち、赤字事業の整理が遅れやすい点も重なる。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
ポーラ(訪問販売・店舗・百貨店・海外)
販売員(ビューティーディレクター)が売る訪問販売と専門店、百貨店のコーナー、海外を含むポーラブランドの事業。
| 数量年間の購入顧客数(万人、推定。実質の数量) | 価格顧客 1 人あたりの年間購入額(円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 100 | 90,373 | 904 | 87 |
| 10 年後 中立 | 72.0 | 126,500 | 911 | 96 |
取り方:売上 903.7 億円を、購入顧客を約 100 万人と推定して割った(顧客数は開示がなく推定)。販売員は 2022 年末の約 2.7 万人から 2025 年末の約 1.7 万人へ減り、顧客数も細る。数量は減る方向、価格は物価並みに高級化の上乗せを見込む。
オルビス(通販・店舗)
会員向けの通販が中心のスキンケア・化粧品事業。グループでいちばん利益率が高い。
| 数量年間の購入顧客数(万人、推定。実質の数量) | 価格顧客 1 人あたりの年間購入額(円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 250 | 20,096 | 502 | 93 |
| 10 年後 中立 | 270 | 26,930 | 727 | 116 |
取り方:売上 502.4 億円を、年間の購入顧客を約 250 万人と推定して割った(顧客数は開示がなく推定)。国内のスキンケアが伸び、中国法人は清算した。数量は国内のシェアで少し伸ばし、価格は物価並みに置く。
ジュリーク・育成ブランド(スリー・ディセンシア・フジミなど)
豪州発のジュリークと、スリー、ディセンシアなどの育成ブランド。合わせて赤字が続く。
| 数量販売個数(万個、推定。実質の数量) | 価格1 個あたりの平均単価(円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 392 | 6,004 | 235 | −21 |
| 10 年後 中立 | 440 | 8,040 | 354 | 7 |
取り方:ジュリーク 83.9 億円と育成ブランド 151.5 億円の売上を合わせ、平均単価を 6 千円ほどとみて個数を逆算した推定。営業損益は 2 つの赤字の合計(-14.3 億円と -7.0 億円)。
不動産・その他(ポーラ青山ビルの賃貸と調整)
ポーラ青山ビルディングなどの賃貸と、連結の調整項目。
| 数量賃貸・その他収益の面積換算(万㎡、推定。実質の数量) | 価格1 ㎡あたりの年間収益(万円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 4.0 | 15 | 61 | 4 |
| 10 年後 中立 | 4.0 | 21 | 82 | 6 |
取り方:不動産売上 30.2 億円と連結調整・その他の売上の合計 61 億円ほどを、面積換算で約 4 万㎡とみて割った見かけの単価(面積は推定)。営業利益は不動産事業の 4.2 億円。
リスクと懸念
ポーラの販売員が減り続ける
販売員は 2022 年末の約 2.7 万人から、2025 年末の約 1.7 万人に減った。高齢の引退が続き、新しい担い手も十分に入らない。人が減ると顧客との関係が細り、売上の土台が縮む。報酬の仕組みを変えれば、利益率を削る。ポーラの利益を支える柱そのものが崩れるリスクで、最も重い。
通販の競争が強まる
オルビスの高い利益率は、通販の競争が穏やかな間の話かもしれない。通販の化粧品は参入しやすく、広告の費用が上がれば利益率は下がる。会員を増やし続けるのも、人口の減る国内では難しくなる。オルビスの利益がグループの半分以上を占めるため、ここが崩れると全体への影響が大きい。
育成ブランドの赤字が続く
ジュリークは 2011 年の買収から 15 年たっても黒字にならない。スリーなどの育成ブランドも赤字だ。毎年の赤字が、せっかくのオルビスの利益を削る。のれんの減損が出る恐れもある。創業家と財団が株の過半を持つので、外からの圧力で整理が進みにくい。
配当が利益を超えている
配当性向は 2025 年に 120% 台だった。足りない分は手元の現金から出しており、利益が配当に追いつかない限り、現金は減る。減配になれば、配当を理由に株を持つ投資家が離れ、評価が下がる恐れがある。会社は方針の 60% 以上を掲げるが、実態とのずれが大きい。
中国の事業が戻らない
中国は現地ブランドの台頭で日系の勢いが落ち、オルビスの中国法人は清算された。ジュリークの中国も減収が続く。会社は中計で海外売上の比率 20% を掲げたが、想定と違った。海外の成長を前提にすると、数字を読み違える。中国の需要がいつ戻るかも読めない。
創業家と財団が株の過半を握る
ポーラ美術振興財団と創業家で、株の過半を持つ。資本の使い方に株主が口を出しにくく、赤字事業の整理や配当の水準が、大株主の考えに左右される。財団の保有比率は資料によって数字が違い、確認できていない。TOB で会社が買われる動きも起きにくい。支配が安定する半面、変化も起こしにくい。
今後の分かれ目
- ポーラの販売員が減る勢いが弱まり、顧客数が前の年を上回る
- 底を打ったサインとみて、楽観とやや楽観の確率を上げてよい。ポーラの利益率が 1 割を超えて続くかも合わせて見る。
- オルビスの売上の伸びが 1 桁前半に鈍り、利益率が 16% を割る
- 通販の競争が強まったサインとみて、やや悲観側に重みを移す。グループの利益の半分を支える事業なので、影響が大きい。
- スリーとジュリークが黒字になり、複数の期で続く
- 育成の投資が実を結んだとみて、営業利益の見通しを 20 億円ほど上げる。買収の評価も改める。
- 配当を据え置きから減配に変える
- 取り崩しの還元を改めた動きで、現金の減りは止まる。短期の評価は下がるが、事業の価値そのものは変わらない。
- 自社株買いを大きく実施する、または余った現金を使った大型の買収を発表する
- 買いなら現金が株主に戻る動き(戻り方を上げる材料)。買収なら過去の失敗の再来を疑い、悲観側の確率を上げる。
- 財団や創業家の持ち株の一部が売却される
- 支配が緩み、資本の使い方が変わりうる。TOB など再編の可能性も、今より現実味を帯びる。
見ておくもの
- ポーラの販売員数と顧客数、一人あたりの購入額
- オルビスの売上の伸びと営業利益率(四半期)
- ジュリーク・スリーの営業損益
- 配当性向と手元の現金の推移
- 次の中期経営計画(2027 年以降)の目標と、その前提
倍率と資本コストの決め方
数量は顧客数・個数、価格は物価 3% 込みの名目で積んだ(顧客数は開示がなく推定)。k は基本 7.5% に quality +0.5%(ポーラの販売員の減りと育成ブランドの長い赤字)の 8.0%。倍率は利益ベースの正当化 PER(RONIC=k+1/2×(事業の ROE−k)、g は 4.0%)の上限を出し、ROE が k を超える筋書きは 1÷k の下限との間に、k を下回る筋書きは 1÷k の天井の 7.6 割に置いた。今の株価・PER・PBR や過去の倍率は根拠にしていない。余った現金 400 億円は事業に要らない分を別に足し、戻り方は配当性向が 100% を超えているので 1.0 とした。店の家賃は、ポーラの店が委託・歩合中心で固定費が重くないとみるが、リースの額は確認できていない。新リース会計基準で数字の形が変わる点は、今と同じ形(家賃を営業費用に入れた形)で置いた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 14.3→17.88 倍・やや楽観 PER 13.5→16.87 倍・中立 PER 12.5→15.73 倍)。
資本コスト 7.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality +0.5%(ポーラの販売員の減りと、ジュリーク・スリーの長い赤字で事業の寿命に不安)を足して 8.0%。ガバナンスや買収の失敗は k に足さず、筋書きと確率で表した。同じ領域の資生堂・コーセー(+0.5%)と同じ並びで置いた。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.00% → 7.75%。