結論
巴川コーポレーションは、静岡に本拠を置く老舗の素材メーカーだ。トナー、半導体向けのテープ、機能性シート、偽造防止の印刷物を手がける。売上は 356 億円、営業利益は 16 億円。
筆者の結論は、今の値段はほぼ妥当で、安全域は薄いというものだ。利益を稼ぐ芯は半導体・ディスプレイ関連で、車載向けのテープが強い。売上の 2 割に過ぎないが、営業利益は事業全体の 6 割を占める。
だがその利益を、赤字の新規開発が 9 億円削っている。さらに売上の 3 割のトナーは複合機の台数減で細る。10 年先の中立は、半導体が伸びても全体の利益率は 6% 止まりだ。
財務も気になる。純有利子負債は 99 億円と時価総額に並び、金利が上がれば利益が削られる。投資有価証券 73 億円が下支えだが、これは売って初めて意味を持つ。2026 年 4〜6 月期は営業利益が大きく伸びたが、一四半期の数字で 10 年の見立てを変えるほどではない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社は持ち続けたくなる株ではない。事業の一部(車載の半導体テープ)は良い。だが全体の利益が資本コストを安定して超えない。借入が時価総額と並ぶ状態で、設備投資が営業利益の 8 倍あるのも心配だ。
オーナー利益、つまり再投資を引いて株主に残る利益は、ほぼない。130 億円の投資は成長のために必要でも、回収できるかは新製品が量産に乗るかにかかる。経営者は保守的だが、赤字の新規開発を何年も続けてきた点は、資本配分の評価を下げる。
安全域は、投資有価証券と土地などの売れる資産にある。悲観でも、借入を返したあとに今の時価総額の半分ほどは残る。だが上振れも、半導体テープの伸びが前提で、確実とは言えない。払える値段は、中立の価値より 1 割ほど安い所までと見る。つまり今の値段は、その上限の近くにある。
何で稼ぐ会社か
稼ぎ方は 4 つの柱に分かれる。売上の最大は機能性シートで 123 億円。鉄道・バス向けの機能材や、機能性不織布を扱う。利益率は 5% 弱と低い。
次がトナーで 115 億円。独立系の専業として、複合機メーカーに納める。同社は国内の独立系でトップの位置にあると自認するが、シェアの数字は開示がない。利益率は 4% 弱と薄い。
利益の中心は半導体・ディスプレイ関連で、売上は 72 億円、利益率は 14.6%。主力は半導体の枠となるリードフレームを固定するテープで、車載用途が中心だ。QFN 用の接着テープを次の柱に育てている。ほかに車載の飛散防止フィルム、半導体製造装置向けの面状ヒーターがある。
4 つ目は子会社の昌栄印刷が担うセキュリティメディアで、偽造や改ざんを防ぐ印刷物。売上 42 億円、利益率は 9% 弱。
そして売上がほとんど立たない新規開発事業が、研究開発費のぶん 9 億円の営業損失を出している。ここが黒字化するか、縮むか。全社の利益はそれで決まる。製造拠点は静岡と中国・恵州にあり、設備投資は静岡の事業所に集まる。
優良さと弱いところ
優良さは、半導体テープのごく一部にある。車載用リードフレーム固定テープは、顧客の工程に入り込んだ素材で、品質認定に時間がかかる。いったん採用されれば乗り換えられにくい。利益率が 14% を超えるのは、その表れだ。
だが会社全体では堀は広くない。トナーは複合機メーカーの値下げ要請を受ける立場で、利益率は 4% 前後。機能性シートも価格競争がある。過去 12 年の営業利益率は 0% から 6% のあいだを行き来し、ROE の中央値は 4.5% にとどまる。資本コストを稼げていない年が多い。
経営の資本の使い方は、堅実だが保守的だ。自社株買いは年 2 億円ほどで、配当性向は 2 割台。成長投資を優先し、余剰資金を株主還元に回す順番を明言している。政策保有株は縮減する方針で、それは評価できる。
弱い点は 2 つ。借入が重いことと、赤字の新規開発が長く続いていることだ。中期計画の目標(2029 年 3 月期の営業利益率 5%)は、過去の実績の上限に近い。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
事業ごとに環境が違う。半導体は、車載向けの伸びが中長期の追い風だ。電動化と運転支援で 1 台に載る半導体は増える。リードフレームを使うパッケージは車載で広く使われる。ただ、需要は景気循環で上下し、在庫調整の年は売上が落ちる。中国のテープメーカーが中位グレードを追ってくる点も見ておく必要がある。
トナーは構造的に縮む市場だ。オフィスの印刷は減り、複合機の台数が細る。世界の大手トナーメーカーと、複合機メーカー自身が内製する流れの間で、独立系の取り分は小さくなる。値上げで利益を守る局面が続く。
機能性シートは、不織布を電池材や環境材に広げられるかが勝負で、競合は大手の繊維・化学メーカーだ。セキュリティメディアは、紙の証券や通帳の電子化で長く縮む市場にいる。
全体として、成長の分野(半導体)が小さく、縮む分野(トナー・印刷物)が大きい。成長の分野が伸びても、会社全体の伸びは物価に少し足した程度にとどまる。国内の人口減少も、紙媒体に依存する事業には逆風になる。原材料の樹脂や溶剤は物価と為替で動き、値上げの転嫁が遅れる年は利益が薄くなる。
資本政策と M&A
2026 年 5 月に第 9 次中期経営計画をつくり、2029 年 3 月期に売上 400 億円、営業利益 20 億円、ROE 5.4% を目指す。3 年間の設備投資は約 130 億円と、今の営業利益の 8 倍にあたる重い額だ。新製品売上比率は 17% から 30% に上げる。
還元は配当性向 2 割台から 3 割台前半で、自社株買いは 2024 年 11 月と 2025 年 8 月に各 2 億円ほど実施した。政策保有株は縮減を進める。投資有価証券は 73 億円あり、しずおかフィナンシャルグループや三井化学の株が含まれる。配当の受け取りは利益に入っているため、価値を二重に数えない。
主な株主は三井住友 DS アセットマネジメント(約 6%)、井上ホールディングス(約 6%)。親会社はなく、TOB の話も出ていない。M&A は将来の自己株式の活用先として想定するのみで、大型の買収は見込まない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
車載半導体は 10 年で市場が倍以上になる。リードフレーム固定テープは車載で採用実績があり、乗り換えられにくい。QFN 用接着テープが次の柱になれば、半導体・ディスプレイ関連の売上は 200 億円を超える。利益率も 15% 台を保つ。顧客の品質認定を通った素材は簡単には替わらず、値下がりは物価より緩やかに済む。
赤字の新規開発は、半導体装置向けの面状ヒーターと機能性不織布が量産に入り、黒字に変わる。設備投資 130 億円はその準備で、回収の段階に入る。トナーは数量が落ちても値上げが通り、利益率は 4% 台を保つ。
財務も改善する。営業利益が 2 倍になれば、借入の返済が進む。政策保有株の売却で、さらに返済が進む。2026 年 4〜6 月期の営業利益が前年の 2.4 倍になった事実は、その方向を示している。会社の計画どおりに行けば、2029 年 3 月期には営業利益 20 億円、ROE は 5% 台に戻る。
慎重な見方
半導体テープの市場は景気循環が大きく、2019 年 3 月期と 2020 年 3 月期のように、半導体の調整期には利益が一気に落ちる。中国のテープメーカーが追ってくれば、中位グレードでは値下げを迫られる。
新規開発は何年も赤字が続いており、会社の黒字化の目標も何度も先送りされた。過去 12 年の営業利益率が 6% を超えた年は一度もなく、中期計画の 5% も実績の上限に近い。130 億円の投資は営業利益の 8 倍で、回収できなければ減損になる。
トナーは構造的に縮む。複合機の台数減に、メーカーの内製化が重なる。機能性シートも、利益率が 5% 弱と低く、原料高を転嫁しきれない年がある。借入が時価総額と並び、金利上昇で利息が増えるため、利益が出ても財務の余裕は乏しい。自己資本比率は 35% で、赤字が 2 年続けば財務の選択肢は急に狭まる。ROE は 10 年の中央値で 4.5% と、資本コストに届かない。株主に返す余力も小さく、自社株買いは年 2 億円にとどまる。
どちらに重みを置いたか
強気の見方は半導体テープの伸びを根拠にするが、全体の利益に占める比率はまだ小さい。慎重な見方の指摘(資本コストを稼げない、借入が重い、新規開発の赤字が長い)は実績で裏づけられる。確率は中立を 4 割に置き、悲観側にやや寄せた。強気の見方に必要な条件は、半導体の市場拡大、新製品の量産、赤字の解消の 3 つが同時に起きることだ。慎重な見方に必要な条件は、そのうち 1 つが外れることだけだ。この差が、悲観側に確率を寄せた理由である。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 1,872 円184 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 413 円41 億円)。 今の値に割り戻すと 1,103 円109 億円、今との差 +14.9%、 期待の年率 +9.1%(資本コスト 8.5%)→ やや割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 4,188 円412 億円 | 711 円70 億円 | +410.4% | +17.7% | 392 円39 億円 |
| やや楽観 | 17% | 3,144 円309 億円 | 589 円58 億円 | +288.9% | +14.5% | 635 円62 億円 |
| 中立 | 40% | 2,031 円200 億円 | 457 円45 億円 | +159.2% | +10.0% | 995 円98 億円 |
| やや悲観 | 22% | 569 円56 億円 | 285 円28 億円 | −11.1% | −1.2% | 188 円18 億円 |
| 悲観 | 13% | 498 円49 億円 | 81 円8 億円 | −39.7% | −4.9% | 75 円7 億円 |
| 加重平均 | 100% | 1,872 円184 億円 | 413 円41 億円 | +138.0% | +9.1% | 2,285 円225 億円 |
今の株価時価総額 960 円94 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.5% を下回るほど割高。
楽観 8% 楽観:車載の半導体テープが育ち、新製品が黒字化する 利益 33 億円 · PER 12.5 倍 · 株価時価総額 4,188 円412 億円
車載の半導体は電動化と運転支援で 1 台あたりの個数が増える。リードフレーム固定テープと QFN 用接着テープは、その増加をそのまま受ける。車載の半導体市場が 10 年で 2.3 倍になり、巴川が今のシェアを守ると、半導体・ディスプレイ関連の売上は 200 億円を超える。
赤字の新規開発は、半導体装置向けのヒーターと不織布が量産に乗って黒字になる。研究開発費は物価で膨らむが、売上がそれを上回る。トナーは複合機の台数減を値上げで受け流し、機能性シートは不織布が伸びる。
営業利益率は 8% 近くまで上がり、過去 12 年の山(6%)を超える。純利益は 33 億円、ROE は 10% 台に乗る。還元は配当に加えて自社株買いを厚くする。
- トナー:数量 4.8(トナー出荷量(千トン、推定))× 価格 31(1 千トンあたり単価(億円))→ 売上 146 億円・営業利益 7 億円。数量 95%、値上げが通る
- 半導体・ディスプレイ関連:数量 165(対象市場(実質・億円)× シェアの取り分)× 価格 125(値段の指数(今を 100))→ 売上 206 億円・営業利益 31 億円。市場 2.3 倍で取り込む
- 機能性シート:数量 196(対象市場(実質・億円)× シェアの取り分)× 価格 134(値段の指数(今を 100))→ 売上 263 億円・営業利益 17 億円。不織布が育つ
- セキュリティメディア・その他:数量 45.0(実質の売上(今の値段で換算・億円))× 価格 134(値段の指数(今を 100))→ 売上 60 億円・営業利益 5 億円。横ばい
- 新規開発:数量 14.0(開発品の売上(実質・億円))× 価格 134(値段の指数(今を 100))→ 売上 19 億円・営業利益 1 億円。ヒーターなどが黒字化
倍率:事業の純利益 33 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.4% が k 8.50% を上回る。残る割合 0.33(moat=weak)で RONIC 9.1%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.5 倍。全体の PER 12.49 倍、時価総額 412 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:新製品売上比率を 30% に上げる会社目標と、車載向けの半導体の搭載数の増加が重なった上振れ。実現に必要な条件が多く、同領域の楽観の標準より薄くした。
やや楽観 17% やや楽観:半導体テープは伸びるが、新事業の黒字化は遅れる 利益 26 億円 · PER 11.9 倍 · 株価時価総額 3,144 円309 億円
半導体・ディスプレイ関連が市場の伸びと同じペースで 2 倍になる。車載向けの採用は広がり、QFN 用接着テープも主力に近づく。機能性不織布は 6 割ほど増えるが、価格競争で利益率は 5% 台にとどまる。
トナーは複合機の台数が減るため数量が 1 割落ちるが、値上げは物価並みに通る。新規開発の赤字は、10 年のうちに収支とんとんまで縮む。
営業利益は 43 億円ほどで、利益率は 7% 台。ROE は 8% 台に上がる。減価償却は新しい設備の分だけ増え、既存設備の償却は物価で増えない。投資が回収に入る時期なので、借入の返済も進む。
- トナー:数量 4.5(トナー出荷量(千トン、推定))× 価格 30(1 千トンあたり単価(億円))→ 売上 135 億円・営業利益 5 億円。数量 9 割
- 半導体・ディスプレイ関連:数量 140(対象市場(実質・億円)× シェアの取り分)× 価格 122(値段の指数(今を 100))→ 売上 171 億円・営業利益 25 億円。市場 2 倍
- 機能性シート:数量 160(対象市場(実質・億円)× シェアの取り分)× 価格 134(値段の指数(今を 100))→ 売上 214 億円・営業利益 12 億円。3 割増
- セキュリティメディア・その他:数量 43.0(実質の売上(今の値段で換算・億円))× 価格 134(値段の指数(今を 100))→ 売上 58 億円・営業利益 5 億円。微減
- 新規開発:数量 9.0(開発品の売上(実質・億円))× 価格 134(値段の指数(今を 100))→ 売上 12 億円・営業利益 −1 億円。ほぼ収支とんとん
倍率:事業の純利益 26 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.8% が k 8.50% を上回る。残る割合 0.33(moat=weak)で RONIC 8.6%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 11.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.9 倍。全体の PER 11.9 倍、時価総額 309 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:半導体テープの伸びは業界の需要で説明できるが、新事業の黒字化は会社の計画に頼る部分が大きい。楽観よりは厚く、中立よりは薄く置いた。
中立 40% 中立:半導体テープが利益を支え、トナーは細り、全体は物価並みに伸びる 利益 17 億円 · PER 11.8 倍 · 株価時価総額 2,031 円200 億円
利益の柱は半導体・ディスプレイ関連で、市場の伸びと取り込みで売上は 1.7 倍になる。車載向けは強いが、中位の汎用グレードは中国勢が追ってくるので、値段は物価より低い 1.20 倍にとどまる。
トナーは複合機の台数が細り、数量が 14% 減る。機能性シートは不織布が育って数量 1.2 倍、値段は物価並み。新規開発の赤字は 5 億円に縮む。
売上は 530 億円ほど。営業利益率は 6% 台で、過去 12 年の山(6%)と並ぶ。減価償却は 130 億円の投資で増えるが、既存設備の償却は物価で増えない。純利益は 17 億円、ROE は 6% 台。還元は配当性向 3 割強を守る。
- トナー:数量 4.3(トナー出荷量(千トン、推定))× 価格 30(1 千トンあたり単価(億円))→ 売上 129 億円・営業利益 4 億円。数量 86%、転嫁は 1.30 倍
- 半導体・ディスプレイ関連:数量 120(対象市場(実質・億円)× シェアの取り分)× 価格 120(値段の指数(今を 100))→ 売上 144 億円・営業利益 20 億円。市場 1.7 倍。価格は技術の値下がりと中国勢で物価未満(1.20 倍)
- 機能性シート:数量 147(対象市場(実質・億円)× シェアの取り分)× 価格 134(値段の指数(今を 100))→ 売上 197 億円・営業利益 11 億円。数量 1.2 倍
- セキュリティメディア・その他:数量 41.4(実質の売上(今の値段で換算・億円))× 価格 134(値段の指数(今を 100))→ 売上 55 億円・営業利益 5 億円。数量 92%
- 新規開発:数量 5.0(開発品の売上(実質・億円))× 価格 134(値段の指数(今を 100))→ 売上 7 億円・営業利益 −5 億円。赤字が 5 億円に縮む
倍率:事業の純利益 17 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 6.4% が k 8.50% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.8 倍。全体の PER 11.76 倍、時価総額 200 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:業界の見通しの中心。半導体向けの伸びと、トナーの縮み、新規開発の赤字の縮小が同時に起きる。同領域の標準(中立 4 割)にそろえた。
やや悲観 22% やや悲観:半導体テープの伸びが鈍り、トナーが縮む 利益 7 億円 · PER 8.0 倍 · 株価時価総額 569 円56 億円
車載半導体の在庫調整が長引き、市場の伸びは 10 年で 1.4 倍にとどまる。電動化の立ち上がりが遅れる年も出る。中国のテープメーカーが中位グレードで値下げを仕掛け、価格は物価の半分ほどしか上がらない。
トナーは数量が 24% 減り、利益率は 2% に落ちる。新規開発の赤字は残り、投資は回収しきれない。
営業利益は 16 億円ほどで今とほぼ同じ。物価で費用は 3 割ふくらむので、実質では利益が縮む。借入の金利上昇も重い。配当を今の水準で維持できず、自社株買いは止まる。売れる資産の売却に頼って借入を返す期間が長くなる。
- トナー:数量 3.8(トナー出荷量(千トン、推定))× 価格 28(1 千トンあたり単価(億円))→ 売上 106 億円・営業利益 2 億円。数量 76%
- 半導体・ディスプレイ関連:数量 95.0(対象市場(実質・億円)× シェアの取り分)× 価格 115(値段の指数(今を 100))→ 売上 109 億円・営業利益 12 億円。市場の伸びが鈍る
- 機能性シート:数量 125(対象市場(実質・億円)× シェアの取り分)× 価格 130(値段の指数(今を 100))→ 売上 162 億円・営業利益 7 億円。数量ほぼ横ばい
- セキュリティメディア・その他:数量 38.0(実質の売上(今の値段で換算・億円))× 価格 130(値段の指数(今を 100))→ 売上 49 億円・営業利益 3 億円。微減
- 新規開発:数量 3.0(開発品の売上(実質・億円))× 価格 130(値段の指数(今を 100))→ 売上 4 億円・営業利益 −6 億円。赤字が残る
倍率:ROE は 3.1% で k に遠く届かない。稼ぐ力に見合う PER の上限 1÷k = 11.4 倍の 7 割として 8.0 倍に置いた。
確率:車載半導体は景気循環で一度は調整が入り、中国勢の追い上げも続く。トナーの縮みは確実なので、同領域の標準より少し厚く置いた。
悲観 13% 悲観:中国勢に価格で負け、トナーは赤字化する 利益 −2 億円 · PBR 0.4 倍 · 株価時価総額 498 円49 億円
半導体向けテープは中国勢に取って代わられ、車載でも値下げが続く。売上は今より 1 割ほど縮み、利益率は 6% まで落ちる。
トナーは複合機の台数減に価格競争が重なって赤字になる。機能性シートも利益がほとんど出ない。新規開発は成果が出ないまま続く。
130 億円の設備投資は回収できず、設備の減損で自己資本が細る。配当は止まるか、ごく小さくなる。残るのは投資有価証券と土地などの売れる資産だけで、借入を返したあとの価値は今の時価総額の半分以下になる。経営は事業の縮小と資産の売却に追われ、新製品を育てる余力がなくなる。
- トナー:数量 3.0(トナー出荷量(千トン、推定))× 価格 26(1 千トンあたり単価(億円))→ 売上 78 億円・営業利益 −1 億円。数量 6 割、赤字
- 半導体・ディスプレイ関連:数量 72.0(対象市場(実質・億円)× シェアの取り分)× 価格 105(値段の指数(今を 100))→ 売上 76 億円・営業利益 5 億円。中国勢に価格で押される
- 機能性シート:数量 100(対象市場(実質・億円)× シェアの取り分)× 価格 125(値段の指数(今を 100))→ 売上 125 億円・営業利益 1 億円。数量 8 割
- セキュリティメディア・その他:数量 33.0(実質の売上(今の値段で換算・億円))× 価格 120(値段の指数(今を 100))→ 売上 40 億円・営業利益 2 億円。縮小
- 新規開発:数量 1.0(開発品の売上(実質・億円))× 価格 100(値段の指数(今を 100))→ 売上 1 億円・営業利益 −3 億円。開発が失敗
倍率:赤字に近い筋書きなので、稼ぐ力でなく売れる資産で測る。今の自己資本 177 億円の 0.35 倍(約 62 億円)に置いた。EV(時価総額+純有利子負債 99 億円)で見ると営業利益 2 億円の数十倍になるが、利益が出ない筋書きでは意味がなく、床の資産と借入の差で見た。
確率:構造的な負けの筋書き。事業が縮み、借入の金利上昇と減損が重なる。投資有価証券という売れる資産があるため、同領域の標準(15%)より少し薄くした。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
トナー
複合機・プリンター用のトナー。独立系の専業メーカーとして事務機メーカーに納める。国内外の複写機向けで、売上の約 3 割。
| 数量トナー出荷量(千トン、推定) | 価格1 千トンあたり単価(億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 5.0 | 23 | 115 | 5 |
| 10 年後 中立 | 4.3 | 30 | 129 | 4 |
取り方:トナー事業の売上 115 億円(有価証券報告書)を、推定の出荷 5 千トンと 1 千トン 23 億円(1 キロあたり 2.3 千円相当)で分けた。出荷量は開示がなく推定。営業利益 4.5 億円は開示。
半導体・ディスプレイ関連
リードフレーム固定テープ、QFN 用接着テープ、車載の飛散防止フィルム、半導体装置向けのヒーターなど。全社の利益の柱。
| 数量対象市場(実質・億円)× シェアの取り分 | 価格値段の指数(今を 100) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 71.8 | 100 | 72 | 11 |
| 10 年後 中立 | 120 | 120 | 144 | 20 |
取り方:売上 72 億円・営業利益 10.5 億円は開示。数量は市場規模 × シェアの推定で、実質の売上(今の値段で換算)を置き、価格は値段の指数とした。車載向け半導体の台数と、1 台あたりの半導体の数で伸びる。
機能性シート
鉄道・バス向けの機能材と、機能性不織布などのシート類。売上は最大だが利益率は低い。
| 数量対象市場(実質・億円)× シェアの取り分 | 価格値段の指数(今を 100) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 123 | 100 | 123 | 6 |
| 10 年後 中立 | 147 | 134 | 197 | 11 |
取り方:売上 123 億円・営業利益 5.8 億円は開示。数量は実質の売上を市場規模 × シェアの推定で置いた(個別の出荷数量は開示がない)。
セキュリティメディア・その他
子会社の昌栄印刷が担う、偽造や改ざんを防ぐ印刷物。その他の事業 2.7 億円を含む。
| 数量実質の売上(今の値段で換算・億円) | 価格値段の指数(今を 100) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 45.0 | 100 | 45 | 5 |
| 10 年後 中立 | 41.4 | 134 | 55 | 5 |
取り方:セキュリティメディア 42 億円・営業利益 3.7 億円に、その他の事業(売上 2.7 億円・営業利益 1.0 億円)を足した。数量は実質売上で推定。
新規開発
まだ売上が立たない開発テーマ。研究開発費がここに集まり、赤字の源になっている。
| 数量開発品の売上(実質・億円) | 価格値段の指数(今を 100) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 0.7 | 100 | 1 | −9 |
| 10 年後 中立 | 5.0 | 134 | 7 | −5 |
取り方:売上は 0.7 億円、営業損失 9.4 億円(開示)。研究開発費と立ち上げ費用が先行する部門で、ここが黒字化するか縮むかが全社の利益を左右する。
リスクと懸念
新規開発の赤字が続く
新規開発事業は営業損失が 9 億円と、全社の営業利益(16 億円)の半分超にあたる。ヒーターや不織布の量産が遅れ、黒字化がさらに先送りされれば、130 億円の設備投資は回収できず、減損のおそれがある。
半導体の調整と中国勢
半導体・ディスプレイ関連は全社の利益の柱だが、景気循環が大きい。過去には調整期に利益が急に落ちた。中国のテープメーカーが中位グレードで値下げを仕掛ければ、価格は物価より低い上昇にとどまる。
トナーの構造的な縮み
トナーは複合機の台数減で数量が減り、売上の 3 割が細る。世界の大手や複合機メーカーの内製化が重なれば、独立系の取り分は小さくなり、利益率は 4% を割る。値上げで守る局面が長く続く。
借入と金利
純有利子負債は 99 億円で、時価総額と並ぶ。借り換えのたびに金利が 3.5% 前後へ上がり、10 年で利息が増える。設備投資が重い間は、借入を減らせない。自己資本比率は 35% で、余裕は大きくない。
AI エージェントの影響
主な事業は素材とモノの製造で、人月や画面操作を売る仕事ではない。AI エージェントによる直接の置き換えは小さい。ただ、オフィスの印刷が減る流れが AI による文書の電子化で加速すれば、トナーの縮みが速まる。
政策保有株の評価
投資有価証券 73 億円の値が下がれば、自己資本が細る。配当は利益に入っているので、売却時には配当の減り分も考える。縮減の方針は評価できるが、売却益に頼る前提は置かない。
今後の分かれ目
- QFN 用接着テープの売上が会社の目標どおり伸びる
- 半導体・ディスプレイ関連が 200 億円に近づき、利益率が 15% を保てば、営業利益は 10 年で 3 倍に近づく。楽観の筋書きが現実味を帯びる。
- 新規開発事業の赤字が 3 年以内に半分に縮む
- 全社の営業利益は 25 億円台に乗り、ROE が 8% に近づく。中立より上の筋書きに確率を移す。
- 半導体の調整が 2 年続き、半導体関連の売上が 1 割落ちる
- 営業利益は 10 億円を割り、借入の返済が遅れる。やや悲観の筋書きに近づく。
- 政策保有株を大きく売却し、借入を返済する
- 純有利子負債が時価総額の 5 割以下に下がり、金利上昇の影響が小さくなる。自己資本の質が改善する。
- トナーの数量が毎年 3% 以上減る
- 売上の 3 割が 10 年で 4 割近く縮む。値上げでは補えず、トナーが赤字になる。
見ておくもの
- 半導体・ディスプレイ関連の売上と営業利益率(車載向けの需要)
- 新規開発事業の営業損失の推移と、ヒーター・不織布の量産開始
- トナーの出荷数量と営業利益率
- 純有利子負債と営業キャッシュフロー、設備投資の回収
- 政策保有株の売却の進み具合
倍率と資本コストの決め方
倍率は利益ベースで置き、今の株価・過去や同業の PER は使っていない。中立は ROE 6.4% が k 8.5% に届かないため PER の上限は 1÷k = 11.4 倍で、その 8 割の 9.0 倍。楽観・やや楽観は RONIC 方式の上限の 9 割弱。悲観は売れる資産を今の自己資本に掛けた。k は基本 7.5% に quality +1.25%。投資有価証券 73 億円の配当は利益に入っているため、価値は余り資産に足していない。借入が多く純現金ではないため余った現金は分けていない。新リース会計基準は工場が自社保有で影響は小さく、10 年後の数字は今と同じ形でそろえた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 11→12.49 倍・やや楽観 PER 10→11.9 倍・中立 PER 9→11.76 倍)。
資本コスト 8.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality +1.25% を足した 8.75%。トナーの縮みは数量で、赤字の新規開発は筋書きで表し、k では二重に見ていない。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.75% → 8.50%。