結論
関東電化工業は、半導体の製造に欠かせないフッ素系の特殊ガスと、リチウムイオン電池の材料を稼ぎ頭とする中堅の化学会社だ。売上の約 8 割が精密化学品で、利益の大半もそこから出る。筆者の結論は「割高」だ。好況が 10 年続いても、稼ぎが資本コストをようやく上回る程度にとどまるからだ。
足元の勢いは本物だ。2027 年 3 月期は売上 950 億円、営業利益 100 億円超と、前期の約 2 倍を見込む。メモリー半導体の設備投資が戻り、2025 年 8 月の渋川工場の火災で落ちた三フッ化窒素(NF3)の販売も戻る。強みは、顧客のキオクシアと共同で開発したガスと、CF4 の世界シェア約 5 割だ。
弱みも同じ場所にある。顧客は少数のメモリーメーカーで、市況の波で利益が大きく振れる。NF3 と六フッ化タングステン(WF6)は、韓国や中国の同業と値段を競う。電池材料は長く赤字だった。さらに設備に投じた金が膨らみ、ROE(自己資本に対する利益の割合)は 10% を超えにくい。
筆者は、10 年後の中立の営業利益を 155 億円と置く。今の約 3 倍だが、物価の分を除けば、会社の来期計画とほぼ同じ水準だ。この水準が続いても、先の成長に高い値段は付けられない。確率で重みづけた本質価値は、今の時価総額 1,232 億円より約 5 割低い。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の目で見ると、この会社は良い事業の入口に立っているが、良い投資の条件はまだ満たさない。
良い点は、特殊ガスが少量でも歩留まり(良品の割合)に直結し、顧客が品質を理由に簡単には替えないことだ。国内唯一の LiPF6 と共同開発のガスは、時間がたつほど顧客との結びつきが強まる。
気になる点は 3 つある。1 つ目は利益の波だ。2010 年代以降、営業赤字の期が 3 回あり、営業利益率は −3% から 20% まで振れた。2 つ目は資本の使い方だ。利益の多くを設備に再投資し、自己資本は 2015 年 3 月期から 4 倍になったが、ROE は −7% から 30% 超まで振れ、直近は 5% 台だ。投じた金が資本コストを大きく超えて稼ぎ続けているとは言えない。3 つ目は、今の値段が好況の利益で測られている点だ。
筆者が持ち続けたい会社の条件は、景気の谷でも資本コストを超えて稼ぐことだ。この会社は谷で営業赤字になる。谷を越える安全域は、今の値段にはない。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの中心は精密化学品事業で、売上の約 8 割を占める。中身は 2 つある。1 つは半導体・液晶向けの特殊ガスだ。NF3 は製造装置の内部を洗うガス、WF6 はタングステンの配線を作るガス、C4F6 は 3D NAND(立体構造のフラッシュメモリー)の深い穴を掘るガスだ。CF4 は世界シェアが約 5 割ある。向け先はメモリーが約 65%、ロジックが約 35% で、メモリーのうち NAND が約 6 割を占める。
もう 1 つは電池材料だ。電解質の六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)は国内唯一のメーカーで、電池用の添加剤も扱う。ただし中国の安値に押され、数年にわたって原価割れに近かった。米国の補助金の条件が絡み、2026 年 4 月以降は中国以外の調達先として引き合いが増えると会社は見ている。
残りは基礎化学品(電解系などの無機品。売上約 80 億円で利益はほぼゼロ)、鉄系、商事、設備だ。基礎化学品は精密化学品に原料を送る役目が主で、単独では稼がない。
工場は渋川(群馬)と水島(岡山)が中心で、韓国と中国にも拠点がある。中国の宣城工場は、第 2 期(C4F6・CF4・WF6)の立ち上げ段階だ。会社は、売上 1,000 億円を支える設備はすでに持っていると説明している。
優良さと弱いところ
特殊ガスは強く、会社全体は並みだ。強みは 3 つある。第 1 は顧客との共同開発だ。KSG-14 と KSG-5 はキオクシアと開発した、地球温暖化への影響が小さいエッチングガスだ。工程に採用されると、他社品への切り替えには検証の手間がかかる。
第 2 は一貫生産だ。フッ素の原料から最終のガスまで自社グループで作り、原価と品質を握る。第 3 は供給への信頼だ。大手の半導体メーカーは、供給が止まる事態に備えて複数の会社から買う。火災のあとも、会社は比較的早く販売が戻ると見ている。
弱みは、値段を自分で決められる範囲が狭いことだ。NF3 は SK Materials や Hyosung など韓国勢が並び、中国勢が追う。WF6 は、会社自身が価格競争が厳しいと認めている。半導体の電極がタングステンからモリブデンに移れば、WF6 の需要が細る心配もある。
資本効率も課題だ。中計の目標は ROE 12% 以上だが、直近の 2 期は 5% 前後にとどまる。設備投資の山は越え、2027 年 3 月期以降は 100 億円以下に下がる見通しだ。この先は、投じた金が利益に結びつくかが問われる。
安全面では、2025 年 8 月の NF3 製造設備の火災で従業員 1 名が亡くなった。会社の発表では、配管内を高速で流れた NF3 が弁の樹脂を燃やし、配管が破損した。再発防止の徹底が、顧客の信頼を左右する。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
この会社の業界は、メモリー半導体の設備投資とほぼ同じ動きをする。特殊ガスは、ウエハーを処理した面積に比例して減る消耗品だ。半導体メーカーの稼働率が上がれば売れる。2026 年は、AI 向けの高帯域メモリー(HBM)とデータセンター向けの SSD が需要を引っ張り、キオクシアは設備投資を前期比で約 6 割増やす計画だ。
筆者は、この追い風が数年は続くが、10 年は続かないと見る。メモリーは数年おきに需給が緩み、価格が崩れる。ガスの量は工場の稼働に従うため、利益もその波に乗る。ただし、構造として効く追い風もある。NAND は積む層が増え、深い穴を掘るほどエッチングガスの使用量が増える。
競合は品目ごとに違う。NF3 は SK Materials、Hyosung、Linde、Air Products などが並び、中国は世界最大の生産国とされる。国内では三井化学が NF3 から撤退すると公表しており、日本の半導体工場にとって関東電化の重みは増す。C4F6 と KSG 系は顧客と共同で作るため、値段の競争を避けやすい。
電池材料は別の景色だ。EV の伸びが鈍り、中国勢の過剰な能力で価格が原価を割った。米国は補助金の条件に合う中国以外の供給網を求めており、国内唯一の LiPF6 メーカーには追い風になりうる。ただし政策の風向き次第なので、筆者は大きくは見込まない。
資本政策と M&A
資本政策は、ためる会社から戻す会社へ変わり始めた。配当性向の目標は 30% 以上で、2027 年 3 月期の年間配当は前期の約 1.8 倍に増やす予想だ。自社株買いの実績はほぼない。
設備投資は山を越した。5 年間で 640 億円の投資・投融資を計画し、渋川・水島・中国の増強は済んだ。2027 年 3 月期以降の設備投資は 100 億円以下に下がる見通しだ。減価償却は 100 億円を超えるので、営業の稼ぎで借金を減らせる。純有利子負債は 199 億円、自己資本比率は 55% ある。
政策保有株は、中計で約 3 割を 2026 年度までに減らす方針だ。投資有価証券は 100 億円強と筆者はみる(決算短信の増減からの推計)。売却の資金は、還元か投資に回る。
M&A は目立たない。伸びの源は自前の設備投資で、買収で大きくなった会社ではない。時価総額が 1,200 億円台と小さく、半導体材料としての希少性から買い手が現れる余地はあるが、そうした動きは確認できない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
メモリー半導体は AI で構造的な増産期に入った。キオクシアは設備投資を大きく増やし、HBM の積層も進む。エッチングガスは層が増えるほど使う量が増える。関東電化はその中心にいる。C4F6 は年 600 トンの増強設備が 2025 年 10 月に動き、KSG-14 と KSG-5 は 10 億円から 40 億円への増販を計画する。三井化学が NF3 から撤退すれば、国内の供給が細り、顧客は複数社購買の相手として関東電化を頼る。
2027 年 3 月期は、1 四半期だけで営業利益 40 億円だ。中計で掲げた営業利益 150 億円は、売上 1,000 億円の設備がすでにあるので、追加の投資なしで届く。電池材料は、米国が中国以外の供給網を求める流れで LiPF6 の赤字が黒字に変われば、さらに上乗せになる。
減価償却が 100 億円を超えたあとは、設備投資が 100 億円以下に下がる。現金がたまり、配当性向 30% を超える還元も可能になる。10 年後に売上 1,600 億円、営業利益 290 億円は、届かない数字ではない。
慎重な見方
今期の利益は、火災で落ちた前期と、メモリーの設備投資の山が重なった一時の姿だ。メモリーは数年おきに必ず需給が緩み、価格と数量が同時に落ちる。同社は 2012 年、2013 年、2024 年の 3 月期に営業赤字になった。顧客は少数の半導体メーカーに偏り、そこが調整に入れば利益は半分になる。
競争は厳しくなる。NF3 は韓国と中国の増産で値下がりし、WF6 は会社自身が価格競争が厳しいと言う。電極がタングステンからモリブデンに移れば、WF6 の需要が細る。中国の宣城工場に投じた金も、現地の価格が下がれば回収は遠のく。
資本効率の弱さは続く。設備に投じた金は、資本コストを稼いでいない。ROE は直近の 2 期とも 5% 前後だ。今の値段は、会社の予想純利益に対して 18 倍に達し、好況が続く前提で買われている。
配当を引き上げれば、成長に回す元手はそのぶん減る。設備投資が減っても、新しいガスの立ち上げと中国の工場には資金が要る。好況の利益が一巡すれば、残るのは大きな設備と薄い利益率で、株主が期待する伸びは自己資本の増加に吸われる。
どちらに重みを置いたか
どちらの言い分にも根拠がある。好況は本物だが、メモリーの周期と価格競争が消えたわけではない。筆者は、10 年後の中立の営業利益を今の約 3 倍に置いた。これは強気の主張を半分以上認めた水準だ。それでも稼ぎが資本コストをやっと超える程度なので、倍率は低くなる。確率は、中立を 3 分の 1 に置き、慎重な側(やや悲観と悲観の合計 37%)を強気側(同 30%)よりやや厚くした。決め手は、利益の波の深さと、顧客・製品の偏りだ。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 2,228 円1,278 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 488 円280 億円)。 今の値に割り戻すと 1,364 円782 億円、今との差 −29.8%、 期待の年率 +3.4%(資本コスト 8.0%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 9% | 5,500 円3,155 億円 | 825 円473 億円 | +225.5% | +12.5% | 569 円326 億円 |
| やや楽観 | 21% | 3,617 円2,075 億円 | 628 円360 億円 | +118.5% | +8.1% | 891 円511 億円 |
| 中立 | 33% | 2,400 円1,376 億円 | 493 円283 億円 | +48.9% | +4.1% | 955 円548 億円 |
| やや悲観 | 24% | 645 円370 億円 | 342 円196 億円 | −49.2% | −6.6% | 237 円136 億円 |
| 悲観 | 13% | 204 円117 億円 | 284 円163 億円 | −74.9% | −12.9% | 63 円36 億円 |
| 加重平均 | 100% | 2,228 円1,278 億円 | 488 円280 億円 | +39.8% | +3.4% | 2,716 円1,558 億円 |
今の株価時価総額 1,943 円1,114 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.0% を下回るほど割高。
楽観 9% メモリーの増産が構造として続き、共同開発のガスが標準になる 利益 199 億円 · PER 15.9 倍 · 株価時価総額 5,500 円3,155 億円
メモリーの増産が AI を背景に 10 年続き、NAND の積層と HBM で、エッチングガスの使用量が増え続ける。関東電化は、キオクシアと共同で作った KSG-14・KSG-5、C4F6、CF4 で、価格競争を避けた売上を積み上げる。
三井化学の NF3 撤退で国内の供給は細り、半導体メーカーは複数社購買の相手として関東電化を重く扱う。特殊ガスは販売量が今の約 2 倍になり、営業利益率は 21% と過去の最良(2017 年 3 月期の 20%)を超える。
電池材料は、米国が中国以外の調達を求める流れに乗って LiPF6 が黒字になる。10 年後に営業利益は約 290 億円、中計の目標 150 億円の約 2 倍に届く。ROE は 14% と資本コストを大きく上回り、還元も厚くなる。
- 特殊ガス(半導体・液晶向け):数量 10,500(販売量(トン))× 価格 0.11(1 トンあたりの平均単価(億円)。製品構成の平均)→ 売上 1,173 億円・営業利益 246 億円。販売量約 2 倍・利益率 21%
- 電池材料:数量 14,000(販売量(トン))× 価格 0.02(1 トンあたりの平均単価(億円)。中国の市況に連動)→ 売上 274 億円・営業利益 33 億円。LiPF6 黒字化・利益率 12%
- 基礎化学品:数量 90,000(販売量(トン))× 価格 0.00(1 トンあたりの平均単価(億円))→ 売上 107 億円・営業利益 5 億円。数量横ばい・利益率 5%
- その他(鉄系・商事・設備):数量 590(取引・工事の件数(件))× 価格 0.13(1 件あたりの平均売上(億円))→ 売上 79 億円・営業利益 8 億円。利益率 10%
倍率:事業の純利益 199 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 13.9% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.9%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.9 倍。全体の PER 15.86 倍、時価総額 3,155 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:共同開発のガスの採用、NF3 の国内供給の細り、電池材料の黒字化が同時に起きる必要があるため、1 割弱にとどめた。強気の主張の半分ほどは中立に織り込んだ。
やや楽観 21% 増産の追い風が長く続き、新ガスが育つ 利益 142 億円 · PER 14.6 倍 · 株価時価総額 3,617 円2,075 億円
増産の追い風が長く続き、新ガスが育つ。特殊ガスの販売量は今の約 1.7 倍で、営業利益率は 19%。2022 年 3 月期の 17.9% を少し上回る。
NAND の積層が進み、C4F6 は増強設備が全部動き、KSG 系も採用が広がる。ただし、メモリーの調整局面が途中で何度か入り、楽観ほどの粘りはない。電池材料は LiPF6 が小さな黒字に変わる。
営業利益は約 210 億円で、今の約 4 倍。設備投資が 100 億円以下に収まるため、現金が積み上がり、配当性向は 4 割を保つ。ROE は 11% と資本コストをやや上回る。
- 特殊ガス(半導体・液晶向け):数量 8,800(販売量(トン))× 価格 0.11(1 トンあたりの平均単価(億円)。製品構成の平均)→ 売上 941 億円・営業利益 179 億円。販売量約 1.7 倍・利益率 19%
- 電池材料:数量 11,500(販売量(トン))× 価格 0.02(1 トンあたりの平均単価(億円)。中国の市況に連動)→ 売上 208 億円・営業利益 19 億円。利益率 9%
- 基礎化学品:数量 88,000(販売量(トン))× 価格 0.00(1 トンあたりの平均単価(億円))→ 売上 105 億円・営業利益 4 億円。数量微減・利益率 4%
- その他(鉄系・商事・設備):数量 560(取引・工事の件数(件))× 価格 0.13(1 件あたりの平均売上(億円))→ 売上 75 億円・営業利益 7 億円。利益率 9.5%
倍率:事業の純利益 142 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.2% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.6%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.6 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.6 倍。全体の PER 14.61 倍、時価総額 2,075 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:増産と新ガスの伸びが続く筋書きで、足元の勢いと中計の設備余力が根拠。ただし周期の谷は混ざるので、楽観より厚く 2 割強に置いた。
中立 33% 好況は水準として定着するが、周期と値下げ競争は残る 利益 104 億円 · PER 13.3 倍 · 株価時価総額 2,400 円1,376 億円
好況は水準として定着するが、周期と値下げ競争は残る。特殊ガスは販売量が今の約 1.5 倍になる。NAND の積層と HBM の需要を取り込む一方、メモリーの調整局面は 10 年に 2〜3 回入る。値段は、新しいガスの混ざりが NF3・WF6 の値下がりを補う程度で、物価の伸びには届かない(10 年で 1.3 倍)。
営業利益率は 17% で、過去の良い年(2016〜17 年)に近い。電池材料は、赤字が解消して小さな黒字にとどまる。基礎化学品は薄利のままだ。
営業利益は約 155 億円で、物価の分を除けば、会社の来期計画と同じ水準だ。配当性向は 4 割で、自己資本は約 1,150 億円まで増え、ROE は 9% と資本コストをわずかに上回る。
- 特殊ガス(半導体・液晶向け):数量 7,700(販売量(トン))× 価格 0.10(1 トンあたりの平均単価(億円)。製品構成の平均)→ 売上 799 億円・営業利益 136 億円。販売量約 1.5 倍・単価 1.3 倍・利益率 17%
- 電池材料:数量 9,800(販売量(トン))× 価格 0.02(1 トンあたりの平均単価(億円)。中国の市況に連動)→ 売上 170 億円・営業利益 10 億円。数量 1.3 倍・単価 1.15 倍・利益率 6%
- 基礎化学品:数量 85,000(販売量(トン))× 価格 0.00(1 トンあたりの平均単価(億円))→ 売上 101 億円・営業利益 3 億円。数量 0.94 倍・利益率 3%
- その他(鉄系・商事・設備):数量 520(取引・工事の件数(件))× 価格 0.13(1 件あたりの平均売上(億円))→ 売上 70 億円・営業利益 6 億円。利益率 8.5%
倍率:事業の純利益 104 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.0% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.5%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.3 倍。全体の PER 13.26 倍、時価総額 1,376 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:2 人の議論の落としどころ。好況の水準は残るが、周期と値下げ競争も残ると置いた中心の筋書き。
やや悲観 24% メモリー調整と値下げ競争で、利益が半分に戻る 利益 49 億円 · PER 7.5 倍 · 株価時価総額 645 円370 億円
メモリー調整と値下げ競争で、利益が半分に戻る。メモリーの設備投資が数年にわたって細り、NF3 と WF6 は韓国・中国勢との競争で値段が上がらない。モリブデンへの移行も、WF6 の一部を食う。
特殊ガスの販売量は今の約 1.2 倍にとどまり、営業利益率は 12%。電池材料は中国の価格に押され、ほぼ利益が出ない。基礎化学品は海外の安値品で赤字すれすれだ。
営業利益は約 75 億円で、今の約 1.4 倍にすぎない。配当は維持するが、原資は細り、自己資本の伸びは鈍る。ROE は 5% に落ち、資本コストを割り込む。
- 特殊ガス(半導体・液晶向け):数量 6,200(販売量(トン))× 価格 0.10(1 トンあたりの平均単価(億円)。製品構成の平均)→ 売上 594 億円・営業利益 71 億円。販売量約 1.2 倍・単価 1.2 倍・利益率 12%
- 電池材料:数量 8,000(販売量(トン))× 価格 0.02(1 トンあたりの平均単価(億円)。中国の市況に連動)→ 売上 127 億円・営業利益 1 億円。単価 1.05 倍・ほぼ利益なし
- 基礎化学品:数量 80,000(販売量(トン))× 価格 0.00(1 トンあたりの平均単価(億円))→ 売上 93 億円・営業利益 0 億円。利益ゼロ
- その他(鉄系・商事・設備):数量 480(取引・工事の件数(件))× 価格 0.13(1 件あたりの平均売上(億円))→ 売上 64 億円・営業利益 5 億円。利益率 7%
倍率:ROE 5.1% は k 8% 以下なので、ためた利益は額面より低い価値しかない。PER は 1÷k = 11.4 倍が上限で、式(8.9 倍)を目安にした。利益が半分に戻る年の利益で、周期の谷を含むため低めの 7.5 倍に置いた。
確率:メモリーは数年おきに調整が入り、2010 年代以降で営業赤字が 3 回ある。顧客の偏りと NF3・WF6 の値下げ競争を考え、中立よりやや薄い 4 分の 1 弱に置いた。
悲観 13% 特殊ガスが汎用品化し、優良な化学会社でなくなる 利益 17 億円 · PER 7.0 倍 · 株価時価総額 204 円117 億円
特殊ガスが汎用品化し、優良な化学会社でなくなる。電極材料がモリブデンに移って WF6 が細り、NF3 は韓国・中国勢の増産で原価に近い値段になる。共同開発のガスも採用が限られ、販売量は今より減り、値段もほとんど上がらない。
特殊ガスの営業利益率は 8% に下がる。電池材料は中国との値段競争に負けて赤字が続き、基礎化学品も赤字になる。中国の宣城工場への投資は回収できず、減損が出る。
営業利益は 30 億円足らずで、今の半分ほどまで落ちる。配当は純利益の 6 割を払って維持するのがやっとで、ROE は 2% 前後。稼ぐ力から測れば、時価総額は今の約 1 割に下がる。
- 特殊ガス(半導体・液晶向け):数量 4,800(販売量(トン))× 価格 0.08(1 トンあたりの平均単価(億円)。製品構成の平均)→ 売上 402 億円・営業利益 32 億円。数量ほぼ横ばい・単価 1.05 倍・利益率 8%
- 電池材料:数量 5,500(販売量(トン))× 価格 0.01(1 トンあたりの平均単価(億円)。中国の市況に連動)→ 売上 79 億円・営業利益 −5 億円。単価が下がり赤字
- 基礎化学品:数量 72,000(販売量(トン))× 価格 0.00(1 トンあたりの平均単価(億円))→ 売上 77 億円・営業利益 −2 億円。数量減・赤字
- その他(鉄系・商事・設備):数量 440(取引・工事の件数(件))× 価格 0.12(1 件あたりの平均売上(億円))→ 売上 53 億円・営業利益 3 億円。利益率 5%
倍率:ROE 2.0% は k 8% を大きく下回る。稼ぐ力(純利益 ÷ k)を上限に、縮む事業に満額は付けず、やや悲観の PER 7.5 倍を超えない 7.0 倍(1÷k = 11.4 倍の約 6 割)に置いた。売れる資産の税後 100 億円(floor_assets_oku)よりは大きい。
確率:モリブデンへの移行、韓国・中国勢の増産、共同開発のガスの不採用が重なる負け筋。起こる確度は低いが、小さな会社で顧客が偏るため 1 割強に置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
特殊ガス(半導体・液晶向け)
NF3・WF6・C4F6・CF4・KSG 系などの半導体・液晶用フッ素系ガス
| 数量販売量(トン) | 価格1 トンあたりの平均単価(億円)。製品構成の平均 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 5,200 | 0.08 | 415 | 57 |
| 10 年後 中立 | 7,700 | 0.10 | 799 | 136 |
取り方:精密化学品の売上 525 億円(2026/03)のうち、電池材料を約 110 億円と置いた残り。単価は NF3・WF6 の汎用寄りと C4F6・KSG の高付加価値を混ぜた平均を 1 トン約 800 万円と推定し、数量は 5,200 トンとした。会社は品目別の数量・単価を開示していないため、数量と単価は筆者の推定。火災で NF3 が減った年の数量。数量は実物(トン。火災で減った年の数量から戻る分と半導体向けの増)で、名目の市場の伸びではない。単価は物価の 1.34 倍より低い。
電池材料
六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)などのリチウムイオン電池用の電解質・添加剤
| 数量販売量(トン) | 価格1 トンあたりの平均単価(億円)。中国の市況に連動 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 7,300 | 0.02 | 110 | −8 |
| 10 年後 中立 | 9,800 | 0.02 | 170 | 10 |
取り方:精密化学品のうち電池材料を約 110 億円、営業損益を約 −8 億円と推定。LiPF6 と添加剤の混合で 1 トン約 150 万円、数量 7,300 トン。会社は 10 億円以上の赤字と述べている(2025/12)が、期の数字は開示されていない。
基礎化学品
電解系などの無機化学品。精密化学品への原料供給が主
| 数量販売量(トン) | 価格1 トンあたりの平均単価(億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 90,000 | 0.00 | 80 | 1 |
| 10 年後 中立 | 85,000 | 0.00 | 101 | 3 |
取り方:基礎化学品の売上 80 億円・営業利益 1 億円(2026/03)。単価は無機品の平均で 1 トン約 9 万円、数量 9 万トンと推定。
その他(鉄系・商事・設備)
鉄系事業・商事・プラント工事の請負
| 数量取引・工事の件数(件) | 価格1 件あたりの平均売上(億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 490 | 0.10 | 49 | 5 |
| 10 年後 中立 | 520 | 0.13 | 70 | 6 |
取り方:その他の売上は 654 億円から他セグメントを引いた約 49 億円(鉄系 19 億円と商事・設備)。件数と単価は推定。営業利益は全社 54.8 億円から他を引いた残り。
リスクと懸念
メモリー半導体の設備投資の波
特殊ガスはウエハーの処理量に比例して売れる。メモリーの設備投資が数年おきに細ると、販売量と値段が同時に落ちる。同社は 2012・2013・2024 年 3 月期に営業赤字を出した。今期の高い利益は、投資の山と火災の反動が重なった姿でもあり、谷に入れば半分に戻りうる。顧客が少数のメモリーメーカーに偏る点も、この波を大きくする。
NF3・WF6 の値下げ競争
NF3 は SK Materials や Hyosung、Linde など、中国勢も増産で追う市場だ。WF6 は会社自身が価格競争が厳しいと認めている。三井化学の撤退で国内の供給が細る利点はあるが、中国・韓国の安値が国内の価格にも波及すれば、汎用寄りの品目から利益が削られる。
WF6 のモリブデンへの移行
NAND の電極材料がタングステンからモリブデンに移れば、WF6 の需要が細る。会社の化合物は他社品とやや異なり、顧客が他社品を試す可能性が高いと会社は説明している。移行が進めば、増強した設備の稼働が下がる。
電池材料の赤字と中国の価格
LiPF6 は国内唯一の供給元だが、価格を決めるのは中国の市況だ。会社は 10 億円以上の赤字(2025/12 時点)と述べている。米国の補助金の条件に合う中国以外の調達の流れが遅れれば、黒字化は先延ばしになり、建設仮勘定に積んだ設備が遊ぶ。
工場の事故と操業の停止
2025 年 8 月の渋川工場の火災で NF3 の 1 系列が止まり、従業員 1 名が亡くなった。災害損失は約 10 億円で、営業利益への影響は下期で約 4.7 億円だった。NF3 は 2 系列に分かれるが、再び事故が起きれば、顧客は複数社購買を強め、シェアを取り戻しにくくなる。
資本効率が上がらないリスク
中計の ROE 12% 以上は、2026 年度の目標に届かなかった。設備は増えたが、減価償却が 100 億円を超えるため、利益が出ても資本の稼ぎは伸びにくい。利益が好況でふくらんでも、自己資本がそれ以上にたまれば ROE は上がらない。
今後の分かれ目
- 次の中期経営計画で、ROE と還元(配当性向・自社株買い)の目標が引き上げられたら
- 資本の稼ぎが改善する前提が強まる。中立の自己資本の積み上がりを抑える方向で、強気側の確率を上げてよい。
- キオクシアなどが、KSG 系のガスを主力の工程に広く採用したら
- 共同開発のガスが標準になる筋書き(楽観・やや楽観)の確率を上げる。値決めの力が強まり、利益率の上限が上がる。
- メモリー各社が設備投資を大きく絞る、または NAND・DRAM の価格が崩れたら
- やや悲観の確率を上げる。特殊ガスの販売量と値段が同時に落ちるため、営業利益は半分に戻りうる。
- NAND の電極がモリブデンに移り、WF6 の販売量が減り始めたら
- WF6 の収益を下げ、特殊ガス全体の利益率を見直す。悲観の筋書きに近づく。
- 米国の補助金の条件で、LiPF6 の受注が決まり赤字が解消したら
- 電池材料の黒字化を織り込める。ただし中国の価格に左右されるため、上振れは限定的に見る。
- 半導体材料の再編で、同業や商社が買収に動いたら
- 会社の価値が評価される。ただし提示額が本質価値を上回るかは別に確かめる。
見ておくもの
- 四半期の特殊ガスの販売量と営業利益率(NF3 の回復、KSG 系の伸び)
- メモリー各社(キオクシア・サムスン・SK ハイニックス・マイクロン)の設備投資計画とウエハー投入量
- 次の中期経営計画の目標(ROE・ROIC・還元)と、政策保有株の売却の進み具合
- LiPF6 と電池用添加剤の受注、中国の電解質価格
- 渋川工場の NF3 の稼働状況と、再発防止策の実施
- 中国・韓国の NF3・WF6 の増産と、モリブデンへの移行の進み具合
倍率と資本コストの決め方
特殊ガス(販売量×1 トンあたりの平均単価)、電池材料、基礎化学品、その他を、数量は実質、価格は名目で積んだ。特殊ガスの価格は物価並みの 1.34 倍でなく、中立で 1.3 倍とし、NF3・WF6 の値下がりと新ガスの混ざりが釣り合う前提を置いた。資本コストは基本 7.5% に quality +1.25% を足した 8.75%。倍率は正当化 PER を上限に、楽観・やや楽観は 9 割強、中立は下限の 1÷k に置いた(ROE が k をわずかに上回るため)。純有利子負債は 199 億円で、返済が進む前提だが、利払いの変化は約 −5 億円と小さく純利益に織り込んだ。会社の来期計画(営業利益 100 億円超)は出発点としてだけ使い、中立の 10 年後を計画の延長でなく物価の分を除いた同水準とした。今の株価・今の PER・過去の PBR は参照していない。悲観は赤字でなく薄利のため、稼ぐ力(純利益 ÷ k)から置いた。最後に今の時価総額と比べた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 12.2→15.86 倍・やや楽観 PER 11.5→14.61 倍・中立 PER 11.4→13.26 倍)。
資本コスト 8.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。