結論
ジェイエスピーは、ポリプロピレンやポリスチレンを泡状に固めた「発泡プラスチック」の専業メーカーだ。自動車の衝撃吸収材に使う ARPRO と、住宅の断熱ボードが二本柱である。
筆者の結論は、今の値段はほぼ適正、というものだ。ARPRO の世界展開は本物の強みだが、利益率は 10 年かけても 1 桁にとどまる。資本効率は資本コストに届かず、倍率を高く払う理由が見つからない。
稼ぎの中心は、ビーズ事業の ARPRO だ。粒状の発泡材を金型で成形する方式で、軽くて割れにくい。欧米の自動車部品に深く入り込み、インドとメキシコの新工場で供給網を広げた。利益の伸びは主にここから出る。
重荷は押出事業だ。断熱ボードは国内の新築着工に左右され、食品トレー用のシートは縮んでいる。営業利益の 2 割強しか稼がないが、景気が悪い時の足を引っ張る。
もう一つの論点は株主構成だ。三菱瓦斯化学が約 47% を持つ。会社が自力で資本効率を上げるより、大株主の意向が効きやすい。利益が増えても、少数株主に全部は回らない心配がある。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社は「悪くないが、持ち続けたいほどではない」会社だ。
ARPRO の拠点網は本物の資産で、顧客の近くで作る仕組みは長く使える。ここだけなら質の高い事業と言ってよい。しかし全社で見ると、押出事業の低い利益率と、原料高に利益を削られる体質が足を引っ張り、稼いだお金を元手に増やす力は資本コストに届かない。
資本の使い方も、判断を難しくする。投資は拠点の増設に集中し、買収の実績は薄い。還元は配当が中心で、資本効率を上げるために自社株を減らす動きは弱い。約半分を握る大株主の意向もあり、少数株主の取り分を急に増やす材料が見当たらない。
安全域は、値段が価値より十分に低い時にだけ生まれる。この会社は、財務の堅さは申し分ないが、利益の質の面で割安を主張しにくい。見通しがつけやすい事業ではあるので、楽観にも悲観にも大きく寄せず、確率は真ん中の厚みで置いた。
何で稼ぐ会社か
ジェイエスピーの事業は、発泡プラスチックを作って売ることに尽きる。ビーズ事業と押出事業の 2 つに分かれる。
ビーズ事業は、売上の 3 分の 2 を占める。主力の ARPRO は発泡ポリプロピレンの粒で、金型に詰めて熱で固めると、軽くて割れにくい成形品になる。顧客は自動車部品メーカーで、バンパーの芯材、シートの内部、工具箱などに入る。国内、北米、欧州、アジアの約 20 か所で現地生産し、顧客の近くで作るのが売りだ。ほかに包装材向けの発泡ポリスチレンなどもある。
押出事業は、薄い板状の発泡ポリスチレンを作る。住宅用の断熱ボード(ミラフォーム)と土木用が中心で、食品トレー用のシートや液晶パネルの表面保護材も扱う。顧客は建材問屋、ハウスメーカー、トレーメーカー、パネルメーカーだ。住宅用は国内の新築と改修、土木用は道路や造成の盛り土に使われ、需要の中身が違う。景気の波は、住宅用では金利、土木用では公共工事の予算に左右される。
原料は石油由来の樹脂で、原油とナフサの値動きが利益を揺らす。値上げが原料高に追いつくまでの数か月が、いつも利益の谷になる。
優良さと弱いところ
優良さは、ビーズ事業と押出事業でまるで違う。
ARPRO の強みは、顧客の近くで作る体制だ。自動車の部品は嵩張って運びにくく、遠い工場からは出しにくい。20 か所を超える拠点網は、後発が簡単には追いつけない。BASF やカネカなども同じ発泡材を作るが、拠点の広さで差がある。筆者は、ここは数少ない堀、つまり他社がまねしにくい強みだと見る。ただし自動車の台数は伸びが鈍く、成長は非自動車への広がり次第だ。
押出事業の堀は薄い。断熱ボードはカネカやダウ化工などと同じ土俵で戦い、値段は市場が決める。国内の新築着工は減り続けており、強みで押し返す場面は少ない。
数字にも出ている。営業利益率は過去 10 年で 2% 台から 9% 近くまで振れ、ROE の中央値は 5% 台だ。資本コストに届かない年が多い。財務は堅く、自己資本比率は 66%。ただ、堅さは利益の質を上げない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
ARPRO が使う発泡ポリプロピレンの市場は、世界で自動車を中心に育ってきた。車を軽くして燃費や電池の持ちをよくしたい要請は、電動化でむしろ強まる。BASF、カネカ、韓国のハンファなどが競合として挙がる。ただ世界の自動車生産は、今後 10 年で伸びが鈍る。実質の数量は年 2% 前後が精いっぱいだ。
伸びしろは車の外にある。空調部品、物流用の通い箱、家電や食品の保冷容器だ。軽さと繰り返し使える強さで、使い捨ての発泡スチロールを置き換えていく。リサイクルのしやすさも評価される。包装の分野では、環境規制の強まりが追い風になる。ここでの採用拡大が、会社の中期計画の柱でもある。
押出事業の国内市場は逆風だ。新築の住宅着工は 61 年ぶりの低水準まで落ち、人口減少で戻らない。一方、断熱の基準は厳しくなり、1 戸あたりの断熱材の量は増える。着工の減りを断熱の厚みが部分的に埋める構図だ。アジアでは中国勢などの価格攻勢が続く。
原料は石油由来で、物価が 3% ずつ上がる世界でも、転嫁の遅れが利益を削る点は変わらない。
資本政策と M&A
資本政策の特徴は、三菱瓦斯化学が約 47% を持つ筆頭株主であることだ。2023 年には自己株式の公開買付けで大株主の持ち分の一部を引き取り、親会社から「その他の関係会社」に変わった。それでも約半分を握る事実は残る。
還元は配当性向 35% 以上を目安にし、2026 年 3 月期まで 3 期連続の増配だった。自社株買いを大きく積む会社ではない。借金は軽く、純有利子負債は時価総額の 6% ほどだ。
投資の中心は ARPRO の増産で、中計では 3 年で戦略投資約 150 億円を置く。欧州を中心にした買収も掲げるが、実績はまだ少ない。
TOB(株式公開買付け)の可能性は、大株主が約半分を持つため、他社からの買収は考えにくい。大株主が完全子会社化に動くことは、論理的にはありうる。ただ、その兆しは確認できない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
ARPRO が車の外へ広がる展開になる。空調部品、通い箱、家電、保冷容器と、軽くて繰り返し使える利点が効く用途は多い。インドとメキシコの新工場が立ち上がり、北米でも欧州でも拠点が埋まる。使い捨ての発泡スチロールを置き換える流れが、環境規制で加速する。
北米は、会社の計画を大きく上回る好調が続いている。ここで採用が積み上がれば、ビーズ事業の利益率は 1 割近くまで上がりうる。欧州も、買収で拠点を足せば、利益目標が未達の地域が稼ぎ頭に変わる。
押出事業も悪くない。断熱の基準が厳しくなれば、厚い高性能ボードの出番が増える。液晶パネルの表面保護材では、高付加価値品が利益を支える。
こうなれば、営業利益は 10 年で 2 倍を超える。会社が掲げる ROE 8% の長期目標も届く。大株主との関係が安定していることも、強気を後押しする。会社が掲げる 2027 年度の営業利益 100 億円の先に、さらに 1 段の成長が見えてくる。
慎重な見方
ARPRO の強みは、思ったほど続かない。車の台数が伸びず、電動化で部品の形が変わると、発泡材の使い道そのものが減る。中国勢が安い発泡材を欧米やアジアに持ち込めば、拠点網という強みも値段で崩される。
アジアではすでに価格競争が厳しい。欧州は利益目標が未達で、買収で穴を埋める手も、失敗すれば重荷になる。北米の好調も、通商政策の変更ひとつで冷える。
押出事業は、もっと重い。新築着工は戻らず、食品トレーの需要も縮んでいる。原料高の転嫁は遅れがちで、今期の当初予想でも利益は前期より薄かった。
最後に、大株主の存在がある。約半分を持つ会社の意向で、資本の使い方が決まる。少数株主の取り分を増やす動機が弱ければ、利益が増えても倍率は上がらない。資本効率が資本コストを下回り続ける、今の姿が 10 年続く可能性は低くない。北米の好調は、実は今がピークという見方も成り立つ。そうなれば、新工場の稼働率は思うように上がらない。
どちらに重みを置いたか
ARPRO の拠点網という堀は確かで、中計の進み具合も北米を中心に悪くない。この点は、強気の言い分が強い。
しかし、全社の資本効率が過去 10 年ずっと資本コストに届かなかった事実は重い。押出事業の薄い利益率と、大株主の影響は、今後も残る。確率は、中立を最も厚くしたうえで、慎重な側をわずかに厚くした。楽観の山を高く置かず、悲観にも極端に寄せていない。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 4,880 円1,279 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,163 円305 億円)。 今の値に割り戻すと 3,310 円867 億円、今との差 +10.8%、 期待の年率 +7.3%(資本コスト 7.0%)→ やや割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 10,106 円2,649 億円 | 1,800 円472 億円 | +298.7% | +14.8% | 952 円250 億円 |
| やや楽観 | 20% | 7,168 円1,879 億円 | 1,481 円388 億円 | +189.7% | +11.2% | 1,730 円453 億円 |
| 中立 | 38% | 5,251 円1,376 億円 | 1,220 円320 億円 | +116.7% | +8.0% | 2,459 円644 億円 |
| やや悲観 | 23% | 1,961 円514 億円 | 916 円240 億円 | −3.7% | −0.4% | 662 円173 億円 |
| 悲観 | 11% | 1,740 円456 億円 | 440 円115 億円 | −27.0% | −3.1% | 240 円63 億円 |
| 加重平均 | 100% | 4,880 円1,279 億円 | 1,163 円305 億円 | +102.4% | +7.3% | 6,043 円1,584 億円 |
今の株価時価総額 2,986 円783 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.0% を下回るほど割高。
楽観 8% ARPRO が車の外へ広がり、欧米でも黒字が定着 利益 164 億円 · PER 16.2 倍 · 株価時価総額 10,106 円2,649 億円
ビーズ事業は ARPRO が自動車の外へ広がり、10 年で売上が 2 倍近くになる。インド・メキシコの新工場がフル稼働し、欧州では買収した拠点が黒字化する。利益率は 1 割に乗る。北米・欧州・アジアのどこで作っても、顧客の近くで供給できる強みが値段に表れる。
押出事業は、断熱基準の強化で厚い高性能ボードの比率が上がり、液晶パネルの保護材も新規の顧客を取る。着工の減りは、断熱の厚みで埋まる。
大株主は経営の安定を保ち、配当は利益と一緒に伸びる。ROE は 9% に届き、資本コストを上回る会社に変わる。
- ビーズ事業(ARPRO ほか):数量 138(出荷量(千トン、推定))× 価格 132(平均単価(万円/トン、推定))→ 売上 1,826 億円・営業利益 183 億円。ARPRO の用途拡大と新工場
- 押出事業(断熱ボード・シート):数量 80.0(出荷量(千トン、推定))× 価格 87(平均単価(万円/トン、推定))→ 売上 694 億円・営業利益 42 億円。断熱ボードと保護材
倍率:事業の純利益 164 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.1% が k 7.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.1%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.2 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.2 倍。全体の PER 16.17 倍、時価総額 2,649 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:ARPRO の用途拡大・欧州の黒字化・押出の高付加価値化が同時に起きる必要があり、過去 10 年の ROE の低さを考えると重なりにくい。
やや楽観 20% ARPRO が着実に伸び、押出は小幅な黒字を保つ 利益 127 億円 · PER 14.8 倍 · 株価時価総額 7,168 円1,879 億円
ビーズ事業は、北米の好調と包装材の伸びで、数量が 3 割近く増える。ARPRO の非自動車向けは少しずつ広がるが、欧州の利益目標の達成は遅れる。利益率は 9% 近くまで上がる。欧州でも赤字の拠点が減り、全社の底上げにつながる。新工場の稼働率が上がるにつれ、固定費の負担が軽くなる。
押出事業は、着工の減りを断熱の厚みと高付加価値品が一部埋め、わずかな利益を保つ。食品トレー用シートの縮小は続くが、全体への影響は限られる。
配当は利益に連れて増える。ROE は 7% 台半ばと、資本コストにあと一歩届かない。
- ビーズ事業(ARPRO ほか):数量 128(出荷量(千トン、推定))× 価格 130(平均単価(万円/トン、推定))→ 売上 1,669 億円・営業利益 147 億円。ARPRO の用途拡大と新工場
- 押出事業(断熱ボード・シート):数量 76.0(出荷量(千トン、推定))× 価格 84(平均単価(万円/トン、推定))→ 売上 641 億円・営業利益 32 億円。断熱ボードと保護材
倍率:事業の純利益 127 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.5% が k 7.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 7.3%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.8 倍。全体の PER 14.78 倍、時価総額 1,878 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:北米の好調が続く可能性は高いが、欧州の利益目標の未達が続き、中計の ROE 目標は 7% 台にとどまる見立て。
中立 38% ARPRO が伸び、押出の重さを埋める 利益 96 億円 · PER 14.3 倍 · 株価時価総額 5,251 円1,376 億円
ビーズ事業は、自動車向けの伸びが鈍る代わりに、空調・通い箱・包装材へと用途が広がり、数量は 10 年で 2 割ほど増える。インドとメキシコの新工場が着実に埋まり、利益率は 7% 台半ばまで上がる。固定費の負担が軽くなる分が主な改善で、値段の力による改善は小さい。
押出事業は、新築着工の減りが続く。断熱ボードは厚みの増加で下支えされるが、食品トレー用シートは縮み続け、数量は 1 割弱減る。
全社の利益は伸びるが、ROE は 6% 前後にとどまる。資本コストには届かず、過去 10 年の姿の延長にある。
- ビーズ事業(ARPRO ほか):数量 118(出荷量(千トン、推定))× 価格 129(平均単価(万円/トン、推定))→ 売上 1,516 億円・営業利益 114 億円。ARPRO の用途拡大と新工場
- 押出事業(断熱ボード・シート):数量 73.6(出荷量(千トン、推定))× 価格 83(平均単価(万円/トン、推定))→ 売上 612 億円・営業利益 26 億円。断熱ボードと保護材
倍率:事業の純利益 96 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 6.0% が k 7.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 14.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.3 倍。全体の PER 14.29 倍、時価総額 1,376 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:2 事業の性格が違い、ビーズが伸びて押出が縮む今の流れが 10 年続くという、最も事実に近い姿。確率は最も厚く置いた。
やや悲観 23% 原料高と価格競争で、利益が伸び悩む 利益 48 億円 · PER 10.0 倍 · 株価時価総額 1,961 円514 億円
ビーズ事業は、中国勢などの価格攻勢で、アジアと欧州の値段が思うように上げられない。数量は 5% 増にとどまり、利益率は 5% 台に上がらない。北米も通商政策の変更で足踏みする。新工場の稼働率が上がらず、固定費が重く残る。
押出事業は、新築着工の減りに食品トレーの縮小が重なり、数量が 2 割減る。工場の稼働率が下がり、固定費の負担が増す。値上げも原料高に追いつかず、利益はほぼ消える。原料の石油が高い局面と重なれば、赤字の年も出る。
大株主の方針で投資は絞られ、配当は小幅に伸びる程度になる。ROE は 3% 台に沈む。株主の目は厳しくなり、資本の使い方への注文が増える。
- ビーズ事業(ARPRO ほか):数量 105(出荷量(千トン、推定))× 価格 120(平均単価(万円/トン、推定))→ 売上 1,259 億円・営業利益 69 億円。ARPRO の用途拡大と新工場
- 押出事業(断熱ボード・シート):数量 64.0(出荷量(千トン、推定))× 価格 78(平均単価(万円/トン、推定))→ 売上 496 億円・営業利益 10 億円。断熱ボードと保護材
倍率:ROE 3.3% は k 7% を大きく下回り、PER は 1÷k=12.5 倍が上限。稼ぐ力は低く、上限の 8 割の 10.0 倍に置いた。
確率:原料高の転嫁の遅れは過去から繰り返しており、アジアの価格競争も現に起きている。慎重な側の言い分に筋があるので、やや厚めに置いた。
悲観 11% 拠点網の強みが崩れ、押出が赤字に沈む 利益 5 億円 · PBR 0.4 倍 · 株価時価総額 1,740 円456 億円
ARPRO は、中国勢の安価な発泡材と、車の部品の形の変化で数量を失う。数量は 15% 減り、値段も物価に追いつかない。拠点は余り、固定費が利益を食う。新工場への投資も回収できず、減損が出る。
押出事業は、新築着工の減りと食品トレーの縮小で数量が 3 分の 2 に落ち、赤字になる。事業の整理や拠点の閉鎖が避けられない。人員の削減や工場の統廃合で、一時的な費用も重なる。
大株主の意向で、再編や完全子会社化の話が浮上する。減損も出る。北米の自動車向けは残るが、全社を支える力はなくなる。もう優良な素材会社とは言えない 10 年後の姿だ。配当は、10 年間にためた現金と資産の売却でまかなう。
- ビーズ事業(ARPRO ほか):数量 85.0(出荷量(千トン、推定))× 価格 105(平均単価(万円/トン、推定))→ 売上 897 億円・営業利益 22 億円。ARPRO の用途拡大と新工場
- 押出事業(断熱ボード・シート):数量 52.0(出荷量(千トン、推定))× 価格 68(平均単価(万円/トン、推定))→ 売上 355 億円・営業利益 −4 億円。赤字で事業整理
倍率:10 年の構造的な負け。純利益は数億円に細り、稼ぐ力では値がつかない。工場・土地・在庫・投資有価証券を売れる分(税後)で測り、今の自己資本 1,086 億円に 0.42 倍を掛けた。
確率:中国勢の台頭と大株主の影響という構造的な負けは、確率は低いが無視できない。優良さが失われ、利益が大きく崩れる姿として 1 割強。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
ビーズ事業(ARPRO ほか)
発泡ポリプロピレンの ARPRO を中心とする発泡粒と成形品。自動車部品・包装材・空調部品向けで、国内・北米・欧州・アジアで現地生産する。
| 数量出荷量(千トン、推定) | 価格平均単価(万円/トン、推定) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 100 | 96 | 959 | 66 |
| 10 年後 中立 | 118 | 129 | 1,516 | 114 |
取り方:開示は金額のみで数量はない。売上 959 億円を、発泡粒と成形品の平均単価約 96 万円/トン(1 キロ約 0.96 千円と推定)で割り、出荷量約 10 万トンと置いた推計。
押出事業(断熱ボード・シート)
押出法の発泡ポリスチレンの断熱ボード(ミラフォーム)、土木用、食品トレー用シート、液晶パネルの表面保護材。
| 数量出荷量(千トン、推定) | 価格平均単価(万円/トン、推定) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 80.0 | 62 | 496 | 21 |
| 10 年後 中立 | 73.6 | 83 | 612 | 26 |
取り方:開示は金額のみ。売上 496 億円を、ボード・シート・保護材の平均単価約 62 万円/トン(1 キロ約 0.62 千円と推定)で割り、出荷量約 8 万トンと置いた推計。
リスクと懸念
原料高の転嫁の遅れ
原料は石油由来の樹脂で、原油とナフサの値動きが利益を揺らす。値上げが追いつくまでの数か月が、いつも利益の谷になる。今期の当初予想でも、原料高で営業利益が前期を下回る見通しだった。
大株主の影響
三菱瓦斯化学が約 47% を持つ。投資や還元の判断に大株主の意向が効き、少数株主の取り分を増やす動機が弱いおそれがある。完全子会社化に動けば、価格の妥当性が争点になる。
自動車生産と北米の通商政策
ARPRO の北米の好調は、関税など通商政策の変更ひとつで冷えうる。自動車の台数は伸びが鈍く、電動化で部品の形が変わると、発泡材の使い道そのものが減るおそれもある。
アジアの価格競争と中国勢
アジアでは価格競争の激化が懸念されている。中国勢が安価な発泡材を欧米にも持ち込めば、拠点網という強みも値段で崩される。
押出事業の国内需要
新築住宅の着工は 61 年ぶりの低水準まで落ちた。人口減少で戻らず、食品トレー用シートも縮んでいる。断熱の厚みの増加で部分的に埋まるが、数量の減りは続く。
欧州の利益目標の未達
欧州は自動車でシェアを広げているが、中計の利益目標は未達だ。買収で拠点を足す計画も、実行を誤れば減損の火種になる。
通貨と金利
海外比率が高く、為替は利益に直接効く。借金は軽いが、拠点の増設に新規借入を使えば、借り換え後の高い金利が利益を少し削る。
今後の分かれ目
- ARPRO が車の外(空調・通い箱・家電)で大きく採用される
- ビーズ事業の数量が中立を上回って伸び、利益率も 9% 近くへ上がる。楽観の筋書きに近づく。
- 原料高の転嫁が遅れる局面が長引く
- ビーズ・押出の両方で利益率が上がらず、ROE は 4% 台にとどまる。やや慎重な筋書きに近づく。
- 北米の通商政策が大きく変わる
- 北米の好調が冷え、ビーズ事業の利益の柱が細る。自動車向けの採算が最も影響を受ける。
- 三菱瓦斯化学が完全子会社化に動く
- 少数株主は買取価格を受け取る形になる。価格の妥当性が焦点で、本質価値との差が条件を決める。
- 中国勢が欧米で発泡材を安く売り始める
- ARPRO の拠点網の強みが値段で崩れ、利益率が下がる。悲観の筋書きに近づく。
- 新築着工がさらに急減する
- 押出事業は赤字になり、全社の利益を押し下げる。事業の整理の議論が出る。
- 欧州で買収が成功する
- 利益目標が未達の地域が稼ぎ手に変わり、全社の利益率が上がる。逆に失敗すれば減損が出る。
見ておくもの
- ARPRO の非自動車向け売上の比率
- 北米・欧州の営業利益率
- 原油価格と転嫁の進み具合
- 国内新築住宅着工戸数
- 三菱瓦斯化学の持株と開示
倍率と資本コストの決め方
倍率は今の株価や過去の倍率を見ず、ROE が k を下回る点から、1÷k を上限に事業の経済性で置いた。結果として総合の差が小さく適正に近い値になったのは、ROE が資本コストに届かない会社に倍率の上乗せを認めなかったためで、今の株価に寄せたのではない。悲観は PBR の底でなく、売れる資産の税後から純有利子負債を引いて置いた。2028/03 期の新リース会計基準で営業利益が少し増え、有利子負債が増えるが、10 年後の数字は今と同じ形(家賃を営業費用に入れる形)でそろえた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 12.8→16.17 倍・やや楽観 PER 11.8→14.78 倍・中立 PER 11.25→14.29 倍)。
資本コスト 7.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality +0.5%(循環 +0.5)を足して 8.0%。借金は軽く、事業が傾いている様子はないので extra は 0。大株主の影響や買収の失敗は k に足さず、筋書きと確率で表した。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.00% → 7.00%。