結論
トリケミカル研究所は、半導体の回路をつくる工程で使う超高純度の薬品の専門メーカーだ。筆者の結論は、会社は一流だが、本質価値は今の時価総額の3分の2ほどで、割高である。理由は単純で、利益が伸びても、稼いだ金がたまって資本の効率が10%前後まで下がるからだ。
稼ぎの源は、半導体メーカーの製造ラインに組み込まれた材料にある。純度は99.9999%以上、品種は約2000。大手が採算を取りにくい少量多品種を、顧客と共同で開発する。一度ラインに入れば簡単には替わらない。営業利益率は25%前後を保ち、2026年1月期は売上が26%伸びた。
伸びの背景はAIだ。メモリーや先端ロジックは回路が細く、積み重ねが増え、薄膜の材料が使う量も種類も増える。会社は南アルプスに新工場を建て、中国にも合弁を作った。
懸念は3つある。1つは顧客の集中と中国の自国調達。2つ目は半導体の景気の波。3つ目は利益の一部を韓国の関連会社の持分法益に頼る点だ。最終需要の見通しは明るいが、10年で見れば、中国と韓国の地場勢が追い上げる。
筆者は事業を高く評価する。それでも本質価値を決めるのは、事業の伸びではなく、投じた資本に対する稼ぎである。たまる現金を使い切れなければ、その稼ぎは薄まっていく。
バリュー投資の観点から
事業としては、持ち続けたい部類に入る。ラインに組み込まれた消耗品で、使う量は半導体の成長とともに増える。顧客にとって、材料のコストは小さいが、失敗した時の損は大きい。この非対称が、値段より品質を優先させ、会社の利益率を守っている。
問題は、10年後の姿である。会社は利益の約8割を手元に残す。それを新工場に使えるうちはよい。しかし、使い道がなければ、現金として眠り、資本の効率が下がる。筆者の見立てでは、10年後の利益は今の1.5〜2倍になる。それでも、自己資本は2.5倍にふくらみ、資本に対する稼ぎは10%前後まで落ちる。
安全域は、薄い。今の値段は、AIの追い風が10年続き、会社がシェアを守り、しかも高い利益率を保つことを前提に近い。1つでも崩れれば、本質価値は今の半分以下に沈む。逆に、全てがうまくいっても、今の値段を大きく超える余地は小さい。
経営への見方は穏やかに好意的だ。財務は堅く、無理な買収をしない。ただ、持分法益に頼る度合いを下げ、株主への還元をもう少し厚くすれば、評価は上がる。バリュー投資の目では、良い会社を適正な値段で買うことが大事で、この値段ではまだ待ちたい。
何で稼ぐ会社か
事業は、半導体の薄膜をつくる材料の供給だ。売上の大半はシリコン半導体向けで、ALD・CVDという、原子を1層ずつ積んで膜をつくる工程の原料(前駆体)や、回路を削るエッチング用の材料が中心になる。膜の種類ごとに化合物が違い、新しい回路構造が出るたびに新しい材料が要る。
このため品種が多い。少量でも、顧客の試作段階から相談を受けて作る。売る相手は、台湾の商社TOPCO Scientificや日本エア・リキード、中国のメモリーメーカー系の会社などで、最終の顧客は世界の主要な半導体メーカーである。海外の売上は約8割を占める。
残りは、光ファイバーの母材向け、化合物半導体向け、コーティング用、特殊な試薬、それに成膜のデモ受託などだ。半導体より小さいが、景気の波は別で、全体の振れをならす役目がある。
会社は連結のほかに、韓国のSK Tri Chemに35%を出資している。パートナーは韓国のSKグループの材料会社で、現地の半導体メーカーに向けて前駆体を作る。この利益は持分法益として営業外に入り、経常利益の1〜2割に当たる。2026年1月期は、売上が約239億円、営業利益が約59億円だった。
工場は山梨県が中心で、2025年に南アルプス新工場を設けた。自前で作る力を増やし、国内で新材料を立ち上げやすくした形だ。中国の合肥安徳科銘(ADChem)とは合弁を決め、現地向けの次世代前駆体を作る計画である。出資は33%と少数にとどめた。
優良さと弱いところ
堀は、顧客のラインに入った後の切り替えにくさにある。膜の材料は、わずかな不純物でも歩留まりを落とす。顧客は材料を替えるたびに長い評価をやり直す。だから既存品は簡単に奪われない。会社も、顧客と共同で開発する段階から入り込んでいる。
この堀は独占ではない。競合にはドイツのMerck、米国のEntegris、日本のADEKA、仏のAir Liquideなどの大手がいる。大手は量を取る事業が得意で、少量多品種は手薄になる。会社が勝っているのは、その隙間である。
値決めの力は中くらいと見る。2025年から2026年にかけてはコスト上昇分の値上げが通った。ただ顧客は大手で、複数の仕入れ先を持つのが普通だ。強気に値上げすれば、第2の供給元に振られる。
資本効率は高い。営業利益率は直近10年で25〜28%の年が多く、自己資本比率は約77%、純現金だ。ただ、今のROEは15%まで下がっている。利益の割に自己資本が太ったためである。
弱みは3つある。主力が事実上1つの製品群であること。顧客と商社の集中。それに、利益の質のばらつきだ。持分法益は会社が経営を握れず、原材料高で2027年1月期の当初予想では大きく減る見通しだった。経営陣は技術に強いが、中期計画の営業利益率25%という目標は、むしろ控えめに見える。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
半導体材料は、需要の山にいる。AIデータセンター向けのメモリーと先端ロジックの投資が、材料の使用量を押し上げている。半導体材料全体の市場は、2030年に700億ドル規模になるという見方がある。会社の領域に近い、High-kと金属の前駆体の市場は、2024年の約6.6億ドルから2033年に約11.5億ドルへ伸びるとされる。
伸びの理由は、回路の微細化と積層だ。回路が細く、高く積まれるほど、薄膜の工程が増える。1枚のウエハーに使う前駆体の量と種類は、世代ごとに増える。この数量の伸びは、ウエハーの面積の伸びより速い。ただし、半導体の投資は2〜4年周期で山と谷をつくる。AIという新しい柱があっても、波そのものは消えない。
競争の形は変わりつつある。中国は、メモリーメーカーのCXMTを筆頭に、材料の自国調達を進めている。韓国でも地場の材料メーカーが育った。会社は中国の合弁と、韓国のSK Tri Chemで、現地に根を下ろす手を打っている。ただ、現地の合弁は、技術の移転と引き換えの面もある。
筆者がいちばん気にするのは、中位グレードの材料だ。最先端の材料は、顧客との共同開発が要り、追随に時間がかかる。しかし、枯れた品種は、中国の安い材料にじわじわ置き換わる。10年の間に、会社の売上に占める最先端品の比率をどれだけ高められるかが、勝負になる。
資本政策と M&A
資本政策は、内部にためる色が濃い。配当は据え置きが続き、利益に対する配当の割合は約2割にとどまる。自社株買いの記録は見当たらない。配当は安定して続けるが、基本は、事業の拡大と体質の強化に回す方針である。
その中で大きいのが設備投資だ。2026年からの中期計画では、3年で約120億円を投じる。南アルプス新工場の立ち上げと、エッチング用の新材料が中心である。会社の営業利益は約60億円だから、設備投資の負担は軽くない。それでも自己資本が厚いので、借金は要らない。
M&Aは少ない。買収で規模を広げるより、韓国と中国の合弁で現地に出る道を選んだ。2025年に決めた中国のADChemとの合弁は、出資が33%と小さい。技術を渡すリスクはあるが、現地の需要を確実に取れる。
一方で、株主から見れば、使い道に乏しいお金がたまり続ける点が課題だ。会社が自分で再投資しても、新しい投資の稼ぎは過去より薄くなる。還元の割合が今後どう変わるかを、筆者は重く見る。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
AIの需要はまだ序盤だ。メモリーは積層が増え、先端ロジックは回路の構造が変わる。どちらも、薄膜とエッチングの材料の使用量を大きく押し上げる。会社が持つ前駆体は、その中心にある。今回の上方修正でも、中国と台湾向けの出荷が想定を超えたことが理由だった。
会社の強みは、顧客との共同開発にある。試作の段階から入り込むので、量産が始まれば自社の材料がそのまま採用される。南アルプスの新工場は、新しいエッチング材料の立ち上げに合わせて作られた。能力が増えれば、取れる注文が増える。
利益率の面でも期待できる。中期計画は営業利益率25%程度の維持を掲げるが、直近は24〜28%で動いてきた。新材料は付加価値が高く、混ぜる比率が上がれば、率は計画を上回る。値上げが通る環境も続く。
中国の合弁は、リスクではなく保険だ。現地の自国調達が進んでも、現地の合弁を通じて売上を確保できる。韓国のSK Tri Chemも、原材料高の一巡後は利益が戻る。
資本の面でも、手元に厚い資金があるから、需要の山で動ける。投資の機会を逃さない。配当を引き上げる余地もある。10年で、利益が今の3倍近くになる筋書きは、十分に現実的だ。
慎重な見方
まず、利益がどれだけ顧客の事情に左右されるかを見るべきだ。売上の主な窓口は、商社と、中国のメモリーメーカー系の会社だ。この顧客が内製に切り替えたり、地場の材料メーカーに振ったりすれば、売上は一気に減る。
次に、中国と韓国の地場勢が追い上げる。枯れた品種は、安い材料への置き換えが進む。顧客は、複数の供給元を持つのを好む。会社が値上げを通せたのは、需要が強い間だけだ。需要の波が反転すれば、値下げ圧力は一気に強まる。
会社の利益には、半導体投資の山の分が乗っている。2026年1月期の高い利益率は、増産の山の分を含む。波が引けば、率は20%を割ってもおかしくない。2024年1月期には、営業利益が前の年の6割近くに落ちた。
持分法益も当てにできない。SK Tri Chemは、原材料高で当初の予想は大幅な減益だった。会社が経営を握れず、配当で出てくる額も読みにくい。
最後に資本の問題がある。会社は利益の8割をためるが、使い道がなければROEは10%を割る。高い倍率を支える根拠が薄い。しかも今の値段は、AIの追い風が長く続く前提に近い。外れた時の下げが大きい。
どちらに重みを置いたか
筆者は、慎重な見方を少し強いとみた。事業の質は強気の見方の通りだが、値段の前提が重い。10年で見ると、利益は伸びても、自己資本の伸びがそれを上回り、ROEが落ちる。倍率を支える資本の効率が弱くなる。
確率は、中立を3割強に置き、下側を上側よりわずかに厚くした。顧客の集中と中国の自国調達は、一度起きると戻りにくい。一方、上側は、新材料の採用が進むという、会社自身が動かせる要素が多く、薄くはしなかった。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/01 期)
確率で加重した株価時価総額 4,801 円1,560 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 706 円229 億円)。 今の値に割り戻すと 2,821 円917 億円、今との差 −5.4%、 期待の年率 +6.3%(資本コスト 7.5%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 11% | 8,795 円2,858 億円 | 1,025 円333 億円 | +229.3% | +12.7% | 1,080 円351 億円 |
| やや楽観 | 22% | 6,913 円2,246 億円 | 877 円285 億円 | +161.2% | +10.1% | 1,714 円557 億円 |
| 中立 | 32% | 5,580 円1,813 億円 | 772 円251 億円 | +113.0% | +7.9% | 2,033 円661 億円 |
| やや悲観 | 22% | 1,976 円642 億円 | 569 円185 億円 | −14.7% | −1.6% | 560 円182 億円 |
| 悲観 | 13% | 713 円232 億円 | 215 円70 億円 | −68.9% | −11.0% | 121 円39 億円 |
| 加重平均 | 100% | 4,801 円1,560 億円 | 706 円229 億円 | +84.7% | +6.3% | 5,507 円1,790 億円 |
今の株価時価総額 2,982 円969 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.5% を下回るほど割高。
楽観 11% AIの追い風が続き、新材料で率も上がる 利益 156 億円 · PER 18.1 倍 · 株価時価総額 8,795 円2,858 億円
AIとメモリーの積層が想定以上に進み、薄膜とエッチングの材料の使用量は10年で実質8割増える。会社は南アルプスの新材料で採用を広げ、シェアは1ポイント伸びる。付加価値の高い品の比率が上がり、営業利益率は28%に乗る。値上げも通り、価格は物価をわずかに上回る。
韓国のSK Tri Chemの利益も戻り、持分法益は今の倍以上になる。中国の合弁は現地の需要を確実に取り込み、保険の役目を果たす。会社は配当を少しずつ上げるが、利益の7割は手元に残す。
結果として、利益は今の約3倍になる。ただ、自己資本も厚くなり、ROEは14%どまりだ。
- Si半導体向け薄膜・エッチング用高純度材料:数量 2.9(世界の市場規模(億ドル、実質)× 会社のシェア)× 価格 1.40(値段の指数(今=1.0、物価込みの名目))→ 売上 614 億円・営業利益 172 億円。市場1.8倍・シェア6.5%・価格1.4倍
- ファイバー・化合物半導体・コーティング・試薬ほか:数量 0.3(関連市場の規模(億ドル、実質)× 会社のシェア)× 価格 1.40(値段の指数(今=1.0、物価込みの名目))→ 売上 66 億円・営業利益 13 億円。数量1.4倍・価格1.4倍
倍率:事業の純利益 156 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 14.4% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.9%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 18.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 18.1 倍。全体の PER 18.13 倍、時価総額 2,828 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:AIの需要は本物だが、10年の間に、利益率とシェアの両方が上がる条件は厳しい。顧客集中と競合の追い上げがあるため、上側は薄めに置いた。
やや楽観 22% 需要は強いが、率はほぼ計画どおり 利益 124 億円 · PER 17.7 倍 · 株価時価総額 6,913 円2,246 億円
需要はAI主導で強く、市場は実質で6割強伸びる。会社のシェアは小さく上がり、営業利益率は27%と、計画の25%をやや上回る水準で落ち着く。価格は物価を少し上回る。
中国の自国調達は進むが、最先端品は会社が守る。SK Tri Chemも戻る。会社は設備投資を続け、能力は増えるが、利益はそれに見合って伸びる。南アルプス新工場も計画どおりに立ち上がり、エッチング用の新材料が売上に積み上がる。値上げも、コスト上昇の範囲で通り続ける。
利益は今の約2.3倍まで増える。ROEは12%ほどで、資本コストを4ポイントほど上回る。
- Si半導体向け薄膜・エッチング用高純度材料:数量 2.5(世界の市場規模(億ドル、実質)× 会社のシェア)× 価格 1.37(値段の指数(今=1.0、物価込みの名目))→ 売上 509 億円・営業利益 137 億円。市場1.65倍・シェア6.0%・価格1.37倍
- ファイバー・化合物半導体・コーティング・試薬ほか:数量 0.3(関連市場の規模(億ドル、実質)× 会社のシェア)× 価格 1.36(値段の指数(今=1.0、物価込みの名目))→ 売上 60 億円・営業利益 11 億円。数量1.3倍・価格1.36倍
倍率:事業の純利益 124 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 13.4% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.5%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 17.6 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 17.6 倍。全体の PER 17.65 倍、時価総額 2,189 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:需要の伸びと、新材料の採用が進む筋書き。会社が自分で動かせる要素が多いので、やや厚めに置いた。
中立 32% 需要は伸び、シェアと率は保つ 利益 101 億円 · PER 17.2 倍 · 株価時価総額 5,580 円1,813 億円
市場は実質で5割強伸びる。年にならせば4〜5%だ。会社のシェアは5.5%を保ち、価格は物価並みに上がる。営業利益率は、計画が掲げる25%にほぼ近い26%で落ち着く。ファイバーなどのその他事業は、実質で3割弱伸びる。
波は途中で来る。メモリー在庫の調整が数年に1度は起きるが、均すと上の姿になる。中国の自国調達で中位品は削られるが、新材料がそれを埋める。持分法益は、SK Tri Chemの原材料高が一巡して、今の約1.7倍に戻る。
配当の割合は少しずつ上がり、利益の3割ほどになる。残りは新工場などに回る。利益は今の約1.8倍、ROEは10%台前半に落ちる。
- Si半導体向け薄膜・エッチング用高純度材料:数量 2.1(世界の市場規模(億ドル、実質)× 会社のシェア)× 価格 1.34(値段の指数(今=1.0、物価込みの名目))→ 売上 428 億円・営業利益 111 億円。市場1.55倍・シェア5.5%・価格1.34倍
- ファイバー・化合物半導体・コーティング・試薬ほか:数量 0.3(関連市場の規模(億ドル、実質)× 会社のシェア)× 価格 1.34(値段の指数(今=1.0、物価込みの名目))→ 売上 58 億円・営業利益 10 億円。数量1.28倍・価格1.34倍
倍率:事業の純利益 101 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 12.5% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.0%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 17.2 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 17.2 倍。全体の PER 17.15 倍、時価総額 1,732 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:市場の中心的な見通しと、シェア・利益率の維持を組み合わせた落としどころ。
やや悲観 22% 中国の自国調達でシェアが細る 利益 57 億円 · PER 9.5 倍 · 株価時価総額 1,976 円642 億円
需要は伸びるが、会社は取り分を失う。中国のCXMTなどが地場の材料メーカーから仕入れを増やし、会社のシェアは5.5%から5%を割る。値段は、競争で物価に届かず、10年で2割強の上昇にとどまる。
営業利益率は、波の谷が深くなり、20%まで下がる。南アルプス新工場の減価償却も重い。SK Tri Chemも、韓国の地場勢に押されて利益が伸びない。会社は新材料で穴を埋めようとするが、中位品の置き換えの速さに追いつかない。主要顧客は複数の供給元を持つ方針を強め、会社への発注の比率を下げる。
利益は今とほぼ同じ水準で10年が終わる。ためた現金は積み上がり、ROEは7%台に落ちる。資本コストに届かないので、倍率も大きく下がる。
- Si半導体向け薄膜・エッチング用高純度材料:数量 1.6(世界の市場規模(億ドル、実質)× 会社のシェア)× 価格 1.22(値段の指数(今=1.0、物価込みの名目))→ 売上 296 億円・営業利益 59 億円。市場1.35倍・シェア4.8%・価格1.22倍
- ファイバー・化合物半導体・コーティング・試薬ほか:数量 0.3(関連市場の規模(億ドル、実質)× 会社のシェア)× 価格 1.25(値段の指数(今=1.0、物価込みの名目))→ 売上 49 億円・営業利益 6 億円。数量1.15倍・価格1.25倍
倍率:ROE 約 7%で k 7.5% に届かない。ためた利益は額面未満の価値なので PER の上限は 1÷k の 12.5 倍。シェアを失い成長が止まるため、そこからさらに下げて 9.5 倍に置いた。
確率:中国・韓国の地場勢の追い上げは、一度進めば戻りにくい。顧客の集中を考えると、やや楽観より少し厚く置いた。
悲観 13% 顧客を失い、主力が普通の材料に落ちる 利益 6 億円 · PBR 0.6 倍 · 株価時価総額 713 円232 億円
顧客が内製や地場の材料に切り替え、会社の主力は普通の材料に落ちる。世界の市場が実質で1割増えても、会社のシェアは2.8%まで縮む。値段は物価に届かず、10年で5%の上昇にとどまる。営業利益率は6%まで下がる。
その他の事業も、光ファイバーの需要の鈍りで数量が1割減る。南アルプス新工場は能力が余り、減価償却が重荷になる。会社は設備の一部を減損し、自己資本が目減りする。
持分法益も細り、会社はほぼ赤字すれすれで10年が終わる。ただ、純現金とSK Tri Chemの持分、設備の売却価値は残り、価値の下支えになる。
- Si半導体向け薄膜・エッチング用高純度材料:数量 0.8(世界の市場規模(億ドル、実質)× 会社のシェア)× 価格 1.05(値段の指数(今=1.0、物価込みの名目))→ 売上 121 億円・営業利益 7 億円。市場1.1倍・シェア2.8%・価格1.05倍
- ファイバー・化合物半導体・コーティング・試薬ほか:数量 0.2(関連市場の規模(億ドル、実質)× 会社のシェア)× 価格 1.10(値段の指数(今=1.0、物価込みの名目))→ 売上 33 億円・営業利益 1 億円。数量0.9倍・価格1.1倍
倍率:稼ぐ力ではなく売れる資産で測る。純現金、SK Tri Chem の持分、設備・在庫の売却価値の税後を床とし、今の自己資本 362 億円に 0.64 倍を掛けた。
確率:主要な顧客を失い、技術の優位も後退する複合の筋書き。起きにくいが、小さい会社で顧客が偏るため、10%を超える確率を置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
Si半導体向け薄膜・エッチング用高純度材料
ALD・CVDの前駆体、High-k、金属膜、エッチング用など、半導体の製造ラインに入る材料。全社の約9割弱。
| 数量世界の市場規模(億ドル、実質)× 会社のシェア | 価格値段の指数(今=1.0、物価込みの名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/01 | 1.4 | 1.00 | 206 | 56 |
| 10 年後 中立 | 2.1 | 1.34 | 428 | 111 |
取り方:Si半導体向けの薄膜・エッチング用高純度材料の世界市場を約25億ドル(High-k・金属前駆体の約6.6億ドルに、ほかの前駆体とエッチング材を足した筆者の推定)とし、会社のシェアを5.5%とおいて、150円で換算すると約206億円になる。会社は単一セグメントで内訳を開示しないので、売上の9割弱と推定した。営業利益率は全社並みの27%前後。数量は実質、価格は物価込みの指数。 数量は市場の実質成長(物価を除く)× シェアで、物価は価格の指数に別に入れている。
ファイバー・化合物半導体・コーティング・試薬ほか
光ファイバー母材用、化合物半導体用、コーティング用、特殊試薬、成膜のデモ受託の集合。全社の約1割強。
| 数量関連市場の規模(億ドル、実質)× 会社のシェア | 価格値段の指数(今=1.0、物価込みの名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/01 | 0.2 | 1.00 | 34 | 8 |
| 10 年後 中立 | 0.3 | 1.34 | 58 | 10 |
取り方:光ファイバー用・化合物半導体用・コーティング用などの関連市場を約5億ドルとおき、シェアを4.5%と推定して、150円で換算すると約34億円。会社は区分別の利益を開示しないため、利益率は半導体向けより低い2割台前半と推定した。全社の営業利益59億円には本社費などの調整約5億円が入る。
リスクと懸念
顧客と商社の集中
売上の窓口は、台湾の商社や日本エア・リキード、中国のメモリーメーカー系の会社など、少数に偏る。最終顧客は半導体の大手だが、どこか1社が投資を止めたり、供給元を切り替えたりすれば、売上が大きく動く。
中国・韓国の地場勢の追い上げ
自国調達が進むと、中位グレードの材料から置き換わる。最先端品は共同開発の壁があるが、10年でその壁は低くなる。合弁は現地の需要を取る手だが、技術を渡す面もある。
半導体投資の波
半導体は2〜4年周期で投資が増減する。AIという新しい需要があっても、在庫調整は起きる。2024年1月期には営業利益が大きく落ち込んだ。山の利益率を、そのまま10年先に延ばすのは危うい。
持分法益のぶれ
韓国のSK Tri Chemの利益は経常利益の1〜2割に及ぶ。会社が経営を握れず、原材料高や価格下落で大きく動く。2027年1月期の当初予想では、これが減益の主因だった。
資本がたまり、効率が落ちる
配当は利益の約2割で、自己資本は厚くなる一方だ。使い道がなければ、ROEは下がる。設備投資は3年で約120億円と重く、投資の稼ぎが期待を下回れば、株主の取り分は目減りする。
新工場の立ち上げと原材料
南アルプス新工場の稼働が遅れれば、減価償却だけが先に出て、利益率が下がる。原材料の値上がりを価格に移せない時は、利益を直接削る。
今後の分かれ目
- 2027年1月期の営業利益率が25%を超えて保たれたら
- 楽観側の確率を上げてよい。新材料の混ぜる比率が上がっている証拠になる。
- 中国のメモリーメーカー系の売上が急に減ったら
- 自国調達の進みが速いサインだ。やや悲観・悲観の確率を上げる。
- 会社が配当や自社株買いを大幅に引き上げたら
- たまる現金の問題が和らぐ。中立のROEの見方を上方に直せる。
- SK Tri Chemの持分法益が回復したら
- 経常利益の質が上がる。中立の純利益の比を見直す材料になる。
- 南アルプス新工場が計画通りに稼働したら
- エッチング材料の売上が積み上がる。利益率の下ぶれ懸念が減る。
- 半導体の投資が急に冷えたら
- 在庫調整で売上が落ちる。やや悲観側に重みを移す。
見ておくもの
- 四半期の営業利益率と、中国・台湾向けの出荷の動き
- 南アルプス新工場の稼働と、エッチング用の新材料の採用
- SK Tri Chem の持分法損益
- 配当・自社株買いの方針の変更
- 中国の自国調達の進み(CXMT など)
倍率と資本コストの決め方
数量は世界の市場規模(実質)× 会社のシェア、価格は物価込みの名目の指数(中立で 10 年 1.34 倍)で売上を積み、利益率は事業の構造から置いた。倍率は式(正当化 PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)、k 7.5%、g 4.5%、残る割合 1/2)の上限の 8 割(中立)に置き、今の PER や過去の PER は使っていない。今の株価は最後に比べただけで、寄せていない。本質価値が今の時価総額を下回るのは、利益が伸びても留保が厚く、10 年後の ROE が 10% 台前半に下がり、資本コストとの差が小さいため。純現金は 36 億円(時価総額比 3%)で余った現金としては分けない。10 年の自己資本は今+純利益の合計−還元の合計で積んだ。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 15→18.13 倍・やや楽観 PER 13.4→17.65 倍・中立 PER 11.9→17.15 倍)。
資本コスト 7.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality +0.5% を足して 8.0%。持分法益のぶれ・中国の自国調達などの個別のリスクは k に足さず、筋書きの利益率と確率で表した。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.00% → 7.50%。