結論
日本化学産業は、ニッケル・銅・スズなどの金属を薬品に仕立てる、従業員 450 人ほどの小さな化学会社だ。売上の 86% が薬品で、残りが住宅の建材である。筆者の結論は「割高」。純現金は厚いが、稼ぐ力に比べて今の値段は先を払いすぎている。
足もとの利益は膨らんで見える。営業利益 34 億円のうち 15 億円ほどは、住友金属鉱山から請け負っていた電池材料の加工賃だった。この受託は 2026 年 8 月に終わり、会社は今期の営業利益を 13 億円に落とす。受託を除いた実力は 20 億円前後と筆者は見る。
伸びる芽はある。AI 半導体の基板に使う銅・ニッケルの化合物、積層コンデンサ向け、タイ工場の増強だ。EV 電池のリサイクルも、実証設備が動き出した。ただ、薬品は顧客の仕様に合わせる小口の商売で、値上げの力は強くない。
いちばんの論点は資本の使い方だ。自己資本の利益率は 4〜5% で、資本コストに届かない。そこへ 5 年で 200 億円の投資を重ねる。当たれば目標の 50 億円に近づくが、外れれば現金が眠る設備に変わる。
10 年後の中立の時価総額は 280 億円。配当を足しても、今の値段を年 1% ほどしか上回らない。確率で重みづけた本質価値は、今の時価総額より 4 割ほど低い。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社は「持ち続けたい事業」とまでは言えない。金属を精製し直す技術は本物だが、利益の持続性が読みにくい。受託という大きな柱が、顧客の方針ひとつで消えた事実は重い。
問題は値段ではなく、資本の使い方だ。株主のものになる利益、つまり設備の更新に使う分を引いた利益は、過去 10 年を通じて年 20 億円前後だった。それに対して、自己資本は 500 億円を超える。稼ぎの 25 倍の元手を抱え、利益率が低い。このまま現金をためれば価値は伸びない。
会社は今、その現金を 200 億円規模の投資に動かそうとしている。バリュー投資家が見るのは、その使い道が資本コストを上回る稼ぎを生むかどうかだ。リサイクル事業は、国策に乗る分野で、可能性はある。だが商業化はこれからで、証拠がない。
安全域は、現金が厚い点にある。仮に投資が全部外れても、会社は傾かない。ただし、それは「損をしない」ことであって、「得をする」ことではない。筆者が割高と見るのは、その差を今の値段がまだ織り込んでいないためだ。
中計の目標が実現して初めて、この会社は割安の候補に入る。それまでは、結果を見るまで待つ構えが似合う会社だと筆者は考える。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの柱は薬品で、売上の 86% を占める。金属を酸などで溶かし、純度の高い塩や酸化物にして、めっき薬品や電子部品の材料として売る。スルファミン酸ニッケルは、電気めっきでニッケルの膜をつくる基本の薬剤だ。酸化第二銅やスズの化合物は、プリント基板や半導体のパッケージ工程に使われる。顧客は電子部品、基板、触媒、電池のメーカーで、小ロットを多品種で納める。
薬品には、もう一つの顔があった。電池正極材(NCA)の製造受託だ。住友金属鉱山から原料を預かり、加工して返す。売上は加工賃だけで、2025 年度は 50 億円、営業利益は 15 億円ほどと筆者は推定する。これが 2026 年 8 月で終わる。
建材は売上の 14%。戸建て住宅の軒天に付ける防火通気見切縁が主力で、都市部ではトップシェアと会社は説明する。火災の熱で中の発泡材がふくらみ、屋根裏への延焼を 30〜60 分抑える。国の大臣認定が参入の壁になっている。
海外は売上の 19%。タイの子会社が酸化銅やニッケルめっき液を現地で作り、日系の基板・自動車メーカーに売る。計画では、この工場の生産量が 2028 年度に 2024 年度の 1.6 倍になる。
優良さと弱いところ
堀は、深くはないが、いくつかある。一つは、金属を溶かして精製し直す技術だ。不純物を除く工程は、鉱山由来の原料にもリサイクル原料にも使える。もう一つは、小ロットの特注に応じる小回りだ。大手が相手にしない量の注文を、顧客と組んで仕様から詰める。
ただ、値付けの力は強くない。会社自身が「一部の薬品がコモディティ化した」と認めている。ニッケル塩の分野にはメルテックス、国産化学、JX 金属商事など競合が多く、顧客は複数社から買える。受託の終了も、顧客が方針を変えただけで一社分の利益が消えるという、この会社の弱さを見せた。
資本の効率は低い。自己資本利益率は過去 10 年の中央値が 5% 台で、資本コストを下回る。理由は単純で、自己資本の 8 割以上が現金と設備で、純現金だけで時価総額の 4 割近くある。稼ぎに対して、元手を寝かせすぎている。会社も 2030 年に 8% を目標に掲げ、課題と認めている。
財務は固い。自己資本比率は 82%、赤字の年はこの 20 年ない。大株主は取引先の持株会が 11.5% で、取引先や従業員の持分が全体の 5 割近い。経営が乱暴に動く会社ではない。守りは堅いが、攻めの収益力はまだ証明されていない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
この会社の市場は、金属化合物の小さなニッチを寄せ集めたものだ。業界ノートの見方では、汎用の薬品は中国との競争で名目の伸びが物価並みにとどまる。電池・電子・化粧品向けの特殊品は名目で年 5〜7% 伸びる。数量にすると、汎用は横ばい、特殊品は年 2〜4% が目安だ。
会社が狙うのは特殊品の側だ。AI 半導体の後工程では、銅やニッケルの化合物の使用量が増える。国際エネルギー機関はニッケルの需要を年 2〜5%、銅も同程度の伸びと見る。MLCC(積層コンデンサ)や、PFAS 規制に対応するフッ素フリーのめっき薬も追い風になる。
EV 電池の道は不透明だ。住友金属鉱山は正極材を NCA から NMC に切り替え、外部に出していた加工を自社に戻す方針を示した。受託の終了は、この流れの一部と筆者は読む。電池材料の需要が伸びても、その加工が日本化学産業に回るとは限らない。
一方で国は、レアメタルのリサイクルを経済安全保障の柱に据えた。経済産業省の認定を受けた会社には補助金が出る。使用済み電池からニッケル・コバルト・リチウムを取り出す技術は、国策の追い風を受ける。ただし、処理を集める力と規模で、大手の非鉄メーカーとの競争になる。
建材は、住宅の新設が人口減で細る。新製品でその分を補う構図だ。
資本政策と M&A
還元は、株主資本配当率(DOE)4% を目安に、配当を安定して出す方針だ。株主優待もあり、300 株以上で QUO カードが年 2 回届く。優待の費用は年 1 億円に届かないと筆者は推定する。配当の厚みと優待のおかげで、個人株主が増え、株価の下値を支えてきた。
会社の資金計画は、はっきりしている。2025〜2030 年に、設備と研究開発で約 200 億円を投じる。元手は年度末の現金 208 億円と、資産売却 130 億円だ。借入も使う。配当は 5 年で 90 億円を見込む。純現金 158 億円は、会社の計画ですでに使い道が決まっている。
投資の中心は、電池リサイクルの実証設備(31 億円)、その先の商業プラント、タイ工場の増強だ。M&A や提携も「積極的に検討」するとしている。小さな会社が 200 億円を動かすのは重い。成功すれば営業利益は 2030 年に 50 億円に近づくが、外れた時の減損は自己資本の 1 割を超えうる。
資産売却 130 億円の中身は、会社は明らかにしていない。取引先の株式の売却が含まれるなら、持ち合いの解消として歓迎できる。ただし配当の入る株を売れば、営業外の収益は減る。TOB については、取引先の持株が厚く、可能性は低いと見る。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
受託が終わっても、基礎体力は落ちない。営業利益 34 億円のうち受託分が 15 億円としても、残り 20 億円前後が薬品と建材の実力だ。ここから、AI 半導体向けの銅・ニッケル化合物、MLCC 向け、PFAS フリーのめっき薬が積み上がる。会社の計画では、受託を除く薬品の数量が 2028 年度までに 2 割増える。
その先に、電池リサイクルがある。使用済み EV 電池が大量に出る時期に、ニッケル・コバルト・リチウムを取り出せる国内の会社は少ない。国は重要鉱物に補助金を出し、欧州は電池のリサイクル原料の使用比率を法で決めた。会社は 2030 年に営業利益 50 億円、うち新規事業で 25 億円を目標に置く。
財務の裏付けも厚い。純現金 158 億円、自己資本比率 82%。借金に頼らず投資でき、配当は DOE 4% で守られる。ROE の目標 8% が達成されれば、PER は 12 倍近くまで評価され、10 年後の時価総額は今の 1.3 倍を超える。受託の終了は一時の傷で、成長の入り口にすぎない。
慎重な見方
会社の説明を割り引く必要がある。今期の営業利益は 13 億円で、中計の最終年度でも 27 億円と、34 億円に戻らない。2030 年の 50 億円は、そのうち 25 億円を「新規事業」が担う。いま稼いでいない事業に半分を頼る計画は、読みの精度が低い。
受託が消えた事実は、この会社の薬品が顧客の方針ひとつで動く商売だと示した。住友金属鉱山は加工を内製に戻す。ほかの顧客も、同じ理由で去りうる。しかも、ニッケル塩は競合が多く、会社自身が一部の薬品の「コモディティ化」を認めている。中国の薬品メーカーが追い上げれば、値上げどころか物価並みの価格も取れない。
資本の使い方にも不安がある。ROE は 5% 前後で資本コストを割ったまま、5 年で 200 億円を新規事業へ投じる。リサイクルの商業化は、集荷から精製まで大手の非鉄メーカーと競う戦いだ。パイロットプラントは処理量が年 60 トンにすぎず、商業の規模とは 2 桁違う。外れれば、減損と低い収益のまま、現金が設備に変わるだけになる。
どちらに重みを置いたか
強いのは慎重な見方だ。薬品の値付けは弱く、投資の回収が証明されておらず、資本コストを稼げていない。強気の見方が頼る新規事業は、まだ売上すら立っていない。一方で、現金と固い財務が下を支え、AI 関連や建材の新製品は確かな芽だ。確率は中立を最大の 37% にしつつ、悲観側(やや悲観 25%・悲観 12%)を楽観側(やや楽観 19%・楽観 7%)より厚くした。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 1,738 円339 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 955 円186 億円)。 今の値に割り戻すと 1,481 円289 億円、今との差 −31.6%、 期待の年率 +2.2%(資本コスト 7.8%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 7% | 3,637 円709 億円 | 1,282 円250 億円 | +127.3% | +8.6% | 344 円67 億円 |
| やや楽観 | 19% | 2,614 円510 億円 | 1,190 円232 億円 | +75.8% | +5.8% | 723 円141 億円 |
| 中立 | 37% | 1,853 円361 億円 | 1,057 円206 億円 | +34.4% | +3.0% | 1,076 円210 億円 |
| やや悲観 | 25% | 853 円166 億円 | 769 円150 億円 | −25.0% | −2.8% | 406 円79 億円 |
| 悲観 | 12% | 729 円142 億円 | 462 円90 億円 | −45.0% | −5.8% | 143 円28 億円 |
| 加重平均 | 100% | 1,738 円339 億円 | 955 円186 億円 | +24.4% | +2.2% | 2,692 円525 億円 |
今の株価時価総額 2,164 円422 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.8% を下回るほど割高。
楽観 7% 楽観:AI 向け薬品と電池リサイクルが立ち上がり、50 億円の目標を超えていく 利益 54 億円 · PER 13.2 倍 · 株価時価総額 3,637 円709 億円
AI 半導体の後工程で、銅とニッケルの化合物の使用量が急速に増える。タイ工場は増強が終わり、日系の基板メーカーの現地進出にあわせて数量を伸ばす。薬品の数量は 10 年で 2 倍近くになり、特注品の比率が高まって値段も物価を少し上回る。
電池リサイクルは、パイロット設備の結果が良く、商業プラントが動く。国の補助と、使用済み EV の増加が追い風になる。ブラックマスから取り出した金属が、電池材料として同社の薬品の原料にも回る。
営業利益は 70 億円台で、会社の 2030 年目標の 50 億円を超える。ROE は 8% 台に上がり、資本コストにほぼ届く。ここまで行って初めて、現金の厚みが活きたと言える。
- 薬品(めっき薬品・電子材料用の金属化合物):数量 27.3(出荷量(千トン・推定))× 価格 19(1 千トンあたり売上(億円)。金属の相場と物価 3% を含む名目)→ 売上 521 億円・営業利益 78 億円。薬品 数量 1.95 倍・営業利益率 15%
- 電池正極材の製造受託(2026 年 8 月で終了):数量 0.0(受託加工量(千トン・推定))× 価格 27(1 千トンあたり加工賃(億円)。名目)→ 売上 0 億円・営業利益 0 億円。受託は終了
- 建材(防火通気見切縁ほか):数量 132(採用住宅(千戸・推定))× 価格 0.46(1 千戸あたり売上(億円)。名目)→ 売上 60 億円・営業利益 10 億円。建材 数量 1.1 倍・営業利益率 16%
倍率:事業の純利益 54 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.1% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 7.9%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.2 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.2 倍。全体の PER 13.23 倍、時価総額 709 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:AI 向けの薬品が計画どおり伸び、電池リサイクルが商業化に成功し、利益が 70 億円を超える姿。会社の目標 50 億円を 10 年かけて超える筋書きだが、新規事業の実績がないので小さく置く。
やや楽観 19% やや楽観:薬品が伸び、リサイクルは小さく立ち上がる 利益 40 億円 · PER 12.9 倍 · 株価時価総額 2,614 円510 億円
AI 向けと MLCC 向けの薬品が計画どおりに伸び、受託を除く数量は 10 年で 1.65 倍になる。値段は物価をわずかに上回る。リサイクルは小さな事業として立ち上がるが、利益への寄与は限られる。
建材は、新設住宅が人口減で細るなかで、非防火地域向けの見切縁と床下の防水水切りが数量を支え、横ばいから微増になる。営業利益率は 15% を保つ。
営業利益は 50 億円台前半で、中計の目標どおりに近づく。年 7〜8% の伸びが続く計算で、会社の計画をほぼ信じる形だ。ROE は 7% ほどで、資本コストにまだ届かない。優良化への途中の姿である。配当は DOE 4% を守り、利益が増えるぶん還元も増える。
- 薬品(めっき薬品・電子材料用の金属化合物):数量 23.1(出荷量(千トン・推定))× 価格 19(1 千トンあたり売上(億円)。金属の相場と物価 3% を含む名目)→ 売上 432 億円・営業利益 58 億円。薬品 数量 1.65 倍・営業利益率 13.5%
- 電池正極材の製造受託(2026 年 8 月で終了):数量 0.0(受託加工量(千トン・推定))× 価格 27(1 千トンあたり加工賃(億円)。名目)→ 売上 0 億円・営業利益 0 億円。受託は終了
- 建材(防火通気見切縁ほか):数量 126(採用住宅(千戸・推定))× 価格 0.44(1 千戸あたり売上(億円)。名目)→ 売上 55 億円・営業利益 8 億円。建材 数量 1.05 倍・営業利益率 15%
倍率:事業の純利益 40 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 6.8% が k 7.75% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.9 倍。全体の PER 12.9 倍、時価総額 510 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:薬品の数量が計画に近く伸び、リサイクルは小さく立ち上がる。利益は 50 億円台。中計の最終年度 27 億円から、年 7〜8% の営業利益の伸びが続く姿。
中立 37% 中立:受託の穴を埋め、物価に実質の伸びが少し乗る 利益 28 億円 · PER 12.9 倍 · 株価時価総額 1,853 円361 億円
受託の穴は 2〜3 年で埋まる。AI 向け・電子部品向けの薬品が数量で年 3% 台伸び、値段は物価並みに上がる。営業利益率は 12% 前後で、受託を除いた今の水準を保つ。
リサイクルとタイ工場の増強は、薬品の数量の伸びに織り込む。営業利益は 36 億円。今の 34 億円は受託の 15 億円を含むので、10 年かけて受託を除く実力が 2 倍近くに戻るという姿である。
建材は、新設住宅の減少を新製品で補い、横ばいで推移する。ROE は 5% 台のままで、資本コストを下回る。純現金は設備投資に変わり、会社は安定するが、株主にとっての価値は大きく伸びない。
- 薬品(めっき薬品・電子材料用の金属化合物):数量 19.6(出荷量(千トン・推定))× 価格 18(1 千トンあたり売上(億円)。金属の相場と物価 3% を含む名目)→ 売上 358 億円・営業利益 43 億円。薬品 数量 1.40 倍・営業利益率 12%
- 電池正極材の製造受託(2026 年 8 月で終了):数量 0.0(受託加工量(千トン・推定))× 価格 27(1 千トンあたり加工賃(億円)。名目)→ 売上 0 億円・営業利益 0 億円。受託は終了
- 建材(防火通気見切縁ほか):数量 120(採用住宅(千戸・推定))× 価格 0.44(1 千戸あたり売上(億円)。名目)→ 売上 52 億円・営業利益 7 億円。建材 数量は横ばい・営業利益率 14%
倍率:事業の純利益 28 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 5.2% が k 7.75% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.9 倍。全体の PER 12.9 倍、時価総額 361 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:受託の穴を埋めたあと、数量が実質で年 3% 台、価格は物価並みに伸びる筋書き。利益は 36 億円。最も起こりやすい形に最大の確率を置く。
やや悲観 25% やや悲観:薬品が値下がりに押され、投資の回収が遅れる 利益 14 億円 · PER 12.1 倍 · 株価時価総額 853 円166 億円
薬品の競争が強まり、値段が物価に届かない。ニッケル塩は競合が多く、一部の薬品はさらにコモディティ化する。数量は 1 割増にとどまり、営業利益率は 9% 台に下がる。
リサイクルの商業化が遅れ、投資の回収は 10 年後にもめどが立たない。配当は DOE 4% を守れず、3% 前後に縮む。
建材は新設住宅の減少が響き、数量が 15% 減る。新製品も立ち上がりが遅く、営業利益率は 11% に下がる。
全社の営業利益は 17 億円で、今の 5 割にとどまる。ROE は 3% を割り、自己資本の大半は低い収益のまま眠る。会社はつぶれないが、現金が設備に変わった分だけ、株主にとっての価値は目減りしている。
- 薬品(めっき薬品・電子材料用の金属化合物):数量 15.4(出荷量(千トン・推定))× 価格 18(1 千トンあたり売上(億円)。金属の相場と物価 3% を含む名目)→ 売上 273 億円・営業利益 26 億円。薬品 数量 1.10 倍・価格 1.30 倍・営業利益率 9.5%
- 電池正極材の製造受託(2026 年 8 月で終了):数量 0.0(受託加工量(千トン・推定))× 価格 27(1 千トンあたり加工賃(億円)。名目)→ 売上 0 億円・営業利益 0 億円。受託は終了
- 建材(防火通気見切縁ほか):数量 102(採用住宅(千戸・推定))× 価格 0.44(1 千戸あたり売上(億円)。名目)→ 売上 44 億円・営業利益 5 億円。建材 数量 0.85 倍・営業利益率 11%
倍率:ROE は 2.8% で k を大きく下回り、上限は 1÷k の 11.8 倍。薬品の値下がりと投資の回収遅れで利益の質が落ちるが、利益そのものは安定して出ているので、上限の約 93% の 12.06 倍に置いた。
確率:薬品の値付けが物価に届かず、投資の回収が遅れる。受託を失った前例、競合の多さ、会社自身が認めるコモディティ化から、悲観側を楽観側より厚くした。
悲観 12% 構造的な負け:薬品は中国勢と顧客の内製に押され、新規投資は減損になる 利益 3 億円 · PBR 0.3 倍 · 株価時価総額 729 円142 億円
中国の薬品メーカーが電子材料のグレードまで追い上げ、国内の顧客が内製や海外調達に動く。薬品の数量は 15% 減り、値段は物価の上昇に追いつかず、営業利益率は 6% 台に落ちる。
電池リサイクルは商業化に進めず、投資した設備を減損する。会社は人員を絞って調整費を減らすが、売上が細るぶん、赤字寸前になる。配当は大きく縮む。
建材も新設住宅の減少と新製品の不発で、数量が 35% 減り、値上げも通らない。営業利益率は 6% まで落ちる。
全社の営業利益は 2 億円で、もう優良な会社ではない。それでも自己資本比率は高く、現金と売れる資産が残る。稼ぐ力では測れないので、値段は純現金と売却資産の税後を床にして置く。
- 薬品(めっき薬品・電子材料用の金属化合物):数量 11.9(出荷量(千トン・推定))× 価格 16(1 千トンあたり売上(億円)。金属の相場と物価 3% を含む名目)→ 売上 195 億円・営業利益 13 億円。薬品 数量 0.85 倍・価格 1.20 倍・営業利益率 6.5%
- 電池正極材の製造受託(2026 年 8 月で終了):数量 0.0(受託加工量(千トン・推定))× 価格 27(1 千トンあたり加工賃(億円)。名目)→ 売上 0 億円・営業利益 0 億円。受託は終了
- 建材(防火通気見切縁ほか):数量 78.0(採用住宅(千戸・推定))× 価格 0.39(1 千戸あたり売上(億円)。名目)→ 売上 30 億円・営業利益 2 億円。建材 数量 0.65 倍・価格 1.20 倍・営業利益率 6%
倍率:稼ぐ力は低く(純利益 3 億円÷k で約 40 億円)、純現金と売れる資産の税後を床にする。床の PBR 0.28 倍を今の自己資本 508 億円に掛けた(純現金と売れる資産の税後から置いた)。
確率:中国勢と顧客の内製で薬品の数量と価格が崩れ、リサイクルなど新規投資が減損になる構造的な負け。規模が小さく、大口の顧客の方針で利益が消えた前例があるので、業種の標準 9〜12% の上端に置く。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
薬品(めっき薬品・電子材料用の金属化合物)
ニッケル・銅・スズなどの金属化合物。電気めっき薬品、電子部品材料、触媒・電池・太陽電池向け素材。受託を除く。
| 数量出荷量(千トン・推定) | 価格1 千トンあたり売上(億円)。金属の相場と物価 3% を含む名目 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 14.0 | 14 | 191 | 24 |
| 10 年後 中立 | 19.6 | 18 | 358 | 43 |
取り方:会社の開示は薬品全体(売上の 86%=約 241 億円、営業利益 38.7 億円)だけで、数量は出ていない。受託の売上を約 50 億円、営業利益を約 15 億円と推定して引き、受託を除く薬品の売上 191 億円・営業利益 23.7 億円とした。平均単価を 1 トンあたり約 140 万円(金属塩と酸化物の混合。金属相場込み)と置いて、出荷量を約 1.4 万トンと推定した。数量は実質、価格は金属相場と物価を含む名目。
電池正極材の製造受託(2026 年 8 月で終了)
住友金属鉱山のリチウムイオン電池正極材(NCA)の製造を請け負う事業。2026 年 8 月中旬に終了する。
| 数量受託加工量(千トン・推定) | 価格1 千トンあたり加工賃(億円)。名目 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 2.5 | 20 | 50 | 15 |
| 10 年後 中立 | 0.0 | 27 | 0 | 0 |
取り方:受託は 2026 年度に約 7 か月分が失われ営業利益が 8.6 億円減る(会社の増減分析)。これを年に直して営業利益 15 億円、売上は加工賃のみで約 50 億円と推定した。加工量は 2,500 トン、1 トンあたり加工賃 2,000 万円と置いた。確かな開示はなく、幅のある推定。
建材(防火通気見切縁ほか)
戸建て住宅の軒天に付ける防火通気見切縁、外装・エクステリア製品。都市部でトップシェア(会社説明)。
| 数量採用住宅(千戸・推定) | 価格1 千戸あたり売上(億円)。名目 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 120 | 0.33 | 39 | 6 |
| 10 年後 中立 | 120 | 0.44 | 52 | 7 |
取り方:建材は売上の 14%(約 39 億円)、営業利益 5.8 億円。防火通気見切縁を採用する住宅の戸数を 12 万戸、1 戸あたり売上を約 3.3 万円と推定した。新設住宅着工は戸建てと分譲で年 50 万戸前後で、その 2 割台に入る計算。シェアは数量の側に置き、価格は 1 戸あたりの売上。
リスクと懸念
大口の顧客の方針で利益が消える
電池正極材の受託は、住友金属鉱山が加工を内製に戻す方針で 2026 年 8 月に終わり、営業利益の 4 割強が消える。薬品は小ロットで顧客ごとの仕様に合わせる商売のため、ほかの大口顧客でも同じことが起きうる。顧客の集中度は開示が乏しく、読みにくい。
200 億円の投資が資本コストを稼げない
2030 年までに約 200 億円を設備と研究開発に投じる。ROE が 5% 前後の会社が、新規事業に半分を頼る計画で動く。電池リサイクルの商業プラントは、パイロット(年 60 トン)から規模が 2 桁上がる。外れれば、現金が設備に変わるだけで、減損の懸念が残る。
薬品のコモディティ化と中国の追い上げ
会社自身が一部の薬品のコモディティ化を認めている。ニッケル塩は国内にも競合が多い。中国メーカーが電子材料のグレードに入れば、数量と価格の両方に響く。物価並みの値上げが取れなくなる可能性が、中立の置き方を押し下げる。
金属相場と売上のぶれ
薬品は、ニッケル・銅・スズ・コバルトの相場に売上が連動する。相場が急落した年は在庫の評価と売上が崩れ、急騰した年は運転資金が膨らむ。会社の増減分析にも「相場変動等」の欄が毎年出る。利益の水準が読みにくい。
新設住宅の減少
建材は戸建ての新設に頼る。人口減と世帯数の減少で、国内の新設着工は長く細る見通しだ。新製品で補う計画だが、非防火地域向けや床下の防水水切りは立ち上がりの途中で、数量が減る分を埋め切れない恐れがある。
営業外の収益の減少
経常利益は営業利益より 4 億円ほど多い。主に取引先の株式の配当と現金の利息だ。会社は資産売却を 130 億円見込み、現金も投資に使う。使途によっては営業外の収益が減り、純利益が営業利益ほど伸びない。
小型株の流動性と株主構成
時価総額は 420 億円ほどで、取引先や従業員の持株が全体の 5 割近い。浮動株が少なく、出来高が細る。株主優待で個人株主が増えたが、優待が縮めば株価が下がりやすい。
今後の分かれ目
- 受託以外の薬品の数量が、2027〜2028 年度に会社の計画(2025 年度比 114・123)どおり伸びたら
- AI・電子向けの薬品の前提を上げ、やや楽観・楽観の確率を引き上げる。
- 電池リサイクルのパイロット設備で、回収率と純度の目標が達成され、商業プラントの投資が決まったら
- 新規事業の収益化が見え始めるので、楽観の確率を上げる。ただし投資額が自己資本の 2 割を超えるなら、減損のリスクも同時に見る。
- 営業利益が 2027 年度に 22 億円(計画)を下回ったら
- 受託を除く実力が 20 億円を切っていることになり、やや悲観・悲観の確率を引き上げる。
- 資産売却の中身が取引先の株式の売却と明示され、配当方針や自社株買いの強化が出たら
- 資本の効率が改善する材料。現金が眠る設備に変わらず株主に戻るなら、価値の見方を引き上げる。
- ニッケル塩の価格が下がり、競合による値引きが出たら
- 薬品の営業利益率を下げ、やや悲観に寄せる。
- 優待や配当方針(DOE 4%)が縮められたら
- 株主還元の前提を下げ、悲観側に寄せる。
見ておくもの
- 受託を除く薬品の数量(会社の中計の指数 2026=105・2027=114・2028=123)
- 営業利益(2027 年度 22 億円・2028 年度 27 億円の計画との差)
- 電池リサイクルの商業プラント投資の決定と補助金
- SIAM NKS(タイ)の生産数量と海外売上比率(25% 計画)
- 資産売却 130 億円の中身と時期
- 新設住宅着工と、床下防水水切りの採用
倍率と資本コストの決め方
セグメントごとに、薬品は出荷量×単価、建材は採用戸数×単価、受託は終了として数量 0 で積み上げ、今の株価は見ていない。k は基本 7.5% に quality +1.0%(循環 +0.5、値決め +0.25、寿命 +0.25)を足した 8.5%。ROE が 5% 台で k を下回るため、中立の PER は上限 1÷k(11.8 倍)の約 85% の 10.0 倍に置き、今の PER や PBR には寄せていない。結果は今の値段より 3〜4 割低い「割高」で、これは寄せなかったためだ。悲観の床は純現金と売れる資産の税後で置いた。新リース会計基準の影響は小さい(工場と研究所は自社保有が中心)と見て、数字は今と同じ形に揃えた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 10.6→13.23 倍・やや楽観 PER 10→12.9 倍・中立 PER 10→12.9 倍・やや悲観 PER 11→12.06 倍)。
資本コスト 7.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality +1.0% を足して 8.5%。同じ領域の堺化学・テイカ・第一工業製薬と同じ水準に置いた。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.50% → 7.75%。