結論
日油は、油脂を化学の力で加工する素材メーカーだ。稼ぎは三本ある。界面活性剤や化粧品原料などの機能化学品、医薬用の高純度原料、そして防衛向けの火薬・推進薬である。筆者の結論は「やや割安」。悪くない会社で、今の値段は成長の先まで払っているわけではない。ただ割安の幅は小さく、安全域は厚くない。
いちばんの強みは、顧客が簡単に乗り換えられないことだ。医薬原料は承認された処方に組み込まれ、防衛品は国が認めた工場でしか作れない。だから営業利益率は 10 年前の 1 割から 2 割近くまで上がり、借金はなく、手元に純現金が 790 億円ある。
今期の売上が 2 割以上ふえる予想になっているのは、防衛省の早期装備化で新工場を建てる工事が、売上に載るからだ。これは一時的なもので、利益はほとんど増えない。素直に読むと、営業利益は年 3〜6% の伸びが続く会社である。
伸びを支えるのは、DDS(薬を体内の狙った場所へ運ぶ技術)の原料と、防衛予算の増加だ。ただし特定の顧客への依存が重く、火薬工場の事故も繰り返してきた。筆者は、この二つが外れる場合を悲観の筋書きに厚く見ている。
10 年後の中立の時価総額は今の 1.6 倍ほど。配当を足すと年率 7% 台で、資本コスト 6.75% をわずかに上回り、確率で重みづけた本質価値は今の値段より 1 割ほど高い「やや割安」。財務は堅いが、値段の安全域は厚くない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社は「持ち続けたい事業」に近い。10 年後も、医薬の原料も防衛向け推進薬も、需要がなくなる理由が見当たらない。しかも、顧客が簡単に切り替えられない性質のため、値上げもしやすい。
一方で、買いたいと思える値段かというと、いまは「ほどほど」だ。10 年後の営業利益が中立で 1.7 倍になるとして、割り引くと今の値段とほぼ同じになる。安全域は、ほとんどない。
株主のものになる利益、つまり設備の更新に使う分を引いた後の利益は、化学会社としては大きい。この会社は、純現金を抱えながら利益の過半を返せている。この点は評価が高い。
気になるのは、利益の大きい医薬原料が少数の顧客の薬に頼ることと、火薬工場の事故だ。この二つは、分散投資をしても消えにくい事業固有のリスクで、起きた時の下落は大きい。ただ、どちらも起きていない時期に買っても、悪い値段ではない会社である。
防衛は伸びる分野だが、国の予算が頼りだ。成長を買うつもりなら、防衛の伸びは価格に含まれるくらいに見て、医薬が思ったより伸びる場合を上振れとして待つ、というのが筆者の構えである。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの柱は三つある。いちばん大きいのは機能化学品で、売上の約 6 割を占める。油脂から作る界面活性剤や脂肪酸誘導体のほか、化粧品の原料(保湿に強いリピジュアなどのポリマー)、自動車部品向けの防錆処理剤、ヘッドランプのくもり止めなどがここに入る。顧客は化粧品、自動車、電子部品と幅広い。
二つめは医薬・医療・健康で、売上の 2 割弱だが、利益の 3 分の 1 近くを稼ぐ。中心は、タンパク質医薬やmRNA ワクチンに使う高純度のPEG(ポリエチレングリコール)と脂質だ。薬の効き目を長持ちさせたり、薬を細胞まで届けたりする役を担う。機能食品の素材も、ここに入る。
三つめが化薬だ。ロケットや防衛装備に使う火薬・推進薬を作る。売上の約 24% を占める。子会社の日本工機は弾薬も手がける。防衛省の早期装備化に応じ、愛知県の武豊と福島県の白河で、約 1,400 億円の増産設備を建てている。
利益の質は三つで大きく違う。医薬は利益率が 3 割を超え、機能化学品は 2 割弱、化薬は 1 割前後である。全体の利益率を押し上げているのは、利益率の高い医薬と、高水準を守る機能化学品だ。
優良さと弱いところ
この会社の堀、つまり他社がまねできない強みは、「認められたものを作っている」ことにある。医薬の原料は、薬の承認に組み込まれると、原料を変えるのに年単位の手間がかかる。防衛向けの推進薬も、国が認める設備と技術が前提だ。どちらも価格で奪い合う世界ではない。
資本の効率も高い。自己資本利益率(ROE)は 13〜14% で、純現金がありながらこの水準だ。営業利益率は過去最高の 19% 近くまで上がった。経営は 2009 年度から配当を増やし続けており、株主還元の姿勢は一貫している。
弱いところも多い。医薬原料は、特定の顧客の薬の売れ行きに左右される。中計でも、前半は浸透の遅れで売上が減る前提だ。機能化学品の界面活性剤や脂肪酸誘導体は、需要が弱く利益が減っている。
もうひとつは安全だ。武豊工場では 2000 年、2009 年、2023 年、2025 年に事故があり、住宅地に近い。火薬を扱う以上ゼロにはできないが、止まれば防衛の拡大計画にも響く。筆者はこの点を、数字に出ない最大の弱点と見ている。
競合では、PEG 脂質で Croda 傘下の Avanti や Merck がいる。日油は高純度の PEG と脂質の両方を自前で作れると説明するが、世界のシェアは公開されていない。強いと言い切れるのは、国内の化粧品原料と防錆処理剤、そして防衛向けまでだ。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
日油の稼ぎは三つの別々の市場の合成で、業界全体の景気より、それぞれの顧客の動きに左右される。機能化学品の属する界面活性剤の世界市場は、2030 年にかけて年 4〜6% 伸びる見通しだ。特殊品は年 6% 前後とされ、汎用品は中国の追い上げで物価並みにとどまる。
成長が見込まれる領域は、電池や電子の材料、化粧品原料だ。日油は電子・情報分野への展開とインドへの進出を中計に掲げる。反対に建材や自動車向けの需要は景気で揺れる。リーマン級の不況では、建材・自動車向けが 2〜3 割落ちた例がある。
医薬原料は、タンパク質・ペプチド医薬の市場とともに年 10% 前後を狙う。ただし競争は厳しい。Croda の Avanti や Merck が同じ脂質を売っており、PEG に代わる素材(ポリサルコシンなど)を売り込む動きもある。反復投与で PEG が効きにくくなる現象が指摘されており、技術の置き換えは 10 年の見方に影を落とす。
防衛は構造が変わった局面にある。国の防衛費の拡大で、弾薬や推進薬は「足りない」状態で、国が工場の建設費を出す形の発注が増えた。会社の計画では、防衛関連製品の販売は 2025 年度を 100 として 2030 年度に 175 まで増える。ただし受注は国の予算次第で、予算の方向が変われば止まる。
この三つは景気の位相がずれている。機能化学品は景気に近い循環の途中、医薬は個別の薬の動き、防衛は国の予算で動く。互いに打ち消し合うので、全社の利益は化学会社としては安定している。その分、どれか一つが大きく崩れた時の影響を、確率で厚く見ておく。
資本政策と M&A
還元は厚い。中計では配当性向 40% 程度、自社株買いを含む総還元性向 70% 以上を目安にし、配当は増やし続ける方針だ。去年は 50 億円を上限に自社株買いを行った。ただし直近の実際の還元は、純利益の 5〜6 割にとどまっている。
政策保有株、つまり取引先の株式は、前の中計で純資産の 15% 以下にした。次は 10% 以下を目標にする。売って得た資金は、成長投資か還元に回る。持ち合いが解けていくのは、株主にとって良い方向だ。
戦略投資は 3 年で約 2,000 億円の枠を持つ。使い道の中心は化粧品原料の増産と、防衛の設備である。防衛の工場は国が費用を出す形のものがあり、会社の持ち出しがどこまでかは、筆者には読み切れなかった。純現金は 790 億円あるので、財務に不安はない。
M&A は、これまで大型のものはない。内部で育てて設備に投じる、保守的な会社である。買われる側の可能性は、データ上は 10 年以内に 17% ほどとされるが、防衛の機微な技術を持つので、外資に売られるのは考えにくい。
点検済み:中立の営業利益率が過去の山(19.0%)を超えていたため、機能化学品を今の水準(18.3%)に置き直した。化薬は工場の償却が進む分と防衛の増産で12%に上がり、全社19.2%の山超えはこの分だけ。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
防衛向けの伸びは、これからが本番だ。国は弾薬と推進薬の増産を急いでおり、日油の新工場が動き出す 2028 年度以降は、防衛関連製品の販売が 2030 年度に今の 1.75 倍へ向かう。化薬の利益率は今は低いが、工場の償却が進み生産が安定すれば、1 割台半ばまで上がる余地がある。
医薬原料はなお大きな上振れ要因だ。PEG 脂質は、mRNA だけでなく、核酸医薬や遺伝子治療の増加で使途が広がる。日油は高純度の PEG と脂質の両方を自社で作れる数少ない会社で、新しい薬が承認されるたびに、承認に組み込まれた原料が長く売れる。中計は中長期の成長を年 10% とみており、後半から回復が始まる。
機能化学品も、化粧品原料と防錆処理剤が柱で、インドや電子分野への展開が加わる。営業利益率が過去最高を維持するだけで、10 年後の利益は今の 2 倍に届く。借金がなく、配当と自社株買いで総還元性向 70% を目指す会社が、この成長を持つ。10 年後の ROE は 15% 前後に上がり、倍率も今より上がる。
慎重な見方
医薬原料は、特定の顧客の薬が頼りで、その顧客の薬が思うように売れない。中計の前半は売上が減る前提だ。しかも PEG には、反復投与で薬が効きにくくなる現象が指摘され、Croda などが代わりの素材を売り込んでいる。10 年のうちに技術が置き換わると、利益の 3 分の 1 を稼ぐ事業の前提が崩れる。
防衛は国の予算が頼みだ。今の売上の急増は工事の計上による一時的なもので、2028 年度の化薬は今より減益の計画になっている。武豊工場では 2000 年、2009 年、2023 年、2025 年に事故があり、住宅地に隣接する。事故が続けば、設備の増強自体が難しくなる。
機能化学品は、界面活性剤や脂肪酸誘導体の需要が弱く、すでに利益が減っている。汎用品は中国の追い上げで、物価並みの値上げにも届かない。しかも営業利益率は過去最高圏にあり、いま以上の改善は難しい。ここから先の数字は、平均への回帰を見るほうが自然だ。利益率が 15% に戻るだけで、利益は 2 割落ちる。
どちらに重みを置いたか
防衛の追い風と医薬の足踏みは、ほぼ釣り合う。強いのは、利益率が高い事業を認可と承認が守っているという点で、悪い方に倒れても、大きく崩れる中身ではない。ただ、利益率はすでに高く、上振れの余地は小さい。確率はほぼ対称に置き、わずかに上振れ側に寄せた。悲観は、医薬の技術の置き換えと事故が同時に起きた場合を厚めに見ている。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 5,568 円1.25 兆円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,297 円2,902 億円)。 今の値に割り戻すと 3,833 円8,574 億円、今との差 +35.8%、 期待の年率 +9.3%(資本コスト 6.8%)→ 割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 8,224 円1.84 兆円 | 1,638 円3,664 億円 | +249.5% | +13.3% | 986 円2,206 億円 |
| やや楽観 | 24% | 7,146 円1.60 兆円 | 1,481 円3,313 億円 | +205.7% | +11.8% | 2,070 円4,631 億円 |
| 中立 | 38% | 6,039 円1.35 兆円 | 1,326 円2,965 億円 | +161.0% | +10.1% | 2,799 円6,260 億円 |
| やや悲観 | 19% | 3,494 円7,816 億円 | 1,120 円2,505 億円 | +63.5% | +5.0% | 877 円1,961 億円 |
| 悲観 | 9% | 792 円1,772 億円 | 685 円1,532 億円 | −47.7% | −6.3% | 133 円297 億円 |
| 加重平均 | 100% | 5,568 円1.25 兆円 | 1,297 円2,902 億円 | +143.3% | +9.3% | 6,865 円1.54 兆円 |
今の株価時価総額 2,822 円6,312 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 6.8% を下回るほど割高。
楽観 10% 防衛の拡大と医薬の成長が重なる 利益 879 億円 · PER 20.5 倍 · 株価時価総額 8,224 円1.84 兆円
防衛関連製品の販売が会社計画の 1.75 倍を超え、化薬の利益率も 1 割台半ばに上がる。医薬原料は、PEG・脂質が核酸医薬や遺伝子治療に広がり、年 10% の成長が実際に続く。世界で名の通った医薬原料メーカーとしての位置も固まる。
機能化学品は、化粧品原料の高付加価値化と電子材料への展開が進み、営業利益率が 21% まで上がる。営業利益は今の 2.3 倍で、ROE は 15% を超える。三つの事業がすべてうまくいった姿だが、それでも倍率は、成熟した優良会社の水準にとどまる。成長を払いすぎないのが、この会社の見方である。
- 機能化学品:数量 280(出荷量(千トン・推定))× 価格 9.78(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 2,738 億円・営業利益 575 億円。売上 2738 億円・営業利益率 21.0%
- 医薬・医療・健康:数量 975(関連市場(実質・億円)× シェア)× 価格 134.0%(価格指数(今 1.00、物価 3% で 3 年 1.09・10 年 1.34))→ 売上 1,312 億円・営業利益 433 億円。売上 1312 億円・営業利益率 33.0%
- 化薬:数量 760(国内の火薬・防衛関連の市場(実質・億円)× シェア)× 価格 134.0%(価格指数(今 1.00、物価 3% で 3 年 1.09・10 年 1.34))→ 売上 1,021 億円・営業利益 143 億円。売上 1021 億円・営業利益率 14.0%
倍率:事業の純利益 873 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 16.2% が k 6.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 11.5%、10 年より先の名目の伸び g 3.2% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 20.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 20.5 倍 + 余った現金(戻り方込み)400 億円。全体の PER 20.47 倍、時価総額 18,278 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:新薬の承認と防衛予算の拡大がともに続く場合で、10 年なら起こりうるが、両方がそろう必要がある。
やや楽観 24% 医薬と防衛が計画を上回って伸びる 利益 763 億円 · PER 20.2 倍 · 株価時価総額 7,146 円1.60 兆円
医薬原料が年 8% 前後で伸び、売上は今の 2 倍近くになる。防衛は計画どおり進み、化薬の利益率が 13% ほどに改善する。機能化学品は、化粧品原料が伸びる一方、汎用品は中国に押され、全体で営業利益率 20% を保つ。
営業利益は今の 2 倍を超える。ROE は 14% を保ち、配当と自社株買いで総還元性向 70% を目指す姿がほぼ実現する。政策保有株の売却が進み、資本の使い方も一段と引き締まる。強気ではあるが、三つの事業のうち一つは計画に届かない前提を含んでいる。
数量は、医薬が実質で年 5% 前後、機能化学品は年 2% 台、防衛は年 2〜3% で増える。値段は物価並みに上がり、化粧品原料の高付加価値化が少し上乗せになる。中国の追い上げは汎用品にとどまり、特殊品までは及ばない。
- 機能化学品:数量 265(出荷量(千トン・推定))× 価格 9.60(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 2,544 億円・営業利益 509 億円。売上 2544 億円・営業利益率 20.0%
- 医薬・医療・健康:数量 861(関連市場(実質・億円)× シェア)× 価格 134.0%(価格指数(今 1.00、物価 3% で 3 年 1.09・10 年 1.34))→ 売上 1,158 億円・営業利益 371 億円。売上 1158 億円・営業利益率 32.0%
- 化薬:数量 690(国内の火薬・防衛関連の市場(実質・億円)× シェア)× 価格 134.0%(価格指数(今 1.00、物価 3% で 3 年 1.09・10 年 1.34))→ 売上 927 億円・営業利益 121 億円。売上 927 億円・営業利益率 13.0%
倍率:事業の純利益 757 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 15.4% が k 6.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 11.1%、10 年より先の名目の伸び g 3.2% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 20.2 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 20.2 倍 + 余った現金(戻り方込み)400 億円。全体の PER 20.2 倍、時価総額 15,700 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:会社は中長期の成長目標を持ち、防衛は国の方針が明確で、上に振れる材料が比較的はっきりしている。
中立 38% 中立:物価の上昇に実質の伸びが少し乗る 利益 647 億円 · PER 19.8 倍 · 株価時価総額 6,039 円1.35 兆円
機能化学品は、数量が年 2% 弱で増え、値段は物価並みに上がる。営業利益率は 18% 台前半、今の水準を守る。医薬原料は、市場の拡大と同じ年 4% ほどの実質の伸びで、売上は 1,000 億円を超える。化薬は、防衛予算の拡大で数量が今の 1 割増になり、利益率は 12% となる。
営業利益は今の 1.75 倍で、年 5〜6% の伸びだ。これは物価 3% に、実質 2〜3% の成長が乗った姿である。ROE は 13% 台で変わらず、配当と自社株買いで利益の半分強を返す。優良だが、成長株ではない会社に落ち着く。
- 機能化学品:数量 253(出荷量(千トン・推定))× 価格 9.40(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 2,378 億円・営業利益 435 億円。売上 2378 億円・営業利益率 18.3%
- 医薬・医療・健康:数量 759(関連市場(実質・億円)× シェア)× 価格 134.0%(価格指数(今 1.00、物価 3% で 3 年 1.09・10 年 1.34))→ 売上 1,021 億円・営業利益 317 億円。売上 1021 億円・営業利益率 31.0%
- 化薬:数量 620(国内の火薬・防衛関連の市場(実質・億円)× シェア)× 価格 134.0%(価格指数(今 1.00、物価 3% で 3 年 1.09・10 年 1.34))→ 売上 833 億円・営業利益 100 億円。売上 833 億円・営業利益率 12.0%
倍率:事業の純利益 642 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 14.4% が k 6.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.6%、10 年より先の名目の伸び g 3.2% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 19.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 19.8 倍 + 余った現金(戻り方込み)400 億円。全体の PER 19.78 倍、時価総額 13,091 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:三つの事業が市場並みに伸び、利益率は今の水準を保つ筋書き。会社の目標よりやや保守的に置く。
やや悲観 19% PEG の置き換えと機能化学品の失速 利益 496 億円 · PER 14.3 倍 · 株価時価総額 3,494 円7,816 億円
PEG に代わる素材が一部の薬で採用され、日油の医薬原料の市場の中の位置が下がる。売上の伸びは市場に届かず、利益率も 28% に下がる。機能化学品は、汎用品が中国に奪われて値段が物価並みに上がらず、営業利益率が 16% 台に下がる。
防衛は国の予算が頭打ちになり、化薬の利益率が 1 割に届かない。営業利益は今の 1.3 倍にとどまり、ROE は 10% 台に下がる。倍率も縮み、時価総額は今を下回る。三つの事業のうち、少なくとも二つが期待に届かない、現実的な弱気の姿である。
機能化学品の数量は年 1% 前後にとどまり、値段は物価に届かない。医薬の市場は年 3% ほどでしか伸びず、日油のシェアは 11% から 10% 弱に下がる。物価分の値上げで売上は増えても、利益はほとんど増えない。
- 機能化学品:数量 235(出荷量(千トン・推定))× 価格 9.10(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 2,138 億円・営業利益 353 億円。売上 2138 億円・営業利益率 16.5%
- 医薬・医療・健康:数量 617(関連市場(実質・億円)× シェア)× 価格 134.0%(価格指数(今 1.00、物価 3% で 3 年 1.09・10 年 1.34))→ 売上 830 億円・営業利益 232 億円。売上 830 億円・営業利益率 28.0%
- 化薬:数量 560(国内の火薬・防衛関連の市場(実質・億円)× シェア)× 価格 134.0%(価格指数(今 1.00、物価 3% で 3 年 1.09・10 年 1.34))→ 売上 753 億円・営業利益 72 億円。売上 753 億円・営業利益率 9.5%
倍率:ROE 10.5%。今の利益はそのまま残り、先で薄れるのは新しく投じるお金の稼ぎだけとみて、RONIC=k 6.75%+残る割合 1/2×(10.5−7.0)=8.7%、長期の成長率 g 3.5%から正当化 PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)=17.1 倍。汎用品の失速と医薬の置き換えを見込むが、ROE は k を上回るので 1÷k の下限 14.29 倍に置いた。
確率:PEG の効きにくさの指摘や代替素材の売り込みは実際に起きており、10 年では現実味がある。
悲観 9% 構造的な負け:医薬は置き換えられ、防衛は事故で止まる 利益 225 億円 · PBR 0.6 倍 · 株価時価総額 792 円1,772 億円
PEG の置き換えが進み、医薬原料の売上は伸びるどころか今を下回る。火薬工場の事故が重なって防衛の増産が止まり、地域の理解も得られず、化薬は低い利益率のまま縮む。機能化学品は、汎用品の価格競争に巻き込まれ、利益率が 1 割ほどに落ちる。
営業利益は今の 6 割にとどまり、ROE は 5% 台に下がる。もう優良会社の評価は付かず、自己資本の 0.6 倍で測る。それでも純現金と自己資本があり、会社が傾くわけではない。ただ、株主にとっては、10 年かけて価値が伸びない、つらい展開である。
機能化学品の数量は今より減り、医薬は市場自体が縮む。化薬は事故の後の規制で数量が今を大きく割る。10 年の末の利益は、物価で水増しされた売上に対して、実質ではかなり小さい。
- 機能化学品:数量 195(出荷量(千トン・推定))× 価格 8.40(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 1,638 億円・営業利益 180 億円。売上 1638 億円・営業利益率 11.0%
- 医薬・医療・健康:数量 371(関連市場(実質・億円)× シェア)× 価格 134.0%(価格指数(今 1.00、物価 3% で 3 年 1.09・10 年 1.34))→ 売上 499 億円・営業利益 110 億円。売上 499 億円・営業利益率 22.0%
- 化薬:数量 400(国内の火薬・防衛関連の市場(実質・億円)× シェア)× 価格 134.0%(価格指数(今 1.00、物価 3% で 3 年 1.09・10 年 1.34))→ 売上 538 億円・営業利益 22 億円。売上 538 億円・営業利益率 4.0%
倍率:医薬の技術の置き換えと工場の事故が同時に起きる構造的な負けで優良ではなくなる姿。稼ぐ力(純利益÷k)より低い水準として、純現金と自己資本の残る分を床に、今の自己資本に 0.6 倍を掛けた。
確率:医薬の技術の置き換え、火薬工場の大事故、汎用品の中国シフトが重なった場合で、優良ではなくなる姿。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
機能化学品
界面活性剤・脂肪酸誘導体・化粧品原料・特殊防錆処理剤・防曇剤など。顧客は化粧品・自動車・電子・建材と幅広い。
| 数量出荷量(千トン・推定) | 価格1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 211 | 7.01 | 1,480 | 270 |
| 10 年後 中立 | 253 | 9.40 | 2,378 | 435 |
取り方:開示は金額だけなので、売上 1,480 億円を平均単価を 1 千トンあたり約 7 億円(界面活性剤・脂肪酸誘導体・化粧品原料・防錆剤の混合)と置いて割り、出荷量を約 21 万トンと推定した。単価は特殊品の比率が上がれば上がる。
医薬・医療・健康
タンパク質医薬・mRNA ワクチン向けの高純度 PEG・脂質(DDS 原料)、医療材料、機能食品の素材。
| 数量関連市場(実質・億円)× シェア | 価格価格指数(今 1.00、物価 3% で 3 年 1.09・10 年 1.34) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 506 | 100.0% | 508 | 160 |
| 10 年後 中立 | 759 | 134.0% | 1,021 | 317 |
取り方:PEG 誘導体・機能性脂質・医療用ポリマー・機能食品素材の関連市場を、今の値段で約 4,600 億円と推定し、日油のシェアを約 11% と置いた(売上 508 億円からの逆算で、市場規模は競合の公開情報が乏しく幅がある)。物価の分は価格指数に入れ、シェアは数量の側に置いた。 市場は今の値段(実質)で置いた数量で、物価は価格の指数 1.34 倍に別に入れている。
化薬
ロケット・防衛装備向けの火薬・推進薬、自動車の安全部品(エアバッグ用点火薬など)。子会社の日本工機が弾薬も扱う。
| 数量国内の火薬・防衛関連の市場(実質・億円)× シェア | 価格価格指数(今 1.00、物価 3% で 3 年 1.09・10 年 1.34) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 588 | 100.0% | 590 | 64 |
| 10 年後 中立 | 620 | 134.0% | 833 | 100 |
取り方:国内の火薬・推進薬・弾薬関連の市場を、今の値段で約 3,000 億円、日油のシェアを約 20% と推定した。今期の売上 590 億円には、防衛省の早期装備化に伴う工事の売上(一定期間にわたり計上)が約 200 億円含まれ、これは一時的で利益率が低い。
リスクと懸念
医薬原料が特定顧客の薬に頼る
利益の約 3 分の 1 を稼ぐ医薬・医療・健康は、特定の顧客の薬の売れ行きに左右される。会社の中計も、前半は顧客の薬の浸透が遅れてPEG 修飾剤の売上が減る前提を置いている。顧客が離れるか、薬が不振なら、利益の柱が細る。
PEG の技術が置き換わる
PEG は反復投与で効きにくくなる現象が指摘され、Croda などは代わりの素材(ポリサルコシン脂質)を売り込んでいる。置き換えが進めば、日油の高純度 PEG・脂質の強みが薄れ、10 年後の医薬の利益に響く。ただし薬は承認に組み込まれた原料を変えにくいので、進み方は遅いとみる。
火薬工場の事故
武豊工場では 2000 年、2009 年、2023 年、2025 年に爆発や事故が起きており、住宅地に隣接する。大きな事故が起きれば、生産停止だけでなく、防衛の増産計画と地域の理解にも影響が出る。国が費用を出す設備の建設でも、遅れが出れば信用に傷がつく。
防衛の売上の質
今期の売上の急増には、増産設備の工事の売上が含まれ、一時的で利益率が低い。会社自身も 2028 年度の化薬は今より減益と見ている。売上の伸びを、そのまま稼ぐ力の伸びと見ると誤る。国が建設費を持つ形なので、会社の資金負担がどこまでかは、開示の範囲では読み切れない。
機能化学品の需要の弱さ
界面活性剤や脂肪酸誘導体の需要が弱く、機能化学品はすでに減益に入っている。汎用グレードは中国企業の追い上げで、値上げしにくい。景気が崩れれば、建材・自動車向けの出荷が 2〜3 割落ちる例もあり、利益率の高い化粧品原料と防錆処理剤だけでは穴を埋めきれない。
利益率が過去最高圏にある
営業利益率は 18% 台と、この 10 年の最高圏にある。10 年前は 1 割ほどだった。ここから先の改善は難しく、平均への戻りが起きれば、売上が伸びても利益が増えない。原料価格の上昇を転嫁できない局面では、利益率が先に落ちる。
今後の分かれ目
- 医薬の主要顧客の薬の売れ行きが回復し、PEG 修飾剤の売上が増え始めたら
- 医薬原料の前提を上げ、楽観・やや楽観の確率を引き上げてよい。
- PEG に代わる素材が主要な薬で採用されたら
- 医薬の利益率と数量の前提を下げ、やや悲観・悲観に寄せる。
- 武豊または白河で大きな事故が起き、操業が止まったら
- 化薬の増産計画の遅れを見込み、悲観側の確率を上げる。
- 防衛予算が頭打ちになり、早期装備化の発注が止まったら
- 化薬の数量前提を下げ、中立の利益を 1 割ほど下方修正する。
- 機能化学品の営業利益率が 20% を超えて定着したら
- 中立の利益率前提を上げ、楽観側の確率を上げる。
- 政策保有株の売却資金で大きな自社株買いが行われたら
- 還元の前提を上げる。ただし利益そのものは変わらず、本質価値の変化は小さい。
見ておくもの
- 医薬・医療・健康のセグメント売上(四半期の出荷時期のずれを除いた動き)
- 化薬の防衛関連製品の売上と、工事売上を除いた利益率
- 機能化学品の営業利益率(特に界面活性剤・脂肪酸誘導体)
- 防衛予算の推移と早期装備化の発注
- 武豊・白河工場の稼働と事故の有無
- 総還元性向と自社株買いの実績(中計の 70% 以上)
倍率と資本コストの決め方
3 つのセグメントを、実際の出荷量(機能化学品)と市場×シェア(医薬・化薬、物価は価格指数に分離)で積み上げ、利益率から営業利益を出した。資本コストは基本 7.5%+quality−0.5%(需要の安定−0.25、認可と承認による値決め−0.25)の 7.0%。倍率は g 3.5%・ROE 13% 台から出した正当化 PER の 8 割(中立)に置き、今の PER 15.6 倍には寄せていない。結果は、中立の 10 年が今の 1.6 倍ほどで、総合は +12% のやや割安に出た。これは寄せたからではなく、利益の伸びが物価+実質 2〜3% で、倍率が正当化 PER の 8 割に収まるため。悲観は稼ぐ力より低い自己資本の PBR で測り、過去の PBR の底からは置いていない。余った現金 400 億円は戻り方 0.5 で足した。リース負債は小さく、新リース会計基準の影響は限定的と見たが、数字は今と同じ形(家賃を費用に入れた形)で置いた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 17.8→20.47 倍・やや楽観 PER 16.34→20.2 倍・中立 PER 14.8→19.78 倍)。
資本コスト 6.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality −0.5%(需要の安定 −0.25、認可と承認による値決め −0.25)を足して 7.0%。医薬の顧客依存と火薬工場の事故は k に足さず、悲観の筋書きで厚く見た。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 7.00% → 6.75%。