結論
日本特殊塗料は、車の中を静かにする会社だ。車体の振動を抑える制振材、音を吸う吸遮音材、床下の防錆塗料が主力で、売上のおよそ3分の2を占める。残りは防水材、塗り床材、航空機用の塗料などの塗料事業である。2026年3月期の売上は619億円、営業利益は40億円だった。
筆者の結論は、今の値段はほぼ妥当で、むしろ少し高いというものだ。確率で重みづけした本質価値は、今の時価総額を1割ほど下回る。理由は二つある。利益の4割ほどが、北米・中国・タイの合弁会社の持分利益で占められていること。そして、ROEが資本コストとほぼ同じで、稼いだ利益を会社にためても価値が増えにくいことだ。
事業そのものは堅い。音と振動の対策は車が電動化しても要る。取引先の設計に組み込まれる製品なので、価格だけでは切り替えられない。財務も、自己資本比率が70%で、借金より現金が多い。
ただ、成長の源が細い。主力の国内の車の生産は人口とともに減り、中国では日系メーカーが押されている。取引先は大手に偏り、毎年の値下げ要請も続く。会社は2030年3月期に売上800億円を掲げるが、筆者は数量が伸びない中で物価の分を全部は転嫁できないと見る。
救いは株主への姿勢が変わったことだ。持ち合い株を売り、総還元性向70%を掲げた。合弁の相手であるスイスの大手が14%超を持つ点も、将来の再編を考える材料になる。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社は長く持ちたい種類の事業とは少し違う。理由は、稼ぎの質と資本の使い道にある。
事業は10年後も残る。音と振動の対策は、車がどう変わっても要る。顧客の設計に組み込まれる性質もあり、競争で一気に崩れる事業ではない。ここは評価できる。
だが、オーナーの手元に残る利益は多くない。営業の益率は低く、自動車メーカーの値引きの圧力も強い。成長のために設備を更新する投資も、毎年の減価償却費をやや上回る。営業の稼ぎから投資を引いた後に残るものは、見かけの利益より小さい。連結の純利益の4割ほどを占める持分利益は、合弁会社が配当を出して初めて現金になる。会計上の利益と、手元に来る現金との間にずれがあることは、気に留めておきたい。
資本の使い方は、前向きに変わりつつある。持ち合い株の売却と、総還元性向70%の目標は、株主のものになる利益を増やす方向だ。ただ、前の中計ではROEの目標に届かなかった。言葉と実績の差を見るには、数年かかる。
安全域は、現金と合弁の持分がもたらす。悲観の筋書きでも、純現金と売れる資産で、今の時価総額の4分の1強は残る。それでも、今の値段が安全域を与えているとは言えない。稼ぐ力に見合った値段であり、割安と言えるほどの余白はない。筆者は、確実性が高いとは言えない分、倍率を保守的に置いた。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの柱は、自動車の静けさを売る事業だ。車体の鉄板に貼る制振材、床や天井に敷く吸遮音材、路面の小石から床下を守る防錆・耐チッピング塗料を、自動車メーカーに納める。売上の約3分の2がこの事業で、主な顧客はトヨタ自動車とされる(外部の企業分析による)。会社は顧客ごとの売上比率を詳しく開示していない。
この事業の売り方は、車種ごとの設計に組み込まれる形だ。新型車の開発段階で採用が決まり、車の寿命の間は同じ部品が使われる。価格は自動車メーカーが毎年見直しを求めるが、採用が決まった後で他社に替えるのは手間がかかる。1台あたりの売上は2万円に満たない。筆者はこの小さな単価が、値上げ交渉で不利に働くと見ている。
もう一つの柱が塗料事業で、売上の3分の1ほどだ。マンションや公共施設の屋上・外壁の防水材、工場や倉庫の床の塗り床材、航空機用の塗料を手がける。航空機用で培った塗料の技術が、防水や防音の機能材にも生きている。売上のうち、改修工事の施工が大きな割合を占める。案件の当たり外れで売上も益率も振れやすい。
見落とせないのが、連結の外にある合弁会社だ。北米のUGN、中国の日特固(広州)・天津日特固、タイのSNCとSRNは、いずれもスイスの大手Autoneum(旧Rieter)などとの合弁で、持分法で利益だけが入ってくる。売上は連結に出ないが、利益は経常利益の3割強に達する。
地域の顔ぶれも変わりつつある。中国は日系メーカーの不振で縮み、北米と東南アジア、インドに成長を求める。中計は北米の持分利益を1.7倍、東南アジアの売上と利益を2倍にする計画だ。
優良さと弱いところ
堀は中程度だ。強い堀とまでは言えない。制振材や吸遮音材は、自動車メーカーの設計に組み込まれた後は替えにくい。車の静かさは評価項目で、顧客も品質を落とせない。ここに堀がある。一方で、価格は顧客が決める。1台あたりの単価が小さいので、数円の値下げ要請でも益率に響く。
稼ぐ力は、ROEに表れている。この10年のROEの中央値は7%台で、資本コストの8%を下回る年が多かった。直近は8%台後半まで戻したが、それでも資本コストを少し超える程度だ。事業の益率は営業ベースで6%台と低く、自動車部品としては並みだ。ROEを支えているのは、自己資本が小さく利益が合弁の持分から入る形である。
利益の質には注意がいる。経常利益の3割強は持分法の利益で、営業のキャッシュではない。合弁会社が配当で現金を出さなければ、会社の手元には来ない。2026年3月期の純利益には、固定資産と有価証券の売却益も7億円ほど入っていた。ならすと、純利益は47億円前後と筆者は見る。
弱いのは顧客と地域の偏りだ。取引先が大手に偏り、中国の日系メーカーの不振がそのまま合弁の利益に響く。米国の関税も、トヨタ自動車の北米生産を通じて間接的に影響する。
一方で、経営の姿勢は改善している。取締役の任期を2年から1年に短縮し、社外取締役の比率を引き上げる。持ち合い株を売り、還元を厚くする方針も出した。前の中計ではROEが目標に届かなかった。今回の中計で本当に資本効率が上がるかは、これから確かめることになる。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
主力の自動車部品は、国内の車の生産に縛られる。日本の人口は減っており、国内で作る車の台数は長い目で見れば細る。日系メーカーは海外生産を増やしてきたので、日本国内の売上だけを見ていると成長が見えない。物価の分は部品の価格に乗せたいが、自動車メーカーは毎年の原価低減を求めるので、全部は転嫁できない。
ここで強い追い風になるのが電動化だ。エンジン音が消えると、風切り音やタイヤ音が目立つ。静かさが車の価値になり、吸遮音材と制振材の使用量が増える。電動車は電池が重く、車体を軽くしたい要請との折り合いも要る。軽くて音を抑える素材をつくれる会社が有利になる。この領域の競合は、スイスのAutoneum、国内の自動車部品大手、素材メーカーである。日本特殊塗料は合弁を通じて、その一角のAutoneumと組んでいる。
地域では、中国が大きな不安だ。日系メーカーの中国販売は電気自動車の台頭で落ち、中国の合弁の利益に響いている。北米は堅調で、関税の影響が見通せない。東南アジアとインドは車の台数が増える市場で、中計の成長の期待はここに置かれている。
塗料事業の市場は別の動きをする。国内のマンションは築年が進み、大規模修繕の需要は底堅い。防水材は、ダイフレックスや田島ルーフィングなどの専業と競う。工場の塗り床材も同じで、価格競争が激しい。国内の建築塗料市場は縮小しているが、改修と環境対応の需要が下支えする。航空機用塗料は認証の壁が高く、PPGやAkzoNobelといった世界大手の領域に日本から挑む形になる。
この会社の市場は、世界の塗料市場の6%成長とは別に考えたほうがよい。自動車用は台数が増えず、建築用は日本国内が中心だ。10年の数量は横ばいから微減が妥当で、成長は物価の分と、持分法の合弁会社の伸びから来る。
資本政策と M&A
資本政策は、この数年で大きく動いた。中計は5年間で営業キャッシュフロー360〜370億円を見込み、政策保有株の売却約60億円と借入を足す。使い道は成長投資約220億円と、株主還元160〜170億円だ。総還元性向は70%、配当性向は30%を目安とし、持ち合いが解ければ自社株買いも出す方針である。2025年11月には約6.6億円の自社株買いを実施した。
筆者がいちばん注目するのは、純現金98億円と、自己資本比率70%という厚さだ。これだけで見れば、還元余地は大きい。ただ中計は、現金のほぼ全てを成長投資と還元に割り当てており、余らせる気は見えない。成長投資のうち設備投資は約80億円で、北関東工場の新ラインなどに使う。仕入債務の支払サイトが短くなったことでも、現金は減っている。
M&Aの動きは今のところ見えない。むしろ注意したいのが、大株主の構成だ。合弁の相手であるスイスのAutoneum Holdingが14.44%で筆頭株主、関西ペイントが5.18%を持つ。合弁の出資比率と合わせると、Autoneumは日本特殊塗料の利益の大きな部分に関わっている。完全子会社化や合弁の再編が、10年のどこかで起きる可能性は否定できない。kabufuのシミュレーションでも、10年以内の買収の確率は20%と出ている。
再編が起きる場合、価格は買う側が決める。小規模で、持分法の資産が厚く、株主の姿勢が変わりつつある会社は、買い手にとって魅力がある。ただ筆者は、本質価値の中に再編のプレミアムを織り込まない。起きたときの上振れは、楽観の筋書きの外側に置く。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
静かさは、これから車の売り物になる。電気自動車ではエンジン音が消え、風切り音とタイヤ音が目立つ。吸遮音材と制振材の1台あたりの使用量が増え、単価も上がる。日本特殊塗料は、トヨタ自動車の設計に長く組み込まれてきた実績があり、モジュール型の製品で付加価値を取りにいく。中計は、再生材100%の部品や、生産性を2倍にする汎用ラインまで具体的に示している。
合弁会社の持分利益は、まだ伸びる余地がある。北米のUGNは、米国で車を作る日系メーカーに納めており、関税のもとでも現地生産は増える。東南アジアとインドは車の台数が増える市場で、中計はここの売上と利益を2倍にする計画だ。持分利益が増えても、連結の資本はほとんど要らない。利益だけが積み上がる。
株主への姿勢も変わった。持ち合い株を売り、総還元性向を70%に引き上げた。配当は1年で大きく増え、取締役の任期も短くなった。ROEが10%を超えれば、PBR1倍割れの解消も視野に入る。
塗料事業も、樹脂の内製化で原価を15〜20%減らせる。航空機用や風力ブレード用の塗料は、認証を取れば価格を決めやすい。合弁パートナーのAutoneumが筆頭株主として残り、再編があれば買収価格が上がる余地もある。
慎重な見方
この会社の成長を支える数量が、どこにも見当たらない。国内の車の生産は人口とともに減り、中国では日系メーカーの販売が電気自動車に押されて落ちている。中計は売上800億円を掲げるが、10年で車の台数が伸びない中で、物価の分の値上げを全部通せるとは考えにくい。自動車メーカーは毎年、部品価格の引き下げを求めてくる。
利益の4割は持分法の利益だ。合弁会社が稼いでも、配当で現金が届かなければ、連結の純利益は見かけだけになる。2026年3月期は売却益も約7億円入っていた。ならした利益は、公表の数字より小さい。
ROEは資本コストを超える水準に届いたことが少ない。前の中計でも、目標のROE10%に届かなかった。中計の総還元性向70%は、持ち合い株の売却益があって初めて成り立つ。売る株がなくなれば、配当を支える原資は営業の稼ぎだけになる。
取引先が少数に偏る点も弱い。トヨタ自動車の生産が落ちれば、直撃を受ける。中国の合弁は縮み、米国の関税の影響は計画に入っていない。合弁相手のAutoneumが、自社の戦略で合弁を再編すれば、持分利益の大半が一度に消えるおそれもある。
どちらに重みを置いたか
慎重な見方のほうが少し強い。電動化の追い風は本物だが、数量が伸びない中で、1台あたりの単価の上げ幅は自動車メーカーが決める。持分利益の質と、ROEが資本コストにほぼ並ぶ点も、倍率を高く置けない理由になる。
一方、強気の見方が持つ改善の芽、つまり持ち合い株の売却、還元の強化、塗料の益率改善は、実績が出れば確率を動かせる。そこで確率は中立に最も厚く置き、悲観側(やや悲観と悲観の合計)をやや多くした。結果は、本質価値が今の時価総額を約1割下回る、割高寄りの適正である。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 3,677 円783 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,597 円340 億円)。 今の値に割り戻すと 2,951 円629 億円、今との差 +14.0%、 期待の年率 +7.4%(資本コスト 7.2%)→ やや割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 7% | 6,324 円1,347 億円 | 2,113 円450 億円 | +225.7% | +12.5% | 591 円126 億円 |
| やや楽観 | 20% | 5,146 円1,096 億円 | 1,878 円400 億円 | +171.2% | +10.5% | 1,405 円299 億円 |
| 中立 | 36% | 4,304 円917 億円 | 1,690 円360 億円 | +131.4% | +8.8% | 2,158 円460 億円 |
| やや悲観 | 25% | 2,284 円486 億円 | 1,409 円300 億円 | +42.6% | +3.6% | 923 円197 億円 |
| 悲観 | 12% | 707 円151 億円 | 939 円200 億円 | −36.5% | −4.4% | 197 円42 億円 |
| 加重平均 | 100% | 3,677 円783 億円 | 1,597 円340 億円 | +103.6% | +7.4% | 5,274 円1,123 億円 |
今の株価時価総額 2,590 円552 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.2% を下回るほど割高。
楽観 7% 静かな電動車の時代に、合弁の利益が大きく伸びる 利益 82 億円 · PER 16.2 倍 · 株価時価総額 6,324 円1,347 億円
電気自動車は音が静かな分、風切り音やタイヤ音が目立つ。吸遮音材と制振材の1台あたりの使用量が増え、単価も上がる。日本特殊塗料はこの流れをモジュール型の製品で取り込み、トヨタ自動車以外の取引先も増やす。
北米のUGNと東南アジア、インドの合弁会社は中計の想定に近い伸びを見せ、持分利益は今の1.4倍ほどになる。塗料事業も、樹脂の内製化と首都圏の営業強化で益率が6%に届く。
10年後の営業利益は70億円ほどで、純利益は80億円を超える。合弁の利益が配当として現金で届き、還元は厚くなる。ただし資本コストをはっきり超える稼ぎではなく、倍率は伸びても12倍台にとどまる。
- 塗料関連(防水材・塗り床材・建築塗料・航空機用塗料):数量 28.8(材料・施工の出荷量(千トン換算))× 価格 1,115(1kgあたりの売上単価(円、施工費込みの換算))→ 売上 321 億円・営業利益 19 億円。数量1.15倍、価格1.36倍。益率6.0%(中計の目標)
- 自動車製品関連(制振材・吸遮音材・防錆塗料):数量 250(納入先の取扱台数(万台))× 価格 22,522(1台あたりの売上(円))→ 売上 563 億円・営業利益 51 億円。台数は横ばい。電動化で1台あたりの搭載が増え単価1.36倍。益率9.0%
倍率:事業の純利益 82 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.1% が k 7.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.7%、10 年より先の名目の伸び g 3.7% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.2 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.2 倍。全体の PER 16.22 倍、時価総額 1,330 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:電動化で吸遮音材の需要が増える筋書きと、合弁の持分利益が中計どおり伸びる筋書きが同時に実現する必要がある。重なる確率は低いとみて7%に置いた。
やや楽観 20% 中計にほぼ近い歩みを続ける 利益 71 億円 · PER 15.2 倍 · 株価時価総額 5,146 円1,096 億円
中計の数字におおむね近づく。塗料事業は大規模修繕の需要と塗り床材のシェア拡大で数量が少し伸び、益率は5%台半ばに上がる。
自動車事業は国内の生産台数が細り、中国の合弁も縮むが、工場の集約と自動化で益率は8%台に乗る。北米の合弁が堅調で、持分利益は今より3割ほど増える。
営業利益は60億円ほど、純利益は70億円ほどになる。会社が掲げる総還元性向70%に近い還元が続き、ROEは9%近くまで上がる。それでも資本コストをわずかに超える程度で、資本を厚くためる経営とは言えない。
筆者がこの筋書きで重く見るのは、持ち合い株の売却と還元が本当に続くかどうかだ。続けば、PBR1倍割れの状態が少しずつ解消へ向かう。
- 塗料関連(防水材・塗り床材・建築塗料・航空機用塗料):数量 27.0(材料・施工の出荷量(千トン換算))× 価格 1,099(1kgあたりの売上単価(円、施工費込みの換算))→ 売上 297 億円・営業利益 16 億円。数量1.08倍、価格1.34倍。益率5.5%
- 自動車製品関連(制振材・吸遮音材・防錆塗料):数量 243(納入先の取扱台数(万台))× 価格 21,694(1台あたりの売上(円))→ 売上 526 億円・営業利益 44 億円。台数0.97倍、単価1.31倍。益率8.4%(中計の目標)
倍率:事業の純利益 71 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.7% が k 7.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.0%、10 年より先の名目の伸び g 3.7% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.2 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.2 倍。全体の PER 15.16 倍、時価総額 1,075 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:会社は前の中計でROEが目標に届かなかった。ただ今回は政策保有株の売却と還元の数字を具体的に示しており、一定の実現力はあるとみて20%に置いた。
中立 36% 国内の車は細り、合弁の利益が下支えする 利益 63 億円 · PER 14.2 倍 · 株価時価総額 4,304 円917 億円
自動車事業は、国内の車の生産が細る流れの中で、横ばいから少し減る数量を、新ラインの効率化で支える。単価は物価ほどには上がらない。自動車メーカーが毎年の部品価格の引き下げを求めるからだ。
塗料事業は大規模修繕の底堅い需要に支えられ、数量は微増する。ただ工事を含む売上は案件の当たり外れが大きく、益率は4%台後半にとどまる。
営業利益は53億円ほどで、今の40億円から増える。純利益は合弁会社の持分利益が上乗せされ、60億円強になる。ROEは8%に届かず、資本コストとほぼ同じだ。還元は純利益のおよそ6割を続け、自己資本は少しずつ積み上がる。
- 塗料関連(防水材・塗り床材・建築塗料・航空機用塗料):数量 26.0(材料・施工の出荷量(千トン換算))× 価格 1,099(1kgあたりの売上単価(円、施工費込みの換算))→ 売上 286 億円・営業利益 14 億円。数量1.04倍、価格1.34倍。益率4.8%
- 自動車製品関連(制振材・吸遮音材・防錆塗料):数量 238(納入先の取扱台数(万台))× 価格 21,197(1台あたりの売上(円))→ 売上 503 億円・営業利益 39 億円。台数0.95倍、単価1.28倍(自動車メーカーの価格引き下げ要請で物価分を全部は転嫁できない)。益率7.8%
倍率:事業の純利益 63 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.7% が k 7.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 7.5%、10 年より先の名目の伸び g 3.7% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.2 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.2 倍。全体の PER 14.23 倍、時価総額 891 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:国内の車の生産は人口とともに細る。工事の振れと原価高もあり、塗料の益率が低いまま続く可能性が高い。そのためこの筋書きに最も厚く置いた。
やや悲観 25% 中国の合弁が縮み、自動車メーカーの値引き要求が強まる 利益 45 億円 · PER 9.0 倍 · 株価時価総額 2,284 円486 億円
中国で日系メーカーの販売が戻らず、合弁会社の持分利益が縮む。国内でも車の生産が減り、取引先の部品価格の引き下げ要請が強まる。単価は物価の半分ほどしか上がらず、数量も1割強減る。
政策保有株の売却が進むと、受取配当も細る。塗料事業は工事の採算が悪化し、益率は3%台にとどまる。
営業利益は36億円ほどと、今を下回る。純利益は45億円ほどで、ROEは6%を割る。還元は純利益の6割強を守れず、減配に近い水準へ下がる。資本を使って稼ぐ力が弱まり、倍率は式の上限よりかなり低い9倍ほどに置く。
電動化で吸遮音材の使用量が増えても、その分は部品の値下げ要請で相殺される。技術の優位が、利益の増加に結び付かない形である。
- 塗料関連(防水材・塗り床材・建築塗料・航空機用塗料):数量 23.8(材料・施工の出荷量(千トン換算))× 価格 1,066(1kgあたりの売上単価(円、施工費込みの換算))→ 売上 253 億円・営業利益 9 億円。数量0.95倍、価格1.30倍。益率3.5%
- 自動車製品関連(制振材・吸遮音材・防錆塗料):数量 220(納入先の取扱台数(万台))× 価格 20,203(1台あたりの売上(円))→ 売上 445 億円・営業利益 27 億円。台数0.88倍、単価1.22倍。益率6.0%
倍率:ROE約5.8%でkを下回る。ためた利益は額面を下回る価値しかないので、稼ぐ力に見合う9倍に置く。事業の純利益を資本コスト7.25%で割った水準を上限とみた。
確率:中国での日系メーカー不振は足元で現実になっている。国内の生産減と合わせ、利益が思うように伸びない筋書きの現実味は高いとみて25%に置いた。
悲観 12% 取引先の内製化と合弁の解消で、主力が細る 利益 16 億円 · PBR 0.3 倍 · 株価時価総額 707 円151 億円
取引先の国内生産が急減し、中国の合弁は清算に向かう。電気自動車では吸遮音材が車体と一体で設計されるようになり、部品単価の引き下げも続く。主力の自動車事業は台数が3割減り、益率は2%台に落ちる。
同時に合弁パートナーであるスイスの大手が、北米や中国の合弁を自社の戦略に取り込み、持分利益の大半が消える。塗料事業も国内の建築需要の縮小で数量が2割減る。
営業利益は11億円ほどに沈み、純利益は16億円ほどにとどまる。固定資産と合弁会社の減損も出る。会社に残る価値は、純現金と手放せる政策保有株、そして事業の稼ぐ力である。資産の質は高いが、成長はもう描けない。
- 塗料関連(防水材・塗り床材・建築塗料・航空機用塗料):数量 20.0(材料・施工の出荷量(千トン換算))× 価格 984(1kgあたりの売上単価(円、施工費込みの換算))→ 売上 197 億円・営業利益 3 億円。数量0.80倍・価格1.20倍。工事の採算割れで益率1.5%
- 自動車製品関連(制振材・吸遮音材・防錆塗料):数量 175(納入先の取扱台数(万台))× 価格 19,044(1台あたりの売上(円))→ 売上 333 億円・営業利益 8 億円。台数0.70倍、単価1.15倍。益率2.5%
倍率:赤字に近い構造的な負けの筋書き。事業の純利益16億円を資本コスト7.25%で割った約200億円より、純現金+売れる資産の税引後(約150億円)のほうが値付けの根拠が具体的なので、この床に置いた(今の自己資本602億円×0.25)。中立のPBRより低い。
確率:筆者はこの会社の技術と顧客との結び付きを評価しており、主力が構造的に崩れる確率は低いとみる。ただし取引先が少数に偏る分、起これば深い。そこで12%を置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
塗料関連(防水材・塗り床材・建築塗料・航空機用塗料)
マンションや公共施設の防水・塗り床の材料と施工、建築用塗料、航空機・風力ブレード用の塗料。工事の売上が大きい。
| 数量材料・施工の出荷量(千トン換算) | 価格1kgあたりの売上単価(円、施工費込みの換算) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 25.0 | 820 | 205 | 7 |
| 10 年後 中立 | 26.0 | 1,099 | 286 | 14 |
取り方:2026/03期のセグメント実績は確かめられなかった。2025/03期は塗料237億円・自動車423億円で、セグメント利益の合計が営業利益に一致していた。この関係と、2026/03期中間の塗料売上100.5億円(工事の減少で−17.5%)、通期の連結売上619億円・営業利益40億円から、塗料205億円・益率3.4%(利益7億円)と推定した。数量も推定で、防水材・塗り床材の平均単価を施工費込みで1kgあたり820(円換算)として逆算した。
自動車製品関連(制振材・吸遮音材・防錆塗料)
車体の振動と騒音を抑える制振材・吸遮音材、床下の防錆・耐チッピング塗料。主な顧客はトヨタ自動車(外部の企業分析による)。
| 数量納入先の取扱台数(万台) | 価格1台あたりの売上(円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 250 | 16,560 | 414 | 33 |
| 10 年後 中立 | 238 | 21,197 | 503 | 39 |
取り方:連結売上619億円から塗料205億円を引いた414億円を自動車とし、益率8.0%(利益33億円)とした。2025/03期の益率8.3%、2026/03期当初予想の5%台からの上振れを反映した推定。取扱台数250万台は国内と中国・東南アジアの連結子会社が納める台数の目安で、1台あたり約1.7万円(制振材・吸遮音材・防錆塗料の合計)として逆算した。持分法会社(UGNなど)の売上は含まない。
リスクと懸念
取引先の偏りと、自動車メーカーの値下げ要請
売上の約3分の2が自動車で、主な顧客はトヨタ自動車とされる。部品価格の引き下げが毎年続けば、物価の分を転嫁できず益率が下がる。顧客の生産が落ちた時の影響も大きい。
中国の日系メーカー不振
中国の日系メーカーの販売は電気自動車に押されて落ちている。連結の中国子会社の売上が減り、持分法の日特固(広州・天津)の利益も細る。回復の時期は見えない。
持分利益が現金にならない恐れ
経常利益の3割強は北米・中国・タイの合弁会社の持分利益だ。合弁会社が配当を絞れば、会計上の利益ほど株主に還元できない。合弁パートナーの方針転換にも左右される。
米国の関税
中計の期初予想は米国関税を織り込んでいない。トヨタ自動車の北米生産や北米合弁UGNを通じて、間接的に利益が削られる可能性がある。転嫁の交渉は取引先との力関係で決まる。
塗料事業の工事の振れと益率の低さ
塗料事業は改修工事の施工が売上の半分近くを占め、案件の当たり外れが大きい。2026年3月期は大型案件の反動で売上が減り、益率は3%台に下がった。中計の6%には距離がある。
持ち合い株の売却が終わった後の還元
総還元性向70%は、政策保有株の売却益に支えられている面がある。売る株が尽きた後も、営業の稼ぎだけで還元を維持できるかは確かめられていない。
合弁パートナーによる再編
スイスのAutoneumが14%超を持つ筆頭株主で、北米・中国の合弁相手でもある。合弁の再編や株式の売買が起きれば、持分利益の構造が大きく変わる。上にも下にも振れる。
今後の分かれ目
- 北米と東南アジア・インドの合弁会社の持分利益が、中計の想定(北米1.7倍・東南アジア2倍)に沿って伸びる
- やや楽観から楽観の確率を上げてよい。持分利益から連結へ配当が届いているかも合わせて確かめる。
- 自動車メーカーが部品価格の引き下げを強め、1台あたりの単価が物価の半分しか上がらない
- やや悲観の確率を上げる。自動車事業の益率が7%台前半に落ちれば、利益の伸びはほぼ消える。
- 中国の日系メーカーの販売が戻らず、日特固(広州・天津)の持分利益が半分以下に減る
- 持分利益の落ち込みを織り込み、中立から悲観の側へ確率を寄せる。
- 政策保有株の売却と自社株買いが計画どおり進み、総還元性向70%が営業の稼ぎだけで続く見通しが立つ
- 資本政策の評価が上がり、やや楽観の確率を厚くしてよい。
- 塗料事業の益率が、樹脂の内製化と首都圏の営業強化で6%に届く
- 塗料事業の利益を押し上げ、楽観の筋書きの現実味が増す。
- Autoneumが日本特殊塗料の株式を買い増す、または合弁の再編を提案する
- 価格の上振れと持分利益の構造変化の両面を確かめる。本質価値の数字には織り込まない。
見ておくもの
- 北米UGN・中国・タイの合弁会社の持分利益と、そこから届く配当
- 中国の日系メーカーの販売台数と、日特固(広州・天津)の稼働
- 米国の自動車関税の転嫁と、トヨタ自動車の北米生産
- 塗料事業の工事売上と益率(中計は266億円・益率6%)
- 政策保有株の売却額と自社株買いの実施額(中計で約60億円と還元160〜170億円)
- スイスのAutoneumの持株比率と合弁の取り扱いの変化
倍率と資本コストの決め方
2セグメントを、数量(塗料は出荷量、自動車は取扱台数)×価格で積んだ。価格は塗料を物価並みの1.34倍、自動車は自動車メーカーの値下げ要請を考えて1.28倍に置いた。倍率は式で出した。k7.25%、g4%、RONICはk+1/2×(ROE−k)。中立はROEが7.7%でkをわずかに下回るため、式の約12.3倍を上限に、持分利益の比重と一過性の売却益を考え約9割の11.2倍にした。今のPER(約11倍)やPBR(約0.9倍)は最後に確認しただけで、倍率には使っていない。純現金98億円は、中計が全額を投資と還元に割り当てているので分けず、悲観の床だけで使った。リースの約束の大きさは確かめられなかったが、新リース会計基準(2028/03期)で営業利益と負債の形が変わる点は、10年後の数字を今と同じ形で置いて揃えた。同じ領域の会社との比較では、k(8.0%)は中国塗料と同じ水準で、中立PERは日本ペイントより低い。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 12.5→16.22 倍・やや楽観 PER 11.7→15.16 倍・中立 PER 11.2→14.23 倍)。
資本コスト 7.2% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本7.5%に品質の加点0.5%。同じ領域の4社(k7.5〜8.2%)の中では、値決め力の弱さが中国塗料に近く、借金が軽い分だけ日本ペイントより低い。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.00% → 7.25%。