結論
東邦アセチレンは、東北を地盤にガスを配る小さな会社だ。主力は溶解アセチレン、酸素、窒素、LPGなどの供給で、売上の約6割を占める。ほかに溶接材料などの器具、飲食店向けのエスプーマ用ガス、製氷機を手がける。
筆者の結論は、今の時価総額は10年の本質価値とほぼ釣り合う、つまり適正に近いというものだ。割安の根拠は純現金の厚さで、時価総額の4割に当たる。一方、事業の稼ぐ力は低い。ROEは6〜7%で、資本コストをやっと超える程度にとどまる。
利益を伸ばす材料は二つある。食品向けのガス充填工場と製氷機の増設で、利益率の高い分野が育つ。そしてもう一つが株主還元だ。新しい中期計画は配当性向40%を目安とし、大株主の東ソーと光通信が合わせて45%を持つ。
ただし国内の産業ガスは飽和している。人口の減る東北が地盤で、大手の寡占のなか、数量は10年で1割ほど減ると見る。物価の分だけ価格が上がり、利益は横ばいに近い。割安とは言えない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点で見ると、この会社は事業よりも財務が主役だ。純現金が約60億円あり、時価総額の4割を占める。事業が仮に成長しなくても、現金の分だけ安全域がある。
ただ、現金は株主のものになるとは限らない。大株主が経営を握る会社では、現金が積み上がったまま使われないことも多い。筆者は、戻り方を4分の3で割り引いた。配当性向40%の方針が守られるかを、この数字の裏づけにしている。
事業の質は平凡だ。堀は小さく、成長は物価並みが上限で、ROEは6〜7%しかない。安全域は現金で足りても、現金以外の部分に高い倍率は払えない。
経営への評価は、食品・製氷への投資と還元方針の実行で決まる。これらが実現すれば価値は少し上がるが、今の値段はすでに期待をかなり織り込んでいる。
筆者がもう一つ気にするのは、現金の使われ方だ。買収で割高な代金を払う、設備を過大に作るといった失敗は、現金の厚い小さな会社でこそ起こりやすい。方針と実績が一致するまでは、現金の価値を満額では数えない。
何で稼ぐ会社か
事業は四つの柱で、稼ぎ方がそれぞれ違う。ガス関連は売上の約6割で、溶解アセチレン、酸素、窒素、アルゴン、水素、LPGを製造・仕入れて売る。2026年3月期は売上206億円、利益19億円で、会社の屋台骨にあたる。仙台近郊の多賀城工場が拠点だ。
器具器材は溶接材料と切断器具、LPG関連の機器で、売上は92億円と大きいが、利益は3億円足らず。自動車機器関連は生産ライン向けで規模が小さい。この二つは利益率が低く、数量は縮む方向にある。
利益の質が高いのは、エスプーマ関連と製氷機関連だ。エスプーマ関連は、飲食店で泡状の料理に使う亜酸化窒素などを売る。売上18億円で利益5億円と、利益率が3割近い。製氷機は子会社のタガワが漁協や食品メーカー向けに作り、売上は17億円と前期の1.5倍に伸びた。
つまり、売上の8割近くを占める低収益の事業が、利益の大半を生む少数の高収益事業を支える形だ。利益の半分近くを2割の売上が稼いでいる。この少数部分をどう伸ばすかが、会社の価値を決める。
従業員は連結で763人、提出会社は128人と少なく、本社は小さい。工場、営業所、子会社が現場で、売上の多くは東北・北海道・関東で上がる。取引先は製造業、建設、医療機関、飲食店、漁協と幅広く、特定の1社に頼る構造ではない。
優良さと弱いところ
強みは、地域に根を張った供給網と、財務の堅さだ。高圧ガスは保安規制が厳しく、容器の充填・配送を整えるには時間がかかる。東北と北海道の顧客は、近くに充填拠点を持つ会社から買う傾向が強く、そこが小さな堀になる。
しかし、堀として強いとは言いにくい。産業ガスの大手三社が全国で張り合い、価格交渉では分が悪い。器具器材は仕入れて売る商売で、他社に代えられやすい。筆者は堀を普通とみて、利益の質は中位とした。
資本効率は低い。過去10年のROEの中央値は約7%で、自己資本が積み上がるほど下がってきた。営業利益率は4〜6%で推移し、最高でも6%だ。純現金が自己資本の3割を占め、眠っているお金が数字を押し下げている。
経営は堅実だが、動きは遅い。ただ、近年は食品向けの充填工場や製氷機に投資し、利益率の高い分野を伸ばす方向がはっきりしてきた。この方向が続くかが、質の評価を変える。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
国内の産業ガスは成熟している。鉄鋼、化学、金属加工など、ガスを大量に使う製造業の国内生産は縮み、需要は人口と同じく緩やかに減る。東北・北海道は人口減が特に早く、地域の販売は厳しい。ただ、半導体や食品など使途が広がる分野は伸びる。
競争は大手の寡占だ。日本酸素、エア・ウォーター、大陽日酸系などが全国で供給し、地域の中小は専門と近さで守る。中小の販売会社は後継者難で、統合が進む。東邦アセチレンは売る側にも買う側にもなりうる。
エスプーマと製氷機は別の動きをする。外食の高付加価値化と人手不足で、調理を省力化する器材が伸びる。漁協や食品工場の製氷設備は更新需要が大きい。ただし製氷機は大型の案件が多く、売上は年によって荒れる。
LPGは天候に左右され、下期に利益が偏る。医療用ガスは入札で薬価の影響を受ける。電力や原油が上がれば原価が増えるので、価格転嫁が遅れる期は利益が削られる。物価が年3%で続く世界では、転嫁の速さが利益率を左右する。
地方の人口減は、需要だけでなく人手にも響く。ガスの配送には運転手と保安の有資格者が要り、採用難と賃金上昇が物流費を押し上げる。大手は配送の効率化で吸収できるが、地域の小さな会社は割高になりやすい。
資本政策と M&A
還元の方針は、新しい中期計画で配当性向40%を目安としたことだ。2026年3月期は中間・期末の2回配当で、性向は約38%に当たる。自社株買いは目立たない。現金は94億円あり、有利子負債は37億円だ。
大株主は東ソーが24.7%、光通信が間接で20.7%を持つ。東ソーは化学の取引先で、光通信は小型株に投資して株主還元を求めることで知られる。二つの大株主が同時にいることは、還元の圧力にも、買収の呼び水にもなる。
設備投資は2026年3月期に約16億円で、関東の食品添加用ガス充填工場とタガワの大型製氷装置が目玉だ。投資は利益率の高い分野に向いている。M&Aは、地域のガス販売会社を買う可能性が中心になる。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
中期計画の配当性向40%が実行されれば、現金は着実に株主へ戻る。大株主の光通信は還元を求める立場で、純現金が時価総額の4割という状態は、長くは続かない。自社株買いが加われば、1株あたりの価値はさらに上がる。
伸びるのは高収益の部分だ。エスプーマ関連は利益率3割、製氷機は更新需要が大きい。両部門の売上が35億円から50億円台へ伸びれば、全社の利益の半分以上を稼ぐ事業になる。関東の充填工場が動き出せば、食品向けの数量が増える。
地域のガス販売会社の統合も追い風だ。後継者難の中小を買えば、東北・北海道での供給網が厚くなる。買収で数量を維持できれば、国内の人口減を相殺できる。
電力コストの上昇も、転嫁ルールが整っていれば利益率の改善に働く。物価が年3%で続く世界では、固定のガス供給網を持つ会社が有利だ。
現金の厚い会社に、物言う株主が入った例では、10年のうちに大きな還元が実行された例が少なくない。純現金が時価総額の4割を占める会社が、このまま放置される確率は低い。
慎重な見方
国内の産業ガスは飽和し、人口の減る東北が地盤の会社に成長はない。大手の寡占のなか、価格交渉で押される。数量が10年で1割以上減れば、固定費の重い充填設備の採算が悪化する。
器具器材は利益率が3%に満たず、自動車機器と合わせて売上の3割を占める。この部分が縮めば、全社の利益は簡単に減る。自動車の生産ラインの海外移転は、自動車機器の需要を削る。
現金の使い道には不安が残る。大株主が2社いて、方向性が一致しないと意思決定が滞る。配当性向40%は方針に過ぎず、業績が悪ければ引き下げられる。現金が積み上がるだけなら、株主にとっての価値は小さい。
さらに、国内の産業ガスは電力や人件費といったコストの上昇に弱い。大手のように規模で吸収できず、小さな会社は利益率を守りにくい。物価が上がる世界で、価格転嫁の交渉力が弱い会社は、名目の売上が増えても実質の利益は増えない。
製氷機は大型案件で、売上が1年で5割伸びたが、反動で落ちることも多い。足元の増益は、一時的な案件の寄与が混ざっている可能性が高い。
どちらに重みを置いたか
事業の質は平凡で、慎重な見方が説得力を持つ。一方、純現金の厚さと配当性向40%の方針、二つの大株主の存在は、強気の見方に根拠を与える。
そのため、確率は中立にいちばん厚く置き、悲観側にも一定の幅を残した。現金の戻り方は4分の3に割り引き、事業の倍率は式の上限の8割に置いた。悲観は国内縮小と大手の攻勢が重なる構造的な負けとして、利益が半分以下になる筋書きを残した。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 846 円294 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 165 円57 億円)。 今の値に割り戻すと 548 円191 億円、今との差 +34.2%、 期待の年率 +9.5%(資本コスト 7.0%)→ 割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 1,423 円495 億円 | 236 円82 億円 | +306.5% | +15.1% | 166 円58 億円 |
| やや楽観 | 20% | 1,157 円403 億円 | 198 円69 億円 | +232.3% | +12.8% | 271 円94 億円 |
| 中立 | 42% | 902 円314 億円 | 172 円60 億円 | +163.3% | +10.2% | 451 円157 億円 |
| やや悲観 | 18% | 418 円145 億円 | 118 円41 億円 | +31.2% | +2.8% | 96 円34 億円 |
| 悲観 | 10% | 179 円62 億円 | 83 円29 億円 | −35.6% | −4.3% | 26 円9 億円 |
| 加重平均 | 100% | 846 円294 億円 | 165 円57 億円 | +147.7% | +9.5% | 1,011 円352 億円 |
今の株価時価総額 408 円142 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.0% を下回るほど割高。
楽観 10% 食品・製氷が育ち、還元も進む 利益 26 億円 · PER 17.5 倍 · 株価時価総額 1,423 円495 億円
食品添加用ガスの充填工場が稼働し、エスプーマ関連と製氷機関連の売上が50億円台に伸びる。ガスは電力コストの転嫁が進み、利益率が上がる。後継者難の地域のガス販売会社を買い、数量を維持する。配当性向40%を超える還元が続き、現金は着実に株主へ戻る。営業利益は約38億円。ガスの数量は人口減の中でも維持される。大株主の東ソーとも協力し、食品向けで売上を伸ばす。半導体や医療向けの高純度ガスにも販路が広がる。本社費は物価で1.34倍に増えるが、増えた売上で吸収する。資本は食品向けの設備と買収に使い、配当と自社株買いで余った現金を返す。純現金は半分以下に減る。この筋書きでは、大株主の存在が還元を後押しする側に働く。
- ガス関連:数量 21.7(ガス・LPGの出荷量(万t相当・推定))× 価格 14(1万t相当あたり売上(億円。名目))→ 売上 303 億円・営業利益 32 億円。数量1.05倍・価格1.40倍・営業利益率10.5%
- 器具器材・自動車機器・その他:数量 52.3(出荷点数(万点相当・推定))× 価格 2.76(1万点あたり売上(億円。名目))→ 売上 144 億円・営業利益 6 億円。数量1.00倍・価格1.38倍・営業利益率4.0%
- エスプーマ関連:数量 16.1(供給量(百t相当・推定))× 価格 2.07(1百t相当あたり売上(億円。名目))→ 売上 33 億円・営業利益 10 億円。数量1.35倍・価格1.38倍・営業利益率29.0%
- 製氷機関連:数量 45.9(納入件数(件・推定))× 価格 0.69(1件あたり売上(億円。名目))→ 売上 32 億円・営業利益 6 億円。数量1.35倍・価格1.38倍・営業利益率19.0%
倍率:事業の純利益 25 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.1% が k 7.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.0%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 17.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 17.5 倍 + 余った現金(戻り方込み)30 億円。全体の PER 17.51 倍、時価総額 476 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:食品・製氷の伸びと還元が重なる必要があり、条件は厳しい。
やや楽観 20% 高収益部門が伸び、配当性向40%を守る 利益 22 億円 · PER 16.6 倍 · 株価時価総額 1,157 円403 億円
中期計画に沿って高収益部門が伸びる。ガスの数量は横ばいで、物価の分だけ価格が上がる。器具器材は縮むが、食品・製氷が穴を埋める。配当性向40%は守られ、純現金は緩やかに減る。営業利益は約32億円。業界の再編で中小の販売網が集まり、シェアが少し上がる。製氷機の更新需要が続き、案件の谷は浅い。エスプーマの外食需要も底堅く、食品・製氷の利益率は2割を超える。本社費は物価で1.34倍に増える。投資は利益率の高い分野に向かい、更新の費用は建築費の上昇で膨らむが、自己資金で賄える。東ソーと光通信が還元を求め続け、現金は計画どおり減る。国内の需要減は高収益部門の伸びで補う。数量は横ばいを保つ。
- ガス関連:数量 20.6(ガス・LPGの出荷量(万t相当・推定))× 価格 14(1万t相当あたり売上(億円。名目))→ 売上 283 億円・営業利益 28 億円。数量1.00倍・価格1.37倍・営業利益率9.9%
- 器具器材・自動車機器・その他:数量 50.2(出荷点数(万点相当・推定))× 価格 2.72(1万点あたり売上(億円。名目))→ 売上 136 億円・営業利益 5 億円。数量0.96倍・価格1.36倍・営業利益率3.6%
- エスプーマ関連:数量 14.3(供給量(百t相当・推定))× 価格 2.04(1百t相当あたり売上(億円。名目))→ 売上 29 億円・営業利益 8 億円。数量1.20倍・価格1.36倍・営業利益率29.0%
- 製氷機関連:数量 44.2(納入件数(件・推定))× 価格 0.68(1件あたり売上(億円。名目))→ 売上 30 億円・営業利益 6 億円。数量1.30倍・価格1.36倍・営業利益率19.0%
倍率:事業の純利益 21 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.7% が k 7.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.4%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.6 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.6 倍 + 余った現金(戻り方込み)30 億円。全体の PER 16.63 倍、時価総額 380 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:中期計画どおりに高収益部門が伸びる筋書き。
中立 42% 数量はやや減り、価格は物価並み 利益 17 億円 · PER 15.5 倍 · 株価時価総額 902 円314 億円
国内のガス需要は人口とともに緩やかに減り、数量は10年で5%減る。価格は物価並みの1.34倍で、利益率は現在と同じ。器具器材は1割近く縮む一方、食品・製氷は15%伸びる。本社費は物価で1.34倍に増える。償却費は設備投資の更新で緩やかに増え、新規の分だけ新価格で積む。営業利益は約25億円で、現在の約1.3倍にとどまる。物価の分だけ名目の利益は増えるが、実質では横ばいである。電力費は価格調整で転嫁され、利益率の変化は小さい。ただし医療用ガスの入札と薬価の改定が重しになる。配当性向40%は守られる前提とし、現金は緩やかに減る。現金は配当で緩やかに減り、自己資本は積み上がるが、ROEは6%台にとどまる。
- ガス関連:数量 19.6(ガス・LPGの出荷量(万t相当・推定))× 価格 13(1万t相当あたり売上(億円。名目))→ 売上 263 億円・営業利益 24 億円。数量0.95倍・価格1.34倍・営業利益率9.3%
- 器具器材・自動車機器・その他:数量 48.1(出荷点数(万点相当・推定))× 価格 2.68(1万点あたり売上(億円。名目))→ 売上 129 億円・営業利益 4 億円。数量0.92倍・価格1.34倍・営業利益率3.1%
- エスプーマ関連:数量 13.1(供給量(百t相当・推定))× 価格 2.01(1百t相当あたり売上(億円。名目))→ 売上 26 億円・営業利益 8 億円。数量1.10倍・価格1.34倍・営業利益率29.0%
- 製氷機関連:数量 40.8(納入件数(件・推定))× 価格 0.67(1件あたり売上(億円。名目))→ 売上 27 億円・営業利益 5 億円。数量1.20倍・価格1.34倍・営業利益率18.0%
倍率:事業の純利益 17 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.2% が k 7.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 7.6%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.5 倍 + 余った現金(戻り方込み)30 億円。全体の PER 15.46 倍、時価総額 289 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:国内成熟と物価並みの価格。最も実現しやすい。
やや悲観 18% 転嫁が遅れ、器具が縮む 利益 11 億円 · PER 9.5 倍 · 株価時価総額 418 円145 億円
電力と原油の上昇を転嫁しきれず、ガスの利益率が8%に下がる。器具器材は価格競争で利益がほぼ消える。食品・製氷は横ばい。配当は性向35%に下がるが、現金は積み上がる。営業利益は約15億円。大型案件の谷が重なれば、一時的な赤字もありうる。製氷機の大型案件が反動で減り、売上が荒れる。病院向けの医療ガスは薬価改定で単価が下がり、利益を削る。本社費は物価で増えるが、売上が伸びないため吸収できない。配当は減らし、現金の取り崩しで投資を続ける。この筋書きでは利益率の低下と数量の減少が同時に起き、ROEは4%台に落ちる。大株主は様子見を続け、還元の追加はない。
- ガス関連:数量 18.6(ガス・LPGの出荷量(万t相当・推定))× 価格 13(1万t相当あたり売上(億円。名目))→ 売上 242 億円・営業利益 19 億円。数量0.90倍・価格1.30倍・営業利益率8.0%
- 器具器材・自動車機器・その他:数量 44.9(出荷点数(万点相当・推定))× 価格 2.56(1万点あたり売上(億円。名目))→ 売上 115 億円・営業利益 3 億円。数量0.86倍・価格1.28倍・営業利益率2.2%
- エスプーマ関連:数量 11.9(供給量(百t相当・推定))× 価格 1.92(1百t相当あたり売上(億円。名目))→ 売上 23 億円・営業利益 6 億円。数量1.00倍・価格1.28倍・営業利益率26.0%
- 製氷機関連:数量 34.0(納入件数(件・推定))× 価格 0.64(1件あたり売上(億円。名目))→ 売上 22 億円・営業利益 3 億円。数量1.00倍・価格1.28倍・営業利益率12.0%
倍率:悲観側は稼ぐ力で置く。事業の純利益÷k7%=約134億円に対し、PER9.5倍。余った現金は30億円に減る。
確率:電力・原油高の転嫁遅れと器具の縮小は過去にもあった。
悲観 10% 構造的な負け:国内縮小と大手の攻勢 利益 6 億円 · PER 8.0 倍 · 株価時価総額 179 円62 億円
国内の製造業が縮み、ガスの数量は2割近く減る。大手が地域に攻勢をかけ、価格も物価に追いつかない。器具器材は赤字寸前になり、製氷機も大型案件の反動で縮む。現金は取り崩しではなく、使い道のないまま滞る。営業利益は約8億円。減損と店じまいで一部の拠点を整理し、固定費を削って黒字を守る。配当性向は30%に下がる。大株主は動かず、買収も起きない。本社費を削っても、売上の落ち込みを埋めきれない。純現金は取り崩され、一部は減損と整理の費用に消える。大株主の2社は動かず、株主の取り分は事業の稼ぐ力で決まる。事業の資産は簿価を下回って評価され、株主の取り分は稼ぐ力と現金の合計に近づく。
- ガス関連:数量 16.9(ガス・LPGの出荷量(万t相当・推定))× 価格 12(1万t相当あたり売上(億円。名目))→ 売上 203 億円・営業利益 14 億円。数量0.82倍・価格1.20倍・営業利益率7.0%
- 器具器材・自動車機器・その他:数量 40.8(出荷点数(万点相当・推定))× 価格 2.30(1万点あたり売上(億円。名目))→ 売上 94 億円・営業利益 1 億円。数量0.78倍・価格1.15倍・営業利益率1.0%
- エスプーマ関連:数量 10.7(供給量(百t相当・推定))× 価格 1.73(1百t相当あたり売上(億円。名目))→ 売上 19 億円・営業利益 4 億円。数量0.90倍・価格1.15倍・営業利益率22.0%
- 製氷機関連:数量 27.2(納入件数(件・推定))× 価格 0.58(1件あたり売上(億円。名目))→ 売上 16 億円・営業利益 1 億円。数量0.80倍・価格1.15倍・営業利益率7.0%
倍率:悲観側は稼ぐ力で置く。事業の純利益÷k7%=約76億円に対し、PER8.0倍。余った現金は20億円に減る。
確率:国内製造業の空洞化と大手の攻勢が重なる構造的な負け。大株主2社の存在と純現金で、さらに悪い筋書きは置かない。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
ガス関連
溶解アセチレン・酸素・窒素・アルゴン・水素・LPGの製造・販売。
| 数量ガス・LPGの出荷量(万t相当・推定) | 価格1万t相当あたり売上(億円。名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 20.6 | 10 | 206 | 19 |
| 10 年後 中立 | 19.6 | 13 | 263 | 24 |
取り方:数量は開示がないため、売上206.4億円を製品ミックス(圧縮ガスとLPGの混合)の平均単価で割った推定。数量と価格の絶対水準は粗いが、10年の増減率に意味がある。
器具器材・自動車機器・その他
溶接材料・切断器具・LPG機器、自動車ライン向け機器、医療ガス配管工事。
| 数量出荷点数(万点相当・推定) | 価格1万点あたり売上(億円。名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 52.3 | 2.00 | 105 | 3 |
| 10 年後 中立 | 48.1 | 2.68 | 129 | 4 |
取り方:売上104.5億円(器具92.3・自動車9.5・その他2.7)を平均単価で割った推定。
エスプーマ関連
飲食店向けの食品添加用亜酸化窒素と食品関連器材。
| 数量供給量(百t相当・推定) | 価格1百t相当あたり売上(億円。名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 11.9 | 1.50 | 18 | 5 |
| 10 年後 中立 | 13.1 | 2.01 | 26 | 8 |
取り方:売上17.9億円(開示)を、ガスと器材の平均単価で割った推定の数量。
製氷機関連
漁協・食品メーカー向けの製氷・冷凍機械の設計・施工(タガワ)。
| 数量納入件数(件・推定) | 価格1件あたり売上(億円。名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 34.0 | 0.50 | 17 | 3 |
| 10 年後 中立 | 40.8 | 0.67 | 27 | 5 |
取り方:売上17.1億円(開示、前期比+54.7%)を平均的な案件規模0.5億円で割った推定の件数。
リスクと懸念
国内ガスの縮小
東北・北海道は人口減が早く、産業ガスは飽和している。数量が減ると、充填・配送の固定費が重くなる。大手との価格競争で、物価の分を転嫁しきれない期が出る。
電力・原油の上昇
アセチレンや窒素の製造は電力、LPGは輸入価格に左右される。転嫁が遅れる期は利益率が1ポイント以上下がりうる。
低収益部門の縮小
器具器材・自動車機器は売上の3割だが利益率は3%足らず。自動車の海外移転と価格競争で、売上と利益がさらに減る。
製氷機の案件の振れ
大型案件が多く、2026年3月期の売上は5割伸びた。反動で落ちる年があり、足元の増益をそのまま続くものと見ない方がよい。
大株主の意向
東ソー24.7%と光通信20.7%が同時にいる。還元と事業の方針が合わなければ、現金が使われないまま積み上がる。逆に買収の呼び水にもなる。
保安・災害
可燃性ガスを扱い、東日本大震災で被害を受けた。事故や地震で製造が止まれば、補償と信用の損失が出る。
今後の分かれ目
- 配当性向40%が2期続けて守られる
- 現金の戻り方を4分の3から1に近づけてよい。楽観の確率を少し上げる。
- エスプーマ・製氷機の売上が50億円を超える
- 高収益部門が全社の利益の半分を超え、利益率が上がる。楽観寄りに確率を移す。
- ガスの営業利益率が8%を割る
- 転嫁の遅れか価格競争の兆し。やや悲観の確率を上げる。
- 光通信か東ソーが持ち株を大きく動かす
- 買収・再編の可能性が上がる。筋書きは変えず、時価総額の上振れ要因として扱う。
- 純現金が増え続け、配当性向が3割を下回る
- 戻り方を0.5に下げる。
見ておくもの
- ガス関連・エスプーマ・製氷機の売上と利益
- 配当性向と純現金の推移
- 電力・LPG価格の転嫁の動き
- 大株主の持ち株の変化
倍率と資本コストの決め方
倍率は正当化PER(事業のROE約9%、k7%、g3.5%で約13.6倍)の約8割に置いた。今の株価・過去のPERは使っていない。現金は戻り方0.75で足した。数量は売上からの推定で粗いが、10年の増減率と価格1.34倍は国内の成熟需要の考えに沿う。新リース会計基準で数字の形が変わる点は、今と同じ形で置いた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 13.5→17.51 倍・やや楽観 PER 12→16.63 倍・中立 PER 11→15.46 倍)。
資本コスト 7.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。