結論
住友精化は、紙おむつ用の吸水性樹脂を柱とする化学会社だ。売上の約 8 割、営業利益の約 8 割をこの 1 つの製品が稼ぐ。残りは、半導体向けの特殊ガスや医薬の中間体などの機能マテリアルである。筆者の結論は「やや割高」。悪い会社ではないが、今の利益は山の近くにあり、10 年後の姿を割り引くと今の値段に届かない。
理由は 2 つある。1 つめは、吸水性樹脂の利益率が過去最高圏にあることだ。前の期の営業利益は 145 億円で、為替の円安と原燃料の下落が押し上げた。会社自身が今期の営業利益を 110 億円と、前期より 24% 少なく見ている。
2 つめは、この製品が差をつけにくいことだ。中国勢の新規参入で供給が余り、三洋化成工業は撤退し、エボニックは事業を手放した。日本触媒のように原料のアクリル酸から自前で作る大手もいる。住友精化は粒をそろえる技術で紙おむつ向けの上位品に絞っているが、値段を決める側ではない。
救いは、資本の使い方が変わることだ。自己資本比率は 68% と高く、ROE が 8% に届かない。新しい中期経営計画は、自己資本比率を 50〜60% に下げ、配当は株主資本の 4.5% 以上を出すと決めた。これで資本効率は上がるが、利益の伸びが増えるわけではない。
10 年後の中立の時価総額は今の 1.2 倍ほど。配当を足しても年率は資本コストの 8.3% に届かない。筆者は、安全域のない値段と見ている。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社は「悪くないが、買いたいと思える値段ではない」と見る。事業は 10 年後もなくならない。紙おむつは世界で増え、品質のそろった樹脂は必要とされ続ける。だが、持ち続けたいと思える強みは、まだ見えない。
理由は、堀の浅さだ。吸水性樹脂は技術が行き渡り、中国勢が低価格品で押し寄せ、同業の何社かは撤退した。値段を決める力は弱く、利益は原料と為替という外の要因で大きく振れる。株主が自由に使えるお金の面でも、設備投資がたえず必要で、残る分は多くない。
資本の使い方は評価できる点と、これからの点がある。借金がなく財務は固い。しかし自己資本が 10 年で 1.8 倍に膨らみ、稼ぎの効率は下がった。会社はようやくそれを直す方針を出した。これは前向きだが、実績が伴うまでは判断を保留する。
安全域、つまり払う値段と価値の差の厚みも見る。10 年後の中立で、配当を含めても資本コストを満たさない。バリュー投資家が待つのは、利益が一時的に落ち、株価がそれ以上に下がった局面だ。今は、その局面ではない。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの源は吸水性樹脂だ。水を自重の数百倍も吸い込む粒状の樹脂で、紙おむつや生理用品の中身になる。前の期の売上は約 1,160 億円で、全社の 8 割を占める。住友精化は国内の姫路、シンガポール、韓国に工場を持ち、能力は年 52 万トンに達する見込みだ。
作り方に特徴がある。水に溶かした原料を油の中で粒にする逆相懸濁重合で、1 回ごとに作るバッチ式だ。粒の大きさを調整しやすく、薄くても漏れにくい子ども用おむつなど、単価の高い用途に向く。日本触媒のように原料から一貫で作る体制は、公開された資料では確認できない。原料の市況の影響を受けやすく、安い時は利益が膨らみ、高い時は削られる。
もう 1 つが機能マテリアルほかで、売上は 320 億円ほど。柱は半導体向けの高純度ガスで、1970 年代に半導体用のアンモニアを開発した。成膜やエッチングに使う一酸化窒素や塩化水素なども扱う。そのほか医薬中間体、ラテックス、ガス発生装置などがある。
この部門は、前の中計で売上 400 億円・営業利益 45 億円を掲げたが、実績は 322 億円・29 億円と大きく届かなかった。会社は一部の製品から撤退して絞り込む方針だ。利益率は吸水性樹脂と同じ 1 割前後で、稼ぎの太さでは吸水性樹脂に及ばない。
顧客の面では、紙おむつメーカーという少数の大口に売る構造と見られる。大口は調達先を分けて値段を競わせやすく、数量の増減が利益率に響く。
優良さと弱いところ
この会社の強みは、技術と安定した品質を求められる用途に絞っていることだ。逆相懸濁重合は粒度を細かく調整でき、子ども用おむつの上位品で選ばれる。ただし、堀、つまり他社がまねできない強みと呼べるほど深くはない。三洋化成が技術の汎用化を理由に撤退したように、品質の差は縮みやすい。
財務は固い。自己資本比率は 68%、純有利子負債はほぼゼロ、利息は営業利益の 45 倍を払える。この 10 年、赤字の期もない。
ただし資本の効率は低い。ROE は 10 年の中央値で 7.4%、前期でも 7.4% だ。利益を毎年たくわえ、自己資本が 10 年で 1.8 倍に膨らんだ一方、投下した資本の稼ぎ(ROIC)は 8% で横ばいだった。会社自身が、これを「急務」と認めている。
利益の質にも注意がいる。前の期の営業利益は、為替の円安と原燃料の下落という外の力で伸びた。吸水性樹脂の営業利益は 3 年で 2 倍になったが、販売数量は計画に届いていない。つまり、実力で稼ぎ方が変わったというより、スプレッド(売値と原料の差)が広がった面が大きい。
機能マテリアルも、前の中計では大幅な未達で、撤退と絞り込みが続く。株主の面では、住友化学が約 3 割を持つ関連会社で、独立性は高くない。経営の舵取りは堅実だが、攻めの資本配分の実績はこれからだ。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
吸水性樹脂の市場は、紙おむつの普及とともに伸びてきた。世界の需要は年 3〜5% の伸びが見込まれ、中心はインドや東南アジアだ。国内は少子化で出荷が減り、2023 年は前年比 5% 減だった。住友精化もシンガポールの設備を 2 倍にして、成長するアジアに軸足を移している。
問題は供給の側にある。中国では新規の参入が相次ぎ、国内の需要を超えた分が日本や東南アジアに流れ込んで、価格競争を呼んだ。三洋化成工業は 2017 年度から赤字が続き、事業から撤退した。エボニックも投資会社に売却した。弱い会社が去ることで、残る側は少し楽になる。
競合の顔ぶれは、日本触媒(能力約 71 万トン、プロピレンからアクリル酸、樹脂まで一貫)、BASF(アクリル酸世界最大手)、そして中国の新興勢だ。原料を自前で持つ会社は、原料高でも値段を支えやすい。住友精化は、原料の市況と円安に利益が振れやすい。
機能マテリアルの属する半導体ガスは、半導体投資の周期とともに動く。2 年から 4 年の周期で山と谷を作るが、AI 向けの投資は底を支える。10 年では成長する市場だが、住友精化の位置づけは中堅で、先端ガスで世界大手と戦う規模ではない。
原料のナフサは、中東情勢で 2026 年に荒れた。原料高を売値に移すには時間がかかる。この時間差が、期ごとの利益の乱高下を作る。
資本政策と M&A
資本政策は、いま大きく変わる途中にある。2026 年 8 月に発表した新中期経営計画の骨子で、自己資本比率を 50〜60% に下げる方針を示した。今は 68% で、10 年前の 55% から上がりすぎたと会社自身が認めている。余った現金を成長投資と還元に回す。
還元の約束も変わった。配当は、配当性向 30% 以上に加え、株主資本配当率(DOE)4.5% 以上を条件にした。今期の配当は前の期から 6 割ほど増える予定だ。自社株の消却も決まった。ただし自社株買いの額は示されていない。
成長投資の中心は、シンガポールの吸水性樹脂の増設(約 240 億円)で、完成は 2025 年度中の予定だった。2030 年度の目標は、売上 2,000 億円、営業利益 175 億円、ROE 10%。自社の力で伸ばす前提で、M&A は入れていない。
買われる側の可能性もある。住友化学が約 3 割を持つ筆頭株主で、同社は資産の売却を進めてきた。住友精化株を手放すとの報道は見つかっていないが、10 年では選択肢に入りうる。データ上も、10 年以内に TOB や買収が起きる確率は 25% ほどとされる。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
吸水性樹脂の利益は、山ではなく、新しい水準だ。前の期の営業利益は過去最高だが、背景には、住友精化の価格転嫁の技術と、上位品への絞り込みがある。三洋化成とエボニックが去り、残る側は商談が増える。シンガポールの新設備が動き、インドと東南アジアの子ども用おむつの需要を取りに行く。能力 52 万トンが埋まれば、数量は今の 1.4 倍が見える。
資本の使い方の変化も、評価を変える。自己資本比率が 50〜60% まで下がり、配当は株主資本の 4.5% 以上が下限になる。余った現金が株主に戻れば、ROE は 10% に近づく。会社は 2030 年度の営業利益 175 億円を掲げ、前の期より 2 割多い。
機能マテリアルは、半導体投資の拡大が追い風になる。AI 向けの先端工場でガスの使用量は増え、撤退で絞り込んだ分、利益率が上がる。さらに住友化学が保有株を手放せば、事業会社が買い手に名乗りを上げる可能性もある。株主還元と事業の改善が重なる場合、10 年後の時価総額は今の 2 倍を超える。
慎重な見方
前の期の利益は、為替の円安と原燃料の下落が作った山だ。会社自身が今期の営業利益を 24% 減と見ているのが、それを物語る。吸水性樹脂の営業利益は 3 年で 2 倍になったが、数量は計画に届かなかった。数量が伸びずに利益だけが上がったなら、元に戻る力が働く。
供給の側も重い。中国は新規の参入が止まらず、余った分が日本と東南アジアに流れてくる。三洋化成が赤字で撤退したのは、日本の大手でも採算が合わなかったということだ。日本触媒は原料から一貫で作り、71 万トンの能力で攻めてくる。値下げ競争になれば、原料を一貫で持たない側はコストの差を埋めにくい。
シンガポールの増設は 240 億円で、能力が増えるほど稼働率の管理が難しくなる。機能マテリアルは前の中計で大幅に未達だった。2030 年度の ROE 目標 10% も、利益が約 6 割増える前提で、為替が今より円安のまま続くことが条件に入る。
ROE が資本コストに届かない会社に、高い倍率は付かない。株主に戻す約束が増えても、それは利益の伸びではなく、自己資本の縮小で ROE が上がって見えるだけだ。
どちらに重みを置いたか
強い方は、慎重な見方だ。利益が外の要因で振れる性質と、この製品が価格で勝ちにくい点は、会社の説明では覆らない。一方、資本の使い方が変わる点は本物で、価値が大きく崩れることを防ぐ。
確率は、中立を 4 割弱に置いたうえで、やや悲観をやや厚くした。楽観は、新設備が埋まり、中国勢が静まり、資本効率が高まる姿だが、いくつもの条件がそろう必要がある。悲観は、価格競争が深まり、増設が重荷になる姿で、10 分の 1 ほどに見る。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 1,992 円1,276 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 922 円591 億円)。 今の値に割り戻すと 1,550 円993 億円、今との差 +6.7%、 期待の年率 +7.2%(資本コスト 8.0%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 7% | 4,136 円2,650 億円 | 1,248 円800 億円 | +270.8% | +14.0% | 377 円242 億円 |
| やや楽観 | 21% | 3,113 円1,995 億円 | 1,124 円720 億円 | +191.8% | +11.3% | 890 円570 億円 |
| 中立 | 38% | 2,137 円1,369 億円 | 1,014 円650 億円 | +117.0% | +8.1% | 1,198 円767 億円 |
| やや悲観 | 23% | 815 円522 億円 | 702 円450 億円 | +4.5% | +0.4% | 349 円224 億円 |
| 悲観 | 11% | 445 円285 億円 | 468 円300 億円 | −37.1% | −4.5% | 100 円64 億円 |
| 加重平均 | 100% | 1,992 円1,276 億円 | 922 円591 億円 | +100.6% | +7.2% | 2,913 円1,867 億円 |
今の株価時価総額 1,452 円930 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.0% を下回るほど割高。
楽観 7% 新設備が埋まり、価格競争が静まる 利益 178 億円 · PER 14.9 倍 · 株価時価総額 4,136 円2,650 億円
インドと東南アジアの子ども用おむつが伸び、シンガポールの新設備がほぼ埋まる。三洋化成とエボニックが去った後の商談を取り込み、数量は今の 1.45 倍になる。価格は物価を少し上回る。
中国勢は供給過剰を整理して値下げを止め、吸水性樹脂の営業利益率は 9.5% と、今の高い水準をほぼ保つ。機能マテリアルは、半導体ガスの需要増と製品の絞り込みで、営業利益率が 13% まで上がる。営業利益は今の 2 倍になる。
資本の使い方も会社の計画どおり進む。自己資本比率は 50% 台に下がり、配当と自社株買いの総額は利益の 6 割を超える。ROE は 12% 近くになる。住友化学の持ち株を買い取る事業会社が現れるなど、上振れが重なった姿である。
数量の中身は、世界の需要が年 4% 台で伸び、住友精化が少しシェアを取る形だ。値段は物価並みより上で、上位品の比率が上がる効果が乗る。それでも倍率は、成熟した会社の水準にとどめた。
- 吸水性樹脂:数量 580(販売量(千トン・推定))× 価格 4.06(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 2,357 億円・営業利益 224 億円。売上 2357 億円・営業利益率 9.5%
- 機能マテリアルほか:数量 400(関連市場(実質・億円)× シェア)× 価格 140.0%(価格指数(今 1.00、物価 3% で 10 年 1.34))→ 売上 562 億円・営業利益 73 億円。売上 562 億円・営業利益率 13.0%
倍率:事業の純利益 178 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.8% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.9%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.9 倍。全体の PER 14.89 倍、時価総額 2,650 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:中国勢の供給が落ち着き、増設が埋まり、資本効率の改善も進む。3 つがそろう必要があり、10 年でも起きにくい。
やや楽観 21% アジアの需要を取り、利益率が高めに保たれる 利益 143 億円 · PER 14.0 倍 · 株価時価総額 3,113 円1,995 億円
吸水性樹脂の数量は年 3% 強で増え、新設備はおおむね埋まる。値段は物価並みに上がり、営業利益率は 8.5% を保つ。今の 9.9% よりは下がるが、前の 3 年の平均よりは高い。
機能マテリアルは、半導体ガスが伸び、不採算品の撤退が効いて利益率が 11.5% に上がる。営業利益は今の 1.65 倍になる。全社の営業利益は 240 億円ほどで、会社の 2030 年度目標をその先で超える姿だ。
資本の効率は、会社が目標とする ROE 10% を少し超える。配当は DOE の下限を守り、自社株買いも加わる。強気ではあるが、中国勢の価格攻勢が続く前提は残している。
数量は、新興国の紙おむつの普及と上位品への切り替えが支える。為替は 150 円のまま動かさず、円安の追い風は織り込まない。
- 吸水性樹脂:数量 550(販売量(千トン・推定))× 価格 3.89(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 2,139 億円・営業利益 182 億円。売上 2139 億円・営業利益率 8.5%
- 機能マテリアルほか:数量 370(関連市場(実質・億円)× シェア)× 価格 134.0%(価格指数(今 1.00、物価 3% で 10 年 1.34))→ 売上 497 億円・営業利益 57 億円。売上 497 億円・営業利益率 11.5%
倍率:事業の純利益 143 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.1% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.0%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.9 倍。全体の PER 13.95 倍、時価総額 1,995 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:会社は新設備と資本政策の両方で数字を出しており、上に振れる材料が確かにある。ただし為替と原料の追い風頼みの部分が大きい。
中立 38% 数量はアジアで伸び、値段は物価に届かず利益率は平らに 利益 108 億円 · PER 12.7 倍 · 株価時価総額 2,137 円1,369 億円
吸水性樹脂の数量は年 2.7% ほどで増え、新設備が埋まる。値段は原料と人件費の上昇を受けて上がるが、中国勢の競争で物価の 3% には届かず、10 年で 1.3 倍にとどまる。営業利益率は 7% と、過去 10 年の平均に近い。
機能マテリアルは、半導体ガスが伸びる一方、撤退した製品の分を埋めきれず、数量は今の 1.05 倍ほど。営業利益率は 9.5% で、今とほぼ同じである。
営業利益は今の 1.25 倍で、年 2% ほどの伸びだ。ここに物価の分は入るが、利益率の低下がそれを削る。配当は DOE の下限に沿って増え、ROE は 8% 台に上がる。優良に近いが、成長を買う会社ではない。
今の利益率 9.9% が続かないのは、為替と原燃料の追い風が永遠でないからだ。会社自身が今期を 24% 減益と見ていることも、この置き方を支える。
- 吸水性樹脂:数量 520(販売量(千トン・推定))× 価格 3.77(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 1,962 億円・営業利益 137 億円。売上 1962 億円・営業利益率 7.0%
- 機能マテリアルほか:数量 340(関連市場(実質・億円)× シェア)× 価格 134.0%(価格指数(今 1.00、物価 3% で 10 年 1.34))→ 売上 457 億円・営業利益 43 億円。売上 457 億円・営業利益率 9.5%
倍率:事業の純利益 108 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.2% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.1%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.7 倍。全体の PER 12.68 倍、時価総額 1,369 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:数量は市場並みに伸びる一方、供給過剰で値段は物価に届かない。為替・原料の追い風が薄れて、利益率は 10 年の平均に戻る筋書き。
やや悲観 23% 中国の安値が定着し、新設備の稼働が重くなる 利益 58 億円 · PER 9.0 倍 · 株価時価総額 815 円522 億円
中国勢の低価格品が日本と東南アジアに定着し、吸水性樹脂の値段は物価の半分ほどしか上がらない。数量は年 1.6% 程度で、新設備の稼働率が上がりきらない。営業利益率は 4.5% に落ちる。
機能マテリアルは、撤退の後に残った製品の競争力が弱く、数量が減る。営業利益率は 6% で、半導体ガスの伸びを打ち消す。
営業利益は 100 億円を割り、今の 3 分の 2 ほどになる。配当は DOE の下限を守るため利益の大半を使い、ROE は 5% を切る。倍率は低い ROE にふさわしく縮み、時価総額は今を下回る。
三洋化成が赤字を続けて撤退したのと同じ圧力が、住友精化にも及ぶ姿だ。ただ、純現金と固い財務があるので、会社の存続は揺らがない。
- 吸水性樹脂:数量 470(販売量(千トン・推定))× 価格 3.54(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 1,664 億円・営業利益 75 億円。売上 1664 億円・営業利益率 4.5%
- 機能マテリアルほか:数量 300(関連市場(実質・億円)× シェア)× 価格 125.0%(価格指数(今 1.00、物価 3% で 10 年 1.34))→ 売上 376 億円・営業利益 23 億円。売上 376 億円・営業利益率 6.0%
倍率:ROE 4.6% が k 8% 以下なので、PER の上限は 1÷k の 12.1 倍。ためた利益は額面未満の価値しか生まない。値下げ競争で利益率が構造的に下がる筋書きで、上限より低い 9 倍に置いた。
確率:中国の供給過剰と値下げは現に起きており、為替の追い風もいつまでも続かない。10 年なら十分ありうる。
悲観 11% 構造的な負け:安値競争に押され、増設が重荷になる 利益 27 億円 · PBR 0.3 倍 · 株価時価総額 445 円285 億円
中国勢の価格攻勢が続き、吸水性樹脂の値段は物価の 3 分の 1 しか上がらない。日本や東南アジアの顧客を失い、数量は今を上回れない。シンガポールの新設備は埋まらず、減損を迫られる。営業利益率は 2.5% まで落ちる。
機能マテリアルも、撤退した後の製品が育たず、利益はほぼ消える。営業利益は今の 3 割に満たない。
それでも純現金は残り、倒産には遠い。ただ、10 年かけて価値が伸びず、配当も下限に近づけない苦しい展開である。評価は、稼ぐ力ではなく、売れる資産と今の自己資本で測る。
優良な会社としての評価は残らない。紙おむつの需要は残るが、その利益は、原料を一貫して持つ大手と中国の新興勢に取られる。
- 吸水性樹脂:数量 400(販売量(千トン・推定))× 価格 3.19(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 1,277 億円・営業利益 32 億円。売上 1277 億円・営業利益率 2.5%
- 機能マテリアルほか:数量 270(関連市場(実質・億円)× シェア)× 価格 115.0%(価格指数(今 1.00、物価 3% で 10 年 1.34))→ 売上 311 億円・営業利益 9 億円。売上 311 億円・営業利益率 3.0%
倍率:ROE が 3% を切る構造的な負けで、優良ではない。稼ぐ力(純利益 27 億円÷k = 約 330 億円)より、売れる資産の税後(約 285 億円)のほうが値付けの根拠が具体的なので、この床に置いた(今の自己資本 1,036 億円に 0.275 倍)。
確率:中国勢の供給過剰が深まり、日本の大手でも採算が合わず撤退した例が実際にある。新設備の償却が重なれば現実的な最悪の姿。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
吸水性樹脂
紙おむつ・生理用品・ペットシートなどに使う粒状の吸水性樹脂(SAP)。逆相懸濁重合のバッチ式で、子ども用おむつの上位品が中心。姫路・シンガポール・韓国で生産。
| 数量販売量(千トン・推定) | 価格1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 400 | 2.90 | 1,161 | 115 |
| 10 年後 中立 | 520 | 3.77 | 1,962 | 137 |
取り方:販売数量は開示されない。生産能力が 2025 年度中に 52 万トン(シンガポール増設前は約 45 万トン)で、前の中計で販売数量が計画に届かなかったことから、稼働率 9 割弱の約 40 万トンと推定した。売上 1,161 億円を割って 1 千トンあたり約 2.9 億円(1 キログラムあたり約 1.9 ドル)になる。為替・原料の追い風で営業利益率は 9.9% と過去最高で、2022 年度は 5.0%。
機能マテリアルほか
半導体向けの高純度ガス(アンモニア・一酸化窒素・塩化水素など)、医薬中間体、ラテックス、ガス発生装置など。一部は撤退・絞り込み中。
| 数量関連市場(実質・億円)× シェア | 価格価格指数(今 1.00、物価 3% で 10 年 1.34) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 321 | 100.0% | 322 | 29 |
| 10 年後 中立 | 340 | 134.0% | 457 | 43 |
取り方:電子材料ガス・医薬中間体・ラテックスなど、開示は金額のみで製品別の数量が無い。関連市場を今の値段で約 5,000 億円、住友精化のシェアを約 6.4% と推定した(市場の幅が大きく、確度は低い)。物価の分は価格指数に分けた(2022 年度は 375 億円・営業利益 51 億円、前の中計の目標は 400 億円・45 億円)。
リスクと懸念
今の利益率が山にある
吸水性樹脂の営業利益率は 9.9% と、2022 年度の 5.0% の約 2 倍。為替の円安と原燃料の下落という外の力が押し上げた。会社自身が今期を 24% 減益と見ている。元の水準に戻れば、売上が伸びても利益は増えない。
中国の供給過剰と値下げ
中国では吸水性樹脂の新規参入が相次ぎ、余った分が日本や東南アジアへ流れ込んでいる。三洋化成工業は赤字で撤退し、エボニックも事業を手放した。上位品に絞っても、値下げ競争は避けにくい。
1 つの製品への集中
売上と営業利益の約 8 割が吸水性樹脂で、顧客は紙おむつメーカーという少数の大口と見られる。大口の調達方針が変われば、数量が一度に動く。機能マテリアルは小さく、穴を埋めきれない。
増設の稼働率
シンガポールの増設は約 240 億円で、能力は年 52 万トンになる。需要が計画より遅れると、固定費の重さで利益率が下がる。償却が始まる局面で、減損のリスクもある。
機能マテリアルの伸び悩み
前の中計で売上 322 億円・営業利益 29 億円と、目標の 400 億円・45 億円に届かなかった。半導体向けガスは投資の周期に連動し、一部の製品は撤退が決まっている。再建が思うように進まない場合、全社の伸びが鈍る。
資本効率の約束が実行されるか
自己資本比率を 50〜60% に下げ、DOE 4.5% 以上を出すとした。ただし利益を伸ばす話ではなく、実行は成長投資と還元の配分で決まる。M&A で資本を使えば、失敗のリスクも抱える。
筆頭株主の動き
住友化学が約 3 割を持つ筆頭株主で、同社は資産の売却を進めている。保有株の売却や再編が起きれば、需給と経営方針に影響が出る。TOB の確率は 25% ほどとされ、起きた時の価格は筋書きの外になる。
今後の分かれ目
- 吸水性樹脂の営業利益率が 4 四半期続けて 9% を超えて保たれたら
- 原料と為替の追い風でなく構造の改善とみて、中立の利益率を上げ、楽観側の確率を引き上げる。
- 中国勢の低価格品の流入が止まり、東南アジアの売値が上がり始めたら
- 価格の前提を物価並みに上げ、やや楽観に寄せる。
- シンガポールの新設備の稼働率が 8 割を超えたら
- 数量の前提を上げ、増設が重荷になる悲観の確率を下げる。
- 大口顧客の調達先の見直しで、数量が急に減ったら
- 数量の前提を下げ、やや悲観・悲観に寄せる。
- 自社株買いが数百億円の規模で発表されたら
- 還元の前提を上げる。ただし利益は変わらず、本質価値の変化は小さい。
- 住友化学が保有株の売却や再編を発表したら
- 買い手の顔ぶれを見て、TOB を含む筋書きを加える。経営の自由度が変われば確率も見直す。
見ておくもの
- 吸水性樹脂の営業利益率(為替と原料の影響を除いた動き)
- シンガポールの新設備の稼働と減損の有無
- 中国勢の輸出価格と、東南アジアの売値
- 機能マテリアルの営業利益と撤退の進み具合
- 11 月に公表される新中期経営計画の詳細(自社株買いと設備投資の額)
- 自己資本比率と DOE の実績
- 住友化学の保有株の扱い
倍率と資本コストの決め方
2 つのセグメントを、吸水性樹脂は販売量×1 千トンあたり売上、機能マテリアルは市場規模×シェアの形で積み、営業利益率から営業利益を出した。資本コストは基本 7.5%+quality+0.75%(循環・値決め・寿命が各 +0.25)の 8.25%。中立の 10 年の ROE は 8% 台で k とほぼ同じなので、倍率は 1÷k の 12.1 倍を上限に、上限の 9 割に置いた。今の PER 12.7 倍に寄せていない。結果は中立で今の 1.2 倍、確率を掛けて「やや割高」。悲観は稼ぐ力と売れる資産の税後の間で今の自己資本に掛け、過去の PBR の底からは置いていない。リースは規模が小さく影響は限られるとみて、数字は今と同じ形(家賃を費用に入れた形)で置いた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 12.72→14.89 倍・やや楽観 PER 11.28→13.95 倍・中立 PER 10.9→12.68 倍)。
資本コスト 8.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality +0.75%(循環 +0.25、値決め +0.25、寿命 +0.25)を足して 8.25%。中国勢の価格競争と増設の重荷は k に足さず、筋書きの利益率と確率で表した。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.25% → 8.00%。