結論
旭有機材は、樹脂製のバルブと配管、フェノール樹脂を主力とする化学メーカーだ。半導体工場の薬液ラインに使う樹脂バルブで、世界でも有数の存在である。筆者の結論は、10 年の価値は今の時価総額を 3 割ほど下回り、やや割高というものだ。
理由は、利益の山を今の値段が先取りしていることだ。2027 年 3 月期の営業利益は、会社予想で前期の 76 億円から 120 億円へ跳ねる。主因は米国と国内の半導体関連の案件だ。ただ会社自身、前の中計では売上目標に届かなかった。半導体の設備投資は後ろ倒しになりやすい。その波に利益が乗る体質は変わっていない。
一方で、事業の中身は悪くない。顧客の仕様に合わせて作り込む樹脂バルブは、いったん採用されると替えにくい。延岡の新拠点に 175 億円を投じ、能力を約 3 倍にする計画も、需要が続けば大きな武器になる。
筆者が見ているのは、利益の増え方と資本の厚さの釣り合いだ。中立では 10 年後の営業利益を約 170 億円、ROE を 10% 台前半とした。悪くない数字だが、資本コスト 7.5% を大きく超えるわけではない。会社の目標(2030 年度に営業利益 200 億円)が実現すれば評価は一変する。その確率は 3 割強とみた。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、旭有機材は「好きになれる部分と、払えない値段」が同居する会社だ。
好きになれる部分は、顧客に採用されると長く使われる樹脂バルブと、金属不純物の少なさで差がつく電子材料だ。小さな市場でも、他社が手を出しにくい場所で稼げる。借入に頼らず、自己資本比率は 7 割を超える。
払えない値段になる理由は 3 つある。第一に、利益が半導体の設備投資に左右される。山で払えば、谷で苦しむ。第二に、オーナー利益(再投資を引いた株主の取り分)が小さい。延岡と南通の新工場に数百億円を投じるため、数年は稼いだ分が工場に消える。第三に、資本効率が過去 10 年で平均的な水準にとどまる。
筆者は、10 年後に営業利益が 170 億円前後、ROE が 10% 台前半に落ち着くという中立の姿を、もっともありそうな姿とみる。資本コストを 2 ポイント強上回るだけなので、倍率は高く置けない。
経営の資本配分は、方針としては正しい。累進配当、借入の活用、成長投資の絞り込みは筋が通る。あとは、新工場が稼働した後に、期待した採算が本当に出るかだ。
安全域は、悲観でも大きく崩れないことで測る。悲観では自己資本の約 5 割まで価値が下がる。今の値段にその余裕は無い。
何で稼ぐ会社か
旭有機材は旭化成が約 3 割を持つ持分法適用会社で、化学メーカーとしては珍しく「樹脂の配管機器」で稼ぐ。事業は 3 つある。
管材システムは売上の 6 割を占め、利益の大半を生む。樹脂製のバルブ、パイプ、継手を作り、顧客は半導体製造装置メーカーと半導体工場、化学・鉄鋼プラント、海水淡水化プラントだ。金属は薬液で腐食するが、樹脂は耐える。主力の小型精密バルブ「Dymatrix」は半導体装置に組み込まれる。米国ではプレファブ(配管を工場で加工して現場に運ぶ方式)も手がける。国内では販売会社の網と施工力を組み合わせた耐食ソリューションで売る。
樹脂事業は 3 本立てだ。電子材料はフォトレジスト用のノボラック樹脂などで、金属不純物の少なさが売りになる。素形材は自動車部品の砂型鋳造に使う樹脂コーテッドサンド(RCS)で、インドへの展開が進む。発泡材は住宅断熱用の現場発泡ウレタンで、施工まで一貫して売る。
水処理・資源開発は地熱や温泉の掘削と排水処理で、規模は小さい。
全社の海外売上比率は管材で約 5 割に上がった。半導体関連の売上は、2021 年度から 2025 年度にかけて約 9 割増えている。
優良さと弱いところ
旭有機材の強みは、数ではなく「作り込みで選ばれる」ことにある。
半導体装置向けのバルブは、顧客の装置ごとに寸法や材質を詰め、試験を通って初めて採用される。採用後は部品表に載り、簡単には替えられない。低発塵(ほこりを出さない)と薬液への耐性が品質の核で、ここは他社が追いつくのに時間がかかる。世界で初めて樹脂バルブを事業化した歴史も、信用の土台だ。
ただし堀は一枚岩ではない。超純水配管ではスイスのゲオルク・フィッシャー(GF)が最大の競合で、PFAS を使わない新製品を投入している。米国には自社の子会社の Asahi/America もあるが、ほかにも競合が多く、価格決定力は電子材料や樹脂バルブの特殊品に限られる。素形材と発泡材は競争が激しく、利益率は低い。
資本効率は弱点だ。前期の ROE は 4% 台に落ち、過去 10 年の中央値も 8% 前後にとどまる。自己資本比率は 7 割を超え、財務は安全だが、資本の使い方はこれからの課題だ。
経営の変化は評価できる。指名・報酬委員会を設け、事業ごとの資本配分と撤退の判断を始めた。成形材料事業とドリコの中国事業からは撤退した。
筆者の見立てでは、事業の質は「良い会社」の入り口にあるが、堀が強く資本効率も高い会社と呼ぶにはまだ早い。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
追い風は半導体だ。業界の見通しでは、半導体関連装置の市場が 2025 年の約 7 兆円から 2030 年に約 11 兆円へ、年率 9% 程度で伸びる。AI やデータセンターの投資が、装置と材料にまで波及している。旭有機材の樹脂バルブは装置の薬液ラインに使われ、この波にそのまま乗る。
ただし需要の振れ幅は大きい。2024 年度以降、米国では人件費や資材費の上昇で工場の建設が後ろ倒しになった。中国でも FPD と太陽電池の投資が縮んだ。前の中計で売上目標に届かなかったのはこのためだ。受注が前倒しで来る年もあれば、翌年に反動が出る年もある。
中国は半導体の自給を国策にしている。現地で作った材料を使う動きが強まり、旭有機材が南通に第二工場を建てるのもこれに応えるためだ。長い目では、中国の現地メーカーが中位品から追い上げる。最先端では日本や欧州の優位が続くが、中位グレードの価格は下がりやすい。
樹脂バルブ全体の市場は、海水淡水化や米国のプレファブ需要で伸びる。もっとも、世界のバルブの大半は金属製で、樹脂の浸透はこれからだ。
国内は事情が違う。化学・鉄鋼プラントの設備投資は横ばいで、更新と保守が中心だ。住宅断熱は省エネ基準の義務化が追い風になる一方、新築戸数は人口減で細る。素形材は国内が縮み、インドが伸びる。
資本政策と M&A
資本政策は大きく変わった。新中計 GNT2030 は、6 年間の総還元性向を 50〜70% とし、配当は前年以上に据え置く累進配当にした。前期の総還元性向は 68% だった。2027 年 3 月期の年間配当は、会社予想で約 34 億円に上がる。
同時に、借入を使って成長投資をする方針に転じた。D/E レシオ(借入と自己資本の比)は 0.5 まで認める。6 年間の投資は約 600 億円で、延岡の第二製造所に 175 億円、南通の電材第二工場に約 60 億円を充てる。M&A の枠は約 100 億円ある。国の補助金(上限約 39 億円)も決まった。
筆者が注目するのは、この資金の出どころだ。今は 167 億円の純現金があるが、投資が重なれば数年で純借入に変わる。利払いが利益を削る点は、筋書きに織り込んだ。
株主面では、旭化成が約 3 割を持つ筆頭株主だ。旭化成にとって旭有機材は中核ではなく、持ち分を売る可能性は常にある。買い手が現れれば TOB(公開買付け)の芽もある。ただし、公式に売却を検討している事実は確認できなかった。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
半導体の設備投資は、AI という新しい需要に支えられ、10 年単位で続く。装置の薬液ラインでは、金属ではなく樹脂が選ばれる場面が増えている。旭有機材は、その樹脂バルブを世界で最初に事業化した会社だ。顧客の装置ごとに設計を詰めるため、一度採用されると替わりにくい。
延岡の新拠点が動けば、小型精密バルブの供給は約 3 倍になる。需要が強いのに作れない、という機会損失が消える。中国では南通の第二工場で現地生産を伸ばし、国産化の流れに乗る。電子材料は、金属不純物の少なさという技術で、フォトレジスト用の樹脂の需要が年率 13% で伸びる市場に入っていく。
会社は 2030 年度の営業利益を 200 億円とする。2027 年 3 月期にはすでに 120 億円まで来ており、残りの距離は 5 年で 1.7 倍ほどだ。借入を使い、累進配当も約束した。経営が資本効率を意識し始めたのは大きい。筆者から見ても、目標の半分でも実現すれば、今の評価の見直しは十分にありえる。
慎重な見方
今の利益は半導体の山の上にある。2027 年 3 月期の営業利益 120 億円は、前期の 76 億円から一気に 6 割増える数字だ。これを出発点にすると、10 年後を高く見すぎる。山の後には谷が来る。前の中計は、米国の工場建設の遅れと中国の投資縮小で売上目標に届かなかった。同じことは、また起きる。
延岡の 175 億円は、需要が強い時に決めた投資だ。竣工は 2028 年 10 月で、そのころ需要が落ちていれば、償却だけが残る。南通と合わせて約 240 億円の工場が、稼働率の低いまま利益を削る形は想像しやすい。
中国の現地メーカーは国産化の政策に守られて伸び、中位品から追い上げる。旭有機材の中国向けの強みは「現地で作ること」だが、同じことは現地メーカーの方が安くできる。
資本効率も気がかりだ。ROE は過去 10 年の中央値が 8% 前後にとどまる。会社が掲げる 15% は、この会社が一度も長くは出せていない数字だ。素形材と発泡材という低収益の事業が、全社の足を引く。目標が高いほど、届かなかった時の落差は大きい。
どちらに重みを置いたか
強気の見方は事業の質で、慎重な見方は利益の山と投資の重さで、それぞれ筋が通る。軍配は慎重な側に少し上がるとみた。理由は、今の営業利益が半導体の山の水準にあり、新工場の償却と借入が山の後に重なる点だ。確率は、強気の筋書きを合わせて 3 割強、慎重な筋書きを合わせて 3 割強に置き、中立を 35% とした。強気の筋書きの上限は会社の目標より低めに置いている。中立の営業利益は約 170 億円で、2027 年 3 月期の予想より少し高い。10 年かけて均すとそのくらいだ、という判断である。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 9,095 円1,710 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 2,486 円467 億円)。 今の値に割り戻すと 6,145 円1,155 億円、今との差 −5.0%、 期待の年率 +6.0%(資本コスト 7.5%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 19,136 円3,597 億円 | 3,708 円697 億円 | +253.1% | +13.4% | 2,284 円429 億円 |
| やや楽観 | 21% | 13,155 円2,473 億円 | 3,117 円586 億円 | +151.5% | +9.7% | 3,417 円642 億円 |
| 中立 | 35% | 10,245 円1,926 億円 | 2,820 円530 億円 | +101.9% | +7.3% | 4,573 円860 億円 |
| やや悲観 | 23% | 2,554 円480 億円 | 1,697 円319 億円 | −34.3% | −4.1% | 978 円184 億円 |
| 悲観 | 11% | 2,238 円421 億円 | 755 円142 億円 | −53.7% | −7.4% | 329 円62 億円 |
| 加重平均 | 100% | 9,095 円1,710 億円 | 2,486 円467 億円 | +79.0% | +6.0% | 11,581 円2,177 億円 |
今の株価時価総額 6,470 円1,216 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.5% を下回るほど割高。
楽観 10% 半導体の波に乗り、会社目標に近づく 利益 198 億円 · PER 18.1 倍 · 株価時価総額 19,136 円3,597 億円
半導体の設備投資が 10 年にわたって続き、AI 向けの先端工場で樹脂バルブの採用が広がる。延岡の新拠点が 2028 年に動き出し、小型精密バルブの供給が約 3 倍になる。中国では現地生産が根づき、地場の装置メーカーから注文が増える。
電子材料は後工程用の高付加価値品が当たり、南通の第二工場もフル稼働する。素形材はインドの需要を取り込み、発泡材は材料と施工のセット販売で黒字が定着する。
全社の売上は 2036 年に 1,800 億円を超え、営業利益は 270 億円前後になる。会社が掲げる 2035 年頃の 2,000 億円・400 億円には届かないが、2030 年度の目標は超える。利益の伸びで自己資本が厚くなり、ROE は 14% 台になる。
旭化成が持ち分を手放し、事業会社への売却や TOB の話が出る可能性もある。
- 半導体産業向け管材:数量 72.0(樹脂バルブ・流量計・配管部材の出荷点数(万点))× 価格 4.90(1 点あたり単価(万円・名目))→ 売上 353 億円・営業利益 92 億円。AI 向け先端工場で採用が拡大
- その他管材(海外・国内プラント):数量 273(樹脂配管材・バルブ・耐食資材の出荷点数(万点))× 価格 2.76(1 点あたり単価(万円・名目))→ 売上 752 億円・営業利益 98 億円。米国プレファブ・海水淡水化が伸びる
- 電子材料(フォトレジスト用樹脂など):数量 2,880(電子材料向け樹脂の出荷量(トン))× 価格 7.00(1 トンあたり単価(百万円・名目))→ 売上 202 億円・営業利益 40 億円。後工程用の高付加価値品が当たる
- 素形材(RCS・鋳造用樹脂):数量 13.0(RCS・鋳造用樹脂の出荷量(万トン))× 価格 18(1 トンあたり単価(万円・名目))→ 売上 233 億円・営業利益 21 億円。インドで量が伸びる
- 発泡材(現場発泡ウレタン):数量 2.4(断熱施工の戸数(万戸))× 価格 60(1 戸あたり売上(万円・名目))→ 売上 147 億円・営業利益 13 億円。材工一体で黒字が定着
- 水処理・資源開発:数量 93.8(年間の受注案件数(件))× 価格 1.68(1 件あたり売上(億円・名目))→ 売上 158 億円・営業利益 16 億円。地熱の大型案件が続く
倍率:事業の純利益 198 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 14.4% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.9%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 18.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 18.1 倍。全体の PER 18.13 倍、時価総額 3,597 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:半導体の設備投資が 10 年続き、延岡の増産と電子材料の採用が重なる好条件がそろった場合。会社目標(2035 年に営業利益 400 億円)には届かないが、2030 年度の 200 億円は超える。前の中計の未達を見ると、そろう確率は 1 割にとどめた。
やや楽観 21% 電子材料と半導体バルブが伸びる 利益 147 億円 · PER 16.8 倍 · 株価時価総額 13,155 円2,473 億円
半導体向けのバルブと電子材料が堅調に伸びる。ただし需要は一直線ではなく、米国の工場建設の遅れで 1〜2 年の足踏みを挟む。延岡の増産は予定よりやや遅れて動き出し、稼働率は徐々に上がる。
米国のプレファブ製品と中東の海水淡水化向けが、半導体以外の柱として育つ。素形材はインドで伸びるが、国内の汎用品の再構築に時間がかかる。発泡材は赤字を脱するものの、利益はまだ小さい。
売上は 2036 年に 1,600 億円近く、営業利益は 200 億円前後になる。会社の中計(2030 年度に 1,200 億円・200 億円)に数年遅れで追いつく姿だ。ROE は 12% 前後に上がり、資本コストを明確に上回る。
- 半導体産業向け管材:数量 58.5(樹脂バルブ・流量計・配管部材の出荷点数(万点))× 価格 4.80(1 点あたり単価(万円・名目))→ 売上 281 億円・営業利益 67 億円。延岡の増産が遅れ気味に立ち上がる
- その他管材(海外・国内プラント):数量 244(樹脂配管材・バルブ・耐食資材の出荷点数(万点))× 価格 2.72(1 点あたり単価(万円・名目))→ 売上 665 億円・営業利益 76 億円。海外のプレファブが柱に育つ
- 電子材料(フォトレジスト用樹脂など):数量 2,240(電子材料向け樹脂の出荷量(トン))× 価格 6.85(1 トンあたり単価(百万円・名目))→ 売上 153 億円・営業利益 26 億円。南通の稼働で量が増える
- 素形材(RCS・鋳造用樹脂):数量 12.3(RCS・鋳造用樹脂の出荷量(万トン))× 価格 18(1 トンあたり単価(万円・名目))→ 売上 217 億円・営業利益 17 億円。インドの伸びが国内の縮小を上回る
- 発泡材(現場発泡ウレタン):数量 2.1(断熱施工の戸数(万戸))× 価格 60(1 戸あたり売上(万円・名目))→ 売上 125 億円・営業利益 8 億円。赤字を脱するが小さい
- 水処理・資源開発:数量 86.3(年間の受注案件数(件))× 価格 1.64(1 件あたり売上(億円・名目))→ 売上 142 億円・営業利益 13 億円。地熱で増える
倍率:事業の純利益 147 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.9% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.7%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.8 倍。全体の PER 16.81 倍、時価総額 2,473 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:半導体向けは堅調で、電子材料と米国のプレファブも伸びるが、素形材や発泡材の改善は遅れる姿。会社の中計に近い進み方で、強気の見方がかなり当たる場合として 2 割強とした。
中立 35% 半導体が伸び、他の事業は緩やかに 利益 122 億円 · PER 15.9 倍 · 株価時価総額 10,245 円1,926 億円
半導体関連は需要の山と谷を繰り返しながら、均すと実質で年率 5% ほど伸びる。バルブの採用が増え、延岡の新拠点は稼働して利益に寄与する。ただし減価償却が重くなり、利益率は今の山より下がる。
電子材料は中国向けの現地生産と後工程用途で量が倍以上になる。素形材はインドの伸びが国内の縮小を上回る程度で、発泡材は黒字に転じるが小さい。水処理・資源開発は地熱の追い風でやや増える。
売上は 2036 年に 1,400 億円台、営業利益は 170 億円前後になる。2027 年 3 月期の会社予想から見ると、利益はほとんど増えない。山が高かったためだ。ROE は 10% 台前半で、資本コストを小さく上回る。
- 半導体産業向け管材:数量 51.0(樹脂バルブ・流量計・配管部材の出荷点数(万点))× 価格 4.69(1 点あたり単価(万円・名目))→ 売上 239 億円・営業利益 55 億円。山と谷を均して実質年率 5% 強
- その他管材(海外・国内プラント):数量 226(樹脂配管材・バルブ・耐食資材の出荷点数(万点))× 価格 2.68(1 点あたり単価(万円・名目))→ 売上 605 億円・営業利益 67 億円。海外の伸びと国内の横ばい
- 電子材料(フォトレジスト用樹脂など):数量 1,920(電子材料向け樹脂の出荷量(トン))× 価格 6.70(1 トンあたり単価(百万円・名目))→ 売上 129 億円・営業利益 21 億円。中国の現地生産で量が倍以上
- 素形材(RCS・鋳造用樹脂):数量 11.4(RCS・鋳造用樹脂の出荷量(万トン))× 価格 17(1 トンあたり単価(万円・名目))→ 売上 199 億円・営業利益 15 億円。インドの伸びと国内の縮小が拮抗
- 発泡材(現場発泡ウレタン):数量 1.8(断熱施工の戸数(万戸))× 価格 60(1 戸あたり売上(万円・名目))→ 売上 110 億円・営業利益 6 億円。黒字化するが小さい
- 水処理・資源開発:数量 82.5(年間の受注案件数(件))× 価格 1.61(1 件あたり売上(億円・名目))→ 売上 133 億円・営業利益 11 億円。地熱でやや増える
倍率:事業の純利益 122 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.5% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.0%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.8 倍。全体の PER 15.85 倍、時価総額 1,926 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:半導体は年率 5% 強の伸びで、バルブの採用も増えるが、需要の谷を挟んで利益率は 10% 台前半に落ち着く姿。最も起こりやすい筋書きとして 35% を置いた。
やや悲観 23% 投資が先行し、採算が追いつかない 利益 48 億円 · PER 10.0 倍 · 株価時価総額 2,554 円480 億円
米国の半導体工場の建設が遅れ、中国の FPD・太陽電池の投資も戻らない。延岡の新拠点は 2028 年に動き出すが、需要が追いつかず、稼働率が上がらないまま減価償却が利益を圧迫する。
電子材料では中国の現地メーカーが中位品で追い上げ、価格が下がる。樹脂バルブは先端の仕様では優位を保つが、汎用品の値引きに引きずられる。素形材と発泡材は利益がほぼ出ない。
売上は 2036 年に 1,000 億円強に伸びるが、営業利益は 70 億円前後にとどまる。物価の分は売上に出るが、人件費と償却の増加で利益は増えない。ROE は 5% 前後に落ち、資本コストに届かない。「良い会社」の水準を満たさなくなる。
- 半導体産業向け管材:数量 33.0(樹脂バルブ・流量計・配管部材の出荷点数(万点))× 価格 4.38(1 点あたり単価(万円・名目))→ 売上 144 億円・営業利益 22 億円。工場の稼働率が上がらない
- その他管材(海外・国内プラント):数量 188(樹脂配管材・バルブ・耐食資材の出荷点数(万点))× 価格 2.56(1 点あたり単価(万円・名目))→ 売上 481 億円・営業利益 34 億円。汎用品の値引きに引きずられる
- 電子材料(フォトレジスト用樹脂など):数量 1,200(電子材料向け樹脂の出荷量(トン))× 価格 6.25(1 トンあたり単価(百万円・名目))→ 売上 75 億円・営業利益 6 億円。中国勢の追い上げで価格が下がる
- 素形材(RCS・鋳造用樹脂):数量 9.9(RCS・鋳造用樹脂の出荷量(万トン))× 価格 17(1 トンあたり単価(万円・名目))→ 売上 167 億円・営業利益 7 億円。国内の縮小が重い
- 発泡材(現場発泡ウレタン):数量 1.2(断熱施工の戸数(万戸))× 価格 59(1 戸あたり売上(万円・名目))→ 売上 71 億円・営業利益 0 億円。利益がほぼ出ない
- 水処理・資源開発:数量 71.3(年間の受注案件数(件))× 価格 1.56(1 件あたり売上(億円・名目))→ 売上 111 億円・営業利益 6 億円。案件が細る
倍率:ROE 4.8% は k 7.5% 以下。ためた利益は額面を下回る価値で、PER は 1÷k の 12.5 倍まで。稼ぐ力(純利益÷k)の 8 割に当たる 10.0 倍に置いた。
確率:米国の工場建設の遅れや中国の投資縮小が長引き、延岡の増産を急いだ分が負担になる姿。前の中計で実際に起きた下振れの延長で、起こりやすさは中立に近い。
悲観 11% 半導体の谷と中国の追い上げが重なる 利益 16 億円 · PBR 0.5 倍 · 株価時価総額 2,238 円421 億円
半導体の設備投資が数年にわたって落ち込み、そこへ中国の現地メーカーが中位品で追いつく。延岡の新拠点と南通の工場が低稼働になり、減損の処理も出る。電子材料の価格は大きく崩れ、利益がほぼ消える。
樹脂バルブは先端用途の一部に残るが、規模を保てない。素形材のインド展開も、自動車生産の鈍化と競争で採算が悪い。発泡材は赤字が続き、事業の売却・再編が経営課題になる。
営業利益は 20 億円台まで下がり、累進配当は維持できず減配になる。利益ではなく売れる資産が価値の下支えになる。旭化成が持ち分を処分する局面もありうる。
- 半導体産業向け管材:数量 27.0(樹脂バルブ・流量計・配管部材の出荷点数(万点))× 価格 4.03(1 点あたり単価(万円・名目))→ 売上 109 億円・営業利益 9 億円。半導体の谷と過剰な能力
- その他管材(海外・国内プラント):数量 160(樹脂配管材・バルブ・耐食資材の出荷点数(万点))× 価格 2.30(1 点あたり単価(万円・名目))→ 売上 368 億円・営業利益 15 億円。需要が細り値引きが続く
- 電子材料(フォトレジスト用樹脂など):数量 800(電子材料向け樹脂の出荷量(トン))× 価格 5.25(1 トンあたり単価(百万円・名目))→ 売上 42 億円・営業利益 0 億円。価格が崩れ利益が消える
- 素形材(RCS・鋳造用樹脂):数量 8.3(RCS・鋳造用樹脂の出荷量(万トン))× 価格 16(1 トンあたり単価(万円・名目))→ 売上 130 億円・営業利益 3 億円。自動車の鈍化と競争
- 発泡材(現場発泡ウレタン):数量 1.0(断熱施工の戸数(万戸))× 価格 54(1 戸あたり売上(万円・名目))→ 売上 53 億円・営業利益 −2 億円。赤字が続く
- 水処理・資源開発:数量 60.0(年間の受注案件数(件))× 価格 1.44(1 件あたり売上(億円・名目))→ 売上 86 億円・営業利益 3 億円。案件が細る
倍率:営業利益 23 億円、純利益 16 億円で稼ぐ力(純利益÷k)は約 200 億円。これは売れる資産の税後 420 億円を下回るため、床は資産で見る。今の自己資本 809 億円の約 5 割(0.52 倍)に置いた。
確率:半導体の谷が深く、中国の現地メーカーが中位品で追いつき、新工場の稼働が低迷する姿。確率は低いが、投資額が大きいので外せず 1 割強を置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
半導体産業向け管材
半導体製造装置向けの小型精密バルブ(Dymatrix)、流量制御機器、半導体工場の薬液配管。管材システムの中でいちばん利益率が高い。
| 数量樹脂バルブ・流量計・配管部材の出荷点数(万点) | 価格1 点あたり単価(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 30.0 | 3.50 | 105 | 26 |
| 10 年後 中立 | 51.0 | 4.69 | 239 | 55 |
取り方:SBU 売上 105 億円(中計資料)を、1 点あたり 3.5 万円(小型バルブと流量計と継手の平均。会社は開示していない筆者の推定)で割り、約 30 万点とした。利益は管材全体の 63 億円のうち、利益率が高い半導体向けに 26 億円(約 25%)を割り振った推定。 数量は出荷点数(実物)。半導体装置の名目年 9% の見通しを物価で割った実質年 5% 強に置いた。
その他管材(海外・国内プラント)
樹脂バルブ・パイプ・継手の海外販売(米国のプレファブ、中東の海水淡水化、アジア)と、国内の化学・鉄鋼プラント向け耐食配管の販売・施工。
| 数量樹脂配管材・バルブ・耐食資材の出荷点数(万点) | 価格1 点あたり単価(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 188 | 2.00 | 376 | 37 |
| 10 年後 中立 | 226 | 2.68 | 605 | 67 |
取り方:管材システム売上 481 億円から半導体産業向け 105 億円を引いた 376 億円。1 点あたり 2.0 万円(筆者の推定。大型バルブと汎用継手の混合)で約 188 万点とした。利益は管材 63 億円から半導体向け 26 億円を引いた 37 億円(約 10%)。
電子材料(フォトレジスト用樹脂など)
半導体・液晶(FPD)向けのフェノール系・ノボラック樹脂。金属不純物を極限まで減らす低メタル技術が強み。
| 数量電子材料向け樹脂の出荷量(トン) | 価格1 トンあたり単価(百万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 800 | 5.00 | 40 | 6 |
| 10 年後 中立 | 1,920 | 6.70 | 129 | 21 |
取り方:SBU 売上 40 億円(中計資料)を、高純度グレードの 1 トンあたり 500 万円(筆者の推定)で割り、約 800 トンとした。利益は樹脂セグメント 9 億円のうち 6 億円(15%)を割り振った推定。 数量は出荷量(実物)で、中国の現地生産の立ち上がりによる。
素形材(RCS・鋳造用樹脂)
自動車部品などの砂型鋳造に使う樹脂コーテッドサンド(RCS)とそのレジン。インドと国内が中心。
| 数量RCS・鋳造用樹脂の出荷量(万トン) | 価格1 トンあたり単価(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 10.4 | 13 | 135 | 7 |
| 10 年後 中立 | 11.4 | 17 | 199 | 15 |
取り方:素形材の売上は SBU 130 億円。樹脂全体 230 億円からの残り(5 億円)を加えて 135 億円とし、1 トンあたり 13 万円(筆者の推定。砂を含む加工品の単価)で約 10 万トンとした。利益は 7 億円(約 5%)の推定。
発泡材(現場発泡ウレタン)
住宅の断熱に使う現場発泡ウレタン(BEXUR)。子会社のランドウィックが材料と施工をセットで売る。
| 数量断熱施工の戸数(万戸) | 価格1 戸あたり売上(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1.2 | 45 | 55 | −4 |
| 10 年後 中立 | 1.8 | 60 | 110 | 6 |
取り方:SBU 売上 55 億円を、1 戸あたり 45 万円(材料と施工の合計。筆者の推定)で割り、約 1.2 万戸とした。国内の新築・改修の年間戸数に対する比率は小さい。利益は樹脂全体 9 億円から他の 2 つを引いた赤字 4 億円の推定。 数量は施工戸数(実物)。
水処理・資源開発
地熱・温泉の掘削(ドリコ)、工業用水・排水の処理設備。案件ごとに受注する。
| 数量年間の受注案件数(件) | 価格1 件あたり売上(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 75.0 | 1.20 | 90 | 6 |
| 10 年後 中立 | 82.5 | 1.61 | 133 | 11 |
取り方:セグメント売上 90 億円を、1 件あたり 1.2 億円(掘削と設備の平均。筆者の推定)で割り、約 75 件とした。利益はセグメント開示の 6 億円。
リスクと懸念
半導体の設備投資の波
利益の中心は半導体関連で、受注は装置メーカーの工場建設に連動する。前の中計では、米国の建設の後ろ倒しと中国の投資縮小で売上目標に届かなかった。延岡の増産を決めたのは需要が強い時期で、谷に入ると稼働率と償却が利益を圧迫する。
新工場への投資負担
延岡に 175 億円、南通に約 60 億円を投じる。補助金で一部は戻るが、償却は 2028 年から重くなる。需要が想定より遅れれば、利益率の低下と借入の増加が同時に来る。純現金の会社から純借入の会社に変わる点も見落とせない。
中国の現地メーカーの追い上げ
中国は半導体と液晶の国産化を進め、現地メーカーが中位品から樹脂バルブや電子材料に参入している。先端品では優位が続くが、中位品の価格が下がれば全体の利益率が削られる。南通の増産も、価格競争に巻き込まれれば採算が悪化する。
新中計の目標が高い
会社は 2030 年度に営業利益 200 億円、2035 年頃に 400 億円を掲げる。電子材料は 5 年で売上を約 2.7 倍にする計画だ。実現すれば評価が変わるが、前の中計で届かなかった実績があり、株価が目標を先取りするほど失望も大きい。
旭化成の持ち分の行方
旭化成は筆頭株主で約 3 割を持つ。非中核なら売却される可能性があり、売却先や条件によっては経営方針が変わる。売却の観測だけで株価が動く面もある。公式に売却を検討している事実は確認できなかった。
素形材・発泡材の低収益
素形材は国内の自動車と鋳造が縮み、インドが伸びても利益率は低い。発泡材は赤字で、住宅の新築戸数は人口減で細る。この 2 つが全社の利益率を押し下げ続け、再構築が遅れれば投資資金も食う。
為替と原材料の価格転嫁
海外売上が約 5 割あり、円高になれば円換算の利益が減る。フェノールなど原料の高騰を価格に移せない時期もある。今回の増益には価格転嫁が寄与しており、その効果が一巡した後の利益率が試される。
今後の分かれ目
- 半導体メーカーの米国・国内の工場建設が再び遅れる
- バルブの受注が減り、延岡の増産が重荷になる。中立より、慎重な筋書きの確率を上げて見る。
- 延岡の第二製造所が 2028 年に予定どおり稼働し、稼働率が早く上がる
- 半導体向け利益が会社の計画どおりに伸び、強気の筋書きの確率を上げる。
- 電子材料の南通第二工場で、後工程向けの採用が決まる
- 電子材料の売上が中計の 110 億円に近づき、樹脂事業の利益率が 15% に向かう。
- 中国の現地メーカーが樹脂バルブの中位品で価格を崩す
- 海外の管材の利益率が下がり、中立の利益率の前提が崩れる。慎重な筋書きに寄る。
- 旭化成が持ち分の売却や再編を発表する
- TOB や第三者割当の可能性が出る。価値は事業の稼ぐ力で測るので、買収価格が高ければ株主には追い風、低ければ不満が残る。
- 総還元性向 50〜70% の方針が守られず、投資に偏る
- 累進配当は守っても自社株買いが細り、自己資本が厚くなって ROE が下がる。
見ておくもの
- 半導体製造装置メーカーの受注と米国・台湾の工場建設の進み具合
- 延岡の第二製造所の工期と稼働率(2028 年 10 月竣工予定)
- 電子材料の売上と南通第二工場の立ち上がり(2027 年 3 月竣工予定)
- 営業利益率が 12% を保てるか(2027 年 3 月期の会社予想は約 13%)
- 旭化成の持ち分の動きと有価証券報告書の大株主
- D/E レシオの推移(0.5 の上限に近づくか)
倍率と資本コストの決め方
今の株価(直近で約 2 倍に上昇)と PER は見ずに、セグメントごとの数量×価格と、k 7.5% からの正当化 PER で置いた。中立の PER 12.8 倍は 1÷k の下限(12.5 倍)に近く、成長を高く見たからではなく、ROE が k を小さく上回るためだ。今の値段が高いので結果は割高に出たが、ROE の前提を k のすぐ下に置いて床を避ける、といった調整はしていない。リースは小さいので、新リース会計基準の影響は無視した。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 14.5→18.13 倍・やや楽観 PER 13.5→16.81 倍・中立 PER 12.8→15.85 倍)。
資本コスト 7.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality +0.5% を足した。個別のリスク(旭化成の持ち分、投資の実行)は k に足さず、筋書きと確率で表した。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.00% → 7.50%。