結論
ZACROS(旧・藤森工業)は、液晶の偏光板に貼る保護フィルムで世界首位に立つ包材メーカーだ。化粧品の詰め替えパウチやバッグインボックスでも、国内や世界で首位を持つ。筆者の結論は、10 年で見て今の時価総額はやや割安というものだ。
いちばんの理由は、首位の事業が稼ぐ力に比べて安く値付けされていることだ。純現金を抱え、借金の心配はない。
ただし利益率は低い。営業利益率は 7 % で、中期計画の 10 % にはまだ遠い。足を引っ張るのが医薬・バイオ事業で、三重の新棟の償却と先行費用で赤字になっている。液晶向けの情報電子も、今期は固定費増で減益の予想だ。
10 年の中立は、液晶向けが面積の横ばいの中で首位を守り、医薬・バイオが黒字に着く姿とした。営業利益は 1.7 倍弱になるが、ROE は 9 % 前後で資本コストをわずかに上回る程度にとどまる。投資に回すお金が多く、還元に回る分は利益の半分強だ。
強気の筋書きは、バイオ向けの量産が当たり、営業利益率が 1 割を超える場合だ。弱気の筋書きは、中国勢に液晶フィルムの値段を崩され、新棟が減損に至る場合だ。筆者は設備投資の回収がまだ見えていないことから、確率は弱気側を厚めに置いた。それでも本質価値は今の時価総額を 1 割ほど上回った。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社は「首位の事業が複数あるのに、それを超える成長投資を抱えている」と見る。
首位のフィルムと包材は、稼ぐ力が実在し、10 年後も存在している可能性が高い。一方で、堀は強いとは言えない。原料と顧客の力が強く、液晶は面積が伸びない。この部分だけなら、年 8 % 台の ROE で資本コストに見合う程度の会社だ。
問題は投資の使い道だ。オーナーの利益は、償却を引いた後に株主のものになる分だ。新棟の償却が重く、今はこれが薄い。バイオ医薬の使い捨てバッグが当たれば、投資の見返りは大きい。外れれば、過去にためた利益の一部を失う。
安全域はどうか。純現金があり、借金に追われることはない。悲観でも、稼ぐ力から出る価値は今の時価総額の 4 割強は残る。ただし、投資が当たっても、10 年で資本コストをわずかに上回るだけだ。これでは大きな割安とは言えない。
筆者は、この会社を「悪くない会社を、悪くない値段で買う」の枠で見ている。確信を持って持ち続けたいと言える会社ではない。経営が稼ぐお金をどう使うか、次の 2 年の投資判断を見たい。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの柱は 4 つある。売上は情報電子が最大で、全体の 3 分の 1 強を占める。
情報電子は、液晶の偏光板を傷や汚れから守る保護フィルムが中心だ。顧客は偏光板メーカーで、この製品の世界シェアは 5 割を超える(会社調べ)。ほかに離型フィルムや、半導体・電池向けの機能フィルムも作る。
環境ソリューションは、化粧品や日用品の詰め替えパウチ(国内シェア約 7 割)と、試薬や飲料に使うバッグインボックスだ。バッグインボックスは世界シェア 5 割超で、これも会社調べである。環境への配慮で詰め替えが広がる流れに乗る。
ウェルネスは、医薬品の包装材、貼付薬用の剥離フィルム、そしてバイオ医薬品の製造に使う使い捨てのバッグ(BioPhaS)だ。2024 年に三重事業所の新棟が竣工し、能力を大きく増やした。国内ではこの種の製品を海外に頼ってきたため、国産の安定供給という需要を狙う。
産業インフラは、建築用のチムニー、空調配管、トンネル材などだ。利益率は 12 % 前後と全社で最も高く、全体の利益を支える。創業は 1936 年で、2024 年 10 月に社名を藤森工業から ZACROS に改めた。
優良さと弱いところ
強みは、狭い市場で首位を取り、顧客の製造工程に入り込んでいる点だ。保護フィルムは偏光板メーカーの品質管理と一体で使われ、切り替えに手間がかかる。
一方で、値段を自分で決められるほど強くはない。原料は石油由来で、顧客は大手の偏光板メーカーだ。原料高の転嫁が遅れる年は、利益率が落ちる。直近の営業利益率は 7 % で、過去 10 年の最高も 9 % 弱にとどまる。
資本効率も平凡だ。ROE の中央値は 8 % 程度で、資本コストの前後を行き来している。純現金があり、自己資本比率は 6 割と財務は堅い。ただし設備投資は年 160〜175 億円と、償却費の倍を超える。稼ぐ力に対して投資の重さが目立つ。
弱いのは、投資の回収の見通しだ。医薬・バイオ事業は新棟の償却を吸収できず赤字が続いている。ここで稼げるようになるかが、会社の質を決める。創業家と信託口が株主の中心で、経営は安定している。ただし、資本効率に関する数値目標はあるが、達成の筋道はまだ見えない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
液晶向けは、面積が伸びる時代ではない。偏光板保護フィルムの世界市場は年 5 % 弱の成長にとどまる。大型化と車載の増加が面積を支えるが、製造の中心は中国と韓国に移った。
競合は、日東電工などの偏光板メーカー自身と、中国の新興の材料メーカーだ。有機 EL の比率が上がると偏光板の使い方が変わる。首位であっても、品種の入れ替えを続けなければ数量を守れない。
包材は安定した市場だ。国内の人口は減るが、詰め替えは環境意識の高まりで定着している。原料は石油由来のため、中東情勢で原料高になると利益率が下がる。値上げの転嫁は、1 年ほど遅れるのが普通だ。
医薬・バイオは成長の大きい市場だ。抗体医薬の増加で、使い捨てバッグの需要は年 1 割前後で伸びる。この分野は欧米の大手が世界の大半を握り、日本の同業は少ない。国内の供給安全保障という追い風はあるが、価格や品質で戦えるかは未知数だ。
化学全体では、汎用品は中国の過剰な生産力で値が崩れる。品質と顧客との共同開発が要る領域は、日本勢の優位が続く。ZACROS の中心事業は後者に属する。
資本政策と M&A
還元は厚い方だ。年間の配当は約 26 億円、自社株買いも同程度で、総還元性向は 6 割を超える年がある。配当は株式分割後も下げない方針に見える。
ただし投資が重く、還元の余力は小さい。設備投資は 2 期で約 330 億円で、純現金は 38 億円まで細った。次に大きな投資が来れば、純負債に転じる可能性がある。
大きな買収はこれまで行っていない。成長は自前の設備投資で取りに行く方針だ。買われる側になる可能性は、創業家と信託口が株の約 3 割を持つことから高くはないが、机上の TOB 確率は 10 年で 2 割強とされる。
政策保有株の額は確認できなかった。ガバナンス面では、資本コストを意識した経営の開示を進めている。2025 年 10 月には株式分割を行い、個人が買いやすくした。
還元の点検(P3 2026-10-19):総還元性向は6割超の年もあり、中立は利益の半分強。直さず。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
医薬・バイオ事業は、これから最も大きく化ける分野だ。抗体医薬の増加で使い捨てバッグの需要は年 1 割前後で伸びる。国内は海外製に頼っており、供給の安全保障の面で国産が選ばれやすい。三重の新棟は 13,500 ㎡で、満床になれば売上は 3 倍に育つ。利益率が 1 割に乗れば、全社の営業利益を大きく押し上げる。
情報電子は、液晶で世界首位を持ち、半導体の製造工程や電池向けの機能フィルムへ広げている。AI 向けの半導体需要は強く、この分野の単価は液晶向けより高い。
包材は国内で詰め替えパウチが 7 割、バッグインボックスは世界で 5 割と、すでに市場を押さえている。ここは安定した現金を生む。
さらに会社は自前の投資で成長し、買収で価値を壊した過去がない。創業家と信託口の安定した株主が長期で支える。営業利益率 10 %、ROE 12 % の計画が達成できれば、倍率は今より大きく上がる。純現金で財務も堅く、悲観でも傷が浅い。
慎重な見方
医薬・バイオ事業はすでに赤字で、新棟の償却はこれから本格的に利益を食う。シングルユースバッグは欧米の大手が世界の大半を握る。顧客はバイオ医薬品の製造会社で、品質認証に年単位の時間がかかる。稼働率が上がるまでに償却と人件費だけが先に出る。
液晶向けは面積の伸びが止まり、製造の中心は中国に移った。同等品を安く出す新興メーカーが現れれば、世界首位でも値段を守れない。今期の情報電子は、すでに減益の予想だ。
中東情勢で原料が上がっても、転嫁は遅れる。会社の予想は営業利益がほぼ横ばいで、純利益は 16 % 減る。売上が 1 割増えても利益が増えない、というのが今の姿だ。
設備投資は年 160〜175 億円で、償却費の倍を超える。純現金は 38 億円まで細り、このペースで続ければ純負債に転じる。ROE は資本コストをわずかにしか上回らず、10 年の中立でも 9 % 前後だ。投資を増やすほど、株主に残る分は薄くなる。
どちらに重みを置いたか
どちらの言い分にも根拠がある。強気は、医薬・バイオが当たった時の大きさを突く。慎重な見方は、投資がすでに先行し、回収がまだ見えていない点を突く。筆者は後者がやや強いと判断した。
決め手は、会社自身の今期予想だ。売上は 1 割増えるのに営業利益はほぼ横ばいで、純利益は減る。投資の果実が出るのは、まだ先だ。確率は、強気の 2 つの筋書きの合計を 3 割弱、弱気の 2 つの合計を 4 割弱に置き、中立を 36 % にした。
ただし弱気側でも、首位事業の稼ぐ力と純現金は残る。そのため悲観でも、価値は今の時価総額の 4 割弱を割るにとどまる。この下値の浅さと、中立の ROE が資本コストを超える点が、本質価値が今の時価総額を 1 割ほど上回る理由だ。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 2,184 円1,564 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 724 円519 億円)。 今の値に割り戻すと 1,534 円1,098 億円、今との差 +24.6%、 期待の年率 +9.0%(資本コスト 7.8%)→ やや割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 4,500 円3,222 億円 | 972 円696 億円 | +344.5% | +16.1% | 438 円313 億円 |
| やや楽観 | 20% | 3,287 円2,354 億円 | 896 円642 億円 | +239.9% | +13.0% | 837 円599 億円 |
| 中立 | 36% | 2,395 円1,715 億円 | 772 円553 億円 | +157.3% | +9.9% | 1,140 円817 億円 |
| やや悲観 | 24% | 1,035 円741 億円 | 599 円429 億円 | +32.7% | +2.9% | 392 円281 億円 |
| 悲観 | 12% | 463 円332 億円 | 380 円272 億円 | −31.5% | −3.7% | 101 円72 億円 |
| 加重平均 | 100% | 2,184 円1,564 億円 | 724 円519 億円 | +136.2% | +9.0% | 2,908 円2,082 億円 |
今の株価時価総額 1,231 円881 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.8% を下回るほど割高。
楽観 8% 医薬・バイオが大きく育つ 利益 201 億円 · PER 16.0 倍 · 株価時価総額 4,500 円3,222 億円
バイオ医薬品向けのシングルユースバッグが国内の安定供給需要を取り込み、三重の新棟が満床に近い稼働を続ける。医薬・バイオ事業は 10 年で売上が 3 倍に育ち、利益率も 1 割を超える。
液晶向けの保護フィルムは世界首位を保ったまま、半導体製造工程用や電池用のフィルムの比率が上がる。単価の下落を品種の入れ替えで抑え、情報電子の利益が大きく積み上がる。
全社の営業利益率は中長期計画の目標である 10 % に届き、ROE も 12 % に乗る。買収には頼らず、自前の投資が実を結ぶ筋書きだ。創業家と信託口が支える安定した株主構成のもと、還元も続く。
- 情報電子(ディスプレイ・半導体・電池向けフィルム):数量 492(保護・離型フィルムの出荷面積(百万㎡、推定))× 価格 195(1 ㎡あたり平均単価(円))→ 売上 960 億円・営業利益 96 億円。半導体・電池向けが伸びる、物価並みの転嫁
- 環境ソリューション(詰め替え・BIB 等の包材):数量 34.1(軟包材・BIB の出荷量(千トン、推定))× 価格 138(1 トンあたり単価(万円))→ 売上 471 億円・営業利益 38 億円。国内シェアを保ち物価以上に転嫁
- ウェルネス(医薬・医療包材・バイオ医薬向け):数量 17.6(医薬・バイオ向け包材の出荷量(千トン換算、推定))× 価格 487(1 トンあたり単価(万円))→ 売上 856 億円・営業利益 94 億円。新棟が満床
- 産業インフラ(建材・配管・化学品):数量 40.0(建材・配管・化学品の出荷量(千トン、推定))× 価格 142(1 トンあたり単価(万円))→ 売上 570 億円・営業利益 68 億円。需要は底堅い
倍率:事業の純利益 201 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 12.3% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.0%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.0 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.0 倍。全体の PER 16 倍、時価総額 3,222 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:バイオ医薬向け包材が量産に乗り、液晶以外の半導体・電池向けフィルムも伸びる場合に限られる。投資の回収が見えるまで時間がかかるため、確率は低めに置いた。
やや楽観 20% 医薬・バイオが黒字化、液晶は横ばい 利益 156 億円 · PER 15.1 倍 · 株価時価総額 3,287 円2,354 億円
医薬・バイオ事業の赤字が止まり、新棟の償却が収益で吸収される。10 年後には全社の営業利益の 1 割近くを稼ぐ事業に育つが、当初の期待ほどの伸びではない。
情報電子は液晶の面積が横ばいの中で、車載ディスプレイや半導体向けで伸ばす。価格は物価の上昇に近い水準で転嫁でき、利益率は 9 % 台に戻る。
環境ソリューションの詰め替え・BIB は、国内シェアの高さを背景に安定する。全社の営業利益率は 9 % 弱まで上がるが、10 % の目標には届かない。ROE は 10 % 強で、資本コストを少し上回る。
- 情報電子(ディスプレイ・半導体・電池向けフィルム):数量 462(保護・離型フィルムの出荷面積(百万㎡、推定))× 価格 188(1 ㎡あたり平均単価(円))→ 売上 866 億円・営業利益 80 億円。液晶は横ばい、他用途が補う。価格は物価より少し弱い転嫁
- 環境ソリューション(詰め替え・BIB 等の包材):数量 33.2(軟包材・BIB の出荷量(千トン、推定))× 価格 136(1 トンあたり単価(万円))→ 売上 451 億円・営業利益 32 億円。数量ほぼ横ばい、物価並みに転嫁
- ウェルネス(医薬・医療包材・バイオ医薬向け):数量 14.4(医薬・バイオ向け包材の出荷量(千トン換算、推定))× 価格 476(1 トンあたり単価(万円))→ 売上 686 億円・営業利益 58 億円。黒字化が進む
- 産業インフラ(建材・配管・化学品):数量 39.6(建材・配管・化学品の出荷量(千トン、推定))× 価格 140(1 トンあたり単価(万円))→ 売上 556 億円・営業利益 64 億円。安定
倍率:事業の純利益 156 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.6% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.2%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.1 倍。全体の PER 15.05 倍、時価総額 2,354 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:新棟が稼働率を上げ、赤字の医薬・バイオ事業が黒字化するところまでは見通せる。ただし液晶向けは頭打ちで、全体の利益率は 1 割に届かない。この筋書きを中立の次に厚く置いた。
中立 36% 液晶は首位を守り、医薬・バイオが黒字に着く 利益 124 億円 · PER 13.8 倍 · 株価時価総額 2,395 円1,715 億円
情報電子は液晶フィルムで世界首位の位置を守るが、液晶の面積は大きく伸びない。半導体向けなどの新しい品種が数量を少し押し上げる。価格は物価より低い伸びにとどまる。偏光板メーカーとの交渉と中国勢の追い上げで、原料高の全部は転嫁できず、10 年で 2 割の上昇と置いた。
医薬・バイオ事業は新棟の稼働とともに数量が 1.5 倍になり、償却負担をこなして 6 % 台の利益率に着く。産業インフラの建材・配管は国内の着工減を価格転嫁で埋め、利益率は 1 割強を保つ。
全社の売上は 10 年で 4 割強増え、営業利益率は 8 % 台に上がる。ROE は 9 % 前後で、資本コストをわずかに超える程度だ。投資に回すお金が多く、還元に回せる分は利益の半分強にとどまる。
- 情報電子(ディスプレイ・半導体・電池向けフィルム):数量 436(保護・離型フィルムの出荷面積(百万㎡、推定))× 価格 180(1 ㎡あたり平均単価(円))→ 売上 784 億円・営業利益 67 億円。液晶向けは面積横ばい、新品種が補う。価格は 1.2 倍:偏光板メーカーの値下げ要求と中国勢の追い上げで物価より低い
- 環境ソリューション(詰め替え・BIB 等の包材):数量 32.5(軟包材・BIB の出荷量(千トン、推定))× 価格 134(1 トンあたり単価(万円))→ 売上 436 億円・営業利益 26 億円。詰め替え・BIB は数量横ばい、物価並みに転嫁
- ウェルネス(医薬・医療包材・バイオ医薬向け):数量 12.0(医薬・バイオ向け包材の出荷量(千トン換算、推定))× 価格 466(1 トンあたり単価(万円))→ 売上 559 億円・営業利益 36 億円。新棟の稼働で 1.5 倍
- 産業インフラ(建材・配管・化学品):数量 38.8(建材・配管・化学品の出荷量(千トン、推定))× 価格 138(1 トンあたり単価(万円))→ 売上 537 億円・営業利益 59 億円。国内の着工減を価格で埋める
倍率:事業の純利益 124 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.9% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.3%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.8 倍。全体の PER 13.82 倍、時価総額 1,715 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:液晶向けの世界首位を守りながら、医薬・バイオの黒字化が進み、国内の包材と建材は人口減を価格で吸収する。業界ノートの前提(自動車・電子は緩やかな成長、国内需要は横ばい)に沿った落としどころで、最も厚く置いた。
やや悲観 24% 投資の回収が遅れ、資本コストを割る 利益 71 億円 · PER 10.0 倍 · 株価時価総額 1,035 円741 億円
液晶向けのフィルムは中国勢の追い上げで単価が物価に追いつかず、情報電子の利益率は 6 % に下がる。顧客の偏光板メーカーとの価格交渉で、原料高を転嫁しきれない年が続く。
医薬・バイオ事業は稼働は上がるものの、海外の大手との競争で値上げが利かず、10 年たっても利益がわずかしか出ない。新棟の償却だけが重く残る。
環境ソリューションは原料価格の変動を吸収しきれず、薄い利益率が続く。全社の営業利益率は 6 % 近くに下がり、ROE は 5 % 台と資本コストを下回る。稼いだお金を投資に回しても増やせない状態だ。
- 情報電子(ディスプレイ・半導体・電池向けフィルム):数量 379(保護・離型フィルムの出荷面積(百万㎡、推定))× 価格 165(1 ㎡あたり平均単価(円))→ 売上 625 億円・営業利益 38 億円。数量は頭打ち、中国勢で値下げ圧力
- 環境ソリューション(詰め替え・BIB 等の包材):数量 30.9(軟包材・BIB の出荷量(千トン、推定))× 価格 130(1 トンあたり単価(万円))→ 売上 401 億円・営業利益 18 億円。国内需要減、転嫁は物価より弱い
- ウェルネス(医薬・医療包材・バイオ医薬向け):数量 8.8(医薬・バイオ向け包材の出荷量(千トン換算、推定))× 価格 445(1 トンあたり単価(万円))→ 売上 391 億円・営業利益 8 億円。稼働は上がるが採算薄い
- 産業インフラ(建材・配管・化学品):数量 37.2(建材・配管・化学品の出荷量(千トン、推定))× 価格 134(1 トンあたり単価(万円))→ 売上 499 億円・営業利益 47 億円。原料転嫁が遅れる
倍率:ROE 約 5.6 % で k 未満。RONIC は約 6.8 %、g 4 % で正当化 PER は約 10.3 倍。ROE が k に届かず、ためた利益が額面を下回る価値しかないため上限は 1÷k を割る。10 倍に置いた。
確率:積み上げた設備の回収が遅れ、液晶向けの値下げ圧力で利益率が 7 % 台から上がらない。直近の予想が営業利益ほぼ横ばい・純利益減益であることから、強気側より慎重な見方が強いと判断し、中立を超える厚さにした。
悲観 12% 液晶で値を崩され、新棟が減損に至る 利益 32 億円 · PBR 0.4 倍 · 株価時価総額 463 円332 億円
液晶の保護フィルムで中国の新興メーカーが同等品を安く出し、世界首位でも値段を守れなくなる。数量は 2 割減り、価格は 10 年間ほぼ横ばいにとどまる。
医薬・バイオ事業は新棟の稼働率が上がらず、赤字が続いて減損を迫られる。投資のお金が回収できず、自己資本の一部が失われる。
環境ソリューションと産業インフラは残るが、原料高と国内の需要減で利益はぼつぼつだ。全社の営業利益率は 3 % ほどに沈み、ROE は 3 % を切る。もう優良とは言えない会社になり、価値は稼ぐ力で測るしかなくなる。株主構成が安定していても、本業の利益が戻らなければ買い手は付かない。
- 情報電子(ディスプレイ・半導体・電池向けフィルム):数量 303(保護・離型フィルムの出荷面積(百万㎡、推定))× 価格 150(1 ㎡あたり平均単価(円))→ 売上 454 億円・営業利益 14 億円。数量 2 割減、価格ほぼ横ばい
- 環境ソリューション(詰め替え・BIB 等の包材):数量 29.3(軟包材・BIB の出荷量(千トン、推定))× 価格 125(1 トンあたり単価(万円))→ 売上 366 億円・営業利益 11 億円。国内需要減、転嫁は弱い
- ウェルネス(医薬・医療包材・バイオ医薬向け):数量 7.2(医薬・バイオ向け包材の出荷量(千トン換算、推定))× 価格 417(1 トンあたり単価(万円))→ 売上 300 億円・営業利益 −9 億円。赤字継続・減損
- 産業インフラ(建材・配管・化学品):数量 36.0(建材・配管・化学品の出荷量(千トン、推定))× 価格 129(1 トンあたり単価(万円))→ 売上 465 億円・営業利益 37 億円。原料高で薄利
倍率:ROE 約 3 % で k を大きく下回る。稼ぐ力は純利益 32 億円 ÷ k 7.75 % = 約 400 億円で、今の自己資本 948 億円の 0.35 倍(約 330 億円)はその 8 割強に当たる。減損後も売れる土地・設備と純現金があり、これを下回る価値には落ちにくい。
確率:液晶向けで中国勢に価格を崩され、医薬・バイオの新棟が稼働しても採算に乗らず減損に至る。大型投資の判断を誤る余地は現実にあり、確率は 1 割強とした。quality と同じ理由では上げていない。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
情報電子(ディスプレイ・半導体・電池向けフィルム)
液晶の偏光板に貼る保護フィルムを主力に、離型フィルム、半導体・電池向けの機能フィルムを作る。偏光板保護フィルムで世界首位(会社調べ)。
| 数量保護・離型フィルムの出荷面積(百万㎡、推定) | 価格1 ㎡あたり平均単価(円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 379 | 150 | 568 | 47 |
| 10 年後 中立 | 436 | 180 | 784 | 67 |
取り方:開示は金額のみ。世界の液晶出荷面積は年 2.5 億㎡前後で、1 枚に複数層を貼ることから、自社分を約 3.8 億㎡、平均 150 円/㎡ と置いて売上 568 億円に合わせた。推定である。
環境ソリューション(詰め替え・BIB 等の包材)
化粧品・日用品の詰め替えパウチ(国内シェア約 7 割、会社調べ)と、試薬や飲料用のバッグインボックス(世界シェア 5 割超、会社調べ)。
| 数量軟包材・BIB の出荷量(千トン、推定) | 価格1 トンあたり単価(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 32.5 | 100 | 325 | 14 |
| 10 年後 中立 | 32.5 | 134 | 436 | 26 |
取り方:開示は金額のみ。軟包材の単価を 100 万円/トン と置き、売上 325 億円から出荷量を約 3.25 万トンと逆算した。推定である。
ウェルネス(医薬・医療包材・バイオ医薬向け)
医薬品の包装材、貼付薬用の剥離フィルム、バイオ医薬品の製造に使うシングルユースバッグ(BioPhaS)。三重の新棟で能力を増やした。
| 数量医薬・バイオ向け包材の出荷量(千トン換算、推定) | 価格1 トンあたり単価(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 8.0 | 348 | 278 | −2 |
| 10 年後 中立 | 12.0 | 466 | 559 | 36 |
取り方:開示は金額のみ。医薬・バイオ向けは付加価値が高く、単価を一般包材の 3.5 倍強(347.5 万円/トン)と置いて、売上 278 億円から出荷量を約 0.8 万トンと逆算した。推定である。 数量は出荷量(実物)で、新棟の稼働による。
産業インフラ(建材・配管・化学品)
建築用チムニー、ボイドスラブ、空調配管、トンネル材、化学製品。国内の建築・土木向けが中心。
| 数量建材・配管・化学品の出荷量(千トン、推定) | 価格1 トンあたり単価(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 40.0 | 103 | 413 | 50 |
| 10 年後 中立 | 38.8 | 138 | 537 | 59 |
取り方:開示は金額のみ。建材・配管は樹脂・金属複合の成形品が多く、単価を約 103 万円/トン と置いて、売上 413 億円から出荷量を約 4 万トンと逆算した。推定である。
リスクと懸念
医薬・バイオ投資の回収遅れ
三重の新棟は延床 13,500 ㎡で、償却と人件費が先に出る。シングルユースバッグは欧米大手が強く、顧客の品質認証にも年単位の時間がかかる。稼働が上がらなければ赤字が続き、減損の可能性もある。
液晶向け保護フィルムの値崩れ
液晶の製造の中心は中国に移り、同等品を安く出す新興メーカーが増えている。世界首位でも、顧客の偏光板メーカーとの交渉で値下げを迫られる。有機 EL への移行で需要の中身が変わる可能性もある。
原料高の転嫁の遅れ
原料は石油由来で、中東情勢で上がる。転嫁は 1 年ほど遅れるのが普通で、その間は利益率が下がる。今期の予想も、売上増に対して利益がほぼ横ばいだ。
設備投資の重さと財務の変化
設備投資は年 160〜175 億円で、償却費の倍を超える。純現金は 38 億円まで細った。次の大型投資が重なれば純負債に転じ、借り換えの金利上昇が利益を削る。
国内需要の縮小
産業インフラの建材・配管は国内の着工に連動し、人口減で数量は縮む。価格転嫁で埋めてきたが、競争が強まれば難しくなる。
顧客の集中
情報電子は偏光板メーカーなど少数の大手に頼る。顧客が内製や調達先の入れ替えを進めれば、数量が一度に動く。
今後の分かれ目
- 医薬・バイオ事業が 2027〜28 年度に黒字になり、稼働率が 7 割を超える
- 10 年の営業利益率は 9 % 台に上がり、強気の筋書きの確率が高まる。本質価値は今の時価総額を 3 割以上上回る方向に動く。
- 医薬・バイオ事業の赤字が 2029 年度まで続く
- 新棟の減損の可能性が高まり、弱気の筋書きが中心になる。ROE は資本コストを下回り、本質価値は今の時価総額に近づく。
- 情報電子で半導体・電池向けの比率が 3 割を超える
- 液晶向けの値下げ圧力を品種の入れ替えで吸収でき、情報電子の利益率は 9 % 台に戻る。
- 中国の新興メーカーが液晶保護フィルムで世界シェアを 1 割以上取る
- 単価の下落が続き、情報電子の利益が半分近くに減る。弱気の筋書きが現実になる。
- 設備投資が 2 年続けて 200 億円を超える
- 純負債に転じ、還元の余力が縮む。配当は守っても自社株買いは止まり、10 年の還元は減る。
- 創業家・信託口以外から買収提案が出る
- 首位事業を評価する買い手がいれば、10 年を待たずに価値が顕在化する。ただし提案があるかは分からない。
見ておくもの
- 医薬・バイオ事業の営業損益と新棟の稼働率
- 情報電子の営業利益率(今期予想は約 7 %)
- 設備投資額と純現金の推移
- 中期計画の営業利益率 10 %・ROE 12 % の進捗
- 原料価格(ナフサ)と転嫁のタイミング
- 配当・自社株買いの方針変更
倍率と資本コストの決め方
倍率は今の株価からは決めていない。10 年中立の ROE 約 9 %、資本コスト 7.75 %、長期成長 4 % から正当化 PER を出し、ROE が資本コストをわずかに超える会社の下限 1÷k に置いた。今の株価は中立の時価総額(約 1,550 億円)の 6 割弱で、これを見て倍率を動かしてはいない。中立の ROE は過去 10 年の中央値 8 % + 2 ポイント以内で、純利益÷営業利益 も過去の中央値 0.66 に合わせた。リースは工場中心で店舗型ではなく重くない。新リース会計基準で営業利益と負債の形が変わるが、10 年後の数字は今と同じ形(家賃を営業費用に入れた形)でそろえた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 14→16 倍・やや楽観 PER 13→15.05 倍・中立 PER 12.5→13.82 倍)。
資本コスト 7.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5 % + quality 0.5 %。事業が傾いている様子はないので上乗せはなし。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.00% → 7.75%。