結論
日華化学は、繊維の加工に使う薬剤と、美容室向けのヘアケア製品を作る会社だ。化学品が売上の7割、化粧品が3割を占める。2025年12月期の売上は557億円、営業利益は38億円だった。
筆者の結論は、ほぼ適正、というものだ。確率で重みを付けた10年先の価値は、今の時価総額326億円を少し下回る。利益は伸びるが、稼いだ金を工場や買収に使い続け、資本効率が上がらない。
追い風は鮮明だ。2026年12月期の営業利益は、期初の予想を上方修正して54億円と、初めて50億円を超える見通しになった。インドやバングラデシュなど南西アジアの繊維加工が伸び、付加価値の高いEHD製品の比率は48%に上がった。米国ケマーズから譲り受けた非フッ素系撥水剤も加わる。
弱みは三つある。化粧品が主力代理店の在庫調整で減益になっていること。新工場と事業譲受で借入が増えたこと。そして、営業利益率が8%台で、過去の山を超える理由が見当たらないことだ。
筆者は、非フッ素の波に乗る化学品に期待しつつ、ROEが資本コストに届かない点を重く見る。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社は「良い会社だが、資本が乏しい事業」に近い。80年続く現場密着の技術と、非フッ素という時流に合った製品があり、10年後も事業が残る点は評価できる。
ただし、オーナー利益の質は高くない。営業利益率は8%前後で、利益の多くは工場の更新と新工場の償却に回る。ROEは7%台で、資本コストに届かない。稼いだ利益を事業に戻しても、価値がそれほど増えない。
経営は、投資に前のめりだ。新工場とZelanの事業譲受で、借入を増やして一気に投資した。うまく回れば利益は伸びるが、化粧品の代理店依存と新工場の稼働率には不安が残る。
安全域は薄い。中立の価値は今の時価総額を少し下回り、悲観側の下振れが大きい。筆者は、新工場が計画どおり動き、ROEが資本コストを超えて安定する姿を見てから、見方を改める。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの柱は化学品で、売上の約7割を占める。主力は繊維の加工に使う薬剤だ。糸や布を洗い、染め、柔らかくし、水をはじかせる薬を、世界の染色工場に売る。国内では首位級で、クリーニング店向けの洗剤も手がける。化学品の海外比率は約6割とされ、中国、インド、バングラデシュ、東南アジアが中心だ。
会社は、環境・健康・先端材料に使える製品をEHDと呼び、これを増やしている。EHDは化学品の売上の約48%で、2030年に5割を超える計画だ。フッ素を使わない撥水剤が代表例だ。2026年3月には米国ケマーズから、非フッ素系撥水剤「Zelan」の事業を譲り受けた。半導体向けの冷却剤や、PETのリサイクル用洗浄剤も育てている。
化粧品は売上の約3割だ。美容室だけで売るシャンプー、トリートメント、ヘアカラーを作る。1980年代に始め、繊維の加工で磨いた技術をヘアケアに使う。韓国の子会社を足がかりに、東南アジアへ出る計画だ。福井では新工場を建て、2027年に動かす。生産能力は3倍になる見込みだ。
2025年12月期のセグメント利益は、化学品が39億円、化粧品が20億円だった。本社費などを引くと、全社の営業利益は38億円になる。創業は1941年、福井県で始まった。社長は江守康昌氏だ。
優良さと弱いところ
堀は、技術を現場で使わせる力にある。創業者の言葉は「製品を売るにあらずして技術を売る」だ。染色工場の現場に入り、その場の問題を薬剤で解く。この姿勢を80年以上続けてきたため、工場は薬を簡単には替えにくい。国内の繊維薬剤とクリーニング薬剤では、長く首位級にある。
新しい強みも出た。フッ素を使わない撥水剤で、アクリル系、シリコン系、ウレタン系の三つを全部持つのは世界で自社だけ、と会社は説明する。第三者の検証はない。ただ、PFASの規制が進めば、この三本柱は売りやすくなる。
弱みははっきりしている。第一に資本効率だ。ROEは過去10年の中央値が7.1%で、資本コストに届いていない。営業利益率は3%台から7%台を行き来し、10年たっても大きくは上がっていない。第二に規模だ。時価総額は326億円で、欧米の大手と比べれば小さい。第三に、化粧品が代理店に頼り、在庫調整で利益が振れる点だ。
財務は悪くない。自己資本比率は47.5%、営業利益は支払利息の32倍ある。ただし純有利子負債は81億円と、1年で積み上がった。筆者は、新工場への投資が採算に乗るかを、いちばん気にしている。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
繊維薬剤の市場は、生産地の移動で動く。衣料の生産は中国から、インド、バングラデシュ、ベトナム、インドネシアへ広がっている。日華化学は1968年の台湾を皮切りに、アジアに拠点を持つ。生産地が動いても、現地で売れる体制があるのが強みだ。業種のノートでは、界面活性剤の世界市場は名目で年4〜6%、特殊品は年6%前後の成長とされる。汎用品は中国勢の追い上げで、物価並みにとどまる。
環境規制が追い風になる。PFAS(有機フッ素化合物)の規制は欧米を中心に進み、撥水剤はフッ素を使わないものへ置き換わる。ただし、油をはじく撥油などは、フッ素を使わない代替がまだ難しい。置き換えには時間がかかり、価格も高く付けにくい。
競争は二層だ。国内では明成化学、一方社油脂、日本乳化剤などと競う。海外では、アーチロマ、ルドルフ、CHTなど欧州系の大手が相手になる。非フッ素の分野で先行しても、大手が追いつけば優位は縮む。
化粧品は美容室専売品の市場で、ミルボン、ホーユーなどと競う。市場は人口減で伸びにくい。営業員を増やして、他社のシェアを取る戦略だ。現在の位置は、化学品が拡大の初期から中期、化粧品が在庫調整の底にある局面だ。
資本政策と M&A
還元は増配で示している。DOE(自己資本に対する配当の比率)3%以上の累進配当を掲げ、6期連続で配当を増やした。2026年12月期も増配の予定だ。自己株式は発行済株式の約8%を持つが、自社株買いは大きくない。
資本は成長に回す。新中計は5年間で250〜300億円のキャッシュを見込み、成長投資、配当、借入の返済に配分する。福井の新工場とケマーズの事業譲受で、2025年12月期は投資に約115億円を使い、借入は80億円以上増えた。
買収は、ケマーズの事業譲受が初の大きなものだ。金額は非開示だった。今後も化学品の周辺で、小粒から中型の買収が続くとみる。
大株主は、江守プランニング(約14.5%)、日華共栄会(約10.9%)、商社の長瀬産業(約8.6%)が上位だ。三者で3割を超え、動かない株主が厚い。試算では10年以内に買収される確率が2割台半ばと出るが、筆者はこの株主構成なら高くないと見る。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
利益の転換点にいる。2026年12月期の営業利益は54億円と、期初の予想から大きく引き上げた。化学品の上期は売上と利益が過去最高で、利益は5割増えた。インド、バングラデシュ、ベトナムなどの繊維加工が伸び、EHD製品の比率は48%に上がった。
非フッ素の波は本物だ。PFAS規制で、撥水剤はフッ素を使わないものへ置き換わる。日華化学は三つの方式を持ち、ケマーズの事業を買って世界一の位置を取りにいく。非フッ素撥水剤の売上は20億円から50億円超へ増える見通しだ。
化粧品も立て直せる。福井の新工場は生産能力が3倍になり、外注に頼る約半分の生産を内製に戻せる。営業員を毎年約20人増やし、シェアを取る。上期の減益は、代理店の在庫調整という一時的な要因が大きい。
新中計の2030年の営業利益56億円は、すでに今期の予想で届く水準だ。見直しが入れば、目標は引き上げられる。EHDの比率が65%に近づけば、利益率は10年で1ポイント以上の上積みが見込める。
慎重な見方
資本効率が悪い。ROEは過去10年の中央値で7.1%、資本コストを下回る。利益を増やしても、それを上回るペースで自己資本と借入を積み増すため、ROEは上がらない。今回も、新工場とケマーズの事業譲受で、借入を80億円以上増やした。
今期の急増には、続かない部分が含まれる。原材料高の値上げの転嫁にはタイムラグがあり、会社自身も2〜3か月かかると説明している。為替や海外の繊維需要が崩れれば、利益率は元に戻る。営業利益率の過去の最高は、2013年12月期の8.8%だ。
化粧品は不安が大きい。上期は減収減益で、主力代理店の在庫調整とODMの減少が重なった。美容室向けは人口減で市場が伸びず、ミルボンなど先行する競合が強い。新工場は生産能力を3倍にするが、需要が追いつかなければ、償却負担だけが残る。
非フッ素の優位も永続しない。欧州の大手が同じ分野に参入し、撥油など技術的に難しい用途は代替が進まない。PFAS規制が遅れれば、置き換えのペースも落ちる。
どちらに重みを置いたか
強気の見方の核は、化学品の急伸と非フッ素の波だ。これは確かな追い風で、中立の筋書きにも織り込んだ。慎重な見方の核は、資本効率が上がらないことと、化粧品・新工場の不確実さだ。こちらの言い分が、倍率の水準に効く。
ROEが資本コストと同じ水準にとどまる限り、倍率は10倍強に落ち着く。確率の重みを付けた価値は、今の時価総額を7%ほど下回る。
確率は、中立を最も厚く置いた。化学品の海外成長を信じる分、楽観に1割弱を置いたが、新工場と代理店依存の不安から、やや悲観と悲観の合計を3割台前半にした。
10 年後の 5 つの筋書き(2035/12 期)
確率で加重した株価時価総額 3,317 円544 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 842 円138 億円)。 今の値に割り戻すと 2,152 円353 億円、今との差 +9.3%、 期待の年率 +7.8%(資本コスト 7.8%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 9% | 6,195 円1,016 億円 | 1,086 円178 億円 | +269.8% | +14.0% | 655 円107 億円 |
| やや楽観 | 22% | 4,768 円782 億円 | 988 円162 億円 | +192.4% | +11.3% | 1,266 円208 億円 |
| 中立 | 36% | 3,706 円608 億円 | 909 円149 億円 | +134.4% | +8.9% | 1,661 円272 億円 |
| やや悲観 | 22% | 1,172 円192 億円 | 738 円121 億円 | −3.0% | −0.3% | 420 円69 億円 |
| 悲観 | 11% | 1,073 円176 億円 | 335 円55 億円 | −28.4% | −3.3% | 155 円25 億円 |
| 加重平均 | 100% | 3,317 円544 億円 | 842 円138 億円 | +111.2% | +7.8% | 4,158 円682 億円 |
今の株価時価総額 1,969 円323 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.8% を下回るほど割高。
楽観 9% 非フッ素と南西アジアの追い風が続き、化学品が高収益に変わる 利益 70 億円 · PER 14.5 倍 · 株価時価総額 6,195 円1,016 億円
PFAS の規制が欧米で想定より早く進み、撥水剤は非フッ素へ一気に切り替わる。日華化学は三つの方式を持つ強みとケマーズから受けた事業で、世界首位の位置を固める。EHD の出荷は今の 2 倍近くに増え、化学品の営業利益率は 11% 台まで上がる。南西アジアの繊維加工も続伸し、従来品の出荷も 1 割増える。化粧品は福井の新工場の稼働が軌道に乗り、内製化で原価が下がる。東南アジアへの展開が当たり、出荷は今の 1.4 倍になる。全社の売上は 1,130 億円、営業利益は 102 億円、利益率は 9% に届く。過去の山の 8.8% を超えるが、EHD 比率が 65% に近づく構造の裏づけがある。借入は返済に回り、財務は軽くなる。
- 化学品:EHD関連(環境・健康・先端材料):数量 78.0(出荷量(千トン、推定))× 価格 6.30(1 千トンあたり売上(億円))→ 売上 491 億円・営業利益 69 億円。営業利益率 14.0%
- 化学品:繊維加工薬剤・クリーニング薬剤ほか:数量 108(出荷量(千トン、推定))× 価格 3.22(1 千トンあたり売上(億円))→ 売上 348 億円・営業利益 25 億円。営業利益率 7.3%
- 化粧品(美容室専売のヘアケア):数量 17.5(出荷数量(百万個相当、推定))× 価格 17(1 百万個あたり売上(億円))→ 売上 294 億円・営業利益 38 億円。営業利益率 13.0%
倍率:事業の純利益 70 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.8% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.8%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.5 倍。全体の PER 14.51 倍、時価総額 1,016 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:非フッ素の規制が予想より早く進み、南西アジアの需要も続き、化粧品も立ち直る必要がある。三つの好条件が重なる形で、会社の規模も小さいので 1 割弱にとどめた。
やや楽観 22% EHD の比率が上がり、化学品と化粧品がそろって伸びる 利益 57 億円 · PER 13.6 倍 · 株価時価総額 4,768 円782 億円
非フッ素と半導体向け冷却剤などが伸び、EHD の出荷は今の 1.65 倍になる。従来品は南西アジアで増えるが、中国は伸びない。化学品の営業利益率は 11% 台に改善する。化粧品は代理店の在庫調整が収まり、営業員の増員でシェアが上がる。新工場が動くと原価も下がり、利益率は 13% に戻る。全社の売上は 1,000 億円、営業利益は 85 億円、利益率は 8.5% になる。会社の 2030 年の目標(営業利益 56 億円)を前倒しで超え、その後も着実に積み上がる姿だ。ROE は 8% 台後半に上がるが、資本コストを大きく超える水準には届かない。配当は DOE 3% を守り、借入の返済が進む。
- 化学品:EHD関連(環境・健康・先端材料):数量 66.0(出荷量(千トン、推定))× 価格 6.17(1 千トンあたり売上(億円))→ 売上 407 億円・営業利益 56 億円。営業利益率 13.8%
- 化学品:繊維加工薬剤・クリーニング薬剤ほか:数量 103(出荷量(千トン、推定))× 価格 3.15(1 千トンあたり売上(億円))→ 売上 324 億円・営業利益 23 億円。営業利益率 7.2%
- 化粧品(美容室専売のヘアケア):数量 16.2(出荷数量(百万個相当、推定))× 価格 16(1 百万個あたり売上(億円))→ 売上 266 億円・営業利益 35 億円。営業利益率 13.0%
倍率:事業の純利益 57 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.6% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.2%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.6 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.6 倍。全体の PER 13.62 倍、時価総額 782 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:上方修正した今期の勢いが、EHD の比率上昇と新工場の稼働でほぼ続く筋書き。実績の裏づけがあるため 2 割強を置いた。
中立 36% 化学品が物価に実質の伸びを乗せ、利益率は 8% 弱で落ち着く 利益 47 億円 · PER 12.9 倍 · 株価時価総額 3,706 円608 億円
化学品の出荷は、EHD が今の 1.45 倍、従来品は横ばいで推移する。価格は物価並みに上がる。南西アジアが伸び、中国と日本は細る。営業利益率は EHD で 13.5%、従来品で 7% に収まる。化粧品は、出荷が今の 1.2 倍に増える。美容室向けの市場は人口減で伸びないため、シェアの上昇と新工場の内製化で伸ばす。利益率は 12.5% で落ち着く。全社の売上は 900 億円、営業利益は 71 億円、利益率は 7.9% になる。会社の 2030 年の目標(売上 700 億円)を 5 年遅れで超える姿だ。本社費も物価で増えるため、利益率の改善は EHD の比率が上がる分に限られる。ROE は 7% 台で、資本コストにわずかに届かない。
- 化学品:EHD関連(環境・健康・先端材料):数量 58.0(出荷量(千トン、推定))× 価格 6.03(1 千トンあたり売上(億円))→ 売上 350 億円・営業利益 47 億円。営業利益率 13.5%
- 化学品:繊維加工薬剤・クリーニング薬剤ほか:数量 100(出荷量(千トン、推定))× 価格 3.08(1 千トンあたり売上(億円))→ 売上 308 億円・営業利益 22 億円。営業利益率 7.0%
- 化粧品(美容室専売のヘアケア):数量 15.0(出荷数量(百万個相当、推定))× 価格 16(1 百万個あたり売上(億円))→ 売上 241 億円・営業利益 30 億円。営業利益率 12.5%
倍率:事業の純利益 47 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.5% が k 7.75% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.9 倍。全体の PER 12.9 倍、時価総額 608 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:化学品が市場並みに伸び、利益率は 7.9% と過去の山(8.8%)以下で落ち着く中心の筋書き。同じ領域の会社の中立の確率(4 割弱)に近く、最も起こりやすい。
やや悲観 22% 原材料高と競争で利益率が戻り、新工場の償却が重くなる 利益 23 億円 · PER 8.5 倍 · 株価時価総額 1,172 円192 億円
中東情勢などによる原材料高の転嫁が遅れ、競合の値引きもあって、化学品の利益率が 1 割に届かない。EHD の出荷は今の 1.2 倍にとどまり、従来品は中国で細って 1 割減る。価格は物価に追いつかず、10 年で 1.28 倍にとどまる。化粧品は代理店の在庫調整が長引き、出荷は今の 1.04 倍の横ばいで、新工場の償却が重くのしかかる。利益率は 10% に下がる。全社の売上は 740 億円、営業利益は 37 億円、利益率は 5.0% になる。借入の返済が遅れ、利払いも増える。ROE は 4% 台に下がり、稼いだ利益を溜めても価値は増えない。
- 化学品:EHD関連(環境・健康・先端材料):数量 48.0(出荷量(千トン、推定))× 価格 5.76(1 千トンあたり売上(億円))→ 売上 277 億円・営業利益 30 億円。営業利益率 11.0%
- 化学品:繊維加工薬剤・クリーニング薬剤ほか:数量 88.0(出荷量(千トン、推定))× 価格 2.94(1 千トンあたり売上(億円))→ 売上 259 億円・営業利益 14 億円。営業利益率 5.5%
- 化粧品(美容室専売のヘアケア):数量 13.2(出荷数量(百万個相当、推定))× 価格 15(1 百万個あたり売上(億円))→ 売上 203 億円・営業利益 20 億円。営業利益率 10.0%
倍率:事業の ROE 4.2% は k 7.75% 以下なので、PER の上限は 1÷k の 12.1 倍。稼いだ利益を溜めても価値は増えない前提で、成長の上乗せは付けない。ROE が k を大きく下回り、構造的に利益率が戻った形なので、中立より低くなければつじつまが合わない。上限の 7.0 割の 8.5 倍に置いた。
確率:営業利益率は過去に 3% 台まで落ちた年があり、原材料高の転嫁の遅れや化粧品の需要の弱さで 5% 台に戻る形は珍しくない。小さな薬剤メーカーで起こりやすい形として 2 割強を置いた。
悲観 11% 非フッ素の優位が薄れ、化粧品の新工場も重荷になる 利益 −5 億円 · PBR 0.5 倍 · 株価時価総額 1,073 円176 億円
非フッ素の分野に欧州の大手が本格参入し、撥水剤の値段が下がる。撥油などの難しい用途は代替が進まず、PFAS 規制の影響は小さくなる。EHD の出荷は今を下回る。従来品は中国と日本で細り、南西アジアでも現地勢に価格で押される。化粧品は福井の新工場の稼働率が上がらず、償却と固定費が重くのしかかる。代理店の再編や市場の縮小で出荷は今の 9 割に減り、利益率は 6% にとどまる。全社の売上は 550 億円、営業利益はほぼゼロ、純利益は赤字になる。配当は 10 年の合計で 55 億円まで減らす。価値は稼ぐ力ではなく、売れる資産の水準で測る。
- 化学品:EHD関連(環境・健康・先端材料):数量 36.0(出荷量(千トン、推定))× 価格 5.40(1 千トンあたり売上(億円))→ 売上 194 億円・営業利益 14 億円。営業利益率 7.0%
- 化学品:繊維加工薬剤・クリーニング薬剤ほか:数量 72.0(出荷量(千トン、推定))× 価格 2.76(1 千トンあたり売上(億円))→ 売上 199 億円・営業利益 6 億円。営業利益率 3.0%
- 化粧品(美容室専売のヘアケア):数量 11.0(出荷数量(百万個相当、推定))× 価格 14(1 百万個あたり売上(億円))→ 売上 158 億円・営業利益 10 億円。営業利益率 6.0%
倍率:赤字で稼ぐ力では測れず、売れる資産の床で置く。工場・設備・在庫・売掛金などの事業用資産を、簿価の 5 割強で売れると見て、今の自己資本 352 億円のちょうど半分にあたる 176 億円とした。借入は自己資本の中ですでに差し引かれている。EV で見ると、営業利益がほぼゼロのため EV÷営業利益 は意味を持たない。純有利子負債 81 億円は自己資本から差し引き済みで、事業用資産の売却額 176 億円で十分に返せる。市場の値付けは根拠にしていない。
確率:非フッ素で先行しても大手が追いつき、撥水剤の値段が下がる。化粧品の新工場の稼働が遅れる。2016 年や 2019 年のように利益率が 3% 台へ落ちた前例がある。借入が増えているため、1 割強を置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
化学品:EHD関連(環境・健康・先端材料)
非フッ素系撥水剤、半導体向け冷却剤、PETリサイクル用洗浄剤など、環境や先端用途に使う高付加価値の薬剤。会社が育成の中心に置く領域。
| 数量出荷量(千トン、推定) | 価格1 千トンあたり売上(億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 40.0 | 4.50 | 180 | 23 |
| 10 年後 中立 | 58.0 | 6.03 | 350 | 47 |
取り方:化学品の売上 398.9 億円のうち、会社が EHD 関連と区分する約 45% を約 180 億円と置いた。平均単価を 1 千トンあたり約 4.5 億円(付加価値の高い特殊品)と推定して割り、出荷量を約 4 万トンとした。営業利益は化学品全体 39.5 億円を、EHD を高く、従来品を低く分け、EHD 約 23 億円(約 13%)と推定した。分け方は推定で、化学品の合計には合わせてある。
化学品:繊維加工薬剤・クリーニング薬剤ほか
糸や布を洗い、染め、柔らかくする繊維加工薬剤と、クリーニング店向けの洗剤。その他事業を含む。国内首位級で、海外は南西アジアと中国が中心。
| 数量出荷量(千トン、推定) | 価格1 千トンあたり売上(億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 97.6 | 2.30 | 224 | 16 |
| 10 年後 中立 | 100 | 3.08 | 308 | 22 |
取り方:化学品の残り約 218.9 億円とその他事業約 5.5 億円の計 224.4 億円を、平均単価を 1 千トンあたり約 2.3 億円と推定して割り、出荷量を約 9.8 万トンとした。営業利益は約 16.1 億円(約 7.2%)。
化粧品(美容室専売のヘアケア)
美容室だけで売るシャンプー、トリートメント、ヘアカラー、スタイリング剤。国内の代理店経由が中心で、韓国に子会社を持つ。
| 数量出荷数量(百万個相当、推定) | 価格1 百万個あたり売上(億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 12.7 | 12 | 153 | 20 |
| 10 年後 中立 | 15.0 | 16 | 241 | 30 |
取り方:化粧品の売上 152.6 億円を、平均卸値を百万個あたり 12 億円と推定して割り、出荷数量を約 1,270 万個相当とした。営業利益はセグメント利益 19.7 億円(約 12.9%)。
リスクと懸念
新工場の稼働と償却
福井の新工場は生産能力を3倍にするため、需要が追いつかなければ償却と固定費だけが残る。投資は借入で賄っており、稼働が遅れれば利益と財務の両方を圧迫する。2027年の稼働後の立ち上がりを、慎重に見ておく必要がある。
化粧品の代理店への依存
美容室向けの化粧品は、主力の代理店に売上が集中する。2026年12月期の上期は在庫調整で減収減益になった。代理店の方針転換や再編があれば、出荷が1年で大きく振れる。ODM(他社ブランドの受託製造)の減少も重なっている。
非フッ素の優位が薄れる
非フッ素の撥水剤は先行しているが、欧米の大手も同じ分野に入る。PFAS 規制の時期が遅れれば置き換えのペースも落ちる。撥油など技術的に難しい用途では、フッ素を使わない代替が進まない。ケマーズから買った事業が、期待どおり伸びるかも不透明だ。
原材料高と為替
界面活性剤や溶剤の原料は石油由来で、中東情勢などで値上がりする。会社は転嫁に2〜3か月かかると説明している。海外売上が大きいので、為替と現地の景気の影響を受ける。10年を通じて為替は動かさない前提だが、実際の利益は振れる。
繊維産業の移動と需要の弱さ
衣料の生産は中国から南西アジアに移り、バングラデシュなどの政情や労働問題が売上に直結する。欧米の消費が冷えれば、染色工場の稼働が下がり、薬剤の出荷も減る。日本と中国の需要は細り続けるとみる。
借入の増加と買収の実行
2025年12月期は借入を80億円以上増やし、純有利子負債は81億円になった。買収や投資がさらに続けば、利払いと返済の負担が増す。ケマーズの事業譲受の統合が遅れれば、のれんの減損もありうる。
今後の分かれ目
- 化学品の営業利益率が10%を超えて定着したら
- 中立の利益率の前提を引き上げ、やや楽観・楽観の確率を上げてよい。EHD 比率の上昇が裏づけになるかを確認する。
- 会社が2030年の目標(営業利益56億円)を引き上げたら
- 中計の前倒しを示す。やや楽観側に重みを移す。ただし中計の資本効率の目標(ROE)が示されるかも合わせて見る。
- 福井の新工場の稼働が遅れる、または稼働率が低いまま推移したら
- 化粧品の前提を下げ、やや悲観・悲観に寄せる。償却の開始時期と、内製化による原価の動きで確認する。
- 非フッ素撥水剤の売上が50億円を超えて積み上がったら
- EHD の成長の裏づけになる。楽観側の確率を上げてよい。ケマーズから譲受けた事業の採算も開示で確かめる。
- 主力代理店の方針変更または大幅な減収が開示されたら
- 化粧品の利益率と出荷の前提を下方修正し、悲観側に重みを移す。
- 借入が増え続け、純有利子負債が営業利益の3倍を超えたら
- 財務の安全域が薄れる。資本コストの借金の項目を見直し、悲観側の確率を上げる。
見ておくもの
- 化学品のセグメント利益率と EHD 製品の比率(四半期の決算説明資料)
- 非フッ素系撥水剤の売上(2026年12月期に50億円超が見込み)
- 化粧品の売上・利益と、福井スマートファクトリーの稼働(2027年3〜4月)
- 純有利子負債と営業利益の比率、借入の返済ペース
- 中期経営計画の見直し(通期決算を締めた段階)と ROE の目標の有無
倍率と資本コストの決め方
化学品を EHD と従来品に分け、化粧品とともに、出荷量×単価で10年を積んだ。物価は価格に入れ、数量は実質で置いた。利益率は過去の山(8.8%)以下の7.9%に収めた。倍率は ROE(7.5%)が k(8.25%)に届かないため上限が 1÷k で、その8.5割に置いた。悲観は赤字で、売れる資産の床で置いた。今の株価(時価総額326億円)や過去・同業の PER は根拠にしていない。2026年12月期の上方修正(営業利益54億円)は織り込み済みの出発点で、10年中立の利益率はそれより低い。純利益÷営業利益は0.66で、過去10年の中央値0.76より低い。利払いの増加と海外の税負担、少数株主の分を反映した。利払いの変化(10年で約−2億円)は営業外の−3億円に含めた。新リース会計基準で営業利益と負債の形が変わるが、10年後も今と同じ形(賃料を費用に入れた形)で置いた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 12.4→14.51 倍・やや楽観 PER 11.7→13.62 倍・中立 PER 10.3→12.9 倍)。
資本コスト 7.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。k=基本 7.5%+quality 0.75%=8.25%。内訳と理由は quality_why。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.25% → 7.75%。