結論
高圧ガス工業は、ボンベで酸素・アセチレン・LPガスを届ける国内の中堅ガス会社だ。結論から言う。筆者は今の値段をやや割高と見る。事業は堅いが、自己資本を使って稼ぐ力が資本コストに届いていないからだ。
稼ぎの柱はガス事業で、売上の 74% を占める。約 80 万本の容器と約 500 台の配送車で、製鉄・造船・建設・食品の現場や病院へ運ぶ。溶解アセチレンは国内首位だ。接着剤と塗料の化成品が売上の 22% だが、益率は 3% 台にとどまる。
弱いのは資本の効率だ。自己資本比率は 68%、手元には借金を引いても 191 億円の現金がある。それでも ROE は 5% 台で、営業利益率はこの 10 年 5〜6% の狭い範囲から動いていない。
10 年の中立では、数量は国内の人口減と製造業の縮小で 1 割弱減り、価格は物価並みに上がる。営業利益は 80 億円強で、会社の目標 85 億円(5 年後)に届かない。前の中期計画も目標に届かなかった実績が重い。
カーボンナノチューブと浸炭は夢のある話だが、柱になるのは次の計画以降だ。厚い現金と政策保有株は下値を支える。ただ、株主へ戻る保証が薄く、全額を価値には数えない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点で、この会社を長く持ちたいかと問うと、答えは「値段次第」になる。
事業は分かりやすい。ボンベを配る仕事は、10 年後も存在する。配送網の密度は他社がすぐには真似できず、事故を起こさない運営は信頼になる。だから大きく傷む会社ではない。
ただ、バリュー投資家が最も気にするのは、稼いだ利益を再投資して、どれだけ価値が増えるかだ。この会社は自己資本 842 億円で営業利益 59 億円。資本あたりの稼ぎは、資本コストの 8% を下回る。ためた利益は、額面どおりの価値にならない。厚い自己資本を理由に安全と考えるのは危うい。
オーナーに戻る利益で見ても同じだ。10 年の営業キャッシュフローは約 380 億円で、そのうち 250 億円は戦略投資に回る計画だ。この投資が資本コストを上回れば価値は増える。だが、前の中期計画が目標に届かなかった実績を見ると、そう言い切れない。
安全域は、純現金 191 億円と政策保有株が支える。この分だけは下値を固めてくれる。しかし払う値段が、その下値を大きく上回るなら、安全域は薄い。筆者は、事業の堅さを認めつつ、価格には安全域がないと見る。
何で稼ぐ会社か
事業は大きく 3 つに分かれる。
ガス事業は、LPガス、酸素・窒素・アルゴンなどの産業ガス、溶解アセチレン、医療ガスを、ボンベや小型バルク(据え付けの貯槽)で届ける。大陽日酸やエア・ウォーターのような大手がパイプラインで大口顧客に直接つなぐのに対し、この会社は小口から中口の顧客に容器を配る。顧客は鉄鋼・造船・自動車の部品工場、建設現場、食品工場、病院、家庭と数多い。1 件あたりは小さいが、毎日の配送が続く。
溶解アセチレンは会社の看板だ。溶接や切断の炎に使うガスで、国内シェアは 2 割強の首位とされる。2024 年にデンカから関連の製造販売会社を引き継ぎ、地盤を固めた。西日本の販売会社も買い、ガス販売の網を広げてきた。
化成品事業は、接着剤(ペガール、ペガロック、シアノン)と塗料。接着剤は電子部品や自動車にも使われ、ベトナム工場の増強が成長の軸だ。ただし益率は 3% 台で、規模も小さい。
その他は RF タグや電子ペーパーなどの IT 関連機器と食品素材で、売上は 35 億円。利益は出ていない。
全社の営業利益は約 59 億円。ガスが 69 億円を稼ぎ、化成品が 8 億円、その他が赤字、本社費が 17 億円を引く形だ。つまり稼ぎのほぼ全部がガスの配送事業にある。
優良さと弱いところ
堀はあるが、狭い堀だ。
強みは配送網にある。約 100 の拠点、約 500 台の配送車、約 80 万本の容器は、北海道から九州まで自社便で回せる規模だ。ボンベは回収と充填の手間がかかり、小口の顧客を安く回すには密度が要る。新規参入が難しい事業だ。溶解アセチレンの首位も、安全規制と設備の重さに守られている。
弱みは値決めだ。ボンベのガスは大手と同じ商品で、顧客は価格で乗り換えうる。燃料費と運転手の人件費が上がっても、一度に価格へ全部は載せられない。実際、売上が 780 億円から 980 億円に伸びた 11 年間で、営業利益率は 5.3% から 5.9% へ 0.6 ポイントしか動いていない。
資本の使い方にも注文がつく。自己資本は 842 億円と売上並みに厚いが、ROE は 5% 台だ。この水準では、手元の資本が資本コストを下回る稼ぎしか生んでいない。配当性向 50% を目安にするとはいえ、純現金は 11 年で 90 億円から 191 億円へ増えた。
一方で経営は堅実で、赤字の年がなく、営業利益は支払利息の 70 倍を超える。事故が最大の経営リスクであるガス業で、無事故を続けることが何より大きい。筆者は、手堅さを評価しつつも、稼ぐ力を引き上げる道筋がまだ見えないと考える。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
国内のガス市場は、大きくは伸びない。
産業ガス全体では、世界の市場が 2030 年に向けて年 7% ほど伸びる見込みだ。ただし伸びの中心は、半導体向けの特殊ガスや、海外のオンサイト供給(顧客の敷地に製造設備を置いて長期で売る方式)だ。国内の市場は製造業の海外移転で頭打ちで、大陽日酸とエア・ウォーターの 2 社で医療を含めて約 7 割を握る。この会社はその外側の、ボンベと小口配送の領域で戦う。
この領域の需要は、人口と製造業の就業者数で決まる。鉄鋼、造船、建設の溶接・切断用ガスは緩やかに減る。LPガスは世帯数の減少と省エネで、家庭向けの数量が毎年少しずつ細る。数量は 10 年で 1 割弱減るのが普通の姿と筆者は見る。
価格は逆に、物価並みには上がる。燃料と運転手の人件費が上がるため、各社が値上げを進めている。ただしドライバー不足で配送コストは物価以上に重くなりやすく、値上げが利益になるかは別の話だ。
競合は、国内では大陽日酸、エア・ウォーター、岩谷産業、地域の中小ガス店。化成品の接着剤は、東亜合成のような大手との競争がある。
伸びる芽は 2 つ。ひとつはアセチレンを原料にしたカーボンナノチューブで、電池の導電助剤に使う。もうひとつは、鉄部品を硬くする浸炭の工程で、都市ガスの代わりにアセチレンを使い、CO2 を 9 割以上減らす技術だ。どちらも会社の説明では、事業の柱になるのは次の中期計画以降とされる。
資本政策と M&A
配当方針は、配当性向 50% を目安に、純資産配当率(DOE)2.5% を下限とする。2026 年 3 月期の配当性向は 47.3%、DOE は 2.7% だった。自社株買いは慎重に判断するとしている。
買収は、国内のガス販売会社の取り込みが中心だ。2024 年に西日本高圧瓦斯と西日本アセチレン、ジョーサンを子会社にし、2025 年 7 月にはグループ内の 3 社を統合した。1 件ずつは小さく、大きな買収で資本を傷める心配は少ない。
中期計画は 5 年で戦略投資 250 億円と生産性投資 150 億円を使う。原資は営業キャッシュフローの約 380 億円だ。自己資本比率は 65% 前後を保つ方針で、今の 68% から少し下げる余地を残す。
大株主は、デンカ(約 9.9%)、共栄火災、日本酸素ホールディングス(約 5.7%)、三菱 UFJ 系、個人の大口など、持ち合いと安定株主が厚い。政策保有株は純資産の約 18%で、縮める方針だ。10 年のうちに買収される確率は、kabufu の試算で約 20% だ。筆者は、持ち合いの厚さが資本の効率を下げ、同時に買収の抑えにもなっていると考える。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
アセチレンの首位は、新しい用途で化ける。
溶解アセチレンは、国内の溶接・切断で 2 割強のシェアを持つ。ここに非燃焼の用途が加わる。カーボンナノチューブは電池の導電助剤で、全固体電池が量産に入れば需要が急に立ち上がる。会社は 2027 年にパイロット設備、2030 年に量産設備を計画する。浸炭は、国内に約 6,000 台あるガス浸炭炉をそのまま使え、CO2 を 9 割以上減らせる。自動車・産業機械の脱炭素の要請と相性が良い。
ボンベ配送の密度も、時間とともに価値が増す。ドライバー不足の中で、自社の配送網を持つ会社は取引先から選ばれやすい。中小のガス店が後継者難で畳むとき、この会社が買い手になる。実際、近年は買収で販売網を広げてきた。
化成品は、ベトナム工場の増強で海外が伸びる。接着剤の ASEAN・欧米への拡販が当たれば、益率 3% 台が 6% へ上がる余地がある。
資本面では、純現金 191 億円と政策保有株の縮減で、株主還元を増やす余力が大きい。配当性向 50% に加え、自社株買いが始まれば ROE は上がる。デンカや日本酸素との関係も、事業提携の拡大につながりうる。10 年後に営業利益が 130 億円に届けば、今の値段は安く見える。
慎重な見方
数量は減り、価格は思うように上がらない。
国内のボンベガスは人口と製造業とともに縮む。LPガスは家庭向けが毎年減り、都市ガスや電気への切り替えが続く。数量の 1 割減は織り込み済みで、もっと減っても驚かない。顧客が近い配送網は強みだが、同じ配送網を持つ大陽日酸やエア・ウォーター、岩谷産業が小口にも手を伸ばせば、値決めの余地は狭まる。
ドライバー不足と燃料高は、配送の費用を物価以上に押し上げる。ガスの価格は顧客との交渉で決まり、費用の全部は載せられない。この 11 年の営業利益率は 5.3〜6.2% の枠から出なかった。10 年後も同じ率が続くだけだ。
新事業は遠い。カーボンナノチューブは電池材料で、中国勢との価格競争に巻き込まれやすい。浸炭は、自動車や産業機械のメーカーが採用して初めて売上になる。どちらも実証の段階で、売上が立つのは次の中期計画以降だ。前の中期計画が目標に届かなかったことを、軽く見るべきでない。
資本の効率も改善しない。営業利益 59 億円に対し自己資本 842 億円で、ROE は 5% 台だ。10 年後も同じ程度に落ち着くなら、価値は帳簿の自己資本を下回る。現金と政策保有株の厚さは見かけの安心にすぎず、戻らなければ株主の価値にならない。
どちらに重みを置いたか
強気の材料は新事業と配送網の密度だが、どちらも収益に結びつくのは 10 年のうち後半で、確かめられていない。慎重な見方は、過去 11 年の益率と ROE という実績に基づく。実績の重みのほうが強い。
確率は中立に 4 割を置き、上振れ(楽観・やや楽観)を 27%、下振れ(やや悲観・悲観)を 32% とした。下振れをやや厚くしたのは、過去の営業利益率が狭い範囲でしか動いていないことと、国内数量が構造的に減ることを重く見たためだ。楽観の確率は小さく、新事業が当たる場合の上振れ幅を考えて 7% にとどめた。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 1,696 円936 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 494 円273 億円)。 今の値に割り戻すと 1,191 円657 億円、今との差 −2.0%、 期待の年率 +6.1%(資本コスト 7.2%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 7% | 3,395 円1,874 億円 | 714 円394 億円 | +238.1% | +13.0% | 288 円159 億円 |
| やや楽観 | 20% | 2,314 円1,277 億円 | 583 円322 億円 | +138.4% | +9.1% | 579 円320 億円 |
| 中立 | 41% | 1,862 円1,028 億円 | 507 円280 億円 | +95.0% | +6.9% | 971 円536 億円 |
| やや悲観 | 23% | 801 円442 億円 | 408 円225 億円 | −0.5% | −0.1% | 278 円153 億円 |
| 悲観 | 9% | 534 円295 億円 | 290 円160 億円 | −32.2% | −3.8% | 74 円41 億円 |
| 加重平均 | 100% | 1,696 円936 億円 | 494 円273 億円 | +80.3% | +6.1% | 2,190 円1,209 億円 |
今の株価時価総額 1,215 円671 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.2% を下回るほど割高。
楽観 7% 新事業が当たり、益率が 1 割に乗る 利益 111 億円 · PER 15.9 倍 · 株価時価総額 3,395 円1,874 億円
カーボンナノチューブが全固体電池の導電助剤として採用され、パイロット設備から量産へ進む。浸炭も自動車・産業機械の複数の工場に入り、その他事業の売上が新事業で 3 倍近くになる。
ガス事業は、非燃焼のアセチレン需要が上乗せされて数量が横ばいを保ち、配送網の密度が値決めの力になる。益率は 11.5% まで上がる。化成品はベトナムの増強が当たり、数量が 1.5 倍、益率 6.5% へ上がる。
営業利益は 135 億円と今の 2.3 倍になる。純現金と政策保有株の縮減から還元も増え、自己資本の効率が改善して ROE は 9% 近くに上がる。会社の目標 85 億円を大きく超える、うまくいった 10 年だ。
- ガス事業(シリンダーガス・LPガス・アセチレン・医療ガス):数量 109(供給量(万トン、LPガス・産業ガス・医療ガスの重量換算))× 価格 9.38(1トンあたり平均単価(万円、名目))→ 売上 1,024 億円・営業利益 118 億円。非燃焼のアセチレン需要が上乗せ。益率 11.5%
- 化成品事業(接着剤・塗料・化学品):数量 4.1(販売量(万トン、接着剤・塗料・化学品の重量換算))× 価格 108(1トンあたり平均単価(万円、名目))→ 売上 436 億円・営業利益 28 億円。ベトナム増設が当たり益率 6.5%
- その他(IT ソリューション・食品素材など):数量 90.0(出荷数量(百万個換算))× 価格 134(1個あたり平均単価(円、名目))→ 売上 121 億円・営業利益 15 億円。カーボンナノチューブ・浸炭が立ち上がる
倍率:事業の純利益 109 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.7% が k 7.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.5%、10 年より先の名目の伸び g 3.7% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.9 倍 + 余った現金(戻り方込み)82 億円。全体の PER 15.94 倍、時価総額 1,827 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:ナノチューブ・浸炭は実証の段階で、前の中期計画も未達。当たる確率は小さく、上振れの幅は大きいとみて 7% に置いた。
やや楽観 20% 配送網の密度が効き、益率が少し上がる 利益 82 億円 · PER 14.2 倍 · 株価時価総額 2,314 円1,277 億円
ボンベ配送は数量が横ばいにとどまる。後継者難の中小ガス店の買収が進み、配送の密度が上がる。値上げも通りやすくなり、益率は 10.3% まで改善する。
化成品は海外の拡販が進み、益率は 5.5%。ナノチューブと浸炭は小さく黒字になるが、柱にはならない。営業利益は 100 億円強で、会社の目標 85 億円を 5 年遅れで超える形だ。
配当性向 50% を守りつつ、自社株買いも一部で行う。ROE は 7% 前後まで上がる。それでも資本コストの 8% には届かない。筆者は、配送の密度という地味な強みがようやく数字に出る、堅実な上振れと見る。ここまでで新事業は柱にならず、会社全体の稼ぎ方は今と変わらない。
- ガス事業(シリンダーガス・LPガス・アセチレン・医療ガス):数量 104(供給量(万トン、LPガス・産業ガス・医療ガスの重量換算))× 価格 9.38(1トンあたり平均単価(万円、名目))→ 売上 976 億円・営業利益 101 億円。数量は横ばい、益率は 10.3% まで改善
- 化成品事業(接着剤・塗料・化学品):数量 3.6(販売量(万トン、接着剤・塗料・化学品の重量換算))× 価格 108(1トンあたり平均単価(万円、名目))→ 売上 393 億円・営業利益 22 億円。海外拡販で益率 5.5%
- その他(IT ソリューション・食品素材など):数量 45.0(出荷数量(百万個換算))× 価格 134(1個あたり平均単価(円、名目))→ 売上 60 億円・営業利益 3 億円。新事業が小さく黒字化
倍率:事業の純利益 80 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.6% が k 7.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 7.4%、10 年より先の名目の伸び g 3.7% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.2 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.2 倍 + 余った現金(戻り方込み)82 億円。全体の PER 14.17 倍、時価総額 1,223 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:配送網の密度と値上げで益率が改善する筋書き。実績の益率は狭い範囲で動いており、確率は 2 割に抑えた。
中立 41% 数量は 1 割弱減り、価格は物価並み。益率は今のまま 利益 66 億円 · PER 13.8 倍 · 株価時価総額 1,862 円1,028 億円
ボンベガスの数量は、人口減と製造業の縮小で 10 年に 0.93 倍まで細る。LPガスの減少は、アセチレンの非燃焼用途の小さな上乗せで一部が相殺される。価格は物価並みの 1.34 倍。益率は今の 9.6% を保つ。
化成品はベトナム工場の増強で数量が 1.25 倍になり、益率は 4.5% へ少し上がる。その他は横ばい。ナノチューブと浸炭は小さく、収益に目に見えるほど効かない。
営業利益は 80 億円強、純利益は 66 億円。会社の目標 85 億円(5 年後)には届かない。配当性向 50% を続け、ROE は 5.8% と、この 10 年の中央値並みにとどまる。
- ガス事業(シリンダーガス・LPガス・アセチレン・医療ガス):数量 96.7(供給量(万トン、LPガス・産業ガス・医療ガスの重量換算))× 価格 9.38(1トンあたり平均単価(万円、名目))→ 売上 907 億円・営業利益 87 億円。数量 0.93 倍・価格 1.34 倍、益率は今並み
- 化成品事業(接着剤・塗料・化学品):数量 3.4(販売量(万トン、接着剤・塗料・化学品の重量換算))× 価格 108(1トンあたり平均単価(万円、名目))→ 売上 363 億円・営業利益 16 億円。海外が伸びて数量 1.25 倍
- その他(IT ソリューション・食品素材など):数量 35.0(出荷数量(百万個換算))× 価格 134(1個あたり平均単価(円、名目))→ 売上 47 億円・営業利益 1 億円。ほぼ横ばい
倍率:事業の純利益 64 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 6.4% が k 7.25% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 13.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.8 倍 + 余った現金(戻り方込み)82 億円。全体の PER 13.79 倍、時価総額 971 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:強気と慎重の言い分のうち、過去 11 年の益率と ROE という実績の重みを取り、中立に 4 割を置いた。
やや悲観 23% 数量が 15% 減り、費用の転嫁が遅れる 利益 46 億円 · PER 6.5 倍 · 株価時価総額 801 円442 億円
製造業の縮小とLPガスの切り替えで、数量は 0.85 倍に減る。ドライバー不足と燃料高の費用を価格に載せきれず、価格は 1.30 倍にとどまる。益率は 8.5% へ落ちる。
化成品は中国勢との競争で益率が 3.5% のまま動かない。その他は収支とんとん。営業利益は 57 億円と今を割る。
配当は DOE の下限 2.5% を守るので配当性向は上がり、現金の厚みが少し減る。ROE は 4% 台に下がる。筆者は、国内数量の縮小が想定より速く進む、起こりうる普通の悪い 10 年と見る。事故や大型の失敗がなくても、益率が少し落ちるだけで価値は大きく動く。
- ガス事業(シリンダーガス・LPガス・アセチレン・医療ガス):数量 88.4(供給量(万トン、LPガス・産業ガス・医療ガスの重量換算))× 価格 9.10(1トンあたり平均単価(万円、名目))→ 売上 804 億円・営業利益 68 億円。数量 0.85 倍・価格転嫁が遅れ益率 8.5%
- 化成品事業(接着剤・塗料・化学品):数量 3.0(販売量(万トン、接着剤・塗料・化学品の重量換算))× 価格 108(1トンあたり平均単価(万円、名目))→ 売上 320 億円・営業利益 11 億円。中国勢との競争で益率は今並み
- その他(IT ソリューション・食品素材など):数量 30.0(出荷数量(百万個換算))× 価格 134(1個あたり平均単価(円、名目))→ 売上 40 億円・営業利益 0 億円。収支とんとん
倍率:ROE 4.3%。RONIC=8.0%+1/2×(4.3−8.0)=6.15%、g 4%で正当化 PER=8.7 倍。やや悲観は構造的な負けの筋書きで、上限の 7 割へ引き上げず、6.5 倍に置いた。余った現金は谷で食う前提で今の 0.75 倍(82.5 億円)。
確率:国内数量の構造的な縮小と、ドライバー不足による配送費の上昇が重なる筋書き。実績の益率が狭い枠に収まっていることからも、2 割強に置いた。
悲観 9% 大手との値下げ競争と国内縮小で、構造的に負ける 利益 18 億円 · PBR 0.4 倍 · 株価時価総額 534 円295 億円
国内製造業の空洞化とLPガスの切り替えで、数量は 0.70 倍に減る。大陽日酸・エア・ウォーター・岩谷産業が小口にも踏み込み、値下げ競争になる。価格は 1.20 倍にとどまり、益率は 6.5% まで落ちる。
化成品はベトナムの増強が失敗して減損が出る。新事業の投資も回収できず、その他は赤字が続く。営業利益は 21 億円まで縮む。
配当は下限を割り、配当性向は上がる。株主への還元は細り、ROE は 2% を割る。会社の価値は、稼ぐ力ではなく手元の現金と売れる資産で測る局面になる。ためた利益の増え分は、減損と赤字投資でほぼ消えて、自己資本は今から増えない。ボンベ配送は残るが、優良な事業ではなくなっている。
- ガス事業(シリンダーガス・LPガス・アセチレン・医療ガス):数量 72.8(供給量(万トン、LPガス・産業ガス・医療ガスの重量換算))× 価格 8.40(1トンあたり平均単価(万円、名目))→ 売上 612 億円・営業利益 40 億円。数量 0.70 倍・値下げ競争で益率 6.5%
- 化成品事業(接着剤・塗料・化学品):数量 2.6(販売量(万トン、接着剤・塗料・化学品の重量換算))× 価格 97(1トンあたり平均単価(万円、名目))→ 売上 248 億円・営業利益 5 億円。海外が失敗し国内も縮む
- その他(IT ソリューション・食品素材など):数量 25.0(出荷数量(百万個換算))× 価格 120(1個あたり平均単価(円、名目))→ 売上 30 億円・営業利益 −1 億円。赤字が続く
倍率:10 年の悲観は構造的に負ける筋書き。純利益 18 億円(ROE 2%)の稼ぐ力(÷k)は約 225 億円と小さく、価値は純現金と政策保有株の税後の資産で測る。今の自己資本 842 億円に 0.35 倍を掛けた。
確率:10 年の構造的な負け筋(国内数量の大幅な縮小・大手との値下げ競争・新事業の失敗・海外増強の失敗)。安定した事業のため 1 割弱に置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
ガス事業(シリンダーガス・LPガス・アセチレン・医療ガス)
酸素・窒素・アルゴン・溶解アセチレン・LPガスなどを、ボンベと配送網で国内の工場・建設現場・造船所・医療機関・家庭へ届ける中核事業。
| 数量供給量(万トン、LPガス・産業ガス・医療ガスの重量換算) | 価格1トンあたり平均単価(万円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 104 | 7.00 | 728 | 70 |
| 10 年後 中立 | 96.7 | 9.38 | 907 | 87 |
取り方:セグメント売上 727.97 億円・セグメント利益 69.49 億円(益率 9.5%)は決算の開示。数量は開示が無いので推定:LPガス(1 トン十数万円)と産業ガス・アセチレン(重量換算で 1 トン数万円)が混ざった平均単価を 7.0 万円/トンと置き、728 億円 ÷ 7.0 万円で約 104 万トンとした(万トン×万円=億円なので rev_factor は 1)。
化成品事業(接着剤・塗料・化学品)
接着剤(ペガール・ペガロック・シアノン)と塗料を、国内と ASEAN などへ売る。
| 数量販売量(万トン、接着剤・塗料・化学品の重量換算) | 価格1トンあたり平均単価(万円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 2.7 | 80 | 217 | 8 |
| 10 年後 中立 | 3.4 | 108 | 363 | 16 |
取り方:セグメント売上 216.94 億円・セグメント利益 7.56 億円(益率 3.5%)は開示。数量は推定:小さな容器の高単価な接着剤と大缶の塗料の平均を 1 トン 80 万円前後と置き、約 2.7 万トンとした。
その他(IT ソリューション・食品素材など)
RF タグ・電子ペーパー・LSI カードなどの IT 関連機器と食品素材。会社の規模では小さい。
| 数量出荷数量(百万個換算) | 価格1個あたり平均単価(円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 35.0 | 100 | 35 | −1 |
| 10 年後 中立 | 35.0 | 134 | 47 | 1 |
取り方:セグメント売上 35.09 億円・セグメント利益 −0.91 億円は開示。品目が雑多で数量の開示が無いので、百万個換算 35 × 平均単価 100(円/個)と推定した(35 百万個×100=35 億円、rev_factor 0.01)。
リスクと懸念
国内数量の構造的な縮小
ボンベガスもLPガスも、人口減と製造業の海外移転で数量が細る。LPガスは世帯数の減少と電化・省エネで毎年減る。10 年で 1 割弱の減少は織り込んだが、より速く縮めば、固定費の重い配送網の効率が落ち、益率が下がる。
配送費の上昇を価格に載せきれない
ドライバー不足と燃料高で、配送費は物価以上に上がりやすい。ガスは大手と同じ商品で、顧客は価格で乗り換えうる。11 年間、営業利益率が 5.3〜6.2% の枠から出なかったことが、転嫁力の限界を示している。
新事業が収益にならない
カーボンナノチューブは 2027 年にパイロット、2030 年に量産設備の計画だ。電池材料は中国勢との競争が激しい。浸炭は自動車・機械メーカーが採用して初めて売上になる。前の中期計画が目標に届かなかったことも、実行力の不確かさを示す。
事故・安全規制
アセチレン・酸素・LPガスは、火災・爆発のリスクを常に抱える。大きな事故は、操業停止・賠償・信頼の喪失につながる。ボンベの検査・充填の費用も年々重くなる。
資本効率が上がらない
自己資本 842 億円、ROE 5% 台、純現金 191 億円。ためた現金と政策保有株が、株主へ戻らないまま積み上がれば、価値は帳簿を下回る。政策保有株は縮減方針だが、持ち合いの安定株主が厚く、圧力が弱い。
化成品の競争と海外投資
接着剤は東亜合成などの大手と、中国・韓国の安価品との競争がある。ベトナム工場の増強が過剰能力になれば、減損の恐れがある。益率は 3% 台と薄く、少しの値下げで赤字に近づく。
今後の分かれ目
- カーボンナノチューブが全固体電池メーカーの量産品に採用される
- その他事業の売上が数倍になり、益率も二桁に乗る。会社の価値は、ガス配送の延長でなく新素材企業の側から評価される。強気の筋書きに近づく。
- 浸炭の実証が自動車・産機メーカーの量産ラインに入る
- 国内約 6,000 台の炉に置き換えが広がり、アセチレンの需要が非燃焼で伸びる。ガス事業の数量減を打ち消し、益率も押し上げる。
- 配送費の上昇を、複数年の値上げで通せた
- 益率が 10% を超え、10 年の営業利益は 100 億円超になる。やや楽観の筋書きに近づく。
- 大陽日酸・エア・ウォーター・岩谷産業が小口配送にも本格参入し、値下げ競争になる
- 価格が物価に届かず、益率は 8% を割る。やや悲観から悲観へ寄る。
- 政策保有株を大きく売り、自社株買いや増配で戻す
- 余った現金が株主へ戻り、資本の効率が上がる。戻り方を 1.0 に近づける材料になる。
- デンカや日本酸素ホールディングスとの提携が深まる、または買収の提案が出る
- 持ち合いの厚さが買収の抑えから、再編の足場へ変わる。価値の評価は事業の 10 年の稼ぎでなく、買う側の見方で決まる。
見ておくもの
- ガス事業の営業利益率(9.5% を上回れるか)と配送費の動き
- LPガスと産業ガスの数量(世帯数・製造業の稼働との関係)
- カーボンナノチューブのパイロット設備(2027 年 3 月期)と採用の発表
- 浸炭の実証先と量産ラインへの採用
- 化成品の益率とベトナム工場の稼働率
- 政策保有株の縮減額と、自社株買い・増配の有無
- 2031 年 3 月期の目標(営業利益 85 億円・ROE 7%)への進み具合
倍率と資本コストの決め方
倍率は今の株価・PER・PBR を見ずに、10 年後の ROE(中立で約 5.8%)と資本コスト 7.25% から、正当化 PER の式で置いた。ROE が k に届かないので、中立は上限の 9 割弱の 9 倍とした。今の株価(時価総額 679 億円)との比較は最後に行い、結果はやや割高と出た。新リース会計基準(2028/03 期)で営業利益や有利子負債の形が変わるが、10 年後の数字は今と同じ形(家賃を営業費用に入れた形)で置いている。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 12.5→15.94 倍・やや楽観 PER 10→14.17 倍・中立 PER 9→13.79 倍)。
資本コスト 7.2% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality +0.5% を足して 8.0%。堀の強さを理由に k を下げていないため、倍率の式の残る割合は普通の 1/2 で見る。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.00% → 7.25%。