結論
サカタインクスは、印刷インキの専業メーカーだ。新聞用で創業し、いまは売上の約 8 割を海外であげる。中心は食品や日用品の包装に使うインキで、北米が最大の市場である。筆者の結論は「やや割安」。ただし割安の幅は小さく、安全域が厚いとは言えない。
いちばんの強みは、地味だが崩れにくい需要だ。食品の袋や缶は景気が悪くても売れ、インキは原価に占める割合が小さい。値上げが通りやすい性質もある。2025 年は営業利益が 152 億円と 4 年続けて過去最高を更新した。
弱みは、規模のわりに利益率が低いことだ。営業利益率は 6% 弱で、最大の米州は 5% 台しかない。人件費と原料の上昇を値段に移せなければ、すぐに薄くなる。国内と欧州は紙媒体の縮小で伸びが望めない。
10 年で見ると、伸びの源は北米の拡販と買収、インドや東南アジアの需要、インクジェットなどの機能材料である。それでも営業利益は今の 1.6 倍ほどで、物価に実質で年 2% 台が乗る姿にとどまる。
財務は堅い。純有利子負債は小さく、自己資本比率は 5 割を超える。政策保有株も半分以上売り、還元に回している。10 年後の中立の時価総額に配当を足すと、今の値段より年率 9% 台で戻る計算で、資本コスト 7.75% を上回る。確率で重みづけた価値は今より 1 割ほど高い。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、「安定した需要を持つが、稼ぐ力が突き抜けない会社」である。包装インキは 10 年後も必要とされる。しかし利益率が 6% 前後では、人件費と原料の波で利益が簡単に動く。堀も浅く、長く持って複利で増える会社の条件には、半分しか当たらない。
筆者がよいと思うのは、資本の使い方がまともになった点だ。政策保有株を売って還元し、不採算を切り、借金を軽く保つ。この姿勢が続くなら、ROE は 10% 前後に落ち着き、利益の半分を株主に返せる。
オーナー利益、つまり設備の更新を引いて株主に残る利益は、純利益の 7 割ほどと見る。新興国と北米での成長投資が要るためだ。それでも今の時価総額に対して、10 年の戻りは資本コストを上回る。
安全域はどうか。悲観の筋書き、すなわち中国・インド勢との値下げ競争と欧州の赤字が重なる場合でも、純有利子負債が小さく、会社が傾くことはない。損をするとしても、株主価値が伸びない、という形になる。大きく勝てる会社ではないが、大きく負けにくい会社だ。
価格にも目を向けたい。この会社の値決め力は強くない。原料が上がった時にどれだけ転嫁できるかを、毎期の決算で確かめたい。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの柱は、パッケージ向けのインキである。ポテトチップスの袋、飲料缶、ラミネートフィルムの印刷には、用途ごとに専用のインキが要る。サカタインクスは、グラビア、フレキソ、金属缶用などを世界に作る。新聞やオフセットなど紙のインキも手がけるが、これは縮む側だ。
地域別の報告は 5 つに分かれる。米州は売上が約 1,020 億円で全体の 4 割を占め、営業利益は 53 億円。アジアは売上 560 億円でも営業利益が 69 億円と、利益の面ではいちばん稼ぐ。日本は売上 500 億円で、機材の販売を含む。欧州は売上 220 億円で、利益はほぼ出ていない。
もうひとつが機能性材料である。UV で固めるインクジェットインキや、画像表示用の材料、そして金属缶などの塗料を含む。売上は約 200 億円と小さいが、利益率は 1 割を超える。
2024 年 11 月には、米国のコーティング大手 Coatings & Adhesives(INX C&A)の事業を買った。売上は約 8,600 万ドルで、印刷やパッケージ向けの塗料・接着剤・ポリマーを扱う。インキの顧客に塗料も売れるため、北米の取引の幅を広げる狙いである。
国内は不採算の取引から手を引き、値上げと合理化で利益を戻した。アジアでは中国のオフセットインキ事業を売り、インド、インドネシア、ベトナムに軸足を移している。ベトナムは金属缶用インキの輸出拠点に育てる計画だ。
優良さと弱いところ
この会社の堀、つまり他社がまねしにくい強みは「顧客のそばで、顧客に合わせて作る」ことにある。インキは、印刷機・フィルム・食品の安全基準に合わせて調整する。顧客は一度認めたインキを簡単には変えない。工場が近いことも効く。
ただし堀は浅い。印刷インキは世界で DIC 傘下のサンケミカル、Siegwerk、Flint Group などが競り合う。技術の差より、供給の早さと値段で決まる場面が多い。筆者は、独占的な値決め力があるとは見ていない。
資本の効率は並みだ。自己資本利益率(ROE)は直近でようやく 9.7% で、過去 10 年の中央値は 7%台にとどまる。自己資本に政策保有株の評価益が積み上がったことも、数字を押し下げてきた。この株を売って自社株買いに回す方針は、効率を上げる方向に働く。
経営の資本配分は、ここ数年で良くなった。不採算の撤退、中国事業の売却、政策保有株の縮減と、手入れが進んでいる。総還元性向 50% 以上を掲げ、実際に 49% を出した。一方で、買収は規模が小さく、成功例を積むのはこれからだ。
弱いところは三つある。ひとつは米州の利益率が低いこと。人件費の上昇が直撃する。ふたつめは欧州が長く稼げていないこと。三つめは、機能性材料の利益が昨年は減ったことで、成長の柱になりきれていない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
印刷インキの世界市場は、調査によって幅があるが、おおむね 200 億ドル前後で、年 3〜5% の緩やかな伸びと見られる。伸びるのは包装用だ。食品の包装は、人口と所得が増える新興国で量が増える。紙の新聞や商業印刷用は、デジタル化で長く縮んでいる。
サカタインクスの売上は約 17 億ドルで、世界の市場の 7% ほどになる。上位にはサンケミカルがあり、規模の差は大きい。ただし米州・アジアではいずれも地域の中堅が競るため、2 位集団として十分に戦える位置にいる。
日本は、人口減と食品消費の弱さで数量が減る。包装用も例外でなく、2025 年は食料の消費が弱く、パッケージ用インキの売上が伸びなかった。環境規制は追い風にも向かい風にもなる。トルエンや PFAS を使わない製品は開発費がかさむが、対応できない小さな会社を淘汰する。
アジアは、インド、インドネシア、ベトナムで需要が伸びる。2025 年の前半は数量が横ばいだったが、後半に持ち直した。一方で現地のメーカーが育ち、値段の競争は激しい。中国は、すでに事業を売って距離を取った。
北米は大きく、かつ安定している。包装・金属缶の需要は堅調だが、人件費が上がり、利益率は薄い。インキの原料は石油化学品で、原料高の転嫁が遅れる局面もある。
もうひとつの構造変化は、環境に配慮した包装への切り替えだ。リサイクルしやすい包装材には、コーティングや接着剤の技術が要る。INX C&A の買収は、この流れを取りにいく手でもある。
資本政策と M&A
還元は厚くなった。総還元性向 50% 以上を中期経営計画で掲げ、2025 年は配当性向 40%、自社株買い 10 億円を足して 49% だった。2026 年も 10 億円の自社株買いを決めた。配当は増やす方針で、減らす理由は見当たらない。
政策保有株は、2025 年末までに半分以上を売る目標を達成した。上場株は将来ゼロにする方針だ。売った代金は還元と設備に回る。自己資本に眠っていた分が働き出すため、ROE を押し上げる効果がある。
設備投資は、2024〜26 年の 3 年で約 250 億円。米州とアジアが中心で、ブラジルの新工場、ベトナムのメタルインキ設備が目玉だ。計画の三分の二が済んでおり、手元のお金は事業の中でほぼ使い切る形になっている。
買収は、小さな案件を積む路線である。INX C&A の取得は北米のコーティング事業の足場になった。大型買収で価値を壊した過去は見当たらず、この点は安心できる。
支配株主はいない。大株主は信託銀行(12%)と住友生命(7%)で、持ち合いは解消中だ。今の値段なら、他社から見て買いやすい水準にあるが、買収の動きは確かめられていない。
2026年2〜3月の自己株式取得(約10億円)は実行済みで、株数に反映した。この分は10年の還元に入れていない。
還元の点検(P3 2026-10-19):総還元性向50%以上の方針。中立の約52%でその範囲。実行ずみの自社株買いは除外ずみ。直さず。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
利益率が底上げされる。米州は規模がすでに千億円あり、工場の稼働が上がれば固定費の負担が薄まる。INX C&A の塗料・接着剤をインキの顧客に売り込めれば、同じ顧客に出せる商品が増え、値引きの競争から離れられる。米州の利益率は 5% 台から 6% 台半ばまで上がる余地がある。
アジアはまだ入り口だ。インド、インドネシア、ベトナムの包装需要は、所得の上昇とともに 10 年は伸びる。サカタインクスは現地に工場と顧客を持ち、すでに営業利益が 69 億円と全社のいちばん稼ぐ地域になった。ここが年 2〜3% の実質成長を続ければ、全社の利益を押し上げる。
機能性材料も効く。UV インクジェットは、アパレル、食品、住宅の建材など、紙以外への印刷で需要が広がる。中国で画像表示材料の生産を強化している。この部門は利益率が 1 割を超え、売上が 2 倍近くなれば、全社の利益率を 1 ポイント近く引き上げる。
資本の面でも、政策保有株の売却と総還元性向 50% 以上が続けば、自己資本が膨らまず ROE が 12% を超える。中期経営計画の「営業利益 180 億円、ROE 10%」は、2027 年からの次の計画の出発点にすぎない。2030 年の長期ビジョンの営業利益 240 億円も、射程にある。
慎重な見方
利益率が上がったのは、値上げの効果が一巡した一時的な姿だ。2025 年の営業利益率は 5.9% で、過去 10 年の多くの期は 3〜5% だった。原料と人件費が上がり、値上げが遅れる局面は必ず来る。北米の利益率が 5% 台という薄さは、ほんの少しの値崩れで赤字に近づく水準である。
アジアの利益は、現地の大手と新興メーカーの値引きにさらされる。インドは市場が大きい分、競争も激しい。数量が増えても、単価が下がれば利益は増えない。ベトナムの金属缶用インキの生産拠点も、立ち上げの費用が先に出る。
国内と欧州は、紙の縮小が止まらない。国内の売上は 2025 年に減り、利益が増えたのは不採算の撤退が効いたからだ。欧州は営業利益がほぼゼロで、生産の一部をベトナムに移した結果、欧州の工場の稼働は下がっている。
機能性材料は 2025 年に利益が 1 割減った。研究費と人員を積んだためで、成長の柱と呼ぶには早い。中期経営計画の目標、営業利益 180 億円と ROE 10% は、会社自身がまだ達していない。
持ち合いの解消が終われば、還元を続ける外からの圧力は弱まる。買収した INX C&A も規模が小さく、成果が見える前に費用が先行する。
どちらに重みを置いたか
どちらにも理がある。ただし、安定した包装需要と資本配分の改善は、実績として見えている。一方、利益率の低さと北米の人件費上昇は、構造として残る。
そこで確率は、中立に 37% を置き、慎重な見方に少し寄せた。悲観は値下げ競争と欧州の赤字が重なる構造的な負けで 12%、楽観は 7% とした。
会社の目標に届かないまま推移する可能性を、確率でやや厚く見た結果、総合は「やや割安」にとどまる。
10 年後の 5 つの筋書き(2035/12 期)
確率で加重した株価時価総額 4,648 円2,272 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,486 円726 億円)。 今の値に割り戻すと 3,226 円1,577 億円、今との差 +19.2%、 期待の年率 +8.5%(資本コスト 7.8%)→ やや割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 7% | 8,585 円4,196 億円 | 2,025 円990 億円 | +291.9% | +14.6% | 743 円363 億円 |
| やや楽観 | 20% | 6,926 円3,385 億円 | 1,780 円870 億円 | +221.6% | +12.4% | 1,741 円851 億円 |
| 中立 | 37% | 5,397 円2,638 億円 | 1,575 円770 億円 | +157.6% | +9.9% | 2,580 円1,261 億円 |
| やや悲観 | 24% | 2,329 円1,139 億円 | 1,207 円590 億円 | +30.6% | +2.7% | 849 円415 億円 |
| 悲観 | 12% | 878 円429 億円 | 962 円470 億円 | −32.0% | −3.8% | 221 円108 億円 |
| 加重平均 | 100% | 4,648 円2,272 億円 | 1,486 円726 億円 | +126.6% | +8.5% | 6,133 円2,998 億円 |
今の株価時価総額 2,707 円1,323 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.8% を下回るほど割高。
楽観 7% 楽観:北米の規模が利益率を押し上げ、機能材料が育つ 利益 258 億円 · PER 16.2 倍 · 株価時価総額 8,585 円4,196 億円
北米で INX C&A の塗料・接着剤が既存のインキの顧客に広がり、稼働の上がった工場が利益率を 6% 台半ばへ押し上げる。実質の量が年 3% 近く伸び、アジアはインドを軸に 4 割の量増となる。機能性材料は UV インクジェットが衣料と建材に広がり、売上が 2 倍近くになる。
営業利益は今の 2.3 倍で、会社が 2030 年に掲げる 240 億円を大きく超える。政策保有株の売却と 55% の還元で自己資本は膨らまず、ROE は 12% 台まで上がる。優良な包装素材会社として評価される姿だ。
国内は縮み続けるが、不採算の整理が済み、利益はわずかに出る。欧州は東欧・中東の拡販で小さな黒字になる。
- 日本(印刷インキ・機材):数量 90.0(出荷量(千トン・推定))× 価格 6.73(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目(機材の販売を含む混合の単価))→ 売上 605 億円・営業利益 33 億円
- アジア(印刷インキ):数量 196(出荷量(千トン・推定))× 価格 5.38(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 1,054 億円・営業利益 126 億円
- 米州(印刷インキ):数量 250(出荷量(千トン・推定))× 価格 7.38(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 1,843 億円・営業利益 120 億円
- 欧州(印刷インキ):数量 42.9(出荷量(千トン・推定))× 価格 7.42(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 318 億円・営業利益 11 億円
- 機能性材料:数量 38.8(出荷量(千トン・推定))× 価格 13(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目(高付加価値で単価が高い))→ 売上 519 億円・営業利益 67 億円
- その他:数量 28.0(出荷量相当(千トン・推定))× 価格 6.70(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 188 億円・営業利益 6 億円
倍率:事業の純利益 258 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 12.6% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.2%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.2 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.2 倍。全体の PER 16.21 倍、時価総額 4,182 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:北米の拡販、アジアの量増、機能材料の倍増、利益率の底上げが全部そろう必要がある。会社の目標を達成しても、この水準には届かないため、7% とした。
やや楽観 20% やや楽観:目標どおりに利益率が 7% 近くまで上がる 利益 219 億円 · PER 15.4 倍 · 株価時価総額 6,926 円3,385 億円
会社の中期経営計画の目標が、ほぼ達成される筋書きだ。北米は量が 3 割弱増え、利益率が 5% 台後半に上がる。アジアは営業利益率が 11% 台を保ち、量が 3 分の 1 増える。機能性材料は 7 割ほど量が増え、利益率は 12% で安定する。
営業利益は今の 1.9 倍で、物価に実質で年 3% 弱が乗る姿だ。還元は純利益の 55% ほどで、ROE は 11% 台に乗る。
国内は数量の減少が続くが、値上げと整理で 5% 近い利益率を保つ。欧州は東欧・中東への拡販で、3% 近くまで戻る。
配当と自社株買いは安定して続き、純現金に近い形まで財務は軽くなる。ただし成長の速度は、会社が 2030 年に掲げる営業利益 240 億円を少し下回る。
- 日本(印刷インキ・機材):数量 87.0(出荷量(千トン・推定))× 価格 6.73(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目(機材の販売を含む混合の単価))→ 売上 585 億円・営業利益 28 億円
- アジア(印刷インキ):数量 185(出荷量(千トン・推定))× 価格 5.38(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 994 億円・営業利益 112 億円
- 米州(印刷インキ):数量 237(出荷量(千トン・推定))× 価格 7.38(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 1,747 億円・営業利益 100 億円
- 欧州(印刷インキ):数量 41.0(出荷量(千トン・推定))× 価格 7.42(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 304 億円・営業利益 9 億円
- 機能性材料:数量 34.7(出荷量(千トン・推定))× 価格 13(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目(高付加価値で単価が高い))→ 売上 464 億円・営業利益 56 億円
- その他:数量 28.0(出荷量相当(千トン・推定))× 価格 6.70(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 188 億円・営業利益 5 億円
倍率:事業の純利益 219 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.2% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.5%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.4 倍。全体の PER 15.39 倍、時価総額 3,370 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:2025 年の利益率の改善が、一時的ではなく定着する形だ。実績の延長に近く、無理のない範囲として 2 割とした。
中立 37% 中立:物価に実質の伸びが少し乗り、利益率は 6% で落ち着く 利益 180 億円 · PER 14.4 倍 · 株価時価総額 5,397 円2,638 億円
北米は量が年 2% 弱で増え、値段は物価並みに上がる。営業利益率は今の 5% 台を保つ。アジアは量が 4 分の 1 増え、利益率は 10% 台半ば。機能性材料は量が 5 割増で、利益率は 11% 前後に収まる。
国内は数量が 15% 減り、値上げでそれを補う。利益率は 4% まで戻る。欧州は 2% の薄い黒字でとどまる。
営業利益は今の 1.6 倍で、物価 3% に実質 2% 台が乗る伸びだ。還元は利益の 55% ほど、ROE は 9% 台で、資本コストの 7.75% をわずかに上回る。成長株ではなく、堅実に積み上がる会社に落ち着く。
- 日本(印刷インキ・機材):数量 85.0(出荷量(千トン・推定))× 価格 6.73(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目(機材の販売を含む混合の単価))→ 売上 572 億円・営業利益 23 億円
- アジア(印刷インキ):数量 175(出荷量(千トン・推定))× 価格 5.38(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 941 億円・営業利益 99 億円
- 米州(印刷インキ):数量 222(出荷量(千トン・推定))× 価格 7.38(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 1,638 億円・営業利益 82 億円
- 欧州(印刷インキ):数量 39.0(出荷量(千トン・推定))× 価格 7.42(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 289 億円・営業利益 6 億円
- 機能性材料:数量 30.6(出荷量(千トン・推定))× 価格 13(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目(高付加価値で単価が高い))→ 売上 410 億円・営業利益 45 億円
- その他:数量 28.0(出荷量相当(千トン・推定))× 価格 6.70(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 188 億円・営業利益 4 億円
倍率:事業の純利益 180 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.7% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.7%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.4 倍。全体の PER 14.42 倍、時価総額 2,596 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:北米・アジアの伸びが市場並みで、利益率は 2026 年の会社予想の少し下、全体で 6% 前後に収まる筋書き。最も起こりやすい形として最大の確率にした。
やや悲観 24% やや悲観:値上げが効かず、利益は名目でほぼ横ばい 利益 113 億円 · PER 9.0 倍 · 株価時価総額 2,329 円1,139 億円
原料と人件費が上がるのに、値上げが追いつかない。北米の利益率は 4% 近くへ落ち、アジアも値下げ競争で 8% 台になる。量は伸びても、値段が物価に届かず、売上の伸びは年 3% にとどまる。
国内は数量が 2 割強減り、利益率は 2% 台まで下がる。欧州は事実上の収支ゼロだ。機能性材料は、研究費が先行して利益率が 9% に下がる。
政策保有株の売却は進むが、売却代金は買収と設備にも回り、還元は利益の 5 割にとどまる。
営業利益は今とほぼ同じで、物価の分を引くと実質では 4 分の 3 まで縮んだ姿になる。ROE は 6% 台で資本コストに届かず、倍率は式の上限より低くなる。
- 日本(印刷インキ・機材):数量 78.0(出荷量(千トン・推定))× 価格 6.53(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目(機材の販売を含む混合の単価))→ 売上 509 億円・営業利益 13 億円
- アジア(印刷インキ):数量 157(出荷量(千トン・推定))× 価格 5.22(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 818 億円・営業利益 70 億円
- 米州(印刷インキ):数量 200(出荷量(千トン・推定))× 価格 7.16(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 1,430 億円・営業利益 54 億円
- 欧州(印刷インキ):数量 35.1(出荷量(千トン・推定))× 価格 7.20(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 253 億円・営業利益 1 億円
- 機能性材料:数量 24.5(出荷量(千トン・推定))× 価格 12(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目(高付加価値で単価が高い))→ 売上 306 億円・営業利益 28 億円
- その他:数量 25.2(出荷量相当(千トン・推定))× 価格 6.50(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 164 億円・営業利益 2 億円
倍率:ROE 6.4% で k 7.75% に届かない。正当化 PER は 11.6 倍で、上限は 1÷k の 12.9 倍。値下げ競争で利益の質が落ち、ためた利益は額面より安く評価される水準なので、構造的な負けに近い筋書きとして 9.0 倍に置いた。稼ぐ力(純利益÷k で約 1,460 億円)より低い。
確率:2025 年の利益率の改善が一巡し、10 年のこれまでの水準に戻る形。過去の多くの年の姿に近く、24% とした。
悲観 12% 悲観:値下げ競争と欧州の赤字が重なる構造的な負け 利益 50 億円 · PBR 0.4 倍 · 株価時価総額 878 円429 億円
インド・ASEAN で現地メーカーとの値下げ競争が続き、アジアの利益率は 6% に落ちる。北米も人件費の上昇を転嫁できず、利益率は 3% 近くまで薄れる。数量は新興国で増えず、物価の分の値上げすら通らない。
欧州は赤字に転じ、撤退か縮小になる。国内は紙媒体の縮小で量が 3 割以上減り、利益は消える。機能性材料も競争で利益率が半分になる。
営業利益は今の半分以下まで縮む。優良な会社の評価は消え、自己資本の 0.4 倍で測る。それでも借金が小さく、事業の整理で会社が傾くことはない。ただ、株主にとっては 10 年かけて価値が伸びない展開である。
- 日本(印刷インキ・機材):数量 68.0(出荷量(千トン・推定))× 価格 6.28(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目(機材の販売を含む混合の単価))→ 売上 427 億円・営業利益 0 億円
- アジア(印刷インキ):数量 133(出荷量(千トン・推定))× 価格 4.90(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 651 億円・営業利益 39 億円
- 米州(印刷インキ):数量 176(出荷量(千トン・推定))× 価格 6.88(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 1,210 億円・営業利益 34 億円
- 欧州(印刷インキ):数量 29.2(出荷量(千トン・推定))× 価格 6.65(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 194 億円・営業利益 −3 億円
- 機能性材料:数量 18.4(出荷量(千トン・推定))× 価格 11(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目(高付加価値で単価が高い))→ 売上 211 億円・営業利益 13 億円
- その他:数量 22.4(出荷量相当(千トン・推定))× 価格 6.00(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 134 億円・営業利益 0 億円
倍率:値下げ競争と欧州の赤字が重なる構造的な負けで、優良ではなくなる姿。稼ぐ力(純利益÷k で約 645 億円)より低い水準として、売れる資産の価値は確かめていないので床には使わず、今の自己資本 1,192 億円に 0.36 倍を掛けた(やや悲観の PER 9.0 倍を超えないよう、PBR を 0.4 から 0.36 に下げた)。
確率:新興国の値下げ競争、欧州の赤字、北米の人件費の転嫁の失敗が重なる構造的な負け。10 年あれば十分に起こりうるため、1 割強とした。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
日本(印刷インキ・機材)
国内の包装・新聞・オフセット向けインキと、印刷用の機材販売。
| 数量出荷量(千トン・推定) | 価格1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目(機材の販売を含む混合の単価) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 100 | 5.02 | 502 | 14 |
| 10 年後 中立 | 85.0 | 6.73 | 572 | 23 |
取り方:2025 年のセグメント売上 502 億円を、インキと機材の混合の平均単価を 1 千トンあたり約 5 億円と置いて割り、出荷量を約 10 万トンと推定した。開示は金額だけ。営業利益は 14 億円(有報)。
アジア(印刷インキ)
インド・インドネシア・ベトナムなどの包装・金属缶・新聞向けインキ。
| 数量出荷量(千トン・推定) | 価格1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 140 | 4.01 | 562 | 69 |
| 10 年後 中立 | 175 | 5.38 | 941 | 99 |
取り方:セグメント売上 562 億円を平均単価 1 千トンあたり約 4 億円で割り、出荷量を約 14 万トンと推定した。営業利益は 69 億円(有報)で、全社でいちばん稼ぐ地域。
米州(印刷インキ)
北米・ブラジルの包装・金属缶向けインキと、INX C&A の塗料・接着剤。
| 数量出荷量(千トン・推定) | 価格1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 185 | 5.51 | 1,019 | 53 |
| 10 年後 中立 | 222 | 7.38 | 1,638 | 82 |
取り方:セグメント売上 1,019 億円を平均単価 1 千トンあたり約 5.5 億円(インキと塗料の混合)で割り、出荷量を約 18.5 万トンと推定した。営業利益は 53 億円(有報)。
欧州(印刷インキ)
欧州の包装・金属缶向けインキ。東欧・中東・アフリカへ広げる途上。
| 数量出荷量(千トン・推定) | 価格1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 39.0 | 5.54 | 216 | 1 |
| 10 年後 中立 | 39.0 | 7.42 | 289 | 6 |
取り方:セグメント売上 216 億円を平均単価 1 千トンあたり約 5.5 億円で割り、出荷量を約 3.9 万トンと推定した。営業利益は 0.6 億円(有報)。
機能性材料
UV インクジェットインキ、画像表示用の材料、機能性コーティング。
| 数量出荷量(千トン・推定) | 価格1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目(高付加価値で単価が高い) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 20.4 | 9.99 | 204 | 24 |
| 10 年後 中立 | 30.6 | 13 | 410 | 45 |
取り方:セグメント売上 204 億円を平均単価 1 千トンあたり約 10 億円で割り、出荷量を約 2 万トンと推定した。営業利益は 24 億円(有報)。 数量の 1.5 倍は機能性材料の出荷増によるもので、インキ市場の名目年 3〜5% の伸びを置いたものではない。
その他
上記に入らない事業。調整額は筋書きの adjust に入れる。
| 数量出荷量相当(千トン・推定) | 価格1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 28.0 | 5.00 | 140 | 3 |
| 10 年後 中立 | 28.0 | 6.70 | 188 | 4 |
取り方:セグメント売上 140 億円を便宜上、1 千トンあたり 5 億円で割った。営業利益は 2.7 億円(有報)。
リスクと懸念
北米の人件費が利益率を削る
最大の米州は営業利益率が 5% 台で、人件費の上昇が直撃する。会社も 2026 年の逆風に挙げている。値上げが遅れれば、営業利益は簡単に目減りする。利益率が 1 ポイント動くだけで、全社の営業利益が 1 割以上動く。
原料高の転嫁が遅れる
インキの原料は石油化学品で、値段が上がっても顧客への値上げは数か月遅れる。値決め力が強い会社ではなく、競合が先に値上げしなければ追随しにくい。2022 年は営業利益率が 1.9% まで落ちた。
アジアで現地メーカーとの値下げ競争になる
アジアは全社でいちばん稼ぐ地域で、営業利益が 69 億円ある。ここで現地の新興メーカーが値段を下げれば、全社の利益の 4 割強が揺らぐ。インドは市場が大きい分、競争も厳しい。
欧州が稼げないまま続く
欧州は売上が 220 億円あるのに、営業利益はほぼゼロだ。金属缶用インキの生産の一部はベトナムに移り、欧州の工場の稼働は下がった。撤退か縮小の判断が遅れれば、費用だけが残る。
国内と紙のインキが縮み続ける
新聞・商業印刷用のインキは、デジタル化で長く縮んでいる。国内は食品の消費も弱く、包装用の数量も増えない。値上げと整理で利益は戻ったが、数量の減少は止まらない。
機能性材料が伸びきらない
機能性材料は、2025 年に売上が 5% 増えたが、利益は 1 割減った。研究費と人員を積んだためだ。UV インクジェットの採用が広がらなければ、成長の柱を失う。
今後の分かれ目
- 北米の営業利益率が 2 年続けて 6% を超えたら
- INX C&A の効果と工場の稼働が定着したと見て、楽観・やや楽観の確率を上げてよい。
- 北米の営業利益率が 4% を割ったら
- 人件費と原料の転嫁の失敗が構造的だったと見て、やや悲観・悲観に寄せる。
- アジアの営業利益率が 10% を下回る期が続いたら
- 現地メーカーの値下げ競争が効いてきたと見て、アジアの前提を下げ、悲観の確率を上げる。
- 欧州の撤退や再編が発表されたら
- 赤字の流出が止まる分、中立の利益率をわずかに上げてよい。ただし一時の費用は見る。
- 次の中期経営計画で ROE 12% 以上と還元の引き上げが示されたら
- 資本配分の改善が定着したと見て、中立の ROE と倍率の前提を上げてよい。
- 同業が大型の再編や買収に動いたら
- この会社が買い手になるか、買われる側になるかを見て、資本政策の前提を直す。
見ておくもの
- 米州の営業利益率と、INX C&A の貢献
- アジア(インド・ベトナム)の営業利益と数量
- 欧州の営業利益と、生産移管・再編の動き
- 機能性材料の UV インクジェットの売上と利益率
- 原料の値上げの転嫁に要した期間
- 総還元性向(50% 以上)と政策保有株の残り
倍率と資本コストの決め方
まず 5 つの地域セグメント(日本・アジア・米州・欧州・機能性材料)を、推定した出荷量と 1 千トンあたり売上で積み上げた。為替は 150 円で固定し、物価は価格に入れて数量は実質で置いた。資本コストは基本 7.5% に quality +0.25%(値決め力が弱く+0.25、ほかは 0)を足した 7.75%。倍率は g 4%・RONIC から出した正当化 PER の 9 割(中立)に置き、今の PER 11 倍台には寄せていない。結果は、中立の 10 年が今の 1.8 倍ほどの時価総額で、総合は 1 割ほどのやや割安になった。寄せたからではなく、利益の伸びが物価に実質 2% 台が乗る程度で、倍率が上限に収まるため。悲観は構造的な負けで、床は稼ぐ力(純利益÷k)の側に置いた。新リース会計基準は 12 月決算の同社では 2028/12 期から BS に載るが、10 年後の数字は今と同じ家賃を費用に入れる形でそろえた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 13.9→16.21 倍・やや楽観 PER 13.2→15.39 倍・中立 PER 13→14.42 倍)。
資本コスト 7.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality +0.25%(値決め力の弱さ)を足して 7.75%。事業は傾いておらず上乗せはしない。北米の人件費や欧州の赤字は k に足さず、筋書きと確率で表した。同じ領域の artience(+0.5%)より市況の波と借金が軽く、日油(−0.5%)ほど値決め力は強くない。