結論
パーカーコーポレーションは、自動車の車内を静かにする部材と、工場で使う薬品を作って売る会社だ。売上の約7割は、自動車を主な顧客とするシーラー、補強材、防音材で、日本パーカライジングが約24%を持つ筆頭株主として並ぶ。
筆者の結論は、事業の稼ぐ力に比べて値段が安く、今の時価総額は割安というものだ。いちばんの理由は現金にある。純現金が時価総額の半分に当たり、事業そのものに払っている値段は利益の数倍にとどまる。
弱みは二つある。ひとつは自動車への偏りで、完成車メーカーは毎年のように値下げを求めてくる。もうひとつは、ためた現金が株主に戻る保証が薄いことだ。総還元性向は3割弱で、現金はここ10年ほど積み上がってきた。そこで余った現金には半分の価値しか認めていない。
10年先の中立は、自動車の生産が実質でわずかに増え、単価が物価に少し届かない速さで上がり、営業利益が今より3割ほど増える姿だ。直近の利益率は過去最高なので、少し低めに置いた。電動化は車内を静かにする部材の追い風だが、車体を一体成形する流れは補強材を減らす向かい風になる。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社は事業よりも財布の中身で評価が決まる珍しい例である。事業は悪くないが、強くもない。完成車メーカーに値段を決められる下請けの性格が残り、10年後に今より強い会社になっているとは言い切れない。
一方で、安全域は厚い。無借金で純現金が時価総額の半分あり、利益の水準も一定の幅で読める。事業の部分に払っている値段は、利益の数倍にすぎない。景気の谷でも、現金だけで時価総額の相当な部分を取り戻せる。
問題は、その現金の持ち主が誰のために経営しているかだ。ためた利益が株主に返らなければ、帳簿の現金は額面どおりの価値にならない。筆者が余った現金に半分の価値しか認めないのはそのためである。
持ち続けたい会社かと問われれば、条件つきだと答える。現金を返す、あるいは次の買収を成功させる、のどちらかが見えるなら魅力は増す。見えないなら、配当を受け取りながら待つだけの株になる。それでも今の値段なら、待つことの報酬は十分に払われている。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの中心は自動車向けの二つの事業だ。化成品は、車体の鋼板をつなぐシーラーと、鋼板を補強して振動を抑える剛性補助材を作る。住宅の複層ガラスに使うシール材もここに入る。産業用素材は、自動車とエアコンの防音・防振材を作る。
2023年に日東電工から鋼板用補強材の事業を買い、米国、メキシコ、中国に生産の足場を得た。対象の売上は約91億円で、北米の自動車メーカーに近い場所で作れるようになったのが大きい。防音材もタイ、ベトナム、中国、チェコ、トルコ、メキシコに工場を持ち、顧客の海外生産についていく形で広がってきた。
残りの三割は性格が違う。化学品は工業用の洗浄剤や防錆剤、鉄鋼向けのさび落とし薬品を売る。化工品は半導体とディスプレイ向けの電子用薬品、カーケア用品、鉄道や航空機の整備用薬品を扱い、中国と台湾に生産拠点がある。機械は食品、化学、製靴業界向けの設備や分析器を輸入して売る。もともとは薬品と機械の専門商社で、自社で作るメーカーへ軸足を移してきた会社である。
売上は国内が約6割、残りが中国、アジア、米州、欧州だ。売上の1割を超える単一の顧客はなく、特定の完成車メーカーに命運を握られてはいない。
優良さと弱いところ
優良さは中くらいで、堀は広くない。堀とは、他社がまねできない強みのことだ。
良い点から挙げる。まず、顧客の設計段階から入り込む。シーラーも防音材も、車種ごとの設計に合わせて作るため、一度採用されれば数年は代わりにくい。また、無借金で自己資本比率が66%あり、景気が悪化しても潰れる心配がない。営業利益率は5年前の5〜6%台から直近の8.8%まで上がり、日東電工の事業の取り込みが利益を押し上げた。
悪い点は、値段を自分で決められないことだ。完成車メーカーは部品会社に毎年の値下げを求める。化成品の利益率が7%台にとどまるのはそのためだ。シェアの数字も開示されず、世界で何位かを示す根拠は見つからなかった。
資本の使い方にも注文がある。純現金は10年前の水準から増え続け、時価総額の半分に達した。買収は日東電工の事業の1件で成果が出ているが、余った現金を株主に返す姿勢は強くない。ROEは過去10年の中央値で8.5%と、資本コストをやや下回る。
経営は社長の里見嘉重氏が率いる。筆頭株主の日本パーカライジングは持分法の関連会社として24%を持つが、経営の主導権は別だ。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
この会社の景気は、自動車の生産台数でほぼ決まる。世界の自動車用プラスチック市場は名目で年9%の伸びが見込まれるが、これには物価の分が入っている。台数としては年1〜2%の伸びが妥当だと筆者は見る。
追い風は電動化だ。エンジン音がなくなると、路面や風の音が目立つため、車内を静かにする部材の使用量が増える。電池の重さを支える車体の補強も要る。一方で向かい風もある。大型の一体成形部品が広がると、鋼板をつなぐ補強材とシーラーの使用量は減る。EVの販売が思うように伸びなければ、追い風は遅れる。
防音材のもう一つの顧客はエアコンだ。世界のエアコン需要は新興国の所得向上でゆっくり伸びる。アジアと欧州の拠点がここに効く。
電子用薬品は半導体とディスプレイの設備投資に左右される。薬品全体では、中国企業が中位品を追いかける構図がある。
価格の面では、完成車メーカーによる値下げ要請が構造的に続く。原材料の値上がりは一部しか転嫁できない。景気循環でみると、世界の自動車生産は大きな谷を抜けて回復した位置にあり、直近の利益率は山に近いと見ておく。
資本政策と M&A
配当は「長期的な視点で安定的に」という方針で、配当性向などの数値目標は示していない。直近の総還元性向は3割弱と低く、自己資本の積み上がりが速い。自社株買いも小さな規模で行ってきたが、純現金が時価総額の半分あるなかで、資本の効率を高める意思は強く見えない。
買収は、日東電工の補強材事業の取得がある。取得額は非公表だが、売上の1割強にあたる事業を取り込み、北米の足場を作った。次の買収でも同じ成果を出せるかが、現金の価値を決める。
日本パーカライジングは24%を持つ筆頭株主で、運命共同体に近い関係だ。同社が出資比率を引き上げて子会社にする可能性は否定できない。ただし経営陣と財団を合わせた個人の持株も厚く、市場での買い増しだけで支配が動くことは考えにくい。外国の運用会社も8%を持ち、増配や自社株買いを求める圧力にはなりうる。
株主優待はなく、政策保有株は主要な論点ではない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
事業の価値と現金の価値を別々に数えれば、答えははっきりする。時価総額336億円のうち、純現金が174億円ある。残りの160億円ほどで、営業利益65億円、純利益47億円を稼ぐ事業を買えることになる。利益の3倍台の値段は、どう見ても安すぎる。
事業の質も改善している。営業利益率は5年前の5〜6%台から8.8%へ上がり、会社が掲げた8%の目標を超えた。日東電工から取得した補強材事業は、北米に生産の足場を作り、完成車メーカーが現地調達を強める流れに乗れる。電動化で車内の静粛性への要求が高まれば、防音材と補強材の使用量は車1台あたりで増える。
電子用薬品も伸びる。半導体とディスプレイの投資が続けば、中国と台湾の拠点が成長を支える。
株主の構成も追い風だ。外国の運用会社が8%を持ち、PBR0.7倍という値段への不満は強い。東証が資本効率の改善を求めるなかで、増配や自社株買いが加速する余地は大きい。現金が戻り始めれば、割安は一気に解消に向かう。10年後の自己資本は今の1.7倍近くになり、現金の積み上がりだけでも値段を支える。
慎重な見方
割安に見えるのは、現金が株主のものになる前提を置いているからだ。この会社は10年かけて純現金を積み上げてきたが、総還元性向は3割弱で止まったままである。筆頭株主は日本パーカライジングで、増配を強く迫る立場にない。社長個人と財団の持株もあり、外部の圧力が届きにくい。帳簿の現金に満額の価値を認めるのは危うい。
事業の強さにも疑問が残る。化成品の利益率は7%台で、完成車メーカーの値下げ要請の下では上がりにくい。直近の営業利益率8.8%は、買収の効果と好調な自動車生産が重なった山で、そこから先は下がりやすい。会社自身の今期予想も営業利益58億円と減益だ。
車体の作り方の変化も怖い。大型の一体成形部品が広がると、補強材とシーラーが入る場所が減る。電動化の恩恵は、中国メーカーが現地の部材を使えば日系の部品会社には回ってこない。中国勢の追随で、電子用薬品や洗浄剤の中位品は値崩れする。
買収の失敗もありうる。余った現金が使われるなら、それは日東電工の事業のような成功例ではなく、高値づかみの買収かもしれない。現金の価値が減るなら、安く見える値段も説明がつく。
どちらに重みを置いたか
強く出た主張は、現金の安全域と事業の安さのほうだ。純現金は時価総額の半分で、景気の谷でも崩れない土台になる。一方で、現金が戻る保証の薄さと、利益率が山にあるという指摘も重い。そこで余った現金には半分の価値しか認めず、中立の営業利益率も直近の山より低く置いた。確率は中立を最も厚くし、やや悲観と悲観にあわせて3割を残した。それでも割安の結論は動かなかった。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 3,976 円996 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 693 円173 億円)。 今の値に割り戻すと 2,412 円604 億円、今との差 +84.2%、 期待の年率 +13.6%(資本コスト 7.5%)→ 割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 6,823 円1,708 億円 | 1,058 円265 億円 | +502.0% | +19.7% | 630 円158 億円 |
| やや楽観 | 21% | 5,453 円1,365 億円 | 857 円215 億円 | +382.1% | +17.0% | 1,325 円332 億円 |
| 中立 | 40% | 4,343 円1,087 億円 | 692 円173 億円 | +284.6% | +14.4% | 2,014 円504 億円 |
| やや悲観 | 22% | 2,181 円546 億円 | 538 円135 億円 | +107.7% | +7.6% | 598 円150 億円 |
| 悲観 | 9% | 758 円190 億円 | 364 円91 億円 | −14.3% | −1.5% | 101 円25 億円 |
| 加重平均 | 100% | 3,976 円996 億円 | 693 円173 億円 | +256.7% | +13.6% | 4,669 円1,169 億円 |
今の株価時価総額 1,309 円328 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.5% を下回るほど割高。
楽観 8% 車体の電動化と電子薬品が重なり、静粛化部材が世界で広がる 利益 93 億円 · PER 17.2 倍 · 株価時価総額 6,823 円1,708 億円
電動化で車内の静粛性への要求が一段と高まり、1台あたりに載る防音材と補強材が増える。日東電工から取得した補強材事業は北米の自動車メーカーに食い込み、メキシコと米国の工場が主力に育つ。エアコン向けの防音材もアジアと欧州で広がる。半導体とディスプレイの設備投資が続き、電子用薬品も伸びる。完成車メーカーへの値上げ交渉が通りやすくなり、物価を上回る単価の上昇が10年続く。営業利益率は10%に乗り、過去の山を超えた姿になる。この好条件がそろえば、純現金の積み上がりと合わせて、株主への還元も増える。ただし、これは自動車産業の追い風と会社の実行力がそろった場合に限られる。
- 化成品(自動車の補強材・シーラー):数量 1,170(当社部材の搭載車両台数(万台。世界の自動車生産約9,000万台×搭載率))× 価格 4,948(1台あたりの当社売上(円))→ 売上 579 億円・営業利益 52 億円。車体の電動化で搭載量が増える
- 産業用素材(防音・防振材):数量 780(当社防音材の搭載車両・空調機の台数(万台、推定))× 価格 4,763(1台あたりの当社売上(円))→ 売上 372 億円・営業利益 37 億円。エアコンと自動車の両方が伸びる
- 化学品・化工品(洗浄剤・電子用薬品):数量 33.2(薬品の出荷量(千トン、推定))× 価格 84(1トンあたり単価(万円))→ 売上 279 億円・営業利益 34 億円。電子用薬品の投資が重なる
- 機械・その他(設備と貿易):数量 686(機械・貿易の取引件数(件、推定))× 価格 13(1件あたり売上(百万円))→ 売上 92 億円・営業利益 9 億円。設備と貿易は横ばい
倍率:事業の純利益 91 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 12.5% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.0%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 17.2 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 17.2 倍 + 余った現金(戻り方込み)82 億円。全体の PER 17.15 倍、時価総額 1,651 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:電動化の追い風、北米の拡大、電子用薬品の伸びがそろう組み合わせで、好条件が重なる必要があるため確率は抑えた。
やや楽観 21% 北米と中国の拠点が育ち、利益率が過去の山を少し超える 利益 75 億円 · PER 16.3 倍 · 株価時価総額 5,453 円1,365 億円
世界の自動車生産がゆっくり増え、電動車の比率が上がって防音材の搭載量も伸びる。北米の補強材は顧客の現地調達の流れに乗って数量が増える。エアコン向けの防音材は新興国の需要増を取り込む。電子用薬品も半導体向けを中心に着実に伸びる。完成車メーカーの値下げ要請は続くが、原材料の上昇分は転嫁でき、単価は物価並みの伸びを保つ。営業利益率は9%台前半となり、今の山をわずかに超える。還元は配当を中心に少しずつ増え、自社株買いも続く。純現金はさらに積み上がるが、次の買収にも一部が使われる。中国と北米で顧客の現地調達が進み、日系の部品会社が現地で作ることの利点が出る。ただし完成車メーカーの値下げ要請は消えず、利益率の上積みは小幅にとどまる。強気の筋書きほど電動化の恩恵は大きくないが、中立よりは一段上の安定した成長が10年続く。
- 化成品(自動車の補強材・シーラー):数量 1,080(当社部材の搭載車両台数(万台。世界の自動車生産約9,000万台×搭載率))× 価格 4,736(1台あたりの当社売上(円))→ 売上 511 億円・営業利益 41 億円。北米の足場が育つ
- 産業用素材(防音・防振材):数量 720(当社防音材の搭載車両・空調機の台数(万台、推定))× 価格 4,559(1台あたりの当社売上(円))→ 売上 328 億円・営業利益 30 億円。防音材が世界で広がる
- 化学品・化工品(洗浄剤・電子用薬品):数量 29.7(薬品の出荷量(千トン、推定))× 価格 80(1トンあたり単価(万円))→ 売上 239 億円・営業利益 26 億円。半導体向けが伸びる
- 機械・その他(設備と貿易):数量 686(機械・貿易の取引件数(件、推定))× 価格 13(1件あたり売上(百万円))→ 売上 92 億円・営業利益 9 億円。設備と貿易は横ばい
倍率:事業の純利益 74 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.2% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.3%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.3 倍 + 余った現金(戻り方込み)82 億円。全体の PER 16.32 倍、時価総額 1,283 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:日東電工から取得した事業が北米で育ち、利益率が山を少し超える姿。直近の利益率がすでに過去最高なので、これ以上の上積みは厚く見ない。
中立 40% 自動車は横ばい圏、物価の分だけ単価が上がり、利益は3割増 利益 61 億円 · PER 15.3 倍 · 株価時価総額 4,343 円1,087 億円
世界の自動車生産は実質でゆっくり増え、10年で1割強の伸びにとどまる。電動化で防音材と補強材の搭載量は少し増えるが、車体構造の変化がそれを打ち消す。完成車メーカーの値下げ要請は続くため、単価は物価に少し届かない。化学品と化工品では、電子用薬品の伸びが洗浄剤の伸び悩みを補う。国内の機械と貿易は、人口減少で件数が少し減る。営業利益率は8%ほどと直近の山より低く、過去10年の中央値を上回る水準に落ち着く。売上は今の4割増しで、営業利益は3割増になる。還元は純利益の3割台前半で、現金の積み上がりは続く。
- 化成品(自動車の補強材・シーラー):数量 1,008(当社部材の搭載車両台数(万台。世界の自動車生産約9,000万台×搭載率))× 価格 4,594(1台あたりの当社売上(円))→ 売上 463 億円・営業利益 32 億円。自動車は横ばい圏、単価は物価に届かない
- 産業用素材(防音・防振材):数量 672(当社防音材の搭載車両・空調機の台数(万台、推定))× 価格 4,423(1台あたりの当社売上(円))→ 売上 297 億円・営業利益 25 億円。防音材はゆっくり伸びる
- 化学品・化工品(洗浄剤・電子用薬品):数量 26.1(薬品の出荷量(千トン、推定))× 価格 80(1トンあたり単価(万円))→ 売上 210 億円・営業利益 20 億円。電子用薬品が洗浄剤の伸び悩みを補う
- 機械・その他(設備と貿易):数量 652(機械・貿易の取引件数(件、推定))× 価格 13(1件あたり売上(百万円))→ 売上 87 億円・営業利益 7 億円。国内の成熟した需要で件数が減る
倍率:事業の純利益 59 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.7% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.6%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.3 倍 + 余った現金(戻り方込み)82 億円。全体の PER 15.31 倍、時価総額 987 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:自動車の生産は横ばい圏で、値下げ要請と物価の転嫁が引き分けになる姿。最も起きやすいので最も厚い確率を置いた。
やや悲観 22% 値下げ要請と車体構造の変化で、利益が伸びない10年 利益 43 億円 · PER 9.1 倍 · 株価時価総額 2,181 円546 億円
完成車メーカーの値下げ要請が強まり、原材料の上昇を転嫁しきれなくなる。単価は物価の6割ほどしか伸びない。日系の自動車メーカーが中国で苦戦し、中国向けの数量が減る。電動化の恩恵は中国メーカーの現地部材に流れ、日系の部品会社には回ってこない。電子用薬品と洗浄剤の中位品は、中国企業の追随で単価が伸びない。営業利益率は6%台に戻り、過去の水準に近づく。還元は3割で変わらず、純現金は積み上がり続けるが、使い道が見つからないままになる。小さな会社の信用力と交渉力の弱さが表に出る10年である。営業利益は今の水準をわずかに下回るか横ばいで、売上が伸びても利益が増えない。配当は維持されるが増配は小幅で、自社株買いは細る。
- 化成品(自動車の補強材・シーラー):数量 900(当社部材の搭載車両台数(万台。世界の自動車生産約9,000万台×搭載率))× 価格 4,418(1台あたりの当社売上(円))→ 売上 398 億円・営業利益 22 億円。台数は増えず、値下げが続く
- 産業用素材(防音・防振材):数量 600(当社防音材の搭載車両・空調機の台数(万台、推定))× 価格 4,253(1台あたりの当社売上(円))→ 売上 255 億円・営業利益 18 億円。価格競争で単価が上がらない
- 化学品・化工品(洗浄剤・電子用薬品):数量 23.7(薬品の出荷量(千トン、推定))× 価格 78(1トンあたり単価(万円))→ 売上 185 億円・営業利益 15 億円。中位品が中国勢に追われる
- 機械・その他(設備と貿易):数量 583(機械・貿易の取引件数(件、推定))× 価格 13(1件あたり売上(百万円))→ 売上 76 億円・営業利益 5 億円。件数が減る
倍率:事業の純利益で見たROEは5.7%と、資本コストを大きく下回る。上限は1÷k=12.1倍で、利益の質が落ちる筋書きなので上限の7.5割の9.09倍に置いた。余った現金は谷と買収で0.75倍に減るとみて、戻り方0.5で足した。
確率:完成車メーカーの値下げ要請が続き、電動化の恩恵が日系の部品会社に回らない場合。直近の利益率が山にあるため、強気の筋書きより少し厚めに置いた。
悲観 9% 主力の補強材とシーラーが置き換わり、優良さを失う 利益 20 億円 · PBR 0.4 倍 · 株価時価総額 758 円190 億円
車体の一体成形が主流になり、鋼板をつなぐ補強材とシーラーの使用量が大きく減る。主力の化成品は数量が3割落ち、単価の値下げ要請も加わる。日系の顧客が電動化で後れを取り、防音材の数量も2割減る。中国勢が電子用薬品と洗浄剤の中位品を取り込み、化学品も縮む。もはや優良な部材メーカーとは言えなくなる。営業利益率は4%に落ち、配当は減る。余った現金の一部は、立て直しのための買収で消えるかもしれない。それでも無借金の財務は残り、現金が最後の支えになる。10年後には従業員の削減と工場の統廃合が経営課題になり、筆頭株主の日本パーカライジングが出資比率を引き上げて事業を取り込む動きも出うる。優良な会社ではなく、現金を持つ小さな部品会社という位置づけになる。
- 化成品(自動車の補強材・シーラー):数量 630(当社部材の搭載車両台数(万台。世界の自動車生産約9,000万台×搭載率))× 価格 4,064(1台あたりの当社売上(円))→ 売上 256 億円・営業利益 8 億円。一体成形で補強材とシーラーが減る
- 産業用素材(防音・防振材):数量 480(当社防音材の搭載車両・空調機の台数(万台、推定))× 価格 3,912(1台あたりの当社売上(円))→ 売上 188 億円・営業利益 8 億円。日系の顧客が失速し台数が落ちる
- 化学品・化工品(洗浄剤・電子用薬品):数量 20.2(薬品の出荷量(千トン、推定))× 価格 72(1トンあたり単価(万円))→ 売上 145 億円・営業利益 9 億円。中国勢に押されて単価も台数も落ちる
- 機械・その他(設備と貿易):数量 515(機械・貿易の取引件数(件、推定))× 価格 12(1件あたり売上(百万円))→ 売上 62 億円・営業利益 3 億円。国内の設備と貿易が縮む
倍率:構造的に負ける筋書き。純利益は20億円ほどに細り、稼ぐ力でなく現金と売れる資産で測る。純現金の約174億円を床の基準とし、余った現金は半分に減るとみて、今の自己資本509億円に0.373倍を掛けた約190億円に置いた。
確率:一体成形の広がりと中国勢の追随で、主力の補強材とシーラーが置き換えられる構造的な負け。小さな会社で顧客の偏りが大きいので、5%は超える確率を置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
化成品(自動車の補強材・シーラー)
自動車のボディシーラー、鋼板用の補強材などNVH(騒音・振動)対策部材と、住宅の複層ガラス用シール材を作る事業。日東電工から取得した補強材事業を含む。
| 数量当社部材の搭載車両台数(万台。世界の自動車生産約9,000万台×搭載率) | 価格1台あたりの当社売上(円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 900 | 3,534 | 318 | 24 |
| 10 年後 中立 | 1,008 | 4,594 | 463 | 32 |
取り方:化成品の2026年3月期の売上318億円を、世界の自動車生産(約9,000万台)の約1割にあたる900万台の搭載に当社が供給すると見て、1台あたりの売上は3.5千円ほどと逆算した。台数と単価は開示がなく推定。
産業用素材(防音・防振材)
自動車とエアコン、家電の防音・防振材を作る事業。日本、タイ、ベトナム、中国、チェコ、トルコ、メキシコに拠点がある。
| 数量当社防音材の搭載車両・空調機の台数(万台、推定) | 価格1台あたりの当社売上(円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 600 | 3,402 | 204 | 19 |
| 10 年後 中立 | 672 | 4,423 | 297 | 25 |
取り方:産業用素材の売上204億円を、自動車とエアコンなどに搭載される約600万台分と見て、1台あたりの売上は3.4千円ほどと逆算した。開示は無く推定。
化学品・化工品(洗浄剤・電子用薬品)
工業用洗浄剤、防錆剤、鉄鋼向けのさび落とし薬品と、半導体・ディスプレイ向けの電子用薬品、カーケア用品を作る事業。
| 数量薬品の出荷量(千トン、推定) | 価格1トンあたり単価(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 23.7 | 60 | 142 | 15 |
| 10 年後 中立 | 26.1 | 80 | 210 | 20 |
取り方:化学品と化工品の売上142億円を、洗浄剤や電子用薬品の平均単価を1トンあたり約60万円と見て、出荷量約2.4万トンと逆算した。開示は無く推定。
機械・その他(設備と貿易)
食品、化学、製靴業界向けの設備と分析器の輸入販売、自動車向けの製造設備、化学原料の貿易や建設資材を扱う事業。
| 数量機械・貿易の取引件数(件、推定) | 価格1件あたり売上(百万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 686 | 10 | 69 | 7 |
| 10 年後 中立 | 652 | 13 | 87 | 7 |
取り方:機械とその他の売上69億円を、1件あたり約1,000万円の取引が約690件あると見て置いた。設備と貿易は件ごとの規模のばらつきが大きく、推定。
リスクと懸念
自動車産業への偏り
自動車を主な顧客とする事業が売上の約7割を占め、世界の自動車生産が落ちれば利益が大きく振れる。リーマン危機のような急減では、台数が2割ほど減った例がある。特定の顧客は1割未満だが、産業全体への依存は分散できていない。
完成車メーカーの値下げ要請
部品会社は毎年のように値下げを求められ、原材料の上昇も一部しか転嫁できない。単価が物価に届かない状態が10年続くと、数量が増えても利益率は上がらない。直近の営業利益率8.8%は山に近い水準である。
車体構造の変化
大型の一体成形部品が広がると、鋼板をつなぐ補強材とシーラーが入る場所が減る。電動化の追い風を打ち消す恐れがあり、主力の化成品が最も影響を受ける。日東電工から取得した補強材事業の価値にも響く。
現金が株主に戻らない
純現金は時価総額の半分に達し、10年近く積み上がっている。総還元性向は3割弱で、大株主も強く求める立場にない。現金が使われずに眠るか、高値の買収に消えれば、帳簿の額ほどの価値は株主に届かない。
海外拠点の政治と為替
売上の4割が海外で、中国、メキシコ、トルコ、チェコ、タイなど多くの国に工場がある。関税や地政学の変化、為替の変動が利益に響く。米国向けの関税は、メキシコ拠点の位置づけを変えうる。
中国企業の追随
電子用薬品と洗浄剤の中位品は、中国企業の品質が上がっており、単価が伸びにくくなる。防音材でも現地の部品会社が育てば、日系の部品会社に回る数量が減る。
買収の失敗
余った現金が買収に使われる場合、日東電工の事業のような成功が続く保証はない。事業が自動車に偏るなかで、不慣れな分野に進めば現金の価値を削る。ガバナンスが現金の使い道を縛る力は弱い。
今後の分かれ目
- 世界の自動車生産が急に減る
- 化成品と産業用素材の数量が落ち、営業利益は大きく減る。無借金なので存続の心配は小さく、現金が下値を支える。
- 車体の一体成形が主流になる
- 補強材とシーラーの使用量が減り、化成品が縮む。悲観の筋書きに近づく。
- 自社株買いや増配で総還元性向が5割を超える
- 余った現金の戻り方が1に近づき、本質価値は上がる。割安が解消に向かう。
- 日本パーカライジングが出資比率を引き上げる
- 買収価格に上乗せが付く可能性がある一方、少数株主の立場は弱まる。現金が使われる方向も変わりうる。
- 北米の補強材事業で新規受注が続く
- 数量が計画を上回り、利益率が山を超える。強気の筋書きに近づく。
- 大型の買収で現金の大半を使う
- 買収が成功すれば利益が伸び、失敗すれば現金が消える。事業の自動車への偏りが和らぐかが分かれ目になる。
見ておくもの
- 世界と日本の自動車生産台数、電動車の比率
- 営業利益率が8%台を維持できるか、化成品の利益率
- 配当と自社株買いを合わせた総還元性向の変化
- 日東電工から取得した補強材事業の北米での受注
- 日本パーカライジングの持株比率の変化と大量保有報告
倍率と資本コストの決め方
倍率は今のPER7倍台・PBR0.7倍を見る前に、セグメントごとの数量×価格の積み上げと資本コスト7.5%から、ROEが資本コストを下回る領域での上限1÷kを基準に置いた。結論が大きな割安に出たのは、純現金が時価総額の半分あるためで、株価に寄せたのではない。直近の営業利益率が過去最高の山なので、中立は低めに置いた。余った現金は戻り方0.5で評価し、満額を認めていない。新リース会計基準で数字の形が変わる点は、家賃を営業費用に入れた今の形でそろえた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 11.69→17.15 倍・やや楽観 PER 10.84→16.32 倍・中立 PER 10.3→15.31 倍)。
資本コスト 7.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本7.5%にqualityの+0.75%を足して8.25%。自動車の生産に利益が振れるので循環に+0.5、完成車メーカーに値段を決められるので値決めに+0.25。借金は純現金で0、寿命は電動化の追い風と車体構造の変化が打ち消し合うので0。事業が傾いている様子はなく、extraは0。ガバナンスや現金が戻らない点は、kに足さず筋書きの確率と余った現金の戻り方で表した。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.25% → 7.50%。